綾小路Tレックス   作:チームメイト

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体育祭編その6 体育祭開幕

「ハードスケジュールね」

「難易度はそうでもないって話だが」

「だからと言って油断するわけにはいかないわ」

 

 9月の半分が経過し、体育祭へと向けて残り日数が少なくなってきた。

 やれるだけのことを全てやって100パーセント体育祭に取り組めれば言うことないが、当然のことながら学校行事は体育祭だけではない。

 

 体育祭が10月2日の水曜日。

 そして、10月9日の水曜日からは中間テストが実施される。

 

 中1週間だ。ほとんど体育祭が終わったと思ったらテストって感じになるだろう。

 

 一応、学校側も無茶を要求しているわけではない。

 9月の授業は体育祭を中心に回っているため、そこまで授業が進んでいない。発表されたテスト範囲は1学期に学んだ内容が大幅に含まれており、1学期期末テストにプラスアルファといった感じだ。

 

 夏休み中に1学期の復習をしておけば、退学になるような難易度ではないというのが茶柱談だ。

 

「夏休みの過ごし方が試されるわね」

「そこが不安だから困る」

 

 綾小路グループを中心に夏休み中から勉強をしていたが、クラス全体を巻き込んだわけではない。

 軽井沢グループや、池や山内がどれだけ取り組んでいたのかが怖い。

 

「それに信憑性が疑われるわ」

「そこは信じていいんじゃないか」

 

 1学期の態度が担任教師の信用を大幅に低下させていた。

 どれくらいかといえば、2学期中間テストの話を聞いた堀北は、まず一之瀬に試験範囲が合っているか確認しにいったほどだ。

 

 オレは既に茶柱が上のクラスを目指していることを知っているので、様子見を終えた茶柱は味方だと思うが、慎重になることは悪いことではないので止めなかった。

 

「……堀北さんのクラスって大変なんだね」

 

 戸惑い含みの同情をされつつ、もし試験範囲が変更になったら教えてもらえるように約束を取りつけることができた。

 1学期中間のような失敗はこれで無くなっただろう。

 

 

 話が逸れた。

 

 大事なことは、体育祭が終わったらすぐに中間テストが待っているということと、堀北クラスの学力はお察しだということ。

 体育祭後に1週間猶予があるとはいえ、それまで何もしないというのは危ない。

 なにより体育祭に集中し過ぎると、反動で終わった後に勉強を進められるのかが怪しい。

 

 結局、体育祭2週間前の今週は1回。1週間前の来週は2回放課後に勉強会を開くことが決まった。

 最近伸びつつあるとはいえ、体育祭のリーダーの須藤も不安を抱える側なため、練習が減ることに何とか合意を取ることが出来た。

 

 というわけで、結構スケジュール的には大忙しだ。

 

 勉強会は単にその時間だけ使えば済むというものではない。

 事前準備で、問題を作ったり、どうやれば効率的に教えることが出来るのか考えたり、各自の現時点での学力を把握したりと、用意しなければならないものが多い。

 

 それを勉強が出来る組で共有して、出来ない組を引き上げなければならない。

 櫛田と平田を中心にチャットグループが出来て、体育祭の練習が終わった後で勉強会の実施に向けて話し合いが続いていく。

 

 練習、練習、勉強の準備、勉強会、練習、練習、Bクラスとの打ち合わせ、練習、勉強の準備、練習といった感じで、体育祭と中間テストが終わるまでは忙しい日々が続くようだ。

 

「異議ありよ」

「どうした?」

「Tレックスを忘れているわ」

「確かに合間にやってるが、頻度は下がったからいいだろ」

 

 練習、練習、Tレックス、勉強の準備、勉強会、Tレックスとか実際はこんな感じだが、夏休み後半のはっちゃけっぷりからすれば大人しい方だ。

 週に3,4回など誤差の範囲で、実質ゼロTレックスと言ってもいいくらいだな。

 

 この前の新規Tレックス者の小野寺はカウントしてもいいが、その程度しか思い当たらない。

 

「綾小路くん。あなたからTレックスを除いたら何が残るの」

「そこは色々残るだろ。ほら、あれとかあれとか」

「しっかりして頂戴。それだと私のご主人様と言えなくなるわ」

「それは言えなくて問題ないんだよな」

 

 体育祭と中間テストが終わるまでは抑え目でいくしかなさそうだ。

 やる気がないわけではないが、まずは結果を出す方が大事だろう。

 Tレックスが充実することも大事だ。が、Tレックスに明け暮れて学園生活を蔑ろにしてしまっては意味が無い。

 

 初心に帰れば、楽しい高校生活というのは、友情、恋愛、セックスが三巨頭でそのバランスが重要なはずだ。

 学校行事で予定が埋まって忙しいことも、これはこれで立派に学園生活を楽しんでいると言えるだろう。

 

 セックスは順調。友情は須藤と結べたが、平田とは距離を置きつつある。恋愛は体育祭後にどうなるか次第だ。

 うーん、何事も上手くいくわけではないか。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「みんなの手元に渡ったかな。今、配ったのが体育祭の出場表だから、絶対に無くさないようにしてほしい」

 

 ホームルームを使って平田が1人1人にプリントを配っていく。

 

 受け取ったプリントは全員が微妙に違うものだ。

 1番上に各自の名前が手書きされており、オレの場合は綾小路と可愛らしい丸字で書かれていた。

 名前の下に種目ごとの堀北クラスの出場順とオマケでBクラスと調整したところは、Bクラスの生徒の名前まで記載されている。

 丁寧に、1枚1枚出場順の各自の名前にマーカーが引かれており、自分の順番がどこかすぐにわかるようになっていた。

 

 これが作成されるまでは紆余曲折があったりしたが、本筋からは離れるので細かくはいいだろう。

 軽く触れるとするならば、堀北がブラコンぶりを発揮して男女混合リレーでアンカーをやりたいって言い出したとか、池や山内が自分の実力を無視して推薦競技の男女二人三脚をやりたいって言い出したとかだ。

 特に後者にいたっては、クラスの女子と仲良くしたい+あわよくば彼女と同じ組で競技に出たいという欲望満載なものだったので、須藤の拳骨と共に却下された。暴力はダメだが許された。

 他の女子と密着して、彼女と同じ組で走ってどうする気だったのかは、気になるところだ。

 

「もし、出場順を変更したい場合は、変更する相手と相談して決めてくれればいいから、後で報告して欲しい。全体の管理は僕がするよ」

 

 配られた出場表は、基本的に決定稿だ。それでも、個人での調整は認められている。

 体育祭の堀北クラスのリーダーは須藤だが、平田が仕切っているのは、こういうことには須藤が不向きだからだ。

 細やかなケアは、平田に任せておけば間違いない。

 

「変更した場合は、改めて出場表を配りなおしたりはしないから、必ず自分で覚えておくこと。それだけはお願いするね」

 

 まあ、みんなで色々相談して決めた方針に従って作成された出場表だ。

 変更なんてそう多く起こることはないだろう。基本的にはこの出場表のまま終わるはずだ。

 一応、どうしても変更したいって意見を否定しませんよってポーズを用意しただけで、変更が行われるとは思っていない。

 

 当然ながら、調整対象の上位出場者の変更は、上位出場者同士以外での変更は受けつけないように指導済みだ。

 須藤を出場させるとBクラスに説明しておきながら池山内が出てきたら詐欺もいいところだからな。

 今更、そこが動いたりはしないだろう。

 

「ここまでする必要あったのかしら」

「見た見ていないで、当日あわただしくするよりはマシだと思いたい」

 

 プリントの作成は、綾小路グループを中心に協力した。

 パソコンを駆使して作った出場表をクラスの人数分印刷して、1番上に名前を記載し、マーカーでチェックしていくという、作業の難易度はそうでもないが、地味に手間は掛かっている。

 

 貼りだして各自で確認させる方法もあったが、確認ミスをやらかされた困る。

 怖いのは出場表が他クラスに流出することだが、流出させようという意思があれば完全に防ぐことは無理なので、そこは信じるしかない。

 松下の提案した案として、全員の出場順は伏せた各自の出場順だけ記載して渡すという案もあったが、その場合出場順を変更したいときに誰に相談していいのかが難しくなるというので、却下された。

 

「これで賽は投げられた。あとは当日勝負するだけだ」

「……そうね。優勝を譲るつもりはないわ」

 

 練習も順調に進んでいる。

 Bクラスとの連携も順調だ。

 

 龍園と葛城がどんな作戦を立ててくるのか分からないので、油断することは出来ないが、地力では負けないレベルに達したと言えるだろう。

 やれることはやった。あとは本番を迎えるだけだ。

 

 

 ホームルーム終了後、小野寺が近づいてきた。

 

「綾小路くん、今日あとで時間くれない?」

「どうした?」

「その、最後にもう1度合わせる練習しておきたくってさ」

「断る理由が無いな」

 

 最善を尽くしたいというのであれば、それに協力するのは当たり前だ。

 綾小路グループは上を目指すんだから、グループの方針とも一致する。

 

 これで文字通りの二人三脚の練習をするとかいうオチが待っていたりはしないだろう。

 

 

 放課後、夕食まで先に済ませて小野寺を待った。

 

 定期テストとは違い体育祭は、準備がある前日以外は部活が休みになることはない。

 部活を終えた小野寺が来るまであと少しと言ったところか。

 

「で、なんでお前らがいるんだ」

「二人三脚の練習なら当然でしょ」

 

 堀北が当たり前の顔をしてベッドに腰を下ろしている。

 譲る気はないらしい。まあ、堀北は分からないでもない。合わせる練習をするのなら、堀北もいた方が効果が大きくなるからな。

 

「長谷部は?」

「私? いいじゃん、細かいことはさ」

 

 まあ、堀北が参加して複数でするのなら、長谷部が居た方が自然と言えば自然……なのか。

 小野寺と堀北だけだとギスギスしそうだから、クッション役として長谷部がいてくれるのは助かるというのもある。

 

 オーケー、長谷部の参加も良しとしよう。

 

 あとは残った1人だ。呼んでもいないのに顔を出す女こと佐藤ではないぞ。

 どちらかといえば、こういうことには積極的に参加しない松下が長谷部と並んで座っている。

 

「何か申し開きはあるか?」

「申し開きって固いなぁ。私以外のメンバー見たら分かるでしょ」

「メンバー……佐倉が居ない」

「違うよ。あとナチュラルに佐藤さんをはぶらないであげて」

 

 大丈夫、しっかり覚えていたからセーフ。

 このメンバーの共通点ってあるようでないような。

 

「小野寺さんも加えて考えたら分かるでしょ」

「……騎馬戦か」

「正解。息を合わせるのは二人三脚だけじゃないって言うか、私だけ外されてたせいで、ちょっと合わせられてないから、やっておきたくて」

 

 騎馬戦は、3人で作った馬で騎手を支える4人1組で行う競技だ。

 

 堀北の組は、騎手の堀北を小野寺、長谷部、松下で支えるという長谷部以外は、堀北クラスの運動能力の高い女子生徒を集めたエース部隊を組んでいる。

 長谷部だけメンバー的に浮いてる感じだが、長谷部もこのメンバーなら見劣りするってだけで決して運動能力が悪い生徒ではない。クラスの平均はある。

 もちろん長谷部よりも上の生徒もいるが、他の組で騎手だったり馬の中でも負担の大きい中央を担当したりしているので、クラスのトータルバランスを見て長谷部が入った形だ。

 なお、堀北の組では、小野寺が馬の中央を担当している。

 

 エース部隊には、活躍してもらわなければ困る。

 

 ということは、この4人の息を合わせることは重要であり、4人とTレックスするのは体育祭の勝利のために必要なことだと言えるだろう。

 

 だったら仕方ないな。クラスのためにパンツを脱ぐしかねえか。

 

 ちなみに、男子の方は、オレ、須藤、三宅、平田で騎馬を組んでいる。

 呼吸を合わせるとか考えたくないな。

 平田がみんなの仲を深めるためにお泊り会でもしよう、と提案してきたが却下させてもらった。

 

 オレは知らなかったが、夜の時間帯の出入りが禁止されているのは、男女間だけなので同性でのお泊り会は特にお咎めがないらしい。

 須藤はよく池や山内の部屋で夜遅くまでゲームをして、そのまま眠くなったら泊まったりとかしているようだ。

 すぐ近くに自分の部屋があっても泊まることに意味があるんだろうか。

 船上試験での共同部屋を経験できただけで十分だな。

 

 などと考えているうちに部活を終えた小野寺が合流したので、簡単に事情を説明して意志を確認する。

 

「小野寺はそれでいいのか?」

「う、うん、元から体育祭のためだし」

 

 松下まで加わっていることに一瞬だけ戸惑われたが、小野寺も同意したので何も問題ないか。この5人でやるとしよう。

 

「話が終わったのなら、早く下になってもらるかしら?」

「下?」

「あなた騎馬戦を何だと思っているの」

「それはこっちのセリフじゃないのか」

 

 ご主人様の上になりたいとか下剋上かよ。

 

 まあいい。女性陣が上になりたいっていうのなら、任せておくか。

 衣服を脱ぎ捨てたオレは、ベッドへと仰向けになった。

 

「鈴音、長谷部、松下、小野寺」

「ご主人様」「綾小路くん×2」「あやのん」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 なんだかんだあって、堀北は騎乗がとても上手くなった。

 堀北組は、騎馬戦が強くなった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 10月2日(水) 体育祭本番

 

 ついにというかようやくというか、泣いても笑っても結果が出る日がやってきた。

 

 競技までの流れは一般的な体育祭と変わらないだろう。

 全校行進での入場から、選手宣誓、お偉いさん方のありがたい話だ。

 

 グラウンド周辺には、参加する生徒と比べたら少ない人数だが見物客まで来ている。

 保護者など外部からの出入りは認められていないので、おそらく敷地内で働く大人たちだろう。

 

 よくよく考えてみれば彼らは平日昼間は何をしているんだろうか。

 品出し掃除など細々とした仕事もあるとは思うが、主要な客の生徒は来ないはずだ。

 普通に営業しているのか休んでいるのか、まあ、どちらでもいいか。

 

 グラウンドの周囲は、医療用のコテージを区切りにして赤組と白組に分けてテントが設置されており、競技中を除き赤組と白組は、接触出来ないようになっている。

 

 開会式後は、1度各自のクラスのテントへと戻った。

 隣はBクラスのテントだ。

 

 Bクラスにも挨拶とかしておきたいところだが、プログラムは分刻みで予定されている。時間的な余裕はあまりないので諦めた。

 

 各自で簡単に準備運動を行い、テント前でクラスで円陣を組んだ。

 他のクラスも似たようなことをしている。

 

「うっしゃ、勝ちにいくぞお前ら」

「おう」

 

 気合を入れた須藤の声にみんなで応えて、最初の競技のためにグラウンドへと再び向かっていく。

 

 こうして体育祭がスタートした。

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