綾小路Tレックス   作:チームメイト

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船上試験編その8 ミッションコンプリート

 特別試験2日目、2回目の話し合い。

 

「ちょっと、誰よスペード止めてるヤツ。出しなさいよ」

「ふっふっふっ。拙者はそこから先のカードを持っていないでござるからな。出す意味がないでござる」

「またあんたなの、いい加減にしなさいよ」

 

 昼は大富豪だったが、今回は七並べだった。

 

 いいなぁ。この平和な感じが癒やされる。

 

 特別試験中の方がよほど癒しを感じるって間違っている気がしてならないが、試験と試験の合間に激しいイベントを挟み過ぎだ。

 

 本当に消耗度が半端ない。

 

 今なら菩薩の心で何があっても許せそうだ。

 博士がスペードの9を止めてる被害をオレも受けているけど、一切気にならないぐらいだ。

 菩薩小路清隆と呼んでもらってもいいぐらいだ。

 

 そして、オレ自身の成長を感じていた。

 前回のトリプルレックスの後は、一之瀬と会うことに気まずさがあったが、今回はそうでもない。

 人間の環境適応能力の高さだ。慣れというものは、恐ろしい。

 オレはもう一之瀬に会う直前までTレックスをしていても、平然としていられる。

 

 自分自身の意外な成長を感じたことからも、菩薩っぷりを増すばかりだ。

 

「あ、町田くん。今日これ終わったら遊びに行かない? 遊び相手が見つからなくて」

 

 ん?

 

「そうだな……」

 

 なん……だと……

 

 健全に遊ぶBクラスを中心としたオレたちの輪の外で、真鍋たちCクラスの3人がAクラスの町田を囲んでいた。

 伊吹は参加していない。

 Aクラスを引っ張る町田の存在感は、話し合いに参加していなくても強いのか。

 

「それじゃあ夜遊ぼうよ、いい?」

「いいぞ」

 

 夜に遊ぶ……だと……

 いったいどんな遊びなんだ。あ、博士がついにスペードの9を出した。それじゃあスペードの10を出してっと。菩薩菩薩。

 待て、まだだ。ただ夜に遊ぶだけなら、何も恐れることは無いはずだ。

 

「私たちの部屋に来てくれる?」

「ああ、別に……」

 

 部屋に行く……だと……

 しかも私たち、つまり真鍋たち女子3人がいる部屋ってことか。

 町田、なんて羨ま──いや、待て。3人はやばい。体力を全て持っていかれるぞ、分かっているのか町田。

 おまえにその覚悟があるというのか。

 

 くそ、優待者は軽井沢って聞いていたのに、これじゃあ町田が優待者じゃねえかコンチクショウ。

 

「ちょっと、綾小路くんの番じゃん」

「あ、ああ。悪い。少し考えごとしていた」

「もー、しっかりしなよー」

 

 軽井沢。お前の手持ちのカードはもう全部分かってるからな、その手前で止めてやる。

 カードを配られた時にマーク別、数字順に並べ直すなよ。どこから手出ししたかで丸わかりじゃねえか。

 

 スケスケだぜ!! 綾小路キングダム。

 

 ん? 菩薩小路? それはもう終わったんだ。残念ながらな。

 

 とりあえず女子の部屋に、男子が訪れようとしていることを茶柱に報告しよう。

 目指せ結果3だ。裏切り者の密告により、優待者の町田に鉄槌をって奴に辿りつかなければ。

 いや、だから何って言われて終わりそうだけど。

 却下だな。

 

 どうする。どうすれば邪魔をできる。考えろ、オレ。今回の試験はシンキングだろ。

 どうすれば優待者の町田を止めることが出来るんだ。

 考えればきっと答えが。

 

「連絡先交換しよ」

「分かった」

 

 ぐぬぬ。

 さて、どうすっかな。

 

 

 

 

「綾小路、俺はもう寝る。もし平田からの情報があったら起こしてくれ」

「お、おう。お疲れ」

 

 試験が終わってすぐに、そう宣言した幸村が部屋を出ていった。

 朝からプールで30分が相当利いたようだ。疲れ切った足取りだった。

 

 結局、町田対策はイマイチいい案が出なかったし、諦めるしかないんだろうか。

 

 Cクラスの女子をどうするのか考えていると、そのCクラスの伊吹を除いた3人が軽井沢の後をつけているのが見えた。

 

「……今日は軽井沢当番じゃないんだけどな、平田はまだか」

 

 部屋の外で探してみたが、まだ平田は近くにいないらしい。

 竜グループは色々と大変そうだから、すぐに抜けたりは出来ないんだろう。

 

 4人を追いかけて非常階段へと続く扉をそっと開く。

 

「ちょっと、なんのつもり!?」

「とぼけんなよ。リカの話よ、分かってるでしょ」

 

 3人で軽井沢を囲い込んで壁に追いやっている。

 

 リカの話と言うのに聞き覚えがあった。平田に相談した軽井沢が絡まれていた奴だ。

 おっと、録画録画。

 気配を消して4人の様子を撮る。

 

 CクラスがDクラスの生徒に絡むのを録画するのは、須藤のときに続きこれが2回目か。

 おかげで無駄に手慣れてしまった感がある。

 

「学校に言いつけるし」

「なにを? 別に暴力振るってるわけじゃないし、なんだったらリカのことを言いつけたっていいんだからね」

「知らないって言ってるでしょ。もしなにかあったとしたら、そのリカって子がどん臭いだけじゃない」

 

 暴力を振るっていないという言葉に強気になったのか、軽井沢は非を認めなかった。

 

「こいつマジムカつく。さっさと謝るなら許してやろうと思ったのに」

 

 おさげの子が肩を掴んで壁に押しつけた。

 うるさいぞ、里中(カベドン)って奴だ。

 

「どうせ、最初から許すつもりないでしょ……」

 

 軽井沢が小声で吐き捨てた反論が、余計にCクラスを怒らせた。

 今度は背中を打つほど強く、壁に肩を押しつける。

 

 鈍い音が非常階段に響いた。

 

 止めるか。いや、まだだ。

 まだ暴力というには弱い。もう少し決定的なものを待った方がいい。

 

「私もう我慢の限界。こいつ許せないかも」

「でしょ、本気で虐めちゃう?」

 

 3人に囲まれたまま軽井沢は背中を壁に預けて崩れ落ちた。

 

「や、やめ、て……」

 

 荒い呼吸の中で何とか抵抗しようとするも、真鍋たちは止まらない。

 

 堀北なら喜ぶんだろうか。いや、ないな、いくら堀北でもそんなことは。

 

「私軽井沢の顔嫌い、不細工じゃない?」

 

 崩れ落ちた軽井沢の髪を掴んで、強引に顔を引き上げる。

 そのまま涙目になった顔を何度も写真に収めていった。

 

「いっそ切り刻んじゃう?」

「いいね。あ、別にいじめじゃないから、可愛くするだけだし」

「ね、分かってるよね」

 

 3人の連係プレイで軽井沢を追い込んでいく。

 震えていた軽井沢は、ついに動かなくなった。

 

 そろそろ止めるか。流石にこれ以上はやばそうだ。

 いじめの証拠動画としては十分だろう。

 

「ま、待つでござる。い、いじめはダメでござるよ」

 

 オレが隠していた身を晒け出すよりも早く、非常階段に飛び出してきた塊があった。

 ややぽっちゃりした体型でお馴染みの博士だ。

 

「何よあんた」

「関係ないでしょ」

「今大事な話をしてるんだけど」

 

 真鍋たちは軽井沢を囲んでいた輪を緩めると、乱入してきた博士へとターゲットを移す。

 強烈な睨みに足を震わせながらもそれでも、博士は立ち向かった。

 

「せ、拙者みたでござるよ。いじめはダメでござる」

「いじめじゃないって言ってるでしょ」

「話し合っていただけ」

「う、うう……ダメでござる。いじめに見えたでござるよ」

「何よその口調、気持ち悪いんだけど」

「オタクきっしょいんだけど」

「あんたに関係ないでしょ。もしかしてあんたこのヤリマンが好きなわけ?」

 

 博士フルボッコだ。

 

「ち、違うでござる。拙者はこんなビッチに興味ないでござる」

「ウケル。こんなオタクにもフラれてるじゃん」

「軽井沢さん人気無いね」

「可哀想」

「そ、それでもクラスメイトは見過ごせないでござるよ。やめるでござるー」

「やめるでござるー」

「やめるでござるー」

「ヤリマンを助けるのはこんなのだけじゃん」

「殿中でござるって言ってみてよ、ほら。殿中でござる殿中でござる」

 

 博士の渾身の叫びも、バカにするように真似されて終わった。

 おまけで、なぜか忠臣蔵ごっこが始まっていた。ここは非常階段であって、殿中じゃねえよ。

 

 ダメだ。博士じゃ止められそうにないな。

 

「何の騒ぎだって……おい、何やってるんだ」

 

 さぞ、今初めてこの場につきましたって感じで声をかける。

 

「綾小路くん。こいつらが拉致して暴力を振るってきたの、助けて」

 

 オレの登場で博士によって緩んだ輪の間を抜け出して、軽井沢が抱きついてきた。

 守るように後ろに隠す。

 

「それは大ごとだな。先生に話せば問題になるんじゃないか?」

「それはこっちのセリフよ。軽井沢さんがリカにやったこと、問題だから」

「そうよ。先生に言うのなら、こっちだってそうさせて貰うだけだから」

 

 なるほど。痛み分けだと言いたいわけか。

 

「軽井沢がリカって子に何をやったのかは知らんが、証拠はあるのか?」

「は?」

「証拠が無いのなら言いがかりになりかねないぞ」

「あんただって私たちが何かしたって証拠はあるわけ?」

 

 証拠はあるんだが、切り札は残しておくか。

 

「石崎や小宮がDクラスと揉めた話、聞いてないのか?」

「その話は今関係ないでしょ」

「いや、ある。あのとき、Dクラスの無実を証言した子が居たんだが、証言までに日数が掛かってしまった。それに対してCクラスの担任の坂上先生が『証言するのが遅かった。本当ならもっと早く言えたはずだ。嘘を付くように頼まれたんじゃないか』と指摘してきた。揉め事が起きた時に言わずに、後出しで言い出しても教師側は認めないってことだ」

 

 写真とオレの用意した動画によって覆すことが出来たが、佐倉の証言だけではDクラスは負けていたはずだ。

 

 今起きた軽井沢がいじめられていたという問題に対して、軽井沢の過去の蛮行を主張したところで、証拠が無いのなら佐倉の証言と似たような扱いになってもおかしくはない。

 何を隠そうCクラスの担任が言い出したことだしな。

 

「リカが嘘ついてるっていうわけ?」

「そうは言っていない。事実かどうかではなく、すぐに言い出せなかったのがダメだって話だ。教師を巻き込むなら、すぐに教師を頼るべきだった。今さら言い出しても遅い」

「それはあんたが勝手に言ってるだけでしょ」

「なら試してみるか? Dクラスとしては、穏便に済ませずにクラスポイントを貰った方が嬉しいんだが」

 

 CクラスとDクラスが揉めて、Dクラスにクラスポイントが移ったことは憶えているはずだ。

 騒ぎを大きくするなら同じことが起きると主張する。

 

「これで終わりにした方がいいんじゃないか?」

「……絶対にリカに謝らせるから」

 

 そう捨て言葉を残して真鍋たちは去っていった。

 

 今この場を収めただけで、これで終わらせる気は無いらしい。

 

「大丈夫か?」

「う、うん。ありがとう。もう大丈夫だから、行こ」

「分かった」

 

 真鍋とやりあっているうちに、軽井沢は落ち着いたらしい。

 震えが止まり、涙目になっていた表情も少し痕が残るものの、ほとんどいつもの軽井沢に戻っていた。

 

 博士は落ち着いていなかった。が、放置だ。

 まだ震えているが、男を抱き支えるような趣味はない。悪いな。

 

「せ、拙者、頑張ったでござるよな」

「博士、ナイスファイトだった」

 

 誰か博士にエルメスのカップでも買ってあげてくれ。

 オレはポイント的に無理だ。

 

 震える博士をその場に残して非常階段を出て、軽井沢を探していたらしい平田を見つけて引き渡した。

 

 事情は後で説明すればいいか。

 なにはともあれミッションコンプリートだ。

 

 え? 何のミッションだって?

 

 軽井沢を助けることじゃねえぞ。今日のオレは軽井沢当番じゃないからな。

 決まってるだろ。町田くん妨害大作戦だ。

 

 あれだけ3人を怒らせておけば、不機嫌になって町田とのデートなんて上手く行くわけがない。

 たぶん、それどころじゃなくなったはずだ。

 

 今回の試験はシンキング。考えることだ。

 頑張ればこうして結果を出すことが出来る。諦めずに考えればな。

 

 大勝利!

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