無人島編その1 上陸前の出来事
7月31日
1学期の終業式は5日前に終わり、世の中で言うところの夏休みのはずだが、1年は学校行事に総出で駆り出されていた。
もっとも、夏休みと言っても学外へ出ることは許されておらず、必然的に寮で過ごすことが求められる学校だ。部活などに参加している生徒はそれで良いにしても、オレみたいな未所属の生徒は、長い休みを与えられても消化に困る部分が無いとも言えず、予定が入るのは別にいい。
むしろその予定が、豪華客船によるクルージングと南の島でのバカンスであれば言うことはない。集合時間が早朝5時と厳しくても我慢できる。それから、クラスごとのバスに乗り込んで1時間掛けて港まで移動。船を待つ間に配られた軽食を取り、点呼を済ませて乗船を済ませたところまでも問題ない。
問題なのは乗船後、自由時間に入って早々に担任に呼び出しを食らって、客船に設置されたシアターで演劇を鑑賞するという状況に陥っていることだ。
わざわざ豪華客船に乗り込んで早々に演劇を見に来るような生徒は少なく、まばらな客席の中央に茶柱と隣り合って陣取った。中々おっぱいが眩しい茶柱だが、既に佐倉という極上のものを知っているオレからすれば、大人の女性という響きがどこまで影響するかという感じで、外見自体は可も無く不可もなくといったところだろう。
それにしても上演中の演劇がイカロスとは意味深だ。
イカロス。
イカをロス。
イカくさいのをロス。
これはもしや茶柱がオレを誘っているのではないだろうか。
ちらり、と隣に座る茶柱に視線を送る。
長らく性行為を行っていないことをアピールしている可能性がゼロではない。いや、むしろその可能性が高いのではないか。
茶柱は割ときつめの性格をしている。そういうのを屈服させるのが好きな男もいるかもしれないが、基本的には男からは敬遠される存在といえる。つまり、彼氏がいる可能性は低い。
1人で慰めるのに飽きた茶柱が目を付けたのがオレ。イカロスというのは精いっぱいのアピールだ。そうであるならば、手を出した方がいいのではないか。あまり年上は好みではないが、担任と教え子というスパイスがあれば、Tレックスもその力を発揮することができる。
「数日前、ある男から連絡があった」
「先生に連絡する男などいないはずです」
「…………」
「…………」
勢いで否定してしまって、お互いに黙った。
いや、彼氏がいる可能性は低くても、連絡してくる男ぐらいは居てもいいのか。
「綾小路清隆を退学させろ」
「それは意味不明ですね。それが誰か知りませんが、理由もなく退学なんてさせられませんよ」
「無論、この学校の生徒である限り、お前はルールに守られている」
連絡してきた男が誰か。わざわざオレを退学させようとする男など、あの男しかいないだろう。
あの男からの連絡なら茶柱の彼氏説は消えたと考えていいはずだ。実はあの男と深い関係で、この隣の女性が新しいアレな候補だとか想像もしたくない。
「だが、問題を起こせば話は別だ」
「残念ですけど、オレは問題を起こしたりはしませんよ」
この学校を退学するつもりなど微塵もない。退学すれば再びあの男の元へと戻されるのは、火を見るよりも明らかだ。充実した今の日々を手放すつもりなどはない。
「櫛田が度々お前の部屋に出入りしているらしいが?」
「一緒に勉強しているだけですよ」
嘘ではない。保健体育だ。
「佐倉が一晩泊まったと聞いている」
「あの日、何があったのかは担任なら把握しているでしょう。あのままの佐倉をほったらかしにする方が問題だ。あの時点で1人にするのは危ないという人道的な判断から泊めただけです」
やはり監視カメラである程度の出入りは把握されているようだ。櫛田との早朝の件は、言い訳が難しいが回数が多いわけではない。佐倉との件は最初からこのタイミングならセーフと判断してのことだ。
そして、佐倉とのメイン会場である自然エリアでの密会は、特に監視カメラは無く出入りも別々なため把握されていないようだ。念を入れてわざわざ野外で暑さに耐えて、努力を重ねた回があった。
「お前の話は関係ない。私がクロだと判断するかどうか」
「……もしかして脅しているんですか?」
「これは取引だ。お前がAクラスを目指すというのであれば、私はお前を守るために全面的にフォローする。いい話だと思わないか?」
「いい話ですね」
これで自分の部屋で堂々とTレックスする大義名分が得られるのなら、Aクラスを目指すというのも悪くないのかもしれない。
ただし、この目の前の女が裏切らないという前提が守られるのなら、という話だ。
今のところ信用できるほどの何かがあるわけではなく、今後もこういった脅しめいたことが行われるのは面倒くさい。
「Aクラスを目指すというのは分かりました。そこは、いいとしましょう。ただ、あまりに早期に結果を求められすぎても困ります」
一度、言葉を区切って考える。
どうすれば面倒ごとを避けられるのか。
「……そうですね。その学年が終わるまでに開始時より上のクラスに入るっていう条件はどうでしょうか? そして、それが守られている限り、その過程で余計な口出しはしない。これを守ってもらえるのでしたら取引に応じますよ」
目標と期限を切る。
1年が終わるまでにCクラス、2年でBクラス、3年でAクラスだ。
最終的にAクラスまで引き上げられれば、それでいいはずだ。
わざわざ生徒を脅すような真似をしてまで茶柱を突き動かすものは何なのか。これは今までの茶柱の言動とは一致しないもので、情報が不足している。茶柱は、どちらかといえばやる気なく、Dクラスに干渉しない立ち位置を取っていたはずだ。
今までは様子見だった可能性もあるが、それにしても少し性急すぎる。
急に立ち位置を崩してまで、取引という名の脅しに出てくるのは危険だ。一種の焦りのようにしか思えない。そこには釘を刺しておかなければ、今後悪い方向へ向かう可能性が高い。
「それが通るとでも?」
「現実的に可能なラインすらも見えていないのなら、取引は無理ですね」
ここで今年中にAやBを目指せと言うようなら、話にならない。ここで取引を行ったとしても、今後足を引っ張られるだけだ。クロと判定して退学に追い込むという言葉がどこまで本当かは判断がつかないが、取引に応じる以外の何らかの手を考える方向に切り替えた方が早い。
「…………」
「…………」
演劇はクライマックスへと入り、照明が主演に集中して場を盛り上げている。舞台が終わるまではあと僅か、それがこの取引が成立するか決裂するかのタイムリミット。
「……
「構いませんよ」
「……分かった。1年が終わるまでにCクラスだな。期待させて貰うぞ」
とりあえずの時間稼ぎには成功した。
現実問題として、1年の間にCクラスとの入れ替わりなら出来なくはないはずだ。元々500ポイント近くあった差が、現在は半分以下まで詰めている。あとはどの程度クラス間に戦力差があるのかと、ポイントを手に入れるチャンスがあるのか次第だ。
後者については、目の前の担任が応じている以上、ある程度は用意されていると考えるべきだ。
まさかチャンスがないにも関わらず、こんな申し出をしているとは思いたくないからな。
「先生、この船の最下層を使うかもしれませんので、フォローお願いします。
後悔しないでくださいよ。オレを利用しようとしたことを」
「……ほどほどにな」
こちら側は、Aクラスを目指す。茶柱は、オレを守るために全面的にフォローする。
Aクラス入りに向けた何かを示す前だが、与えられた権利は権利だ。
この船の最下層の地下4階は、配電盤室など船にトラブルが起きた場合に利用されるであろう施設しかなく、基本的に生徒には意味がない階だ。立ち入りを控えるようにと口頭で注意があったが、特に出入りを見張られているわけではなく出入りは可能である。他に色んな娯楽施設が用意されている中で、用がない場所にわざわざ足を踏み入れる生徒は、物好きな奴ぐらいしか居ないだろう。
つまり船という会場の中で、Tレックスを開放するにはおあつらえ向きな場所であり、茶柱のフォローがあればなおさらだ。
使うかどうかはまだ未定だが、せっかく手に入れたリターンだ。どうやって有効活用するのかを考えておくことにして、茶柱との会合を終えた。
◇◇◇
「出遅れた」
茶柱がシアターなんかを選んだせいで、2時間強も自由時間を使ってしまった。舞台自体は金を掛けた本格的なものであり、見ごたえがあったのが救いだが、青春を謳歌するという目標に対してはロスでしかない。
結果として、恋人の一之瀬を誘うチャンスを逃してしまったのは残念だ。
演劇を見終えたオレがメールを送った時には、既に高級スパのマッサージの予約を一之瀬が入れた後だった。残念ながらというか当たり前の話になるが、マッサージは男女別で施術されるため、一緒に過ごすことはできない。
まあ、その後の食事の約束は取りつけることができたからギリギリ滑りこみで間に合った感じか。
なお、高級スパのマッサージというと値が張りそうだが、ポイントは一切必要ない。
この豪華客船は学校の貸し切りであり、驚くことにその施設の全てがポイントなどを支払うことなく無料で利用することができるという大盤振る舞いっぷりで、どうぞご自由にバカンスを楽しんでくださいというスタンスだ。
日頃ポイント不足で節制を強いられているオレ達Dクラスからしたら夢のような環境で、楽しまないと損というものだ。
一之瀬との食事までの時間をどうするか。
男女別でもいいからマッサージという手もあるが、1人で過ごすのはここまでにしたい。
こういう時は、我らが櫛田さんの出番である。
『今、何してる?』
『水着を選んでるけどどうかな? これからプールだよ』
試着室らしき中で、水着を着た櫛田の写真が添付されてきた。
紐に、申し訳程度の布地を足しただけという大胆過ぎるもの。
『保存したが、大胆だな』
『みーちゃんが選んでくれたんだ』
みーちゃんというのは、クラスメイトの
中国出身だが小学生の時に日本に来ており、日本語は堪能で名前を知らなければ、日本人だと認識してしまうレベルだ。
服選びのセンスもあるようで、櫛田の水着は似合っている。似合っているが、露出が多すぎるな。
『ま、却下だな』
『妬いちゃうの?』
『襲いたくなるから却下』
『それは困るから別のにするね』
『着るなら2人きりのときにしてくれ』
『うわー、馬鹿がいる』
うるさい。
しかし、微妙にごまかされた感があるのは気のせいだろうか。
櫛田との関係はこんな感じで良好と言えば良好だが、Tレックスからは離れたままだ。今回もほぼ冗談とはいえ襲いたくなるというのに対して、逃げられたと言えなくもない。
幸いなことに、櫛田とのTレックスがなくとも佐倉が頑張ってくれたのでどうにかなったが、佐倉が居なかったら本格的にやばかったかもしれない。
7月下旬に佐倉が例の期間に突入したときは、この世が終わったかと思ったが、佐倉が自主的に胸や口でTレックスを解き放ってくれた。佐倉さんやるわーフライアウェーイ。
話を戻そう。
とりあえず櫛田は、展望デッキに設置されているプールに向かうようだ。
どうせ予定もないし、便乗させてもらうことにしよう。
「……このままでいいか」
デッキへ向かう途中に、水着などのレンタルをするコーナーがあった。男女別に分けられた敷居の前で1度足を止めたが、そのままスルーして制服のままデッキまで上がる。とりあえず様子を見てからでも遅くはないはず。泳ぎたくなれば引き返せばいいだけだ。
大型プールがいくつかのゾーンに区分けされて設置されており、そのサイドには屋根によって作られた日陰に、デッキチェアやテーブルなどが設置されている。
ざっと見たところ50人ぐらいが各々のペースで楽しんでいるようだ。
櫛田はクラスメイトの女子たちと、浅いプールでビーチボールで遊んでいた。櫛田の水着は赤のビキニで、さっきの水着に比べたらマシだが十分大胆な格好だ。スタイルの良い櫛田だからこそ水着に負けておらず輝いて見え、周囲の視線を独り占めに近い形で集めている。
その視線を送る集団の中に見知った顔があった。池、須藤、山内のお馴染みのトリオだ。見た感じだと自由時間早々にプールに突撃して一通り遊んで小休止といったところだろう。
「…………」
プールは何となく男子グループと女子グループに分かれて過ごすようになっており、この中でオレが櫛田たちのグループに入っていくのは難易度が高い。
かといって須藤たちのグループに入るには、池や山内との距離が微妙だ。
他にも佐藤とかその他大勢といった感じのDクラスの女子グループもいたが、そこに合流できるようなら最初から櫛田のグループに参加している。
うん、でも何となく佐藤が悪いから佐藤の点数マイナス5点だな。これで佐藤の点数は、20点だ。だいぶあとが無くなってきたことを震えて怯えればいい。
結局、須藤たちとは反対側のサイドに回って、空いていたデッキチェアへと腰を下ろした。
しかし、こうして見ていると櫛田のレベルの高さが分かる。
この学校は元々入学条件に顔も重要視されているんじゃないかって思えるほど、整った顔つきの生徒が男女問わずに多いが、その中でも櫛田は抜けた存在だ。
近くにいても意識してしまう存在だが、こうして離れてみているとより強く感じてしまう。
写真で見るだけなら櫛田並の子は他にもいると思うが、動いている櫛田は別格で、惹きつけるものが違う。愛嬌よく笑みを絶やさない櫛田は、まさに大天使そのもので、周囲の視線を集めるのも納得の存在感という感じである。
この大天使櫛田に匹敵する存在など、他にはいないに違いな──
「──あ、綾小路くん、隣、いい……かな?」
「空いてるから好きにしていいぞ」
「ありがとう。あの……これ」
パーカー姿の佐倉が居た。
飲み物を2つ手にしており、1つをオレへと渡してくる。よく分からない色をしているがジュースか何かだろうか。
「トロピカルドリンク。向こうにあったよ」
受け取ったドリンクを怪訝そうな目で見てしまったオレに、答えを教えてくれた。だが、熱帯ドリンクと言われても、得体の知れなさが上がるだけだ。
「…………」
「お、美味しいよ?」
危ないものではないと示すように、佐倉がストローで吸って飲む。少し厚い唇が、中々にセクシーだ。
続くようにして、オレも飲んでみると甘さと酸味の混ざった味が口いっぱいに広がった。
どうやら熱帯地方で盛んに栽培されているフルーツを使ったドリンクをトロピカルドリンクと言うらしい。トロピカルフルーツドリンクからフルーツを省略した形か。
「なかなかいけるな」
「そうだよね。飲んでみて美味しかったから、絶対綾小路くんにも飲んで欲しいと思ったんだぁ」
お勧めを褒められて嬉しいのか、佐倉が身を乗り出してくる。
どうしても胸元に目が向いてしまうのは不可抗力だろう。
こうして近くで佐倉を見るとやはり可愛い。特に伊達メガネを外すようになってからの美少女っぷりの際立ち方はすさまじいものがある。
そして何より、佐倉といえばおっぱいであり、おっぱいといえば佐倉だ。
櫛田もスタイルが良い方だが、佐倉とは戦闘力がまったく違う。
ジッパーを上までしっかり閉じてパーカーを着込んでいるのにかかわらず、ビキニ姿の櫛田に匹敵するぐらいに煽情的だ。
太ももまで隠れる大きめのパーカーというのがまたポイントが高い。今の時点で外から見えるのはパーカーだけだ。内側が分からないからこそ、どうなっているのかを知りたいという感情を揺さぶられる。
どうでもいいが、このパーカーはラッシュガードの一種なんだろうか。ラッシュガードと言えば身体に密着したような奴って印象があるが、パーカータイプのものもあるらしい。世の中にはまだまだ知らないことが多い。
「水着は着てるのか?」
「人が居なかったら、写真撮ろうかなって思って着てみたんだけど……無理そう」
「厳しいだろうな。残念だ、佐倉の水着姿が見たかったのに」
娯楽施設の充実した豪華客船だが、その中でもプールは看板の王道スポットであり、人が少なそうな時間帯を狙っても、独占するのは難しいに違いない。
「あ、でも、昔、グラビアでこんな写真も撮ったことあるよ。
下ろしてみる?って台詞がつけられてて恥ずかしかった」
パーカーを着たまま前かがみになり、ジッパーを掴んでちょっとしたポーズを取る。
「なかなかいいな」
「あ、綾小路くん、お、下ろしてみる?」
そう言うと佐倉はオレの方へと胸を向けるようにし、掴んでいた手を外して
「……いや、それは」
周囲の視線が集まってきている気がするのは、気のせいではないだろう。
以前の佐倉ならこんなに注目されることはなかったと思うが、伊達メガネを外した佐倉では注目度は段違いだ。
下に水着を着ているとはいえ、さすがに大勢から見られている中で服を脱がせることには戸惑いがある。
「ほ、他の人はダメだけど……その、特別な友達だから、いいよ」
そんな言葉を付けくわえられて、微笑まれたら覚悟を決めるしかないだろう。
いいだろう佐倉。そこまで言うからには、やってやる。
オレはジッパーを──待て、オレの左手。今掴むのは佐倉のジッパーであって、オレのジッパーではない。Tレックスを刺激しようとするな。
「いくぞ、佐倉」
「うん、綾小路くん」
綾小路Tレッ──クスはしないからな。ジッパーを下ろすだけだ。周囲の目を意識して、極力佐倉の身体には触れないように努めながらジッパーへと手を伸ばし──
「──おわっ」
衝撃がオレを襲い、ジッパーに触れただけで手が離れた。ぶつかってきたのは、ビーチボールであり痛みなどはないに等しいが油断していたところを顔面に食らってしまい、大げさな声を出してしまった。
「綾小路くん、大丈夫?」
ボールをぶつけた主から声が掛かった。櫛田がボールをこっちに飛ばしてしまったらしい。
「危なかったが、大丈夫だ」
衝撃は横からだったため、横に弾かれるだけで済んだが、後ろからだったらどうだったか。ちょうど胸元のジッパーを引き下ろそうとしているところであり、場合によっては、佐倉の胸へと手を突っ込むという状態に陥っていた可能性がある。ラッキースケベは、相手と1対1のときに起こるからこそラッキーで済むのであり、第三者に見られている状態で起きてしまっては、どんなマイナスイベントがセットで待っているのか分からないのだ。
近くにあったボールを拾って、プール内にいる櫛田の方へと投げる。
「ありがとう」
櫛田はボールを受け取り、そのまま一緒に遊んでいたグループへと渡した。
「ごめん、ちゃんと謝ってくるね」
グループに告げてそのままこっちへと近づいてきてプールから上がった。身体から水が流れる様子はなかなかいいものだ。
「ごめんね、大丈夫だった?」
「問題ない。なあ?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「やっぱりなんか息ぴったりだよね」
「友達だからな」
「うん、友達だから」
前にも同じやりとりをしたような記憶がある。
「あれ? 同じ飲み物?」
「友達だからな」
「うん、友達だから」
「今、脱がそうとしてなかった?」
「……友達だからな」
「……う、うん。友達だから」
つーかお前も見てたのかよ。
見られていたとなると、ボールがぶつかったのは偶然ではなく故意の可能性が高いな。
まあ、集団の前で脱がせてどうするって感じだし、助けられたってことにしておいてもいいだろう。
「言葉に詰まってるし」
「いや、ほら、友達だからな」
「それはもう分かったからいいよ。綾小路くん達は遊ばないの?」
「とりあえず見学かな。今から着替えるのもメンドクサイし」
というか遊ぶ相手がいないというのが、切実な理由だ。
男女一緒に遊ぶ集団があったり、それこそ平田が居たりしたら参加するんだが、今の状態ではどのグループにも参加しにくい。
「佐倉さんは? 私、一緒に遊びたいな」
「ええ? その……ちょっと、恥ずかしいかも」
「せっかくだし、遊んできたらどうだ? 水着姿が見たいし」
「うう……」
「うわー、普通に見たいとか言ってるし」
「櫛田の水着も見れて満足してるから安心しとけ」
「……はいはい、ありがと」
そろそろ周囲の視線が痛い。娯楽施設でクラスの二大美少女を左右に従えて会話とか、どこの勇者だ。プールサイドを挟んだ反対側からガミガミ聞こえてくるが、聞かなかったことにしたい。
「綾小路くんには残念だけど、このプールは浅いからそのままで大丈夫だよ。太ももより下ぐらいしかないから」
「……そ、それなら」
「やったぁ。よろしくね、佐倉さん」
佐倉がクラスメイトとの交流を深めようというのは良いことだろう。
水着姿が見れないのは残念だけどな。
「じゃあ、佐倉さん借りるね」
「頼む」
「その、行ってきます」
こうして櫛田に引っ張られて佐倉はプールへと入っていった。
「あれ……どっちがオレのだっけ?」
この場に残されたのはオレとテーブルの上の2つのトロピカルドリンク。どちらも同じぐらいの残り具合で、同じ容器に同じストローでは判断のしようがない。
まあ、どちらもいいか。今更、間接キスを気にする相手でもないしな。
オレは、適当に選んだ側のストローに口をつけて喉を潤しながら、デッキチェアへと改めて腰掛けるのだった。