綾小路Tレックス   作:チームメイト

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充実した学園生活とは何か 下

 さて、入ってきた担任が学校について説明していったわけだが、担任の説明はかなり長くて回りくどいもので、要点だけまとめてみよう。

 

 ・クラス替え無し ←なぜ

 ・担任も固定 ←担任の評価に直結か

 ・全寮制で外部との連絡制限 ←むしろこれが理由で学校を選んだぐらいだから望むところ

 ・あらゆる施設が揃っている ←ラブホはあるのだろうか

 ・娯楽も揃っている ←ラブホは(ry)

 ・あらゆるものをポイントで買える ←あらゆるものってどこまでポイントで、ラブホ代は(ry)

 ・ポイントは毎月1日 ←毎月1日はポイントデー

 ・今月分の10万ポイント ←多すぎる?

 ・学校は実力で生徒を測り入学した価値が10万 ←今後増減するのかもしれない

 ・担任は巨乳 ←これ一番大事

 

 

 とりあえず、いちいち色んな含みを持たせすぎだろ、あの巨乳。

 

 気になるのはラブホ──いや、ポイントの多さ。

 今月分という言い方をしていたが、毎月10万とは言っていない。来月分も10万ポイントかどうかは分からない。

 

 この高校での生活は、外部との接触は制限が掛けられている。入学時に敷地内に持ち込めるものも厳しく制限されていたので、新生活に必要なものはある程度敷地内で揃える必要がある。

 最初に支給される10万ポイントは、初期の生活環境を整えるために多めに支給されているという可能性はないだろうか。

 

「今月は様子見するしかないか」

 

 このポイントがここでの生活費も兼ねている以上、全く支給されなくなるということはないと思う。ただ、来月に貰えるポイントが分からなければ、今月は必要最低限の出費で済ませて不測の事態に備えるしかないだろう。

 

 周囲の様子をうかがうと、ポイントの多さに浮かれてはしゃぐ生徒が大半のようだった。

 隣の席の名称不明美人は、クラスの空気に乗らずに何かを考えているようだが、互いに考えていることを相談できるような関係を築けていない。

 くわばらくわばら。

 睨まれないうちに視線を外して、放課後までの時間をやり過ごした。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 オレはストーカーではない。

 

 一応言っておかなければ、色々と誤解を招きそうな勢いでの遭遇率の高さだった。コンビニに足を運んだ結果が、名称不明美人と本日3度目の遭遇である。

 

 出会いたいのは、たぶんこいつじゃない。

 この出会いは、ガルナの塔に出てくるしびれあげは的なあれだ。ただ出会ってしまったからには、挨拶ぐらいしておくべきだろう。

 

「また会ったな。名前聞いてもいいか?」

「拒否しても構わないかしら?」

「隣同士で名前を知らないのは居心地悪くないか?」

「ならないわ」

「どうせそのうち教師から呼ばれる機会もあるだろうし、名乗ってもいいんじゃないか?」

「ならそのとき知ればいいでしょう」

「恥ずかしい名前なのか?」

 

 もしや、権俵卑弥呼(ごんだわらひみこ)

 

「……堀北鈴音よ」

「堀北ね。よろしく」

 

 名前を聞き出すだけ聞いて距離を取った。こちらからは名乗らなかったが、隣で自己紹介を聞かれていた相手に、わざわざ名乗りなおす必要はないだろう。

 会話としてはこんなもんか。

 必要以上に踏み込んでも迷惑がられるだけだ。

 1人でいることを()()()()()相手のことを尊重するなら、必要最低限以外は放っておくべきだ。

 

 惜しいのは中々の美少女という一点だ。

 今は想像できないが、そのうち親しくなれるような機会があるのを待つしかないか。

  

 堀北と別れて改めて店内を物色する。

 これだけの品が並ぶ店を見るのは初めてで、目移りしてイマイチ商品を選びきれない。

 

「このコーナーは無料?」

 

 隅のワゴンに安物っぽい商品を集めたコーナーが用意されており、1ヶ月3つまで無料と掲示してあった。

 

「1ヶ月3つまでか」

 

 オレは特にモノにこだわっているわけではない。というかこだわるほどモノの違いが分からないといった方が正解に近い。これもモノは試しだ。髭剃りとシェイビングクリームとボディケアセットの身だしなみグッズ3つをここから拝借することに決めて、カゴへと移す。

 タダより高いものはないという言葉もあるが、使えるものは何でも使え精神で今回は使ってみよう。

 それにしても10万ポイントも用意しておいて無料……学園側からのサービスなのか何らかの救済措置なのか。来月になってみなければ判断はつかないか。

 

 他にも、ティッシュやトイレットペーパー(この2つは比較的良いものを選んだ)等、最低限生活に必要な物資をチョイスしてレジで無事に買い物を済ませる。学生証は問題なく使え、持っていたポイントが減少したが、無料のものは本当に無料だった。

 

 コンビニの外では、クラスメイトの赤毛が何やら揉めごとを起こしていたようだ。

 

「これから地獄を見るからな、か」

 

 赤毛が上級生とみられる生徒から投げかけられた言葉が引っかかる。地獄とは何なのか、一応その捨て台詞を覚えておくか。

 赤毛がゴミ箱を蹴っ飛ばして散らかしたものをとりあえず片付ける。

 

 さっき自己紹介の時に助けてくれたお礼は、これでチャラだからな。

 一方的に助けられたと思っている相手を一方的に影でフォローする。差し引き的にはこんなもんだろう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 しばらくしてクラスに幾つかのグループができた。

 スクールカーストという言葉とは今まで無縁な人生だったが、これからはそういうわけにもいかないらしい。どのグループに属しているかは、結構重要なポイントになりそうだ。考えた結果、オレはどこかのグループに入り、常に行動を共にするという選択を避けた。

 しいていうならば、平田のグループとつるんでいることが多く、そのグループの末端に籍を置かせてもらっていると言っていいポジションを確保したが、一緒に行動するのは週の半分程度だ。

 

 なぜ、平田のグループなのか。

 

 平田はモテるイケメンである。

 モテる男の作法という奴を学ぶには、うってつけの相手だというのが一点。

 イケてないグループにいるよりは、そういうグループにいた方が、スクールカーストの観点から有利というのが一点。

 何よりも来るもの拒まず、去る者を追わずという平田の距離感が、気楽だったのが一番の理由だ。

 

 どこかのグループには属したいが、グループの厄介ごとなど勘弁して欲しいし、グループに属することが目的となって縛られるようになったら、本末転倒である。

 都合よく近く、程よく遠くの距離感を保ち、必要な時にそのグループの一員に入れるのがベストで「今から2人1組を作ってもらいます」とかいう突発イベントが起きたときに、孤立しない程度の関係が築ければ十分だ。

 平田は既にサッカー部に所属しており、放課後や休日は部活に時間を取られることが多いというのもポイントが高い。

 人付き合いは何かと入り用だ。4月の間はポイントを温存することを決めているオレにとっては、頻繁に遊びに行くような仲良しグループは厄介でしかない。せいぜい昼を一緒に取るぐらいで、平田のタイミングが合わなければ集合が掛からないというのは理想に近い。

 

 間違ってもゲームを買って一緒にプレイしようぜ、みたいな(イケ)てないグループに属してはならないのだ。

 

「…………」

「…………」

「何か用?」

「旨そうだな、どこで買ったんだ?」

「手作りよ」

「わざわざ材料買って作るとかマメだな」

「食材も無料配布があるわ」

「買わなくてもマメだな」

「別に、慣れてるから」

 

 堀北とは相変わらず微妙な距離感のままだが、少しは会話が成り立つようになってきた。

 積極的に何かを話すというわけではないが、一言二言程度の会話を無視するほど距離を置かれているわけではないらしい。もっとも互いに干渉しない範囲での話で、これが踏み込んだ話になるとスルーされるんだろうが。

 会話はそれで終わり、食堂へと向かうことに決めて教室を出ていく。

 

「綾小路くん、ちょっといいかな?」

 

 廊下に出て早々に、櫛田に呼び止められた。

 割と珍しいパターンだ。

 櫛田とは入学式の一件以来友達関係を築けているが、フレンドリーで友人の多い櫛田にとっては大勢いる友人の1人でしかなく、こうして櫛田から改めて声が掛かることはない。特に昼休みとなれば、人気者の櫛田はほとんど日替わりで違う相手と大勢で過ごしていることが多く、集団で一緒になったことはあったが、こうして個々で向き合うことはなかった。

 何事かと警戒しつつも、美少女から距離を詰められれば悪い気はしない。

 

「どうした?」

「場所変えてもいい?」

「分かった」

 

 なにやら不穏な空気だが、まずは話を聞いてからだ。

 

 

 人気のない踊り場へと場所を移した。

 

「あの、綾小路くんって堀北さんと仲良いよね?」

「そうか?」

「堀北さんが話すのは綾小路くんだけだよ」

 

 堀北はどのグループにも属していない。自分から積極的に話すタイプでもないし、他人に邪魔されて自分のペースが崩れることを嫌っている節がある。

 

「隣の席だからな」

「私ね、学校中のみんなと仲良くなるのが目標なんだ」

 

 秘密を打ち明けるように近距離で、身体をもじもじさせる櫛田の破壊力は、中々のものだ。

 

「だから堀北さんにも連絡先を聞いたんだけど」

「断られたのか?」

「うん。誰とも仲良くする気は無いって」

 

 いかにも堀北が言いそうなことだった。ちなみにオレは喜んで櫛田と連絡先を交換した人間である。

 

「ああいう性格だからな」

「でも私、堀北さんとも友達になりたいの。協力してもらえないかな?」

 

 櫛田がオレの手を取り、さらに距離を詰めてくる。華の香り? ものすごく心地よい香りが鼻孔をくすぐる。

 

「協力って言っても」

「ダメ……かな?」

 

 至近距離で小首を傾げるとかずる過ぎる業だと思う。こんなことをされてしまったら断りがたい。それでも、ゆっくりと身体を引き、手を離して距離を取る。

 

「櫛田、1個質問いいか?」

「なに?」

「ゴキブリって嫌いか?」

「当たり前だよ。好きっていう女の子は、ほぼいないんじゃないかな?」

 

 よかった。仮に好きだと言われたら話が繋がらないし、櫛田のことを色々と考えなければならなかっただろう。

 

「じゃあ、ゴキブリを好きな奴がいて櫛田に一生懸命ゴキブリの魅力をアピールして好きになってくれって迫ってきたらどうする?」

「それはちょっと引いちゃうかもしれないけど……でもそれって堀北さんの話に関係あるの?」

「ある。堀北にとって櫛田がやろうとしていることは、それと変わらないってことだ」

 

 人付き合いがゴキブリほど嫌いというわけではないだろうが、こういう例えは極端なぐらいがいい。

 

「今のあいつは自分から1人でいることを選んでいる」

「でも良いことじゃないよ」

「オレも良いことだとは思わないが、あいつの選択を尊重してやれないなら仲良くなんてできないと思わないか?」

「…………」

「もちろん、尊重すると1人でいることを放っておくってことになるから仲良くできないが」

「それなら──」

「──ただ、尊重できないのなら今以上に嫌われるだけだ」

「…………」

 

 櫛田の言葉の途中で割り込んで言葉を遮った。

 目の前の美少女は善良な存在だ。堀北のことを本当に心配し、親しくなりたいと思っているのが伝わる。

 だが、それを堀北が望まない限り、ただの好意の押し付けで堀北にとっては迷惑なだけだ。

 

「オレは堀北の選択を邪魔しないから邪険にされないっていうだけで、親しいとかそういうわけではない。その、なんだ、あんまり役に立てなくて悪い」

 

 櫛田からしたら期待外れも良いところだろう。手のひらを合わせて、軽く頭を下げる。

 

「ううん。アドバイスだけでも助かったよ、ありがとう」

「そのうち堀北も孤独を辞めるかもしれない、そのときまで待ってやってくれないか?」

「納得はできてないけど、分かった」

 

 当面のところは、櫛田の中で折り合いがついたようだ。

 

「それにしても……綾小路くんって堀北さんのことをよく理解してるね。なんか妬けちゃうなー」

 

 人差し指をショートカットの髪にくるくる巻きつけながらの上目遣いとか破壊力がやばい。

 顔が赤くなっていないか自信が持てずに、顔ごと視線を逸らし──

 

「別に、隣の席なだけだ」

「本当にそれだけ?」

 

 ──逸らした先へと櫛田に回り込まれて表情を見られる。知らなかったが、大天使からは逃げられないらしい。

 

「それだけだって。それより飯食べに行かないか? これ以上遅くなると食べる時間が無くなるぞ」

「あ、そうだね。行こっか」

 

 断られたらどうしようか、と少し不安だったが、人付き合いの良い櫛田はあっさりと乗ってきて内心でガッツポーズをとった。

 

 ここで新たな問題が発生する。食事の場所をどうするか、だ。

 学校の施設の充実は昼休みの食事にも反映されていて、座席を取り合う心配がほとんど起こらない広い食堂をメインに、他にもいろんな店が選択肢として用意されている。

 グループでの女子との食事は何度か経験があるが、誘った女子と1対1とか未経験すぎてさっぱりだ。

 こういう場合の選択肢は、何が正解だろうか。

 

「オレは普段ほとんど食堂で済ませてるけど、櫛田はどっかお勧めある?」

「この時間だとどうかなー」

 

 エスコートしないのはスマートではないが、相手の意見を尊重するのが大事というのをさっそく実践してみる。食事のエスコートは次回までの宿題にして、櫛田に任せることに決めた。

 オレとは比較にならないぐらいに交友関係の広い櫛田は、色んな場所に出入りしており、男としては情けない限りだが、こういうときは頼りにしておけば間違いないだろう。

 

 

「あ、一之瀬さんだ」

 

 前から女子生徒2人組が歩いてくる。

 

「Bクラスの一之瀬帆波さん。昨日友達になったんだ」

 

 櫛田の幅広い交友関係は、既にDクラスを超えて構成されているようだ。

 オレに対してではないだろうが、手を振られたので笑顔を浮かべて手を振り返しておく。

 互いに1人ではないため、特に会話などはなくすれ違うだけに終わった。

 一之瀬帆波、いいおっぱいをした隣の櫛田に負けず劣らずの美少女だ。覚えておこう。櫛田よりもサイズは上だな。

 

「違うクラスとも仲良くなっているのか?」

「うん。Bクラスは話しやすい人が多いから」

「そうか」

「あ、ここだよ。結構人気で昼休みすぐは席が取れなかったりもするんだ」

 

 いかにも女受けしそうなカフェで、ちらほらと空席が出始めていた。

 適当に食べ物と飲み物をそれぞれ注文し、座席へと移る。

 

「でもさ、この学校ってすごいよね。色々お店あるし10万円ももらえるし。ポイントだとお金って実感少ないから、使い過ぎに気をつけないとって思ってる。買わなきゃいけないものは買うけどね」

「まぁ、堀北も同じみたいだな」

「へー、堀北さんのお金の使い方知ってるんだ。やっぱり仲いいでしょ」

 

 コーヒーを口にしたところで、テーブル越しに身を乗り出されて、カップ1つ分まで顔が近づく。

 近くで見ると美少女っぷりがやばい。

 動揺を押し隠して、何事もなかったかのように、コーヒーを口から離した。

 

「別に、隣の席ってだけだ」

「ふーん。まあそういうことにしておいてあげる」

 

 数秒間至近距離で疑いの目を向けられたが、それだけで櫛田は身を引いた。

 本当にそれだけで、やましいことはないが説明が難しい。

 

 

 やましいことはないといえば、後日談。

 クラスメイトに見られていたのか、池とか山内とかが絡んでくるとかいうイベントが待っていたが、これも別にやましいことはなく、タイミングがあっただけで押し切った。

 櫛田と2人っきりで食事したければ、堀北と仲良く見えるのがポイントというアドバイスは、もちろんするわけがない。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 そして5月1日。

 

 待望のポイントデーに、オレたちにポイントは振り込まれなかった。




ドラクエに詳しい綾小路清隆。無いと思います。
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