綾小路Tレックス   作:チームメイト

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櫛田に好きって言われたい

 佐倉と遊ぼう週間は、継続中だ。

 

 鬼ごっこではあまりにも佐倉が弱すぎたので、水曜日は目隠し鬼だった。木が生い茂る中での目隠しは中々スリリングで苦戦したが、最終的には佐倉がほとんど自ら捕まりに来るという形で、無事佐倉をゲットすることができた。

 

 木曜日は、おままごとっぽい何かだ。

 佐倉は単身赴任の夫の帰りを待つ専業主婦。オレは息子の家庭教師という、おままごとの枠からはみ出た表現しがたい設定だった。

 まあ、やることは変わらないわけで、いつもの通りだ。

 

「奥さん」

「先生」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 

 

 ──櫛田に好きって言われたい──

 

 

 

「昨日と一昨日は、さすがにやり過ぎだったかもしれない」

 

 7月19日 金曜日

 

 冷静になって考えてみると、目隠し鬼や不倫ごっこはどうだったんだろう。タオルを目に当てて視界を塞いだ男子生徒が女子生徒を求めて森を歩き回ったり、森の中で「奥さん」「先生」と呼び合って合体する。

 佐倉のバニーガールとどっちがアウトかレベルな気がしてきた。やっている最中は、そこまで意識が回らなかったが、反省しないとまずい。

 

 月曜日は、バニーガールを見つけてTレックス。

 火曜日は、佐倉を捕まえてTレックス。

 水曜日は、目隠しプレイで佐倉を捕まえてTレックス。

 木曜日は、旦那に操を立てつつも息子の家庭教師の強引さに惹かれてしまい、貴方ごめんなさいと謝りながらのTレックス。

 

 どんな4日間だ。

 いや、先週の土曜日からずっと佐倉と交わってばかりだから、どんな6日間だ。が正しいか。

 

 金曜日の昼休み、もはや久しぶりとなってしまった平田たちとの食事中。

「綾小路くん、最近色々とすごいね」と警告なのか、呆れなのか、賞賛なのか、判断に迷う言葉をいただいた。

 

「…………」

 

 今日くらいは、大人しくすることにしよう。

 金曜日は、山菜定食の節制の日で、禁欲に努めるにはちょうどいいしな。

 

 どうでもいいが、人が無料の山菜定食を食べている隣で、1番高いスペシャル定食を食べていた佐藤。食べるだけならまだしも、山菜定食を食べるオレに対して「うわぁ」ってぼそっと言ったのは聞こえているからな、覚えとけよ。佐藤の残り点数は35点だな。

 

 ちなみに、水曜日の昼休みは、火曜日に続いて櫛田、佐倉と3人で弁当だった。

 火曜日と違うのは、火曜日は佐倉の弁当だったのに対して、水曜日は櫛田の弁当だったことだ。オレの好みの味ということで、やはり櫛田の弁当に軍配が上がるわけだが、味ではないところで問題が起きた。

 

 弁当箱は、各自の部屋に最初から用意されている備品として生徒の1人1人に1個ずつ支給されている。問題なのは、櫛田がいつの間にやらオレの弁当箱を持ち出していたということだ。

 部屋に帰ってからこの事実に気づいたときは、ぞっとした。

 

 正直、いつまで弁当箱がオレの部屋にあったのかが、記憶にない。

 前回、須藤騒動で使ったときは、自分で持ち帰り洗って片付けておいたはずだ。

 

 合鍵を渡しているから、櫛田がオレが不在の時に部屋へと入って持っていった、ということだろうが、せめて一言ぐらい欲しかった。

 

 まあ、使っていない弁当箱が知らぬ間に櫛田の手に渡ることも百歩譲って問題ないとしよう。

 問題なのは、2週間ぐらい前に、洗濯前だったオレのパンツが1枚無くなっていることだ。どこかで無くしただけだと思っていたが、これはもしや──オレは、怖くて事実を確認できないでいる。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 金曜日の放課後に入ったらすぐに、『今日は、無理だぞ』と佐倉にメールを送った。佐倉はそれを確認して、こちらに頷きだけ返して教室から出て行った。

 

 なお、佐倉と2人での登下校は、木曜日の登校から解除しており、タイミングが合わない限りは別々に戻った。実は、木曜日の朝はそっと影から佐倉の登校を見守ったりしていたのだが、なんとか1人でも問題がなさそうだった。

 その裏側で、そっと影から佐倉を見守るオレをなぜか背後から見守る高円寺という図が出来上がっていたのだが、それは気づかないふりをしてスルーした。高円寺のただの気まぐれだろう。

 

 なにはともあれ、これで佐倉が自然エリアで待ったりすることなく、今日は1日まったりと過ごせるはずだ。作業を終えて携帯をポケットにしまいこもうとすると、メールを受信した。

 

『綾小路くん、今日ヒマ?』

「…………」

 

 思わず、送り主である櫛田を探すとクラスメイト数人に囲まれて談笑中だった。

 気のせいか。

 まるで佐倉とオレのやりとりを見ていたかのようなタイミングだったが、あれではこちらを確認したりはできないだろう。たまたまタイミングが重なっただけだな。

 

『ヒマと言えばヒマだ』

『デートは今日でいいかな?』

『終わったのか?』

『デリカシーって言葉知ってるよね?』

 

 直球過ぎたか。まあ、否定しないということはそういうことなんだろう。

 

 もちろん返事はOKだ。

 

 今日は1日おとなしくするという計画はあっさりと崩れ去っていったわけだが、櫛田とのデートを断ることなどできるわけがない。

 

『どこに行けばいい?』

『30分後にケヤキモール?』

『わかった』

 

 約1週間遅れの櫛田との2度目のデートだ。

 さて、今回はどんなデートになるんだか。

 

「顔が気持ち悪いわよ」

「悪かったな」

 

 久しぶりの櫛田とのデートなんだ。少しくらい頬が緩んだっていいじゃないか。

 堀北はもう少し男女のあれこれも学ぶべきだろう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 男女のあれこれを学ぶべきなのは、オレかもしれない。

 

 ケヤキモールについてから、今日のデートで何をするのかを考えていなかったことに気づいた。デートとはいったい何をすれば良いんだ。連日のように佐倉と遊んでいるとはいえ、あれをデートと呼んでいいのかは難しいところだろう。

 仮に、櫛田に対して「鬼ごっこしよう」って提案したらどういう顔をするのか。鼻で笑われてしまうに違いない。

 

「相手は櫛田だぞ、落ち着け」

 

 これが初めてのデートならまだしも、2度目のデートだ。いつまでも緊張している場合ではない。それに、鬼ごっことか子供じみた遊びじゃなければ、内心どうであれ櫛田なら馬鹿にせずに付き合ってくれるはずだ。

 

「綾小路くん、お待たせ」

「あ、ああ。大丈夫、今来たところだ。オーケイ」

「オーケイ?」

「気にするな、ただの挨拶だ」

 

 オーケイ。掴みはばっちり……ということでお願いします。

 ちなみに、今日は互いに制服のままだ。

 挨拶という第一関門は突破した。あとはデートで何をするかを伝えるだけだ。

 

「…………」

「今日は買い物でいいかな?」

「いいですとも」

 

 思いつかなかったわけではない。櫛田が買い物がいいっていうから、それに付き合ってやろうっていうだけだ。

 

「なにか買いたいものがあるのか?」

「豪華旅行に向けていくつかね。あれ、どこまで本当なのかな?」

「さあな。2週間押さえられているのだけは事実だが、実態はどうだか」

 

 中間テストの前に、退学にならなければ南の島に連れて行ってやると茶柱が言っていたが、それは学校行事の話だったらしい。夏休みの日程が発表されると同時に簡単な予定が明らかにされた。

 こんな感じだ。

 

 7月31日 午前5時集合

 8月15日 夕方 解散

 

「もうちょっと詳しく教えてくれたらいいのに」

 

 7月31日に早起きして集合するということ以外は、さっぱり分からない。

 

「後出しで色々とありそうで怖いが、ほぼ手ぶらでいいんじゃなかったか?」

「女の子には、色々あるから」

「そういうもんか」

 

 2週間を超えるバカンスで必要なものは、ほとんど現場で支給されるとの話だ。集合時に着ている制服の他、ジャージ(できれば替えも)と一週間分ぐらいの替えの下着や靴下等は、用意するようにと指示が出ているが、それ以外は特に何もいらないらしい。歯ブラシやパジャマ等も不要らしいので、バカンス中はホテルかどこかに泊まるのかもしれない。

 それならばジャージの必要性が疑問となるが、考えても仕方ないので入学時に支給された2着のジャージをそのまま持ち込むつもりだ。

 

「綾小路くんは、買い物は済ませた?」

「オレは特に買う予定は……ない」

「明日のは?」

「明日って何かあるのか?」

 

 明日といえば、7月20日で海の日だ。国民の祝日であり、一時期はハッピーマンデー法で流動的になっていたが、数年前に元の7月20日へと戻されている。

 祝日は、日曜日と重なった時だけ振り替えられることが決まっており、土曜日と重なっても何ら考慮されたりはしない。

 今年に限れば見事に土曜日と重なっており、休日を1日損した気分だ。

 

「特に予定はないはずだが」

「やっぱり知らなかったんだ。もしかしてと思って声掛けてみたけど、良かったよ」

 

 櫛田にとってオレの返答は、想定内だったらしい。

 

「明日、何があるんだ?」

「明日は、一之瀬さんの誕生日だよ」

 

 ああ、どうやらオレは盛大なミスをやらかすところを櫛田に助けられたらしい。さすがは櫛田さん、頼りになるパートナーだ。

 

「櫛田、提案があるんだがいいか?」

「プレゼント選びなら付き合うよ」

「大好きだ」

「それは最低だよ。じゃあ、お店回ろっか?」

 

 好きだって気持ちに嘘偽りは無かったのだが、最低と返されてしまった。彼女へのプレゼント選びに付き合う女性に大好きは、自分のことながら最低だったと思うので、否定できないか。

 

 というわけで、2回目のデートは一之瀬の誕生日プレゼント選びとなった。前回は、佐倉に嫌われないための服選びであり、櫛田とのデートとしてそれでいいのかって気がするが、オレからすれば異論はないので良しとしておこう。

 

 

「これはどうだ?」

「貰っても困るプレゼントかな」

「難しいな」

「センスが壊滅的だよね」

 

 女子が好きそうなファンシーなショップの中からオレが選んだクマの人形は、却下された。

 こんなやりとりはもう2桁に達している。ここまで否定されるのなら、櫛田に選んでくれよって言いたくはなるが、それは言ってはいけないことだろう。あくまでも選ぶのはオレでなければ、恋人に渡すプレゼントとしては不適格だ。

 とはいえ、このままオレの考えだけで選んでいたら、いつまで経っても決まりそうにない。

 

「櫛田ならどんな誕生日プレゼントが欲しい?」

「換金できるものなら何でも嬉しいよ。むしろお金でいいかも」

 

 間髪を入れずに返ってきたのは、現実的過ぎる答えだった。

 

「冗談だよな?」

「本気に取られたらちょっとショックかも」

 

 ブラック桔梗さんなら言いかねなくて冗談に聞こえないのが怖い。

 

「好きな人に貰うんだったら何でも嬉しい……かな?」

「その割には、却下されまくってるんだが」

「嬉しいの度合いは変わってくるから」

「なるほど」

 

 どうせプレゼントを贈るのなら、相手に喜んで欲しいわけで、何でも嬉しいを真に受けて妥協するのは甘えになるか。しかし、埒が明かないな。

 

「せめてヒントをくれないか?」

「え? うーん。ヒントぐらいなら良いのかな?」

「このままだと店が閉まる」

「長いデートになりそうだよね」

 

 オレがプレゼントを選ぶ合間に櫛田は自分の買い物を済ませており、あとどれぐらい時間が掛かるのかは一之瀬へのプレゼント次第だ。既に小一時間は経っているが、まだ候補すらも決まっていない。

 

「じゃあ、ヒント。一之瀬さんって私たちよりポイントには困ってないよね?」

「Bクラスだからな」

「だからある程度必要なものとかは自分で買えちゃうし、買ってると思う」

「まあ、そうだろうな」

「その上で、貰って嬉しいものを考えたらいいんじゃないかな?」

「……難しいな」

 

 必要なものは自分で手に入れている相手が貰って嬉しいもの。つまり、必要なものはとりあえず除外する。その中で貰って嬉しいもの。

 

 オレの場合は何を貰ったら嬉しいだろうか。割と貰えるなら何でも嬉しいせいで、逆にこれだっていうものは特にないから参考にならない。

 

 櫛田の場合はどうだろうか。隣の美少女のことを見ながら何を貰ったら喜ぶか考えてみる。視線に気づいた櫛田が小首を傾げるのが可愛いが、今はスルーだ。

 何を貰っても嬉しいというのは嘘だとは思わない。換金できるものは冗談だと思いたい。で、何がいいのか。

 

「…………」

「どうしたのかな?」

「なんでもない」

 

 こうやって改めて考えてみると、櫛田のこともよく分かっていないんだと自覚してしまう。

 

 櫛田はDクラスだから、ポイントには不自由しているはずだ。だが、それでも最低限必要なものはオレと同じように購入しているだろう。つまり、絶対に必要というわけではないが、あると嬉しいものがこの場合の答えとなる。

 

 持っていると嬉しいものは何か。

 

 ポイントだな。ポイントさえあれば前回のデート時に服を上下揃えることができたわけだし──ん? ポイントがなかったから諦めた。この発想が大事じゃないか。

 ポイントに余裕があったら欲しいもの。それが今回の答えといえるんじゃないだろうか。

 

 必要なもの以外でポイントに余裕があれば買いたいもの──いや、ポイントに余裕があったら欲しいものなら、何も必要なものを除外しなくていいか。

 必要だからこそ、節約して無料の配布品で済ませたり、格安のものを選んでいるものは、いくつもある。必要だが、良いものは値を張るものをランクアップさせるプレゼントなら、貰ったら嬉しいんじゃないか。

 

 もちろん、今使っているものを無駄にするわけにはいかず、複数あっても困らないものがいいだろう。

 となると、文房具……は最終的に使い勝手というのは、個人の感覚だから難しいか。

 他では服……はセンスを問われるし、これも結局は個人の好みか。

 

 それ以外で複数必要なもので、ランクアップできそうなものは何かないか。脳細胞を活性化させて答えを探す。ああじゃない、こうじゃないといろんなものを思い浮かべては、却下していくうちに1つの答えが見えてきた。

 下着というのは、ありなんじゃないか。服と同様にセンスを問われるものではあるが、内側に隠れるため、そこまで外さなければ問題はないはず。

 

 ただ、下着をプレゼントに選ぶ上では必要な情報がある。

 

「なあ、櫛田」

「なにかな?」

「ブラのサイズ聞いてもいいか?」

「私を怒らせたいのかな?」

 

 思考が先急ぎ過ぎて、聞き方を間違えた気がしてならない。

 

 

 

「ええっと。下着……うーん……」

「いいアイデアだと思ったんだが、ダメか?」

 

 さっきまでは問答無用の即却下を食らわせていた櫛田だが、下着というアイデアに対しては、返答に詰まっていた。

 

「櫛田は貰ったら嬉しくないか?」

「嬉しいけどね。そこが悩みどころでもあるというか」

「なら、誕生日プレゼントで良いと思うんだが」

「付き合い始めたばかりの彼氏から下着はちょっとハードルが高いような……うーん、いいのかな」

「正直、それ以外に思いつく気がしないんだが」

「本気っぽいから余計にたちが悪いよ」

 

 呆れ半分、批判半分といった感じの表情を向けてくる。

 なぜだ。いいアイデアを提示したつもりが、櫛田からの評価がガンガン下がっている気がする。

 

「その前に一之瀬の下着のサイズは、分かるのか?」

「分かるけど、それも悩みどころなんだよね」

 

 さすがは櫛田ネットワーク。一之瀬の下着のサイズまで把握済みか。

 

「勝手に教えていいのかっていうのと、下はともかく上のサイズって微妙なところあるし」

「微妙?」

「メーカーとか形状によって微妙に感覚違うから実際につけてみると違ったりとか」

「そういうもんなのか?」

 

 オレがトランクスタイプならLだがボクサータイプならLLをつけているのと同じようなもんか。腰回り的にはLサイズで問題ないんだが、どうにもボクサーパンツのLサイズだとTレックスが苦しくなるからサイズが変わってしまう。

 

「じゃあ、下だけ」

「うーん。良いものをプレゼントしたいんだよね?」

「そうだな」

「それなら、やっぱり上下揃ってないと変かも」

「そういう問題もあるのか」

 

 下着をプレゼントするというのは、いいアイデアかと思ったが色々と問題が出てくるか。

 残念ながら諦めるしかない。自然とため息がこぼれた。

 

「10年に1度のアイデアだと思ったんだがなぁ」

「…………」

「櫛田がやめた方がいいっていうなら間違いないんだろうなぁ」

「…………」

「やっぱり、オレにプレゼント選びなんて──」

「──わかったから。じゃあ、下着売り場に行こう」

 

 ちら、ちら、と櫛田を見ながらいじけてみたら、櫛田はあっさりと折れてオレのアイデアを認めてくれたようだ。

 

 アイデアに気を取られ過ぎていたが、下着売り場での買い物はそれはそれで難易度が高くないか。もしかしたら下着をプレゼントするという提案は、失敗だったのかもしれない。

 

 

「ちょっとくっつき過ぎじゃないか?」

 

 問題の下着売り場に近づくと、櫛田がぴったりと腕を取るようにして密着してきた。そのまま2人寄り添うようにして店内に入る。店内には他の女子生徒が数人いたが、幸いどちらの知人でもなさそうだった。

 

「1人にした方が良い?」

「密着のままでお願いします」

 

 こんなところで1人で放置されたら以前のBクラスの比ではなくきつい。友達同士というのも設定として弱く、ここは恋人同士という設定で押し切るしかない。恋人同士ではないが、デートだからギリギリセーフだろうか。

 そのまま櫛田の誘導で店内を奥へと進み、ある一角で足が止まった。

 

「この辺がだいたい上下で1万ポイント前後だよ」

「それはどうなんだ?」

「上を見たらキリがないけど、十分だと思うよ」

「確かに見た感じから違うな」

 

 そんなにしっかりと比較するわけではないが、隣のコーナーとは見た感じからして光沢というか高級感が出ている気がする。

 

「この中だとこれとかこれとかかな」

 

 上下セットになっている中からいくつか櫛田がピックアップする。女性の下着の選び方などさっぱり分からないから、櫛田には頼りっきりだ。

 

「それだけか?」

「一之瀬さんのサイズだとあんまり選択肢が無いよ」

「そういうもんなのか?」

「佐倉さんだともっと大変だと思う」

 

 そういや、佐倉はいつも無地でデザインも乏しいシンプルな下着だったっけ。

 バニーガール姿のときは、黒をつけていたがそれ以外は白しか見ていない気がする。

 単に大人しい佐倉が派手なものを避けているだけだと思ったが、そういう事情もあったのか。

 

 流れ的には櫛田のサイズも聞いてみた方がよさそうだが、今は櫛田だけが頼りだ。このタイミングで迂闊なことを聞くのはやめておこう。

 

「私のは、今微妙なところだから」

 

 聞くつもりはなかったが、視線で悟られたらしい。

 櫛田の下着はどうなのかを考えながら胸へと視線を送ったのが、バレバレだったようだ。

 

「微妙?」

「誰かのせいで最近少しきつくなった気がして、そろそろ買い替えようか悩み中かな」

「いったい誰がそんなことを」

「…………」

「……少し、いや、半分ぐらいポイント出した方がいいか?」

「とりあえず、一之瀬さんのプレゼントだよ」

 

 それもそうか。ここで櫛田の分もプレゼントできたらいいんだが、さすがにポイントの残りが厳しい。

 これ以上のポイント消費は、夏を楽しく過ごせなくなってしまいかねない。

 

「こうしてみると結構違うな」

「下着なんか脱がして終わりだもんね、綾小路くんは」

「すまん、もう少し声を潜めてもらえないか?」

 

 直接手に取ることには抵抗があり、代わりに櫛田が順番に手に取るそれをチェックしていく。目的別なのか単にデザインの問題なのか、布地が広めのものもあれば狭いものもあったりでどれがいいのかはさっぱりだ。

 

「その中で1番肌触りが良いのはどれか分かるか?」

「うーん。どれも問題ないと思うけど、これかな」

「じゃあ、それで」

「そういう決め方で良いの?」

「見た目でどれが好きとかよりは、いいんじゃないか?」

「そう言われるとそうだねーとしか言えないけど」

 

 最後に、白と薄いピンクを見比べる。どちらでも普段使いするには問題ない色らしいので、薄いピンクの方を選んだ。櫛田と商品を手にレジへと向かう。

 

「プレゼントなんですけど、合わないときのサイズの交換って大丈夫ですか?」

「こちらの商品なら1週間以内なら大丈夫ですよ。包装しましょうか?」

「お願いします」

 

 櫛田が店員とやりとりして、ラッピングまで済ませてもらい、1万と少しのポイントと引き換えに商品を引き取る。サイズの交換とかは男のオレには出てこない発想だけに、本当に櫛田様様だ。

 

 こうして、かなり難航したが一之瀬の誕生日プレゼントを手に入れるデートは終わった。

 

 

「それじゃあ、また週明けにね」

 

 寮が近づいたところで櫛田は小走りになり、先行して寮へと入っていった。

 

「あれ? 櫛田……Tレックスは?」

 

 それに1ヶ月ぐらい引っ張っているが、好きだってまだ言われていない。

 オレは、目の前から離れていく櫛田の背中を見送りながら、ただ立ち尽くすしかできなかった。

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