綾小路Tレックス   作:チームメイト

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無人島編その12 堀北改造計画

 6日目

 

 いつもの時間に目覚め、寝ずの番を担当していた生徒と見張り役を入れ替わる。

 

「雨が降ったみたいだな……」

 

 昨日までと違い、空模様に暗雲が漂っている。

 既に1度降った後らしく、地面のところどころに水溜りが生まれ、ぬかるんでいた。守るべき荷物は、防犯対策もかねて寝る前に、各自でビニールで包んでおいたので無事みたいだ。

 ビニールは、簡易トイレ用に無制限で貰えることを一之瀬から教えてもらっておいてよかった。

 

 ただ、本格的に降られると薄いビニール程度で防げるのか分からないため、荷物の対策も必要になりそうだった。最悪、寝るスペースを削って、テント内に荷物を入れることも考えないといけないだろう。

 

 この天気だとシャワーの有無は関係なかったな。

 シャワーを浴びようが、雨に降られてしまっては、あまり意味がないからだ。

 こうなってくると傘ですら人類の英知のように感じてしまうが、傘を手に入れるのにもポイントと交換になるので諦めるしかない。

 

 大きな葉っぱでも探してきてトト□スタイルという手は、どうだろうか。

 まあ、今日が終われば明日の最終日は、午前中だけで終了だ。試験さえ終わってしまえば、制限された生活からも解放されるわけで、そこまでこだわらなくていいだろう。

 Dクラスは既に今日と明日の分の食料を確保済みなため、あとは体調不良にさえ注意すればクリアとなる。高円寺の犠牲は無駄ではなかったと言える。

 

 

「……日差しが隠れるのはいいが、まだ雨が降りそうだな」

 

 周囲を歩きながら、目を光らせていく。

 そろそろ太陽が出てきていい時間のはずだが、雲に隠れてしまっているようだ。どうやら今日は雨から逃れられないらしい。

 昨日までは澄んで大人しかった川だが、雨水で増水して少し濁っている。飲み水にするのは避けた方が良さそうだ。昨日、用意した水だけだと少し心配だが、日差しがマシな分だけ何とかなるか。

 

「南西の方から雨雲が近づいてきているわね。思ったよりも早く天候が荒れるかもしれないわ」

「早いな」

「怪しい人影が見えたから起きただけよ」

「どこだ?」

「目の前にいるわ」

「オレは下着泥棒じゃねえよ。面白い冗談だ」

 

 オレを信用していないというよりも、堀北ジョークの一環なんだろう。

 

「…………」

「冗談だよな?」

「…………」

「冗談であってください、お願いします」

「考えておくわ」

 

 もうやだこの力関係。

 オレが堀北に何をしたって言うんだろうか。

 まあいい。堀北がこの時間に起きてきたのは、好都合だ。今日の予定を決めてしまおう。

 

「……堀北」

「何?」

「ちょっと付き合ってもらっていいか」

「嫌よ」

「あの、堀北さん、そこは同意してくれませんかね」

 

 堀北の依頼を断ると蹴るくせに、こちらの依頼は容赦なく断るとかないだろ。

 

 その後、何とか堀北を連れ出すことには成功したが、空模様と同じで6日目は、イマイチ幸先のよくないスタートとなったのだった。

 

 

 

「それでどこに行くのかしら?」

「ちょっとな」

「帰るわ」

「待て、そう急ぐな、話を聞け」

 

 朝の点呼を終えて、堀北と2人で森の中を歩く。

 6日目ともなれば、島のどこに何があるのかは、ある程度生徒の中で共有されている。空模様もあってか、探索中と思われる生徒は、ほとんど見かけなくなっていた。

 

「探しているのは、Cクラスだ」

「Cクラス? それは本気で言ってるのかしら」

「真面目な話だ」

「Cクラスは、ポイントを使いきってリタイアしたわ」

 

 変なことを言っているわけではないので、怪訝そうな目をしないで欲しい。

 

「表向きはそうだが、はっきりしていない部分がある。Cクラスの担任はどこにいるんだ?」

「それは……」

「担任はベースキャンプに拠点を構えてクラスと生活を共にするのがルールだ。1日2回行われる点呼やポイント交換の申請に必要だからな。それで、2日目以降も何度かCクラスのベースキャンプだと思われた海岸に行ってみたが、担任の姿は確認できていない」

「リタイアしたからでしょう」

「伊吹や金田がいるのにか? まあ、ポイントがゼロなら点呼する意味がないし、ポイント交換もやりようがないから、担任が居ても居なくても変わらなくなってるけどな」

 

 茶柱の説明によれば、担任はベースキャンプで生活を共にするのが、ルールだったはずだ。

 堀北の言うように、生活を共にする生徒が居ない場合、どういう運用が行われるのかは未知数な部分がある。

 が、ベースキャンプから離れた生徒がいつ戻ってきてもいいように、担任はベースキャンプに残らなければならないと考えるのが妥当だろう。

 

「つまりだ。海岸に居ないのであれば、龍園が海岸で作り上げたパラダイスは、他のクラスを騙すためのフェイクでCクラスのベースキャンプは別にある」

「パラダイス?」

「そこは忘れてくれ」

 

 あの海岸で大切なのは、ビキニ女子(パラダイス)だが、今している話で重要なのは、そこじゃない。

 

「見つけてどうするの?」

「Cクラスの生徒の多くが船へと向かったのは、目撃者がいる。リタイアしていない生徒は少ないはずだ。もしかしたらリーダーを当てられるかもしれない」

「外されると困るのだけれど」

「無理はしないさ。残っているのが1人でスポットを抑えているのを見つけるのが理想だな」

「そう上手くいくかしら」

「さあな」

 

 リーダーが龍園である可能性が高いとは思っているが、それを確定できる可能性は、正直、あまり高くは無いだろう。

 ベースキャンプを見つける。残っている生徒の人数を調べる。その中からリーダーの証拠を掴む。

 越えなければならない課題が多い。できたら儲けもの程度のものだな。

 

「一応、連日探してみたが、見つかっていないからな。目立つところではなく、どこかに隠れているんだろう」

「探していたの? 居ても居なくても変わらないから気づかなかったわ」

「オレは別に隠れてないからな」

 

 これも堀北ジョークだろう。

 もし本気だったら、堀北との交流が多い方のオレですらそうなら、誰が消えても気づかないんじゃないか。

 クラスで1人ずつ姿を消していって何人目で堀北が気づくのかドッキリとか、機会があればやってみようか。櫛田に話を通せば実現できそうだが、さすがに後ろ向き過ぎるか。

 ダメだ。姿を消しても気づかれなかった須藤が暴れてる図しか、想像できん。

 

 

「やっぱ担任は居ないな」

「何もないわね」

 

 Cクラスの拠点と思われた浜辺へと足を運んだ。

 天候が崩れているせいか、前に見たときよりも波が高くなっている気がする。

 

 Cクラスがリタイアした後は、そのまま使われていないようだ。

 ここが隠された拠点ではないことは、明らかだった。

 

「それでどうするの?」

「心当たりなら一応ある。合っているかは、知らんけどな」

 

 わざわざここに来た理由は、使われていないことを確認したかったからではない。

 浜辺は、崖に囲まれた半月形の砂浜となっている。

 崖の先に何があるのかは、ここからでは確認できない。

 

「左右の崖の裏側が怪しいと思っている」

「理由は?」

「堀北も見たと思うが、Cクラスはジェットスキーをレンタルしていた。目的がレジャーだったのなら、それで終わりだが違う理由があったとしたら?」

 

 遊びまくってポイントを使いきったアピールは、リタイアと思わせるためのフェイクだった。

 Cクラスの担任の姿が無いことから、おそらくここまでは間違いないだろう。

 その上で、リタイアしたと思わせるためのフェイクだったと見抜かれることまで想定しているかもしれない。嘘だと見抜いた時点で満足してしまうのが人の性だ。そこに罠が無いだろうか。

 レジャーにお金を使ったのはフェイクのためだと気づかせることで、そこで思考を打ち切らせて本当の意味を隠している可能性がある。

 

「ジェットスキーが必要だった」

「そうだ。調べてみたが、左側は上から降りられるようになっていて、設置してあったスポットはAクラスが抑えていた。が、右側の方は1人で降りられるような場所が無かった」

「……海からならそこに入れるのね」

「可能性としては高いと思わないか?」

 

 左右にある崖の裏側のうち、片側は何があるのかを確認済みだ。

 例の釣り小屋である。佐倉と2人で回った時に見つけた奴だ。そちらを確認し直す意味はない。佐倉となら魅力的だが、堀北のおっぱいでは堪能したところでお察しだからな。

 

「そうね、考慮に値すると言わせてもらうわ」

「崖の向こう側を確認したいんだが、堀北には手伝って欲しい」

「まさか泳ぐ気?」

「いや、ついてきたら分かる」

 

 最悪、衣服を預けて泳ぐことも考えていたが、今日の波の荒れようだとなしだ。

 1度浜辺から離れて、既に目をつけていた場所へと向けて堀北と向かった。

 

 

 

「ここだ」

 

 連れてきたのは、崖の上へと回って、裏側へと降りられそうな場所で1番低い地点だ。

 そこだけなんとか段階的に降りられるようになっており、他よりはマシになっている。

 道中はちょっとしたハイキングで、一息入れて呼吸を整える。

 

「高いわね」

「3メートル半ってところだな。だいたい2階の高さがこれぐらいだ」

 

 マシと言っても、下に見える砂地までは、そこそこある。

 下が砂地であれば、飛び降りて怪我するような高さではないが、問題は戻るときだ。

 ほとんど直角に近い崖で、この高さを1人で登るのは厳しい。が、

 

「これぐらいなら、2人居れば登れるはずだ」

「そうね、登れるかもしれないわ。でも、どうして私なのかしら?」

「ある程度、動ける奴って条件で適任なのが、堀北だっただけだ」

「須藤くんは?」

「動けるって意味なら1番だろうが、目的はCクラスの拠点探しだぞ。Cクラスに須藤をぶつけて問題が起きないと思うか?」

「考えたくないわね」

 

 想像したくもない惨事が起こりそうだ。龍園と須藤を引き合わせるのは、鬼門でしかない。

 そういう意味だと、動けて人当たりの良い櫛田とか平田なら問題ない。

 ただ、泥棒事件のせいで男女の間が微妙になっている中で、間を取りもてる2人を動かすと、今度は別の問題が生じかねないから却下した。

 

 動けるボッチの堀北こそが、最適解だ。

 

「確認してくるから、ここで待っていてくれ」

 

 堀北にして欲しいことは単純だ。

 ジャージの上着でも渡しておいて、戻るときにそれを垂らして、支えてもらえればそれでいい。

 掴むところさえあれば、引き上げて貰わなくてもよじ登れない高さではない。

 あとは、堀北が支えきれるかだが、オレがうまく壁に体重を分散させれば、問題ないだろう。

 

「……私も行くわ」

「大丈夫か?」

「リーダーを当てられるかどうかは大きいわ。あなた1人に任せられないもの」

「分かった。先に行く」

 

 戻るときに少しめんどくさくなるが、この高さなら堀北を肩の位置に乗せて持ち上げれば、残りは2メートルを切るはずだ。

 ある程度動ける人間なら2メートルの壁をよじ登ることは造作もない。手さえ届けば下から押し上げることもできるしな。

 堀北を上にあげれば、当初の予定通りオレがよじ登るきっかけを作ってもらえばいい。

 少し手順が増えるだけで、やることは変わらない。

 

 一瞬、堀北が1人でそのままオレを置いて立ち去る姿が脳裏に浮かんだが、そんなことしないよな。信じてるからな、堀北。

 

 覚悟を決めて、先に砂地へとダイブした。

 

「……受け止めた方がいいか?」

「1人で十分よ」

 

 砂がうまく衝撃を吸収して、ダメージはそこまでない。

 その場で堀北を見上げて、抱きかかえる姿勢を取ってみたが、あっさり断られたのでその場を離れる。

 

 堀北は、後ろ向きになって手で身体を支えながら足から高さを下げていき、下げられるだけ下げた位置から、最後は崖を蹴るようにして飛び下りてきた。

 堀北にしては慎重な下り方だったが、これならほとんど衝撃もないだろう。

 

「行くわよ」

「ああ」

 

 堀北を先頭に、未探索の崖の裏側の調査へと入った。

 

 

 

「居ないじゃない」

「外れだったな」

 

 結論から言うと、Cクラスの生徒はいなかった。

 崖の裏側は入り組んでいて、何か所か崖の内側に入れるようなところがあったが、そのどこにもCクラスの生徒どころか、誰かが寝起きしたような痕跡すらなかった。

 

 予想は空振りだったようだ。

 

「悪いな」

「違うわ、悪いのは私よ。綾小路くんの説なんかを信じた私が愚かだったわ」

「自虐風にオレの悪口を言うのは止めろ」

 

 ここにも居ないとなると、あとは考えられるのは山の中か。

 通りやすい道から外れた藪の中に入られてしまうとお手上げだ。何も手掛かりがないまま、道なき道を探すのは無謀すぎる。下手すれば探しに行った結果、遭難してリタイアになりかねない。

 Cクラスの拠点探しは、諦めるしかないだろう。

 

「しまった。降り出したか……この雨なら、しばらく待ったほうが良さそうだな」

 

 諦めてベースキャンプに戻ろうとしたところで雨が落ち始めた。それも、先ほどまで降っていなかったとは思えないような、急な激しい奴だ。

 島の天気は変わりやすいらしい。

 この豪雨の中で、崖の上へと戻るチャレンジは、危険度が高くなる。

 最悪、実行しないと帰れないわけだが、点呼にさえ間に合うのなら急いでベースキャンプに戻る必要はない。ここは待ちの一手だろう。

 

「踏んだり蹴ったりね」

「それ物理的に攻撃するって意味じゃないからな」

 

 堀北よ、天気のことまでオレにあたるのはやめてくれ。

 

 洞窟と言うほどではないが、雨風が防げる程度に崖の内側に入れるスペースの1つへと駆け込んで、しばらく雨が止むのを待つことになった。

 

 雨に打たれていた時間はそれほど長くないが、急激な豪雨でジャージどころか中の体操服までぐっしょりだ。とりあえず、ジャージを脱いで絞るか。

 堀北に背を向けて上下のジャージを脱ぎ、傷まない程度に力を入れて絞る。

 ジャージはこれでいいとして体操服はどうしようか。

 

「ん? ズドって堀北ドラ〇ンボールごっこは……って堀北!?」

 

 背後から重たいものが落ちるような音が聞こえた。

 てっきり某国民的アニメ作品の重い衣服を脱ぎ捨てるモノマネでも始まったかと思いきや、背後で堀北が倒れていた。慌ててジャージを投げ捨てて、駆け寄る。

 不幸中の幸いか、頭は打っていないようだ。

 

「相当熱が出てるな」

 

 額に手を当てると、はっきりとした熱さが掌に伝わってくる。おそらく38度を超えるかどうかといったところか。

 

「ん……」

 

 相対的な冷たさが伝わったのか、堀北が吐息を零した。

 

「大丈夫か?」

「……離して」

 

 か細い声だった。

 

「無理するな。強がるような状況じゃないだろ」

 

 普段の堀北なら払われそうだが、そうする気力もないらしい。

 

「濡れたままだと身体が冷える。脱がすぞ」

「……やめて」

 

 ファスナーに手をかけると、さすがに身体をねじりながらオレの手を掴み、抵抗し始めた。

 

「このまま熱が上がると強制リタイアだ。いいのか?」

 

 いざというときのために、腕時計越しに生徒の体調は監視されているはずだ。どこまで許容されるのかは分からないが、熱が上がればデッドラインに近づいていくのは間違いない。

 リタイアを匂わせると、オレの顔とジャージに掛かる手を交互に見て、リタイアと衣服を脱がされることへの負担とを天秤にかけて考えたのか、抵抗をやめて項垂れるように顔を伏せた。

 

 できるだけ負担にならないように、身体を支えて浮かせながらジャージを脱がす。

 オレと同様に体操服まで濡れきっており、ブラが透けていた。

 

「それもだ……余計な手間は増やすなよ」

 

 腕で隠そうとする堀北を制して、多少の抵抗はおかまいなしに、そのまま体操服まで脱がして取り上げた。睨みつけられたが、人命とポイントを優先させてもらう。無視だ無視。

 

「少し待ってろ」

 

 取り上げた衣服を絞りに離れて、絞れるだけ絞って水を切る。

 ついでに、自分の体操服の上を脱いで、同じように絞った。

 

「直接よりはマシだろ」

 

 絞り終わったジャージを地べたに広げ、堀北を抱きかかえて、その上へと横たえる。

 とりあえずこれで、身体がこれ以上冷えるのは、避けられるはずだ。

 ただ、絞ったとはいえ、濡れた衣服ではクッションの代わりになっても、布団の代わりにはなりそうにない。どうにかする必要があるだろう。

 

「情けないわ」

「悪かったな、体調が悪かったのに、無理させたみたいで。言ってくれれば頼まなかったのに」

 

 堀北の体調が悪いことは、なんとなく察していたが、ここまで酷いものだとは思っていなかった。せいぜい、微熱程度だと思いきや、相当な無理をしていたようだ。

 

「そうね、あなたのせいよ」

 

 堀北の嫌味にほっとしたのは、初めてかもしれない。

 

「あなたが信用できなかったせい」

「…………」

 

 この状況でこの言葉である。どんだけ強情なお姫様だ。

 だが、それが堀北なんだろう。堀北は、強くて弱い存在だ。個として見たときの能力の高さは、目を見張るものがあるものの、それはあくまでも個としての強さでしかない。

 

 個の強さには限界があり、学園の用意するクラス間の争いでは、それだけでは通じない部分も出てきている。

 堀北1人の力で勝てるほど甘いものではない。この無人島試験とかがそうだ。

 はっきり言ってしまえば、この無人島試験での堀北の貢献は、日ごろ堀北が下に見ている須藤や池とかよりも低く、下から数えた方が早いぐらいだろう。

 

 今だってそうだ。体調が悪いのなら、しっかり伝えてくれていれば、堀北に頼まずに、代案を考えることは出来た。ベースキャンプでゆっくりしていれば、こんなことにはなっていないだろう。

 弱みを見せることができない強さが、堀北を追い込んでしまっている。

 

()()()()信用できなかったせい」

「…………」

 

 後悔しているのか、熱のせいなのか、どこか虚ろ気な目をしたままで、堀北の視点が定まらなくなってきていた。

 危ない傾向だ。早く何らかの対処をしなければ、このままリタイアになりかねない。

 

「今からでも遅くは無いんじゃないか?」

「無理よ。私は……ずっと、こうやって生きてきたもの。今さら誰かを信じるなんて」

「Aクラスに上がれなくてもいいのか?」

「上がるわ……なんとしても」

「1人じゃ無理だ。もう分かっているだろ」

「分かっているわ……それでも無理だもの」

「分かっているのならそれでいい」

 

 堀北は強情だが、バカではない。どうしなければならないのか、堀北の中でとっくの昔に答えは出ているんだろう。

 それでもその選択肢を選べないというのなら、オレが強引にでも堀北の世界を広げてやろう。

 背中は押してやる。それが堀北が望む形では無かったとしても。

 それはきっと、弱さを表に出している今の堀北でなければ、できないことだ。

 

 今からやろうとしていることは、許されない行為かもしれない。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 オレは、覚悟を決めて、堀北改造計画の実行に入る。

 

「堀北は、着やせするタイプだったんだな」

 

 正面から改めて堀北の身体を見る。

 佐倉や長谷部に対抗できるようなサイズではないものの、しっかりとした谷間がそこにはあった。

 身体が細い分だけ、サイズの割にはボリュームを感じさせるものだ。

 胸が無いキャラとして散々弄ってきたが、どうやらオレの見立ての方が間違っていたようだ。

 Tレックスが咆哮をあげるのに合わせて、最後の衣服を脱ぎ捨てた。

 

「何をする気」

「これからお前の身体を温める」

「やめなさい……やめて……」

 

 衣服を脱ぎ捨てたオレを見て、状況を理解したようだ。

 それまで焦点が定まっていなかった堀北の目に、非難の色が灯もる。

 言葉だけの抵抗でTレックスが止まるものか。

 2人の身体をぶつけるように、覆いかぶさった。

 

「……綾小路くん」

 

 ほとんど距離を無くした状態で見つめ合う。

 互いの呼吸に合わせて胸が動いているのを感じ取ることができた。

 

「これは、オレからお前に与える罰だ。誰も信じようとしなかった自分の罪を恨め」

「……私の……罪」

「1人ではできなくても2人ならできることがある。そのことを教えてやる」

「…………」

「堀北、お前の狭い世界を広げて、新しい世界を見せてやる」

「……き……たら」

 

 最後の堀北の言葉が何だったのかは、聞き取れなかった。

 あきらめの言葉だったのか、批判だったのか。恨み言だったのか。

 なんだっていい。どうせやることは変わらないのだから。

 堀北の頑なな心を折って、新しい世界を教えてやる。

 

「堀北」

「…あやの…うじくん」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しやっちまった感が漂っているが、過ぎたものはどうしようもない。

 一仕事終えた後は、軽い尿意が襲ってくる。ここは少し冷静になる意味でも、済ませておくべきだろう。

 堀北の身体から離れ、ゆっくりと立ち上がった。

 

「どうしたの?」

「ちょっと、トイレだ」

「わかったわ」

 

 堀北はその場で四つん這いになり、オレの方へと向けて口を開いた。

 その顔色は少し良くなっているように見えるが、行動はかなり頭が悪い。

 

「……いつでもいいわよ」

「よくねえよ」

 

 わかっていない。こいつは全然わかっていない。

 何をする気だ。

 

「まさか大きい方なの?……さすがにそっちはちょっと」

「ちょっとじゃねえよ」

「そこまでいうなら覚悟を決めるわ」

「ちょっとじゃねえよっていうのは拒否ってんじゃねえよって意味じゃねえよ」

 

 はぁ、はぁ、はぁ。

 息が苦しくなるツッコミは久しぶりだ。

 

「まだ、私には早いと思うの」

「まだじゃねえ」

「今やれっていうのね」

「だからそういう意味じゃねえ。未来永劫そこに至らなくていいから」

 

 こいつはいったいどこに向かっているんだ。

 

「でも、男の人は女を支配したらそういうことをやるんでしょう?」

「支配されたいのかよ」

「貴方は私に新しい世界を見せてくれるのでしょう?」

 

 どんな世界に連れていけというんだ。

 ダメだこいつ早くなんとかしないと。

 

「お前の知識は偏っている」

「偏っている?」

「どこで得た知識なんだよ」

「兄さんの部屋で見たわ。兄さんがこの学校に進学した後、部屋の整理に何度か出入りしたのだけれど、部屋で何冊か見た本は全部そういう内容だったわ」

 

 いや、兄が寮生活を始めたからって兄の部屋に入ってエロ本を漁ってるんじゃねえよ。部屋の整理に出入りって絶対言い訳だろ。

 そして鬼畜眼鏡先輩は眼鏡先輩で、偏ったエロ本を集めてるんじゃねえよ。

 鬼畜眼鏡先輩が、本当に鬼畜眼鏡だった可能性が急上昇だ。

 

 いろいろと言いたいことはあるが、話は簡単なものではない。

 兄がシスコンならこいつはこいつでブラコンだ。

 ずっと兄の後ろを追いかけていたこいつにとって兄とは絶対であり、兄から得た知識(勝手にだが)を覆すのは、並大抵のことではないだろう。

 これもこいつの殻を破る一環か。

 

「オレにそういう趣味はない」

「でも、この辺りにトイレはないはずよ。そして、環境汚染はペナルティー。綾小路くんが取る行動は答えが決まっていると思うわ」

「そこでポイントを持ち出すなよ」

 

 海に向かって済ませるつもりだったが、問題になるだろうか。大きい方なら問題だろうが、小なら見られさえしなければ、何も問題はないはずだ。この暑さに雨だ。証拠もすぐに消えるはず。

 ペナルティーの条件は、環境を汚染する行為を発見されること。

 発見さえされなければ、問題はない。

 

「綾小路くん、貴方は私の覚悟を無駄にする気なの?」

「何が堀北をそこまで突き動かすんだよ」

「私は、Aクラスを目指すわ」

「その先にあるのはMクラスだ」

「うまいこと言うのね」

「全然うまくねえよ」

 

 あのコンパスをオレに突き刺してきたり、スペシャル定食と引き換えに脅してきた堀北の姿は、どこへ行ったんだ。

 

「少し待ってろ、済ませてくるから」

「続きがあるのね?」

「お前はまだ折れてないんだろ」

「そうね……まだ折れてないわ」

「なら、徹底的にへし折ってやるから覚悟だけしとけ」

 

 折れた結果が、ドMでした。みたいなオチだけは無いと信じたい。全裸のまま崖の外との境界線まで出てそのまま外へと突き出す形でさっさと済ませる。

 雨をシャワー代わりに洗ってしまえば完了だ。

 

 さて、こっからは徹底的にやるしかない。気合を入れなおして再び堀北の元へと戻った。

 オレは堀北の心が折れるまで、何度でも綾小路Tレックスを召喚しつづけるしかない。ドロー、モンスターカード、攻撃。狂戦士の魂よ、もう1度オレに力を。

 

 

「堀北」

「綾小路くん」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 

 まだまだ

 

 

「堀北」

「綾小路様」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 

「堀北」

「清隆様」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 

「鈴音」

「清隆様」

 

「「ア〇ル小路ティーーレーーーーーックス」」 

 

 

「鈴音」

「ご主人様」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 

 

 長い戦いは終わった。

 

「うははは! ドロドロだぞ堀北! イカくせぇ!」

 

 完全なる勝利宣言だった。

 ヒートアップしたままで、テンションが制御しきれてないが、そこは勘弁して欲しい。

 

 長い闘いだったが、オレはやりきることができた。

 途中でTレックスの亜種が召喚されたのは想定外で、色々やり過ぎた感じがあるが、とりあえず堀北をへし折ることには成功したと思いたい。新しい問題が生じた気がしないでもないが、堀北改造計画により、堀北の抱えていた問題は解消された。

 

 堀北は、今日の戦いをもって、狭い孤独な世界から抜け出して生まれ変わったのだ。

 オレをご主人様として。

 

 

 どうしてこうなった?

 

 

 ま、まあ、いいとしよう。

 色々とスッキリして汗を流した結果、体調も良くなったようだし、すっかり雨も上がっている。

 ベースキャンプに戻るとするか。

 

「どうだ、少しは他人を信じられる気になったか?」

「そうね……ずっと気にかけてくれていた櫛田さんから信じてみることにするわ」

「……え?」

「え?」

 

 よりによって裏表の激しい櫛田(そこ)かよ。

 櫛田さんは裏表が激しいからこそ信用できる上級者向けだぞ。

 

 最初に信じるのは、クラスのリーダーの平田でよかったんじゃないだろうか。

 

 堀北がまた誰も信じようとしない堀北に戻りませんように。

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