朝食の席で、俺はふと思い立った。
「堀北、ちょっといいか」
「何よ」
「オレ、寒いの嫌だから夏にしないか?」
「分かったわ」
1秒だった。
「わぁ、いきなり暑いよ綾小路くん」
外に出た途端に、もわぁーっと暑い空気が俺たちを包み込み、名雪櫛田がうだぁ~っと──
「…………変な夢を見たな」
色々とツッコミどころが多い夢だった。
いきなり暑いよってことは、冬から夏に季節が変わったんだろうか。
堀北の了承によって季節が変わるとか、堀北は何をやったんだろうか。
なによりも、櫛田家で朝食を食べている時に、堀北がその場にいたのはなんだろうか。
いや、夢だ。夢につっこむのはやめておこう。
変な夢を見たのも、予定が変わったのが悪いと思う。
「今日で夏休みも終わりだ」
8月31日。夏休み最終日だ。
そして、葛城のプレゼント騒動の時に一之瀬と約束した、プールに行く日でもある。
学校には、授業とかで使われるプールとは別に、施設の充実した水泳部専用のプールがある。
水泳部以外は通常使うことが出来ないが、8月29日~31日の3日間だけ、水泳部以外の生徒に向けてレジャー施設として開放されている。
当初の予定では、昨日の30日が一之瀬とプールデートをする日だった。
予定が狂ったのは一昨日だ。
開放日初日の29日に、大勢の生徒が押し寄せてきたため、この前の占いと同じように制限が入り、生徒は3日間のうち1回だけしか入場できないことになった。
ここで問題となったのが、人気者の一之瀬だ。
一之瀬の予定では、30日にオレとデート。31日にクラスの交流会で、プールを使う予定だったらしい。
オレの方も諸事情で31日は堀北クラスの有志でプールになりそうだったので、予定を合体させて30日のデートは取りやめ、31日に堀北クラスと一之瀬クラスで合同で遊ぶことになったというわけだ。
なお、別に30日の互いの予定は空いていたんだからプール以外でもデートすれば良かったわけだが、気付いたのは櫛田と1日中Tレックスした後だったので、残念ながらデートは流れてしまった。
櫛田よ、気づいていたのなら朝一で指摘して欲しかった。まあ、後の祭りだ。
一之瀬とのデートはまだまだ緊張するので、集団で遊ぶところから慣れるというのはそれはそれで有りだと前向きに捉えたい。
「……夏休み最終日だし、部屋の掃除でもするか」
現在の時刻は、朝の6時。
待ち合わせは8時30分、寝直すには微妙な時間だ。
最近、物が微妙に増えてきているので、朝食前に軽く整理でもしとこう。
おっと、電話だ。
「こんな早くにどうしたんだ?」
「清隆、女子は誘えたのかよ。気になって早起きしちまったぜ」
「堀北、櫛田、佐倉、健たちの希望したメンバーは集めた。そっちこそ大丈夫なのか?」
「中止で間違いねえよ、実行しようとしたら殴ってでも止めさせるから任せとけ」
暴力は止めておけ、と言いたい。が、今回は須藤の好きにさせた方が良さそうだ。
「なあ、健は止める側でよかったのか?」
「んだよ、今更だな。見たくねーって言ったら嘘になるけど、盗撮で鈴音を悲しませたくねーし、男なら自力で惚れさせてこそだろ」
「なら問題ない。後でな」
「おう」
そう、須藤が何を止めようとしているのかと言えば、池と山内による女子更衣室の盗撮だ。
厄介なことに、機械に精通した博士を巻き込むことで、計画は実現可能なところまでこぎ着けていた。
須藤から相談されたオレは、不健全な盗撮ではなく健全に遊ぶことを提案して、その代わりにクラスの可愛いどころ、綺麗どころをプールに連れて行くという条件を出した。
で、3人の希望するメンバーを集めることには成功したが、本当に計画が中止になったのか須藤に確認させてもらった。
盗撮はシャレにならない。池や山内がどう考えているのかは知らないが、バレたら退学一直線だ。
Aクラスを目指すためにも、アホみたいな退学者を出してペナルティーをくらうような真似は避けたい。
封印したはずの暴力を振るっても、止めて欲しいのはその為だ。
全員が協力しなければ、失敗するような計画だったので、須藤が敵に回った時点で大丈夫だろう。
「このタンブラー誰のだっけ。まあ、重曹でつけとけばいいか」
各自が勝手に置いて行ったものなので、イマイチ自分のもの以外は把握しきれてなかったりする。
まとめて全部洗っておけば、誰のものでも問題あるまい。
台所とお風呂とトイレの水回りを中心に、普段はやらないところまで、しっかりと洗っていく。
自分1人だったらここまで気にしないが、女性陣がよく使うので嫌われないようにしないといけない。
カビや水垢、匂いなどは厳禁だ。
別に、排水溝につまった髪で浮気を疑われかねないから注意してるとかじゃねえぞ。
昨日、櫛田がさりげなくチェックしてたこととか全然関係ないからな。
そもそも一之瀬がこの部屋に来たことは無い。
……多様な髪が詰まってることはよくあるから困る。
掃除や朝食を済ませているうちに、いい時間になったのでロビーへと向かった。
◇◇◇
「遅いわよ」
「まだ10分前なんだが」
ロビーに降りるとDクラスの女性陣が既にいた。
嫌味を言ってくる堀北は、軽く流す。
もしかしたら、かなり前から待っていた可能性があるが、そんな不要な自主性は、オレの管轄外だ。プールに誘ったら、いつもの即断だったとだけはいっておこう。
「おはよう、愛里、波瑠加」
「あ、あいりっ!?」
「あやのん、おはよー。いやー、外暑そうだよ」
愛里呼びはまだ早いらしい。長谷部は波瑠加でも長谷部でもどっちでもいい感じだな。
佐倉が早いのは、人を待たせて迷惑をかけたくないんだろう。
長谷部はそれに付き合っているんだと思われる。
「櫛田も早いな、おはよう」
「えへへ、楽しみで早起きしちゃった。楽しい1日になるといいね」
可愛いな、おい。
須藤が早起きしたのはうざかったが、櫛田の早起きには笑顔しか出ねえよ。
Dクラスの綺麗どころが集まっているだけあって、ロビーが華やかだ。
男が1人というのもあって、寮の出入りをする生徒たちの視線が痛い。
と、思っていると都合よく三バカが現れた。
池と山内との関係は微妙なので、須藤だけが堀北との挨拶を終わらせてオレの方へと寄ってきた。
「大丈夫だったか?」
「問題ねえよ」
池も山内も大げさな荷物は持っていないので、盗撮は諦めた可能性が高そうだ。
そのままBクラスを待つ。
「おー、須藤。久しぶり」
「Bクラスってお前かよ」
神崎含む男子3人がロビーに降りてきて、そのうちの1人が寄ってきた。
今日、合同で遊ぶ予定のBクラスらしい。
「綾小路も、今日はよろしくな」
須藤に馴れ馴れしく話したかと思いきや、オレにまで話しかけてきた。
「……よろしく」
「おまえもしかして俺のこと分かってない?」
「いや、覚えてる。あれだよなあれ。覚えてるけど、ここは健に譲るから、健、覚えてるなら名前を言ってやってくれ」
「それ覚えてない奴の対応だからな」
「清隆ってたまに抜けてるときあるよな」
ほっとけ。
「こいつは渡辺。船上試験で俺や寛治と同じ牛グループだった奴だ」
「そ、そうだ。渡辺だな。うん、渡辺、覚えてた覚えてた」
渡辺とオレってどっかで交流あったっけ。
記憶をたどってみるがイマイチ思い出せない。
「やっぱり覚えてないだろ。俺はBクラスの入り口近くの生徒だよ。おまえに頼まれて3回も一之瀬に取り次いだのに」
「ああ、鈴木君」
「渡辺だっていってるの聞いてたよな」
一之瀬に用がある時に、最初こそ、Bクラスの入り口から大声で一之瀬を呼んだが、2回目以降はBクラスの生徒に頼んで呼んでもらっていた。
適当にモブとしか認識していなかったが、毎回同じ生徒だったようだ。
3回も頼まれて認識されてないとか可哀想だな渡辺。
それにしても、やけに馴れ馴れしい。
「綾小路とは、前からしっかり話してみたいって思ってたんだよ」
「理由を聞いていいか?」
「一之瀬の彼氏だろ。Bクラスじゃ注目の的で、俺以外にも話したいって思ってるヤツ多いんじゃないか」
「なるほど」
「こういう機会でもないと他クラスとか交流持ちにくいからな」
そりゃそうだ。
クラス間で争っている弊害として、他クラスとの交流は抑えられている。
「だから、今日はよろしくな」
「よろしく頼む」
慣れないことに戸惑っているが、こういうのも悪くないんじゃないだろうか。
うん、他クラスとの友達も青春っぽくていいな。
Bクラスの男子は神崎と多少交流がある程度しかないし、今日の機会に仲良くなれる範囲で頑張ってみるか。
「綾小路くん。おっはよー。渡辺君と須藤君も」
小さな決意をしていると、エレベーターから女子生徒が3人降りて近づいてきた。
一之瀬と網倉、白波。よく一之瀬と一緒にいるところを見かける女子生徒たちだ。
「おはよう、一之瀬、網倉、白波」
「時間に遅れてないよね。私たちでBクラスは揃ったけど」
「おはよう、一之瀬さん。5分前だから大丈夫だよ、Dクラスも揃っているからこれで全員集合だね」
「それじゃ出発しよっか」
池と山内がいる都合上、Dクラスの仕切りは櫛田に任せた方が無難か。
プールに向けて歩き出した一之瀬と櫛田を中心に、その他の連中が続いていく。
須藤は三バカの元に戻ったので、自然と渡辺と2人で歩くことになった。
こういう時に一緒になりがちだった佐倉は、長谷部や堀北と並んでいる。佐倉にも友達が増えてよかったな。
「綾小路って網倉や白波の名前は、すんなり出てくるんだな」
「……たまたまじゃないか」
「白波とか男子とほとんど話さないのに、良く知ってたな」
「……知る機会があっただけだ」
網倉とは一之瀬と食事した時に、同席したことがあったから覚えていた。
白波は、オレと一之瀬が付き合うきっかけになった、女子生徒から一之瀬への告白騒動の当事者だ。
うん、そういうことがあって覚えていただけで、男子の名前は覚えていないけど女子は覚えているとか、そんな男女差別はしていない。
「いいな。女子と仲良さそうで羨ましい」
「それは否定しない」
今のオレの立場で否定したら罰が当たりそうだ。
「なあ、どうやったら仲良く出来るんだ。教えてくれ」
「周りをよく見て無理しないことじゃないか」
「無理しないことって?」
「あれを見てみろ」
ちょうど前方で池と山内が積極的に、Bクラスの女子に話しかけているものの、微妙に引かれていた。
「あれが周りが見えておらず、無理している例だ」
「うん、なんとなく分かった」
「そしてあれが暴走する男子の図だ」
池や山内から少し遅れた位置で、須藤が堀北に話しかけていた。
堀北からの返事は、一言二言程度だが、それでも嬉しそうにしているあたり、なかなかの重病だ。
長谷部や佐倉からは、居ないものとして扱われている。
頑張れ須藤。マジで堀北のことを頼む。
「それで、どうすればいいんだ」
「Bクラスなら神崎とかはモテるんじゃないか」
「神崎か。確かにモテそうなイメージだけど、別格って言うか」
例えとしてあげた神崎だが、一之瀬の補佐役を務めるからには、優秀な生徒なのだろう。
渡辺がどの程度できる生徒なのかは分からないが、神崎には勝てないと思っているのかもしれない。
あれ。オレには相談してくるってことは、オレには神崎と違って負けないとでも思われているんだろうか。
良いキャラしてるな、渡辺。
「落ち着いて周りを見ながら、必要なタイミングで声をかける」
「う……それが簡単に出来れば苦労しないって」
「最低限、慌てないことだ」
オレはどんな時だって慌てない。
綾小路トリケラトプスを松下に見られてしまった時が、最大のピンチだった。
あそこで慌てていたら、楽しい学生生活は終了していただろう。
「わかった。……綾小路ってなんか話しやすいな」
「そうか?」
「どっしりしていて、一之瀬の彼氏ってのも納得するっていうか」
「それは嬉しい評価だな」
仮の恋人として周囲から納得されるような関係なら、交際は順調と思って良いだろう。
今日のデートが潰れてしまったのは残念だが、渡辺のその言葉が聞けただけでも価値があったのかもしれない。
連絡先を交換したりしながら、プールまでの道を渡辺と話しながら歩いた。
◇◇◇
「1番か」
男同士で裸を見る趣味も見られる趣味もない。
さっさと着替えて更衣室を出ると、今日遊ぶメンバーはまだ誰もいなかった。
こういうのは女子の方が時間かかると相場が決まっている。男子で1番に出て行けば、1番乗りは当たり前か。
それにしてもどうなってるんだろうな。
大型プールが完全にレジャー施設になっていた。
例えば、高いところにある飛び込み台だ。台だけなら普段から水泳部が使っている可能性が高いが、そこからウォータースライダーが伸びているのは、このためにわざわざ用意したんだろうか。
3日の解放にしては、やることが本気過ぎる。
あまりの人気に制限が入ったのも納得の施設だ。
と、ここで一気に周囲の視線が女子生徒へと向かって行った。
「やー、これは凄いねー」
その視線に気づいているのかいないのか、一之瀬は気にすることなくオレの隣へと並ぶ。
「早いな……」
「にゃははは、着替える速度には自信あってね」
それにしても、おっぱいが凄い。
学校の標準のスクール水着だが、胸元の水着が押し上げられている。
元々スクール水着にしては肩回りは紐だけと、どこか扇情的なものだが、一之瀬が着ると破壊力がすごい。
ちなみにオレはラッシュガードを購入して着用している。
見られて恥ずかしい身体ではないが、不特定多数に見せるつもりもない。
「他の男子は?」
「そろそろ来るんじゃないか」
男子側の更衣室を見ると、タイミングよく須藤が池や山内を引っ張って来ていた。
「いいから行くぞ、オラ」
「ううう……強引に引っ張らなくていいだろ」
「そうだぜ、健」
「お前ら放置すると怖えんだよ」
池や山内は、盗撮に未練たらたらのようだ。
更衣室の方へと手を伸ばしていたが、一之瀬の姿を見つけるや否や、あっさりと切りあげて小走りでよってきた。
「うっひょー、一之瀬さん、水着超似合ってます」
「綾小路の彼女なのがもったいないよなぁ」
どこか鼻の下の伸びた2人の誉め言葉だ。
「あはは……ありがとうでいいのかな?」
「いいんじゃないか」
若干、困り気味に聞かれたので、とりあえず同意しておく。
勿体ない彼女であることは否定できない要素だ。譲る気はないけどな。
次に渡辺たちBクラスの男子生徒が出てきたが、オレと一之瀬が一緒にいるのに気を使ってか、近づいて来なかった。
うん、この心配りよ。これがBクラスと堀北クラスの差ってやつか。
「うう……恥ずかしい」
続いて現れた佐倉が隠れるように、オレの腕へと抱きついてくる。
見慣れた光景だが、一之瀬の前ではどうかと思う。
なにより、野外大好き佐倉さんが水着を着て恥ずかしがっている理由が分からん。
男子の目は苦手なんだろうけど。
「な……なつかれてるね」
一之瀬の呆れたような感想には、コメントを返せないな。
「おまえ、一之瀬さんって言う彼女がありながら佐倉まで」
「お前らが怖がらせるからだろ」
「そんなことしてねえよ」
池や山内の目のぎらつきっぷりがヤバい。
佐倉が抱きついて隠れようとするのも納得だ。
須藤は、佐倉の方をあまり見ていないな。
「堀北、水着姿が眩しいぜ」
「……恥ずかしいわ」
「おい」
須藤の感想を無視して、堀北まで腕に抱きついてきやがった。
左腕に佐倉、右腕に堀北。目の前には彼女、どんな状況だこれ。
佐倉はまだしも堀北は恥ずかしがるような女じゃねえだろ、絶対わざとだと自信を持って言える。
「……Dクラスって、ナカイイネ」
一之瀬の完全に乾いた声には、やはり何も返せないな。
「くっそー綾小路ばっかり、なんて酷い世界だ」
「うう、見せつけてやがる。なんだよコイツ」
2人の不機嫌そうな顔が凄い。
池と山内からの好感度が下がりまくっている。もはや、池と山内とは友達になるのを諦めた方がいいかもしれない。渡辺という新しい友達が出来ていてよかったぜ。
「き、桔梗ちゃん。可愛い―」
「やっぱ櫛田ちゃんだよなー。待ってたよ」
次に登場した櫛田は、笑顔で池や山内に手を振って愛嬌を振りまいている。
これで流れが変わったか。
池と山内が再びだらしない顔へと戻る。
よし、いいぞ。このまま池や山内のご機嫌を取るんだ櫛田。
「うわー、綾小路くん、モテモテだねっ。両手に花?」
「って言いながらなぜ抱きつく、櫛田」
櫛田はオレの背後に回ると、後ろから「えいっ」と抱きついてきた。
おい、みんなの桔梗ちゃんはどこに行った。
「え? 綾小路くんに抱きつくってゲームしてたんじゃないの?」
「どんなゲームだ」
なんだその夢のゲームは。いくら払ったらプレイできるんだ。勝手にプレイしてるけど。
「……あ、綾小路くん」
普段なら、いいぞもっとやれって言うところだが、一之瀬から距離を置かれてしまうだろ。
佐倉は天然。
堀北はわざと。
櫛田はただの嫌がらせだ。
池や山内からエロい目で見られるストレスをオレを使って発散しているに違いない。
「ほら、一之瀬さんは正面に」
「え?」
「一之瀬さんは綾小路くんの彼女さんなんだよね? 正面は一之瀬さんだよ」
「ええっと」
背後から何て提案しやがる。
だが、この場を誤魔化すには乗っかるしかねえな。
「一之瀬、来い」
「お邪魔します?」
一之瀬は恐る恐ると言った感じで、オレに抱きついてきた。
生地が厚めの水着でも分かるおっぱいのボリュームだ。
両手が塞がっているオレの代わりに、腕に抱きつく堀北と佐倉の隙間を縫うようにして、櫛田が一之瀬の背中に手を回した。
うん、これで順調に恋人としてステップアップだ。
今までの一之瀬とのあれこれを振り返ってみよう。
デートをする。話題は龍園と葛城が出来ていることについて。
膝枕を堪能する。
部屋に遊びに行く。なぜか葛城が一緒にいた。
抱き合う。佐倉、堀北、櫛田に抱きつかれた状態で。
色々間違っている気しかしねえ。膝枕だけ大成功って感じだ。
「綾小路、おまえなんて羨ましい」
「ひでえよ、見せつけかよ。なんだよこの格差」
「清隆……お前……」
外野がやかましい。
正論がオレを襲う。
しかし、この状況ってどうすれば終わるんだ。教えてくれ。
一之瀬なんか顔真っ赤だぞ。そろそろ限界に近い。
「はい、終わり。離れよっか」
終了と言わんばかりに櫛田が宣言して、パッと離れた。
「堀北さんも佐倉さんも、終わろ。全員着替え終わったみたいだし」
いつの間にか、長谷部やBクラスの女子も揃っていた。
流れで指示を出して、堀北や佐倉も離れさせる。
照れまくっていた一之瀬のおっぱいの感触も消えた。
櫛田さん、すげー。自然とこの場を収めやがった。マジで尊敬する。
「桔梗ちゃん、俺も! 俺もそのゲームやりたい!!」
せっかく綺麗に終わったというのに、なんてことを言うんだ。
池よ、お前勇者過ぎるだろ。
「えーどうしよっかな。佐倉さんはする?」
「…………」
佐倉は首を振って拒否した。
「堀北さんは?」
「却下」
堀北はハッキリと却下した。
「私1人だとゲームにならないから、ごめんね」
「そんなー……」
池がその場で崩れ落ちる。
ふう、何はともあれこれで一件落着──って、正面から抱きつかれた。
「ち、千尋ちゃん」
一之瀬が、慌てた声を出す。
そう、抱きついてきたのはBクラスの白波千尋だ。
なかなかのおっぱいだ。
白波といい網倉といい、Bクラスは中々の
さすがに今この場にいるメンバーだと、長谷部、佐倉が揃ってる堀北クラスが上だが、平均だと一之瀬クラスのほうが育っているんじゃないだろうか。
BクラスのBはバストのB。
現実逃避はここまでだな。
「ゲ、ゲームに私も参加してみようと思って」
対外的にはそんなことを言いつつ、耳元で、
「私、帆波ちゃんとのこと認めませんから。感触を上書きします」
とか言ってくるのが怖えよこの子。まだ一之瀬のことは諦めていないらしい。
背後に櫛田が居て遠慮していた一之瀬とは違って、完全に俺の背中に両腕を回す密着度の高さがすごい。
「それに、間接帆波ちゃんです」
「ぐ……」
なんだよ、間接帆波ちゃんって。ツッコミたいだけど、一之瀬のことを好きなのは伏せたいだろうからツッコめないのが困る。
「おまえ……一之瀬と付き合ってるんだよな?」
あまりの状況にせっかく友達になった渡辺が軽くにらんできている。網倉も良い顔はしていない。
「もういいから離れろ」
「離れません」
「無理するな」
「してませんからっ」
オレの好感度が下がっているのを感じてか、頑なに離れようとはしない。
くっそ、使いたくはなかったがこうなったら使うしかないか。
逆転の発想だ、抱きつかれるのを止められないなら、抱きつかれることが自然な形にもっていけばいい。
櫛田のゲームという切り抜け方に乗っかってみよう。
まず、長谷部の方に視線を送ったが、ため息が返ってきた。事情は察したがノーってことのようだ。
本当に使いたくないんだけどな。
「健、来い」
「は? 何言ってんだよ清隆」
「間接堀北だ」
「清隆っ」
間接堀北というワードで理解した須藤が物凄い勢いで右腕に抱きついてきた。
痛えよ。
気持ち悪いが、背に腹は代えられない。
「間接桔梗ちゃんっ」
呼んでも無いのに、池まで飛びつくように背中に抱きついてきた。
池とオレに腕を挟まる形になって、白波のオレを掴む力が弱まる。
不本意だ。不本意すぎるが仕方ない、諦めよう。
「間接佐く──「──てめえはダメだ」」
流れで山内までオレの左手に抱きついてきそうになったので、顔面を手で押し返すことによって防いだ。
うん、男に抱きつかれるのなんか2人で十分だろう。山内まで許す理由はない。
山内を拒否することによって、ゲームにオチがついたので選択肢として大正解だ。
「ここまでにします」
場が緩んだのを感じ取って、白波は離れていった。
「よし、これで終わりだ」
「堀北、堀北」
「桔梗ちゃん、桔梗ちゃん」
「お前らも離れろよ」
完全に右腕を須藤のバカ力で押さえつけられているので、片腕では振りほどきにくい。
御神体か何かの勢いで密着させてくるのが、気持ち悪い事この上ない。
「綾小路くんってやっぱり……」
「いや、一之瀬。気にするのはそこじゃないだろ」
男2人に抱きつかれたままのオレを見て、一之瀬が何かを察していた。
察するな。つーか、気にするなら白波に抱きつかれたことを気にして欲しい。
こうしてプールに入る前から、疲れ果ててしまうのだった。