綾小路Tレックス   作:チームメイト

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夏休みの宿題

 翌日。

 

 制服を着こんで、学校へと向かっていた。

 夏休みの宿題を終わらせるためだ。

 

 夏休みの宿題、ローションをどうやって手に入れるかで色々と考えた結果、まずは先輩に聞いてみるというシンプルな結論に至った。

 そう、我らが鬼畜眼鏡会長だ。

 

 中学生にして数々のAVを視聴し、ドSに偏りまくった本で堀北を歪ませた鬼畜眼鏡先輩だ。

 彼ならローションの入手方法など、あっさりと解決してくれるんじゃないだろうか。

 

 念のために、朝からニンニクマシマシラーメンを食べて感想を聞かれた時の対策もばっちりだ。

 

 お湯を2回入れないといけなかったり、先に入れるスープと後に入れるスープがあったりと少し戸惑ったが無事に食べることが出来た。チャーシューの満足感と味のインパクトが抜群だ。

 

 ただ、歯を2回磨いても匂いが取れきれてないのが、真夏にはちょっときつい。

 ニンニクマシマシラーメン……恐ろしい子……!

 

「涼しい……」

 

 夏休みだというのに、部活を行う生徒の為か、あるいは教師の為か、校舎内は冷房が効いている。

 道中の地獄と比べたら天国のような環境だ。

 

 いかに普段の自分が恵まれた環境にいるのかが分かる。

 用が無ければ外へなんか出たくならないだろう。

 

 こんな暑い真夏に、外でやりたがるんだから、佐倉もタフに育ったものだ。

 

 こんな暑い真夏に、日陰とはいえ外のベンチで読書していた堀北のドМっぷりも、なかなかのものだ。さっき見かけたが、思わず二度見した後で、気づかれていないことを良いことにスルーしてしまった。 

 

 人は見たくないものは認識しないのだ。

 オレは、真夏に外で読書する堀北なんて、見ていない。

 

 そういうことでいいだろう。

 

「先客か……」

 

 生徒会室の扉の前で、足を止める。

 中で何やら話し合いが、行われていた。

 特に防音の施設というわけでもないので、聞き耳を立てなくても何となく耳に入ってくる。

 

 どうやら先客は葛城らしい。

 

「……葛城も大変だな」

 

 途中からでも話には、ついていけた。

 双子の妹に荷物を送りたいという相談らしい。

 昨日買っていた誕生日プレゼントは、そのためのものだったようだ。

 

 が、ポイントを使っても規則に違反する行為を学校側は許することはないと却下されていた。

 

 何でもありというわけではないようだ。

 学校側から許可が出ないのなら、突破する方法は1つ。学校側にバレないようにやることだ。

 

 あとは、その方法があるのかどうかだが、葛城はそこまで考えが至らなかったらしく、生徒会への依頼を諦めて出てきた。

 

 扉の前で待っていたオレと自然と向き合う。

 

「……よく会うな」

「綾小路……甘いものは大丈夫か?」

「苦手ではないが」

「お前にやろう。聞こえていたんだろう。俺には不要になったものだ」

 

 昨日購入したばかりの、見覚えのあるプレゼントをオレに渡してきた。

 どうするのかはおいておいて、一度預かっておくか。

 

「葛城、連絡先を教えてくれないか?」

「別に構わないが、どうするんだ?」

「あとで連絡するかもしれない」

 

 葛城から訝し気に見られながらも、連絡先の交換に成功した。

 

 葛城と入れ替わる形で生徒会室に入る。

 

「失礼します」

「綾小路か。一之瀬は出掛けているが」

 

 橘書記からは物凄く嫌そうな顔をされた。

 前回訪れた時は、兄の前で堀北の脇腹を攻めまくって終わった。そりゃ嫌な顔もされるか。

 

 それにしても前回とは違い、部屋の中が散らかっている。

 段ボールが幾つか転がっていたり、紙の束が机の上に散らばっていたりする。

 大掃除をしていたと言われれば、納得しそうな状況だ。

 

「別に、一之瀬に用があるわけじゃない。生徒会に、いや、会長に頼みがある。生徒の要望は生徒会を通すと耳にしたからな」

「なんだ、言ってみろ」

 

 嫌そうな橘書記とは対照的に、鬼畜眼鏡先輩は面白がっているように見える。

 これなら正面から頼んでも問題なさそうだな。

 

「ローションを手に入れたい」

「ロ、ロ、ロ、ローション!? 会長、この子とんでもない要望を出して来てますよ。却下しましょう却下」

「ほう……それは美容のためのものか?」

「まさか」

 

 あれ? そういえば、勝手に夜のローションだと決め付けていたが、佐倉にはどのローションか確認していないっけ。

 誕生日プレゼントで美容グッズが欲しいって、その可能性もあったりするのか。

 

 いや、そういうものほど個人に合う合わないの差が激しいはずだ。本人以外が選ぶのは難しい。

 みーちゃんや、井の頭の誕生日プレゼントに美容のためのローションは、連想しなくていいだろう。

 その考えで言えば、夜のローションの方がもっとない気がするが。

 

「市販品は売っていないようだが、心当たりありませんか?」

「当たり前です。市販品なんて売っていたら大事ですよ。生徒会で取り締まります」

 

 橘書記。言っていることは立派だが、美容のためのって聞く前に、夜のローションだと判断したリアクションの後で真面目ぶられても困る。

 オレはそういうの見逃さないから。

 

「タイミングが合えば、コンビニの新製品で紛れ込むことがある。俺の知る限りは過去に一度だけ入った。橘が言ったように、取り締まりですぐに消えることになるから、確実に手に入るとは言えないがな」

「となると自作ですか?」

「やめておけ。寮の排水はそこまで高性能ではない。素人知識では、水溶けが悪いものが出来、排水を詰まらせてペナルティーが課されることになるだろう」

 

 一発で上手く作れれば問題にならないが、実際には試行錯誤が必要だろう。

 失敗して変なものが完成したときに問題になると。

 

 流石は鬼畜眼鏡先輩だ。まるで自らの経験談を語るように、分かりやすく教えてくれる。

 先輩に相談したのは成功だった。

 

「購入は不確かで、自作もダメか。お手上げだな」

「当たり前です。そもそもローションを欲しがることがおかしいんですよ。この子学校を何だと思ってるんですか」

「橘、3番の引き出しから1箱出してくれ」

「か、会長!?」

「2度は言わせるな」

「分かりました。用意します」

 

 鬼畜眼鏡先輩の厳しい口調に、橘書記が慌てて命令に従った。

 生徒会室に並ぶ棚に向かうと引き出しの鍵を開ける。あれが3番の引き出しらしい。

 

 中から箱を1つ取り出してきた。

 

「中に6本入っている。受け取れ」

「これは……ローションか。なぜここに」

 

 橘書記から箱を受け取り、中を確認するとドレッシングの容器なようなものが収まっているのが見えた。

 オレが探し求めていたローションのようだ。

 

 これでドレッシングでしたってオチはないだろう。

 

「取り締まる対象として不適切なものかどうかを知る必要があった。その時のものだ」

「箱買いしたのかよ」

「他の生徒が購入しないようにな」

 

 その理屈は分からなくはない。

 生徒会として正しいのかもしれない。が、

 

「なぜ中身が減っている」

「中身を確かめる必要があった」

「1本目はまだしも2本目は絶対楽しんで使っただろ!!」

 

 そう。箱は8本1ケースだったが、2本分中身が消えてスペースが出来ていた。

 1本だけなら中身の確認のためだって理屈も通るが、2本だと理屈が通らない。

 

「橘先輩からも何か言ってやってくれ」

「意外とハマってしまいまして」

「お前も共犯者かよ」

 

 生徒会長と橘先輩ってそういう関係なのかよっ! 知りたくなかった事実だ。

 

 鬼畜眼鏡先輩が鬼畜眼鏡だけに、橘書記がドMに見えてくるから困る。

 一之瀬はこんな生徒会に居て大丈夫なんだろうか。心配になってきた。

 

「貰っていいのか?」

「あと2月もすれば処分するだけだからな」

「処分?」

「生徒会長の任期が終わる。ここに置いたまま引退する訳にもいくまい」

「会長……」

「全然ときめきポイントねえぞ」

 

 立つ鳥跡を濁さずの美談っぽく語る鬼畜眼鏡先輩に、橘書記がうっとりしているが、話している内容はローションの処分だ。

 ときめく要素0である。

 

 まあ、くれるというのならありがたく貰っておこう。

 ローション問題は解決だな。結構量があるから、アクセントで楽しむ分には十分だろう。

 

「それはお湯で希釈できるタイプだ。好みの濃度まで希釈して使い、終わったらお湯を足せば寮で流しても問題ないレベルになる。そのまま流さないようにだけ注意しろ」

「分かった」

「おすすめはお風呂での使用ですよ。ベッドで使うと大変なことになりますからね」

「ローションをとんでもない要求だと却下しようとした姿はどこ行った!?」

 

 鬼畜眼鏡先輩は慣れてるからいいが、橘書記は控えて欲しい。

 そんな経験談は聞きたくない。

 

 話を変えるか。

 

「追加でもう1つ話があるんだが」

「なんですか、この子。図々しいにも程があります」

 

 今更元のキャラに戻られても困る。

 

「これについて頼みがある」

 

 橘書記はスルーして、葛城に貰ったばかりのプレゼントを取り出す。

 

「頼む相手がおまえであろうと答えは変わらない。学校の規則は守るためにある。学校側がルールを破ることは無い」

「規則を破れと頼むつもりは無い。これをどうにかしていいかの確認だ」

「ほう。おまえにどうにかできるのか?」

「オレには出来ませんが、会長にはどうにかできるのでは?」

「俺個人に頼んでも、不正に加担する気はない」

 

 出来ないとは言わないあたり、やはりどうにかする術を持ち合わせているんだろう。

 学校は規則を守るためにあるが、規則を破ったところで見つからなければ問題ない。

 

「会長にはどうにかできるというのが分かれば十分だ」

「そうか。ならば、葛城の依頼を含めて聞かなかったことにしよう。これからどう動いたとしても俺は関与しない。それだけは約束する」

 

 オレがやろうとしていることの方向性は、悟られているな。

 その言葉が引き出せただけで、ここに来た価値はあっただろう。

 

 その後、幾つか話をして生徒会室を後にした。

 

 夏休みの宿題は、これで完了だな。ミッションコンプリート。ローションゲットだぜ。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 夕方まで待って、葛城と連絡を取った。

 例のプレゼントを持って、寮のロビーで合流する。

 

「何の用だ」

「もしかしたら力になれるかもと思ってな。これを届けられるかもしれない方法を思いついた」

「生徒会にも断られた話だ。解決策があるとは思えんが」

「それは正攻法ならの話だ。思いついた方法だけでも聞いてみないか?」

「……場所を変えさせてもらう」

「分かった」

 

 人の出入りがあるロビーでする話ではないことは確かだな。

 どこに行こうか。ローションをテーブルの上に置きっぱなしだから、自室は却下だ。

 

 この近くで、秘密の話をする場所か。あそこしかないな。

 

 少し距離を置きながら歩き、寮の裏側へと向かう。

 ここなら監視カメラもなく人の出入りもほぼ存在しない。

 際どい話をするにはうってつけの場所だろう。

 ちょっと暑いことだけが難点だ。

 

 あと、堀北兄に殴られそうになったり、須藤に殴られたりとロクな思い出がないけどな。

 

「話をする前に聞いておきたい。これを贈りたい気持ちはどの程度なんだ」

「俺はリスクのある行動をする気はない。それ以外なら、出来ることはする──いや、したつもりだ」

 

 生徒会に話を持って行き、プライベートポイントでの解決をはかる。

 プライベートポイントがかなりの力を持つこの学校では、これ以上ない正攻法だろう。

 

 プライベートポイントで無理なら、学校側が公式に認めることは無くなる。

 

「贈りたい相手が双子の妹だというのは聞いた。そこまでする事情はあるのか?」

「俺の事情に他人を巻き込むつもりは無い」

「出来ることはするんじゃないのか」

「……綾小路。おまえに話して何とかなるとは思えん」

「何とかするのはオレではない。オレはどうにかなる可能性を思いついただけだ。出来そうな奴に心当たりがある。が、巻き込んでいいのかの判断がつかない。葛城の事情が知りたいのはその為だ」

 

 オレ自身がどうにかする気はないので、鬼畜眼鏡先輩に伝えた言葉と同じ言葉を返す。

 

「まさか、敷地内で働く従業員に頼むとかではないだろうな」

「それは無理だろ。規則を破る奴がいるとは思わない」

「どうするつもりだ」

「オレが思いついたのは可能性の段階だ。実現可能かどうかは五分五分だと思う」

 

 一度ここで言葉を切る。

 実際のところ8割ぐらいいける自信があったが、こういうのは割り引くもんだろう。

 葛城の覚悟を知るためにも、低い見積もりでいい。

 

「その上で、先に事情を聞かせてくれ」

「…………」

「…………」

「大した話じゃない。俺には双子の妹がいる。既に両親も祖父母も他界しているため、親戚に預けられているが、病弱でな。俺が親代わりみたいなものだった。唯一の肉親の俺が祝ってやらずしてどうする。それが理由だ」

 

 思ったよりヘビーだったよ。

 大した話じゃねえか。

 

「そ、そうか。だったらプレゼントを贈ってやれ」

「どうやってだ」

「生徒会を使う」

「……綾小路、生徒会には無理だと断られたが」

「公式に依頼を受けて送るのはな」

「どういう意味だ」

「今日の生徒会室は散らばっていたが、机の上に置いてあった束の中には、未使用の郵便伝票もあった。仕事する上で外部とやり取りする必要があるんだろう。生徒会は、外部へ物を送ることができるはずだ」

「…………」

「散らばっていた段ボールの中には外部から生徒会宛で届いたと思わしきものがあったのも確認済みだ。生徒会が外とやり取りしているのは間違いない。生徒会が荷物を外に送る際に、プレゼントも紛れ込ませればいい」

「生徒会が外とやりとりしていようが無理だ。そんな依頼を受けるとは思えん」

「普通ならな。ただ、生徒会には普通じゃないお人好しが1人いる」

「まさか、お前が頼ろうとしている相手は」

「一之瀬なら、相談に乗ってくれると思わないか?」

 

 そう。生徒会には1年唯一の生徒会役員にしてBクラスのリーダーの一之瀬がいる。

 常日頃から友達のことは助ける、と公言してならない善良なお人好しだ。

 

 AクラスとBクラスはライバル関係にあるが、クラスの利害とは関係のないところではなら協力してくれる可能性が高いだろう。

 

「クラスのリーダーとして貸しを作るわけにはいかない」

「一之瀬はこんなことを貸しにする奴じゃない。仮に貸しにしたとしてもクラスの対立とは関係のない範囲でだ」

「……生徒会役員とはいえ、自由に外部に発送できるのか?」

「実現可能か5分だといったのは、そこだ。確証はない。が、話を聞いて見なければ可能性はゼロだ。あまり人に知られたくない事情かも知れないが、これしか方法はないと思う」

 

 例えば、生徒会が教師に荷物を預けて教師経由で発送とかがルールだったらアウトだ。

 潜り込ませることは、できないだろう。

 

 どうなっているのか詳しく話を聞くためにも、一之瀬を巻き込む必要がある。

 

「どうする? この案に乗るなら一之瀬に連絡を入れるが」

「……考えられる手段としてはその案しかない、か。頼めるか」

 

 葛城からしたら、Aクラスの最大のライバルであるBクラスの一之瀬に、弱みを作りたくはないだろう。それでもオレの案に乗るということは、葛城にとって双子の妹はそれだけ大きい存在ということか。

 

「少し待っていてくれ」

 

 奥の方へと進んで、葛城と距離を取ってから、一之瀬へと電話をかける。

 数コールで相手が出た。

 

「一之瀬、今大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」

「生徒会はもう終わったのか?」

「うん。今日はもう終わって部屋にいるよ」

「部屋か。好都合だな」

 

 密談をするには、寮の部屋はもってこいだ。

 夜の8時を回ったら女子のエリアである上層階へ男子が入ることは咎められるが、あと1時間は問題とはならない。

 

「こ、好都合って!?」

「今から一之瀬の部屋に行っていいか。大事な話があるんだ」

「大事な話!? だ、騙されないよ。どうせまた龍園くんがとか言い出すんだよね」

「いや、龍園は関係ない」

 

 今からしたいのは葛城の話だ。

 

「どんな話?」

「どうしてもしたいことがあってな。一之瀬に聞きたいことがある。その内容次第で、もしかしたら頼みごとをするかもしれない」

「どうしてもしたいことで、わ、私に? だ、誰でもいいようなことでしょ?」

 

 おかしい。やたら警戒されている気がする。

 そんなに警戒されるようなことを提案しているだろうか。

 何かまた一之瀬が勘違いしているのか。

 

「いや、一之瀬の立場じゃないと無理なことだ」

 

 今から聞きたい話は、生徒会役員が持つ権限についてだ。

 1年で相談できるのは必然的に、一之瀬だけとなる。

 

「私の立場!? わ、分かってる。分かってるから。またそういうことでしょ」

「どういうことだ」

「具体的に聞かせてよ。何の話がしたいのかな?」

 

 電話で長くする話じゃないな。ここは結論だけ伝えよう。

 

「外に出したいんだ」

「中だったら大変だよ」

 

 いや、敷地内でプレゼントを贈り合うのは大変じゃないぞ。みーちゃんや、井の頭に贈るつもりだし。

 学校の敷地の外に送りたいから大変なだけで。まあいい。中じゃなければ問題ないというなら話を進め──やめておこう。一之瀬を頼りにしているのに、からかい半分で騙すのはよくないな。

 ここは正直に、一之瀬の愉快な勘違いを正すか。

 

「一之瀬、何か勘違いしていないか。オレが今から話したいのは──」

「今から!? 待って、30分後。30分後で。待ってるから」

 

 やたら慌てた一之瀬に、一方的に電話を切られた。

 許可を取りつけることに成功したが、誤解を解くことには失敗していた。

 

 30分後だと7時半になる。

 8時には部屋を出ないといけないことを考えると忙しくなるな。

 

 葛城に確認のために視線を送ると、頷きが返って来た。

 問題ないようだ。

 

 こうして一之瀬の部屋に向かうことが決まった。

 

「第一段階クリアだな。30分後に一之瀬の部屋だ」

「わかった」

「……微妙に空くな。一度解散してエレベーター前でどうだ?」

「それでいい」

「これは返しておく」

 

 オレが持ち続ける必要は無いだろう。葛城のプレゼントを本人に返して、解散となった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 30分後。

 

 葛城と再合流してエレベーターに乗り込む。

 30分の間に、一之瀬には葛城のことで相談したいだけだとメールを送っておいたが返事はなかった。

 

 フロアに降りると真っ直ぐに部屋へと向かってインターホンを鳴らす。

 Aクラスのリーダーとして知られた葛城と行動をするのは嫌でも目立つ。

 ましてや女子のエリアならなおさらだ。なるべく時間をかけたくない。

 

 すぐに扉が開いた。

 

「ど、どうぞ」

「急に悪いな。押しかけてしまって」

 

 風呂にでも入っていたのか、一之瀬の髪はまだ濡れていた。

 30分掛かってこれだと、長い髪は、やはり大変なのかもしれない。

 堀北が短くしたのも分かるな。

 

 そして部屋着なんだろうか、ハーフパンツにTシャツというのは、夏らしい格好だが、一之瀬がやると目のやり場に困る。

 一之瀬がラフな格好をすると、もはや裸婦なんじゃないかって言いたいエロさだ。

 

「ううん、急でビックリしたけど、大丈夫だよって葛城くんも!?」

 

 オレに続いて部屋の中に入ろうとする葛城の姿を見て、一之瀬が驚きの声を上げた。

 

「メールでそう伝えたはずだが……とりあえず入っていいか? あまり目立ちたくない」

「へ? え? ……は、入ったところで待ってて」

 

 一之瀬はそういうと、そそくさと部屋の奥へと消えていった。

 何やらドタバタという音だけが奥から届く。

 玄関の中で靴を履いたまま葛城と顔を見合わせた。

 

「一之瀬に説明してなかったのか?」

「メールで葛城のことで相談があるとだけ伝えた」

 

 メールだと跡が残るからな。

 学校側がどこまで監視しているのかは不明だが、不正行為に関しての証拠は残したくない。

 

「ごめん、お待たせ」

「……なんでジャージなんだ?」

「べ、べつに大した意味無いから。入って」

「お邪魔します」

「邪魔をする」

 

 次に奥から一之瀬が顔を出した時には、体育のジャージ姿に変わっていた。

 ドタバタしていたのはこれが原因なのかもしれない。

 

 うん、大体理解できた気がする。

 

 一之瀬が愉快な勘違いをする。

 勘違いのままで風呂に入って身ぎれいにする。

 その間に届いたメールはチェックしていない。

 彼氏を迎え入れる準備を整えていざ出てみたら、彼氏は葛城と一緒に登場したので、慌ててメールを確認し、ジャージ姿に着替え直した。

 

 いや、なんつーか。色々とすまん。

 だが、これはオレが悪いんだろうか、一之瀬が悪いんだろうか。

 

「それで大事な聞きたいことって何かな」

 

 一之瀬の部屋は機能性重視でシンプルだった。女子の部屋としては物が少ない方かもしれない。

 今更だが、彼女の部屋に入るのはこれが初めてだ。

 彼氏彼女として、膝枕につづいてワンステップ上ったと言えるだろう。

 

 なぜ葛城と一緒に入ってるんだって話だが、緊急事態だから仕方ない。

 

 いつかチャンスがあれば、今度はオレ1人で遊びに来たいものだ。

 

「校外の人に誕生日プレゼントを贈りたいと考えている。生徒会ならそれが出来るのかどうかを教えて欲しい」

 

 テーブルを挟んで葛城とならんで一之瀬と向き合う。

 

「うーん、それは難しいと思うな」

「出来ないとは言わないのか」

「ほぼ無理な話だけどね。生徒会が外に荷物を送れるかどうかって話なら出来るよ。生徒会の仕事で何度も送ってるからそれは大丈夫。生徒会役員は郵便局の利用が条件付きで認められているの」

 

 ここまでは想定通りだ。

 生徒会なら外部とやり取りできる。あとはそこにどういう制限が掛かっているのか次第だ。

 

「条件付き?」

「これは誤送とかを防ぐためでもあるんだけどね。個人での利用はダメ。郵便局で2人以上の生徒会役員が関わって荷物を確認しないと受けつけて貰えないはずだよ」

「それ以外で制限はないのか?」

「ないはずだよ。あーでも、こういう雑用は私がやる事が多いんだけど、同じクラスのペアは組まないようにしてたと思う。私の場合は、必然的にそうなるけど、先輩たちが送るときもそうだったかな」

「なるほど。互いに監視させることで不正対策か」

「あーうん、たぶんそんな感じ」

 

 生徒会が外部に発送するときは、ペアでの行動になる。

 それに対して個人で荷物を紛れ込ませることはできない。

 

 同じクラスの生徒同士でペアを組むと、相方の不正を見逃す可能性が高くなるが、これが違うクラスならば抑止力として十分成立するか。

 

 場合によっては、不正の証拠をペアに掴まれて、クラス間の争いで優位になるための武器にされかねないわけで、そこまで無理して外部に送るようなことはしないだろう。

 

 堀北会長だったらどうやって発送するのか気になるが、今はどうでもいいか。

 

「それだけなら突破できるかもしれない」

「綾小路、あてはあるのか? 会長が認めなかったものに協力する生徒がいるとは思えんが」

「本人を目の前に言うことではないが、1人目は一之瀬をどうにか説得する」

「あー……話の流れ的にそうくるだろうなって思ったけど、参ったな」

 

 一之瀬なら2つ返事でOKがもらえるかと思ったが、そうではないようだ。

 まあ、断らずに参ってる時点で目がある証拠だろう。どうにかはなりそうだ。

 

「仮に一之瀬を説得できるとしても、1人では無理だ。もう1人のあてはあるのか?」

「生徒会と言っても全員が堀北会長に従うわけじゃない。聞けば葛城も納得するはずだ。一之瀬と荷物を送ってもらうもう1人は──」

 

 昼に鬼畜眼鏡先輩と会った時から考えていたことだ。

 さて、この無理難題をぬるっと突破してみせようか。ローションのようにな。

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