綾小路Tレックス   作:チームメイト

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船上試験編その3 もう一つの忘れ物

 例によって例のごとく、軽井沢と合流して試験会場へ向かう。

 この試験中は、ずっとこのパターンが続きそうだ。

 

 兎グループのDクラスで、唯一の女子だから心細いのかもしれない。

 頼まれていることもあり、しばらくは平田の代わりを務めるしかないか。

 

 大部屋の中央に、穴の開いた三角形のような形の巨大なテーブルが設置されており、そのテーブルを囲んで生徒が座っている。

 これでテーブルの穴側に座ったらどういう反応されるだろうな、と一瞬考えたが軽井沢を引き連れた状態で実行するわけにはいかない。

 

 テーブルの外側は確定として、残りの席でどこに座るかだが、それぞれのクラス別に固まっているようだ。

 この場合、幸村たちの隣かと思いきや、軽井沢はオレの腕を引く形で幸村たちから離れた席を選んだ。

 

 三角形の都合上、どこかのクラスは分かれて座らなければならない。

 もしくは、1つの辺に無理して2クラス座るかなので、別におかしなことではない。が、幸村は不機嫌そうな顔をしている。

 

 そりゃクラスで分かれて座って、俺たちのクラスは協力できてませんっていうのを他クラスに示すのは、あまり良いことではないはずだ。

 

 座席は、こうなった。

 

 一之瀬、メガネ、メガネの恐らくBクラス

 女子、女子、女子、博士、幸村、伊吹のCクラスとDクラスの混合

 オレ、軽井沢、男子、男子、男子のAクラスとDクラスの混合

 

 伊吹が幸村たちを挟む形になったのは、最後に来た伊吹にはそこしか座席が無かったからだ。

 Cクラスが分割されているが、特に気にしていないのは、伊吹がCクラスの中でも孤立しているからかもしれない。

 

「はい、注目。自己紹介から始めてみようか」

 

 一之瀬のリードで、船上試験1回目がスタートした。

 

 自己紹介なんて必要か、とAクラスの拒否から始まったものの、学校側の指定だよっていう一之瀬の主張が通り、全員が自己紹介をしていった。

 

 一斉に多くの情報を与えられても興味が無いことは、記憶には残らない。

 Bクラスのメガネ2人のうちどちらかが浜口だと言うのは分かったが、どっちだったかは正直覚えきれていない。

 が、Cクラスの真鍋という女子生徒はしっかり覚えた。

 

 ちょっとツンとした感じだが、ビジュアルレベルが高い。

 伊吹に真鍋とCクラスも中々の猛者揃いだな。

 Bクラスの一之瀬、Dクラスの軽井沢と綺麗どころが集まっている。

 

 その中で男だけとは、Aクラスのくせに戦力的には最下位じゃねえか。

 まったくもってけしからん。Aクラスの本気という奴を見せて欲しかった。

 

 竜グループが各クラスのトップ戦力が集められたのは、竜=強いだというのはどうだろう。

 となると、兎=カワイイだから、兎グループには可愛い子を集めるべきだったに違いない。

 思いついた法則性を裏切りやがって、Aクラスめ。

 

 などと頭の悪いことを考えているうちに自己紹介が終わり、話が進んだ。

 

「私としてはこの試験を全員でクリアする。つまり、結果1を追い求めるのが最善の策だと思っているの」

 

 引き続き司会進行を務める一之瀬からの提案だ。

 

 結果1、優待者をグループ全員が当てる。

 優待者に、プライベートポイントが100万ポイント。

 優待者以外のグループ全員に、プライベートポイントが50万ポイントという大盤振る舞いだ。

 

 入学早々クラスポイントが0となり、プライベートポイントの支給が止まっていたDクラスからしたら喉から手が出る程欲しい結果で、軽井沢や外村が同意する。

 

 裏切り者が出た時点で辿りつけない結果なので、全員で協力しなければ不可能なものだ。

 協力体制を築こうとする一之瀬に対し、

 

「俺たちAクラスは、全員、沈黙させてもらう」

 

 Aクラスは、その手を振り払うのだった。

 

「この試験を確実に簡単にそしてプラスでクリアする方法は、最初から最後まで話し合いを持たないことだ。この試験で避けるべき結果は、優待者の正体を誰かが見破り裏切り者が勝利すること。話し合いをせずに優待者の特定を許さなければ、最悪の結果を避けることができる」

 

 結果3、解答時間より前に裏切り者が出て、優待者を当てる。

 

 裏切り者にプライベートポイント50万ポイント。裏切り者の属するクラスにクラスポイント50ポイント。

 優待者の属するクラスからクラスポイント-50ポイント。

 

 優待者を有しているクラスは、絶対に避けなければならない結果だろう。

 

「話し合わないという手段の有効性は認めます。しかし、優待者がどこにいるのか分からない以上、優待者の多くいるクラスが得をする可能性がありますよね。もしも、優待者のいるクラスに偏りがあったら、クラス間に差が出ることになります」

 

 Bクラスのメガネが話し合いを持たないという提案の問題点を指摘する。

 

 結果2、グループ全員の答えが優待者で一致せずに終わる。

 優待者に、プライベートポイントが50万ポイント支給される。

 

 Aクラスの提案する話し合いを持たずに辿りつく結果は、これだろう。

 

 優待者のいるクラスに偏りがあった場合に、そのクラスだけが多額のプライベートポイントを手にすることになる。クラスの順位を決めるのはクラスポイントだが、無人島試験でAクラスが恐らくプライベートポイントを使ってCクラスから支援を受けたように、プライベートポイントの有無が、今後の特別試験に大きな影響を与えかねない。

 

 つまり、プライベートポイントで多額の差が出るのも問題だ。

 

 もっとも、5月と6月のプライベートポイントが、クラス全体で0だったDクラスからしたら今さらの話だったり。

 

 大雑把に計算して、95000ポイント×40人×2か月=760万ポイントAクラスとは支給額に差がついた計算だ。今後もクラスポイントの差が埋まらない限り、毎月ボディーブローのように、じわじわとプライベートポイントに差がつき続けてしまう。

 

 となると、結果2というのは却下となるが、町田──その裏にいるAクラスを指揮してる葛城は、この試験のからくりに気づいてるようだ。

 

「全クラスの公平性。これは学校側がこだわるルールだ。全てのクラスに均等に3人ずつ優待者がいる。そこで差をつけて試験が実施されているとは考えにくい。ルール説明の際に、公平性を嫌というほど強調していたから間違いない」

 

 そう。学校側が用意する試験である以上、差がつけられているというのは、考えなくていい条件だろう。

 

 例えばこれが単純な学力試験なら、現状ではDクラスがAクラスに勝てる見込みは、無いと言っていい。だからこそ学力勝負での可能性を作るために、試験やルールを大幅に捻るか、何らかの救済措置が用意されることがあるかもしれない。

 

 今回の特別試験は、そうではない。

 前回の無人島試験や、今回の優待者が絶対的に有利な試験では、優待者のいるクラスならDクラスだろうとAクラス相手に勝つ可能性がある。

 

 そのような試験で、よりどこかのクラスを有利にするような設定にはしないはずだ。

 

「話し合いを持たず、リスクを背負わない。それだけで全クラス優待者の3名がプライベートポイントを手に入れて終わる。誰も損をしない一番楽な方法だ」

 

 そして、誰も損をしないというのもポイントが高い。

 今回の試験、結果1と結果2にはマイナスが生じない。

 楽に終わらせるという意味でも、べストかもしれない。

 

 学年のヒエラルキーでトップに位置するAクラスの意見だ。

 影響は大きく、場の空気がその方法に流れかける。

 

「確かに町田くんの言うことは一理あると思うよ。でも、実際にやるとなると大変。相手を疑わず裏切らない。1年生全員が同じことできるのかな」

 

 そこにストップをかけたのが、Bクラスのリーダーの一之瀬だった。

 

 残念ながらCクラスやDクラスでは、どちらの意見が正しいと思うのかを判断する役割は持てても、場をリードするような意見は出せない。

 AとBの一騎打ちみたいなもんだ。あとはどっちが勝つのかお手並みを拝見っと。

 

「Aクラスには、完全な信頼関係がある」

「ぷっ」

 

 しまった。

 町田という生徒の発言に思わず吹き出してしまった。

 

「綾小路と言ったな。何か言いたいことがあるのか?」

 

 町田からのヘイトが凄い。

 注目を集めてしまった以上は、仕方ない。割り込むしかないか。

 

「いや、面白いことを言うと思って」

「なんだと」

「Aクラスには完全な信頼関係がある、か。いやー、Aクラスは立派だな」

「バカにしてるのか?」

「リスクを取らずに話し合いに参加しない。それは葛城の命令か?」

「……それに答える義理は無い」

 

 言い淀んだ時点で答えを言っているようなものだが、こういうときは頼りになる人がいる。

 

「一之瀬はどう思う?」

「おそらく葛城くんの考えだろうね。ほぼ間違いないと思うよ」

 

 流石は一之瀬、オレと同じことを考えていたか。

 元々、葛城がリスクを避ける守備型のリーダーだって教えてくれたのは一之瀬だしな。

 

 優待者が当てられるような行動を避けて、試験に負けないように取り組んでプラスを分け合う。まさに、守備型のリーダーの本領発揮と言った感じの戦略だ。

 

「葛城の命令……指示でいいか。葛城の指示に対して完全な信頼関係がある。ということは、Aクラスは葛城がリーダーってことで決まったのか?」

 

 ここで初めて町田ではなくAクラスの一人の生徒へと視線を向けた。

 

 名前を知らなかったから、リストを見ただけだと気づかなかったぞ。

 まさか彼が同じグループにいるとはな。

 

「どう思う? 『Aクラスのリーダーは坂柳だ』でお馴染みの森重くん」

 

 無人島でオレから地図を奪いとって、罠にかかって川に落ちて施設を不正利用する羽目になった例の彼がそこにいた。森重という名前らしい。

 

「答えなくていい──」

「Aクラスのリーダーは坂柳だ。だが、必要だと思えば、葛城の指示に従うぐらいはできる」

「ちっ……」

 

 町田の制止をはねのける形で、森重から返答があった。

 すごい睨まれている。オレはかなり敵視されているっぽい。まあ、そりゃそうか。

 余計な一言に、町田が舌打ちをした。

 

「なるほど。見事な『完全な信頼関係』だな」

「綾小路、ふざけてるのか」

「うん、やっぱり難しいよね。どうなのかな?」

「Aクラスは話し合いに参加しない。それだけだ」

 

 適当に手拍子までして褒めたのに、町田が不機嫌になってしまった。

 いや、町田に限らずか。話は終わりだと言わんばかりに、Aクラス全員が席を立って巨大なテーブル席から離れ、部屋の隅にあるソファーへと移る。これ以上参加する気はないらしい。

 

 Aクラスが適当なことを言うから笑ってしまっただけなのに。

 葛城が大人だっただけで、Aクラスと言えどもまだまだガキもいるみたいだな。

 

「…………」

「…………」

 

 Aクラス対Bクラスで話が進んでいたため、話し合いが止まってしまった。

 沈黙が重い。

 

「ちょっと責めすぎだったかな」

「だろうな」

「……半分ぐらい綾小路くんのせいでしょ。どうすればいいのか、綾小路くんは他に意見がある?」

 

 笑顔で質問されたが、この空気の責任取ってどうにかしてねっていう凄みを感じる笑顔だった。

 この展開なら場をリードした方がいいかもな。

 

「そうだな。一之瀬の結果1を目指すってのも、Aクラスの結果2を目指すっていうのもどちらの意見も有りだと思う」

 

 どちらにもメリットとデメリットがある。

 結果1狙いの場合、大量のポイントが手に入るが、Aクラスが指摘した裏切り者が出る可能性がある。

 結果2狙いの場合、一見するとデメリットはなさそうだが、特別試験を1回分差をつけずに終わることになるため、上を狙うクラスにとっては避けたい結果だ。特別試験というチャンスがあと何回あるのか分からない以上、無駄には出来ない。

 

 そのあたりを指摘しだしたら結果1でも似たようなもんだから、結果3もしくは結果4でクラスポイントを変動させる結果に導いて勝つ。これがベストだ。

 そこまで考えていけば、結果1の裏切り者が出る可能性というデメリットは、むしろメリットとなる。結果1を目指して、どう裏切らせて間違えさせるのかというのが、目指すべき道の1つだろう。

 

 一之瀬が結果1を推奨しているのは、この辺まで考えているからか。

 みんなで協力をとか一之瀬が言うと本当っぽく聞こえるが、一之瀬はBクラスのリーダーだ。油断することなんて出来ない。

 

「プライベートポイントに困っているDクラスとしては、結果1狙いの方がありがたい。結果2狙いで結果1になることはまず無理だが、結果1を狙って無理だったら結果2に切り替えることは出来そうだしな」

「なるほど……柔軟に対応させていくって案だね」

「ああ。上手くいいとこどりできればな」

「いいと思うよ」

 

 結果1狙いで裏切らせたい一之瀬さんならそりゃ褒めてくれる。

 

「で、1つ提案させてもらっていいか」

「なにかな」

「結果1になるには、絶対的な条件が1つある。全員の解答が一致することだ。優待者の情報を共有できればそれが一番いいが、共有できるできないにかかわらず、解答は一致させて欲しい」

「うん、それは大事な前提条件だね」

 

 当たり前の話をもったいつけて言えば、それっぽく聞こえたりもする。

 リード役の一之瀬が認めればなおさらだ。

 

「というので、全員の解答を一致させるために提案させてもらうが、最後まで優待者が誰か分からなかったときは、全員オレの名前を書いて欲しい」

「……バ、バカ、綾小路、何を言い出すんだ」

 

 オレの言葉を理解するまで一瞬だけ間があいて、幸村が立ち上がりながらほとんど叫びに近いツッコミを入れた。

 

「何って解答を一致させるための提案だ。全員で解答を一致させれば、優待者が誰か分からなくても12分の1の確率で結果1となる。外しても結果2だから誰も損をしない。だから、誰か分からなかったときはオレの名前を書いてもらう。どこかおかしいところがあるか?」

 

 なぜ幸村が興奮しているのか分からないと言った感じで、小首を傾げてみせる。

 イメージは櫛田の『てへっ』だ。

 

「なんでお前の名前なんだよ。おまえ、それだと……いや、なんでもない」

「こういうときは言い出した奴って相場が決まってるだろ。別にオレである必要はないが、誰か自分の名前を書いて欲しいって奴いるか? いるなら名乗り出て欲しい。譲るから」

 

 結果1のために、オレの名前で一致させて欲しい。

 オレの提案で得られる情報として幸村が言い淀んだことは、オレが優待者であるという指摘だろう。

 そこまで言ったなら、最後まで言えよって話だけどな。

 

 少し待ってみたが、名乗り出た奴は居なかった。

 そりゃそうか、今のところオレが一番優待者っぽいムーブをかましているのに、ここで名乗り出たらオレにとってかわって疑ってくださいっていうようなもんだ。

 

「えーっと、じゃあ、困った時は綾小路くんの名前を書くってことでいいかな」

「僕はそれでいいと思います」

 

 一之瀬の確認を肯定してくれたのは、Bクラスのメガネ君だけだったが、否定した人は一人も居なかった。

 

 誰だって結果2よりは結果1が欲しい。

 積極的に賛成しなくても、最終的にはオレの名前を書いてくれるだろう。

 

 何だったらアレだ。オレを優待者だと判断して裏切ってくれてもいいぞ。大歓迎させてもらう。

 

 まあ、そう簡単にはいかないだろうけどな。

 

 

 とはいえ、船上試験の1回目としてはこんなもんだろう。

 そこそこ満足な出来で終わった。

 

「ま、本番はこれからなんだけどな……」

 

 そう。ぶっちゃげるのならここまでが前哨戦だ。

 1時間話し合ってそれで終わりならどれだけよかったか。

 

 え? 何があるのかって?

 

 堀北と約束した情報交換じゃないぞ。

 

 だが、堀北というキーワードは惜しい。

 

 今朝の時点で、堀北のことを忘れていたという失態をやらかしていたわけだが、それどころではない相手だった。

 

「綾小路くん、ちょっといいかな」

「あ、ああ。オレからもちょうど話があったところだ」

 

 そう。仮とはいえ彼女である一之瀬だ。

 

 なにが『特別な友達、都合の良い女、セフレ未遂、ペット。そして、最高のパートナー』だ。

 

 彼女のことを忘れてるんじゃねえよ。

 つーか、昨日リストを見た時点で気づけって話だ。

 

 あれだ、部屋の中に入って一之瀬の顔を見た瞬間、ある衝撃の事実に気づいて焦りまくったわけだ。

 無人島試験が終わってから、その時まで彼女のことを一切誘っていなかったという事実だ。

 

 しかも、彼女を放置した男が、同じクラスの顔の良い女子軽井沢を引き連れての登場である。

 

 座席選びで軽井沢に腕を引かれたときは、生きた心地がしなかったぐらいだ。

 幸村の不機嫌そうな顔に集中してしまうぐらいに、一之瀬の方を見るのが怖った。

 

 BクラスとDクラスが敵対するようなことがあれば、互いのクラスを優先するという交際時の申し入れがある。おかげで話し合い中は無事だったが、終わってしまえば一之瀬と向き合わなければならない。

 

 正直、1時間貰えたのは助かった。話し合いに適当に参加しながら一之瀬をどうするのかを考えることができたからな。

 

 こういうときは、機先を制するに限る。

 

「明後日、暇か?」

「え? 明後日?」

「無人島試験が終わってから、疲れを取ったり、クラスのお疲れ様会があったりでタイミングを逃しているうちに特別試験が始まったからな」

 

 ちなみに、クラスのお疲れ様会があったらしいけど、オレは参加していない。

 いや、佐倉や長谷部と飯を食ってたのも同じクラスだし広義のお疲れ様会と言えるからセーフだろ、きっと。

 櫛田とのTレックスもお疲れ様会の一環だったはずだ。

 

「試験中のBクラスとDクラスの関係が、どうなるのか分からない中で連絡を取るのを控えていたが、協力して結果1を目指すというのなら、試験合間の休暇日に一緒にいても問題ないだろ」

 

 しっかりと相手のことを考えてましたアピールだ。

 そう、連絡を取らなかったのは決して忘れていたからではない。

 フラットな状態で初回の試験に挑むというテーマがあったからなんですよ、と訴えかける。

 

「あーうん。他のグループから相談受けたりとかでどうなるか分からないけど、一応でいいなら空いてるから大丈夫だよ」

「もちろん、クラスで特別試験に関する予定が入るなら、そっちを優先してくれても構わない」

「それなら、うん、いけると思う」

 

 ふう。なんとか一之瀬を納得させることができたみたいだ。

 彼女相手に緊張してどうするんだって話だが、彼女だからこそ緊張するものだ。

 こればっかりは慣れていくしかない。

 

 一之瀬から他に何か言ってこないなら恋人適正試験は、これで終了だな。

 

 明後日の予定が決まったので、どうやってエスコートするのか考えなければ。

 

「私じゃないし、嫌だって言ってるでしょ。綾小路くん、行こ」

 

 と思いきや、Cクラスの女子たちと何やら言い争っていた軽井沢がオレの方へと来て、腕に抱きついてエスコートしてきた。

 過去一の密着度だ。もはや彼氏彼女的な奴である。

 

「い、一之瀬。またな」

「……あ、綾小路くん……」

 

 一之瀬の戸惑ったような声が背中に届くが、オレの腕を掴んで、ずかずかと歩く軽井沢に戸惑っているのは、オレも同じだ。

 Cクラスの生徒に対する牽制として使われている以上、平田に頼まれた役割を放棄していいのかどうするのか、考えているうちに試験会場の外へと出ていた。

 

 しばらく廊下を歩いたあたりで声をかける。

 

「……もういいんじゃないか?」

 

 腕に当たっている感触が消えるのは名残惜しいが、他の生徒に見られる中で、いつまでもそのままでというわけにはいかない。指摘すると軽井沢は、腕を離して距離を取った。

 

「……その……ありがとう」

 

 チクショウ、怒ってやろうかと思ったのに、どこか弱気で照れた声が可愛いじゃねえか。

 これなら怒るに怒れない。

 

「何があったのかは知らんが、ほどほどにな」

「向こうが勝手に絡んできただけで私は悪くないから」

 

 同じ言葉を一之瀬に言えたらどれだけ楽だろうか。

 軽井沢が勝手に腕に絡んできただけで、オレは悪くないんだ。

 

 こういう場合ってどうすりゃいいんだろうな。同じクラスの生徒のフォローを優先するのか、彼女を優先するのか。

 まだまだオレは人生の経験値が足りないみたいだ。前途多難って奴だな。




特別試験を一部変更しています。
原作では話し合いは全グループが同じ時間に行われていますが、この作品中は時間をずらして行われています。
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