綾小路Tレックス   作:チームメイト

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無人島編その11 下着泥棒はイケてない

 5日目

 この日は、特にラッキーなこともなく何事もなく始まるはずだった。

 ヤリ部屋シャワー室での不規則イベントが起こらなかったため、連日よりも早くシャワーを浴び終えて、テントに戻る。

 みんなが起きるまで、まだ時間がありそうだ。

 性的ではないもののスッキリしたところで、汗臭いテントには居座りたくない。まあ、今日ぐらいは大人しくしとくか。

 3日目4日目のハッスルぶりを多少は反省して、テント内の自分のスペースに横になった。

 

「おい、清隆」

「ん?」

 

 須藤から声を掛けられてそちらを見るも、どうやら寝言らしい。いびきに続いてうるさい奴だ。

 

「お前のトウモロコシうまそうだな、一口俺にくれよ」

「…………」

 

 健全な夢であって欲しいが、何やら不穏な気配がある。

 いや、オレの考えすぎだ。そうに違いない。

 昨日のトウモロコシは、普通に美味しかった。須藤はそれを夢で思い出しているだけだろう。

 

「やっぱうめえな。お前のトウモロコシ」

「…………」

 

 不穏さが増している。

 なんだよ、()()()トウモロコシって。同じ畑に生えていたものを、一斉に調理した奴だ。味に、大した違いはないはずだ。

 まあ、オレのは佐倉のカバンで運ばれた奴だったけど。いや、なんか須藤とか山内のカバンだと汗臭そうで無理だ。自分で誘って連れて行っておいてアレだけど。

 藪をつついたら蛇が出てきかねないが、須藤の発言が過激化する前に、確かめてみるしかあるまい。これも心の安穏のためだ。平和であればそれでいい。

 眠っている須藤に質問を投げかける。

 

「TレックスのTは?」

「トウモロコシのT」

「やめろ」

 

 そんな意味はねえよ。

 質問したことを深く後悔しながら、夜が明けるのも待つのであった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「ちょっと、ちょっと男子」

「起きなさい」

「早く起きろって」

「出てこーい」

 

 シチュエーションがシチュエーションだったら興奮しそうなセリフだが、どうやら事件が勃発したらしい。

 勃発って単語は、それはそれでエロい気がする。勃起なのか暴発なのか。

 

 叩き起こされた男子がテントの外に並ぶと、それを取り囲むように女子生徒が並び、すっかり反男子の筆頭キャラに納まりつつある篠原が、事情を説明し始めた。

 

「今朝、軽伊沢さんの下着がなくなっていたの。今、軽井沢さんテントの中で泣いてる」

 

 言われてみたら軽井沢が居ないな。篠原が女子の中心になっているのは、そのせいもあるか。

 同じく不在の櫛田は、軽井沢を慰めているらしい。連日誰かのフォローに回る日々だな。半分ぐらい原因がオレのせいな気がするが、今回は違うぞ。

 

「下着を盗んだのは誰?」

「は? 俺たちが疑われてるのかよ」

「盗むわけないだろ」

「荷物はテントの外に置いてあったんだから、見つからずに盗めたはずでしょ」

 

 男子が盗んだと決めつける篠原、それに反発する池と須藤。

 それまで半分寝ぼけていた男子も追い込まれた状況に目が覚めて、ああじゃないこうじゃないと男女でのいざこざへと発展していた。

 平田が何とか間に入って収拾をつけようとするが、起きた事件が事件だけに収まりそうにない。

 

「犯人を見つけるまで納得できないわ。男子の荷物検査をさせて」

 

 犯人は男子だと決めつけた女子の要求に、池たちが抵抗したものの押し切られて、そのまま荷物検査が始まった。

 まず最初に、平田のカバンの中身をみんなで確認し、その後は平田が他の男子のカバンをチェックしていく形だ。

 一応、平田グループに属するオレが2番目に確認を済ませて、その後は平田の近くに陣取って様子を伺う。荷物検査の列に並ぶ男子の中に怪しい奴がいないかチェックしていく。

 犯人は誰だろうか。

 

 平田くんや綾小路くんは大丈夫だよねって声が女子から上がるのが地味に嬉しい。これだけでも平田グループに入ったのは、やはり正解だったと言える。

 

「ん? 何やってるんだ山内」

 

 荷物検査に最後まで抵抗した結果、列の最後尾には池と山内がセットで並んでいた。

 タイミングを見計らって、山内へと声を掛ける。

 オレの指摘でみんなの視線が一斉に山内に集まった。

 

「はあ!? 何もやってねえよ」

 

 いかにもな反応に、周囲からの圧力が強まる。

 

「今、何か隠そうとしなかったか?」

「してねえよ。つーか、俺じゃねえって。軽井沢のなんか盗むかよ」

 

 山内が必死になって強弁すれば強弁するほど、山内が犯人にしか見えなくなってくる。

 それだと軽井沢の下着でなければ、盗むとも聞こえかねない。弁明にしても失敗だった。

 

「平田、こっちはオレがやっておくから先に山内のを」

「……分かったよ、綾小路くん」

 

 クラスメイトを疑いたがらない平田を何とか目で説得し、山内の方へと向かわせた。

 いよいよ始まる第一容疑者の取り締まりに、妙な緊張感が漂い始める。

 

「よし、異常なし」

「……いいのか?」

「犯人じゃないんだろ? 騒いでも犯人を喜ばせるだけだ」

「悪いな」

 

 クラスの注目が山内に集まっているうちに、そそくさと三宅の荷物検査を終えて小声でやり取りを済ませる。

 三宅のカバンの中には、軽井沢のものと思われる女性向け下着が入っていたがスルーだ。

 

 流れで止められなかったが、荷物検査に意味は無いと思っている。

 各自の荷物は篠原の言うように、テントの外にまとめて放置されていた。

 

 荷物の中から誰にもばれずに盗むことができるのなら、盗んだものを誰かの荷物に入れることも簡単にできる。

 この状況では下着が出てきたからと言って、犯人だと決めつけることはできず、下手に騒げば冤罪を生むだけだ。

 

 だったら、この場はどこからも出てきませんでしたって、展開に持ち込むしかない。

 三宅のカバンに入っていることは、三宅が列に並んでいたときから分かっていた。

 あとは、三宅の荷物を調べるタイミングで騒ぎを起こして、注目されないようにやり過ごすだけだ。

 

 山内は立派に道化としての役割を果たしてくれた。山内でも役に立つことがあって良かった。

 

「山内くんのカバンには無かったよ」

「そうか。すまん違ったみたいだ。山内、怪しい動きするなよ」

「だからしてねえっつーの」

 

 次の荷物を確認中に、戻ってきた平田とバトンタッチして見守り役に戻る。

 そのまま荷物検査からは何も出て来ず、続いて身体検査まで行われたが、下着は見つからなかった。

 チェック済みの三宅のカバンの中に入っているんだから、当たり前だけどな。

 

 平田の身体検査をオレがして、オレの身体検査を平田がしたわけだが、

 

「一之瀬には黙っておこう」

 

 なぜか、知られるとまずいことになりそうな気がした。

 やましいことをしていないことを確認する検査が、やましいことのように思われかねないってどんな状況だ。

 ペタペタ触った平田の身体は引き締まっていたが、それだけで他意は無いぞ。本当だからな。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 30分後、オレは女子テントの移設を担当していた。

 

 荷物検査などが終わった後で、三宅と2人で事情を平田に説明して、下着は預けてある。

 女子の下着を動じずに受け取る平田は、流石はモテる男という感じだった。

 

 結局、下着泥棒が見つからなかったことで、女子が男子と距離を置きたいと主張をし始めて、クラスの男女間は決壊していた。

 女子のテントを男子のテントから距離を置くことが決まり、移設に力仕事が必要ということで、男子が手伝う流れになった。ただ、男子は信用できないので誰でもいいというわけではなく、まず選ばれたのが、女子からの信頼が厚いみんなのリーダーこと平田だった。

 

「あと、綾小路くんも手伝ってもらえる? 信用できる2人にお願いしたいんだけど」

「賛成。綾小路くんなら大丈夫だよね」

「彼女いるし、絶対犯人じゃないよね」

 

 彼女がいるから大丈夫という意見に、若干、佐藤とか長谷部とかが引っかかっていた気がしないでもないが、特に反対意見も出なかったため、信頼された男子生徒として手伝うことになった。

 

 正直、めんどくさいが、充実した楽しい学園生活のためには、これぐらいの労力は仕方ないのかもしれない。

 そして堀北、何か言いたいことがあるなら言えよ。無言の圧力がすごい。

 たぶん、抵抗がありながらも消去法でこの状況を受け入れたんだと思われる。

 ──これが正解なら、堀北検定があったら3級ぐらい合格できるんじゃないだろうか。

 

「平田くん、ちょっといい?」

 

 テントの移動は、女子たちと協力して運び、それをその場に固定するために、ペグを地面に打ち込む力仕事がオレと平田の役割だ。

 1つ目のテントの移設を完了して、続いて2つ目も移動を終えて、あとは固定するだけといったところで、手すきになった軽井沢グループから平田に声がかかった。

 

「今は近くにいてやった方がいいんじゃないか」

「ごめんね、ありがとう。行ってくるよ」

 

 申し訳なさそうな平田の背中を押してやって、軽井沢グループに合流させる。

 こうして男子の手伝いは1人になった。

 

「…………」

 

 ペグをハンマーで打ち込むぐらい1人で出来ると思ったが、ロープを張るのが思ったより大変だ。1人と2人では、効率が全然違う。

 平田を送り出しておきながら、1人になったとたんに苦戦するのは、ちょっとカッコ悪いな。

 だからといって手抜きでやってテントが固定できなかったら、女子からの評価は、ガタ落ちになりかねない。

 

「手伝おうか?」

「いいのか?」

「ほんとなら女子がやらないといけない仕事だしね」

 

 困っていると長谷部が手伝いを申し出てくれた。渡りに船とはこのことか。

 ロープ張りを長谷部に任せて、あとはオレが抜けないように打ち込むだけだ。

 1人では難しいことも2人だと楽にできる。そこからは順調に作業が進んだ。

 

 

 

「女子の下着って欲しいもんなの?」

 

 ペグを半分打ち込んだところで小休止を取る。

 汗をぬぐっているとそんな質問を投げかけてきた。

 

「どうだろうな……下着自体が好きで欲しいって奴もいるだろうけど、基本は代理品だろうし人によるんじゃないか?」

「代理品?」

「中身が手に入らないから下着が欲しい」

「男子ってやっぱり最低」

 

 長谷部は前髪をかきあげながら、冷めた目で離れた位置にいる男子生徒を見ている。男が好きになれないというのがさらに悪化しそうだが、それが男ってもんだ。諦めて欲しい。

 長谷部の視線が外れた隙に、オレは長谷部のおっぱいを見る。これも男ってもんだ、諦めて欲しい。ジャージの前を首近くまでしっかり閉じていても分かるボリュームの凄さよ。

 

「じゃあ、綾小路くんはいらないんだ?」

「中身が手に入るならな」

「手に入れてるでしょ」

「そうなのか?」

「じゃあ今のは無しで」

「手に入れてたな。……次はどうする?」

「そこは、要相談ってことで」

 

 危ない危ない。返答を外すところだった。

 要相談がいつになるか分からないが、拒否されなかっただけでオッケーとしておこう。

 

「その相談ならいつでも歓迎だ」

「でもさ、もう男子はシャワー室使えないよね」

 

 そうである。重要な問題が生じていた。

 女子と男子の間に亀裂が入った影響が、そんなところにも出たわけだ。

 それまでは夜の利用を許されていたが、女子のポイントで置いたんだから使わないでと主張されてしまっては、どうしようもない。

 まあ、使えないと言っても今日と明日我慢すれば、明後日の昼には無人島生活が終わるので、シャワーのサブの目的、身体をスッキリさせることで言えば、我慢できる範囲だろう。

 本来のシャワー室の目的、性欲をスッキリさせることで言えば、2日というのは長過ぎる。

 集団生活の中で2人きりになれる場所として設置したのに、これだと意味がない。

 

「距離が近くなったからな、どっちにしろ無理だろ」

 

 そして、このテントの移動である。

 離れた位置にあったからこそ、シャワー室であんなことやこんなことをしてもバレずに済んでいたが、今は女子テントから目と鼻の距離だ。

 なんだったら、現在利用中のシャワーの音が聞こえるぐらいだから、Tレックスなどもってのほかである。

 

 丸聞こえの中でTレックスをやる勇気は──それはそれで興奮、いやダメだ。女子に嫌われては今までの努力が水の泡だな。

 

 しかし、シャワー室を封じられるとなると、どうやって無人島生活を過ごせばいいんだろうか。

 下着泥棒許すまじ。いったいどうしてくれようか。

 

「休憩終わるか」

「だね」

 

 これからの無人島性活に頭を悩ませながら、テントの移設作業を終わらせたのだった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 どうやら今日は厄日らしい。

 朝から下着騒動が起こり、テントの移設作業をやらされて、男女間がギスギスしたまま何とも言えない昼食を取り、これで一息といったところで、放置していた厄介ごとが向こうから現れた。

 

「あのさ、綾小路くん……ちょっと話したいんだけどいいかな?」

 

 遊び人だと思って手を出したら処女だったでおなじみの佐藤である。

 

「分かった。少し歩くか」

「ありがとう、いこっか」

 

 いつまでも逃げ切れるものでは、ないだろう。

 覚悟を決めて話をすることに決め、キャンプ地を離れて、川沿いを上流に向けて歩いていく。

 

 生活用水として使っている都合上、川に入ったりするのはキャンプ地よりも下流を使うことがDクラスのルールで定められている。そのため、上流で遊ぶ生徒はいない。

 緩やかに開けているのはキャンプ地周辺だけで、少し歩けば谷間に出て、川の周辺は2メートル近い崖となり、川に入らなければそれ以上は歩いて遡ることは難しくなる。

 このあたりで良いかと、適当に距離を取って岩を選んで腰かけた。

 

 影地を選べば涼しい良い場所だが、特に周囲から隠れているわけではないため、軽い密談はできてもそれ以上のことは出来ないのが難点だ。

 気づかないうちに誰かから見られていても、おかしくはない場所だ。

 

「あーその……なんだ……身体は大丈夫か?」

「一昨日は大変だったけどさ……今はもう平気」

「そうか、なら良かった」

「……うん」

 

 個人差があるらしいが、昨日の長谷部が今日の時点で既にけろっとしていたし、一昨日の佐藤なら言わずもがなだったか。

 櫛田の場合は数日掛かったと言っていた気がするが、時間の都合上、一球入魂だった佐藤や長谷部と初回からハッスルしまくった櫛田とじゃ比較はしにくい。

 

「それで話ってなんだ?」

「綾小路くんってBクラスの一之瀬さんと付き合ってるんだよね?」

「ああ。一之瀬と付き合っている」

「やっぱり……じゃあ、私と付き合ってって言えない、か」

 

 それは、もうほとんど言っているんじゃないか。

 

「佐藤とは付き合えない。彼女がいるから」

「そ、そっか……やっぱり、ダメ、か」

 

 佐藤の表情は読めない。苦笑いを浮かべているようにみえるが、どう感じているのかは未知数だ。

 佐倉のときは、告白される前に終わったから、誰かに告白されて振るというのはこれが初めての経験で、佐藤の気持ちを察するにはレベルが足りないようだ。

 

「一之瀬さんかー。私なんかじゃ、一之瀬さんには勝てっこないね。頭いいし、美人だし、愛嬌もあるし、胸だって大きいし、私じゃ全敗だ」

 

 こうやってあたらめて羅列すると一之瀬はスーパー彼女だな。

 

「そんなことはないんじゃないか。佐藤にだって勝ってる部分はある」

「どこ? 参考までに聞かせてくれないかな」

「それは、正直に言った方がいいか?」

「うん、教えて欲しい」

 

 よし、佐藤が教えて欲しいっていうから言うだけで、オレは悪くない。

 

「佐藤は、あれだ……エロ可愛い」

「エロ可愛い?」

 

 元々外見だけなら文句なしで、上位グループにいると言える。その上位グループの中で、佐藤が抜け出す要素があるとすれば、エロさだ。

 

「着崩した制服とかエロいし、足を組んだ時に見える太ももとかエロい。今もそうだ。ジャージをちょうど胸の中間部分までファスナーを開いてるところとか、すごく良いと思うぞ」

 

 割とそうしている女子は多いが、佐藤がやると妙にエロ可愛いのは何なんだろう。

 指摘されて胸元に手を置いても、ファスナーを閉じ直したりはしないあたりが佐藤の良いところだな。これが一之瀬だったら、同じ指摘を受けたら慌てて上まで引っ張り上げるはずだ。

 

「それって褒めてるのかな?」

「ものすごく褒めてる。佐藤とは、ああいう関係になったが、誰だっていいわけじゃない。彼女が居て遊ぶんだったら、佐藤みたいなエロ可愛い子が良いと思ったからだ」

 

 佐藤が遊んでいると思いきや遊んでなかったのは、想定外だったけどな。

 

「そっか……遊びだったんだ」

「いや、その、それは、すまん。佐藤が本気になるとは」

 

 しまった。思いっきり選択肢を外した気がする。

 何か挽回する余地はないのか。考えろ、考えるんだ。

 そもそも佐藤が本気になる要素はどこにあったんだ。

 

 オレと佐藤の接点はそこまでないはずだ。連絡先は交換済みとはいえ、平田とかの付き合いで1度だけグループで遊んだことがあるぐらいで、親しかったわけじゃない。

 ちょこちょこと気にはしていたものの、大体減点していってただけだ。

 当然ながら惚れられていたような実感はない。

 それがなぜ告白されるような事態に陥ったのか。一昨日の朝に何があったかを思い出せ。

 

 シャワーを見られた→Tレックス。

 

 おかしい、因果関係が分からない。

 シャワーを見られただけで、Tレックスってよく考えたらおかしくね?

 何かがあった気がする。もう少し詳細を思い出せ。

 

 シャワーを浴びてたら佐藤が扉を開けて、中へ引き込んで、誰にも言わないように頼んで、佐藤がTレックスに見とれて──それだ。

 

 え、佐藤ってアレが大きいで惚れたの? ちょろいし、やっぱエロくね?

 

「それで、佐藤はどうするんだ?」

「どうするって……」

「諦めるのか?」

「諦めるって……何ていうか……」

「佐藤は、忘れられるのか?」

 

 質問を畳みかけながら、ゆっくりと岩の上で足を開いていく。

 遠目で見るとただ2人で座って話しているだけだが、佐藤の位置からはジャージを押し上げる雄姿が見えているだろう。

 

「そ、それは……」

 

 佐藤の視線が引き寄せられているのが分かる。いやでも目が行ってしまうらしい。つくづくどんな惚れ方だ。

 

「野暮なこと聞くが、どこに惚れたんだ?」

 

 佐藤は少しだけ頬を赤らめて顔をそむけた。

 それでもチラチラと目だけで股間へと視線を送りつけてくる。どんだけだ。

 

「どうして、って……シャワー室のさ、アレ。綾小路くんの凄かったって言うか。今までこんなに近くにいたのに全然ノーマークだったって言うか。見た目は草食系なのに、肉食系なのもギャップがあっていいし、と、とにかくそういうわけだかっ」

 

 最後の『ら』が聞こえないほど羞恥心が膨れ上がったらしい。

 そりゃそうだ。股間がすごかったし、ギャップが良かったとか、告白として斬新過ぎるわ。

 

「そうか……なら、また()()に誘っていいか? 佐藤と遊ぶのは楽しかったし、また遊びたいと思っている」

「それってどういう関係?」

「都合のいい女」

「えぇ? そうなの?」

 

 あ、しまった。また選択肢を外している。

 佐藤のぶっとんだ告白に、思わず本音がこぼれてしまった。

 よし、それっぽく取り繕おう。まだリカバリーが効くはずだ。

 

「言葉は酷いかもしれないが、そういう関係の方が互いに気兼ねが無いんじゃないか?」

「私から誘ったりは?」

「彼女持ちをか?」

「ごめんごめん! 今の忘れて」

 

 ぶっ飛んだ提案なのに、そこは常識に引っ張られるんだな。だが、好都合だ。

 この2日間で分かったことがある。佐藤は危険だ。

 櫛田とか長谷部みたいに程よい距離を保てる奴なら、距離感を任せて問題ないが、佐藤の場合は近くに置いておくとやらかすに違いない。

 ある程度こちらから距離を制御する必要があり、そこを譲るわけには行かないのだ。

 そういう意味だと佐倉は近すぎるが、佐倉の場合は、オレ以外に馴染めていないという理由があるので、なんとなく周囲から受け入れられている。

 扱い的には、マスコットに近いのかもしれない。

 

「佐藤がそういう関係が嫌なら、ただのクラスメイトにしかなれない」

「それは絶対ヤダ」

「よし、それならまた遊びに誘うってことで、気が向いたら連絡する」

「…………」

「待っててくれるか?」

「……うん、待ってるね」

 

 地雷を解除したのか抱えてしまったのか、あとで苦しみそうだ。

 とりあえず、先延ばしはできた。佐藤との突発的なTレックスを経て不安定だった関係性は、都合のいい女ということで決着した。

 

 決着ついでに、シャワー室使えなくなったし、ここで1発やっとくか。

 そうか、TレックスのTは、都合の良い女のTだったんだな。

 間違っても、トウモロコシのTではないことをこれで今日中に証明できるはずだ。

 周りから見られる不安があるから怖いが、都合のいい女ならそれぐらい──って人の気配が。

 

「佐藤、頼みがある。急いでベースキャンプからDクラスの生徒をここに集めてくれ、オレは茶柱を呼んでくる」

「へ? わ、わかった。居る人だけでいいんだよね」

 

 Tレックスを解放するかどうかで、意識を周囲に向けると、川の上流から生徒が1人こちらに向かってきているのを見つけることができた。

 手短に指示を出して、ベースキャンプの側に拠点を構えている茶柱を呼びに、急いで走る。

 

 先にDクラスの生徒が集まりだしていた中へ、茶柱を連れ出して戻った。

 なんとか上流から川を下ってきた生徒が陸地へと上がるところに間に合ったようだ。

 担任へ仕事を依頼する。

 

「茶柱先生お願いします」

「……不正利用だな」

 

 茶柱が確認するタイミングでちょうど川から上がっていたが、頭からずぶ濡れの姿が川の利用を物語っていた。

 

「不正利用だと。川に落ちただけじゃないか」

 

 指摘を受けて不正利用の生徒が反論する。

 

 Dクラスは川をベースキャンプにしているが、別に川の全てがDクラスの占有施設というわけではない。せいぜい開けた場所の前後数百メートル程度だ。上流や下流に行けば、Dクラスの施設からは外れてしまう。

 川辺に出られるところには、占有地を示す看板が設置されており、通常ならば、他クラスがあえて占有範囲にある川を使う理由はない。

 

 ただ、佐藤と話していた場所から先は、谷間になっているため、一度川に落ちると川辺へ上がってもそこから外へと出にくくなっているのだ。ちょっとした崖をよじ登るという選択肢を除けば、開けた場所に出るまで浅瀬の岩場を歩くのか、川の流れに身を任せるのか、あるいは川の流れに逆らって上流に向かうかして谷間エリアを抜けなければ、川から離れることができない。

 濡れた身体を引きずるよりは、川から離れられる場所に出るまで流れに任せて泳いだ方が楽だ。

 この生徒はそれを選択し、川から離れられる開けた場所を求めて、Dクラスの占有スポットに辿りついてしまったんだろう。

 

 もっとも、この生徒が川に落ちたのは、ただ不運というわけではない。

 何を隠そうこの生徒は、2日前にオレから手書きの地図を奪った生徒だからだ。

 

 それほど難しいことではない。食料の在処を示した地図の中にフェイクを混ぜただけだ。

 草が生い茂り、崖との境界線が分かりにくくなっている場所にある木を地図に描いて、果実がなっているという嘘を残した。

 果実を探そうと意識が上に向いていると、境界線を踏み越えて川に落ちるという罠だ。

 

 単純なものだけに、引っかかったら儲けもの程度のものだったが、どうやら無事に実を結んだらしい。果実の嘘だけに。

 ほとんどDクラスが回収済みだったとはいえ、フェイク以外は本当に食料のあった場所を記載していたので、情報の提供が無駄にならなくて良かった。

 

「そんな理屈が通るかよ。川を使ったのが明らかじゃねえか」

「これって占有地の不正利用だよな?」

「ルールでダメって書いてあった奴だよね」

 

 さっきまでいがみ合っていたとは思えない勢いで集まってきた生徒が責め立てる。

 共通の敵の存在が、男女間の溝を浅くしていた。

 

「許可無く使用した場合ってルールだったはずだけど、誰も許可してないよね?」

 

 いいぞ、松下。そういうのが欲しかった。

 

「してねえよ。するわけないだろ」

「伊吹ちゃん以外は、していないはずだよ」

「だよね」

 

 これで不正利用が確定した。

 相手はAクラスの生徒だ。1対1とかなら言いくるめられる可能性があるが、人数差でフルボッコ状態ならどうしようもないだろう。

『D・V・D!!』『D・V・D!!』の勢いで不正コールが起きそうなぐらいだ。

 

「違う……これは」

「どう違うんだ?」

「それは……」

 

 言い訳しようとした生徒を茶柱が詰める。

 変に言いがかりをつけられないように、集団の中に身を隠した。

 

 もっとも、仮に騙されたと騒がれたとしても、先に果実を回収したとでも主張しておけば、それで終わりだろう。

 罠の証拠として残っているのは地図だけだ。地図を奪い取った行為は、ルールで言えば反則行為であり、それを表沙汰にすることなどできない。

 必要以上に騒げば、どうやって情報を手に入れたのかという話になってくる。

 そこまで考えが至ったのか、Aクラスの生徒が折れた。

 

「不正利用でいいです」

「不正利用を確認した。規則によりAクラスからは、50ポイントの減点とする」

 

 Dクラスを相手にしているときは、イラっとすることが多い茶柱だが、こういうときに淡々と処理を行うのは頼りがいがあるな。

 思わぬ最上位クラスの失態に、Dクラスからは歓声があがった。

 

 リタイアしておけばマイナス30ポイントで済んだものを、どうにかしようと頑張った結果、マイナス50ポイントになってしまうとか哀れ過ぎる。

 惜しむべくは、川に落ちるその瞬間を見れなかったことだろうか。その瞬間が見たかった。伊吹からデジカメを借りて動画に納めたかったぐらいだ。

 

 

 こうして、下着泥棒から始まった男女の対立は、Aクラスの犠牲によりなんとなく緩やかなものへと変わり、残り2日間、男子が交代で寝ずに荷物の番をするというので、落ち着いたのだった。

 

 改めての男子のシャワーの許可は下りなかったけどな、無人島性活どうしようか。

 

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