綾小路Tレックス   作:チームメイト

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船上試験編その14 試験の終わり 成功と誤算

「ギリギリになって追いつめれば、森重君は動いたんじゃないかな」

「え? そうなの?」

 

 オレ何かやっちゃいましたか?

 

 いや、別にやらかしてないけどな。

 当たり前の話だが、一之瀬とは全部打ち合わせ済みの流れだ。

 

 この後は、Aクラスを追いつめる予定だった一之瀬による素晴らしい策略の説明がある。

 オレの見せ場が終わって、一之瀬のターンってやつだ。

 彼女のカッコいい姿を見させてもらおうか。

 

「待て、綾小路。流されるな。まだBクラスの全員を確認していない」

 

 おい、幸村。そのセリフはあと3ターン早いぞ。

 幸村は打合せしてないから仕方ないけど。

 幸村に伝えていたのは、軽井沢が優待者だって情報だけだ。

 

「うん、幸村くんの言うことも、もっともだね。浜口くんと別府くんも、見せてもらえるかな」

 

 幸村のセリフを受けて、一之瀬もそこに乗っかった。

 オレの彼女の見せ場がカットされた件について。

 まあいい。一之瀬の良いところは、オレの中で独占しておこう。

 

 試験の初日からずっと、リーダーの一之瀬の指示に従ってきたBクラスの2人。

 だが、ここに来て一之瀬の指示に応じない。

 その違和感に、他のクラスがざわめき始める。

 

「どうしたのかな? もうこうなっちゃったら仕方ないと思うんだけど。作戦変更だよ」

  

 一之瀬が困り顔になりながらも促した。

 だが、やはり2人は下を向いたまま動かない。

 

「おい、どうしたんだよ。さっさと見せろよ」

 

 Aクラスの町田のヤジが飛んだ。

 見せる気がないお前が言うなって言葉を飲み込む。ここは、町田みたいなヤジが入った方が助かるからな。

 

「……見せる前に約束してください。みんなで結果1を目指すと。裏切らないでください」

 

 投げかけられるヤジに応じて、浜口がようやく口を開いた。

 

 結果1を目指すことを改めて約束してもらう。

 それが意味することは1つだけだ。

 

 言葉の意味を飲み込むためか1度会場内が静まり、気づいた人からざわめきが起きていく。

 

「え? 浜口くん達は優待者じゃないって」

「ごめんなさい、一之瀬さん。一之瀬さんに頼りっぱなしなのはいけないと、僕と別府くんで相談して嘘をつきました。優待者はBクラスに居ます」

「そんな……」

 

 状況を確認する一之瀬に、顔を伏せたまま事実を告げる浜口。

 

「最後の話し合いまで状況が動かなければ、その前に一之瀬さんには相談するつもりでした。まさかこのタイミングで動かれるとは」

「足を引っ張ったみたいで悪かったな」

「いえ、試験ですから綾小路くんの指摘は悪くないかと。僕たちの想定が甘かっただけです」

 

 一之瀬の作戦を台無しにし、おまけで浜口たちの作戦も潰した男になってしまった。

 ヘタに有能ムーブをしまくると目をつけられそうだから、ちょっと落ちるぐらいがちょうどいい。これも作戦のうちだ。星之宮が送り込んできたスパイの一之瀬と協力している時点で、どれだけ効果があるのか未知数だけど。

 

「なんだよ。あれだけ優待者を探す、結果1を目指すって言っておきながらお前らだったのかよ」

「結果1を目指すという言葉に偽りはありません」

「それならどっちが優待者なのか明らかにしろよ」

「明らかにします。だから、約束して貰えませんか? 裏切らないと」

 

 常識的に考えて、このタイミングで明らかにして、残り時間を逃げ切るのは難しいだろう。

 まだ話し合いを1回残しているし、間に休憩まで挟むことになる。

 

 裏切ったのは誰なのかが発表されない試験で、裏切り者を出さずに終わるなんて無理だ。

 せめて最後の話し合いの終了間際でこの状況になれば、誤魔化せたかもしれないが、今から試験終了時までは長すぎる。

 

 このタイミングで追いつめられてしまったのが、浜口の言う想定外。

 だからと言って、裏切られたら困るから信用しないとは言いにくいのが辛いところだ。

 

 今、拒否してしまえば、試験の最終段階になって、優待者を明らかにしても今更だ。

 1度お前らのことを信じないという選択肢を取ったあとで、やっぱり信じますとか言っても誰も乗ってこないだろう。裏切られて終わりだ。

 

 あとは黙って結果2を目指すのか、裏切られるのを覚悟してあくまでも結果1を目指すのか。

 Bクラスは結果1を目指すという姿勢を崩さないらしい。

 

 浜口の提案に、全員が裏切らないことを約束した。

 

 裏切るにしても、優待者がどちらなのかを知る必要がある。

 口約束だけで済むのなら全員が同意するのは、自然な流れだろう。

 

「僕が優待者です」

 

 浜口は、携帯のロックを解除すると学校から送られてきたメールを開く。

 そこには、優待者じゃないことの証明として、今までみんなが見せてきたものとは違う一文が書かれていた。

 

 町田が携帯を奪うと中身をチェックしていく。

 

「よし、メールは本物だ。個人メールも浜口のもので間違いなさそうだ」

 

 わざわざ奪ったのは、優待者メール以外の中身も確認する為だったらしい。

 オレがやるつもりだったが、Aクラスの生徒にやってもらった方が説得力が出るだろう。

 

 幸いにも町田の口から浜口が優待者であることが証明された。

 騙されているとも知らずに。

 

「学校からのアドレスは偽れないよ。偽物だったら良かったけど」

 

 お手上げと言わないばかりに、一之瀬が声を曇らせてぼやく。

 

「ってことは優待者は浜口くんで決まりってことね」

「……今日の解答時間に全員で僕の名前を送る。そうすれば、結果1でみんなでプライベートポイントを手にできます」

 

 浜口の言っていることは間違いではないが、誰かが裏切ったらその時点で貰えない。

 裏切られて貰えないぐらいなら裏切る。誰だってそうするだろう。

 

 それに結果1ではプライベートポイントは貰えても、クラスポイントは貰えない。

 Aクラスに上がるには、クラスポイントの方が大事だ。

 さっきの口約束なんか、あってないようなものになるはずだ。

 

「オレは裏切る気は無い。最初から結果1を狙えるなら狙うつもりだったしな」

 

 裏切るのはオレじゃない。というか本当の優待者である軽井沢を抱えるDクラスは、最初から裏切れないしな。

 あとは、最後の策だ。

 

 残り時間は2分。終わらせるには良い時間だった。

 町田が手にしたままの携帯電話が鳴り響く。

 

 発信者の名前は───

 

「あれれーおかしいよー!? 一之瀬さんに電話をかけたら、何でその携帯が鳴ってるの?」

 

 軽井沢の行動は、兎グループの話し合いに、最後の騒動を引き起こした。

 

 軽井沢の演技は今一つだ。最後の決め手に軽井沢を持って来たのは、失敗だったのかもしれない。

 そういう演技は、アポトキシンを飲んだときにやれよ。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 最後の話し合いは終わった。

 

 一之瀬と携帯を交換したと見せかけた浜口が、もっともらしく一之瀬の代わりに優待者の振りをしていたのが暴かれたところで、時間切れになった。

 Bクラスは逃げるようにその場を後にした。上手い演技だ。

 

 兎グループの最終日は、遅番だったため現在の時刻は14時過ぎ。

 試験終了予定の15時まで残り1時間が勝負になる。

 

「勝負になるって言ってもできることは、誰かが裏切ることを期待するだけだけどな」

 

 とりあえず、博士と幸村にはBクラスの優待者は嘘だということを手短に送った。

 優待者のいるクラスが裏切っても無効になるはずだが、変に騒がれても困るので、念のためってやつだ。

 軽井沢が優待者だと知らされていた幸村が、どういう気持ちで騒動を見ていたのか。

 また後で騒がれるかもしれない。結果を出して黙らせたいところだ。

 

「綾小路くん、あれでよかったの?」

「ばっちりだ。携帯は終わるまで待ってくれ」

 

 演技がひどかったとは言えない。これが優しさだ。

 

「あと1時間だっけ。誰かと連絡取れないし、一緒にいてもいい?」

「もちろんだ。カフェでも行くか?」

「うん」

 

 博士たちに連絡を取ったところで、軽井沢と合流した。

 兎グループの生徒はいないみたいだが、周囲に聞かれないように小声で話しながら歩く。

 

 ここでネタ晴らしといこうか。特にややこしい話ではない。

 

 兎グループの優待者は、繰り返しになるが軽井沢だ。

 軽井沢と浜口で携帯を交換してもらい、本来は軽井沢の携帯を一之瀬と交換した携帯として、装ってもらっただけだ。

 

 あとは浜口が優待者であると認めたタイミングで、軽井沢に浜口の手にある自分の携帯に向けて電話を掛けてもらって、一之瀬の番号に電話したとアピールしてもらう。

 これで一之瀬が優待者だったけど、浜口が代わりに優待者だと偽装してました、という構図が完成となる。

 

 携帯を調べられたときのために、浜口はほぼ徹夜で自分の携帯かのように、偽装工作に励んでいたらしい。

 まさに、浜口が一晩でやってくれました、だ。

 結果として、それが町田が優待者だと信じる根拠になったんだから、努力は無駄にならなかった。

 

 一之瀬は寝ればいいのに、浜口の工作の結果連絡をわざわざ待ったらしく、ほとんど寝れなかったらしい。

 試験前に試験会場で寝るという動きに繋がるわけだが、これは余談か。

 

 というわけで、軽井沢の手元には浜口の携帯があり、その携帯からDクラスの生徒に連絡を入れるのは、説明がめんどくさいのでやりたくない。

 携帯の交換は、試験が終了する15時が過ぎてからだ。

 それまで手持ち無沙汰の軽井沢に付き合うことぐらい、指示を出した者の義務だろう。

 

「上手くいくかな?」

「どうだろうな。こればっかりは分からん。上手くいったら儲けもの程度だろうな」

 

 自画自賛するのなら、オレと一之瀬で組み立てた工作自体は悪い手ではないと思う。

 が、荒さも目立つものなので、自信的には30パーセントってところだ。

 

 懸念事項は3つ。

 1つ目は、このタイミングでの優待者暴露だったこと。

 オレが余計な動きを見せて、このタイミングでの暴露になったって流れを作ったが、やはり違和感は残る。

 これが今日2回目の話し合いならまだ違和感は減るが、1回目の話し合いでは、タイミングとしては早すぎる。

 どうぞ裏切ってくださいと言わんばかりの状況をどう捉えるのか。

 

 そこで怪しまれてしまったら裏切り者は出ないだろう。

 

 2つ目は、オレと一之瀬との関係だ。

 オレと一之瀬が恋人同士というのは、そこそこ知られているらしい。というので、そこからの飛躍でBクラスとDクラスの同盟までは見破られなくても、近しい関係にあると思われても仕方ない。

 オレが一之瀬を攻める、DクラスがBクラスを攻めて話を展開させていったが、DクラスとBクラスの関係を疑われてしまうと、違和感の残るものになったはずだ。

 その違和感を誤魔化すために、幸村と博士には何も知らないまま動いてもらったり、最後のトドメは軽井沢に決めてもらったりと、細かい工作はしていたものの、どこまで通じたのかは未知数でしかない。

 

 3つ目は、15時というタイムリミットだ。

 試験を同時に終わらせるのは、AとCの同盟対策で15時に設定している。時間があれば裏切るという結論に傾いても、あと1時間程度で裏切り者が出るのかどうか。

 最後の話し合いの時なら優待者を公表しても、勢いで逃げ切れるかもしれないという話が、今はブーメランとなって返ってくる。1時間なら優待者が逃げ切る可能性がある。

 

 まあ、兎グループの工作は本来必要なかったものだ。失敗したら失敗したで問題ないので、そこまで深刻な話にはならない。

 

 じゃあ、なんでわざわざこんなめんどくさいことをやったかといえば、高円寺のせいだ。

 高円寺が優待者当てに成功した場合、クラスポイントでBクラスとDクラスの取り分に50ポイントの差が出ていた。

 

 兎グループで優待者当てに失敗するクラスをBクラスから他のクラスに変更することにより、Bクラスのマイナス50ポイントが他のクラスのマイナスになり、BとDとの50ポイント差を消すことが出来る。

 

 軽井沢に話した通り、上手くいったら儲けもの程度の工作活動だな。

 

「緊張する」

「もう出来ることは何も無いから、堂々と待てばいい」

「それは、そうだけど、落ち着かないし」

「貰えるポイントの使い道でも考えてたらいいんじゃないか」

「それなんだけど、あたしが全部貰っていいのかな?」

「優待者に選ばれたのは軽井沢だ。その権利は軽井沢のものでいいと思う」

 

 幸いというか、最後の試験前というのもあってか、カフェはガラガラだった。

 際どい会話をしていても問題なさそうだ。

 

「でも、佐藤さんは綾小路くんにポイントを渡すんだよね」

「佐藤は優待者に選ばれたわけじゃないからな。協力してもらうだけで佐藤じゃなくてもいいし」

「ちょっと申し訳ないかなって」

「どうしても気になるって言うなら、みんなでお茶行くときに奢るとか、自分以外のために使えばいいんじゃないか」

 

 そもそも佐藤が48万ポイントもオレに渡すのがおかしいわけで、おかしい佐藤に軽井沢が付き合う必要はない。

 せいぜい半々ぐらい貰うつもりで、冗談で2万ポイントでいいかって聞いたら、それでいいって同意したからオレが48万ポイントで佐藤が2万ポイントに決まっただけだ。

 

 多額のポイントを手にすることもプレッシャーになっていたっぽいから、これでいいんだろう。

 

 ちなみにオレも、みんなのために使う予定だ。

 夏休み前に櫛田が、胸が成長してサイズ的にきつくなってきたって言っていたはずだから、櫛田に下着をプレゼントしないと。

 どうよ、自分の為に使わないオレの立派さは。

 

「あと5月のピンチで助けてもらった分は返しとけよ」

 

 4月にポイントを使い過ぎた軽井沢は、ピンチだから助けて欲しいとクラスの女子にポイントをたかっていたはずだ。

 

「へ? あ、う、うん。当然そのつもりだったし」

 

 絶対考えてなかっただろ。つーか、やっぱりまだ返してなかったのかよ。

 7月分と8月分のポイントは貰っただろうに。

 

 櫛田も貸していたはずだから、これで櫛田のストレスも少しは軽減されるだろうか。

 

 まあ、櫛田も優待者でBクラスが裏切りに失敗して50万ポイント手に入る予定だから、軽井沢から今更1000や2000ポイント返してもらってもそこまで嬉しくないかもしれないが。

 

 

「来たな」

 

 14時50分。試験を終了させる予定の10分前に、オレと軽井沢の携帯が同時になった。

 

『兎グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』

 

 これでAクラスかCクラスが裏切りに失敗したはずだ。

 一之瀬と浜口の携帯のからくりに気づいても、優待者メールが届いた携帯の真の持ち主である軽井沢に繋がるものは一切ない。優待者の法則を見破られていない限り、当てるのは不可能だ。

 

「当てられてないよね?」

「結果を待ってみるしか無いなってもう1通か」

 

『竜グループの試験が終了いたしました。結果発表をお待ちください』

 

 櫛田が優待者のグループだ。

 15時まではまだ9分ある。Bクラスの裏切りじゃない。

 

「大丈夫?」

「これは想定外だな……」

 

 どうする。予定を繰り上げるか。

 いや、動かない方が正解か。

 優待者の法則を見破って勝ちに来るのなら、一斉に終わらせるために終了メールが続くはずだ。追撃が来ていない。

 

 兎グループが終わった連絡を受けて、単独で動いた可能性の方が高い。

 

 ここで慌てて動いても、調整して同時に終わらせることは難しい。

 下手に時間差で動いてしまったら、竜グループのようにカウンターを受けかねない。

 

 我慢だ。我慢するしかない。

 

「緊張してる?」

「余裕はなくなったな。あと8分が長い」

「綾小路くんも、ポイントを何に使うのか考えたらいいんじゃない?」

「佐藤が裏切りに成功しないと貰えないからな。状況が変わってしまった」

 

 佐藤が裏切る前に、猪グループが終了してしまったら、48万ポイントは消えてしまう。

 

 うん、佐藤は何も悪くないのに、追い込まれたのは佐藤のせいな気がしてきた。

 もし佐藤が裏切ることに失敗したら、何か罰を与えなければならないな。

 

 何がいいだろうか。堀北相手に罰ゲームを考えるのは至難の業だが、佐藤は素直に罰ゲームになってくれるからありがたい。

 佐藤はやっぱり都合の良い女だな。堀北の都合が悪すぎるともいえるが。

 

 あとは携帯がこれ以上鳴らないことを願うしかない。

 残り6分。逃げ切れるのかどうか。

 

 鳴るなよ、絶対に鳴るなよ。

 

 それがフリになったのかどうかは分からないが、無情にも携帯は再度鳴り響いた。

 次に裏切りが起きたグループはどこだ。慌てて携帯に届いたメールを確認する。

 

『佐藤:他のグループで裏切り者出てるけどこのままでいいの?』

 

「って佐藤かよ」

 

 心配になってメールしてきたようだ。

 気持ちは分かる。気持ちは分かるが、心臓に悪い。

 オレから佐藤への心証も悪い。

 

 というか、落ち着けよオレ。学校からの連絡は受信音が違うし、オレだけじゃなく軽井沢の持つ携帯もなるはずだ。オレの携帯しか鳴っていない時点で学校からじゃないって気づけたはず。

 

 佐藤には、そのままでと指示を出して、大きく息を吐いた。

 

「そこまで本気なんだ」

 

 オレが少し焦っているのを見て、軽井沢から声が掛かった。

 

「松下とAクラスを目指すって約束したからな」

「え? 松下さんと……」

「できれば結果を出したい」

 

 封印されし綾小路トリケラトプスを公表されるわけにはいかない。

 松下が納得するだけの結果が欲しいところだ。

 

「あたしもAクラス目指そうかな」

「目指すのは歓迎するが、定期的に勉強会をやったりする予定だから、遊ぶ時間は減るぞ」

「……とりあえず、保留で」

 

 綾小路グループの当面の活動として、勉強が苦手だという佐藤や得意とまではいえない佐倉や長谷部のために、松下を中心に週2回放課後を使って勉強会を開く予定が決まっている。勉強ができる組の参加は任意だが、軽井沢の学力なら参加を求められるだろう。

 

 軽井沢の反応は、クラスにとってはいい事ではないが、素直な反応だと思う。

 いきなり本気で目指すって言われても、今までの緩いぬるま湯からの切り替えは難しいはずだ。

 

 本気で身体と身体をぶつけあった先に手に入れた目標とは、意識に差があって当然だろう。

 まあ、9割の性欲のおかげだけど。

 

「ふぅ……」

 

 こうして話していると、焦っていたのが落ち着いてきた。

 

 時間を気にするから苦しいだけだったようだ。

 やれることはもうない。試験から意識を切り替えよう。

 

「そういや、平田から簡単に聞いたが、大丈夫だったか?」

「あ、うん。今のところは大丈夫みたい」

 

 何がとは言わなかったが、軽井沢には伝わったみたいだ。

 

「謝ったらしいな。頑張った、偉い偉い」

「ちょっと。全然気持ちが感じられないんだけど」

「って言われてもな」

 

 試験終了までの暇つぶしに、そこまで求められても困る。

 

「ん」

 

 軽井沢は納得がいっていないらしく、頭を突き出してきた。

 そのあとの平田のインパクトが強すぎて忘れていたけど、説得時は頭を撫でたんだっけ。

 

 まあ、これぐらいならいいか。

 

「よく頑張ったな、偉い偉い」

「ちょっと乱雑過ぎ」

 

 ぐしぐしっと大型犬を撫でるように、髪型が崩れるぐらいに撫でると、ジト目で睨まれたが無視して撫で続けた。

 狂犬の堀北に比べたら軽井沢なんか可愛いもんだ。

 

 ギャル全開の軽井沢の扱いなんか、こんなもんだろう。

 前回みたいに涙目で気弱モードなら話は別だけどな。

 

「真鍋たちになんかされたらすぐに言えよ」

「助けてくれるの?」

「すぐに平田に相談するから」

「自分でするしっ」

 

 そりゃそうか。

 

 と、このタイミングで連続して2人の携帯が鳴り始めた。

 今度は軽井沢の手元のも鳴っているし、受信音からして間違いない。B・D同盟の裏切り連絡だ。

 

 軽井沢とじゃれ合っているうちに、15時になったらしい。

 残りのグループの分、連続して8回だ。最後の1回はやや遅れたものの、始まりから終わりまで1分以内だ。

 完全に同時にとは行かなかったが、十分及第点だろう。

 

「全てのグループで終了だな。行くぞ、軽井沢」

 

 一応、全てのグループが終了しているか確認し、立ち上がった。

 

「遊びに?」

「いや、一之瀬のところ。携帯が無いと不便だろ」

「そうだけどさ。試験終わったんだから少しぐらい、いいでしょ?」

「携帯を交換した後でならな」

 

 15時に試験を終わらせることは、クラスの全員に説明していたわけではない。

 平田はおそらく男子からの問い合わせの対応に追われるだろう。

 

 そのフォローで軽井沢に付き合わされるぐらいは、してやってもいいか。

 結果発表は23時で、それまでは予定が無いしな。

 

 軽井沢を引き連れて、一之瀬たちの元へと向かう。

 試験が終わったことを互いに労い、携帯を交換して別れた。

 あとは試験結果がどうなっているのか次第だ。

 

 途中でちゃっかり合流してきた佐藤も加え3人で適当に時間を潰すのだった。

 佐藤はしっかり裏切りメールを送れたらしいので、たぶん大丈夫とのことだ。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 23時。

 携帯に届いた結果通知のメールを確認する。

 

 子(鼠) ──裏切り者の正解により結果3とする

 丑(牛) ──裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 寅(虎) ──裏切り者の正解により結果3とする

 卯(兎) ──裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 辰(竜) ──裏切り者の正解により結果3とする

 巳(蛇) ──裏切り者の正解により結果3とする

 午(馬) ──裏切り者の回答ミスにより結果4とする

 未(羊) ──裏切り者の正解により結果3とする

 申(猿) ──裏切り者の正解により結果3とする

 酉(鳥) ──裏切り者の正解により結果3とする

 戌(犬) ──裏切り者の正解により結果3とする

 亥(猪) ──裏切り者の正解により結果3とする

 

 以上の結果によるポイントの変化はこうだ。

 

(クラス名)(クラスポイント)(プライベートポイント)
(Aクラス)-200)(変化なし)
(Bクラス)(150)(300万)
(Cクラス)(-100)(100万)
(Dクラス)(150)(200万)

 

「勝ったが、完全には勝ちきれなかった感じだな」

 

 結果は出せているが、予定よりも良くはない。

 ちょっと工作に走り過ぎたのかもしれない。

 

 兎グループで結果4を目指す。それは成功することが出来た。

 が、同時に終わらせてAとCの動きを封じるという作戦からは外れてしまった。

 その結果、Cクラスに動く余地を与えてしまったようだ。

 

 作戦が成功したが、誤算もあった感じだな。

 

 まあ、前哨戦としては、いい結果だったと言えるだろう。

 問題は、ここからだ。

 

 今から挑む本番は、僅かな失敗、誤算も許されないだろう。

 

「それで答えは出たのかな? 綾小路くん」

 

 同じように結果を確認していた櫛田が、携帯を閉じてこちらを見た。

 船上試験の最終日、最後の試験が始まろうとしていた。 

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