綾小路Tレックス   作:チームメイト

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無人島編その9 据え膳、再び

「遊んでいると思っていたクラスのギャルが実は処女だった件について、処女だった件について」

 

 思わず2回言いたくなるような出来事だった。

 普段の言動や見た目からして、佐藤は経験済みに違いないと思っていたが、すっかり騙されていた。佐藤に騙されるとは、何とも悔しい話だ。

 

 まあ、騙されたかどうかは別にどうでもいい。

 

 問題なのは、佐藤に処女性なんか欠片も求めていなかったことである。

 遊んでそうなギャルが処女で嬉しかったり萌えたりするのは、それはギャルへの思いが純愛だったパターンであって、したいと思った時に都合のいい相手が居た、と思いきや処女だったパターンは、全然嬉しくないのである。むしろ、非処女であって欲しかったくらいだ。

 

「佐藤にギャップなんか求めていない」

 

 これに尽きる。

 

 適当に遊び相手になってくれたら良かったのに、初体験を奪ってしまったらそこに責任が生じるんじゃないだろうか。

 佐藤の交友関係はそこそこ広いはずだ。佐藤の扱いを間違えてしまうと、佐藤経由で悪評が広まり、充実した学園生活が遠ざかってしまう可能性がある。

 伝説の恋愛シミュレーションゲームで言うところの爆弾だ。狙っていない攻略対象ヒロインに出会ってしまったときの面倒くささと同じようなものだな。

 となると佐藤の扱いは慎重に──いや、ないな。考えすぎだ。同意はあったはずだし、互いに楽しんで、お互いにハッピーだった。これで十分だろう。

 佐藤相手に責任とか、それこそメンドクサイ。

 近い未来に、嫌なことが起こるフラグを立ててしまった気がしないでもないが、気にし過ぎてどうにかなるものでもあるまい。

 

 うん、それでいこう。

 なにやら佐藤から熱い視線を感じているが、オレは何も気づいていないぞ。

 その隣にいる櫛田から、冷凍ビームのような視線を送りつけられている気がするけど、やはり、オレは何も気づいていないぞ。

 ──熱い視線と冷たい視線で差し引きゼロだから気づかなかった。

 これだな。これでいこう。流石は櫛田だ。その冷たさはわざとだな、ナイスフォロー。

 

 昨日行ったばかりで必要性は低いが、今日も偵察にでも行くか。

 ベースキャンプに居づらくなるとは、佐藤が悪いよ佐藤が。

 

 

「ごめんね、足手まといになるけど」

「いや、急ぐわけじゃないから大丈夫だ」

 

 一人で出歩くつもりだったが、佐倉がついてきた。

 

 オレ以外に友達らしい友達が居ない佐倉も、オレが居なくなったらベースキャンプに居づらかったようだ。

 こういうときに頼りになるのが櫛田だが、あいにくと今日の櫛田は佐藤のフォローに回っている。佐藤に手を出した結果が、回り回って佐倉を孤独にしていたとは、本当に佐藤が悪い。

 

「変な噂が立ったら佐倉が困るんじゃないか」

「そんなの全然気にしないよ。と、特別な友達だし」

「まあ、今更か」

 

 本当に今更の話だ。

 佐倉と連れ立って歩くのは嫌いじゃない。嫌いじゃないが、ムラムラするのが困る。朝のスッキリはどこに行ったという話だが、特別な友達と2人きりという環境でムラムラしないようでは、何が特別な友達だというのだろうか。

 

 あいにく、初日とは違って、行く先々でところどころに生徒の姿が見えるので、この感情に蓋をするしかないのが残念だ。初日のアレはスタートダッシュの賜物で、その恩恵が無い中でとなると何か手をひねくりださなければならないだろう。

 そういう意味では、こうして探索しながら都合のいい場所が無いか探すことも、大事になってくるかもしれない。まあ、最悪早朝のシャワーを使うという手もあるか。

 ただ、声を潜めたつもりだったが、櫛田が言うにはテントまで響いていたらしいから、そう頻繁に行うのは控えた方がいいだろう。無人島生活の中でもう1度チャンスがあるかってところだな。

 

 まあ、Tレックスのことは置いておこう。偵察ということで試験に向き合うか。

 オレが考える今回の試験の要素は2つだ。

 

 1、どうやって無人島生活を乗り越えるのか。

 2、どうやって他クラスの情報を仕入れるのか。

 

 1に関して言うなら、高円寺の活躍のおかげで食料問題がほぼ解決した今、ほとんどクリア出来たと言っていいだろう。

 あとは波風立てそうな伊吹をどうするかだが、今更追い出せない以上、伊吹が動いてから考えるしかない。

 

 というわけで、今回は2つ目の要素、他クラスの調査だ。

 Aクラスの洞窟周辺まで足を運び、上陸前にアタリをつけていた場所を探して、岸まで辿り着いていた。

 

「ハシゴか」

「ほんとだ。ぜんぜん気づかなかった」

 

 下に降りられる場所は無いかを探して歩いていると、覗き込まないと見つからない場所にハシゴが設置してあった。施設が下にあることを知らなければ、見つけようがないものだ。

 何度か引っ張って強度を確認してから、先行してハシゴを下りていく。

 

「大丈夫か? 無理なら待っていてくれてもいいぞ」

「うん、なんとか……」

 

 先に降りたところで、佐倉へと声をかける。

 少し調査するだけなので、佐倉が降りなくても問題は無いが、本人が降りるのなら自主性に任せよう。オレにできることは佐倉が手足を滑らせてもいいように、様子を見上げて見守るだけだ。

 

 く、どうして無人島生活はジャージなんだ。制服だったらスカートの中が見えたものを。

 

「ふぅ……下が見えないから怖かった」

「戻るときは登りになるけど、大丈夫か?」

「あ……無理かも」

 

 下が見えないとか佐倉のおっぱい、半端ない。これが堀北ならスッと降りてきて終わりだな。

 

「分かった。帰りは負ぶっていくから」

「うう……ありがとう」

 

 佐倉が無理だというから、やるっていうだけで下心とかはないぞ。

 崖を下りたところから少し歩くと小屋が立っていた。入口には、スポット装置が取り付けられている。

 

「Aクラスが占有中か」

「使えないね」

「まあ、リーダーカードを持っていないからどっちにしろ占有は無理だが」

 

 難癖をつけられないように、Aクラスの生徒が居ないことを確認してから、小屋の中を窓から覗き込む。これぐらいで不正利用にはならないと思うが念のためだ。

 中には釣りに使うような道具などがあった。

 施設そのものを利用するというより、中の道具を占有できる形らしい。釣り具はカタログによる交換の対象だが、借りなくても済むのならそれだけポイントを浮かせることができる。

 Dクラスの場合は、他で食料の目途が立ったため釣り具は借りなかったが、利用できるなら利用してみかったかところだ。せっかく川があるのに、川魚に手を出さないのはもったいない。

 

「戻ろう」

「えっと……お願いします」

「……佐倉、危ないから、もう少ししっかり掴まって」

「う、うん。分かった」

 

 これは助けるためだ。佐倉のおっぱいを堪能したかったわけじゃないぞ。

 ハシゴを使う都合上、オレが佐倉を支えることは出来ないからな、佐倉の力でしがみついてもらう必要があって──おっぱい、最高だ。

 

 持ち歩いていた地図にハシゴと小屋の位置を記載して次へと向かう。

 記憶をたどりにしつつ、足跡の痕跡を辿って森の中を歩けば、高台のある場所へすぐに出ることができた。目立つ建物だけに、大体の方角さえ分かっていればそこまで難しいことではなかった。

 

「ここは占有されていないみたい」

「だな」

 

 船上から施設をチェックしていた葛城がこの施設に気付かなかったわけがなく、わざと占有していないのだろう。

 

「佐倉はどう思う?」

「うーん、ここは使う価値が無いとか?」

「それもあるかもな」

 

 どうやらこのスポットは、高台に上がって周囲の風景が見渡せるのが特典らしい。一度なら多少は価値があるかもしれないが、占有して使う意味は無い。

 そういう意味では、佐倉の意見も間違ってはいないだろう。

 ただ、高台に上がるためには、ハシゴを登らなければならないようだ。そうなってくると話は別だ。風景とかはどうでもいいが非常に利用価値が高い施設だと言わざるを得ない。

 

 そう、佐倉と2人である今ならば、ハシゴを上るだけでも価値があるのだ。

 あの感触よ、再びである。

 

「Aクラスの利用している場所で何をやっている」

 

 佐倉を背中に乗せようとしたら、茂みから男子生徒が出てきて、慌てて佐倉が背中に隠れた。

 密着度は減っているが、これはこれで有りだから良しとしよう。

 Aクラスが()()している場所か。利用であって占有でないのなら、誰が使っても問題ないはずだが、強い言葉を投げればビビるとでも思われているんだろうか。

 

「Dクラスの綾小路か?」

 

 木の枝を武器のように向けてくる男に、参ったと言わんばかりに手をあげて頷く。

 特に接点がないはずだが、Aクラスにまで名前が知られているんだろうか。

 

「一之瀬も何でこんな女連れのやつと」

 

 疑問に対して勝手に答えてくれた。感謝しかない。

 なるほど、一之瀬の彼氏として知られているわけか。

 

「怪しいものを持っていないか調べさせてもらう」

「セクハラか」

「……女には手を出さない、お前だけだ」

 

 何の権限があるのか分からないが、佐倉に被害が無いのなら我慢するか。

 どうせ大したものは持ち合わせていない。佐倉を下がらせて、大人しく従った。

 暴力行為や妨害が禁止されている以上、従う義務は本来は無い。手に持っている棒もブラフだろう。ただ、教師の居ない場所で揉め事は避けた方がいいか。

 男に触られても不快なだけだが、足首からポケットまでチェックされて、手書きの地図があっさりと没収された。一応抵抗してみよう。

 

「返してくれ」

「地図を用意して何を企んでいる」

「食料の確保だ」

「無人島の食料は有限だからな、分け合うべきだろう。この地図は預からせてもらう」

 

 いや、だから何の権限があってだな。

 地図に書かれている内容を確認されて、そのまま相手のポケットの中へと奪われた。

 

「これは葛城の命令か?」

「なぜ葛城の名前が出る」

「……Aクラスのリーダーは葛城だろ」

「Aクラスのリーダーは坂柳だ。もういい。二度とこの場所をうろつくなよ」

 

 地図さえ奪えばあとは用済みと言わんばかりの追い出され方だ。

 しかし葛城ではなく不参加のはずの坂柳がリーダーか。これはどういうことなんだろうか。

 坂柳派の生徒は葛城の指示に従いたくないのか。Aクラスの派閥争いは想像していたよりも深刻なのかもしれない。

 

 無抵抗のまま、大人しく高台から離れていった。

 

「だいじょうぶ? 綾小路くん」

「すまん、心配かけたな」

「ううん、でもどうしよう地図を取られちゃった」

「大丈夫だ。多少はダメージがあるだろうが、あの地図は不完全版で、全てを写したものじゃないからな」

 

 最初からこういうこともあろうかと用意していた地図だ。記載していたのは、既にDクラスによってほとんど回収が終わっている場所だけで問題は無い。

 ここまで強引な手を使われるとは思わなかったが、転ばぬ先の杖が役に立ったのなら良かった。

 しかし、情報を引き出せるかと、あえて抵抗せずに従ったが、佐倉にはカッコ悪いところを見せてしまった。さっきの2人の顔だけは覚えておこう。

 

 

 その後、Cクラスのキャンプ跡地(すでに撤収されていた)で、Bクラスの一之瀬と神崎と軽く情報を交換し、偵察を終えた。

 一之瀬が言うには、攻撃型の坂柳と守備型の葛城で両極端なタイプなため、派閥同士のぶつかり合いが多いらしい。となると地図を奪ったのは、葛城の指示ではないんだろうか。

 それにしても、彼氏彼女で互いに別の異性を連れたペアでの行動中に遭遇とか、気まずさ半端ない。

 一之瀬と神崎はクラスのリーダーとその補佐だから、一緒に行動することも多いようだ。

 オレと佐倉も特別な友達だから、一緒に行動してるのも当然だな。何もやましいところは無い──はずだ。

 大自然の中で何が起きるか分からないから、1人での行動は推奨されないはずだしな。

 

「…………」

「…………」

 

 佐倉と一緒にベースキャンプに戻ると思いっきり佐藤と目があった。

 おかしい、一之瀬(かのじょ)に会ったときよりも気まずさ半端ない。

 下手に佐倉を戸惑わせる前にスルーしよう。うん、目があったのは気のせい。

 背中に凄い視線を感じているけど、気のせいだ。おそらく佐倉も背後から何かを感じているだろう。

 佐倉、決して振り向くんじゃないぞ。言わなくてもオレと佐倉なら以心伝心で行けるはずだ。

 あくまでも自然な会話、自然な会話だ。

 

「今日はありがとな」

「ううん、楽しかった」

 

 佐倉『楽しかった』は嬉しい感想だが、今はまずい。背中に突き刺さる視線がより厳しくなった。

 

「そ、そうか良かった」

「う……うん」

 

 最後の最後で佐倉との意思疎通に失敗して3日目を終えたのだった。

 ──佐藤のこともキャンプ中にどうにかしないと、前途多難だ。

 

 

 

 4日目

 

 今日も今日とてまだ明け方というには早い、真夜中の時間帯に目が覚めていた。

 さっと暗闇の中で全員が寝ていることを確認して、音を立てないようにしてテントを抜け出す。どちらがどういう寝相の悪さを発揮したのか、池と山内がマジでキスする5秒前みたいな接近戦となっていたが、まあ、オレには関係がない。

 池が桔梗ちゃん桔梗ちゃんと寝言を言っているあたり良い夢を見ているんだろうが、現実とは非情なものだ。可愛い桔梗ちゃんかと思った? 残念! 春樹君でした!

 

 夜目に慣れるのを待ち、月明かりだけを頼りに作業を済ませる。

 

 今日も向かう先はシャワー室だ。昨日は、一応ラッキーにも佐藤というちょろい奴を抱くことになったが、今日はどうなるか。

 

「さすがにないよな」

 

 2日続けてのハプニングなど起こるわけが──

 

「──?」

 

 見えてきたシャワー室は、既に使用中だった。夜の時間は、男子の時間のはずだ。

 自分が寝泊まりしている男子テントは全員が揃っていたが、もう1つの男子テントまでは未確認だ。そっちのテントの奴だろうか。

 声を掛ければそれで済む話だが、息と足音を潜めてシャワー室へと近づき、耳を押し当てて中の様子をうかがった。

 まず耳に入るのは水音。

 

「…………ん」

 

 だが、それだけではなくその音に紛れるようにして、僅かに女性の艶のある声が響いている。

 一瞬逢引きの最中か、と身構えかけるも、中から感じる気配は一人だけ。

 

 このことから導き出される答えは。

 

「据え膳か」

 

 シャワーの水音に消すようにして、状況を呟いた。

 相手が性欲を発散しているのなら、それに協力するのが男としての務めだろう。

 ん? 昨日は何やらそれで失敗したような気がするが、それはそれ、これはこれだ。あれは佐藤が悪いのであって、据え膳が悪いわけがない。

 

「……声、響いてるぞ」

「誰!?」

 

 薄い扉一枚越しに中へと声を掛けると、慌てるような声が返ってきた。

 この声は誰だ。あまり馴染みのない声だ。

 クラスメイトの中から記憶を頼りに絞り込みをかける。

 

「綾小路だ……そっちは長谷部か?」

「綾小路くんか。合ってるよ、間違ってて欲しかったけど」

 

 どうやら正解していたらしい。

 男子の間で美人と評判のクラスメイトの長谷部だった。何よりおっぱいが大きい。

 物静かで誰かと絡んでいる姿はほとんど見たことが無いような生徒だ。そしておっぱいが大きい。

 

「どうして男子がシャワーに」

「夜は使っていいって話だったからな。夜が明ける前にシャワーを浴びるためだ」

「そうだったっけ、シャワーは女子だけだと思ってた」

「夜ぐらい使わせてくれ、昼は女子専用にしてるんだから」

「女子が全員好きに使えてるわけじゃないけどね。早いもの順に見せかけて派閥順だし」

「そのあたりは知らん。男子に責任は無い範囲だ」

「まあ、そりゃそっか。綾小路くんに言っても仕方ないね」

 

 自由に使えているようで、女子は女子で大変らしい。

 言われてみれば、堀北とか佐倉とかは朝は使わず、夕方は遅くなってから使っていたような気がする。

 シャワーの利用権を軽井沢とかその周辺が握っているのかもしれない。下手に口出しても揉めるだけだし、放置するしかないか。堀北や佐倉でも男子よりはマシだしな。

 

「で、男子の時間だが開けていいのか?」

「うーん、どうしよっか」

「おい」

「開けたら襲うつもりでしょ?」

「いい女を前にして我慢するほど大人じゃないな」

「……開けなかったら我慢できるの?」

「無理やり襲うほどガキでもないからな。開けたいけど、物凄く開けたいけど」

「なにそれ」

「性欲に忠実かつ理性的なだけだ」

「分かりにくっ」

 

 なぜだ、これほど分かりやすいことはあるまい。

 

 それからしばらくシャワーの水音だけが響いた。イエスかノーか。じれったいが彼女の返答を待つ。

 

「……ちょっと話聞いてもらってもいい?」

「オレでいいなら」

「私さ、集団行動できないわけじゃないけど、一人の方が楽って言うか慣れたっていうか、そんな感じなんだよね」

 

 オレもこの高校に入るまでは似たようなものだっただけに、気持ちは分かるかもしれない。

 

「それでこの無人島でしょ。強制的に四六時中誰かと一緒とか流石にキツイっていうか」

「こっちのテントなんか須藤だぞ、暑苦しいことこの上ない」

「そりゃ災難。で、昨日は眠れたんだけど、今日はなんか寝付けなくてさ、1人になりたくてここに来たわけ」

「それは良かった。シャワー室を設置した甲斐があった」

「そうなの?」

「1人になれる場所ってのを用意するために、ポイントを譲ったからな」

「そういや、綾小路くんが女子に使うようにって認めたんだったっけ。そっかそっか」

「役に立ったなら何よりだ」

 

 使う人数が人数なので、それほどの時間を1人で独占して使えるわけではないが、数分だけでも他から隔離されたスペースを過ごせたら楽になれるんだろう。トイレも隔離できるといえばできるが、まったくの無臭とはいかず、精神的なリフレッシュからは程遠いからな。

 

「ようやく1人になれたら、なんか無人島まできてなにやってるんだろうってむしゃくしゃしてきてさ。ちょっとした火遊びのつもりだったんだけどね」

「それで今に至る、か。誰か来たらどうするつもりだったんだ?」

「女子の時間だと思ってたし、もし男子だったら叫べばいっか、程度しか考えてなかったや」

 

 少し離れているとはいえ、叫べばテントで寝ているクラスメイトを起こすには十分だろう。知られたら気まずいと思うが、それも相手次第の話か。

 

「叫ばれるのは困るな」

「相手によっては叫んでたけど、もうタイミングは逃しちゃってるし」

「ならいいんだが……」

 

 とりあえず、最初の関門は突破していたようだ。その事実だけでも下半身に血がたぎっていく。落ち着け、落ち着くんだ。ここで慌てるわけにはいかない。

 

「綾小路くんか」

「…………」

「私さ、恋愛とかがダメなわけじゃないんだけどさ。めんどくさいことは嫌いと言うか、男子の視線が好きになれなくて、距離を置きたくなるんだよね」

「……目立つからな」

「目立つからって見られなきゃならない理由はないじゃない」

 

 言わんとすることは分かるが、男がおっぱいを好きなのは種としての生存本能であり、生きている限り逆らえるものではないはずだ。池とか山内みたいに誰がデカいだので女子に聞こえるボリュームでワイワイ騒ぐのは論外だが、目がいくぐらいは許容して欲しい。

 

「佐倉さんもそうなんだろうなって思ってたら、最近変わってビックリしたっていうか……あれは綾小路くんのせい?」

「せいって……理由にはなったかもしれんが、佐倉本人が決めたことだ」

 

 相談されていたら、止めていたと思う。本当の佐倉を知っているのは、オレだけでいいという気持ちが無かったと言えば、うそになる。

 

「ふーん、そっか。綾小路くんって実はすごい人?」

「それを自分で主張するのは痛くないか? 周りが決めることだと思う」

「それもそっか……佐倉さんを変えたのは綾小路くん。でも綾小路くんは彼女がいるんだっけ?」

「他所のクラスにな」

「ふーん……彼女はいるけど佐倉さんとは仲良しなんだ」

「恋愛と友情は別だからな」

 

 佐倉は特別の友達であって彼女ではない。だから問題はないに違いない。うん、完璧な理屈だ。

 

「はっきり割り切ってるんだ……なら、いいかな。うん、いいよ開けて」

「いいのか?」

「そうなっても彼氏面とかしないでしょ?」

「彼女いるし」

「ならいいかな。そういうことに興味がないわけじゃないんだけどさ、慣れてない人とか嫌だけど綾小路くんは、そのへん大丈夫そうだし……男子って1回許すと見境無くなりそうで、そういうめんどくさいのはイヤなの。綾小路くんはそんなことないでしょ?」

 

 なるほど。互いにめんどくさいことはしたくないというのと、性への興味と言う利害が一致しているわけか。それならば異論は一切ない。佐藤の100倍ありがたい提案だ。佐藤も少しは長谷部を見習ってほしい。ギャルの佐藤に求めたかったのは、これなんだよこれ。

 

「まあ、無理強いすることはないと約束しよう」

「それならいいかな」

 

 よし、お試しの今日1回で終わるという言質は取らせないことに成功した。

 許しを得たというわけで、ようやくシャワー室への扉を開く。

 Dクラスが誇る双丘の1つが、目の前に広がっていた。いずれ菖蒲か杜若とはこのことを言うのだろう。佐倉とどっちが大きいのか、見た目では測りかねない。

 見た目で測りかねないのであれば、味わってみるしかあるまい。

 急いで衣服を脱ぎ捨てる。

 

「「大きい」」

 

 声が無駄にハモった。なんでも貫く矛となんでも受け止める盾の争いがそこにはあった。

 最強の(Tレックス)で最強の(おっぱい)を突いたらどうなるのか。矛盾の答えよ──今、ここに

 

「長谷部」

「綾小路くん」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス(小声)」」

 

 

 ──今日のところは痛み分けということで、勘弁しておいてやろう。

 

 

 

 

 寝起きですぐに色々とスッキリしたあとだが、他の生徒に合わせるようにして、ルーティンワークとして川辺で顔を洗う。

 昨日まで意識してなかったが、佐倉や堀北も同じように川辺で顔を洗っていた。どうやら朝の忙しい時間にシャワーを使えるのは、長谷部の言うとおりクラスでもカースト上位からなんだろう。嫌なことに気付いてしまったものだ。

 

「ねえ、綾小路くん」

「なんだ櫛田?」

 

 櫛田が近づいてきて、隣に並んだ。

 クラスカーストでもしっかり上位に位置している櫛田は、シャワーを浴びてきた後のようだ。櫛田の抜かりの無さは流石だ。

 

「今日も、妙にスッキリしてない?」

「……夜が明ける前にシャワーを浴びたからな」

「今朝もすごい声があったって聞いたよ。連日だよね」

「ま、まあ、そういうこともあるんじゃないか」

「今日は、長谷部さんの様子がおかしいんだけど」

「ソレハタイヘンダナ」

「はぁ……えっと、長谷部さんも無理しないようにフォローしとくね」

「アイシテルゾ、櫛田」

「はいはい、私もよ」

「マテ、櫛田──」

 

 おかしい。選択肢を変えたのに結果は同じだった。

 昨日に続いて、櫛田に突き落とされて川へとダイブした。こうやって連日、川へとダイブしていたら、流石に体調がおかしくなるかもしれない。

 ──今、私もって言ったよな。火照りそうな顔を川でさっぱりしろということか。そうか、これは櫛田なりの照れ隠しだったんだな。ならば仕方ない、甘んじて受け入れるしかないだろう。

 

 まあ、昨日は佐藤からの熱い目線で参ってしまったが、今日の長谷部はドライに、何やってるんだかって呆れた顔でこちらを見る程度だったのが救いか。

 いや、佐藤からの熱い視線は変化してないからどうにかしないといけないんだが、厄介ごとが増えずにオトクな思いをすることができただけ良かったと前向きに考えよう。

 

「……綾小路くん、河童にでもなりたいのかしら?」

 

 佐倉に続いての巨乳をゲットした今、堀北の嫌味など通じるものか。

 オレに意見をしたいのならば、もう少しサイズを大きくしてから出直そうか──冗談だから、棒でつつこうとしないでください。

 

 こんな感じで無人島生活4日目も、ハッスルタイムを経由しての川流れからスタートしたのであった。

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