体育祭編その1 体育祭の目標
新学期がスタートしてから3日が経過した。
多忙すぎた夏休みを終えて、2学期に入れば少しはイベントも落ち着くかと期待していたが、そんなことはなかった。
この3日の間で何があったのかを簡単に説明しよう。
1、園田と石倉が大人になった。
ひと夏の経験が2人にどう影響を与えたのか、9月1日に教室に姿を現した2人は雰囲気が変わっていた。
垢抜けないモブキャラが、どこか大人っぽい女性へと進化だ。
「2つの特別試験が大人に成長させたのでは?」
というオレの意見は、あっさりと却下されて櫛田に頬をつねられて終わった。
2、松下クラ……堀北クラスがCクラスに上がった。
残りの夏休みで、特別試験で稼いだポイントが失われることはなかった。
教室を示すCクラスの表記に、茶柱が入ってくるまでの間、やかましく盛り上がってしまったが仕方のない事だろう。
3、池と山内に彼女が出来たらしい。
須藤が騒いで大変だった。詳細は知らない、聞きたくもない。
「園田と石倉が大人になった原因では?」
というオレの意見は、あっさりと却下されて櫛田に両頬をつねられて終わった。
おかしい。池に彼女が出来れば櫛田のストレスは減るはずなのに、あり得ない出来事がストレスになっているようだ。
4、佐藤と一之瀬からポイントを貰って、櫛田に半分譲り渡した。
船上試験で個人が手にしたポイントは、9月1日に無事振り込まれたらしい。
約束通り、佐藤からは48万ポイント。一之瀬からは50万ポイントを貰った。
各クラスが手に入れたプライベートポイントはBクラスが300万ポイント、Dクラスが200万ポイントで差額の100万ポイントの半分を一之瀬から貰った形だ。
469クラスポイントによる4万6900プライベートポイントと合わせて、102万6900ポイントという高校生が手にするには多額すぎるポイントだ。大事に使わなければ。
なお、特別試験で手に入れたポイントの半分を櫛田に渡すという約束を忘れた振りをしていたら、櫛田から膝蹴りをかまされた。素直に渡せばよかったと思う。
さらば49万ポイント。大事に使う計画は1日すら持たなかったな。
いや、櫛田のために使うのも大事に使う範囲だと前向きに考えるか。
5、体育祭についての説明があった。
「体育祭が園田と石倉を大人に──」
「──何か言った?」
「なんでもありません」
櫛田のおっぱいをつまんだ。
睨まれた。
「…………」
「…………」
冗談はさておき、体育祭が本題だ。これは簡略ではなく詳細を語る必要があるだろう。
無人島、船上試験と突破してきたオレたちが次に挑むのは、予想していた通り体育祭だった。
◇◇◇
9月2日、午後の授業は2時間ホームルームとなっていた。
教室に入っていた茶柱が体育祭が実施されることを簡単に説明し、詳細が記載されたプリントを全員に配る。
学校のサイトにもプリントと同じことが書かれているらしいが、教育現場に置いてエコという言葉は無いらしい。
体育祭専用に組まれた時間割も配られていたので、見た見ていないを防ぐためには、物理的な証拠が必要なのかもしれない。
10月2日(水)が体育祭本番だ。
後から櫛田から聞いた話では、平日開催は珍しいらしい。
通常は保護者が見に来る都合上、一般的な休みである土日に実施されることが多いようだ。
この学校の場合は、体育祭と言えども外部の人間はシャットアウトされるために平日でも問題とはならないのだろう。保護者が外部の人間と割り切るのはどうなんだって思わなくもない。
体育祭のルールは、各競技の順位に応じて点数を与えていくというシンプルなものだ。
勝敗は2つ決められる。
1つ目は、全学年を赤組と白組の2つに分けて、各組の総合点で勝敗が決まる。
赤組は、AクラスとDクラスで構成される。
白組は、BクラスとCクラスで構成される。
2つ目は、各学年ごとに、各クラスが稼いだ点数で順位付けを行う。
こちらは単純にクラス間で争うことになる。
片や他のクラスと手を組みながらも、片やその手を組んだクラスとも競うというのはどうなんだ、と言いたくなるな。
敵なのか味方なのか、はっきりして欲しい。
そして与えられる結果だ。
1つ目は、赤組対白組で負けたら-100クラスポイント。
2つ目は、各学年ごとに、
1位クラス + 50クラスポイント
2位クラス 変動無し
3位クラス - 50クラスポイント
4位クラス -100クラスポイント
赤対白は勝った方は何もなしで、負けた方がマイナス。
クラス争いもトータルではマイナスの方が多い。
なんというか、ひどいイベントだ。
全体で計算すれば、負け組で-100×2クラス。1位から4位までの合計で-100と1学年全体のクラスポイントが-300になることが確定している。
結果をプラスで終わらせるには、1位クラスを取って勝ち組に入るしかない。
もはや、どれだけマイナスを抑えられるかってイベントである。
情報量が多くなるが、競技はこんな感じだ。
全員参加競技9種
個人戦5種
・100メートル走
・ハードル競走
・障害物競走
・二人三脚
・200メートル走
団体戦4種
・棒倒し(男子限定)
・玉入れ(女子限定)
・男女別綱引き
・騎馬戦
個人戦は文字通り個人で順位付けを行う。
団体戦は、赤組対白組の勝負だ。
ここまでが全員参加で、全生徒が8競技に強制参加だ。
続いて推薦競技4種
個人競技
・借り物競争
・男女混合二人三脚
クラス戦
・四方綱引き
全学年によるクラス戦
・3学年合同1200メートルリレー
推薦競技は、クラスから推薦された生徒だけが参加する競技だ。
基本的に学年別で行われるが、最終種目の1200メートルリレーだけが全学年全クラスでの争いとなる。
上位に入賞する方が点数が高く、団体戦は勝った方に点数が入るというルールだ。
他、各競技の結果に応じて個人に対しても報酬やペナルティーがあるが、船上試験の50万ポイントとかに比べたら些細な範囲なので、そこまで気にする必要はないだろう。
結果次第でオマケを貰えたら嬉しいし、ペナを食らったら悲しい程度のものだ。
問題となるのは、推薦競技に誰が出るのかだが、この日はルールを把握するだけで1時間目のホームルームが終わった。
◇◇◇
「体育祭についてどう思う?」
「うーん、やっぱり大変そうってのが最初の感想だよ」
池が言うには、普通の体育祭なら出ても3、4種目らしいので、かなりハードだと言える。
櫛田の感想も頷ける話だ。
とはいえ、長距離走など体力を大幅に削るような種目も無いので、体力に自信がない生徒でも成立するのかもしれない。
「あとは、白組ってのがどうかなって」
「Bクラスとならやりやすいんじゃないか」
「うん。そこは心配してないんだけど、3年生も2年生もAクラスが圧倒的だから、たぶんかなり不利だよ」
「Dクラスを抱えてるから差がつかないんじゃないか?」
「うーん、それでもBとCをあっさり上回ってくるんじゃないかな」
櫛田は上級生にも知り合いが多い。ある程度上級生についても情報を持っており、その見立ては信用できる。
白組が負けて、マイナス100クラスポイントは覚悟しないといけないか。
となると、学年別のクラスでは2位以上に入りたい。
赤組のAクラス、Dクラスとの結果によるポイント差を防ぐためにも、それ以上のマイナスはまずい。
「綾小路くんは、白組でよかったんじゃないかな?」
「まあ、否定はしない」
「顔見せの後、一之瀬さんと何か話してたよね」
「見てたのか」
特に隠していたわけではないため、見られていたとしても不思議ではないか。
別に、見られたからなんだって話だが。
「うん、見てたよ。堀北さんと佐倉さんと佐藤さんと松下さんと長谷部さんが」
「オールスターかよ」
微妙に怖えよ。
せめて1人か2人にしてくれ。
なんか視線を感じるな、とは思っていたけど、スルーして正解だったかどうか悩ましいな。
まあ、いい。ホームルームの2時間目の話をしよう。
◇◇◇
ホームルームの2時間目は、体育館に生徒が集合していた。
全学年による顔合わせだ。
赤組と白組で体育館で左右に分かれて、クラス単位でまとまって座っている。
やがて白組が集まる中で、生徒が前へと出てきて話を始めた。
3年Bクラスの男子生徒が、白組のリーダーを務めるらしい。
もう一方の赤組はどうなっているのか、そちらに視線を向けてみた。
赤組は、3年Aクラスの鬼畜眼鏡先輩が仕切るものだと思っていたが、壇上で声を発している生徒は見知らぬ3年生だ。どうやら鬼畜眼鏡先輩は一般生徒に混ざっているようだ。
「…………」
赤組を気にしたのはオレだけではなかったらしい。
堀北も、赤組の方を見て、首をかしげていた。
鬼畜眼鏡先輩がリーダーではないことに戸惑っているのかもしれない。
あとでタイミングを見て、鬼畜眼鏡先輩から直接話を聞いてみるか。
赤組は敵とはいえ、多少話すくらいは問題ないだろう。
などと考えていると、多少のアドバイスだけで白組リーダーの話は終わった。
赤組と白組と分けられたとはいえ、他学年が関わるのは結果と1200メートルリレーだけだ。
細かく下の学年にまで、口出しする気はないらしい。
残った時間は、学年ごとにご自由にとなった。
全員で意見を出しあっても収拾がつかなくなるだけなので、Bクラスと
「また一緒に戦うことになったね。よろしくー」
「よろしくお願いするわ。一之瀬さん」
船上試験でも共闘していたため、話はスムーズだ。
やりやすさという意味では、これ以上ないだろう。
仮にAクラスだったら葛城は問題ないが、坂柳グループが未知数だ。
龍園クラスは、味方だろうがどこかで出し抜いてくるはずで油断が出来ず、とてもではないが共闘には不向きだろう。
信用があり実績もある一之瀬クラスと組めたのは、僥倖だと言える。
「それで協力だけどどうしよっか?」
「とりあえず、合同で挑む団体競技は、出来る限り最大限の協力するってことで確定していいんじゃないか」
「あー、それはそうだね。協力することにデメリットがないし、そこは私たちのクラスとしても望むところだよ」
騎馬戦や棒倒しなどの白組で協力して行う団体競技は、赤組に勝つかどうかなので協力を惜しむことはない。
これが龍園が相手だったらゴネそうだが、Bクラスとはあっさりと一致団結して挑むことが決まった。
ここまでは想定内だ。
問題となるのは、個人競技だ。
個人競技で何を協力するんだって話だが、個人競技のルールが大きく影響している。
「個人競技は、どう協力するのか悩ましいよね」
「そうね。クラス同士の争いでもあるし、協力しないというのも手だと思うわ」
堀北よ。確かにある手だが、堀北が提案すると集団行動が苦手っぽく聞こえるからやめろ。
「でも、それでBとCが潰し合ったら、得するのはAとDになるわけでしょ」
「潰し合うと決まったわけじゃないわ」
「可能性があるなら私は止めた方が良いと思う」
松下と堀北で意見が割れている。
個人戦でどのようなルールがあるのかと言えば、出場者の出場順は生徒側が自由に決めていいというものだ。
各競技で全員が一斉に走ったり、個人のタイムを競うのではなく、参加する組内での順位だけで勝負が決まる。
足が遅い生徒でも自分より遅い生徒と同じ組になれば、勝つ見込みがあるルールだ。
そのため、どういう組み合わせで実施されるか、出場順が勝敗を決める大きなカギとなる。
例えばAクラスとBクラスで、各クラスに足の速い生徒、普通の生徒、遅い生徒の3人がいて、それぞれの生徒の能力にクラスによる差がないとし、その3人で競ったらどうなるのか。
速い生徒同士、普通の生徒同士、遅い生徒同士で走れば、勝負は時の運となるが、組み合わせがずれたらこうだ。
第一レース A速い B普通 Aの勝ち
第二レース A普通 B遅い Aの勝ち
第三レース A遅い B速い Bの勝ち
Aクラスの2勝1敗。
とまあ、こんな感じで手札が同程度の力でも組み合わせ次第で差がつくことになる。
もちろん、実際の各生徒の能力はここまで単純なものではないが、采配が大事というのは変わらないだろう。
理想的な勝ち方は、その生徒よりもちょっと劣る生徒と同じレースを走って勝つ。
理想的な負け方は、その生徒よりもかなり足の速い生徒と同じレースを走って負ける。
各クラスが決めた出場順は公表されないため、そう簡単に理想的な展開には持ち込めないだろうが、悩ましい問題ではある。
「あっちは交渉が決裂したみたいだな」
「あちゃー……葛城くんは苦労しそうだね」
白組で話し合っているうちに、赤組では龍園が自分のクラスの生徒を撤退させ始めた。
葛城は呼び止めようとするが、おかまいなしのようだ。
向こうも自由に使っていい時間なんだろうが、やりたい放題だな。
葛城はあきらめて、クラスの生徒を集めようとするがそこでも問題が起きていた。
葛城の指示にすぐに従う生徒の方が多かったが、なかなか集まろうとしない人たちがAクラス内部にもいる。
動きが鈍い生徒の中に、
見たところは葛城派の方が数が多いみたいだが、あれではやりにくいだろう。
「派閥が2つか」
「今回はリーダーの坂柳さんがいるからね。不在だった特別試験とは、わけが違うのかも」
「まあ、白組にとってはどちらも好材料なんじゃないか」
「そうだったらいいんだけど……」
単純な好材料とも言いにくいか。
葛城派で1枚岩になってくれれば、慎重派の葛城の思考だけを考えれば良かった。
が、そうならないのであれば、坂柳派がどう動くのかまで考えなければならなくなる。
坂柳派についてはまだまだ情報不足で、予想がつかないのが怖いと言えば怖いか。
この後もBクラスとの話し合いは続いたが、Cクラスは推薦競技について、まだクラスの考えが固まっていなかったため、先にクラスで結論を出してからもう1度話し合うことが決まった。
「あと5分ある、か」
話し合いが終わり、親睦を深めるための雑談タイムに入った。
女子を中心に話が盛り上がっているので、リーダーグループからは距離を取る。
渡辺くんとでも話そうかと思ったが、タイミングよく赤組では3年の話し合いが終わったらしい。
鬼畜眼鏡先輩がフリーになっているのを見つけて、声をかけに行く。
「あんたの仕切りじゃないんだな。生徒会長の最後の舞台だと思っていたが」
「後は引退を待つだけだな。多少の仕事は受け持つが、基本的に体育祭は個人として楽しむつもりだ」
軽く嫌味っぽくなってしまったが、気にした様子はない。
特に仕切り役をしないことについて未練とかはないようだ。
「意外だな」
素直な感想だ。
らしくない、と言えるほど鬼畜眼鏡先輩のことを知っているわけではないが、オレのイメージする行動からはずれている。オレよりも良く知るであろう堀北も首をかしげていたので、それほど間違ってはいないはずだ。
「去年色々あったんですよ」
疑問に思っていると、橘書記が割り込んできた。
「色々?」
橘書記に聞き返すも首を振られてしまった。
公言するようなことではないのか。
「言えないようなことなのか?」
「別に、大したことではない。体育祭は、生徒の運動能力を活かすものだというのは分かっている。が、運動が得意ではないものへの配慮が必要だと思ってな。生徒会を中心に働きかけようとしてみただけだ」
鬼畜眼鏡先輩は、隠すつもりはないらしい。
なるほど。確かに今回実施される競技は、捻りが少ない。個人の運動能力が、そのまま結果に結びつくようなものがほとんどだ。
借り物競争など運が絡むものもあるが、佐倉みたいに運動が苦手な生徒には、厳しいイベントとなるだろう。
「競技にローション相撲を加えることを提案したんだが、却下されてしまった」
「そこそこ
なにが大したことではないだ。生徒会長がローション相撲を入れようとか提案して来たら、そりゃ大荒れするだろ。
そんなものを提案された他の生徒会役員に同情するぐらいだ。
橘書記が口を慎んだのも納得できる。
そして、提案としてはあり得ないが、運動神経が悪い生徒でも運動神経が良い生徒に勝てるかもしれない競技としては、成立しているというのも微妙に腹立たしい。
が、見たいというのは認める。
綾小路グループのメンバーだけでも参考競技として実現してみたいが、手元にあるローションを使い切る覚悟でも厳しいだろうな。
おまけで、会場の問題があるから無理か。
「残念ながら賛成2、反対4で却下されてしまったんですよね」
「あんたもぶれねえな」
提案者の堀北会長とローション好きな橘で2票だな。これほど分かりやすい票の内訳も珍しい。
「私がローションにハマったあとなら同票までもっていけたんですけど、あいにくとその後でして」
「あんたじゃなかった!? ってことは、生徒会にもう1人ローション相撲賛同者が!?」
あいにくじゃねえ、折よくだよ。残念がってんじゃねえよ。
「昨年度の3年生だ。もうすでに卒業している」
「それならよかった……いや、それでもよくねえよ」
聞きたくなかった事情を知ってしまった。それでいいのか生徒会。
橘書記がハマったのが後で本当に良かったな。
万が一同票になっていたら、ローション相撲を実施するしないで揉めるという、頭の悪すぎる事態に陥っていた可能性があるとか嫌すぎる。
「その時に会長は、体育祭には関わらないという不文律のようなものが出来まして」
「生徒会長に対してその仕打ちはどうかと思うが、ナイス判断だな」
当時の生徒会には、生徒会長の暴走を止めるだけの良心があったようだ。
そして当時の生徒会で決まったことを今年も守っているのは、鬼畜眼鏡先輩なりに反省するところがあったのだろう。
「体育祭は個人として楽しむことにしている」
「個人としてしか参加が認められなくなったって聞いた後だと悲しすぎる」
想像よりも酷かったが、鬼畜眼鏡先輩の事情は分かった。
これ以上話していても疲れそうだし、周囲からの視線がきつくなってきた。
わざわざ白組のCクラスの1年が3年のAクラスの先輩に話しかけていたら目立つのも当然か。
時間も時間だし撤退しよう。
「……体育祭。なんて恐ろしいイベントだ」
知りたくもなかった体育祭の奥深さを実感しつつ、説明と顔合わせのための2時間のホームルームが終わった。
「綾小路くん、ちょっといいかな」
「戻りながらでいいか?」
「もちろんいいよ。ごめん、ちょっと外すね」
体育館の入り口で一之瀬から声が掛かる。
話があるようなので、教室まで一緒に歩くことにした。
友達に一言告げて、一之瀬が隣に並ぶ。
「体育祭はよろしくね」
「まさか同組になるとはな」
「まさか?」
「気づいているか、一之瀬。BクラスとCクラスが組むってことが何を意味するのかを」
赤組と白組の組み合わせが発表された時に、まず第一に思ったことだ。
「私と綾小路くんが同じ組って話じゃないよね」
「違う。龍園と葛城だ。あの2人が組んでいる。やはりあの2人は只ならぬ関係」
「それはないんじゃないかな」
封印した懐かしい言葉を使うのなら、偶然ではなく運命。
「龍園と葛城が組んで棒倒し」
「……棒倒し」
「龍園と葛城が組んで玉入れ」
「玉入れってそれは女子の競技でしょ」
「バレたか」
もっともらしく言ってみたが、一之瀬も成長したようだ。
真面目な話をする前の和ませはこんなもんでいいか。
「で、話って何だ」
「えっとね……体育祭が良い機会だと思うんだ」
「機会ってなんのだ?」
「3ヶ月の区切り」
オレと一之瀬の間で3ヶ月というワードから連想されるのは、1つだけだ。
恋人カッコカリをどうするのかだろう。
付き合い出したのが、7月の上旬からだから10月2日は少し早いが、区切りとしてはいいかもしれない。
「それは……結論が出たのか?」
「ううん、まだ。だから体育祭が終わるまでに出すつもりだよ」
「そっか。分かった。じゃあ、体育祭後に、話す時間を作るってことで」
「うん。それでお願い」
一之瀬との仮の恋人関係は、体育祭まで。
その後の2人の関係がどうなるのか。
オレも真面目に考えないとダメだな。残り1ヶ月の間で向き合ってみるか。
こうなってくるとBクラスと堀北クラスが同じ組になったのは、神に感謝するしかない。
仲間である以上は、交流する機会も増えるだろう。
一之瀬と仮ではない本物の恋人同士になるために、この1ヶ月がカギとなる。
本物の恋人になることを目標に、決意を改める。
こうして、2学期最初の大型イベントである体育祭がスタートするのであった。