綾小路Tレックス   作:チームメイト

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船上試験編その13 試験の終わらせ方

 特別試験最終日、話し合い1回目。

 

 なんだか良い夢を見た気がする。

 身体が軽い。

 

 軽井沢当番だったが、考えをまとめるために断りを入れて、早めに試験会場へと向かう。

 平田が言うには、もう大丈夫ってことなので心配ないだろう。

 

 クラスポイントが変動するっていう脅しは、お互いにそれなりに利いたのかもしれない。

 

「……先客か」

 

 誰もいないだろうと踏んでいたが、薄暗い室内には既に一人の少女の姿があった。

 一之瀬だ。明かりは最小限しかついていない。

 

 空調の整った部屋の中で、ソファーで眠っている。

 制服姿だ。

 スカートのおかげで肉付きが良い太ももが、いつもよりはっきり見える。

 なんだったら感覚的に太ももだけ、暗い中で神々しく光り輝いてるぐらいだ。

 一之瀬は、おっぱいだけじゃない。

 

「…………」

 

 白い衝動が襲い掛かってきた。

 オレの中で制御できないものだ。

 

 彼女が寝ている空間で全裸になってみたいという、どうしようもないものだ。

 

 やるか、やらないかじゃない。どうしたいかだ。

 

 彼女が寝ていて無防備なのに、日和ってるヤツいる? いねえよなぁ!?

 

 いや、ダメだ。一之瀬が目覚めたらどうするんだ。

 落ち着け、落ち着けオレ。沈まれ白い衝動。

 

 他の情欲を考えることで、この衝動に抗わなければ。

 女性陣のことを考えて紛らわそう。

 

 堀北の姿が脳裏に浮かぶ。

 脳内の堀北よ、性的にオレを満たしてくれ。

 

『ご主人様は脱がないのかしら? 私なら喜んで脱ぐわ』

「……おぅ」

 

 間違えた。

 ドМの堀北を想像してどうする。このシチュエーションを喜ぶだけだろうが。

 

 止めないといけないのに悪魔のささやきが脳内に響くとは。

 堀北みたいな悪魔を想像したのが悪い。

 

 ここは佐倉だ。佐倉の天使っぷりで衝動を癒やしに変えよう。

 

『え? もう脱いじゃったよ』

「……お、おぅ」

 

 佐倉よ、お前もかよ。

 脳内に浮かんだ佐倉は、全裸だった。

 

 脱ぐことに定評がある女、野外大好き佐倉さんの脱ぎっぷりは堀北以上じゃねえか。

 堀北と違って悪魔的な要素はないのに、天使の脱ぎっぷりとはこれいかに。

 

 やっぱり脱ぐか。オレも脱ぐしかないのか。

 

『綾小路くん、待って。ダメだよ』

 

 この脳内に響く声は──佐藤!?

 

『落ち着いて、誰か来たらどうするの』

 

 そうだ。一之瀬が目覚めるだけなら、まだ何とかいいわけができるかもしれないが、他クラスの生徒が入ってきたらどうする。

 

 寝ている一之瀬、全裸のオレ。

 どう考えても、退学一直線じゃねえか。

 

 あぶねえあぶねえ。ギリギリのところで踏みとどまることが出来たぜ。

 流石は佐藤。脳内でも都合の良い女っぷりだ。

 

 しっかし、脳内に出てきた女でまさか佐藤が一番常識的とは。

 綾小路グループのメンバー構成ってどうなってんだ。

 佐藤が一番制服とか着崩してるだろうに。

 

 まだ関係の浅い松下が常識人であることを期待するしかねえな。

 頼むぞ松下。

 

 こうして、佐藤の知らないところでちょっとだけ佐藤の好感度が上がったのだった。

 他の2人が酷すぎた。

 

「っ……んぅ? ……んー……」

 

 オレが白い衝動と格闘し、何とか勝利をしたところで一之瀬に反応があった。

 

 オレが平田に気づいた時と同じように、警戒しながら寝ていたのかもしれない。

 そうでなければ、こんなところで無防備に寝れないか。

 

「んー……」

 

 もぞもぞとした動きが何度か続き、覚醒したらしく一之瀬がゆっくりと上半身を起こした。

 閉じられていた瞳が開くと、すぐにオレの存在に気づいたらしい。

 

「おーはよー綾小路くん」

 

 ああ、彼女の寝起きの挨拶は最高だな。

 挨拶を返すのも忘れて余韻に浸ってしまう。

 

「って、な、なんで脱いでるの?」

「え?」

 

 一之瀬は、目を2回パチパチとさせて、眠気が一気に消えたらしい。

 挨拶に続いて質問が入った。

 

 一之瀬に言われて自分の姿を見ると、オレは制服の上着を脱いでいた。

 

 なんで脱いでるんだオレ。

 

 無意識だ。白い衝動に勝利したつもりだったが、完全勝利とまでは行かなかったようだ。

 くっそ、最初から佐藤が脳内に浮かんでいたらこんなことにならなかったのに。佐藤が悪いよ。

 

 上がった佐藤の好感度はやっぱり気のせいだったことにするのはいいにしても、この場をどう切り抜ける。幸い、上着だけだから、まだ言い訳が立つはずだ。

 

 目が覚めたら服を脱いだ男がいた。ちょっとしたホラーだ。

 

「……こうしようと思って」

 

 手に持っていた上着を一之瀬のスカートに重ねるようにして、投げかける。

 露出していた太ももが制服の中に納まった。

 

 うん、これで寝ている彼女の前で露出していた疑惑から、寝ている彼女に優しい彼氏へとクラスチェンジだ。

 上着で助かったぜ。下だったらアウトだった。

 

「ありゃりゃ……寝相いい方だから大丈夫って思ってたけど、見えてた?」

「その……なんだ……使ってくれてるんだな」

「へ? あーう、うん。大事に使ってるよ。今日は気合入れないとだし」

 

 チラッとだけスカートの奥で見えた下着は見覚えのあるものだったが、間違いではなかったようだ。

 例の誕生日プレゼントだ。

 

 あれは上下セットだ。ってことは一之瀬のおっぱいを今支えているブラジャーは。

 

 シンキング。想像力を働かせて新しい価値を生み出す試験だ。

 覚えている下着の形状と目の前にいる一之瀬の姿を重ね合わせれば、脳内で下着姿の一之瀬の姿ががが。

 

「綾小路くん。あんまりじっと見られると恥ずかしいかも」

「あ、悪い。寝るの気持ちよさそうだなって」

「そんなにグースカ寝ちゃってた? 昨日ちょっと寝不足でさ」

「人気者は大変だな」

 

 オレとか眠けりゃ部屋でグーグー寝てれば済む。

 女子、それもクラスの人気者である一之瀬の場合は、気楽にそうするわけにもいかないのだろう。

 

 試験時間前のこの部屋なら、誰にも邪魔されることは無い。

 おまけで、寝過ごすとこともない好条件だ。

 

 一之瀬にとっての誤算は、オレが早すぎたことか。

 一之瀬に早すぎるって思われることは、ちょっと抵抗があるな。

 

「寝不足ならまだ寝てていいぞ」

「ううん。さすがに恥ずかしいし」

「それじゃあ、オレが代わりに寝ようかな」

「あはは、代わりなんだ。いいよ。寝てなよ」

 

 一之瀬はソファーから身体を起こすと座る位置をずらして、オレが寝れるスペースを作ってくれた。

 そのまま大きく両手を前に出して、身体を伸ばした。

 ぷるんっとおっぱいが揺れる。

 

「…………」

 

 開けてくれたスペースに寝るのは簡単だ。

 だが、それだけでいいんだろうか。

 

 オレと一之瀬は仮とはいえ恋人同士だ。

 昨日のデートも成功したと言っていい。

 

 お付き合い期間は、残り半分ぐらいになっている。

 このあたりで、もう1つ仲を縮めるようなイベントがあった方がいいんじゃないか。

 

「なあ、一之瀬。膝枕してもらってもいいか?」

「えっ!? 膝枕?」

「こういうときの定番なんじゃないか?」

「定番……定番……膝枕……」

 

 一之瀬は、揺れている。

 ここは押すべきだ。櫛田よ、オレに力を分けてくれ。

 

「ダメ……かな?」

 

 小首を傾げて、じっと見つめる。櫛田に教わった必殺技だ。

 これで落ちない男なんていない。一之瀬は女だけど。

 

「だ、ダメじゃないよ……ちょっと恥ずかしいけど」

 

 さすくし。

 

 一之瀬の膝から制服の上着を回収して、いざ膝枕だ。

 

「…………」

「……ど、どうぞ?」

 

 いざとなると、どうすればいいんだ。

 こんなことなら練習しておけばよかった。

 

 この場合、うつ伏せはねえよな。膝の上にうつ伏せするのは匂いをくんかくんかするときだけでいい。

 今はまだ早い。

 となると、横なのか仰向けなのか。

 

 変に意識し過ぎるから迷うんだ。いつも通り仰向けで寝ればいいのか。

 

「お邪魔します」

 

 こ、これは。

 

 首から後頭部に掛けて与えられる弾力。いや、弾力だけではない人の持つ体温がもたらす安らぎというものが、二重三重に心地よさを増幅させてくれる。

 そして何より仰向けに寝ることによって、視覚に訴えかけてくるおっぱいの暴力。

 顔が見れないのが残念だが、むしろそれがいい。

 この距離でおっぱいを拝めるとは、ありがたやありがたや。

 

 おっぱいはいいものだ。考えてみろ。視覚に送られてくるおっぱいのボリュームを、あと10年は戦える。

 

「最高だ」

「ちょっとくすぐったいかも」

 

 いかん。取り返した上着を股の上に置いて、Tレックスを隠して置こう。

 多少はマシになるはずだ。

 

「ねえ。綾小路くんは、Aクラスに上がりたいって思ってる?」

 

 おっぱいの上から、そんな言葉が投げかけられてきた。

 目の前にあるのは、Aクラスじゃない。櫛田情報によれば、Fクラスだ。

 

「難しい質問だな」

「難しいかな」

「2択でいいなら思っていない生徒なんかいないと思う。でも、わざわざ聞くってことは、一之瀬が聞きたいのは、そんな単純な答えじゃないんだろ?」

「うん。気持ちというか、思いというか」

 

 学校側が示している恩恵は、Aクラスで卒業するのかどうかで大きく変わる。

 だからこそ、Aクラスの座を生徒全員が狙っている。

 

 ただ、その本気度は生徒によって、かなり差があるのが現状だ。

 だからこそ松下は、本気になれるのかどうかを試していた。

 

 おかげで、オレの中でもだいぶ気持ちの整理がついたと思う。

 

「言葉を選ばずに言うなら、勝ち組と負け組。Aとそれ以外とではそれぐらいの差がある。Aクラスを目指すってことは、今Aクラスにいる生徒を蹴落とすことになる。誰かを負け組に落としてまで勝ち組になりたいかって言われたら、抵抗が全く無いとは言い難い」

「…………」

「それでもオレは目指したいと思ってる。何が何でもとか、ズルをしてまでとは言わない。今、オレと一之瀬がこうしているみたいに、仲良く出来るところは仲良くしたいし、必要以上に険悪にはなりたくない。与えられた課題に対して、精一杯取り組んで、他クラスよりも結果を出す。それでAクラスに上がれたら言うことないな」

「そっか……うん。そうだよね」

「ただ、学校側の用意する課題が、どうにもこうにも表向きのルールとルールに書かれていない裏とがあって、ルールの裏を突くのはどうなんだって言われたら、何とも言い難いのがな。放置して負けたら元も子もないし」

「ほんとうに困るよね。龍園くんとかやりたい放題だし」

 

 2人揃ってため息をつきたくなるのを抑える。

 

 反則もバレなければ許容されている節がある中で、どこからがズルでどこまでが正攻法なのかは区別が難しい。

 今回、BクラスとDクラスが組んで、優待者の法則性を探したのも、正攻法とは言えないだろう。

 

 ただ、それをしなければ負けていた可能性が高いってのが厄介だ。

 

 と、ここで一之瀬の携帯が鳴った。

 寝落ちしないように、タイマーをセットしていたようだ。

 

「そろそろ……」

「ああ。気持ち良かった。頭スッキリした。ありがとう」

「うん、どういたしまして」

 

 おっぱいにあたらないように気をつけて身体を起こす。

 目先のラッキースケベで好感度を失うわけにはいかないのだ。

 

「それじゃ、最後の話し合いに挑むか」

「あはは、お手柔らかに」

 

 それから15分ほどで、兎グループのメンバーがぞくぞくと部屋に入ってきて、最後の話し合いが始まった。

 最終日の1回目の話し合いだが、2回目の予定はオレのスケジュール帳にはない。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 最後のなんてかっこつけてみたが、やることは変わっていない。

 

 BクラスとDクラスでトランプを楽しみ、AクラスとCクラスは輪の外だ。

 

 惚れてる惚れてないで真鍋たちにからかわれたせいで、若干、軽井沢と博士がぎくしゃくしていた以外は、2日目の試験と変わらない流れだ。

 参加しない選択肢もあっただろうに、参加したのは軽井沢の意地なのかもしれない。

 いや、笑顔もチラホラ見せてるし、楽しんでるだけか。

 

「次は何しよっか?」

 

 ゲームのキリがいいところで、トランプの種目を変えようと一之瀬が提案した。

 残り時間は20分。3分の2が過ぎたところだ。

 

 そろそろいい時間か。

 トランプをシャッフルしようとする一之瀬の手を止める。

 

「なあ、一之瀬。この辺でいいんじゃないか?」

「この辺でいいって何かな?」

 

 だらっと時間を消耗するだけだった試験に対する新しい動きに、グループ中の注目が、オレと一之瀬に集まっているのが分かる。

 少しだけ間を取って、よりオレの言葉に引き込ませる。

 

「時間稼ぎだよ」

「ちょっと待ってください。綾小路くんが何を言っているのか、まったく理解できないのですが。一之瀬さんが時間稼ぎとは、どういう意味なんでしょうか?」

 

 オレの言葉に真っ先に反応したのは、Bクラスの浜口くんだった。

 相手が一之瀬だろうと浜口だろうとやることは変わらない。

 用意していた言葉を返すだけだ。

 

「そのままの意味だ。一之瀬、いやBクラスと言っていいか。Bクラスは、自分たちの中にいる優待者が逃げ切るための時間稼ぎをしている」

「それは聞き捨てなりませんね。根拠はあるんでしょうか?」

「根拠? 今もこうしてゲームに興じている。これが答えだ」

 

 根拠は目の前に広がっている。

 

 試験終了が刻一刻と近づく中でも、動き出さない。

 これを時間稼ぎを言わずして、何と言おうか。

 

「それは優待者当てをしようとしていない、ということでしょうか?」

「そういうことだ」

「この場にいる全てのクラスが当てはまると思いますが。なぜBクラスなんでしょうか?」

 

 メガネ君の追及がしつこい。

 

 いいだろう。説明して欲しいというのなら説明するだけだ。名探偵の推理ショーの始まりである。

 立ち上がり、全員の顔を見てから口を開く。

 

「この場にいる全クラスと言ったが、この場にいる全クラスが同じ立場ではない」

 

 まずは、ソファーに座る3人を手で指し示す。

 Aクラスの3人が息を飲んだ。

 

「Aクラスも優待者当てに参加していないという意味では同じかもしれない。だが、Aクラスは目指しているものが違う。彼らが目指しているのは結果2だ。誰も正解できずに終わること。それを目指すうえで優待者当てに参加しないことはおかしくはない」

 

 Aクラスは結果2を目指すために、何もしない。最初から宣言されていたことだ。

 町田たちが容疑から外れて、息を吐くのが見える。

 行動がおかしくないという説明に対して、当たり前だが反論は出てこなかった。

 

 オレ達を疑ってくれとか言い出したら、なんのギャグだよ。

 

「続いてCクラスだ。彼女たちも、立場をはっきりと表明しているわけではないが、最初から積極的に動いていない。今になっても動き出さないからと言って、そこにおかしさはない」

「それは暴論でしょう。単に時間稼ぎしているだけかもしれませんよ」

「確かにそうかもしれない。ただ、忘れちゃいけないのは、今回の試験は結果2でも負けというわけではない。結果2でも結果1でも別にいいのなら動く必要はない。自分たちから動かなければいけないケースは、結果1を積極的に目指す場合。つまりBクラスかDクラスだけしか当てはまらないんだ」

 

 さっきのAクラスを目指しているかどうかって話と似ている。

 みんなが嬉しいのは結果1だが、それをどの程度真面目に目指しているのかは、クラスによって温度差がある。

 一之瀬を中心に目指すと公言しているBクラス。

 結果1狙いでいくけど、無理なら2でいいんじゃないかってのがDクラス。

 

 Cクラスは、基本的に周りに任せているだけだ。あわよくば程度のもので、積極的に結果1を目指しているとは言い難いだろう。

 

「あとはどちらが動くのか。こればかりは、どちらでも構わない。が、この時間になっても動き出さないとしたら結果1を目指すクラスとしてはおかしい」

「それはDクラスにも言えることですよね」

「もちろんそうだ。だから今、動き出させてもらう。その動きにBクラスがついてこれるのか?」

「何をするつもりですか」

 

 オレは携帯端末を取り出すと、ロック画面を解除する。

 

「オレが初回にみんなに求めたもの。この場にいる14人の投票先を一致させる。この意見を採用すれば、当てずっぽうでも14分の1で優待者を当てることが出来る。およそ7パーセント。運任せするには厳しい確率だ」

 

 この場にいるのは14人。その中から1人を適当に選んでも、優待者にはまず当たらない。

 育成ゲームでも失敗率7パーならとりあえずゴーだ。──育成ゲームの例えは失敗だな。あれ結構失敗するから困る。何度もやってるから繰り返すうちに当たってるってだけなんだろうけど体感は、そこそこ当たるのが7パーだ。

 

 某ロボット同士がクロスオーバーするゲーム──うん、これもビ〇バインが何度撃墜されたことか。あれ? 7パーって意外と高くね?

 

 いや、7パーは低い。味方の攻撃は93パーセントで命中しなかったりとかあるあるだ。

 

「それを上げる方法がある。優待者じゃない奴が優待者じゃないことを証明するだけだ。こんなふうにな」

 

 携帯のとある画面をみんなへと見せつける。 

 

 櫛田が送ってきた水着の写真じゃねえぞ。あれは個人で永久保存だ。

 オレの携帯が映し出す証拠は、学校から送られてきた優待者であるかどうかの通知メールだ。

 見やすいようにそれぞれの顔へと携帯の画面を向けて回る。

 

「綾小路、何やってるのか分かってるのか?」

「オレは優待者じゃないって証明だ」

 

 幸村が驚きながらも詰めてきたので、胸を張って応対する。

 なお、自然なリアクションが欲しくて幸村には、事前に何の説明もしていない。すまんな。

 

「ルールにより、メールを不正することはできない。このメールがオレが優待者じゃないという証だ。これで優待者は残りの13人に絞られることになる。優待者じゃなければ証明しても何も問題ないはずだ。もし証明できないとすれば、それは優待者本人」

 

 ここで1度言葉を切る。じっとBクラスの3人に視線を見る。

 一之瀬たちの表情に変化はない。

 この期に及んで動揺しないあたり、Bクラスも手強い。

 

「もしくは、クラスに優待者がいるため、優待者を守るために絞られては困るかのどちらかだ」

「…………」

「結果1を目指すのなら、オレが今やってみせたように絞り込む必要がある。が、一番積極的に動いているはずのBクラスは動かなかった。なぜか。Bクラスにはこの方法が使えなかったから。本来はデメリットのない方法だが、優待者のいるクラスにはデメリットが生じるからな」

 

 ここまで言ってからBクラスから視線を切り、Dクラスと向き合った。

 

「軽井沢、博士、幸村も画面を見せて欲しい。優待者を絞り込んでいきたい」

「わかったでござる。拙者は見せてもいいでござるよ」

「おい、外村」

「綾小路殿の言い分に間違いはなさそうでござる。優待者じゃなければノーリスクでござる」

 

 幸村が止めようとするのも聞かずに、博士は携帯を操作して画面を見せてきた。

 オレと同じ内容の文面が画面に映っている。

 Dクラス以外の生徒にも見てもらって、博士が優待者じゃないことが証明された。

 

 続いて軽井沢も続いたので、オレと博士で確認した。

 

「ああ、もう。勝手なことをしやがって……あとで覚えてろよ。これじゃあ、流れに乗るしかないじゃないか」

 

 Dクラスの3人が証明したのを見て、幸村もようやく動いた。

 ここまで来て、1人だけ優待者ではないことを隠す意味は薄い。

 これでDクラスの全員が優待者じゃないことが証明された。

 

「4人が消えて10分の1だ。適当に選んで10パーセント。まだまだ可能性は低いが、結果1が見えてきたんじゃないか。優待者じゃない奴は続いて欲しい。1人参加すれば、11パーセント。2人参加すれば12.5パーセント。参加人数が増えれば増えるだけ効果が大きくなる」

 

 4人が優待者じゃないと証明した場合、14人から10人だと3パーセントも増えていないが、10人から6人だと16パーセントと6パーセントも増える。

 残り人数が減れば減るだけ、1人の占める割合が増えるからだ。

 

 動かないことを表明しているAクラスよりも動きやすいのはCクラス。

 Cクラスの誰か1人でも参加してくれれば、流れは変わるはずだ。

 

「ちょっと待って綾小路くん」

「一之瀬も参加するのか?」

「ううん。Bクラスが動かなかった理由を説明させて。私はまだ早いと思うんだ」

「まだ早いとは?」

 

 一之瀬に早いと思われるのには抵抗が──ってもういいか。

 

「優待者を早く追いつめても、裏切り者が出るだけなんじゃないかな。次の話し合いまで待ってもこのままなら、同じことをBクラスから提案したよ」

「それは優待者を1人まで絞れるなら、だな。1人まで絞るのは、現実的じゃない」

「綾小路くんの案は、どのクラスかまで絞ることだよね。3人のクラスなら33パーセント。4人なら25パーセント。結果1を目指すには、厳しくないかな」

「厳しいが何もしないよりはマシだ。それに今じゃなければダメな理由がある」

「ダメな理由?」

「動かないことを宣言しているAクラスの存在だ。Aクラスが動かないのが町田たちの判断なら、まだこの場で説得する余地がある。だが、Aクラスが動かないのは、葛城の指示によるものだ。要は、葛城を説得できなければ、Aクラスを土俵に乗せることが出来ない。そのためには、このタイミングで提案して、持ち帰ってもらうしかない。最後の話し合いでは、間に合わないだろ」

「葛城くんを動かせるのかな?」

「厳しいだろうが、ゼロよりはマシだ。もし優待者がいるのがCクラスなら、Cクラスは動かない。これに加えてAクラスにも静観をされると、絞り込めるのは7人までだ。7分の1で14パーセント。最初よりは可能性が高まったとはいえ、まだまだ厳しい数字だな」

 

 ただのブラフだけどな。

 Cクラスに優待者がいないことは分かっている以上、そんなことは起こりようがない。

 

「おそらくだが、優待者のいるクラスはプレッシャーを感じているはずだ。絞り込めば込むほど、追いつめることが出来る。他に参加してくれるヤツはいないか?」

「私も参加する」

 

 その提案に乗る生徒が現れた。

 Cクラスの伊吹だ。

 

 最初はCクラスの生徒に咎められたが、逆に伊吹はCクラスの生徒を説得してみせた。

 優待者のいないクラスは、優待者じゃないことを証明してもデメリットはない。

 誰だって結果2よりは結果1の方が嬉しい以上、1人が動けばクラスの動向が決まるのも自然な流れだ。

 

 Cクラスは、優待者なのかどうか把握しあってなかったっぽいけどな。

 よくそんなんで伊吹は動けたもんだ。

 

「よし、Cクラスは全員優待者じゃないな。これで4人減って残り6人だ。優待者はAクラスかBクラスに限られた。ここで最初の話に戻ろうか。Bクラスが動かないのはクラスに優待者を抱えているからだろ。積極的に結果1を目指すと言いながら、まだ動かないのはなぜか。一之瀬、違うのなら証明して欲しい」

 

 このグループを中心として引っ張っていた一之瀬が、悪い意味で注目の的になっている。

 上手く切り返せなかったら、Bクラスに優待者がいることが事実として確定するだろう。

 

 話し合いの残り時間は7分。

 一之瀬に残された時間は少ない。

 

「ふーっ。どうやらここまでみたいだね」

「認めるのか?」

「ううん。残念だけど綾小路くんの予想は外れているよ。Bクラスに優待者は居ないから」

 

 その言葉通り、一之瀬の携帯には、優待者を示すメールの文面は記載されていなかった。

 

「このやり方だとAクラスに逃げ切られる。だからBクラスとしては、最後の話し合いまで待ちたかったんだけどね」

「どういうことだ?」

「綾小路くんが初日に言った事だよ。Aクラスは一枚岩に成り切れていないって。優待者の共有を出来ていないだろうし、ギリギリになって追いつめれば、森重君は動いたんじゃないかな」

「え? そうなの?」

 

 あれ、もしかしてオレやっちゃいました?(棒読み)

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