綾小路Tレックス   作:チームメイト

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原作2巻と3巻の間
実力至上主義の正しき在り方


 7月15日 月曜日

 

 先々週の月曜日に引き続き、入れ替わりを狙った早朝の銭湯へと足を運ぶ。

 前回は、鬼畜眼鏡先輩に一番風呂を譲ったことを反省し、6時少し前に銭湯につくようにと時間を調整。

 

「綾小路、お前も銭湯か?」

 

 だが、奴は既に銭湯の前に並んでいた。

 本来ならタオルを中でレンタルするだけでいいはずなのだが、桶にシャンプー・石鹸・タオルというオールドスタイルの鬼畜眼鏡先輩だった。

 

「早いな」

「露天風呂に入れ替わる日は、朝一で入るようにしている」

 

 さいですか。

 

 

「後でフルーツ牛乳をおごってやるよ」

 

 先々週とほぼ同じ流れで、露天風呂で並んでつかるという心温まる交流が……なんだこれ。

 

「おごってもらう理由がないんだが」

「面白いものを見させてもらったからな」

 

 須藤暴力事件のアレコレだろう。

 Cクラスをやり込めたのは爽快だったが、鬼畜眼鏡先輩から見ても評価に値するってことか。毎月10万ポイント以上を獲得している人からしたら、100ポイントのフルーツ牛乳は、誤差みたいなもんなんだろう。

 

「こっちは必死であがいただけだ」

「脇腹を責められて狼狽する姿とか、久しく見ていなかった」

「そこかよ」

 

 前々から薄々感じていたことだが、この鬼畜眼鏡先輩って100パーセント疑いようの余地なくシスコンだな。

 堀北の脇腹をつつけば、その兄からフルーツ牛乳をおごってもらえる。一応覚えておこう。今後この鬼畜眼鏡先輩の前で、堀北が反撃しにくい状況が出てきたらとか、高すぎる難易度の前提だが。

 

「書記も驚いていたみたいだが、クラスポイントの移行は良かったのか?」

「その辺もお前の想定内じゃないのか?」

「だったらよかったんだが。須藤のペナルティー無しを認めさせるのが本命で、あれは思いつきのオマケだ。ルールがどうなっているかは、まだまだ手探り状態だからな」

「そうか。あのままなら150ポイントが最低ラインだったのが理由だ。これでいいか?」

「……なるほど。それならある程度の納得はできる」

 

 あの騒動の結果、クラスポイントを移行するという無茶が通った理由について色々と考えていた。ある程度答えを予想していた中で、今のヒントがあればなんとなくの結論は導き出せる。

 

 ヒントは、中間テスト後のクラスポイントだ。

 

  Aクラス 1004ポイント

  Bクラス  663ポイント

  Cクラス  492ポイント

  Dクラス   87ポイント

 

 これだけを見ればおかしいところは無い。が、前回からの推移にするとどうだろうか。

 

  Aクラス 940 → 1004ポイント +64ポイント 

  Bクラス 650 →  663ポイント +13ポイント

  Cクラス 490 →  492ポイント + 2ポイント

  Dクラス   0 →   87ポイント +87ポイント

 

 茶柱は、中間テストを突破すればボーナス的に100ポイントとか説明していたが、あれが事実ではおかしい部分がある。Dクラスの+87ポイントは妥当な増え方だが、他の3クラスの説明がつかない。

 BクラスとCクラスについては、一之瀬情報によれば両者の間でトラブルが起きていたらしいので、それが原因で伸びが鈍っていた可能性もあるが、優秀なはずのAクラスよりもDクラスが増えているというのは、説明がつきにくい事実だ。

 

 ここで1つの仮定が生まれる。

 この学園は、生徒間、クラス間で競争させることを重視しており、極端に離れたクラスが存在することを良しとしない。つまり、あまりにも低いクラスポイントをたたき出したDクラスは、他のクラスに比べて甘めにポイントが加算された可能性だ。

 

 今回Dクラスのポイント加算が認められた理由は、まだまだDクラスのクラスポイントは低すぎるため、学校側も認めることになった。

 こう考えれば辻褄が合わなくはない。

 

 その分Cクラスとのポイント差が縮まり過ぎているが、そこで、鬼畜眼鏡先輩から得た情報が有用になる。150ポイントが最低ライン。これがCクラスに本来与えられるべきペナルティーだったとしたらどうだろうか。

 

 騒動が起きた時点で茶柱は、ポイントが残っていればトラブルが終わった後にポイントが支給されると説明していた。つまり、あの時点でDクラスの87ポイントが無くなる可能性もあった。

 須藤1人に与えられるペナルティーにより、クラスポイント87ポイントが減らされる可能性があったのなら、生徒3人に与えられるペナルティーなら、Cクラスのクラスポイントが150ポイント以上減らされるのもありえる話だ。

 

 原則に則って、例外的な取り扱いをしなかったらどうなるか。

 Dクラスへのポイント加算無し、Cクラスは150ポイント減算を食らったとしたら、

 

 Cクラス 492ポイント → 342ポイント

 Dクラス  87ポイント →  87ポイント

 

 DクラスとCクラスの差は255ポイントまで縮まる。

 

 今回の騒動で例外的な取り扱いをしたことにより、実際に変動したポイントは、

 

 Cクラス 492ポイント → 405ポイント

 Dクラス  87ポイント → 174ポイント

 

 その差は231ポイント。

 原則的な方法と縮まる差はそれほど変わらない。これはCクラスが負う最低のペナルティーとの比較の話で、それ以上のペナルティーを負わされていた可能性もある以上、差の縮まり方としては妥当なラインだろう。

 

 この結果により、上位クラス(AクラスBクラス)と下位クラス(CクラスDクラス)との差が本来より開かなくなっているが、学校が競争を煽ろうとしているのなら、上位クラスと下位クラスの差が縮まるのは、望むところで納得できる。

 

 これがAクラスとCクラスの騒動だったら、C→Aへのポイント移行は認められないんだろうが、C→ひどすぎるDなら、認められる余地はあり、あとは鬼畜眼鏡先輩が認めれば、それが通ったのだと予想される。

 

 まあ、ここまで全部推測でしかなくあっているかどうかの確認は取れないが、ある程度納得のいく理由として、それほど外してはいないはずだ。

 

 

「コーヒー牛乳だと!?」

「たまにはな」

 

 まだまだオレの知らない世界は、たくさんあるようだ。

 なお、他人のおごりで風呂上がりに飲むフルーツ牛乳は、やはり最高だった。次回があれば、コーヒー牛乳をおごってもらおうか。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 昼休みに入ると同時に、机の上のものを中に押し込み、駆け足よりの早歩きで教室を出ていく。

 

「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」

 

 狙うのは、先週のリベンジである。

 

 先週の月曜日は、一之瀬から襲撃されて騒動を起こしてしまった。あれから池や山内と疎遠気味になったことは、喜ばしいことだが、やられっぱなしというのは性に合わない。

 やられたことをやり返すべく、Bクラスへと足早に向かう。まだ廊下にいた教員に睨まれない程度にスピードを落としながら、Bクラスへと辿りついた。

 

 間に合った。まだ生徒の大部分が教室から出ていないようだ。

 学食の機能が十分確保されており、昼休み開幕直後の学食の座席を求めたダッシュが起こりにくいのが勝因だろう。

 

「…………」

 

 一呼吸分だけ間を取る。

 

 他のクラスに突入するというのは、アウェー感満載で戸惑いが無いわけではないが、なすべきことをなさなければならない使命感が、オレを突き動かす。

 勢いのままに扉を開けて教室に侵入した。

 集まる視線を受け流し、リベンジを果たす相手へと強めの声で呼びかける。

 

「一之瀬、飯食いに行こう」

 

 どうだ、これがオレのリベンジだ。一之瀬よ、困り果てるがいい。

 

「いいよー、ちょっと待ってて」

「え?」

 

 あれ? そこは、『あ、綾小路くん!?』みたいなリアクションが返ってくるんじゃないのか。

 先ほどまでの授業の復習をしていたのか、教科書を机の上に出したまま数人で雑談していた一之瀬は、全く動じることなく手を振ってくる余裕まで見せつけていた。圧倒的な敗北感がオレを襲う。

 なんだこいつは。ええい、一之瀬のコミュニケーション能力は化け物か。

 

「…………」

 

 しかも、ちょっと待ってと言われてしまっては待つしかないが、このアウェーの地で手持ち無沙汰というのもまずい。一度教室から引き返すか。いや、それでは逃げたことになる。男としてそれはいかがなものか。

 

「え? うん、彼氏くん。付き合ってるんだ」

 

 付き合ってるんだじゃねえよ、事実だけど、オレを窮地に追い込むんじゃねえ。

 周囲から集まる圧力が増した。ジワジワと包囲網が縮まってきている気がする。

 

「…………」

 

 とある一点から鋭いプレッシャーがオレへと放たれている。あの生徒は確か、この前一之瀬に告白していた生徒か。『嘘つきやがったなコイツ』みたいな威圧感があるが、あの時点では付き合っていなかったし、オレは一之瀬との関係について何も言及していないはずだ。

 

「……これがBクラスか」

 

 Dクラスでは、まだまだ勝てない相手だな。

 いつか倒すべき敵になるかもしれない上位クラスの力を肌で感じながら、地獄のような時間を過ごしたのだった。

 

 

 実際に待ったのは1分にも満たないぐらいだったが、リベンジのために動いて払った犠牲は大きかったように思う。

 これでは尻に敷かれる彼氏というポジションになってしまいかねない。新しい作戦を何か考えていつかもう一度リベンジに挑戦しよう。

 

 期末テストどうだった? とか一之瀬と食事しながら他愛のない話を楽しむ裏で、オレはそう決心した。

 

 彼氏彼女のやることとして間違っている気がするが、恋愛初心者同志の恋愛には、譲れないものだってあるに違いないのだから。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「綾小路くん、少しいいかしら?」

「すまん、用事があって」

「あなたの予定は聞いていないのだけれど」

「…………」

 

 なら最初の問いかけは何だったんだと言いたい。残念ながら堀北からは逃げられないらしい。先週は、試験勉強という名目があったおかげで逃げ切れたものの、今日は無理のようだ。

 まあ、いつまでも逃げ回っていられることでもないし、よしとするか。

 

「30分ぐらいでいいか?」

「そんなに時間は取らせないわ」

 

 

 込み入った話になりそうなので、カバンを手にして教室を離れ、適当に敷地内にあるベンチに移動した。

 

 場所、時間、相手は違うもののベンチに座り過ぎな気がするが、多少込み入った話をする分には、周囲の目を気にしなければならない店とかよりは、断然都合がいい。

 

 相手が堀北じゃなければオレの部屋という手もあるが、堀北を単独で部屋に連れ込む勇気はない。鬼畜眼鏡先輩に見つかったら、何をされるか分からないしな。今朝の感じからすると、いいぞ、もっとやれ、とか言われかねないのが怖いところだ。

 

「で、何の用だ?」

「いくつか聞かせてもらえるかしら?」

「答えられることなら」

 

 どうせ拒否権など存在しない。

 

「あの動画は何?」

「何の話だ?」

 

 無言で、足を踏むのはやめてもらいたい。

 

「たまたま現場にいたオレが撮影したものを一之瀬に送った動画だ」

「やはりあなただったのね」

「あのタイミングで第三者からそう都合よく出てこないだろうな」

「どうして黙っていたのかしら?」

「出す気が無かったから」

「なぜ?」

「言わないと分からないのか?」

「…………」

 

 挑発してみせると、今まで見たこともない顔で強烈に睨まれた。

 

 その後、すぐに落ち着いた表情を取り戻す。鋭い堀北であれば、一から十まで説明する必要はないはずだ。ここで追加の説明を求められるようでは、堀北には期待できない。少なくとも一之瀬よりは下だと判断することになる。

 

「経緯はどうあれ須藤は無事。Dクラスはクラスポイントを手に入れた。その分だけAクラスに近づいた。他に何かいるのか?」

 

 堀北には、動画の存在を事前に伝えておくべきかは悩んだところだ。結局使ってしまったが、証拠に使う気が無かったのは本当だからな。ただ、使わないことを堀北が認めるのかどうかが読み切れなかったため、隠してあの場に挑むことになっただけだ。

 櫛田や須藤や佐倉には、事前に言うのは無理だ。あの三人に話して使わない方向で説得するのは難しい。

 

 堀北には勝ち取った結果を強調しておいてアレだが、今は結果よりも過程が重視されるべきであろう。今のDクラスのままで、結果を追い求めても地力が不足している。今回の騒動では、須藤が反省して変わるというのが得るべき成果であり、そのためならペナルティーを受けることも必要だった。

 

 嬉しい誤算なことに須藤はペナルティーを受けなくても変わり始めている。オレの肉体に受けたダメージは無駄ではなかったということだろう。

 

「……動画については分かったわ」

「そうか、それじゃ──」

()()()()質問がって言ったのだけれど、聞いていなかったのかしら?」

 

 だからいちいち足を踏むのはやめてもらいたい。

 

「一之瀬さんのことも、結果で黙らせるつもり?」

「まあ、そうなるな。ついでに言うなら、恋人だからな」

 

 もっとも恋人になったのは後付けで、会議に乱入してきた時点では恋人になる前だ。もっといえば、恋人かっこ仮であり、恋人と表現するのは語弊がないとも言い切れないが、そこまで説明する義務はない。

 動画さえあれば一之瀬は居なくても、あの結果を導き出せたかもしれない。だが、一之瀬が居たからこそ、より効果的に動画を使うことができたのは否定できないだろう。

 

 堀北は他人の力を借りるという部分が致命的に欠けている。一人でなんでもできる能力を持つのは利点だが、それでは今後戦っていけるのかは分からない。

 

「他のクラスの生徒と付き合うのは、どういうつもりなのかしら?」

「互いに自分のクラスを優先するのが前提だ。文句を言うのはオレがDクラスより一之瀬を優先してからにしてくれないか?」

「その言葉は信じていいのね?」

「ここでいいって言ったら信じるのか?」

「そうね……愚かな質問をしてしまったわ」

 

 堀北の目つきが鋭くなったが、オレの言葉に納得してすぐに緩んだ。

 

 しかし、あれだな。佐倉との電話の後に、堀北との会話は事務的に最低限だけとか文句を言われた気がするが、半分以上は、堀北のせいな気がする。

 

「最後の質問よ。脇腹を掴んだ──」

「あれはよかったな。お前の兄貴も絶賛していた」

「え?」

「嘘だと思うのなら本人に直接聞け。連絡先ぐらい知っているんだろ?」

「……知らないわ」

 

 すまんかった。

 堀北のこんなにガッカリして悔しそうな表情は初めて見た。レアすぎる表情だ。

 

 うわ、なんだこの空気。

 仲良しブラコンとシスコンだと思ったが違うのかよ。

 

 前に寮の裏で会っていたのは、どちらかが待ち伏せでもしたんだろうか。

 

「ま、なんだ。生徒会長に褒められたかったら、脇腹をオレに掴ませることだな」

「何を言っているのか分からないわ」

「オレのコーヒー牛乳が懸かっているんだ」

「私の理解が及ばないのだけれど」

「堀北。あそこで固まってどうするんだ。お前は、生徒会長を意識しすぎなんだよ。脇腹を掴まれる姿を見せてやるってぐらいの気持ちで対峙しろよ」

「言っていることに理屈があるようで、真面目に聞くのが情けなくなる言葉だわ」

 

 オレの頭の痛い発言に、堀北も頭が痛くなってきたらしい。脇腹を掴んだ件について、責められなければそれでいいのだ。相手を脱力させるのもそれも1つの方法だ。

 逃げるチャンスを逃してはならない。堀北が弱っているのなら、この場からは逃走するに限る。カバンを手にベンチから立ち上がる。

 

「質問はこれだけか? だったらもう行きたいんだが」

「待って……あなた、何者なの? あなたが何を考えているのかが分からないわ」

「充実した学園生活を送りたい。オレが目指すのはそれだけだ」

 

 堀北が何か言ってきたが、足を止めずにその場を立ち去った。

 十分堀北の質問には答えているはずだ。これ以上、付き合わなくてもいいだろう。

 堀北がAクラスを目指すというのを邪魔するつもりはないし、必要に応じて手伝うことは別にいい。だが、それもすべては充実した学園生活のためであり、優先されるべきはそちらだ。

 

 須藤の件は櫛田に頼まれたからであり、須藤との友情のためであり、そして佐倉を守るためにあれこれ動いた。それが結果としてAクラスを目指すことへの協力になっただけであり、Aクラスになるために動いたわけではない。それが逆転してしまい、Aクラスを目指すために忙殺されるのでは意味はないのだ。

 

 理想を言えば、オレが何をしなくてもDクラスがAクラスを目指せるようになればいい。充実した学園生活のために、自由に使えるポイントは欲しいからな。

 そのためのキーパーソンは堀北であり、堀北にどうやって成長してもらい、クラスを率いてもらうのか。

 

「須藤改造計画の次は、堀北改造計画か」

 

 いや、なにやら充実した学園生活からは、ずれている気がしないでもないが、須藤のあれこれで結果として佐倉とTレックスできる関係になったわけだし、無駄ではないと思いたい。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「なんのことだ」

 

 堀北に時間を取られてしまったが、ようやく予定と向き合うことができる。

 

 堀北に用事があると言ったのは嘘ではなく、今日も佐倉との約束があったのだ。

 土曜日、日曜日に続いての3連続で佐倉だ。特別な友達と過ごす時間は大事だからな。

 友達みんなが大事だというスタンスの大天使櫛田と連日過ごすのは難しく、この辺は今まで1人で過ごしてきた佐倉とだからこそって感じだ。もっとも、7月頭の騒動時は連日櫛田と一緒に過ごしていたが、あれはあくまでも例外でしかない。

 

 で、堀北と話している間に『自然エリアにいるから見つけてね』というメールが来ていたのだが、どういうことだろうか。

 

「…………」

 

 この場合、連絡して場所を聞くのはNGだな。相手が見つけてねといっている以上は見つけなければならないのだろう。特にヒントはないということは、この中で隠れているのを足を使って探すのが正解か。

 木々が生い茂っており、見通せる視界はよくないがそこまで広くはない森の中だ。見つけきれないということもないか。

 

「まあ、探してみるか」

 

 一つ息をついて、森の中へと足を踏み込んでいった。

 

 

 

「これはもしや……かくれんぼってやつじゃないか」

 

 子供がやる遊びの一つらしいが、あいにくとオレは経験したことがない。

 思い返せば、昨日佐倉とそういう話をした記憶がある。一緒に遊ぶような子供が居なかったから、あんまり遊んだ思い出がないって言ったら、驚かれたあとに「それなら、私と遊ぼう」って嬉しいことを言われて、そのまま大人の遊びに興じたわけだが、佐倉が言いたかった遊びではなかったのかもしれない。

 

 一緒に遊ぶ第一弾が大人の遊びで、第二弾がかくれんぼ。

 

「佐倉ってやっぱどこか天然か」

 

 自分のことを棚に上げて、佐倉が変わっているという結論にする。

 せっかく用意してくれた友達と遊ぶチャンスだ。全力で探さなければあれだな。

 

 気合を入れなおして、周囲へと視線を配りながら歩いていった。

 

 

「…………」

 

 探し始めて20分ぐらい経ったところで、視界に変なものが映り、思わず二度見した。

 草の中からなにかが生えている。よく見てみると、どうやら黒いウサギの耳のようだ。

 

「……ッ──」

 

 いや、どんな状況だよこれ。思わず口にしかけたツッコミを飲み込んだ。

 見つけてねって言われている以上、ここで声を出して呼びかけるのは愚の骨頂だ。

 

 これは佐倉なのか。

 いや、佐倉じゃなかったら怖すぎる。

 神様お願いします。佐倉であってください。

 

 とりあえず確認してみるしかなく、草を迂回してその背後へと回り込んだ。

 

「…………」

「み、見つかっちゃった。た、食べられちゃう……ぴょん?」

 

 黒のバニーガール姿の佐倉だった。

 ものすごく恥ずかしそうに顔中を真っ赤に染め上げている。

 

「…………」

「ぴょ、ぴょん?」

 

 言いたいことは色々あるが、とりあえず説教は後回しだ。獲物を見つけた以上は、それを食べることこそが、この実力主義の弱肉強食の学び舎での真理のはずだ。野生の本能を呼び覚ますときが来た。

 

「ガオーーーー(佐倉)」

「ピョーン(綾小路くん)」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 黒ウサギが白ウサギに染め上げられたのだった。

 

 

 

「なあ、オレ以外に見つけられたらどうする気だったんだ?」

「たわっ」

 

 やっぱり考えてなかったのかよ。

 これだから佐倉は、ほっとけない。

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