綾小路Tレックス   作:チームメイト

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体育祭編その8 勝利と暗雲

 女子の玉入れは、僅差でA・Dクラスの赤組勝利に終わった。

 

 軽く練習は行っていたが、2クラス40人で1つの籠をターゲットにして投げるという色々と無理がある競技だけに、最低限届かせることが出来ればあとは運任せみたいなもんだ。

 慎重に狙って投げたところで他の人が投げた玉が当たったら弾かれてしまう。大体の目安で投げまくるのが一応の攻略法になるが、確実と言えるようなものではない。

 残念ながら1個の差で敗退となったが、こればっかりは仕方ないだろう。

 

 棒倒しでなんとかつかみ取った勝利がこれで台無しになったとか、男子に比べて楽して負けやがって、とかは思ってはいけないのだ。

 

 仮に2つを混ぜた棒入れという競技があれば、堀北クラスが圧勝したと思うが、玉入れだからな。

 棒入れは、ちょっと直球過ぎるか。生徒会の頭がおかしくなければそんな競技が採用されるわけ──ないとも言い切れないのが、堀北会長率いる性徒会だった。

 

 

 気持ちを切り替えて、次の4種目目の綱引き。

 

「山内、生きてるか?」

「立ってるのも辛ぇよ」

「よし、生きてるな」

「おいっ」

 

 踏み台になったり、防御壁になったりと本人の望まないところで大車輪の活躍だった山内は、すっかりダウンしていた。だが、競技に参加できるのなら問題ない。頑張れ山内。

 

 綱引きのルールは、棒倒しと同じで2本先取。

 

 事前に打ち合わせ通りに、1番パワーのある須藤が最後方につき、残りはBクラスと堀北クラスで入り混じって身長順で並ぶ。

 

 赤組は、何やら揉めているようだ。

 声が聞こえる距離ではないが、葛城にAクラスの生徒が迫っていた。クラス内の派閥争いだろうか。

 

 Aクラスの揉め事は『早く並んでください』というアナウンスが入るまで続き、ようやくAクラスが配置につく。

 

 クラス関係なく混ざった白組とは違い、赤組はクラス単位で分かれAクラスが前方に固まり、後方を龍園クラスが務めている。

 Aクラスは身長順だが、龍園クラスはバラバラだ。

 2クラスで連携することはしないらしくチグハグしている。

 

「これはもらったか」

 

 配置を見た時点で勝ちを確信する。

 

「行くぞお前ら、オーエス!」

「オーエス!」

 

 試合開始と同時に須藤の号令に合わせて引く。

 練習を積み重ねた白組は、赤組を圧倒し、1本目はあっさりと白組勝利に終わった。

 

 あっさりとしたものだ。ほとんど手ごたえは無かったな。

 

 2本目。

 

 龍園クラスが配置換えを行ったが、白組の連携を崩すには至らなかった。拮抗状態から白組側に綱が動いた瞬間に、龍園クラスが手を放したため、将棋倒しのようになりながらも白組が勝利した。

 

「ふざけるな」

「おまえらにはお似合いの姿だぜ」

 

 勝ったのは白組だが、倒れているのも白組で、赤組から見下ろされていて、どっちが勝ったのか分からないような構図にさせられてしまっている。

 

 立ち上がった須藤が最後方から走り出したので、慌てて捕まえた。

 

「なんだとテメェ」

「落ち着け、健」

「止めんなよ」

「苦し紛れな挑発に乗るなよ。勝ったのはどっちだ?」

「…………」

「……白組だろ」

「へ……ダセぇ相手だぜ」

「それでいい」

 

 こんなんで須藤を暴れさせて、退場をくらうわけにはいかないのだ。

 

「うぅ……」

 

 ほとんど綱を握るだけだったのに、将棋倒しに巻き込まれた山内が退場しそうだからな。

 この調子だと、山内は後半戦全滅かも知れない。

 

 だが、リタイアは許さん。這ってでもゴールしてもらわなければ。

 

 こうして男子は、白組の勝利に終わった。当然の結果だ。

 練習を積み重ねたこともあるが、赤組は重大なミスを犯していた。

 

 葛城、龍園という配置だ。

 葛城を前に持ってきてどうする。その時点で、赤組が勝つチャンスが0になったのも当然の話だ。

 葛城龍園ではなく龍園葛城。反論は許さない。

 

 

 綱引きは、練習を積み重ねていた女子も順調に勝利をおさめ、組対抗の団体戦2競技は男女合わせて3勝1敗で赤組に差をつける結果となった。

 

 それにしても女子の掛け声「オーエス」に混ざって「ティーレックス、ティーレックス」って聞こえたような。

 最強の古代生物を叫ぶことで綱引きに勢いをつけようとしただけで……他意は無いか。

 

 そういうことにしておこう。

 

 クラスの半分くらいがその掛け声に参加していたような気がするが、スルーしておこう。

 

 よくよく考えてみたら、負傷状態の山内はどうせ戦力にならないんだから、綱引きには参加させず休ませとけばよかったんじゃないかってことに気づいたが、これもスルーしておこう。

 知らない方が幸せな事実もきっとあるはずだ。

 

 すまん、山内。あと10分早く気付けばよかった。

 どうせ高円寺が不参加で戦力低下以外のペナルティーは無いんだから、居ても戦力にならない山内は、休ませるのが正解だったな。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 5種目目、障害物競走。

 

 この競技は、200メートル走る間に、平均台、跳び箱、網くぐり、袋ジャンプの4つの障害をこなさなければならない、総合力が求められる競技だ。

 100メートルで速かった生徒が、順当に勝つわけではないのが面白い。

 ハードル走以上に、不確定要素によって単純な徒競走の速さ以外で、逆転が生じる競技だろう。

 

 男子の優先組は、須藤、平田、三宅でオレは調整対象から外れている。

 堀北クラスの同組は、何の因果か山内だ。

 

「いけるか?」

「ゴールだけならな」

 

 よし、問題ない。

 

「おまえら気合入れろよ。最下位は殴るからな」

 

 後ろの方から須藤の声が聞こえたが、問題しかない。

 

「綾小路……」

「健なりの冗談だろ、たぶん大丈夫だ。保証はしないが」

 

 マジで頑張れ山内。須藤にトドメをさされたとか、シャレにならないからな。

 

 

 男子は優先組では平田が龍園クラスの園田とのサッカー部対決で敗れて2位だったが、他は順調な結果に。

 オレも1位で山内は最下位だった。なお、別に殴られたりはしなかったのでセーフだ。

 

 全体的に上位陣は結果を出せているが、中位以下はイマイチって感じだ。

 組み合わせに恵まれればもう少し伸びると思うが、なかなか上手くいっていない。

 

 まあ、男子は別にいい。

 

 問題が起きたのは女子だ。

 さっさと退場して、二人三脚のペアの三宅と合流し、最後の確認をしながら女子の競技を見守っていた。

 

 障害物競走の優先組は、堀北、小野寺、松下の3名。

 小野寺と堀北は1位、松下はAクラスに負けて2位だった。

 

 優先組だからといって全てで1位を取ることはなかなか難しいようだ。

 まあ、堀北クラスの結果は、別に悪いものではなかった。

 

 問題が起きたのは、女子の最終組。

 堀北クラスからは、佐藤、佐倉の下位層で、言ってはなんだが捨て組だった。

 というのも、Bクラスの優先対象で一之瀬が出場していたからだ。

 

 残念ながら一之瀬は、組み合わせには恵まれておらず、それまで他競技で優先組だった堀北や櫛田に勝っている龍園クラスの陸上部コンビの矢島、木下とぶつかっていた。

 

 苦戦が予想される中で競技がスタート。

 

 最初の平均台の時点で、龍園クラスの陸上部2人が抜け出し、それを一之瀬が追う展開だ。

 一之瀬の背後にはAクラスの女子がついていっている。

 佐藤と佐倉は完全な出遅れで7位と8位をどちらが取るのかの勝負だ。こっちはこっちで白熱していたが、結果には大きく影響しないのであまり注目されなかった。

 

 1位矢島、2位木下、3位一之瀬のまま跳び箱までは順位は変わらず。

 3つ目の障害物、網くぐりで一之瀬は上手く木下の背中について、網をめくるのは木下に任せて進み、網の最後を木下がめくりあげて作ったスペースを抜け出して2位へと順位を上げた。

 

 だが、先頭を走る矢島とは既に差がついており、矢島が1位なのは揺るがないだろう。

 あとは2位をキープできるのかどうか、ズタ袋ジャンプを巨乳をばゆんばゆんと揺らしながらこなして2位のまま、最後の50メートルへと入る。

 

 ここからは障害物はない。単純な徒競走の勝負だ。

 

 元陸上部と現役陸上部の争い、差は1メートルもない。さらにその後ろをAクラスが迫っている。

 一之瀬は背後が気になったのか、何度か振り返り、その隙を狙ってか木下が並んだ。

 と思った瞬間には、2人が接触し絡まるようにして転倒した。

 

「おい、やばくないか」

「……事故だな」

 

 クラスの待機テントからは、どちらからぶつかったのかまでは分からなかった。

 

 2人が起き上がるまでの間に、他クラスの生徒に抜かれていく。

 先に起き上がれたのは一之瀬で、こういう時でも善良性を発揮して木下へと手を差し伸べていた。

 が、木下はその手を取らずに首を振るう。

 

 立ち上がれないようだ。

 やがて一之瀬が教師を呼び、木下を託してゴールへと向かったが、その時には佐藤や佐倉にも抜かれて7位となっていた。木下は競技をリタイアだ。

 

 捨て組だった佐藤と佐倉で5位6位を確保できたのは、堀北クラスにとっては僥倖と言えるが、こんな結果では素直に喜ぶことはできない。待機テントに戻ってきた2人も戸惑っていた。

 

 一之瀬の様子が気になるものの、Bクラスの生徒に囲まれており話が出来そうな状況ではない。

 それにすぐに次の競技へと入らなければならない。

 

「話せそうなのは、昼休みか」

 

 昼休みなら、ある程度時間が作れるはずだ。

 それまでは、我慢するしかなさそうだ。

 

 障害物競走は、トラブルが起きやすい競技らしく、その後2年や3年でもリタイアが出るなど後味の悪い結果となっていた。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 6種目目、二人三脚。

 

 初の敗北に終わってしまった。

 

 一之瀬のことが気になっていなかったといえば嘘になるが、それで自分の競技に影響を受けるようなメンタルはしていない。

 それだけは自信を持っている。

 

 つまりだ。二人三脚でDクラスに負けて2位に終わったのは実力だったということだ。

 

「組み合わせが悪かったな」

「ああ。力は出せたと思う」

 

 ペアの三宅とは、練習通りのスピードは出せていたはずだ。

 ただ相手のDクラスの小宮近藤のバスケ部ペアの方が一枚上手だっただけだ。

 

 オレと三宅の個の運動能力で2人に負けていたとは思わないが、日ごろから同じ部活でやっているだけで息の合わせ方に差があった感じだ。

 

 より相性の良かった平田と組んでいれば、勝てたかもしれない。

 今更だな。平田を選べたのに選ばなかったのはオレなんだから、諦めるしかない。

 

 その平田ペアや須藤ペアは、しっかりと1位を取ったので、男子は悪い結果ではないだろう。

 練習ではそこそこ速く相手次第では1位が行けるんじゃねえのって盛り上がっていた山内と宮本ペアは、山内が足を引っ張り最下位だった。

 うーん、狙い目の競技だっただけに、山内の負傷が悔やまれる。

 8割くらいオレの責任だけど。

 

 男子は、こんなもんでいいだろう。

 

 女子では、意外なペアが活躍した。

 運動能力がクラスでダントツに低い佐倉が長谷部と組んでいるペアだ。

 

 綾小路グループ内でも特に仲の良い2人だけあって、ペアとしての相性はバッチリだった。

 綾小路Tレックスの呼吸を駆使して、ほとんど佐倉に出せる全力に近いスピードで二人三脚で駆け抜ける。

 ライバルとなったAクラスのペアと抜きつ抜かれつの攻防を繰り広げていき、最後の最後である一点で差がついて、見事に1位でゴールしていた。

 

 それほど速いペアが居なかった組み合わせに恵まれた部分もあるが、それでも佐倉が1位を取れたのは、日ごろの練習の成果があってのことだろう。

 

「私、運動会で1位を取れたの初めてだよ。見てくれた?」

 

 と報告に来た佐倉は可愛らしかった。

 

「ああ。見ていた。見事だった。長谷部とのペアで良かったな」

「うん。波瑠加ちゃんとじゃなかったら1位になれなかったと思う」

「2人の武器が生きたな」

「まあね。まさか、役に立つとは思わなかったけど」

 

 そう、最後の最後で勝敗を分けたものはなんだったのか。

 

 佐倉と長谷部が持つ武器、おっぱいだ。

 ゴール地点に辿り着いたタイミングで言えば、Aクラスペアと佐倉ペアは同着だった。

 だが、ゴール判定は胸の位置だ。

 

 大きいとは言えないサイズだったAクラスペアよりも一足早く、否、一おっぱい早く2人の巨乳がゴールラインに辿り着いた結果、佐倉ペアの1位の決め手となったのだ。

 2人の1位が確定した瞬間、野郎どもから『おぉおおおおおお』という野太い声が上がったのは男の性って奴だろう。

 

「1位は1位だ。それに、道中は抵抗があって不利になるんだから、結果に胸を張っていい」

「胸だけにって言わせないでよ」

「うう……ちょっと恥ずかしかったかも」

 

 こんな微笑ましい光景がありつつ、一方では残念ながら一之瀬のペアは、最下位に終わっていた。やはり一之瀬は、足を痛めているようだ。うーん、心配だな。

 

 最終組で走った堀北・小野寺ペアがリズム走法で見事に1位を取っていたのは朗報だが、ゴールした堀北が顔を赤らめていたのは、走るという激しい運動をしたからか。

 

 いくら堀北でもこれだけ大勢の観客に囲まれた中で、やらしいこととか考えていないはずだ。

 だが念には念を入れて、来年も体育祭があるのならば、リズム走法は封印しよう。

 

 この走法は危険だ。オレは1人そう決めたのだった。

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