綾小路Tレックス   作:チームメイト

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無人島編その4 無人島上陸

「こっちが断らないからって、桔梗ちゃんとかマジで気持ち悪い。もう最悪、死ねばいいのに。あんな奴に呼ばれるのなんか、嫌なのに」

 

 久々のブラック櫛田さんが全開だった。どうやら昨日のプールでの池と櫛田のやり取りは、須藤たちの予想通りの展開だったらしい。遠目で見る限りは、本性を知るオレでさえ、思わず見とれてしまう天使の笑顔で受け入れていたように見えたが、実際は違ったらしい。堕天使桔梗さんである。

 

「桔梗ちゃん」

 

 試しに呼んでみる。

 

「なあに? 清隆くん」

 

 おわった……なにもかも……

 矢吹ジョーを相手にした力石ばりの的確なカウンターだった。オレはノックダウン寸前だ。

 

「……櫛田。頼むから辞めてくれ」

「綾小路くんが余計なこというからだよ。私の悪口(ぐち)聞いてくれるだけでいいのに」

 

 女の言う愚痴って、もはや愚痴じゃないよな。死ねとか女子同士の会話では、普通に使われるものなんだろうか。

 

「それでいいのならこれはいったい?」

「私、口止め料はちゃんと払うタイプだから」

「そんなには求めていな──」

「え? 嬉しいって。じゃあ、私もっと頑張っちゃおうかな」

 

 強制イベントに拒否権はないらしい。まぁ、気持ちいいし何も問題はない。

 あれだけ待ち望んでいたものがこれかよって思うのは、贅沢が過ぎるというものか。

 

「櫛田」

「綾小路くん」

 

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 

 

 少しだけ、池に優しくなれた気がする。

 池が櫛田への好意を抱いて接近しようとすればするほど、櫛田はオレのところに来てストレスを発散し、オレは池を不憫に思い優しくなれる。

 なんだこのスパイラル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──第二十三話 無人島編その4 無人島上陸 ──

 

 

 

 

 

 

()()()()()()か」

 

 早朝から櫛田と一発Tレックスを決めてから、シャワーを浴びて身支度を整えなおしたところでアナウンスが入った。

 

 アナウンスで集められた大勢の生徒に混ざって、デッキへと出る。

 

「…………」

 

 遠くに島らしきものが見えていた。

 

「おはよう、綾小路くん」

「ああ、おはよう」

 

 見やすい位置を求めて前へと出たら、たまたま櫛田の隣だった。

 実際には挨拶どころか、今日は既に色々と済ませていたわけだが、今日初めて会ったふりをするのが吉だろう。

 

「うわー、感動するな。綾小路くんもそう思わない?」

 

 尋ねながらオレへと微笑みかけてくる。

 

 昨日の櫛田からは想像できないし、今朝のブラック櫛田さんとも違う、クラスメイトのいつもの櫛田っていう感じだ。どうやら櫛田は、完全に折り合いをつけることに成功しているようだ。

 

「素直に感動したいところだけどな……」

「何かあるの?」

「どうだろうな。オレの考えすぎって可能性もある」

 

 徐々に島へと近づいてき、その緑豊かな美しい島の全容が明らかになっていく。その様子は、確かに感動的ではあった。だが、桟橋をスルーしてゆっくりと島の周りを回り始めたのは、どうなんだろう。

 

 さっと周囲の生徒を見回してみるが、気にしている生徒は一部って感じか。

 

 堀北はどうしているか軽く探したものの、どうやら気にしているかどうか以前に、この場に居ないようだ。

 

「…………」

 

 堀北への期待は、裏切られる運命にあるのか。

 堀北がいれば堀北に任せるという手もあるが、居ない以上は仕方ない。

 アナウンスにあった有意義な景色というのが、今目の前に広がるこの島の風景だとしたら、素直に感動している暇なんか無さそうだ。

 

「……私は、邪魔しない方が良いかな?」

 

 黙って風景を見ていたら気遣うように、櫛田から声がかかった。

 

「あ、悪い。こっちの反応が鈍くなるかもだが、できれば櫛田は普通にしていてくれた方が助かる」

「分かった」

 

 周囲の生徒が騒いでいる中で、黙って島を観察していたら目立ってしまう。自クラスだけなら問題ないが、他クラスの生徒がいる前では、それは避けた方が良いだろう。

 適当に櫛田の話に相槌を打つぐらいでも、しないよりはマシだ。

 

 櫛田からしたらかなり失礼な態度だったと思うが、櫛田は客船が島を1周してゴールにたどり着くまでの間、ずっと話しかけ続けてくれた。

 こういう時の櫛田の存在は、本当にありがたい。

 

 

 船はゆっくりと桟橋へと止まる。

 

『島に到着しました。次の指示があるまで、部屋へと戻り運動着に着替えてお待ちください』

 

 次の行動を指示するアナウンスが流れた。

 

「それじゃあ、またあとでね」

「ああ」

 

 頭の中で、今見た景色を振り返りながら櫛田と別れて部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、どうしたものか。

 

 

 上陸して早々始まったのは、特別試験だった。

 炎天下の無人島サバイバルらしい。

 

 無人島へ上陸して1週間過ごすというのが、簡単なルールだ。

 

 もちろん完全に手ぶらでの自給自足が求められるほど過酷なものではなく、学校側はサバイバルを乗り切るためのアイテムを用意している。

 

 各クラスへ配布されたアイテムは、こんな感じだ。

 ・8人用テント×2……なお、クラスは40名いる。

 ・マッチ……芸能人ではない、火をつけるあれだ。

 ・懐中電灯×2

 ・歯ブラシ等のアメニティーグッズ×人数分

 ・日焼け止め

 ・簡易トイレ……ポリマーシートに汚物を吸収させて固めるというできれば使いたくないモノ。

 

 他、試験用の特別ポイントが用意されており、そのポイントと交換に食料や飲み物からバカンスセットまで、クラスが必要だと思う足りないアイテムを手に入れることができる。これをどう使うかで、サバイバルの難易度が変化しそうだ。

 

 これだけなら何とでもなりそうな試験だが、もちろんそう簡単な話ではない。

 

 試験を困難にする、厄介なルールの存在だ。

 特別ポイントに関する重要なルール、そのポイントを使い切らなければ、その残額はサバイバル終了後に、そのままクラスポイントに反映されるというものだ。

 

 各クラスに与えられた特別ポイントは、300ポイント。

 今のDクラスのクラスポイントは、174ポイントであり、一切ポイントを使わずに乗り越えることができれば、今までのクラスポイントの倍近いポイントを手に入れることができる。

 

「まあ、そう上手くいくものでもないんだろうが……」

 

 ポイントを大量ゲットするチャンスに、男子を中心に盛り上がりを見せているが、一緒になって盛り上がることはできない。

 そんなに簡単な試験ではないだろう。

 

「腕時計は好きじゃないが、これも我慢か」

 

 安全配慮と取るか監視と取るかは、判断が分かれそうなところだが、強制的に腕時計を装着させられ、試験中は外すことが禁止された。いざという時のSOSの装置になっており、恐らく位置情報などが教師に筒抜けの品物だ。トイレなどもつけたまましないといけないルール上、音声は抜かれていないと思いたい。

 

 夏場で嫌でも汗をかくなかで、腕時計の義務とは一種の拷問ではないだろうか。

 許可なく外したらペナルティーとかマジで勘弁して欲しい。

 

 ただでさえ暑いのに、上陸地点は海岸で直射日光が猛威を振るっており、下が砂地ということもあって不快感がこの上無かった。

 じっとしているだけでも、無意識に汗が湧き出る有様だ。

 

 正直、さっさと日陰に行きたいんだが、Dクラスは集合したまま動かない。

 

 

「…………」

 

 各クラスに一冊、試験の詳細が記載されたマニュアルが配布されたせいだ。

 平田を中心に輪を作り、マニュアルを手にした平田がルールを読み上げ、それに対して言い合いが起きると言った有様だった。

 

 状況を確認するのは大事なことだが、この場でやるべきことだろうか。

 

 試験ポイントの残額がクラスポイントに移行する。このルールがある以上、どう我慢するのかがポイントになる試験になるが、意味もなく苦しい状況にいる理由にはならない。

 

 実際に、さっさとAクラスとBクラスは見切りをつけて、海岸から森の中へと去っていった。

 

 トイレを簡易トイレで過ごすのかどうかとか後でいいから、この場からの移動をさっさと決めて欲しいものだ。

 というか、トイレの設置は必須だろう。男子だけならまだしも女子生徒を含めた40人を1個の簡易トイレで回すとか厳しいだろう。

 

「リーダーが不在だな」

 

 こういう時に、統率力を発揮して引っ張れる存在がDクラスには居ない。

 今は、平田が中心となってまとまっているようにみえるが、中心にいるだけで決定権には乏しい。意見をまとめたり誘導することはできても、他の人を黙らせることはできないのだ。

 

「…………」

 

 となると、期待したいのは堀北になるわけだが、堀北は能力が高くても人望が無かった。

 

「思ったより難解な試験になりそうね」

「Dクラスには、難しい試験だろうな」

 

 こちらの視線に気づいたのか、堀北が近づいてきた。少し戸惑っているように見えるのは気のせいだろうか。

 まあ、いきなり無人島でサバイバルをしろって言われたら、戸惑うのが当たり前か。

 

「特別試験のテーマは、自由」

「今のDクラスでは、先が思いやられるテーマだわ」

 

 ある程度自制が効く生徒が集まるクラスなら、問題とならないテーマだろう。ポイントをどう使うのかが有効かを見極め、計画的に使って、残すべきところは残す。

 AクラスやBクラスの生徒なら、きっと当たり前にこなせる課題だ。

 

 だが、Dクラスは違う。

 自制ができていたならば、4月に与えられた高校生には過大なプライベートポイントを1月で使い切る生徒が続出していない。

 

「4月からの成長が問われる、か」

「そうかもしれないわね」

 

 その後、ポイントが不足して強制的に節制生活を強いられたわけだが、そこで自制を身につけることができたのかどうか。

 Dクラスを狙い撃ちにした試験だとは思いたくないが、Dクラスの成長が問われる課題なのは、間違いなさそうだった。

 

「……嫌らしいな」

「嫌らしい?」

「昨日から今日にかけての豪華客船。あれは学校側が用意した罠に近い。昨日から上陸までの間に生徒によっては、数万ポイント分の恩恵を無料で受けている」

「……たがが外れたわけね」

 

 Dクラスがそうであったように、プライベートポイントを保持せず、質素な生活ををしたままこの試験に突入したらどうだったか。

 節制が効いた状態で挑めば、今回の試験でも我慢することが苦にならなかったかもしれない。

 

 実際には、豪華客船で豪遊させてからの節制生活で、豪華客船上と今この場で置かれている状況とのギャップが酷い。

 特別ポイントさえ使えば、そのギャップを減らすことができるわけで、その中で我慢を求められるというのは、間に豪遊を挟まなかったときよりも辛い状況だ。

 あのバカンスは無料だが、バカンスを楽しめば楽しんだ分だけ、ギャップに苦しむ。この試験を用意した奴は、性格が悪い。

 

 自制が効くのなら、豪遊して発散したことをプラスに捉え、意識を切り替えられるのだろうが、Dクラスはどうなるだろう。

 

 とりあえず豪華プールで思う存分遊んだり、普段は食べないような高いものを食べに行ったりと、Dクラスの生徒がこれまでの学園生活とはかけ離れた2日間を過ごしたことは間違いない。

 

 ほとんど部屋の中に籠っていた堀北とかごく一部を除いたらな。

 

 堀北は、自制したわけではなく、友達が居ないだ──睨まれた。おかしい、何も口にしていないはずだが。

 

「でもチャンスでもあると思うわ」

「チャンス?」

「貴方の言うとおり難しい試験だわ。それでもAクラスとの勝負なら学力試験よりはマシじゃないかしら?」

「なるほど……」

 

 学力勝負の場合、今のDクラスなら100回挑んでも100回負ける。我慢できるかどうかを抜きにするなら、我慢大会の方がまだチャンスはある、か。

 前向きな意見だ。

 

 まあ、その抜きにする前提のところでも、AクラスとDクラスじゃかなりの差がありそうだけどな。

 

「どちらにしてもこの場で体力を消耗することは、得策ではないわ」

「それには、同意する」

「そう。なら、あとはお願いするわね」

「それには、同意したくない」

 

 同意したくないと言ったのに、言いたいことだけ言って堀北はオレから離れていった。

 堀北は、こんな調子だから人望が無いんだろう。堀北がリーダーなら一言で終わる話なのに。

 

 

「…………まあ、ここに居ても仕方ないからな」

 

 堀北の思惑どおりに動かされるのは癪だが、この場でボケっとしていても何も始まらない。

 Aクラス、Bクラスに続いてCクラスまで動き出したとあっては、これ以上出遅れるのも面倒なことになりそうだった。

 茶柱との契約が無かったら、我慢してDクラスが動き出すのを待つのも良かったが、進んで不利な状態は避けた方が良いか。

 

 離れていく堀北の背中に、視線で呪詛を投げかけながら、平田を中心とした輪の中へと入っていった。

 

「ちょっといいか」

「綾小路くん。なにか提案かな?」

「……ここでこうしている間に、他のクラスは動き出しているぞ。このままじゃまずくないか」

 

 ほら、と森へと消えつつあるCクラスの方を指差す。

 

「あーー、マジじゃん。悠長にトイレの話し合いなんかしてる場合じゃないって」

「おい、やばくないか。俺たちも動いた方が」

「どう動くかを今決めてるところじゃん」

「だったら先にスポット抑えられていいのかよ」

「それは……」

 

 事態に気づいたDクラスの生徒が一気に騒然とし始めた。

 

 なお、スポットというのは、島の各地に設定されていて、先着順でその場所を使う権利が手に入るらしい。詳細はマニュアルを見ていないから何とも言えん。

 

「あーあーあー、すまん話の続きをさせてくれ」

 

 オレのキャラではないが、このままでは話が進まないので、強引に大声を発して騒ぎに収拾をはかる。

 一応、話の途中だったということが功を奏したのか、どうやらオレの話は皆に聞いてもらえるようだ。

 

「ポイントをどう使うのかは、いったん保留して先にベースキャンプを決めないか。というか、ベースキャンプに何があるか次第で、必要なものも変わってくるだろ。雨風を凌げるところがあれば、テントは要らないし、無いとは思うが、探せばトイレもあるかもしれないしな。……平田はどう思う?」

「……うん、確かに先にベースキャンプを決めた方が良いかもしれない」

 

 オレの意見を噛みしめるように、少しだけ間を取って、平田は同意の言葉を返してきた。

 これがオレの考えた技、最後に平田に振ることによって、意見だけを言ってあとのことを任せるという丸投げ作戦だ。

 方向性だけ示しさえすれば、ここからは平田がやってくれるだろう。

 

「とりあえず、ここは島の端だから皆で島の中に少し入ろうか。そこを中心にして探しに行くってのでどうかな?」

「さんせー」

「いいんじゃねえの?」

「そうと決まればさっさと行こうぜ」

 

 スタート地点から移動するだけでこの有様では、この先が思いやられるが、これで何とかDクラスもスタートを切れそう、

 

「悪い、先にトイレ行かせてくれ、さっきから我慢してたんだよ」

「…………」

 

 スタートを切る前に須藤に切れそうだよ。

 いや、本当に、こういう体力が必要そうな試験は、体力馬鹿が活躍するところであって、足を引っ張るところじゃないからな、頼むぞ須藤。

 

 前途多難なDクラスの無人島生活は、こうして須藤のトイレからスタートするのだった。

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