綾小路Tレックス   作:チームメイト

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船上試験編その6 玄関開けたら

「おい、綾小路、オレはお前に頼んだんだが」

「おい、清隆。朝から呼び出しておいて、なんで幸村が居るんだよ」

 

 試験2日目は、やかましい始まりだった。

 

 

 

 ──綾小路Tレックストリケラトプス

   第三十八話 船上試験編その6 玄関開けたら ──

 

 

 

 

 昨日の話は、高円寺とのいざこざを抜きにすれば、幸村にとって思うところがあったらしい。

 体育祭で退学がかかってくるかもしれないと聞かされたら、運動が苦手な幸村が危機感を覚えるのも当然か。

 

 最初に幸村が頼ったのは、Dクラスのみんなのヒーローの平田だった。が、残念ながら昨日の高円寺裏切り騒動の収拾が、まだついていない。

 それで次に白羽の矢が立ったのが、オレだったというわけだ。

 

 で、オレは幸村を連れ出してプールへと向かい、呼び出しておいた須藤と引き合わせたと。

 

「朝から元気だな」

「「誰のせいだ」」

 

 普段はいがみ合うことの多い2人だが、こういうときは息がピッタリだ。

 やれやれだぜ、と言いたくなるのを我慢する。

 

「幸村がオレに頼んだのは、苦手を無くすための手伝いだろ。だったら健が最適だと思う」

「どうしてだよ」

「その反発こそが答えだろ」

 

 苦手を無くすというのは、何も運動に限ったものではない。

 幸村も堀北ほどではないが、人間関係において欠点を抱えている。

 頭のいい幸村は、頭の悪い生徒を下に見ている節がある。

 

 軽井沢しかり、須藤しかり、だ。幸村からしたら頭の痛い行動を繰り返す高円寺も含まれるか。

 

 今回の試験は4人グループで、オレがある程度フォローできているから問題となっていないが、これが軽井沢と幸村のペアで挑まなければならない試験だったらどうなっていたか。

 試験の内容次第だが、協力が必要な試験だったら躓いていた可能性が高い。

 

 苦手な相手がいるのはいいが、苦手な相手ともどう上手くやるのか大事だ。

 

 その究極の例が櫛田だろう。

 

 退学にさせたいほどの相手とも、表向きは上手くやっている。

 ──櫛田のことを考えるのは、今はやめておこうか。

 

「なあ、清隆。俺は帰っていいか?」

「待て、健。お前にしか頼めないし、お前にも利のある話だ」

「なんだよ、頼みって」

 

 呼び出されておいて、幸村からギャーギャー言われたら須藤からしたら溜まったもんじゃないだろう。

 呼び出した理由を簡単に説明する。

 

「幸村が運動が苦手なことは知ってるだろ。それを克服したいって相談されたんだ。健が協力してやってくれないか」

「なんで俺が」

「オレが知る中で一番運動できるのが健だからな。こういうのはスペシャリストに頼むのが一番だろ」

 

 本音を言うなら高円寺の方が上だと思うが、アレは例外扱いで良いだろう。

 

「いくら清隆の頼みだからって、そんなめんどくせーこそできっかよ」

「話は最後まで聞け。オレの見たところ、お前と幸村の相性は悪くない?」

「何を言っているんだ綾小路」

「それだけはねーぞ、清隆」

 

 やっぱり息ピッタリじゃねえかよ。

 

「どっちかが教わるだけってので上下関係を作るのは、あまり好ましいことではない。同級生でどっちが上ってもんじゃないからな。その点、健と幸村は違うだろ」

「違うって何がだ」

「健は運動が得意だが、勉強は得意じゃない。幸村は勉強が得意だが、運動は得意じゃない。互いに補えば最強だと思わないか?」

 

 そう簡単に上手くいかないから人間関係は難しいんだろうが、幸村が運動を考えだした今なら説得できる余地がある。

 

「おい、綾小路。それは俺が引き換えに須藤に勉強を教えろというのか」

「そうなるな」

「ふざけるな。なんで俺がこいつに時間を割かないといけないんだ」

「幸村。平田やオレに運動について相談したのは、オレや平田の時間を奪うことにはならないのか」

「……お前たちから運動しろって言い出したんだろ。それぐらいの協力を求める権利がある」

 

 いや、ねーよ。

 まあいい。この路線がダメなら別の理屈でいくしかないか。

 

「なあ、幸村はAクラスを目指しているんだよな?」

「当たり前だろ」

「だったら、もう気づいているだろ。この学校は1人の力でAクラスを目指せるもんじゃないって」

「それは……」

「Aクラスを目指すには、健の力が絶対に必要になる時がくる。健に勉強を教えて引き上げることは、Aクラスを目指すうえで無駄じゃない」

「…………」

 

 Aクラスを目指すなら分かってるよね作戦だ。

 幸村が黙ったということは、理屈の正しさを認めているんだろう。あとは、時間が掛かるが納得してくれるはずだ。

 

「清隆、オレは堀北に教わるから別に」

「そこが大事だ、健」

「は?」

「池や山内が話していたのを聞いたことがある、男女の仲はサプライズが大事ってな」

 

 そんな話、聞いたことない。

 

「堀北から教わっている限り、堀北の想像の範囲内だ。堀北には何も響かない」

「う……」

「だが、こっそりと幸村から教わって成績が伸びたらどうだ? 健の頑張りに堀北は驚くと思わないか?」

 

 実際の堀北は、あっさり「そう」ぐらいで済ませそうだが、それは言わないでおこう。

 

「堀北をビックリさせたくないか?」

「うおおおおお、清隆。俺はやる。幸村のことは気に食わねえがやってやるぜ」

 

 須藤陥落。

 これで話は決まったな。

 

「綾小路、俺はやるとは……」

 

 やらないと言い切れないあたり、答えは決まったようなものだ。

 

「幸村、ずっとやれとは言わない。試しに少しだけやってみたらどうだ」

「……分かった。試しでいいんだな。須藤、俺は何をすればいいんだ?」

 

 しぶしぶと言った感じだが、幸村が須藤と向き合った。

 幸村が須藤に教えを乞うという、教科書に乗せたい歴史的なシーンが生まれた瞬間だった。

 

「うっし、やるからにはビシバシ鍛えてやるぜ」

「健、無茶はさせるなよ」

 

 掌に拳を何度もぶつけて軽快な音を立てる須藤に、ちょっと不安になる。

 

「大丈夫だって。怪我とかさせたら本末転倒だからな。幸村は見たところ、全部が足りていない、何か運動をするとかしないとか以前の問題だ。運動をする前段階、基礎体力をどうにかしねえと話にならねえ」

「ぐっ……」

「だから、まずはその基礎体力作りからだ。今日はプールでいい。30分だ。30分動き続けろ」

「そんなことでいいのか?」

「それだけでいい。30分泳ぐのがベストだが、無理なら歩くだけでもいい。プールが無いときゃランニングだな。ただし、30分の間は休むな。それだけが条件だ」

 

 運動するための身体づくりか。いきなり無茶を言い出さないか心配だったが、分かりやすく効果も見込める方法だ。これなら幸村のことを任せても問題なさそうだ。

 

「その運動を毎日って言いたいところだが、そこは身体と相談でいい。雨が降ったら休むとかな。最初はどうせ無理だろうから、30分走り続けるなり泳ぎ続けるなり出来るようになるまでは続けろ。30分走れるようになったら次の段階に進む」

「ふん、30分だな。次の段階にさっさと進めてやる」

 

 そう宣言して勢いよく泳ぎ出した幸村だが、10分も持たずにプールを歩くだけに切り替えていた。頑張れ、幸村。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「は? なんで私が」

 

 それは朝、須藤や幸村とやったから二番煎じだぞ軽井沢。

 

「こういうのは人数が多い方が盛り上がるだろ、軽井沢も入って欲しい」

「……分かったわよ。どうせ暇だし」

 

 本当にただの暇つぶしだからな。

 というので、試験2日目の1回目の話し合いは、一之瀬の発案でカード大会が繰り広げられることになった。

 

 

「あーもう、また貧民だし、もう1回」

「何度やっても無駄でござるよ。大富豪の座は某が独占でござる」

「むかつくー、絶対勝ってやるんだから」

 

 いやいや参加していたはずの軽井沢の盛り上がりっぷりが凄い。

 

 

「ほら、これで革命。ふふん、私の勝ちでしょ」

「む……これで拙者が不利に、と見せかけて革命返しでござる」

「なんでよ。もう嫌、終わり。これで終わりにしよ」

 

 で、さっきからムキになった軽井沢が絡みまくっているのが、博士だ。

 互いに言いたい放題だ。

 無防備な応酬は聞いていて面白い。

 

 意外とこの2人って相性がいいのか。

 これが巷で噂のギャルとオタクというカップルって奴か。平田には申し訳ないが、美男美女カップルよりは応援したいかもしれない。

 

 

「さてと、時間だね。ごめん、今日は行くところあるから急ぐね。浜口くん片付けお願い」

「はい、葛城くんのところですね。お気をつけて」

 

 終了時刻になるや否や、一之瀬が急いで部屋を出ていった。

 軽井沢当番を免除されているオレも一之瀬の後に続く。

 

 葛城に会いに行くということは、状況を動かすつもりだろう。お手並みを拝見させてもらわなければ。

 

 ちなみに、これまで説明してこなかったが、試験は3つの時間帯に分けて行われている。

 

 便宜的に早い順番から早番、中番、遅番と呼ぼう。

 

 早番 1回目、11時~12時 2回目、17時~18時

 中番 1回目、12時~13時 2回目、18時~19時

 遅番 1回目、13時~14時 2回目、19時~20時

 

 試験が実施される3日間で、毎日異なる時間帯に試験が行われるように組まれている。

 

 組み合わせは次の6パターンだ。

 

 組み合わせ   初日 → 2日目 → 3日目

 スケジュール1 早番 → 中番  → 遅番

 スケジュール2 早番 → 遅番  → 中番

 スケジュール3 中番 → 早番  → 遅番

 スケジュール4 中番 → 遅番  → 早番

 スケジュール5 遅番 → 早番  → 中番

 スケジュール6 遅番 → 中番  → 早番

 

 兎グループはこのうちのスケジュール3。昨日が中番、今日が早番で、最終日が遅番だ。

 

 とまあ、昨日一之瀬にいった通り、同じ時間帯で試験を受ける生徒は毎回バラバラってことだ。

 面倒なことに、試験が行われる時間帯がちょうど昼食や夕食向きの時間帯のため、試験中の生徒を除いて食事することになるため、昨日は軽井沢や森と一緒に済ませたわけだ。

 

「一之瀬と綾小路か。こんなところで何をしている」

「葛城くんに話があってね。少しだけ時間いい?」

 

 すぐに動いたこともあり、竜グループの試験会場を出る葛城を捕まえることに成功した。

 

 だが、葛城の説得には失敗していた。

 暖簾に腕押しという言葉がピッタリで、一之瀬が話し合いに参加するように言葉をつくしも、葛城は一切を拒否だ。

 

 葛城を見送った後、神崎を待つという一之瀬に付き合うこと数分。

 

「あれ? 綾小路くん」

 

 次に出てきたのは櫛田と平田だった。

 

「遅かったな。軽井沢が待ってるんじゃないか」

「話し合いが長引いてね。ごめん、急ぐよ」

 

 とりあえず先に、平田をこの場から外す。

 

「こんにちは櫛田さん」

「わ、一之瀬さんだ。綾小路くん、彼女と一緒に堀北さんを迎えに来たの?」

 

 昨日あんなことがあったとは微塵も出さない笑顔だった。が、ちょっと毒を出してませんか?

 彼女と一緒に別の女を迎えに来る。

 確かにシチュエーション的には、そうとも捉えられる状況だが、指摘する必要なくね?

 

「一之瀬は、神崎待ちだ」

「じゃあ、綾小路くんは堀北さん待ちなんだね。まだ龍園くんと話してるから入っちゃったら?」

 

 やっぱり毒を出してるだろ。

 はい、どうぞ。と外で待とうとする一之瀬とオレを櫛田が半ば強引に室内に引き込んだ。

 

 部屋の中では、Bクラスの神崎、Cクラスの龍園、Dクラスの堀北が微妙な距離を取って向き合って座っている。

 足を組んでひじをテーブルについて座る龍園さんカッコいい。

 

「堀北さん、綾小路くんが迎えにきたよ」

「誰も迎えに来てとは言っていないのだけれど、どういう風の吹きまわしかしら迷惑だわ」

 

 櫛田も櫛田だが、堀北も堀北だな。

 櫛田の提案に乗って退学させる方向で頑張ろうかな、オレ。

 

 まあ、流石に冗談だ。まだ答えを決めるには時間がある。

 

 昨晩の櫛田は、すぐに答えを求めなかった。特別試験最終日、明後日の夜に答えを聞かせて欲しいとのことだ。

 

 堀北を退学させるように動くのか動かないのか、これから数日の間に決めなければならないので、時間的な猶予は少ない。

 だからこそ、堀北との時間を出来るだけ作るつもりではあったが、どうなることやら。

 

「試験についての相談だろ」

「綾小路くんたちは、今日も堀北さんの部屋に集まるの?」

 

 櫛田さん。彼女の前で色々ぶっこむのやめてくれませんかね。

 間違っていないだけに、否定できないのがつらい。

 

「オレの部屋は高円寺が居て話し合いにならないからな」

「そっか。それは大変だね」

「おい、底辺の茶番はその辺でいいか?」

 

 どうやって櫛田を止めたら良いのか苦難していたら、救いの声が掛かった。

 そう、我らが龍園さんだ。ありがとう龍園さん。

 

 そりゃB、C、Dの主力がせっかく集まってるのに、誰が誰の部屋に行くとか茶番だよな。

 

「もちろんだ」

 

 全力で肯定するっきゃない。

 思わずもろちんだって言いかけたぐらいの全力っぷりだ。

 

「ち。食えねえ野郎だ」

 

 龍園さんが食うのは、可愛くない女子だけでお願いします。

 ここからは、でしゃばらずに脇役に徹しよう。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 龍園と堀北や一之瀬との短い話し合いは終わった。

 

「今日は私はいいかな。試験控えてるし。出掛けてるから好きに使ってよ」

 

 いつもの流れでヤリ部屋堀北たちの部屋に行くと、長谷部には振られてしまった。

 まあ、こういう日もあるだろう。

 長谷部とはそういう関係だ。気が向いたら遊ぶし、気が向かなければ遊ばない。とても健全な関係だと思う。

 

 オレと堀北が早番で終わったところなのに対し、佐倉が中番で長谷部は遅番の振り分けだ。

 オレ達との時間差で、佐倉は今現在が試験の話し合い中なため、長谷部が出ていくと堀北との2人きりになる。

 

 だからといって今からするのは、真面目な話だけどな。

 

「あなたの意見を聞かせて」

「龍園の言うことは一理あるかもな」

「法則性はあると」

「あるかもしれないし、ないかもしれない」

 

 あの場をリードした龍園は、龍園なりの試験への解答とそのための協力を要請してきた。

 グループの中で優待者を探し出すのではなく、優待者の判明しているグループの情報を集め、優待者の法則性を見つけだして、他のグループの優待者を当てる。

 龍園がやろうとしているのはそういうことだ。

 

 優待者の法則性を見つけるには、情報は多い方がいい。

 

 あの場で龍園が提案してきたのは、BクラスやDクラスとの優待者情報の共有だった。

 3クラスで情報を共有すれば12グループのうち9グループの情報が集まる。

 それだけ情報が集まれば、法則性が存在するのなら見抜くことは可能だろう。

 

 どちらか片方だけが参加しても半分だ。

 法則性を見抜ける可能性が低くはない。

 

 試験に対し正面から挑むのではなく、別の角度から攻略を試みる。

 無人島での0ポイント戦略といい、龍園は今後一番警戒しなければならない相手かもしれない。

 

「問題なのは、あるかどうかじゃない。あった時にどうなるかだ」

「参加しなかったら完敗ね」

「それも無人島でみんなで頑張って手にいれた分を完全に吹っ飛ばしてな」

 

 法則性が存在し見抜かれた場合は、優待者を裏切り者によって当てられることになる。

 

 裏切り者が正解すれば、1人につき-50クラスポイント。

 Dクラスの優待者は3人いるため、-150クラスポイントとなる。前回の試験で手に入れた145ポイントを差し引いてもマイナスだ。

 

 紆余曲折ありながらも乗り越えた試験結果がこうなってしまえば、Dクラスは崩壊しかねない。

 苦労しても無駄になるのなら楽した方がいい。

 

 最悪なことに、どうすれば楽になるのかは高円寺っていう最高のお手本が存在するからな。

 みんなで高円寺の真似をするクラスとか想像もしたくないが。

 

「この話の厄介なところは、龍園が手を組むのはどこのクラスでもいいところだ」

「龍園くんと組みたがるクラスなんているかしら」

「普通なら居ないだろう」

 

 残念ながら普通じゃないから厄介さを増している。

 

「ただ、今回の試験は葛城が話し合いを拒否しているせいで、正面から優待者を当てることは難しい。勝者なしで終わるぐらいなら」

「龍園くんと組むクラスが出てくるかもしれない」

「その考えに辿りついたクラスが出たらどう動く?」

「組まれる前に組むしかないわ」

「そういうことだ」

 

 構図としては面白い。

 A、B、C、Dクラスが横並びで居る中で、どのクラスが他のクラスを裏切ってCクラスと組むのか。

 グループ内での裏切り者ではなくクラス単位での裏切りを龍園は推奨しているわけだ。

 

「それで、堀北はどうするんだ?」

「そんなもの決まってることよ。龍園くんとは組めないわ」

「裏切るクラスが出ませんように、と神頼みか?」

「違うわ。組むのは龍園くんのクラスじゃなくてもいい。Dクラスが組むのはBクラスよ」

 

 その答えは、オレが望む答えと一致だ。

 

 あえて会話の中で、龍園と組むのか組まないのかの2択に絞っていたが、堀北はしっかりと答えに辿りついていた。少しは堀北の視野も広がってきたのかもしれない。

 

 まあ、龍園と組むのが嫌だと言うのは、信用できるとかできないの前に、当面のオレのターゲットがCクラスだという事情が大きいけどな。

 

「明日、Bクラスと話し合う時間が作れるように交渉してみる。午後は開けておいてくれ」

「分かったわ」

 

 方針は決まった。

 平田とも相談しないといけないが、ま、なんとかなるか。

 

 問題なのは、明日が一之瀬とのデートということだ。

 タイミング的にはデートを途中で切りあげることになりそうだ。

 

 一応デートよりは特別試験を優先させるという約束なので、大丈夫だとは思う。

 ただ『クラスで特別試験に関する予定が入るならそっちを優先させて構わない』とか言っておきながら、その予定をオレから作りに行くってどうなんだ。

 

 一之瀬の優しさに甘えるしかないか。

 

 

 龍園の提案への対処はそこまでで、あとは今日の試験の話となった。

 特に何かが進んだわけでもない試験の進捗報告を手短に済ませる。

 

「つーわけで、トランプで遊んだだけで進展は無しだ」

「はぁ……あなたは、やる気が無いのかしら」

「やる気を出せばどうにかなる試験でもないだろ。そっちはどうなんだ?」

「進展があったのなら龍園くんは、あんな提案しないわ」

「今、なんで責められたんだオレ」

 

 堀北の理不尽さは、相変わらずだった。

 自称ペットとして従順になられ過ぎるのも嫌だが、もう少しバランスというものが取れないだろうか。

 

 いいだろう。そっちがそのつもりなら、こっちにも考えがある。

 

 部屋に2人きりというシチュエーション。しつけなおすには、最適な場面。

 だが、堀北に手を出すつもりは無い。

 

 櫛田の提案への答えは出せていないが、その答えを出す前に堀北には手を出せない。

 

「ヤル気ならある」

 

 そう言いながらオレは上半身の衣服を脱いでいった。

 

「そうね。それは良いことだわ」

「……だが、それはお前とではない。堀北、今日は放置だ」

 

 堀北が期待するような目に変わったのをスルーして、携帯端末を取り出した。

 佐倉は試験中、長谷部には振られた、堀北には手を出せない。

 その状況でも今のオレにとっては、何の障害にもならないということを見せつけてやろう。

 

 

 10分後、扉をノックする音が響いた。

 

「入っていいぞ」

「綾小路くん。ここって堀北さん達の部屋だよね。どうしたのって、ええ?」

「よく来たな、佐藤」

 

 男子に呼び出されて、クラスの女子の部屋に入ったら、上半身裸の男が居た。

 そりゃ佐藤も戸惑うか。

 

「これどういう状況?」

「堀北のことは気にするな。佐藤、やるぞ」

 

 戸惑う佐藤をフォローせずに、衣服をさっさと脱ぎ棄ててTレックスを解放する。

 やる気に満ち溢れたソレが、下着を突き破らんと言う勢いで飛び出した。

 

「え? ちょっと、待ってよ」

「拒否権は無い。佐藤、お前は何だ?」

「……エロ可愛い都合のいい女?」

「分かってるならいい」

「いいけど、いいけどさ、私の扱い酷くない?」

「ひどくないぞ」

 

 ひどくない。むしろ佐藤の正しい扱いだと思う。

 

「ずっとメールしても無視されていたのに」

「食事には付き合っただろ」

「強引に私が参加しただけじゃん」

 

 とかいいながら、しっかり脱ぎだすあたり、やはり佐藤の扱いとしては、これが正解なんだろう。

 堀北への恥じらいなのか、1枚脱ぐごとに躊躇するあたりが、何とも情欲をそそらせる。

 いいぞ、佐藤。もっと恥じらえ。

 

「──口ではぶつくさいいつつも、内心相手して貰えてうれしい佐藤であった」

「なんで分かるの?」

「え?」

「え?」

 

 もう少し恥じらいを足そうかと、冗談で都合の良すぎる佐藤の心の声をナレーションを入れてみたら……いや、深く掘り下げるのは止めよう。佐藤の心の声だオレは何も聞いていない。

 聞こえていないったら聞こえていない。

 

 よし、やるぞ。やるか、やるしかない。

 

「佐藤」

「綾小路くん」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス(堀北は見てるだけ)」」

 

 

 ブハハハハハッ。

 見てたか、堀北。理不尽には理不尽で答えてやったぜ。

 

 これも全て櫛田への解答をどうするのかの一環だ。

 

 決して、性欲を発散させようとかそういうのではなく、堀北を弱らせたらどうなるのかという実験を行うためであって、なんらやましいことではないのだ。

 

 さあ、どうだ堀北。参ったか。

 

 

 

 

「最高だったわ」

「「え?」」

 

 堀北の一言に佐藤とハモった。

 なぜか1番喜んでいたのは、プレイに参加していないはずの堀北だった。

 ダメだコイツ早く何とかしないと。ドМには放置プレイもご褒美らしい。

 どうやれば、こいつにダメージを与えることができるんだろうか。堀北に敗北の2文字はないんだろうか。

 理不尽だ。勝てる気がしない。

 

 櫛田よ、どうすればいいんだ。オレは何も悪くないよな。

 

「綾小路くん……」

「堀北はこうなんだ」

「そうなんだ……」

 

 非常にご満悦だったらしく、堀北は俺と佐藤に紙コップに注いだ飲み物とタオルまで用意してくれた。

 堀北が誰かのために動く。そんな貴重な体験を得るのは、絶対にこのタイミングじゃない。

 

 なんとも納得しがたいものがあるが、そういうものだと納得するしかないのか。

 

 佐藤と二人でタオルを巻いて、喉を潤して一息つく。

 

 トントン

 

 と、そのタイミングで扉が叩かれた。

 防音性能がしっかりしてるとはいえ、直接扉を叩けば部屋に響く。

 

「佐倉さんね」

「ノックとかしてるのか」

「私も長谷部さんもしなくていいとは言ったのだけれど、着替えの最中とかだと申し訳ないからって言われてしまって。いつもノックをして、しばらく待ってから扉を開いているのよ」

「佐倉らしいといえばらしいな」

 

 佐倉はまだ部屋に馴染みきれていないようだ。

 一緒にTレックスをするぐらいじゃまだまだ甘かったってことだな。

 

 よし、ここは佐倉のためにひと肌脱ぎますか。

 順番的に次は堀北とかになりそうだし、それを拒否する上でも都合がいい。

 

「佐藤、もう一発やるぞ」

「え? 綾小路くん」

「四つん這いになれ」

「ちょっと待って」

 

 文字通り腰に巻いていたタオルを脱ぎ捨てて、臨戦態勢を作ると、慌てた様子の佐藤のタオルを奪い取って、四つん這いにして背後からTレックスだ。

 

 違う。この体勢はトリケラトプスだ。

 

 そのまま佐藤を突き進めるようにして動かして、扉の前で佐倉を待ち構えた。

 佐倉よ、遠慮する必要なんて欠片もないってことを教えてやろう。

 

 玄関開けたらサトウとレックス。

 玄関開けたらサトウとレックス。

 

 玄関開けたらサトウとレックス。

 玄関開けたらサトウとレックス。

 

「玄関開けたら?」

「サトウ」

 

「「T(と)レーーーーーックス」」

 

 無いと困るねサトウとレックス。

 その瞬間を待っていたかの如く扉が開き、

 

「きゃっ」

「綾小路くんと佐藤さん……え、何やってるの?」

 

 そこには、想定していた佐倉と想定していない松下の姿があった。 

 

「…………」

 

 やべえ、どうすっかなぁ。

 うん、ちょっと調子に乗り過ぎてたよな、分かってるよ。

 

 ナニですがナニか? とか言える空気じゃねえなぁ。

 

 ダメだ。やはりオレにはTレックスしかない。

 トリケラトプスにしたのが失敗だったんだ。

 そうに違いない。




一時的に38話が最新話だった期間限定でタイトルとあらすじが変更されていました。
以下、変更されていたタイトルとあらすじ

タイトル
綾小路トリケラトプス

あらすじ
Tレックス並のアレを持つ男こと綾小路君が宝の持ち腐れなどをせずに、いかにTレックスを使うのかを頑張った話です。見事ハーレムへ。

調子に乗りまくった綾小路は、何もかもが上手く行くと思い込み、Tレックス改めトリケラトプスとして新しい扉を開くことになるも、玄関を開けたら──

なお、Tレックスが火を吹く都合上R-15作品です。
Tレックスが火を吹くシーンは基本ギャグにしかなりませんので、過激な描写をご期待の方は他の作品をお探しください。

※一時的にタイトルとあらすじの一部が変更されています。次の話投稿時に戻ります。
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