「法則性か」
「本当にあるのかしら」
「あるのか分からないけど、探すしかない感じだよね」
オレ、堀北、松下の3人でメモを片手にうんうんと唸っていた。
簡単に見つかるかと思ったが、時間が掛かりそうだ。
さて、どうしたもんだ。
──第四十三話 船上試験編その11 リーダーは変更できない──
あの後、神崎を加えて同盟に関する話し合いが行われた。
決まった内容は、大きく4つだ。
1、優待者の情報を共有すること。
2、BクラスとDクラスの優待者の処理は、明日の15時に互いに裏切って間違える処理をすること。
3、優待者の法則性が見つかった場合、共有すること。
4、3が成立した場合、猪グループをDクラスが、その他はBクラスが裏切り者として正解すること。
1については、すぐに共有された。
1、優待者の情報を共有すること。
Bクラスの優待者は、牛グループ、
やはりというかなんというか、一之瀬はしっかりとクラスの優待者情報を把握していたようだ。
こちらも3人の優待者を伝える。
代表者だけの話し合いということで、証拠までは求めなかった。
ここでどちらかが裏切るようなら、互いに見る目が無かったってことでいいだろう。
裏切って大勝利を手に入れることは出来るかもしれないが、まだ1年の1学期が終わったところだ。今後を考えれば、裏切った後のデメリットの方が大きい。
長い学園生活で裏切り者のレッテルを貼られてすごす度胸は、どちらのクラスにもない。
続いて2だ。
2、BクラスとDクラスの優待者の処理は、明日の15時に互いに裏切って間違える処理をすること。
これはAクラスとCクラスの同盟対策だ。
AとCが組んで法則を見抜き、BとDの優待者を当てられることを防ぐために、互いに優待者がいるグループは、優待者がいないクラスが裏切って失敗することによって終わらせることで決まった。
試験結果4*1狙いとなる。
試験結果3*2の裏切り者が正解して終わらせるという手もあったが、優待者はプライベートポイントが貰える立場にあり、裏切り者が正解するとそれが消滅するため、それでは優待者に選ばれていた生徒が納得しにくいということで、優待者の貰えるプライベートポイントが確保される試験結果4狙いとなった。
その他、試験結果3が無理だった理由を後述する。
そして明日の15時という時間だ。
AクラスとCクラスの同盟を警戒しつつ、明日の話し合い1回目までは様子をみたいというので、1回目が終わって2回目までの間の15時に裏切ることが決まった。優待者のルールが発覚した場合も、裏切るタイミングは15時だ。
15時に一斉にメールを送信して優待者試験を終わらせる。
AクラスとCクラスが組んだとしても慎重派の葛城ならギリギリまで待つだろうから、15時に一斉に終わらせればこちらの方が早く裏切れるという判断だ。
残りは2つ。
3、優待者の法則性が見つかった場合、共有すること。
話し合いで法則性を見つけだすところまでいきたかったが、BクラスとDクラスのリーダー陣が長時間話し合っていることは隠したい。早めに話し合いを終わらせることを優先して、諦めた。
互いに法則性を探して、今夜報告し合うことになっている。
一緒になって探すよりも、それぞれが探して一致した方が信憑性がありそうだし、これもありということにしよう。
どうせなら互いに答えを紙に書いて見せ合うとかやってみたかったが、普通にメール連絡だ。
文明の進化により情報の共有は楽になったが、情緒がなくなってしまった例だろう。
優待者のルールは「火」だとか見せ合っても意味が分からないけど。
最後の4つ目。
4、3が成立した場合、猪グループをDクラスが、その他はBクラスが裏切り者として正解すること。
12グループのうち
Bクラスが優待者 牛グループ、
Dクラスが優待者 竜グループ、
残りがAクラスかCクラスとなる。
単純に2クラスで分けるなら、3グループずつ担当することになるが、今までの試験の進行がややこしい事態を引き起こしていた。
というのも、Bクラスが優待者のグループのうち牛グループと
佐倉のいた牛グループは、今日の朝に裏切り者が出て、試験が終了していた。
これが互いの優待者を処理する上で、結果3を選べなかった理由でもある。
とりあえずこの2つを除いて、互いの優待者を処理してみよう。
Dクラスが優待者3グループが裏切り者の失敗により勝利、
クラスポイント +150-50=+100
プライベートポイント +150万
Bクラスが
クラスポイント +50-150=-100
プライベートポイント +50万
互いに関わる
牛グループは、恐らく当てられていないらしい。それを信用してBクラスの勝利とする。
Bクラスのクラスポイント -100+50=-50
プライベートポイント +50万+50万=+100万
BクラスとDクラスの比較はこうだ。
| (クラス名) | (Bクラス) | (Dクラス) |
| (クラスポイント) | (-50) | (+100) |
| (プライベートP) | (+100万) | (+150万) |
と、クラスポイントで150の差が出ている。
残るグループとポイントは、6グループの300ポイントなので、平等に揃えることはできない。
牛グループの分だけどちらかが、上回ってしまうわけだ。
この場合にどう調整するのかだ。
牛グループでBクラスが勝利したのなら、それは同盟とは関係のないところでの勝利だ。よってその分は、Bクラスがプラスになるように調整することに決まった。
で、Bクラスが5グループ、Dクラスが1グループ(猪グループ)で勝利を分け合う形だ。
分け合った後のポイントは、こうなる。
| (クラス名) | (Bクラス) | (Dクラス) |
| (クラスポイント) | (+200) | (+150) |
| (プライベートP) | (+350万) | (+200万) |
クラスポイントでBクラスが50ポイント。プライベートポイントで150万ポイント上回ることになる。牛グループの50ポイント分Bクラスが上回っている形だ。
優待者の法則性が見つかったとしても、絶対に正解かどうかは分からないというリスクは残るわけで、その辺をBクラスの方が多く負担すると考えれば、Dクラスにとっても悪くはない。
なによりだ。
プライベートポイントに差が出た場合は、半額分を一之瀬が回収してDクラスに渡すことを約束してくれた。
これは5つ目の同盟の決まり事といえるかもしれない。
一度手に入れたプライベートポイントをクラスメイトから回収するのは至難の業だが、クラス内で信頼関係を築けているBクラスには出来ることらしい。
Bクラスすげえ。
と、これで話が終われば良いんだが、スルーしていた高円寺が裏切り者になった
無人島試験に続いて高円寺に振り回されることから、Dクラスは逃れられないらしい。
高円寺が優待者当てに成功したパターン
| (クラス名) | (Bクラス) | (Dクラス) |
| (クラスポイント) | (+150) | (+200) |
| (プライベートポイント) | (+300万) | (+250万) |
高円寺が優待者当てに失敗したパターン
| (クラス名) | (Bクラス) | (Dクラス) |
| (クラスポイント) | (+250) | (+100) |
| (プライベートポイント) | (+400万) | (+200万) |
と、BクラスとDクラスのどちらが勝つのかは高円寺次第だ。
好き勝手やってる高円寺が最大のキーパーソンとか勘弁して欲しい。
オレの予想では成功しているのでDクラスの勝利だ。
ここはもうひと手間考えないといけないのかもしれない。
めんどくさいけど彼女のためにひと肌脱ぐしかねえな。
と、長くなったが同盟で決まった内容は、こんな感じだ。
一之瀬たちと別れて優待者の法則を考える作業に移ったところで、松下が合流して今に至る、と。
松下の本気でAクラスを目指すという言葉には、偽りがなかったらしい。
今も各グループのリストと優待者の情報を前に、ああじゃないこうじゃないと唸っている。
オレも本気で取り組むとするか。
この場にいる3人のグループから考えていった方が早そうだ。
まずは、自分のグループから考えてみよう。
兎グループ
A 竹本茂 町田浩二 森重卓郎
B 一之瀬帆波 浜口哲也 別府良太
C 伊吹澪 真鍋志保 藪菜々美 山下沙希
D 綾小路清隆 ◎*3軽井沢恵 外村秀雄 幸村輝彦
優待者=ヤリマンもしくはいじめられっ子程度しか分からないな。
次に、堀北たちのグループだ。
竜グループ
A 葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春
B 安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美
C 小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔
D ◎櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音
御存じ櫛田さん。軽井沢との共通点なんか無さそうだ。クラスの中心人物ぐらいか。
考えをまとめるために記号を追加してみよう。
竜グループ
A 葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春
B 安藤紗代 神崎隆二 津辺仁美
C 小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔
D ◎T*4櫛田桔梗 平田洋介 T堀北鈴音
うん、関係のない記号を追加しても意味ねえな。
関係があったら怖すぎる。
オレとTレックスした相手が優待者というルールで、学園側には全て知られているとかだったら怖すぎるだろ。
竜グループだけで既に2人いるから絶対に関係ないってことだけは分かった。
堀北とTレックスしといて良かった。
松下のグループだ。
牛グループ
A 清水直樹 吉田健太 沢田恭美 西春香
B ◎小橋夢 二宮唯 渡辺紀仁
C 時任裕也 野村雄二 矢島麻里子
D T佐倉愛里 T松下千秋 須藤健 池寛治
Bグループの小橋という女子生徒が優待者だったようだ。
こうやってみると優待者には女子が多いんだろうか。
グループ内の男女比はっと、男女別に色分けしてみるか。
牛グループ
A 清水直樹 吉田健太 沢田恭美 西春香
B ◎小橋夢 二宮唯 渡辺紀仁
C 時任裕也 野村雄二 矢島麻里子
D T佐倉愛里 T松下千秋 須藤健 池寛治
うん、それっぽくなったが、どうなんだ。
「あ……そっか。そういうことだったんだ」
「なにか気づいたのか?」
オレが男女別に色分けしてるのを見て、メモを覗き込んできて松下が、何かに気づいたみたいだ。
堀北もメモから顔を上げて松下の方を見る。
「松下さん。法則が見つかったのかしら」
「ごめん、法則はまだなんだけど、違和感があった理由が分かったの。このリストを用意したのってBクラス?」
「いや、Bクラスからは優待者の名前を聞いただけだ。各グループの生徒ぐらい流石にDクラスでも把握できてるからな」
全グループの生徒分けは、平田と櫛田を中心に情報を集め、特別試験の初日に終わっている。
「やっぱり。じゃあ、牛グループのリストは、佐倉さんか池くんか須藤くんからの情報なんだ」
「佐倉さんからだったはずよ。もしかしてグループの生徒に間違いがある、とか?」
「そんなに大きな違いじゃないんだけど……ちょっとかして」
松下はオレからメモを受け取ると、オレの書いた生徒リストの下に何やら書き始めた。
「違和感だけど、このリストは最初のルール説明のときに、見せられたリストと違ったの。資料のリストは、こうだったはず」
佐倉情報の牛グループ
A 清水直樹 吉田健太 沢田恭美 西春香
B ◎小橋夢 二宮唯 渡辺紀仁
C 時任裕也 野村雄二 矢島麻里子
D T佐倉愛里 T松下千秋 T須藤健 池寛治
松下の書いた牛グループ
A 沢田恭美 清水直樹 西春香 吉田健太
B ◎小橋夢 二宮唯 渡辺紀仁
C 時任裕也 野村雄二 矢島麻里子
D 池寛治 T佐倉愛里 須藤健 T松下千秋
「名簿順か」
「違うよ。五十音順。出席番号は男女を分けてるから」
そうだったっけ。
出席番号とか使うことが無いからあまり意識したことが無いが、言われてみたらそうだった気がする。
「そうね。私が用意した竜グループと綾小路くんが用意した兎グループも五十音順だわ」
松下とそんなやりとりをしているうちに、堀北は他のリストと見比べていた。
「たしか『必要性を感じるならばこの場で覚えておくように』だったな」
グループの構成メンバーの資料を渡された時に、真嶋先生が言っていた言葉だ。
となると、この順番にこそ意味があるのかもしれない。
たぶん、佐倉は後で自己紹介とかのときにグループの生徒を覚えたんだろうな。
Dクラスで自分と松下を先に持ってくるのとか、佐倉っぽい。
五十音順のリストで櫛田は、Dクラスの1番目。軽井沢はDクラスの2番目。牛グループはBクラスの1番目か。
見事にバラバラだが、それが逆に意味があるのか。
ってダメか。
良い線いってると思ったんだが、違ったみたいだ。
「他に説明時にどんなこと言われていたっけ?」
「今回の試験はシンキング、考え抜く力。想像力を働かせて新しい価値を生み出す力が必要って言われたはずよ」
「私はそこまで細かく覚えてるわけじゃないけど、たぶん同じことを言われたと思う」
想像力を働かせて新しい価値を生み出す力か。
聞いた時は、シンキングって言葉を説明しただけだとおもったが、こうして今改めて聞くと違って聞こえてくる。
「優待者にはルールがあり、名簿リストの五十音順には意味がある。だとしたら、この名簿に想像力を働かせて新しい価値を生み出せって言われているみたいだな」
五十音順に意味があると思い込むのは、視野が狭くなって危険だ。
かといって、他に案が無い以上、この路線で考えていくしかない。
他に、何かヒントは無かったか。
軽井沢と幸村が揉めていたことは憶えているが、その印象が強くて説明の記憶がぼやけるな。
おのれ、軽井沢め。一之瀬とオレとの関係だけじゃなく、こんなときまで邪魔しやがって。
ん? 今、何か引っかかったような。
こんなときまで──違う。一之瀬とオレとの関係だけじゃなく──こっちだ。
一之瀬とオレとの関係──BクラスとDクラスの関係か。
一之瀬をからかうときに、何度もBクラスとDクラスの関係をオレ達の関係って言ってきたおかげで、発想が繋がったな。
「……クラスの関係について何か言ってなかったか?」
「そうね……クラスの関係性を一度無視しろって言われたはずだわ」
「うん、何よそれって思ったから間違いないよ」
クラス単位ではなくグループとして試験に協力して挑めって程度の話だったはずだが、それも学校側から与えられたヒントだったとしたら。
牛グループの表示からクラスの表記を消す。
ついでに、男女別は関係なさそうだから余計な装飾も消そう。
牛グループ
沢田恭美 清水直樹 西春香 吉田健太
◎小橋夢 二宮唯 渡辺紀仁
時任裕也 野村雄二 矢島麻里子
池寛治 佐倉愛里 須藤健 松下千秋
こうしてクラスを消してみると五十音が崩れてしまった。
このままだと使えない。
五十音順に意味があるというのを採用して、ここから更に五十音順に並べ替えると。
牛グループ
池寛治 ◎小橋夢 佐倉愛里 沢田恭美
清水直樹 須藤健 時任裕也 西春香
二宮唯 野村雄二 松下千秋 矢島麻里子
吉田健太 渡辺紀仁
それっぽいものが出来た気がする。
これだけだと判断がつかないな。
「堀北、松下、グループごとの名簿リストをクラスを混ぜた五十音順に並び直してみてくれ」
「分かったわ」
「やってみるね」
指示を出すだけではなく自分でも進める。
とりあえず手元にあった、竜グループと兎グループだ。
兎グループ
綾小路清隆 一之瀬帆波 伊吹澪 ◎軽井沢恵
外村秀雄 竹本茂 浜口哲也 別府良太
町田浩二 真鍋志保 森重卓郎 藪菜々美
山下沙希 幸村輝彦
よし。牛グループと優待者の位置が被っていないな。
竜グループ
安藤紗代 小田拓海 葛城康平 神崎隆二
◎櫛田桔梗 鈴木英俊 園田正志 津辺仁美
西川亮子 平田洋介 堀北鈴音 的場信二
矢野小春 龍園翔
こっちも大丈夫だ。これは見つけたかもしれない。
「優待者の順番はどうなった? こっちは、牛グループが2番目、兎グループが4番目、竜グループの櫛田が5番目だ」
「
「
「2、4、5、8、9、7か。見事にバラバラだな」
優待者の当落を決めたメールに書かれていた『厳正なる調整の結果』というのは、こういうことだろう。
「あとは、何番目が優待者になるのか」
「綾小路くん、もうここまで来たらみんな分かってるよ。焦らすつもり?」
「焦らしプレイ? 歓迎するわ」
「松下、堀北を喜ばせるようなこと言うのはやめろ」
「ごめん」
「歓迎するわ」
「歓迎するな」
考える時間を作るつもりだったが、松下はもう答えに辿りついたようだ。
ヒントは多かったとはいえ、やはり頭の回転が早い。
これだけ能力が高いのなら、今後を戦う上で主力メンバーと考えていいだろう。
これからは堀北だけでなく、松下も試験の攻略方法の相談に入ってもらおう。
そして堀北よ。どこに辿りつこうとしている。やめてくれ。
右腕をテーブルの上に出せ。お前の右腕はどこでナニをしている。
今回の試験はシンキングだ。右手は必要ない。だからといってだな。
一気に真面目モードが終わった気がする。
スイッチの切り替え、ハンパねえよ。
まあ、答えに辿りついた安堵感がそうさせているんだろうと前向きに捉えてやるか。
みんな答えが分かっているなら、さっさと答え合わせだ。
「じゃあ、せーのでいくか。いくぞ、せーの」
「「十二支の順番」」「イクッ」
今、何か雑音が入った気がするけど気のせいだよな。
うん、3人の答えが一致した。せーのでいくかをなんだと思っているんだ。
「なあ、松下。提案なんだが、リーダーやらないか?」
「……そこまでは遠慮したいかな」
クラスのリーダーはもう松下でいいんじゃないか。
リーダーがドМだったってのは、リーダーを変更できる正当な理由ではないんだろうか。