法則が分かった後は、結構忙しかった。
流れでTレックスとかじゃねえぞ。堀北には手を出せないし。
真面目な試験対策だ。
AクラスとCクラスに対抗するためには、試験を同時に終わらせる必要がある。
中途半端に動かれると、カウンターで動かれかねないからだ。
Bクラスなら悩まずに済みそうだが、Dクラスの場合は誰を裏切り者にすればいいのかが、悩ましい問題だ。
ここからは、平田らも交えて調整が行われた。
なお、軽井沢の件は、軽井沢はリカに謝って、真鍋たちも軽井沢に謝ってそれで手打ちだ。
平田は、しっかり終わらせてから合流となった。
こういうときに信用できそうな、平田、櫛田、堀北、幸村は、そもそもDクラスが優待者のグループ。
松下のグループは、試験が終了済み。
信用は別にしてオレが動かしやすい、須藤、佐倉も松下と同じく終了済み。平田経由で頼みやすい軽井沢は、優待者だ。
というわけで、猪グループで裏切って正解する大役は、佐藤が担うことになった。
降って湧いたような大役に、佐藤は『私じゃ無理』と断ってきたが、Aクラスを目指す仲間として頑張って欲しい。佐藤しか信用できない。と何とか説得して、手に入れたプライベートポイントの一部をオレが貰う条件で、納得してもらった。
そもそもDクラスが正解するグループとして、どのグループでも良かった中で猪を選んだのは、佐藤がいたからだしな。
Bクラスの優待者を裏切って間違える役は、重要度が落ちるので、平田に適当に男子生徒を選んでもらった。念には念を押して2人選んでおいたので、間違いないだろう。
片方が忘れていても片方が送れば試験は終了だし、両方が送ろうとしても先に送った生徒の分で終わるので、何の支障もない。
間違える分には、プライベートポイントを誰が手にするのかで、揉める心配がないから楽だ。
あとは優待者の3人に試験が終わる説明をしたり、他の関わらない生徒には、簡単に裏切らないようにと改めて頼んだりと、やることが盛りだくさんだった。
Bクラスとの情報交換も無事に終わり、特別試験を終わらせる調整が終わった時には、だいぶ遅い時間になっていた。
「今日ぐらいはいいか」
流れ的にTレックスになってもおかしくなかったが、しばらく調子に乗りまくってたし、一之瀬とデートをした日ぐらいは、大人しくしておくことにするか。
明日に備えて、今日はもう身体を休めようと布団に入りかけたところで、携帯が鳴った。
担任教師の茶柱からの呼び出しである。
タイミング的にはスルーしたい。
「プールなら行くしかない」
呼び出された場所がプールで無ければな。
夜+プール=ナイトプール。これは伝説のバリピ御用達の施設じゃないか。
お堅い印象の茶柱だが、スタイルは抜群だ。水着姿が拝めるのなら、身体を休めるよりも優先すべき事項だ。
既に寝ている平田たちを起こさないように注意しなければ。
音を立てずに寝巻代わりのジャージから借りたままのアロハシャツへと着替え直して、遅れないように小走りでプールに向かった。
「水着じゃない……だと」
特にライトアップされたりはしていない、単に夜の暗いプールでしかなかった。
そろそろ日付が変わりそうな、時間が時間だけに誰も居ない。
居たのは、いつものスーツをピシッと着た茶柱とアロハ姿のオレだけだ。
バリピじゃない茶柱とバリ島の住民っぽいオレだけだ。いや、バリ島はアロハじゃないけど。
く、まんまと茶柱の罠に引っかかってしまったようだ。
ナイトプールだけにバリピ茶柱め。
「こんな時間に呼び出して何の用ですか?」
「試験の進捗を聞こうと思ってな」
「この時間の理由になっていませんが」
「お前は昼間に忙しそうにしているからな」
4階の女子エリアと3階の男子エリア。
どちらも24時以降は異性の立ち入りが禁止されており、そのチェックのためか3階と4階のエレベーターや階段周辺は、監視カメラがついていたはずだ。
日中にチェックされることは無いと思っていたが、それなりに動きを見張られていたのかもしれない。
とはいえ、部屋の中までは及ばないので、部屋で何が行われているかは、知られていないはずだけどな。
「無人島試験は、まあまあだったと言わせてもらおう」
「2位は十分な成果でしょう。Cクラスの背中も見えてきましたよ」
「その見えた背中が遠ざからないかを心配している」
微妙に顔色が悪いと思ったら、酒臭いな。
いきなりなんだと思ったら、酔っぱらって不安になって呼び出したのかよ。
Dクラスの担任は酒癖が悪いらしい。誰だよ、飲ませたのは。
学校行事中に飲酒とか、外部との連絡が可能だったら、バレて叩かれまくってるぞ。
教師が酒を飲むなんてけしからん(苦言)
「早期に結果を求められても無理だとお伝えしたはずですが」
「1年でCクラス。2年でBクラス。3年でAクラスだったな。3年時に約束が守られるかどうかが、最後まで分からないというのは困る」
「では、どうしろと?」
「2学期終了時までに結果を出せ。追い抜けとまでは言わん。上のクラスと150ポイント差。そこまでは詰めてもらおう」
条件付きの期限の繰り上げか。
追い抜くのは3学期終了時までだが、追い抜ける位置までは2学期中につけろと。
ということは、茶柱が想定している各学期で追いつけるポイントは150ポイントか。
意外と貴重な情報になりそうだ。
上のクラスと大幅にポイント差が開いた状態で、3学期には追い抜くと言っても説得力が無いだろうし、これぐらいなら許容できる範囲だろう。
「それぐらいなら構いませんよ」
「そうか。期待してい──」
新たな契約を結び直していると、プールに新たな気配が増えた。
「やっはーサエちゃん。元気?」
Bクラスの担任の星之宮だ。
夜のプールにたまたま現れたなんてことはないはずだ。
「こんばんはー、綾小路くん。元気?」
茶柱よりも酒の匂いがキツイ。
だが、許そう。
ボディータッチが多いのは良いことだ。肩に手を回してもたれかかってきたので、腰に手を回して支える。
ぽにょんとしたおっぱいの感触が溜まらん。
教師が酒を飲むなんてけしからん(誉め言葉)
サイズ的には茶柱に比べたら落ちるが、堀北と同じで細身な分だけボリュームを感じるおっぱいだろう。
それなりにおっぱいを見比べてきたオレが言うんだから間違いないはずだ。
堀北のときは見誤ったが、その経験がオレを支えてくれている。
「先生のおかげでたった今、元気になりました」
「元気があってよろしい」
Tレックスが目覚めたことを素直に告げると褒められた。
「学生にあまり絡むな」
もう少し感触を堪能していたかったが、茶柱によって引きはがされた。
嫉妬されてしまったか。茶柱も素直に甘えてくれれば、もう少し可愛げがってそれはないな。
「こんな真夜中に2人で会ってた方が問題じゃない?」
「真面目な話をしていただけだ」
「先生との真剣交際はお断りですよ。一之瀬と付き合ってますから」
「綾小路、話をややこしくするな」
かなり睨まれた。
呼び出されてウキウキで動いたのに、真面目な話をした方が悪い。
「え? ほんとにそんな話してたの? 一之瀬さんを泣かせちゃダメよ。鳴かせるのはいいけど」
「泣かせたくないので、鳴かせ方を教えてください」
「ええ? どうしようかなぁ」
「やめろ、本当に問題になるぞ」
フレンドリーな星之宮とノリよく話していると茶柱に止められた。
特にふざけてはいないんだがな。
どちらかといえば茶柱のミスのカバーだ。
茶柱はAクラスになることにこだわっている。それはなぜかを考えてみよう。
おそらく教師の中でもどのクラスで卒業するのかを競い合っている。そうでもなければ、茶柱がAクラスにこだわる理由はないはずだ。
星之宮が茶柱の動きを警戒してこの場に来たとしたら、オレと茶柱の契約を知られるのはまずい。悪ふざけでもして茶化して終わらせた方がいいはずだ。
「サエちゃんが怒るからダメみたい」
「茶柱先生、空気読みましょうよ空気」
「ねー」
「お前らもう解散しろ。解散」
そして、星之宮が茶柱を警戒している──Dクラスを警戒しているのなら、疑問に対する1つの答えが出てくる。
なぜ、Bクラスのリーダーの一之瀬が各クラスのトップが集まった竜グループではなく、兎グループに振り分けられたのか。
須藤とCクラスが揉めた時も、無人島でもオレはそれなりに結果を出している。
各クラスの担任なら試験の情報を手に入れるのは簡単だろう。
オレのことを探らせるために同じグループに配置した。
考えすぎかもしれないが、警戒するに越したことは無いだろう。
まあ、付き合っている時点で情報を探られまくりだけどな。
「星之宮先生、部屋まで送りますよ」
「ええ、どうしようかな」
「綾小路、甘やかすな」
オレの予想があっているのかどうか、もう少しだけ探りを入れてみよう。
「足元がおぼつかない人を送るぐらい、甘やかすでもなんでもないでしょ。人道的な行為ですよ」
「酔ってないよー」
なんて言いながらふらついてみせるんだから、情報を得たいのはお互い様なのかもしれない。
「好きにしろ……問題を起こすなよ」
「分かってますよ」
「ねー」
助ける側と助けられる側が結託している以上、茶柱に出来ることは無い。
オレの代わりに送り届けるにしても、茶柱もアルコールが入っているので不適当だ。
腕を貸して杖代わりになって、星之宮を部屋まで送った。
教師の部屋は、各階にバラバラに配置されており、何かあったときのために部屋の場所は明かされている。
学校では保険医を務める星之宮の部屋は、1階のメディカルセンター近くだ。
一之瀬との関係について質問攻めされながらも、部屋の前まで辿り着いた。
3ヶ月の仮の関係であることは、知られていないようだ。
「着きましたよ」
「部屋まで入れて―」
「送るのは部屋までって言ったはずです」
「部屋って言ったら中まででしょ。入れろー入れろー、横着するな―」
ダメだこの酔っ払い。出来上がってやがる。
ポカポカと叩かれてしまった。
「分かりました。分かりましたから、鍵を開けてください」
「鍵?」
「カードキーを使わないと開かないでしょ」
「開けて」
この教師、無防備に両手を大きく広げて『どーこだ』とかやり始めやがった。
こういうときのお約束、胸の谷間か。谷間なのか。
「先生、酔ってますね」
「酔ってないよー」
「触っても良いんですか?」
「えー、触るのはダメ―」
触らずにどうやってカードキーを取れと。
「何言ってるか理解してますか?」
「酔ってないよー」
ダメだこの酔っ払い。まともに相手するのがバカらしい。
ここで放置して帰るか。
「触らず開けられたらご褒美あげる」
「本当ですか?」
「信用ないなぁー。先生は嘘つきませーん」
教師のことは信用できても、酔っ払いのことは信用できない。
だが、ご褒美という言葉の甘美さにオレも酔いしれたい。
さて、どうすっか。
部屋を開けるにはカードキーが必要だ。
そして、この部屋のカードキーは、目の前の酔っ払いが持っている。
出してもらえれば話が早いが、自分で取り出す気はないらしい。
かといって、触らずに取り出すことは不可能だ。
「眠いからあと1分ねー」
1分って天空の城の王族より横暴な。飛行石は手元に無いんだぞ。
どうやってカードキーを手に入れるのか。カードキー……カードキー……。
そういえば、須藤から聞いたが、山内のアホが締め出しを食らったんだっけ。
ちょうど同じ部屋の須藤と池が試験中だったため、部屋に入れなくなったらしい。
昼間だったため、試験が終わるまで待つだけで済んだが、これが夜中だったら誰かを起こして開けてもらわなければならなくなるから面倒だ。
だからこそ平田を追いかける時や、今も忘れないように意識してポケットに入れている。
なぜそうなるのか。
「先生、相談があります」
「相談?」
「ロック解除をお願いします」
「え?」
「ポイントで買えるはずですよね。部屋のロックの解除をお願いします」
通常のホテルなら、フロントに言えば予備のカギを貸してもらえてそれで終わりだ。
山内もそうしようとしたらしいが、フロントからは教師に相談するように言われたらしい。
で、教師に相談するとお前の管理不足だからプライベートポイントで解除だと説明されて、そんなポイントを持っていない山内は須藤たちを待つはめになったと。
ロック解除は、教師陣の端末を使えばスマートキーで解除できるってことだ。
ポイントに余裕があるわけではないが、来月には48万ポイントが佐藤から手に入る予定だ。今月使い切っても問題ない。
携帯端末を取り出して払う準備をする。
「え、ええー。解除は規定されてるけど、それは自分の部屋を開けるためだからダメ―」
オレの端末とロックされた扉を交互に見ながら、やんわりと拒否された。
そりゃそうだ。他人の部屋をポイントさえ払えば勝手に解除出来るとかホラー過ぎる。
軽井沢の下着がまた盗まれてしまう。
「やだな先生。先生の自分の部屋を開けるためじゃないですか?」
「自分の部屋? そっかー、自分の部屋なら大丈夫だねー」
おい、酔っ払い。大丈夫か。
星之宮が端末を操作して支払い完了。ガチャっとロックが解除される音がした。
5000ポイント。地味に痛い。
2人で部屋の中に入る。
「はい、先生。部屋まで送りましたよ」
「ありふぁとー。それじゃあおやすみー」
あくび半分のお礼を言い、ふらふらとした足取りで部屋の奥へと消えていく星之宮。
待て、酔っ払い。ご褒美はどこいった。
いや、待たなくていい。ご褒美はどこにいったのか分からないが、星之宮は眠りに行った。
つまり、夢の世界の住人となったわけだ。
教師と生徒。本来なら許されない禁断の関係だ。
だが、夢の世界の出来事なら、きっとご褒美も許される。
「夢の中ならセーフ」
ここから先の出来事は、現実ではありません。
夢の中での出来事です。勘違いしないように。
オレは、仕方ないと諦めて自分の部屋へと戻っていった。
よし、これで前置きは完璧だな。
夢の中のオレは、先生を追いかけて部屋の奥へと進む。
中まで入れろー入れろーってお願いされてたし、そのお願いを叶えてあげないとな。
「星之宮先生」
「ふにゃにゃこうひふん」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
「勝てない。一之瀬さんじゃ勝てない」
何やら寝言が聞こえた。
はたして、どんな夢を見ているのやら。
おやすみなさい。
夢落ちってことでどうか1つ