綾小路Tレックス   作:チームメイト

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無人島編その8 偵察

「あなたが自分から行動するなんて珍しいわね」

 

 翌日。朝の点呼や食事などを済ませた後、堀北に声を掛けて他クラスの偵察へと出かけた。

 

「そうか? 自分では頑張っている方だと思うんだが」

「必要ならでしょう」

 

 どちらかといえば、必要が無ければ動かないのは、堀北の方だと思う。

 

「……偵察は必要だろ」

「偵察はいいけれど、私としてはあまり動きたくはないわね」

「引きこもってて他クラスの拠点がわかるんだったらいいけどな」

 

 などともっともらしく言ってみたが、実際は引きこもっていても、そのうち誰かが見つけて報告してくるだろうけど。

 

 島は他クラスとの接触が起きないほど巨大ではない。 

 今朝はベースキャンプ周辺の食料調達だけで済んだが、そのうち遠出する必要も出てくる。そうなれば、他クラスと出くわすことになるのも必然に近い。

 

「それにしてもDクラスの先が思いやられるわね」

「伊吹のことか?」

 

 池が拾ってきた伊吹は、結局Dクラスと行動を共にしている。

 野宿させるわけにはいかず、女子が1つのテントを11人で使っていた。

 

「お人好しと言うか考えなしと言うか、ただでさえ余裕がないのに」

「まあ、人数的なことを考えれば、伊吹はオレ達のテントだったよな?」

「は?」

「え?」

「……は?」

「……え?」

「…………」

「……冗談だ。睨むなよ」

 

 おかしい。睨まれるようなことを言っただろうか。

 

 男子は高円寺が抜けたおかげで19人しかいない。その恩恵を受けてクラスで唯一9人でテントを使わせてもらっていた。単純に考えるのなら、伊吹をオレ達のテントに加えることによって、みんなで平等に10人ずつとなる。平等、これ大事。

 

 朝から男9人の汗臭い中での起床というショッキングな経験をしてしまったため、それを回避したいだけだったりするけどな。

 須藤が実質2人分サイズなせいで、9人の恩恵があまりなかったのが残念だ。暑苦しさでいえば、須藤が居ないテントの方がマシだった説もある。 

 

 川で顔を洗うついでに、出せる範囲で手足や首元は水で流したけど、気持ち悪さはそのまま残っている。

 女子は朝からシャワーの列を作ってその恩恵を受けているが、残念ながら男子は自由に使えないのだ。

 下着がちょうど1週間分の7枚しか無いというのも辛い。

 せめて倍あれば朝と夕で下着を変えてスッキリするぐらいはできたのに。

 最悪、川の水で下着を洗って再利用することも考えなければ。洗剤とか無いが、水でじゃぶじゃぶするだけでもマシだろう。

 

 一応、男子も夜はシャワーが使えることになっている。

 明日は日が昇る前に起床して、1人でシャワーを使わせてもらおう。寝て起きた後でも、日が昇ってなかったら夜でいいよな。

 

「伊吹さんのこと、どう思っているの」

「可愛いんじゃないか」

「……それが真面目な返事なら、聞いた私が愚かだったわ」

「大真面目だ。ショートカットは好きだからな」

「あなたの好き嫌いはどうでもいいのだけれど」

 

 堀北はまったくわかっていない。伊吹は可愛い。可愛い子には、手を出したい手を貸したい。だからクラスで受け入れたい。この流れがあったからこそ、伊吹はDクラスに合流している。

 女子が受け入れたのは、優しさかもしれんが、男子が受け入れたのは、下心満載のやらしさだ。

 

 もし伊吹ではなく他所のクラスのイケメンだったら、池、須藤、山内のジェットストリームアタックで叩き出していたに違いない。

 

 踏み台にされるとしたら、たぶん山内だな。

 

「……100パーセント、スパイだろうな」

「たいした自信ね」

「単純な話だ。昨日の高円寺の話の応用だな。クラスに迷惑を掛けたくないのなら、リタイアするのが最善策だ」

「点呼のポイントね」

「そうだ。殴られて追い出されたって話が本当なら、途中で戻るのも難しいだろうしな」

 

 点呼をサボり続けた方が、リタイアするよりもポイントの消費は大きい。

 つまり、クラスにダメージを与えてやろうという魂胆でもない限りは、さっさとリタイアした方がクラスにとってプラスとなる。

 その選択肢を選ばないのは、何か目的をもっているからだ。

 

 今回のルールでは、持ちポイントの消費を我慢して残すか、リーダーが拠点を抑えるか、他クラスのリーダーを当てるか。クラスポイントを増やす要因はこの3つしかない。

 

 伊吹がDクラスと行動を共にする理由があるとしたら、最後のリーダーを当てることしかない。

 

「そこまで分かっていたのなら、どうして受け入れたのかしら」

「可愛いからな」

「答える気が無いのは、分かったわ」

「クラスが受け入れているんだから、オレ1人が反対してもだろ。今回はただでさえ目立ってしまっている」

 

 無人島に上陸してからは、皆の前で動き過ぎたと反省している。

 ポイントの使い方で男子からは恨みを買っているし、これ以上反発して悪目立ちをするわけにはいかない。妥協できるところは妥協しないと。

 伊吹にリーダーを当てられても、評価が下がるのは三宅であってオレではない。

 伊吹をベースキャンプに連れてきたのは、池だしな。

 優しくしようキャンペーンは終わったことだし、いざというときのために、池がクラスに連れてこなければ、と追及する練習だけはしておこう。

 櫛田に根回ししとけばあとは上手くやってくれるか。櫛田に詰められる池とかちょっと楽しみかもしれない。

 

「足跡的にはこっちか。この先は滝があるみたいだが」

「よく分かるわね」

「注意深く見てるからな」

 

 深い森で木々が生い茂っているが、なんとなくの道っぽいものはある。

 曲がりくねりながらも歩けるように、木が間引きされている。

 高円寺の予想通り、この島は人工的に手が加えられているんだろう。高円寺から話を聞いていたから分かったことだが、せっかく堀北が褒めてくれたことだ。自力で分かったことにしておこう。

 

 折れた大木を目印にした分かれ道らしき場所へと出る。先の道をそれぞれ観察すると、片方だけ大勢が通ったような草地を踏みなおした痕跡が残っていて、より歩きやすくなっていた。高円寺の地図と照らし合わせると、この先を抜けると滝があることが分かる。

 

 やがて歩き進めていくと開けた場所へと出て、そこでは滝を中心としたBクラスのキャンプが広がっていた。

 すぐにBクラスの生徒に見つかり、奥から一之瀬が表れて案内が始まる。

 

 

「森の中には、野菜や果物がいろんな場所にあるし、海に出て魚も釣ったりしながら、不足分をポイントで補ってるんだ」

 

 だいたいのポイントの使い先から、アイテムの使い心地から、テントの床が痛くならない工夫まで、特に隠さずに情報が開示された。

 ポイントの交換先ぐらいは、ベースキャンプを見ていたらある程度把握できるが、それ以外は貴重な情報だ。

 Bクラスは井戸の水を一度煮沸した上で飲み水に使っていて、今のところ問題は出ていないらしい。

 綺麗な水が沸いているのは、学校側が手を入れているからだろう。

 この周辺にもいくつか食料があったはずだが、この調子ならDクラスでの確保は期待できないかもしれない。

 

 Bクラスは、一之瀬の統率力のおかげかまとまりがよく、こうして説明を受けている間にも全員がキビキビと何らかの作業を行っている。一之瀬を説明に借りているのが申し訳なくなりそうなレベルだ。

 

 それにしても、ハンモックを選んだ生徒は、誰なんだ。

 一之瀬が実践して座って見せてくれたが、バランスが落ち着くまで上下に揺れている。

 ジャージのジッパーを首元までみっちり締めている堀北とは違い、胸元まで下ろしたサービス精神あふれる一之瀬がそこに座ればどうなるか。体操服の内側でたゆんたゆんとハンモックに合わせて揺れるわけで。

 いろいろと堪らんな。

 彼氏としては無防備過ぎるのを注意した方が良いんだろうか。いや、それでオレからも目の保養が奪われてしまっては本末転倒だな。一之瀬はいつまでも無防備でいて欲しい。彼氏(オレ)が許す。

 

 ──朝早くではなく、もう少し遅い時間を選べば汗ばんだ一之瀬だったんじゃないだろうか。

 Bクラスの連中、羨ましすぎる。

 

 などとよこしまなことを考えているうちに、一之瀬の案内は終わった。

 

 

「ってところかな。何か質問ある? 何でも聞いていいよ。答えられることなら答えるから」

「なら、Bクラスのリーダーを教えてくれ」

「それは答えられないかな。綾小路くんも聞かれたら困るでしょ?」

「オレは別に教えてもいいんだが、答えたら恋人が嘘をついているのかどうか当てるゲームが始まるな」

 

 いつかはそういう日も来るのかもしれないが、必要性の無いところで、仮とはいえ恋人の一之瀬相手にそういう状況に突入したら地獄だろう。

 伝えるとしたら三宅がリーダーだと正直に言うつもりだが、信じられたら困るし、嘘だと疑われるのも試験のために仕方ないとはいえ、それはそれで地味にショックだ。

 

「あははは、それはちょっと嫌だね」

「クラスのためとはいえ、一之瀬の言葉を疑ってかかるのは、勘弁したいところだな」

「その前に、勝手に教えないでもらえるかしら」

「堀北、まだ居たのか」

「蹴るわよ」

「冗談──痛い」

 

 毎回思うが、堀北の宣言に対する答えは何が正解なんだろうか。どう答えても結局オレにダメージが生じている。

 蹴るわよ、は確認ではなくこれから行う行動の意思表示、宣言でありそれを回避する術がないのが現状だ。いや、蹴るなよ。

 

 そろそろ作業に戻らないと、という一之瀬に、また遊びに来ることを約束してBクラスのキャンプ地を出て行った。

 

 

 

「…………」

「どうした堀北?」

「BクラスにもCクラスからの生徒が居たわね」

「狙ったのか偶然かどっちだろうな」

 

 Bクラスの中に、キノコ頭のメガネ君こと金田が混ざっていた。Dクラスに来た伊吹と同じようにCクラスを追い出された生徒らしい。

 もしこれが逆だったら、Dクラスは金田を受け入れなかっただろうな。なんか陰湿っぽいし、男だし、イケメンじゃないしで受け入れる要素が無い。

 そこまで狙った上で伊吹がDクラスへと振り分けられたのだとしたら、Cクラスの情報収集の能力は侮りがたい。

 

 イケメンじゃなければ女子が断るし、イケメンなら男子が断るから、イケメンかそうであるかは関係なかったか。

 

「スパイだと教えなくて良かったの?」

「一之瀬はそのあたりまで考えた上で、受け入れているんじゃないか。Cクラスから来た生徒をDクラスも受け入れていることを教えただけで十分だろう」

「ドライなのね」

「スパイだろ……蹴るなよ」

 

 色々と一之瀬から情報を提供してもらっておいてアレだが、それは一之瀬の好意であって、BクラスとDクラスは協力関係にあるわけではない。スパイがどう影響するのかが未知数なだけに、口を出しにくい問題だ。

 堀北もスパイだと承知の上で教えておらず、オレと同罪のはずだが、オレだけ堀北から責められるんだから理不尽にもほどがある。

 

 気を取り直して偵察の続きだ。

 Bクラスから教えてもらった情報を元に、他クラスの様子を見に行った。

 

 Aクラスのキャンプ地である洞窟は、内部が隠されており、外に設置されたトイレやシャワーにポイントを使ったこと程度しか分からなかった。

 わざわざ見張りを立たせているあたり、よほどやましいことがあるに違いない。実は洞窟内部では、あんなことやこんなことが行われている可能性もあるわけだ。

 バカンスでポイントを使うのはもったいないからこそ、身一つでできる楽しい運動を──無いな。

 ここまで鉄壁だとAクラスの情報を集めるのは難しそうだ。

 

 Aクラスの偵察はそこそこで切り上げて、もう1つのCクラスのキャンプへと向かった。

 

 

「……Cクラスの子になりたい」

「…………何かいったかしら?」

「何でもありません」

 

 そこでは天国が広がっていた。

 まず基本が水着というのが素晴らしい。しかも女子はビキニ着用だ。

 ポイント通販ブックことマニュアルによれば、ビキニの方が普通の女子の水着よりも必要ポイントが高かったはずだ。布地面積は減っているはずなのに高くなるとは、と衝撃を受けたのでよく覚えている。それをあえて選ぶとは、Cクラスは最高過ぎる。

 

 それぞれバーベキューを楽しむもの、ビーチバレーを楽しむもの、ジェットスキーを楽しむもの、日光浴を楽しむものと各々がバカンスを堪能している。

 

 なんだここは、パラダイスか。

 

「よう、鈴音」

 

 そして龍園さんである。

 屈強な外人であるアルベルトにビーチパラソルを持たせているのがシュール過ぎる。パラソルを支える棒とかは、ないのかよ。

 遊びに使い過ぎてポイントが足りなかったのかもしれない。

 アルベルトは、パラソル要員としてポイントを使ってレンタルしてます、なんてことはないよな。船上でも龍園と一緒にいたはずだし。

 

「随分と豪遊しているわね」

「バカンスって奴を楽しんでるのさ」

「呆れたわ。トップが無能だと苦労するわね」

「石崎、温い」

 

 龍園さんは瓶に入った飲み物に手を伸ばして、そのまま夏の砂浜の上で土下座をする男子生徒の頭へとかけた。須藤の件で絡んだ3人のうちの1人のはずだ。龍園が石崎と呼んでいるから間違いないだろう。

 

「は、はい」

 

 慌てて石崎は立ち上がって新しい飲み物を取りに行った。

 これはほとんど嫌がらせだろうな。龍園が捨てた瓶は表面に水滴ができている。ある程度温度差が無ければ水滴はできないはずで、冷えていないことはないだろう。

 

「何もない無人島で我慢大会のサバイバルなんか無能の凡人のやることだ。たかだか100だか200だかのクラスポイントを拾うために、用意されたバカンスを放棄するのか?」

「そうだな。トップが無能だと苦労する」

「綾小路くん?」

「何でもありません」

「……警戒してここに来たのがバカだったわ」

 

 Cクラスが羨ましい。無理して上のクラスを目指さなくても──茶柱との契約があるから無理か。

 そして堀北。警戒してここに来たなんて殊勝なことを口にしてるが、オレが誘わなかったら絶対に来なかっただろ。

 ちゃっかり頑張る私をアピールしてるんじゃねえ。誰へのアピールだ。

 

「バカはどっちだ。オレか、お前か?」

 

 キターーーーーー。龍園マジカッコいい。

 こんなセリフを堂々と口にできて似合うなんて、並大抵の男にはできそうにない。

 どっちがバカかは一概には言えないが、この両者のやりとりの勝ち負けで言えば、龍園の圧勝だ。堀北とは格が違う。

 どう見ても楽しんでいるリア充の龍園と、真夏に長袖ジャージを着て色々我慢してますって感じの惨めな堀北では、龍園を支持するしかない。さんをつけて龍園さんと呼びたいぐらいだ。

 

「……試験を放棄してくれるのならもういいわ」

 

 ダメだ、このセリフとか完全に負け惜しみにしか聞こえない。

 話題を変える助け船を出してやるか。

 

「伊吹のことは良いのか?」

「……用件があったわ。伊吹さんのことよ。顔を腫らしていたわ」

「はっ。支配者の命令に従えないっていうのならいるだけ邪魔だ。居場所を失うのは、当たり前の話だろ」

「…………」

「んなことよりオレと遊ばねえか。専用のテントぐらい用意するぜ」

 

 専用のテント──だと。専用のテントでいったいぜんたいナニをやろうっていうんだ龍園さんは。ナニ専用テントなんだろうか、さっぱり分からない。ええい、興味しかないぞ。

 

「興味ないわ。ここにいるだけ無駄ね。行きましょう、綾小路くん」

「…………」

 

 堀北は、オレの返事を待たずして、踵を返して歩き出す。

 

「鈴音、遊びたくなったらいつでも来いよ。そのときは最高の気分を味わわせてやるぜ」

 

 決め台詞を吐きながら、股間に触れてセクシーアピールする龍園さんマジカッコいいわ。

 堀北よ、なぜこの龍園さんのアピールを見て行かない。そういうところだぞ、お前の欠点は。

 堀北兄が知ったらさぞガッカリするに違いない。気が向いたら告げ口しておこうか。

 

 Bクラスに続いて、Cクラスにもまた遊びに来る約束をしたいんだが、誘われてるのは堀北だけで、オレはお呼びじゃないんだろうな。

 せめてもの慰めに、立ち去る寸前にCクラスのベースキャンプを一瞥して視界に納め、ポイントを何に使っているのかを確認するふりをしながら、女子生徒のビキニおっぱいを堪能してから堀北の後を追いかけて行った。

 

 これがCクラスか。なかなかの戦闘力だな。

 

 

 各クラスの偵察は終わった。

 

 伊吹がスパイなのかどうか。偵察前は、ほぼ100パーセントだと思っていたが、それが95パーセントぐらいには揺らいだのかもしれない。

 おそらくCクラスは既にイベントポイントを使い切っている。伊吹が点呼をサボろうが、既に0ポイントならそこからマイナスにはならないため、ダメージも0というわけだ。

 当然ながらリタイアをしてもダメージは0だから、Cクラスは遊ぶだけ遊んでリタイアして試験を終わらせるつもりなんだろう。

 

 あえて0ポイントまで使い切ることによってデメリットを消している。

 見事な0ポイント作戦だ。

 ポイントを残さないことでメリットを得るとは、常人には考えつかない戦略だろう。こんな作戦を取れるのは、よほど愚かな相手か厄介な相手か。龍園さんはカッコいいから、きっと後者だな。

 

 まあ、デメリットが無いのなら、それこそ伊吹もさっさとリタイアしろよって話だから、残っている時点でやっぱりスパイで間違いないか。

 スパイを残して試験を完全に捨てていないのであれば、0ポイントの状態で取れる戦術は、リーダー当てのボーナスポイント狙いとなる。

 

 リーダー当ては外した時のデメリット(50ポイントマイナス)が大きいので、そこまで狙われることは考えていなかったが、デメリットを消して狙ってくるクラスが出てきたとなると何か対策も考えないといけないか。

 面倒ごとが増えるのは勘弁して欲しいが、やっぱスパイを受け入れた池が悪いな池が。

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 最近すっかり深夜に目覚めることが増えた。

 だいたいは櫛田のせいだと思う。

 7月1日の真夜中に襲われて以降、ふとしたタイミングで3時とか4時とかに目が覚めてしまうのだ。

 何かを期待してのものではないはずだが、欲求不満の表れかもしれない。

 

「……何も言わないからな」

 

 とりあえず、テントの天井を見ながらお約束を消化する。

 腕時計を光らせると3時半を指していた。

 

 もぞもぞと匍匐(ほふく)前進をして、周囲の男子を起こさないようにしてテントから這い出る。

 

「………意外と色んな音が聞こえるな」

 

 テントの中にいると主に須藤のいびきでかき消されて聞こえなかったが、こうして外に出ると都会の喧騒とは違う音が耳へと届く。

 風が木々を揺らすだけのちょっとした音でも夜中には響いて聞こえてくる。

 さっきまで居たテントから聞こえる低音が無ければ、もう少しだけ耳を澄ましていたかもしれない。須藤よりは毎日先に寝るようにしよう。須藤が先に寝たあとでこのいびきを聞きながら眠れる気がしない。

 

 月明かりを頼りに、できるだけ足音を立てないようにして移動していく。

 

「この時間ならシャワー使ってもいいよな?」

 

 目的は、少し離れた位置にある簡易シャワーだ。

 シャワー音を男子に聞かれたくないという女子の主張が通って、あえてテントからは遠ざけて設置されている。

 昨日から繰り返しになるが、無人島の夜は寝苦しく寝汗がひどい。

 こうして早起きしたのも、男子に許された夜限定のシャワーを利用するためだ。

 

 夜目に慣れ始めた頃に、シャワー室まで辿り着いた。

 中に入って服を脱ぎ、濡れない場所へと引っ掛ける。

 

 ザーーーっという水音を響かせながら、不快な汗を流していく。

 

「…………」

 

 熱帯夜の寝起きのシャワーは気持ちいい。心の底から生き返る気がする。

 

 シャワーは設置にポイントを取られただけあって、十分な水量を感じ取ることができた。

 そのまま目を瞑って、頭上から降りそそぐものへと意識を向けて堪能していく。

 

「誰? 開けちゃうよ」

「!?」

「ひゃっ──」

「静かにッ」

 

 シャワーの水音に足音を消された結果、気づいた時には簡易シャワーの扉が開かれていた。

 堪能することに意識を向けすぎて、周囲の警戒を疎かにしてしまっていたせいだ。

 悲鳴をあげられる前に慌てて手を伸ばして口を塞ぎ込み、そのままシャワー室へと連れ込む。

 

「暴れないでくれ、頼む」

 

 抵抗する相手に懇願しながらシャワーを止めた。

 最初は暴れていたものの、少しして落ち着いたのか抵抗が終わり、ゆっくりと手を外した。

 改めて相手の顔を確認する。

 

 誰かと思いきや、佐藤か。

 

「悪い、騒がれたら困ると思って強引なことをした」

「……綾小路くん?」

「そうだ。その、悪い」

「う、ううん。私の方こそ急に開けてごめん。でも、なんでシャワー浴びてるの?」

「夜は、男子の時間じゃなかったのか?」

「……その、寝て起きたら朝って思うじゃない」

「で、誰か女子が入っていると思って開けたと。事故だな」

「ごめん」

「いや、事情は分かったから別に良い。それよりも今回のことを黙っておいてもらえたら助かるんだが」

 

 顔を近づけて、念を押して頼み込む。

 クラスメイトとの裸でのトラブルとか勘弁して欲しいところだ。

 知られたら何を言われるか分からないしな。

 

「も、もちろん言わないから……って、きゃっ」

「どうした?」

 

 オレからの強い視線を避けるように、顔を俯いた佐藤が声をあげた。

 

「その、綾小路くんのそれって」

 

 俯いた佐藤の視線の先では、Tレックスがおはようございます、と今にも咆哮をあげん勢いで存在を主張していた。

 佐藤に見られて興奮したわけではない。ただの寝起きの生理現象だ。

 

 見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりに、手で顔を覆っているが、指の隙間はしっかりと開いている。

 佐藤は食い入るように見ていて、どうやら視線を外すことができないらしい。

 

「すごい……」

 

 迫力に圧倒されたのか、どこかうっとりした声まで聞こえてきた。

 

 佐藤はにらみつけるをつかった。

 野生のTレックスは固くなった。効果は抜群だ。

 

 見られてしまったものは仕方がない。これはもう、佐藤に責任を取ってもらうしかないだろう。

 佐藤の評価ポイントがゼロになっていた分も含めて、ここで一気に清算させてもらおうか。

 佐藤よ、罰ゲームが決定していた自分の今までの行いを恨むがいい。

 

「濡れたままだと風邪をひく。脱がすぞ?」

「え、と……」

「オレだけ見られているのは、不公平だ」

 

 シャワーを止める前に中へと引き込んだ結果。佐藤のジャージはびしょびしょだった。

 佐倉との経験のおかげで慣れた手つきで脱がしにかかると、佐藤からは抵抗らしい抵抗は無かった。

 これはイケる。

 

「…………」

 

 じっと見つめると、佐藤は静かに頷いた。

 据え膳食わぬは男の恥。ありがたく頂戴しようか。

 

「佐藤」

「綾小路くん」

 

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス(小声)」」

 

 

 いや、手を出しときながらあれだけど、佐藤さんはちょっとちょろ過ぎじゃないか。

 

 

 

 

 

 互いに汗を流してそれぞれのテントへと戻り、他の男子生徒が起き出すのに合わせて、二度目の朝を迎えた。

 シャワー室で色々とスッキリしたあとだが、ルーティンワークとして川辺で顔を洗う。

 

「ねえ、綾小路くん」

「なんだ櫛田?」

 

 櫛田が近づいてきて隣に並んだ。

 

「今日は、妙にスッキリしてない?」

「……夜が明ける前にシャワーを浴びたからな」

「女子の中に、明け方ぐらいにすごい獣みたいな声を聞いた子がいるんだって。怖いね」

「…………そうか。無人島に野生の恐竜でもいるんじゃないか。気をつけないとな」

「佐藤さんが今朝から歩き方がおかしいけど何かあったのかな」

「………………そ、そうか。アレだな、恐竜にでも襲われたんじゃないか」

「はぁ……えっと、今日は無理しないようにフォローしとくね」

「偉いぞ櫛田」

「身体火照ってそうだから、冷やした方がいいよ」

「ちょっと待て、櫛田──」

 

 さすが櫛田。フォローしてくれるとか頼りになるな、と思いきや、ものすごくいい笑顔を浮かべた櫛田に川へと突き落とされた。

 盛大な水飛沫を上げながら全身が水面へと沈む。グラビアアイドルの水しぶき職人が務まるかもしれない。佐倉が現場を見ていたら、どうだったか後で確認しておこう。

 

 火照った身体を冷やすどころか下手すれば風邪を引く勢いだが、まあ、この時期なら身体をあっためなくても大丈夫か。

 犬のように頭を振って水を切りながら、なんとか川辺へと上がる。

 

「おーい、何やってんだよ清隆」

「何って……いや足を滑らせてだな」

 

 櫛田にやられたと訴えようとしたが、オレを突き落した犯人は、既に距離を取っていて『大丈夫、綾小路くん』なんて優しい声をかけてきていた。

 オレが被害者じゃなければ、騙されそうな優しさだ。

 

「ったくなにやってんだよ。桔梗ちゃんに心配かけるなよ」

「ああ、悪いな、池」

 

 どちらかといえば心配になるのは、オレではなく櫛田の本性を知らない池の方じゃないだろうか。

 知らないことが幸せってこともあるんだな。

 

 こんな感じでドタバタと無人島生活3日目が始まるのであった。 

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