綾小路Tレックス   作:チームメイト

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体育祭編その9 練習は裏切らない

 7種目目、騎馬戦。

 

 10分間の休憩を挟んで、後半戦に入った。

 ここからは、男女の順番が逆転して女子からだ。

 

 各クラス4人1組の騎馬を4つ作るため、赤組対白組では8組ずつの争いとなる。

 1クラスから参加するのは16人だ。20人クラスの場合、残る4人は補欠となる。

 よって、運動能力の低い佐倉などは応援に回っていた。

 

 制限時間は3分間。騎手役の額に巻いたハチマキを奪い合い、相手の騎馬を倒すか3分間生き残れば50点入る。大将騎は100点だ。

 

 堀北クラスの騎手は、堀北、軽井沢、櫛田、前園の4人。

 大将騎は、堀北でそのままエース騎となっている。

 

 試合が始まった。

 

「露骨だな」

「徹底狙いじゃねえか、アリかよ」

「ルール上は問題ない」

 

 伊吹を中心とした龍園クラスの4騎が一斉に、堀北へと向かって突撃していた。

 

「あんただけは倒す」

 

 伊吹の威勢のいい声が聞こえる。

 堀北は背後だけは取らせないように、俊敏に動いて猛攻をかいくぐるものの、反撃するまでには至っていない。

 龍園クラスの集中攻撃で、休む間も無さそうだ。

 

「あれは狙ってるのか?」

「作戦は聞いてないが、そうなんじゃないか」

「すごいね、堀北さん」

「おい。汚ねえぞ、集中狙いしやがって」

 

 須藤が1人だけヒートアップしている。

 

 Bクラスは、Aクラスと対峙していた。

 そして、そこに軽井沢と前園も参戦し、6対4で部分的には有利を作り出してる。

 障害物競走でおそらく足を痛めていた一之瀬だが、幸い騎手役なので動きはそこまで悪くないようだ。

 

 櫛田だけは、堀北をフォローできる場所にいてタイミングを見計らって牽制している。

 見計らっているだけで、実際に助けていないのは相手に隙がないからだろう。大嫌いな堀北を見捨てようとしている可能性もあるが、役には立っているはずだ。

 

「あとはどれだけ粘れるかか」

「1対1で勝負しろよ。鈴音が狙われてるじゃねえか」

 

 須藤が騒いでるが、1対1で勝負していないのはお互い様だ。

 堀北は、龍園クラスに狙われたことを利用して引きつけることで、対Aクラスで有利を作り出している。

 

 あとは堀北が沈むのが先かAクラスが落ちるのが先かの勝負になっている。

 堀北がどれだけ粘れるかだな。おっと、Aクラスが1つ落ちた。

 

「上手いな」

「櫛田さんが利いてるね」

「だな」

 

 堀北が孤軍奮闘と見せかけて、見守っているだけの櫛田が有効に働いている。

 堀北が背後を取られそうになったときだけ近づき、それを許さない。

 

 あくまでも近づくだけで、相手が櫛田に向きそうになると離れるのが嫌らしい。

 完全な嫌がらせだ。性格が悪い。あ、Aクラスが2つ目落ちた。

 

 これでA対B+堀北連合は2対6だ。

 

「よーし、鈴音。良く粘った。勝っただろこれは」

 

 須藤の楽観的な言葉が怖いが、気持ちは分かる。

 Aクラスが沈むのは時間の問題だ。仮に堀北が潰されても4対7だ。圧倒的に優位に立てた。

 

 ここでようやく龍園クラスが1騎櫛田に差し向けて足止めし、櫛田と組み合った。

 堀北を囲む相手は3騎と楽になったが、櫛田のフォローが消えたのは痛い。

 

「最後は相打ちか」

「上出来だろ」

 

 堀北は、最後のあがきで、 伊吹と揉み合って互いにハチマキを奪い合って沈んだ。

 その時には、Aクラスとの勝負も決着がつき、Bクラスが1騎沈むだけで撃破に成功している。

 

 これで残すところは、龍園クラス3騎対Bクラス3騎と堀北クラス3騎の6騎で数の上では倍だ。

 1対2で囲い込めば勝てる。

 

 誰もがそう思ったが、ここからの龍園クラスが手強かった。

 数の有利を活かして1対2が3つ出来上がっている。

 

「おいおい」

「時間が少なくなってきたね」

 

 1対2で囲まれながらも驚異的としか言えない動きで、ハチマキを奪わせない。

 時折、ハチマキに手が届くようなタイミングがあったが、上手くつかみ切れずに時間だけが消費していく。

 

 流石に防戦一方なので、このまま試合終了まで進んでも勝ちは勝ちだが、どうせなら勝ちきりたいところだ。

 

「あ、櫛田さんがやったね」

「ああ」

 

 このまま終わるのかといったところで、櫛田がなんとか1騎を落とした。

 櫛田と一緒に龍園クラスの馬を囲んでいた軽井沢がそれぞれ救援へと回る。

 

 これで1対3が2つとなった。

 3方向からの攻めによって、なんとか残る2騎も沈み、生き残った馬は0対6でBクラスと堀北クラス連合の白組の大勝利となった。

 

 次は男子だ。

 

「女子に続くぞ、お前ら」

 

 須藤の気合が入りまくっていて頼もしい。

 女子が勝利して、男子が負けるわけにはいかない。

 

 なんとしても勝ちたいところだ。

 気合を入れ直して、3人が作った馬の上へと跨る。

 

 オレの馬は、一番パワーが求められる中央を須藤が勤め、両脇を三宅と平田が固める堀北クラスの上位層を集めたエース騎だ。

 平田とどっちが上になるのかで多少揉めたが。須藤を抑えるにはオレの方がいいだろうというのでこうなった。

 

 戦略は分かりやすいもので、エースで点を取るという単純なものだ。

 他の3組は、エースが背後や側面から狙われ内容のフォローするのが役目だった。

 能力的には微妙なメンバーが揃っているので、フォローに徹してもらう予定だ。

 Bクラスもサポートに回ることで話はついている。

 

 自然とエース騎が争うことが多くなるので、支える馬が大変だが、そこは須藤の体力を信用するしかない。

 

「鈴音の仇は絶対に取ってやる」

「そうだな。堀北も草葉の陰から見守っているはずだ」

「分かってるじゃねえか、清隆。草葉の陰から応援してくれよ、鈴音」

「須藤くん……」

「始まるぞ」

 

 平田がツッコむ前に競技がスタートした。

 堀北の騎馬は沈んだが、別に死んでないからな。

 クラステントから応援──は、別にしてないか。まあ、堀北が『頑張って』とか言ってるのは想像できないから仕方ない。

 

「おらおらおらおら、邪魔だぁ、かかってこい」

 

 邪魔なのか、かかって来てほしいのかどっちなんだ須藤。

 ま、まあいい。本人にやる気があるのは良いことだ。

 

 さっそく近くにいた1騎へと須藤が突撃していき、勢いのままにぶちかまし。

 相手の騎馬が崩れかけたところに手を伸ばして、1つ目のハチマキを奪い取った。

 

 危ない危ない。ギリギリ間に合ったようだ。

 

「健、ハチマキを奪う前に崩れたら点にならないんだが」

「だからといって手加減なんかできっかよ。まず勝つことだろうが」

「……分かった。どうにかする」

「お願いするよ、綾小路くん」

 

 騎馬同士のぶつかり合いは認められているが、それで騎馬が崩れたら退場だ。

 この場合、ハチマキを奪っていないため騎馬を倒したことにならず、50点は入手できなくなる。

 

 騎馬戦というのは、あくまでもハチマキを奪い合う競技らしい。

 

 3人の上でバランスを取っている身からすれば、あまり勢いをつけてのぶちかましは避けて欲しいわけだが、やはり須藤のやる気を優先させるべきか。

 衝撃は伝わるものの、耐えられないほどのものではないからな。

 

 問題があるとすれば、体当たりの瞬間にここぞとばかりに平田と三宅からオレが落ちないようにサポートが入ることだ。

 サポートが入って何が問題かって?

 三宅は別にいいんだ。平田だよ平田。なんつーか、ぐっと力を入れて肩と顔で身体を支えてくれているんだが、位置的に必然的にオレの太ももから尻にかけて平田の頬が押してくる形になっている。

 

「僕がしっかり支えるから任せて」

「お、おう……」

 

 支えてくれるのはありがたい。ありがたいが、うん……掘り下げるのはやめておこう。

 三宅も同じことをやっているのに、平田だけ気になるのはオレが気にし過ぎてるからか。

 

 サポート以外で、深い意味はない。信じてるからな、平田。

 

「あ、宮本が落ちた」

「何やってんだよ、アイツら」

 

 宮本を騎手にしていた騎馬が崩れていた。

 相手に負けたわけではなく単に自壊しただけだ。

 

 博士を中央に置いて左右を池と山内で固めた馬だったが、どうやら負傷している山内が支えきれなくなったらしい。

 もとから戦力として期待してなかった騎馬だ。点を奪われなかっただけマシだと思うが、須藤はそんな計算ができないから須藤だ。

 

「落ち着いて、須藤くん。僕たちで代わりに点を取ろうよ」

「は? 落ち着けるか」

「健、怒りは分かったから、それは敵にぶつけろ。来たぞ」

 

 次のターゲットが目の前へと表れた。

 ブチ切れた須藤の前に姿を見せるとは、怖いもの知らずだな。

 

 哀れな生贄となった相手から、須藤の突進で怯ませてオレがハチマキを奪うというコンボを決めて、幸先よく2勝目を挙げるのだった。

 

 

 終盤戦に入った。

 

「くそが、もう女子よりも下じゃねえか」

「あとは龍園くんだけだね」

 

 残った騎馬は、味方側はBクラスが神崎含む3騎、堀北クラスはエース騎だけの合計4騎。

 敵側は、ずっと様子見を決め込んでいた龍園だけになっていた。

 

 Aクラスがエースの葛城のほかに、動きの良い1騎があり、そこでだいぶ苦戦した。

 相手の動きがバラバラだったため、片方を神崎率いるBクラスに抑えてもらっている間にもう片方を撃破することでどうにかなったが、連携が取れていたらどうなっていたことか。

 味方のピンチを助けようとしない龍園含めて、相手の不和のおかげって感じだ

「Bクラスが味方で助かった」

 

 学年でも屈指の団結力を誇るクラスだけに、サポートが上手い。

 堀北クラスを補助しながら、しっかりこの局面まで3騎を生き残らせるあたり、味方としてこれほどありがたい存在はない。

 

 堀北クラスは、戦力をエース騎に集めすぎたかもしれない。

 とはいえ、これで4対1だ。勝利は揺るがないだろう。

 

 特に指示を出すまでもなく、神崎率いるBクラスが囲い込むようにして動き、オレ達が龍園の正面に立つ。龍園を支える馬は、ハーフの山田を中心に武闘派で知られる生徒で固められている。

 

「へっ。囲まれる気分はどうだ、龍園」

「見下ろされる立場の奴がなんかほざいたか?」

「言ってろ。これから潰されるおまえが地べたに這いつくばるのが楽しみだぜ」

 

 須藤は言葉こそ威勢がいいが、ここまで連戦に次ぐ連戦だ。流石の須藤と言えども疲れが溜まっている。

 緩んだ騎馬を引き締めるように軽く肩を揺らしてオレを持ち直すも、いつもの安定感はない。

 

「そこまで言うならタイマンだな」

「あぁ?」

「集団で囲んで勝負とかほざく気か? そんなダセエ相手なら俺はこのまま降りるぜ。自発的に降りてもお前らの点にはつながらねえからな」

「ふざけんな、そんな逃げを許すわけねえだろ」

「正面からの勝負を逃げるのは雑魚のおまえらだろ。だったらタイマンで勝負しろよ」

 

 この状況でも龍園はぶれないか。逆転を狙って手を進めてくる。

 ブラフだと思うが、龍園の厄介なところは龍園ならリタイアという手もありえると思わせるところだ。

 相手が龍園でなければ即却下するような提案だが、龍園相手ではそういうわけにもいかない。

 

「おい、清隆。タイマンで行くぞ」

「須藤くん、それは」

「平田、悪いがここは任せてくれ。神崎、頼む」

「……分かった」

 

 龍園の後方に回っていた神崎へと強い視線を送ると、上手く伝わったようだ。

 神崎は頷いて左右を囲んでいたBクラスに指示を出して遠ざけた。

 

 これでいい。

 

「健、受けたら不利だ。当たれ」

「おうよ。絶対落ちんなよ、清隆」

 

 体力的には受けたいが、相手の山田のパワーはおそらく須藤と互角か須藤よりも上だ。

 待ち構えていたら潰されかねない。

 

 平田の頬を感じつつも、スピードに乗って正面から須藤が山田にぶちあたった。

 が、今までとは違い崩れることなく受け止められた。

 

「こんなもんかよ。力負けしてるじゃねえか」

「うるせー、絶対潰す」

 

 龍園の挑発に、須藤が何とか押しつぶそうと足掻くが、どうやら分が悪いらしく相手が揺るがない。

 須藤の体力が消耗していることと、三宅と平田の押しが相手の石崎と小宮よりも劣っているからだろう。運動能力なら三宅や平田は負けていないが、龍園クラスの武闘派相手にパワーでは不利なようだ。

 

 などと感心している場合じゃないか。オレも騎手役としてやるべきことをやらなければ。

 龍園のハチマキに向かって手を伸ばすも、裏手で弾かれたりスウェーで避けられたりと捉えきれない。

 

 後ろに反る龍園の頭を追いかけたいが、須藤が押し勝てていない状況では体制が崩れる。

 

「届いてねえぞ」

「……届かせるさ」

 

 これは強がりではない。

 このままでは勝てないが、状況を動かせばいいだけだ。

 須藤は期待できない。が、こういう時に信用できる相手は須藤だけではない。

 

「もらう」

「なに!?」

 

 そう、Bクラスの参謀役の神崎がいる。

 オレの頼みを聞き入れてくれた神崎が背後から龍園へと迫って、そのハチマキへと手を伸ばしていた。

 龍園は慌てて身体を起こすも、そうなるとこっちのものだ。

 

「ここだッ」

 

 龍園の意識が神崎へと向いた一瞬を狙って、龍園のハチマキへと手を伸ばした。

 素早く首を振られて避けられそうになるも、指先がハチマキへと触れて──

 

「取った」

 

 ──掴んだそれを一瞬だけ滑らせかけるも、すぐに力を微調整して何とか端を捕まえた。

 そのままハチマキを奪い取ることに成功し、無事に白組の勝利で終わった。

 

 赤組0騎に対して白組の生き残りは4騎。

 無事、勝つには勝ったが、女子よりは劣る結果に終わってしまった。

 

「てめえ、タイマンじゃなかったのかよ」

 

 龍園が何やらわめいているがスルーだ。

 

 オレは別にタイマンだとは言っていない。

 任せてくれと言っただけだ。嘘はついていない。やらしいことなら歓迎だが、やましいことは……状況によるけど今回はセーフだ。

 

 神崎と勝利を喜び合ってから、クラスの待機テントへと向かう。

 これで龍園からは、逃げ切りに成功だ。

 

「おい、どういうことだよ清隆。タイマンじゃなかったのかよ」

 

 と思いきや、須藤に捕まった。

 そうか、須藤がいたか。

 

「悪い、龍園に勝てる気がしなかった」

「は? オレを信用してなかったのかよ」

「健のことは信用しているが、騎馬は1人で組むわけではない。総合的に不利だと判断した」

「だからってよ」

「山田を正面から相手に出来るのは健だけだ。オレ達が負けたら全滅もありえたと思う」

「そうだよ須藤くん。言い出せなかったけど、僕は限界に近かったから、無事に勝ててホッとしているよ」

「ずっと動いてたからな、俺も危なかった」

 

 平田と三宅も須藤を宥める側に回ってくれた。

 実際に危ないところだったと思う。勝てたのは、日ごろの行いのおかげだ。

 

「……頼りすぎなんだよ。俺たち以外全滅ってどういうことだよ」

 

 須藤の怒りは収まらない。悪い方向に進み、今度はクラスの男子生徒を睨みつけている。

 

「おい宮本、見てたからな。相手にぶつかる前に落ちるってなにやってたんだよ」

「それは山内が」

「春樹が崩れたのか? おい、春樹どういうことだよ」

「か、勘弁してくれよ、健」

 

 須藤が山内を捕まえた。

 慌てて平田が須藤を止めに入る。

 

「だ、ダメだよ須藤くん。山内くんだって必死にやってたはずだよ」

「必死にやってたら勝手に崩れたりはしないだろ」

 

 そりゃそうだ。そこはフォローできん。

 いや、ダメージ入ってたからなんだろうけど。

 

 体育祭リタイアなら補欠と交代できるが、その場合は後の競技も不参加と引き換えらしい。

 主力を補欠に登録しておいて、状況次第で自由に入れ替えることができないようにというルールだ。

 

「足引っ張んなよ。俺がどれだけ点稼いでも、これじゃあ無駄じゃねえか。だらしねえんだよ。気合が足りてねえんじゃねえか」

「…………」

「ああ!? 何黙ってるんだよ」

「須藤くん、それは……」

 

 山内は反論する気力もないらしい。

 平田がどうにかしようと間に入っているが、須藤は聞く耳を持たない。

 山内とも須藤とも仲の良い池が様子を窺っているが、須藤の怒りっぷりにビビって足を踏み出せずにいた。

 

 せっかく騎馬戦で男女ともに勝利したというのに、クラスの空気は最悪に近い。

 

 さて、どうするか。

 須藤を止めるだけなら簡単だが、それで須藤にへそを曲げられたら困る。

 やる気を削がずに止めるのは困難だろう。

 

 全員参加競技は、あと200メートルだけで終わりだ。

 こうなったら山内を切り捨てて、山内に怒りをぶつけてもらってどうにか切り抜けるか。

 

 山内は犠牲になったのだ。クラスの犠牲にな。

 

 オレが山内のことを諦めたその時、勇者が動いた。

 

「ま、待つでござる」

「あぁん!?」

「山内殿を責めるのは、間違いでござるよ」

 

 メガネのぽっちゃり系男子こと博士だ。

 

 須藤にビビって距離は取ったままだが、須藤に立ち向かう勇気は立派だ。

 足は震えてるけどな。

 

「お前も結果出せてない奴だろうが」

「そ、そうでござる。だからこそ山内殿が責められているのは、ほっとけないでござるよ」

「一緒に責められたいってか? 来いよ」

「違うでござるよ。確かに拙者や山内殿は、足を引っ張っているでござる。ただ足を引っ張りたくて引っ張っているわけではないでござるよ」

「当たり前だろうが」

「そうでござるそうでござる。当たり前でござる。決して手を抜くとかではないでござる」

「だからなんだってんだよ。足を引っ張ってることに変わりねえだろうが」

「ンゴゴ!? じ、実力以上のものは、出せないでござるよ」

 

 須藤が山内から離れて博士の方に向かうと、博士は慌てて距離を取った。

 それでも須藤との会話を止めない。

 

「開き直りかよ」

「違うでござる。事実を言っただけでござる。急に足は速くならないでござるよ」

「お前らが日ごろから運動してねえのが悪いんだろうが。なんで俺がてめえらの怠慢に、足を引っ張られなければならねーんだよ」

 

 須藤の言っていることも間違いではないが、運動部ではない生徒にそれを求めるのは酷だろう。

 

「ゆ、幸村殿」

「なんだ外村」

「幸村殿が1学期のテストで取った1番悪い科目はなんでござったか?」

「思い出したくもないが、中間の英語だ」

 

 中間テストの英語。

 なるほど、そういうことか。博士の言いたいことは分かった。

 

「須藤殿。こういうことでござるよ」

「どういうことだよ。今のやり取りの何が関係あるんだよ? 説明によっては殴るぞ」

「ひぃぃいいい。ま、待つでござる。1学期中間の英語で思い当たらぬか?」

「知らねーよ」

 

 ダメだ。先に須藤を止めないと博士がやられるか。

 博士が出してくれたパスがあれば十分だ。オレがゴールを決めてやろう。

 

「健。1学期の中間テストで健の英語が危なかった。が、クラスの協力で切り抜けることが出来た。博士が言いたいのはそのことだと思うぞ」

「確かに危なかったけどよ、関係ねえだろうが」

「今の健なら、簡単には赤点になりかけたりはしないはずだ。1学期の中間で、危なかったのはどうしてだ?」

「そりゃ、赤点取ったら退学なんて知らなかったからだろ。知ってたら俺だってよ」

「山内や博士は、体育祭があるって知ってたのか? 聞かされたのは9月に入ってからだと思うが」

 

 オレの言葉に須藤が目を見開いた。

 

「情報を知ってからは、練習していたことは健も知ってるだろ。今回の体育祭では、間に合わずに結果が伸びなかったが、それはわざとじゃないんじゃないか」

「だからってよ、足を引っ張られてるのはオレらだぜ」

「幸村の成績は平均で90点以上取っているはずだが、一学期中間の英語は80点だった。須藤を助けるために、点数を下げて協力している。健に足を引っ張られた形だが、健のことを責めたクラスメイトは居たか?」

「それは……」

 

 須藤の目が泳ぎだした。これならいけるか。

 

「健が苦手なことで足を引っ張ったが、皆は責めずに健に協力した。それなのに健は自分が活躍できる側に回ったら責めるのか?」

「ちっ……わーったよ。理解できたぜ、俺が悪かった」

 

 よかった。どうやら須藤も納得したらしい。これでも健が納得できなかったらお手上げだった。

 どうでもいいが、幸村は割と須藤のことを須藤が悪い自己責任だって責めていたような気がする。

 今も少しだけ幸村が気まずそうな顔をしているから、間違いなさそうだ。

 

 まあ、点数を下げて協力したことも間違いないから言う必要はないか。

 

「春樹。いや、みんな。責めちまって悪かったな」

 

 須藤はそう言って深々と頭を下げた。

 

「いや、俺も足引っ張っちまって悪い。せっかく健ががんばってんのによ」

「リーダー失格だよな、俺」

 

 だいぶ反省して落ち込んでいるようだ。

 これで須藤のテンションが落ちるのもまずいな。

 

「そんなことないだろ。ここまで他のクラスに負けてないんじゃないか」

「そうだよ。須藤くんが皆を引っ張ってくれたおかげだよね」

 

 俺がフォローするとすかさず櫛田が乗っかってくれた。

 こういうのは同性よりも異性に褒められた方が嬉しいものだ。

 

「本当に凄いよね。これまで全部1位だっけ?」

「須藤くん居なかったらやばかったよね」

 

 周囲から飛び交う優しい声に、ようやく須藤が頭を挙げた。

 照れているらしく笑みが見え隠れしてる。

 

 これで大丈夫だな。

 

「須藤くん」

「……堀北」

「さっきまでのあなたの行動は感心しないわ」

「ぅ……」

 

 おい、堀北。せっかく整えた須藤を叩き落してどうする。

 お前も見下す側の人間だっただろうが。

 

「でも、あなたがここまでクラスを引っ張ってきたことは、私を含めてクラスの皆が認めるところよ。それだけは忘れないでね」

「堀北ぁ」

 

 パーフェクトコミュニケーション。

 

「うっしゃあ。後半戦も引っ張っていくから任せてくれ」

「おう」

 

 雨降って地が固まる。クラスの団結力が上がったのはオレの気のせいではないだろう。

 こうして、堀北クラスに訪れた最大の危機は、博士の活躍によって脱することが出来たのだった。

 

 ありがとう博士。そして山内よ、見捨てようとしてすまん。

 

「しかしあれだな。まさかこんなことになるとは思わなかったな」

「そうね。私も想定外だったわ」

 

 クラスの歓喜の輪から距離を取ったところで堀北とコソコソ話す。

 あまり大声ではしたくない話だ。

 

 少し遠まわしに話題を振ってみたら伝わったので、女子も女子で同じ状況だったらしい。

 最後に有利を作った後で、龍園クラスに粘られたのはそういうことか。

 そして、オレと同じ理由でピンチを回避できたというわけだ。

 

 騎馬戦で何が起こっていたのか。

 

 龍園クラスが悪だくみとして、奪い取らなければならないハチマキをヌルヌルにして、滑って掴みにくくしていたのだ。

 初見だったら対応に苦労して、ハチマキを掴めずに負けた可能性が高い。

 が、幸運なことにオレと堀北はヌルヌルなものを掴むことに長けていた。

 

 なぜならば。

 

「まさかローションプレイに助けられるとはな」

「まさかローションプレイに助けられるなんて」

 

 そう、まさか真夏のローションプレイがこんな形で活躍することになろうとは、夢にも思わなかった。

 どういうことやねん。

 

 ありがとう鬼畜眼鏡先輩。ありがとうローション先輩。

 

「備えあれば憂いなしね」

「別に備えるためじゃなかったけどな」

 

 ローションプレイを楽しんだだけだ。

 その経験を活かして、ハチマキが滑ったときに咄嗟にローション塗れのおっぱいをつまんだ時の感覚を思い出して力加減を調整したところ、見事にハチマキを奪い取ることが出来たってわけだ。

 

 恐らく堀北の場合は、Tレックスを掴んだ感覚だろうか。

 

 流石の龍園も堀北やオレがローションプレイに長けていたとは、思いもよらなかっただろう。

 オレ自身驚いているんだから当たり前だ。

 

 こうして、運も味方につけた堀北クラスは、騎馬戦で大戦果をあげたのだった。

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