綾小路Tレックス   作:チームメイト

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無人島編その2 Aクラスのリーダー格

 やることがないので、ビーチボールで遊ぶ櫛田たちを見ていた。

 

 しかし、こうやって見ていると櫛田のすごさが分かる。

 

 佐倉からしたら櫛田とはそれなりに親しい相手だが、他の2人はそれほど親しくないはずだ。人見知りの激しい佐倉なら、いつ逃げ出してもおかしくない状況だが、櫛田がうまく間に入って4人で楽しそうに遊んでいる。

 最初は恥ずかしそうに戸惑っていたのに、今ではところどころ笑顔がこぼれるようになっていた。

 

「巣立ちを見守る親の気持ちは、こんな感じかもな」

 

 佐倉に友達が増えるのは嬉しいが、少しだけ寂しい何とも言えない気分だ。

 

 背もたれに寝そべるように大きく伸びをして、ドリンクに手を伸ばすと既に空になっていた。

 2つ並んでいたドリンクが両方空になっているのは、喉が渇いたから隣の分も貰っただけで、寂しさを紛らわせるために行ったわけではない。

 熱中症とかなったら大変だし、仕方なくという奴だな、仕方なく。

 

「おお、ついに勇者が……」

 

 ただでさえ目立っていたグループに、佐倉という美少女が参加したらどうなるか。

 この場は、櫛田たちのグループが支配する場になっていた。

 

 これだけ注目が集まれば、ひっきりなしに声が掛かりそうだったが、逆に注目が集まり過ぎて互いに牽制しあって、話かけられなくなっていた。

 その状況にストップをかけるべく、近づいていく男がついに現れたのだ。

 

「櫛田ちゃん、ちょっといいかな」

「なあに? 池くん」

「話があるんだけど」

「……分かった。ごめん、ちょっと行ってくるね」

 

 実際に聞こえたのは話している内容の半分ぐらいだが、こんな感じで間違いないだろう。

 

 さすがはコミュニケーション能力に長けた池だ。声を掛けるタイミングは完ぺきだったようで、うまく櫛田を引き抜くことに成功していた。

 周囲の男からやっかみ含んだ視線が向けられているはずだが、池からは気にしたそぶりは感じられない。恐らくだが、櫛田を意識しすぎてそれ以外は何も、視界に入っていないのだろう。

 

 まあ、池に櫛田がどうこうできるとは欠片も思わないので、池と櫛田のことはどうでもいい。

 櫛田が抜けた後の3人の方が問題だ。

 

 何となくビーチボールで遊ぶのは続いているが、さっきまでのキャッキャッウフフ感は消えて、義務感が漂っているあたり致命傷に近い。

 友達の友達は友達ではない。残酷だがこれが現実という奴である。

 笑顔が引きつりつつあるのは、見ていて堪えないな。

 

 これは、助けに入るべきか。いや、だが、佐倉の成長を見守った方が良いのでは。

 

「清隆は遊ばないのか?」

 

 どうするべきか考えていたところで、声が掛かった。

 

「今から着替えるのも面倒だからなって山内もいるのか?」

「いたら悪いのかよ」

「いや、悪くないんだが……てっきり避けられているもんだと思っていたからな」

 

 須藤と山内の2人だった。当然ながら池はいない。

 櫛田と一緒に離れた場所へと行った池がこの場に居たら、どこのジェ□ニモだとツッコまなければならなくなる。分身の術は、池には使えないはずだ。

 

「俺は別に綾小路に思うところは……そこまでねえよ。池に付き合っているだけだ」

「そうなのか?」

 

 それは意外な事実が発覚だ。まあ、池とオレとの友情なら池を選ぶって時点で、嫌われていなかったとしても、どの程度の好感度を得ているのかは察するべきか。

 そこまでってことは、ちょっとは思うところがあるっていうことだしな。

 

 一之瀬という美少女と付き合い、佐倉というおっぱいを引き連れ、櫛田というクラスのアイドルから弁当を作ってもらい、堀北という超人の脇腹をつつく男。

 

 うん、表から見える分だけでも色々思われて当たり前かもしれない。

 仕方ないじゃないか。オレはただ自分に素直に生きているだけだ。

 

「つーわけだから、別に嫌ってないってことは知っててくれ」

「分かった。池がいないところでは話しかけても良いってことだな?」

「そういうことだ」

 

 それはそれで面倒な関係でしかないんだが、本人の希望なら受け入れるしかないか。

 わざわざ山内に用事がある時があるのかは分からないが、覚えておこう。

 

「それにしても、佐倉は化けたな」

「化けたは失礼だろ」

「いや、誰だってそう思うって、なあ、健?」

「だな。ただ、堀北には遠く及ばないけどな」

 

 須藤はすっかり堀北ラブか。

 Cクラスとの騒動でメインで助けたのはオレのはずだが、オレに惚れられてもアッー!なだけで困り果てるので、協力して動いた堀北に矛先が向かってくれることは、歓迎しかない。

 

 堀北は確かに美人だ。だが、冷たい印象がある分だけ佐倉の方が上だと思うが、恋は盲目なら何を言っても無駄か。

 これがオレの発言だったら、山内は茶々を入れてくるんだろうが、須藤相手に茶々を入れるような猛者はいない。須藤は須藤、多少大人しくなったとはいえ、クラスメイトならじゃれあいの範囲内で容赦なく制裁を加えてくるに違いない。

 

「池はどうしたんだ?」

「櫛田に告るって息巻いてたけど無理だろうな」

「あいつにそんな度胸ねえって」

 

 酷い言われようだが、激しく同意する。

 

「せいぜい下の名前で呼び合おうとかだな」

「そうそう、あいつならそんなもんだ」

「櫛田の下の名前ね。それって大事なことか?」

「清隆は、分かってねえな」

「悪かったな……」

 

 櫛田は櫛田でそれ以上でもそれ以下でも無いと思うんだが、今度機会があったら桔梗って呼んでみるべきだろうか。

 

「なあ、堀北の下の名前ってなんていうんだ?」

「本人に聞けよ」

「聞いたら教えてくれると思うか?」

 

 頭の中でシミュレ──

 

「……無理だな」

 

 シミュレーションする前に、どこからか『却下』の声が聞こえるぐらいの勢いで無理そうだった。

 

「本人に聞けよってことは、やっぱ綾小路は知っているのかよ」

 

 無駄な時に限って鋭い山内とか、本当に要らない存在だ。うん、山内は友達じゃないな、やっぱり。

 

「やっぱりかよ、おい、清隆、教えてくれよ」

 

 俄然、須藤が勢いづく。

 まあ、別に下の名前を教えることぐらい問題ないか。

 

「オレから聞いたとか言うなよ、卑弥呼(ひみこ)だ」

「堀北卑弥呼か。堀北にぴったりの名前だぜ」

 

 邪馬台国の支配者様の名前だからな。唯我独尊で傲慢を行く堀北には、似合っているのかもしれない。

 

「卑弥呼、卑弥呼、卑弥呼うおーーー絶対に卑弥呼って呼んでやるぜ」

「なあ、健。騙されてないか?」

 

 山内、せっかく須藤が面白くなりそうだったのに、水を差すんじゃない。

 須藤を怒らせると面倒ごとが増えるんだぞ。

 

「すまん。そういや、卑弥呼じゃなくて鈴音だった気がする。何度も聞いたわけじゃないから間違えた」

「おい、頼むぞ清隆」

 

 よかった。どうやら殴られずに済んだようだ。

 

 まあ、本人から聞いたのは1度だけだが、鬼畜眼鏡先輩からは何度も聞いた名前だから間違いない。

 

「堀北鈴音、堀北鈴音。卑弥呼よりも100倍あってるぜ」

 

 たぶん、適当な名前でも同じことを口にしていたであろう。大げさにならないように注意しつつ軽く息を吐いた。須藤のことは嫌いではないが、恋する須藤はメンドクサイ。

 

「きゃっ──」

 

 佐倉の悲鳴が耳に入り、そちらを見ると思いっきり水面に飛び込んでいた。

 どうやら遊んでいてこけたようだ。

 すぐに水面から顔を出しており、たいしたダメージは無さそうだが、

 

「…………」

「……おい、健見てみろよ」

「ああ、すげえなぁ」

 

 これはいろいろと拙い。

 

 身につけていた白のパーカーは濡れており、内側から黒のビキニが完全に透けて見えている。水を吸って体のラインをそのまま出すように密着しており、普通に水着姿を見せるよりも妙に卑猥さが増していた。

 実際に、野郎連中の視線が一際強まっており、須藤や山内のように囃し立てるような言葉がそこかしこから飛んでいた。

 

 視線に気づいた佐倉が、顔を真っ赤にして身体を抱きしめるようにして縮こまった。

 

 助けないとやばいか。

 

 服を着たままプールに入るというのは、マナー的に問題あるかもしれないが緊急事態だ、見逃してもらおう。

 靴を靴下ごと脱ぎ捨ててシャツのボタンを外しながら、プールの中へと入る。

 

「佐倉、とりあえずこれを羽織っとけ」

 

 佐倉の元へと辿りつけば、脱いだばかりのシャツを佐倉の肩に押し付けた。

 

「あ、ありがとう」

 

 とりあえず上半身は隠れたが、下は完全に隠しきれていない。シャツの生地はそれほど厚いものではないが、パーカーから水分を吸って透けるということが無かっただけでも御の字か。

 

「いや、礼は良いから、着替えてこい。そのままは色々とまずい」

「でも……」

 

 佐倉は、遊んでいた2人へと目を向けた。

 

「遊んでいるところ悪いが、佐倉を抜けさせてもいいか?」

「いいよ。ね?」

「うん、大丈夫だよ。早く着替えた方が良いよ、佐倉さん」

 

 佐倉と遊ぶ上で櫛田が問題ないと判断した友達だけあって、話は早かった。

 

「ご、ごめんなさい」

「いいって、また遊ぼうね」

「う、うん」

 

 佐倉は小走り気味にその場を去っていった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 しまった。去るタイミングを逃した気がしてならない。

 

 去っていた佐倉に代わって今度はオレが注目されている。これはかなり恥ずかしい状況だ。

 そして、何も言わない櫛田の友人2人がかなり気まずい。せめて、何か言ってくれよ。

 

 

 それから少し経って救世主の櫛田が戻ってきて、入れ替わる形で立ち去ることに成功した。

 櫛田は、やはり天使に違いない。

 

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 

「で、どうするか」

 

 膝丈のズボンにアロハシャツにサンダルというバカンスっぽい服装に着替えた。

 

 船の中でも制服で過ごしている生徒は8割ぐらいで、バカンス堪能派は少数派だが、ラフな格好をしている生徒もいないわけではないので、そこまで目立つわけでもない。

 

「綾小路くんは、何か予定あるの?」

「一之瀬と昼食の予定がな。それまで1時間ちょいってところだ」

 

 貸していたシャツを受け取る都合で、制服に着替えた佐倉と合流した。

 佐倉みたいな美少女と一緒にいるのは圧倒的に少数派で目立ってしまうが、それはもう諦めるしかないだろう。

 

 濡れたオレの制服は、クリーニングに提出済みで、明日の朝には受け取れるようだ。

 

 当然ながら無料である。

 普段は洗濯だけで済ませていることもあり、どうせなら持ち込んでいる衣服は全部期間中にクリーニングに1度は出すことにしよう。せっかくの施設は利用しないと損だからな。

 

「じゃ、じゃあ、1時間ぐらいなら暇でいいのかな?」

「そうなるな」

「船の施設回りたいんだけど、その、付き合ってもらってもいい……かな?」

「もちろん大丈夫だが……アクティブだな」

 

 むしろこっちが時間つぶしに付き合わせるようで、申し訳ないぐらいだ。

 

「その……堀北さんがずっと部屋で本読んでるから」

「堀北と同室なのか?」

「うん。邪魔しちゃ悪いかなって思って」

 

 豪華バカンスと言っても、1人1室用意されているわけではない。3~4人で1部屋与えられている。

 

 堀北は堀北で相変わらずマイペースのようだ。せっかくのバカンスまで来て部屋に籠って読書とは、堀北らしいといえばらしい。だが、ずっと部屋に居座れたら同室になった人が、落ち着かないかもしれない。

 

「大変そうだな」

「嫌いとかじゃないんだけど……どうしていいのか分からなくて」

「たぶん、ほっとけば問題ないと思うぞ」

 

 むしろ話しかけられる方が、めんどくさがるタイプだろう。

 

「同じ部屋でそれでいいのかなって」

「佐倉も積極的に話しかけられたら困るだろ?」

「う、うん」

「最低限の会話ぐらいしとけば、いいんじゃないか」

「何かあったら相談していい?」

「いつでも連絡しろ」

 

 オレに堀北がどうにかできるかどうかは別問題だが、ここで「頼られても困る」と返すのはダメだろう。

 

「ありがとう」

「それじゃあ、適当にまわるか?」

「うん」

 

 というわけで、施設を回ることになったわけだが、あまり時間が無いというのにしっかりと最下層まで足を運んだ。

 

 おや、誰も居ないな。

 

 誰も居ないのなら仕方あるまい。

 

「佐倉」

「綾小路くん」

 

「「アロハ小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 手に入れた権利はとりあえず使わないとっていう駆け足気味の話。アローハー。 

 

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 

 佐倉と別れて自分の部屋に戻り、シャワーをさっと浴びて待ち合わせ場所へと向かう。

 かなりギリギリになってしまい、一之瀬が先に来ていた。

 

「悪い、待たせたか?」

「ううん、こっちの都合に合わせて貰っているし。綾小路くんは午前中は何してたの?」

 

 佐倉とTレックスしてました、とは言えるわけがない。

 

「担任と演劇鑑賞が主だな」

「シアターがあるんだっけ?」

「本格的で学生向けかって言われたら微妙だが、なかなか楽しめた」

「そっかー。機会があれば見に行ってみようかな」

「時間取られるし、他にやることあるなら優先順位は低くて良いと思うぞ」

 

 少なくともオレにとっては楽しめたものの、見に行かなくてもいいものだった。

 バカンスに飽きたときに時間つぶしも兼ねて見るのなら文句なしだが、わざわざ時間を作って見に行くかって聞かれたら答えはNOだろう。

 

「で、何を食べるんだ?」

「せっかくだからレストラン?」

「それはアロハシャツで大丈夫な奴か?」

「夜は分からないけどランチなら大丈夫じゃないかな」

 

 食事は、ファーストフードなど気軽に利用できるものから色々と用意されているが、レストランはその中で敷居が高い店だ。他には、すし店やステーキハウス等も、入るには少し抵抗がある。

 

「いらっしゃいませ。2名様ですか?」

「はい」

 

 店員に止められることなく席まで案内されたので問題はないはずだが、アロハシャツの生徒はオレだけで他はしっかり制服を着ている。

 パッと見た感じでDクラスの生徒はいないようだ。敷居の高さを感じているのはオレだけでは無いのだろう。

 

「……やはり浮いてないか?」

「あはは、ちょっと浮いてるかも」

 

 まあ、一之瀬が楽しそうならそれで良しとしよう。

 周りからの視線が痛いのは、いい加減慣れてきたしな。

 

 メニューから気になったものを選んで適当に注文する。

 

「こういう店に慣れてる?」

「まったくだ」

「その割には、堂々としてるよね」

「変に気後れする方が目立ちそうだからな」

 

 実際に、店を利用する生徒は堂々としている生徒が多い。一之瀬のリアクションから察するにAクラスの生徒が多いようだ。正直、全然顔を知らない連中だ。

 

「…………」

 

 周囲を見渡しているうちに、1人の生徒と目が合ったが舌打ちを返された。

 

 どういう意味だろうか。

 

「一之瀬、あのテーブルの生徒は知っているか?」

 

 声を潜めて一之瀬に尋ねかける。Bクラスの生徒なら一之瀬が知っているはずだ。

 

「Aクラスの葛城くん達だよ」

 

 Bクラスでは無かった。が、一之瀬の知る人物だったらしい。

 

「もしかして全生徒把握しているのか?」

「さすがに全員は知らないかな。葛城くんは、Aクラスのリーダー格だから知っていただけでAクラスは半分ぐらいかな。たぶん、櫛田さんの方がよく知っていると思う」

 

 恐るべし櫛田ネットワーク。

 

「リーダー格? リーダーではないのか?」

「リーダーだけど、明確なリーダーじゃないというか。Aクラスはリーダーが2人いるから」

 

 ダブルリーダー体制か。いがみあっているのか、協力で分散しているだけなのか。

 

「もう1人の坂柳さんは、体調不良で不参加って聞いたから今回のバカンス中は葛城くんがリーダーで間違いないと思う」

 

 坂柳さんってことは女子生徒か。

 一之瀬が同級生男子を〇〇さんって呼ぶほどのカリスマ性を持つ生徒という可能性もあるが、ちょっと想像がつかないな。

 

 坂柳さん、焼きそばパン買ってきましたよ、とか彼女が口にしていたらショック過ぎる。

 

「Aクラスも色々あるんだな」

「そうだねーって言いたいところだけど、Dクラスの方が色々だよね。1年の中で1番よく分からないクラスだよ」

「……まとまりがないからな」

 

 能力の高さで言えば、堀北と高円寺が別格だがどちらも性格とコミュニケーション能力に難があり、リーダーとしてクラスをまとめることはない。

 仮に、あるとすれば堀北の独裁だが、キャラクター的に向いていないだろう。

 

 平田がまとめ役として動くことが多いが、調整役に近くクラスを引っ張っているとは言い難い。池たちの支持もないしな。

 女子の方は軽井沢の発言力が高いが、その場を制する力だけって感じだ。

 

 あれ? Dクラスって酷くね? 担任と話したときはCクラス入りぐらい余裕だぜ、とか思っていたが、簡単ではないかもしれない。

 

「……前途多難だ」

「綾小路くんがしみじみしてるし……料理来たし、食べて元気出そう」

 

 励まされてしまった。

 

 まあ、考えても仕方ない。一之瀬との時間を楽しもう。

 

「…………」

 

 フォークとナイフは外からだよな? 知識として覚えていても、経験が無いため自信がない。

 

 一之瀬の初手を待つというのも有りだが、それは情けないか。少し離れた位置にいるAクラスのリーダーを参考にして、テーブルマナーを実践するのだった。

 

 

 

 

「さっきから何こっち見ているんだ。お前はDクラスだな」

 

 先ほど、舌打ちをしていた男子生徒に絡まれた。

 

 違う、見ていたのはお前ではなく、お前の奥にいる葛城さんだ。たまたま同じメニューだったこともあり、とても参考になるテーブルマナーだった。

 

 オレが口を開くよりも先に、反論しようとした一之瀬を手で制する。

 ここで一之瀬が反論しても、より状況は悪化するだけだろう。

 

「正解だ」

「ふん、ここはDクラスみたいなカスが来る店じゃない。さっさと立ち去れよ」

 

 おお、これがエリート思考っていう奴だろうか。

 

 って感心している場合じゃないな。どう対処するべきか。1人ならスルーして立ち去ることもできるが、一之瀬の手前それもするわけにはいかない。

 

 オレには何となくわかる。こいつはAクラスでエリートかもしれないが、きっと下半身はエリートとは程遠いに違いない。ここは本物のエリートとはどんなものかを見せびらか──したらそれこそ強制退場だな。

 

「弥彦。くだらない挑発はやめたまえ」

「葛城さん」

「…………」

 

 低音の重みのある声だった。

 これがAクラスのリーダー格か。たった一言で黙らせた。

 

「Aクラスとしての自覚を持て、バカンスとはいえどこで減点されるか分からないぞ」

「はい、すみません」

 

 

 オレを助けたのではなく、Aクラスの評価のためか。なるほど、これが葛城という男か。

 リーダー格がどういう男かを少しは知れただけでも 絡まれたのは損では無かった。

 

 1人納得していると、一之瀬が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

「悪いな。変な空気にしてしまった」

「……ううん、こっちこそごめんね、レストランじゃない方が良かったよね?」

「いや、オレ1人じゃ入ることなかっただろうし、いい経験になった。ありがとう」

「あれ? もしかしてそこまで気にしてない?」

「いや、デザートを食べて、食後のコーヒーを飲んだらさっさと立ち去ろうかっていうぐらいには気にしてるぞ」

 

 メインは既に食べ終わっており、あとはデザート待ちだ。

 甘いものを食べて、コーヒーを飲んでスッキリしたら、さっさと立ち去らないと気まずさが爆発してしまう。

 

「うわー、綾小路くんって変に図太いよね」 

「いや、注文済みだし食べ物は粗末にするなって教わっているからな」

「デザートとかなら使い回──」

「──ストップそれ以上言ってはいけない」

 

 飲食店の闇に触れるのは、やめておこうか。

 

 

 結局、葛城たちよりも後に店を出るという偉業(?)を達成したのだった。 

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