結局、軽井沢とは昼食まで一緒に済ませて解散した。
おまけで合流していた軽井沢グループの森から話を聞く限りでは、やっぱりAクラスは話し合いを拒否していたらしい。
「それにしても……」
森とはそんなに親しいわけじゃない。それでも佐藤のおかげで、森の安心感半端ない。
これだよこれ。軽井沢グループと言えば森とか松下だよな。平田から頼まれているし、軽井沢と一緒にいるのは別にいいが、佐藤がいつ現れるんじゃないかってビクビクするのは勘弁してほしいところだ。
──第三十六話 船上試験編その4 最終兵器堀北鈴音 ──
「部屋を提案してきたのは、こういうことか」
豪華客船は5階建てだ。3階部分が男子生徒、4階部分が女子生徒の客室となっている。
そして堀北の部屋は、4階でも一番船尾側の部屋だった。
客船は中央にメインのエレベーターがあり、船首側と船尾側にもそれぞれメインよりも台数が少ないもののエレベーターがあり、エレベーターの脇には階段が設置されている。
横から見たら台形をしている客船に対して、船首と船尾に縦に貫くエレベーターや階段を設置するとどうなるのか。
面積が狭い5階では、エレベーターなどが端に設置されているが、4階、3階と面積が増えるごとに船首と船尾のエレベーターを軸とした長方形からはみ出る台形の部分が出てくることになり、そこにも部屋が入ることになる。
堀北の部屋は、そのエレベーターの先にある部屋で、5階についで面積の少ない4階では、その1部屋しかなかった。
このメリットは大きい。
部屋はクラス毎に固められているとはいえ、当たり前だが廊下は共有されている。
豪華客船だけあって部屋の防音は、しっかりしている。
が、目の前の廊下を他クラスの生徒が通過する中で、試験に関して重要な話をすることは、心理的に抵抗が生まれる。
その点、堀北の部屋の配置は、廊下を歩くのは堀北の部屋に用がある生徒だけになるので、心理的に気兼ねなく打ち合わせができるというわけだ。
とはいえ、そのメリットは部屋の中に入ってから発揮されるもので、女子エリアである4階で堀北の部屋の前で佇んでいたら目立つことこの上ない。
廊下を見る限り、普通に男子生徒もいるので、目立っているというのは自意識過剰だろうが、慣れないことは、あまりしたくない。
こんなことなら、寮でもう少し女子の階に出入りしとくんだったか。
「少し早いけど、いいか」
まだ待ち合わせ時間には10分あったが、耐えきれずに部屋をノックして少し待つ。
「あれ? あやのん。どうしたの?」
「……試験のことでちょっとな。堀北に呼ばれたんだが」
扉が開いて、長谷部が顔を見せた。
出てきたのが堀北では無かったことに動揺しつつも、部屋に来た理由を告げる。
堀北のヤツめ。部屋のルームメイトに事情を説明してなかったのかよ。
「堀北さんは、シャワー浴びてるけど」
「待ち合わせは2時半だから、少し早いんだ」
「ふーん、そっか。そこでちょっと待ってて……あやのんが来てるけどあやのんを部屋に入れてもいいよね、愛里」
「え!? あ、あやのこうじくん……」
開いたままのドアの先から何やらバタバタしたものが聞こえてくる。
そういえば、無人島試験の前に、堀北がずっと部屋にいて本を読んでいるから部屋に居づらいって、佐倉から相談を受けていたんだっけ。
つまり、佐倉と堀北は同じ部屋。となると、佐倉と同じ部屋って言っていた長谷部もいて当然か。
「大丈夫だって、入って」
「お邪魔します?」
初めて入る女子の部屋は、男子の部屋よりも設備が豪華だったが、基本的な配置は変わらないらしい。
左側にソファーやテーブルが並んで寛げるようになっており、今は閉じられているカーテンを挟んだ右側にベッドがあるようだ。
慌ててカーテンを閉めたのか、完全には閉じ切れておらず、何かを隠したもっこりしたベッドが見えていたが、見て見ぬフリをするべきだろう。
佐倉や長谷部からしてみれば、急に訪れて来たオレが全面的に悪い。
いや、悪いのはどう考えても堀北なんだろうけど。
「ソファーでいいよね?」
「ソファー以外に選択肢はあるのか」
「愛里のベッドとか?」
「は、波瑠加ちゃん!」
ルームメイトで過ごす時間が長いこともあってか、この2人はすっかり打ち解けているようだ。
少しだけ心配していたが、どうやら杞憂だったらしい。
佐倉へのからかいに参加せずに、客らしく大人しくしておこうか。
ソファーは十分寝れそうな立派なものが2つあり、それとは別にひじ掛けのついた椅子が1脚、テーブルを囲んでいる。
カーテン──ベッド側を背にするソファーへと腰を落ち着かせた。
「3人部屋か?」
「そうだよ。堀北さんと愛里と私だけ」
「…………」
「見事な余りものでしょ。仲良しグループから抜けていったらこうなるよねって」
「は、波瑠加ちゃん、ぜんぜん自慢できないよ」
「愛里も堀北さんも騒がないし、私はこのグループで良かったって思ってるよ」
ひどいことを考えていたら、言い当てられてしまった。
男子だと高円寺と幸村が余ったが、女子だと余るのはこの3人か。
長谷部は特に気にしていないのなら、それでいいんだろう。
「同じ余りものでも男子とえらい違いだな」
「あやのんも余りものグループなの?」
「平田と一緒のグループになったら、平田が余ってた高円寺と幸村を引き取った」
「あー、それは大変そう」
「高円寺はあんなだし、幸村も1人なら大人しいんだが、高円寺と一緒だと相性が最悪に近い。高円寺は高円寺なんだから放っておけばいいのに」
「幸村くんって人に対して小うるさいよね」
なるほど、幸村は女子からしたら、そういう認識なんだな。
やたら女子に厳しいし、そんなもんか。
「あ、綾小路くんは余りものじゃないよ」
「佐倉。フォローは嬉しいが、そのフォローはたぶん逆効果だ」
「あう」
わざわざ否定することで、否定しないと肯定されかねない存在だったという誤解を与えることになってしまう。
本当に何も問題が無ければ、わざわざ否定する必要すらないのだ。
「面白そうな話をしてるわね。私にも話を聞かせてもらえるかしら、余り小路くん」
「絶対わざと間違えただろ」
誰が余り小路だ、誰が。
真打の堀北は、遅れて登場したのだった。
「間違えてしまったわ。端数小路くん」
「よりひどくなった」
綾小路と余り小路ならまだ『あ〇〇』で原型が残っているが、端数小路だともはや原型が乏しい。
「ほ、堀北さん。髪」
「会話の邪魔をするのもどうかと思って、ドライヤーは控えさせてもらったわ」
登場した堀北は、服装こそいつもの制服をキッチリと着こなした姿だが、頭はタオルを巻いて髪を中に納めた状態だ。
軽く首を振るだけで、いつもは見えないうなじが見えて、どことないセクシーさが醸し出されている。
タオルを1枚巻いただけなのに、女子の部屋に遊びに来ているという実感がうなぎ登りだ。
だが、気を使ったいい女アピールがちょっとうざい。
お前は絶対そんなキャラじゃなく、必要なら容赦なくドライヤーを使うキャラだっただろうが。
「わ、私も髪洗おうかな」
「佐倉、対抗しようとしなくていいから」
見惚れていたのに気づいたらしい佐倉が、立ち上がろうとしたのを何とか止めた。
「堀北。とりあえず一言いいか」
「なにかしら」
「部屋で話し合うなら、同室者には先に話し通しとけよ」
「……これからの課題にさせてもらうわ」
これからの課題って、またどこかの施設で共同生活を送ったりとかあるんだろうか。
堀北の成長は、まだまだこれからって感じだな。
「つーわけで、堀北と特別試験について話したいんだが、部屋を使っていいか?」
「なにを今更って感じだよね」
「確かに今更だが、一応な」
「私はいいよ。何でも自由に使ってよ」
「わ、私も、大丈夫です」
「そうね、どうしようかしら」
「お前に拒否権はねえよ」
この部屋を使うのは堀北から提案してきたくせに、堀北に拒否されるとか意味が分からなすぎるだろう。
「今からする話って真面目な話だよね? 愛里と出ていった方がいい?」
「いや、使わせてもらうのはこっちだ。聞いててもつまらないかもしれないが、出ていく必要はないぞ」
そこまで気を使う必要はない。って睨むなよ堀北。そういうところだぞお前に足りないところは。
堀北からしたら邪魔者はいない方がいいんだろうが、クラスメイトは別に邪魔者じゃねえよ。
「で、どうだったんだ1回目の話し合いは」
「そうね。色々とあったけれど……」
こうして試験のすり合わせが始まった。
◇◇◇
「こんなものかしら」
「似たようなもんだな。佐倉や長谷部はどうだった?」
「Aクラスが話し合いに参加しなかったのは同じだね」
「わ、私も同じ、です」
佐倉と長谷部は別グループだ。
森から聞いた話も合わせて、どうやらAクラスが全てのグループで話し合わずに結果2を狙うというのは、徹底されているらしい。
完全な信頼関係スゴイ。
ただそれ以外はBクラスが主導権を取ったり、Cクラスが取ったりと様々なようだ。
なんにせよAクラスが参加しない状況で、試験を進めるのは難しいだろう。
「たださ、ぶっちゃけ、話し合わないで済むなら私や愛里みたいな生徒からしたら、大助かりってのが正直な気持ちなんだよね」
「そうなのか?」
「やる気がないわけじゃないんだけどさ。足を引っ張らずに済むならそれに越したことはないっていうか」
「なるほどな……」
「そうね。下手に動かれるよりは助かるわ」
今回の試験は、動かない=現状維持にしかならない。
やる気だけが空回りされて、優待者当てに失敗されるよりは、賢い行動だと言える。
池とか山内とかが、裏切り者にならないかが心配だ。
「佐倉は大丈夫か?」
「う、うん。なんとか……知らない人ばかりと1時間って……きついけど頑張る」
佐倉の場合は、優待者当てに参加する参加しない以前の問題みたいだな。
心配し過ぎるのもよくないんだが、ちょっと心配になる。
どうすっかな。
「…………」
佐倉のグループは、牛グループで他のDクラスは池や須藤たちか。
佐倉からしたら、あまり近づきたくないメンバーだろう。
仕方ない。
あとでそれとなく佐倉のことを気にかけてやってくれって頼んでおくか。
池には頼めないけど、堀北ラブの須藤なら佐倉のことを頼んでも、佐倉相手に変なことを考えたりはしないだろう。須藤は、素行が良いとは言えないが、身内に対しては情に厚い、いい奴だからな。
堀北が心配していたとでも言っとけば、いや、ダメだ。嫌な予感がする。
そこまでやると気合を入れすぎて、空回りしかねないか。
佐倉をビビらせたら本末転倒すぎる。
ここはあれだ、保険をかけておくべきだ。
困ってないか気にかける程度でいいんだ。須藤にはしっかり釘を刺しておこうか。
まさか、これがあんな事件を引き起こすとは、この時のオレは思いもよらなかった。
なーんてな。頼んだぞ須藤、問題だけは起こすなよ。
「優待者の情報はどうだ?」
「それは平田くんが担当しているわ。あとで平田くんに聞けば教えてくれるはずよ」
「お前は聞かなかったのか?」
「櫛田さんからは聞けたわ。櫛田さんがどうかも含めて平田くんに聞いてもらえるかしら」
堀北は、チラッとだけ佐倉と長谷部を見た。
優待者の情報はデリケートなものだ。長谷部や佐倉の耳には入れたくないんだろう。
ちなみに、長谷部や佐倉は優待者ではないらしい。
長谷部はちょっと残念がっていたが、佐倉は優待者じゃないことを喜んでいた。
大量のポイント獲得のチャンスよりも、プレッシャーが無いことの方が嬉しいらしい。
佐倉らしいといえばらしいが、堀北は『バカなの?』と表情だけで言いたい言葉が溢れていた。
実際に口にしなくなっただけでも、堀北の場合は成長したのかもしれない。
「これで話し合いは終わりね」
堀北は、テーブルに広げていたメモを閉じた。
特に目新しい情報は無かったが、話し合い拒否を肯定する長谷部たちの気持ちや、他のグループも、ほとんど変わらないってことが分かったことだけでも収穫か。
「それで綾小路くん。約束を覚えているかしら」
「約束?」
「私は櫛田さんから聞き出したわ。ご褒美を所望したいのだけれど」
「それかよ。いや、だが、それは……」
櫛田と仲良くする宿題をこなすまで、ご褒美はお預けって話らしい。
言いたいことは分かったが、今この場でする話ではないだろう。
しかも、堀北の成果は櫛田が優待者かそうでないかを聞いただけという、甘めの採点でも及第点に届くかどうかだ。
「私は頑張ったと思うの」
「胸を張る程じゃないけどな」
「シャワーも済ませたのだけれど」
「ほ、堀北……ちょっと落ち着こうか、いや落ち着け」
「シャ、シャワーを済ませた!?」
「佐倉も落ち着こう。堀北がさっきシャワーを浴びてたってだけだ。だから、落ち着こう」
堀北。何を言い出すんだコイツは。
いや、薄々は感じていたよ。
コイツがシャワーを浴びるとか狙ってるわけじゃねえよなって。
部屋に呼ばれた時点で期待が無かったと言えば、嘘になるしな。
たださ、堀北よ。それを長谷部や佐倉の前で言うことじゃないだろうが。
「綾小路くん、慌てなくても大丈夫よ。同じ失敗はしない、許可は取ったわ」
「許可とは?」
「長谷部さん、あなたはさっき言ったわよね。この部屋を何でも自由に使っていいって」
「言ったっけ?」
言ってなかったって言いたいが、確かに言っていた。なんだったらオレも『ん? 今何でもって言ったよな』って言おうかと思ったから間違いないけど、そこは疑問形じゃなくて否定して欲しかった。
「堀北、待て、落ち着け。お前は今、重大なミスをしようとしている」
「言ったわ。佐倉さんも私も大丈夫って同意したわ」
「うー、そのーそうだけどっ、そうじゃなくてっ」
佐倉。そこは『そうだけど』じゃなくてはっきり否定しよ。な、頑張ってくれ。
「これで条件はクリアよ。綾小路くん。ご褒美にSEXを所望するわ」
「そこはせめてTレックスって言えよ!!」
堀北の爆弾発言に、オレがずっと積み上げてきたものが、ガラガラと崩れ落ちる音が聞こえた。
ダメだこいつ、早く何とかしないと。
ひどい眩暈がしてきた。
ドライヤーを使うのを控えた気の使える良い女キャラは、どこにいってしまったというのだ。
絶対そんなキャラじゃないって思ったのは謝る。謝るから、オレにもうちょっと気を使ってくれませんかね。
クラスメイトは邪魔者じゃないが、こうなってくると追い出した方が良かったんじゃないだろうか。
って後悔している場合じゃない。このピンチをどうにかしないと。
いや、まて、落ち着け。
本当にピンチなのか。動揺するな。落ち着け、落ちつくんだオレ。
状況を整理しよう。
堀北がご褒美に佐倉や長谷部の前でおねだりした。
つまり、佐倉や長谷部にオレと堀北がそういう関係であるというのを知られたわけだ。
「あわわわ……」
佐倉は動揺しまくっている。無理もない。
特別な友達が他の女子といたしてました、とか受け止めるには時間が掛かるだろう。
佐倉に知られてしまったのは問題だ。
ただ冷静になって考えてみたら、佐倉に知られたマイナスは佐倉しか作用しないんじゃないだろうか。
佐倉が特別な友達をやめたいと言い出すのなら、受け止めるしかない。それは残念だが、友達のいない佐倉に知られても、佐倉から他の生徒へ広まる可能性は低い。
あとは佐倉がどうするのかを佐倉に任せるしかない。
「ええっと、堀北さんとあやのんってそういう関係だったの?」
「そういう関係って?」
「セックスフレンド?」
長谷部は佐倉よりは落ち着いていて、状況を把握しようとしていた。
長谷部に知られてしまったことも、意外とダメージは無いんじゃないだろうか。
もともと、長谷部はオレと佐倉がそういう関係を持っていたことを察した上でセフレになったはずだ。
オレが佐倉だけではなく他の女性ともそういう関係だったからといって、おかしなことではない。
セフレに他のセフレがいるって知られるぐらいは、別にいいんじゃないだろうか。
佐倉との関係を黙っていた長谷部が、堀北との関係を他の生徒に漏らしたりはしないと思う。
よし、堀北。肯定するのを許す。セフレだと胸を張っていってやれ。
「違うわ。ご主人様とペットの関係よ」
「堀北ぁああああああ」
何を言っちゃってるんだお前。
いや、確かに、そういう関係だったはずだけど、そうだけど。
おまえもはやドМじゃなくてドSじゃねえか。
もうだめだ。開き直るしかない。冷静になってどうする。
今、必要なのは、冷静になることじゃない。バカになることだ。
「ご、ごしゅじんさまとペット……たわ」
処理能力の限界を超えた佐倉がソファーに倒れ込んだ。
スルーだ。今は何を言っても届かないだろう。
「そうなの、あやのん」
「堀北の問題児っぷりは見ての通りだ。暴走しないように、猫の首に鈴をつけたぐらいのつもりだったんだが」
「鈴音だけに」
「全然上手くねえよ」
ドヤってんじゃねえ。
「どうやらオレ1人だと限界があるらしい。長谷部も手伝ってくれないか?」
「わ、私!?」
「堀北の暴走は、孤立と自己評価の高さから来ていると思う。周りを下だと思ってるから、周囲からどう見えるのかを気にしない。自分勝手に動く。それを止めるには、上には上がいると分からせた方がいい」
「言ってることは分かる気もするけど、私じゃ堀北さんに勝てないっしょ」
「そんなことはない。長谷部ならいける」
「無理でしょ」
「始まればわかる。頼む、堀北はこんなんだが悪い奴じゃないんだ」
「えっと……」
「頼む」
ソファーから降りて、地べたにキスをする勢いで全力の土下座だ。
「あ、あやのん……それはちょっと」
「鈴音も並べ」
「分かったわ」
名前呼びで命令したら、堀北はあっさりとオレの横に並んで土下座した。
その従順さ、もう少し前に発揮してもらいたかったんだが。
もしや、ドМだけに土下座を歓迎しただけなのかもしれない。
「……ほ、本当にご主人様なんだ」
「長谷部、頼む協力してくれ」
長谷部は意外と押しに弱い。そして好奇心が強い。
無人島でシャワー室で一人でするぐらいには、冒険心を持っている。
ただ、面倒なことは嫌いだとも言っていたので、それがどう左右するのか。
いけるかどうかは分からないが、崩すなら今しかない。
「……分かった。そこまでいうなら」
勝った。
相手の同意があった以上は、ここからはスピード勝負だ。勢いで押し切るしかない。
「よし、じゃあ脱ごうか。堀北脱げ」
「分かったわ」
「ちょ、ちょっと、展開早すぎでしょ」
土下座状態をそそくさと解除すると衣服を脱ぎにかかる。
堀北も躊躇なく制服を脱ぎ捨てていくと、長谷部から抗議の声があがった。
うん、今更だな。既に同意は得ている。
「長谷部は脱がされる派か?」
前回はシャワーを浴びている最中で、最初から脱いでいた。
長谷部が自分で脱ぐ派か脱がされる派かのどちらかの判断がつかない。
「そうじゃなくて、分かってて言ってるでしょ」
「まあな」
「開き直ってるし」
「長谷部、堀北を見ろ」
「……どうして脱がないのって顔してるし」
堀北はやるときはやる女だ。
やると決めたのならやる。長谷部が合意した時点で割り切りは終わっている。
脱いでいいのか、ブラのホックに手をかけたままオレの方を見てきたので、頷くとあっさりと脱ぎ捨て、堀北のおっぱいが露わになった。
「見ての通り堀北はやる気だってことで、長谷部脱がせるぞ」
オレも上半身は裸になって、いまだ脱ぎ出そうとしない長谷部へとせまる。
この服は最後の心理的な抵抗だ。脱がせてしまえばもう後戻りはできないはず。
ここは多少強引にでも攻めるべき。
男女の力の差。それも堀北に協力させれば2対1だ。脱がせるのは楽なはずだ。
立ち尽くす長谷部にオレと堀北で左右から近づいていった。
諦めたのか特に抵抗がなかったこともあり、2人がかりでブレザーのボタンを外し、中のシャツのボタンも外す。
首元のリボンも外してしまって、後は後ろへ引くだけで肌を露出させることができる。
「ああ、あぁ、あのっ!」
と、ここで第三者による声が挟まった。
さっきまでダウンしていた佐倉だ。
ドンっとテーブルにぶつかりながら歩き、左右から脱がしにかかっているオレと堀北に対し、長谷部の正面に立つ。
しまった。佐倉のことを意識の外に置き過ぎた。
ここで佐倉に制止されてしまうと、長谷部が我に返って振り出しに戻りかねない。
されるがままになっていた長谷部から手で制されてしまい、脱がせる手が止まる。
「佐倉」
ほぼ3人が同時に名前を呼ぶ。
長谷部はこの状況をどうにかしてという意味を込めて、オレと堀北は大人しくしていてくれという意味を込めて。
佐倉がどちらを選ぶのか、それ次第でこの宴の行く末が決まりそうだ。
「わ、私も仲間に入れて」
だが、佐倉の選んだ選択肢は、長谷部側でもオレや堀北側でもなかった。
長らく状況についていけず、苦悩していた佐倉が、溜めに溜めた勇気を振り絞った声をあげた。
顔は露骨に高揚し赤くなっている。
「それはどういう意味だ?」
「わ、私も、一緒に参加したくて」
仲間に入るという曖昧だった表現を改めて聞くことで確定させる。
「オレはいいと思う。堀北はいいか?」
「そうね。構わないわ」
長谷部に聞く前に、承諾するであろう堀北に先に振る。
これで賛成2だ。長谷部が反対しにくい空気が構成されただろう。
こうなれば反対しないだろうと思いきや、長谷部は表情を消して佐倉と向き合った。
まさか、反対する気か。
「悪いんだけどさ愛里。このままじゃ私納得できないんだよね」
「あうあ……わ、私なんかじゃ、やっぱり……」
オレと堀北が作った歓迎ムードは崩されてしまった。
「私はね。この状況に戸惑っているし、流されなきゃよかったって後悔もしてる」
やっぱりそうか。そりゃそうだよな。
「でも、どうなるんだろうってワクワクしている部分もあるっていうか、ちょっと期待しているっていうか、だから──」
長谷部は、半分脱がされた衣服を最後は自分の意思で脱ぎ去った。
最後に残されていたブラも外し、堀北とは比べ物にならないサイズを誇るおっぱいが露わになる。
「参加する以上、覚悟を決めてもらう。愛里、もう取り消せなくなるよ。すぐに脱げる? 私や堀北さんに見られることになるし、綾小路くんが私たちとしていることを見ることにもなる。大丈夫なの?」
「え、ぇっと……」
なるほど。友達を想っての発言だったか。
確かに、佐倉までこの状況に巻き込む必要はない。人見知りで照れ屋な佐倉がいきなり裸のお付き合いとか無茶ぶりもいいところだろう。
だが、それは昔の佐倉ならの話だ。
「ぬ、脱げるよ、脱げます」
いつ人に見られるのか分からない野外での経験豊富な佐倉にとっては、人付き合いはダメでも脱ぐという行為に関してはプロ中のプロだ。
既に半裸の長谷部に対抗するかのように、あっさりと衣服を脱ぎ捨てていって、負けず劣らずのおっぱいを長谷部と向き合わせた。
おい……見てるか堀北……お前を超える逸材がここにいるのだ……!! それも……2人も同時にだ……堀北……
紆余曲折あったが、ここまで来たらあとはシュートを決めるだけだな。
「鈴音、長谷部、佐倉」
「ご主人様」
「あやのん」
「綾小路くん」
「TレックスのTは?」
「「「トリプルのT」」」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
色々と最高過ぎた。
ただいまホワイトルーム。
いや、暴れまくって白く染め上げたけど、そういう意味じゃないから。
「ん、どうした佐倉、やっぱり嫌だったのか?」
数時間に及ぶ格闘を終えて、ホワイトルームの後始末をしていると佐倉だけ、どこか意識が上の空になっていた。
オレ的には最高だったが、やっぱり複数ですることは失敗だったんだろうか。
「その……あの……」
「遠慮なく言っていいぞ」
言いにくそうにしているので助け船を出す。佐倉が嫌がるなら佐倉を含めた複数人は最初で最後にするしかない。
「その……部屋の中ですることが落ち着かなくて……」
「そうか……」
佐倉よ。そこは慣れてくれ。