綾小路Tレックス   作:チームメイト

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体育祭編その12 ここで本気を出す理由

 10種目目、四方綱引き。

 

 その前に余談だが、借り物競争はオレの次のレースから審査員が変更になっていた。

 鬼畜眼鏡先輩では危険だと、実行委員に判断されたらしい。

 

 だから体育祭に、生徒会長は関わらせるなとあれほど。猛省しろ。

 

 余談終わり。綱引きの話に入ろう。

 

 それぞれのクラスから4人ずつ参加して、十字の綱をそれぞれの方向に引っ張るという競技だ。

 

 最初に綱の中心がおかれた位置から2メートルの距離で円が描かれている。

 その円は4つに区切られており、それぞれ90度ずつが各クラスのエリアで、自陣側のエリアの円の位置まで綱の中心部分を持ってくることが出来れば勝利というものだ。

 

 簡単に言えば、自分側に2メートル引っ張れってことだ。

 

 Aクラス、Bクラス、龍園クラス、堀北クラスの順番で時計回りで配置されている。

 同じ組のAクラスと龍園クラス、Bクラスと堀北クラスが向き合っている形だ。

 2クラスでの協力がしにくい嫌らしい配置となっている。

 

 2本勝負で1位のクラスだけを決め、2位以下には点が入らないため一気に差をつけられかねないのが怖い。少なくとも1本は取りたい競技だ。

 

「1本目は様子見だよ」

「分かってるっつーの」

 

 オレ、平田、三宅、須藤の4人で綱を握る。

 

 この競技に限っては、事前練習をこなせていない。

 一応綱を借りてきたが、他のDクラスの生徒相手では練習にならず、Bクラスとも協力しにくい競技だったため、共同での練習を避けたからだ。

 

 通常の綱引きとそこまで必要な技術は変わらないだろ、と考えていたがその判断が間違っていたことを1本目から思い知ることになった。

 

 1本目。先に動いたのは葛城率いるAクラスだった。

 

 スタートから10秒ほどは4クラスのバランスが保たれたまま綱は動く気配が無かった。

 

 Aクラスは、自陣側の90度の範囲ならどこでも動けることを利用して、左右に揺れるように動きながら引っ張り、こちらのペースを乱していく。

 

 先にBクラスが崩れ、中央で保たれていた均衡が狂わされて、真っ直ぐ引いていたはずがAクラス側へと寄せられてしまっていた。力のベクトルがAクラス側に偏って1メートルほど綱の中央がAクラスのエリアへと動く。

 

「おい、逆側に動いて防げ」

 

 リーダーの須藤の指示が飛ぶ。

 慌てて均衡を保ち直すために、Aクラスの逆側である龍園クラス側へと4人で動き、Aクラスに傾いていた流れを抑え込もうとする。

 Bクラスも同じ考えだったらしく、同じタイミングで龍園クラス側へと寄った。

 

 そこを見逃さなかったのが龍園クラスだ。

 

「引けッ」

 

 龍園の短い言葉に合わせて、綱が動いた。

 

 山田アルベルトを中心としたパワー自慢が綱を引く。

 突然の動きに、Aクラスに対抗しようとして龍園クラス側に寄っていたオレ達やBクラスの力までも利用されてしまった。

 龍園クラスの動きは、Aクラス側に偏っていた1メートルを取り返すだけではなく、一気に龍園クラス側へと綱を引っ張りきって、そのまま2メートルの距離を通過。

 

 1本目は龍園クラスの勝利となった。

 

 見事にしてやられた形だ。

 どうやら通常の綱引きとは違って、頭も使わなければならない競技だったらしい。

 

 どうする。須藤じゃ太刀打ちできそうにないが、リーダーを変えるか。

 

「どうしようか綾小路くん」

「2本目。Dクラスだけには取られないように、警戒するしかない」

「分かったぜ。任せろ」

 

 急にリーダーを変えても混乱するだけか。

 平田ならすぐに合わせられると思うが、三宅とはそこまで親しいわけではない。ここはリーダーを須藤のままにして、2本連続で龍園に取られることだけは、阻止する方針で行こう。

 

 消極的だが、仕方ない。

 使える90度のエリアの内、龍園クラス側の半分を捨てる。

 

 単純だが有効のはずだ。

 懸念材料は残るが、短い時間で取れる対策としてはこんなもんだろう。

 

 2本目が始まった。

 

「おいおい、雑魚すぎるじゃねえか。2本目ももらったか」

 

 2本目は最初から様子見などせずに、龍園クラスは綱を引いてきた。

 パワー勝負では、龍園クラスの方が上らしい。やや綱が龍園クラス側に動く。

 

 ここで慌ててAクラス側に角度をつけて失敗したのが1本目だ。

 

「2歩だけ動け」

 

 須藤の指示に合わせて、2歩分だけAクラス側に寄る。それだけで龍園クラス側に動いていた綱が止まった。

 あとはここからどうやって自分たちのエリアに引き込むかだ。

 

「しまった」

 

 膠着状態から次の1手を繰り出す前に、先手を取って龍園クラスが動いた。

 そこからさらに引く力を上乗せしたのではない。その逆、全体競技での綱引きでそうしたように、綱から両手を離して競技を放棄した。

 

 龍園クラスも含めて上下左右でバランスが取れていた状況から1クラスだけ放棄したらどうなるのか。

 堀北クラスとBクラスは釣り合ったまま、Aクラスへと綱は一気に引っ張られてしまう。

 

 結局、そのまま2メートルを超過し、2本目はAクラスの勝利となった。

 

 懸念していたことが、実行されてしまった。

 こうなってしまっては、お手上げである。

 

「完敗だな」

「ああ」

「くっそー。試合放棄とか何がしたいんだよ」

「須藤くん。Aクラスが勝つことは龍園くんにとっても悪いことじゃないんだ。同じ赤組だからね」

 

 そう。龍園が自分のクラスの勝利を捨ててまで、同じ赤組のAクラスを勝たせるのかどうかを懸念していた。

 実際に手を打たれてしまうと対処するのが難しい戦術だ。

 

 1本目が勝負の分かれ目だったのかもしれない。

 1本目を龍園クラスが取ったからこそ、2本目は同じ赤組のAクラスの勝利でもよくなった。

 1本目をオレ達かBクラスが取っていたら、Aクラスに勝たせたりはしなかったはずだ。

 

 様子見とか言ってる場合じゃなかったな。

 

「頼んだぞ」

 

 あとは女子に託して、敗北をかみしめながら試合会場を後にしたのだった。

 

 その後、女子は1本目をBクラスがもぎ取ってくれた。

 おかげさまで、今度は白組が男子の赤組と同じ手を使って、2本目は堀北クラスが勝つことができた。

 Bクラスさまさまだな。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 11種目目、男女二人三脚。

 

「小野寺とペアでよかった」

「え?」

「いや、堀北とだったら地獄だったと」

 

 公衆の面前でペットプレイをした後だ。そんな相手とペアを組むとか考えたくはない。

 さっきの出来事が、冗談ではなく本気だと言っているようなものである。

 あれが本気だと思っているのは、堀北だけで十分だ。

 それが当事者だっていうのが困りものだが。

 

 なお、この場合の堀北とは両方を指してはいない。鬼畜眼鏡先輩の方は冗談だと分かっている、と信じたい。

 

 あ、パートナーが一之瀬から変更になった柴田ペアが2位でゴールした。

 直前の変更では流石の柴田もトップを取れなかったか。白組としては痛いが、個人総合1位がこれで見えてきたのはプラスだ。

 彼女の不幸だから良かったとか言ってる場合じゃないが。

 

「あー、うん。すごかったね、借り物競争」

「小野寺が借り物競争が楽しみって言ってたから期待したんだが、全然楽しくなかった」

「見てる分には、引きつつも楽しかったけどね」

 

 やっぱり引いてたのかよ。

 

「当事者は、たまったもんじゃない」

 

 なお、堀北は体育祭のために身を挺にして取り組む生徒として須藤からますます評価を高めたらしい。

 ただでさえ堀北ラブで男女の二人三脚は浮かれていたのに、須藤は天にも昇らん勢いでテンション高く話しかけていた。

 いいぞ、須藤。そのまま押し切ってくれ。相手はドМだ。責めればいける。

 

 心の中で応援しつつ見守っていると須藤・堀北ペアは順調に1位を取った。

 

 だが、喜びを爆発させる須藤を尻目に堀北は淡々と紐を解きはじめる。

 堀北が紐を自ら解くだと!? 須藤よ、頑張りが足りてないんじゃないか。

 ここは、俺が紐を解くぜっていいながら逆に強く結び直すところだろ。人として最低でも堀北相手ならそれが正解なんだ。

 

「ねえ、綾小路くん」

「なんだ」

「堀北さんが気になるのも分かるけど、今のペアは誰かな?」

「小野寺だ」

「それなら……言わなくても分かるでしょ」

「ああ、そうだな。すまん」

 

 二人三脚は息を合わせることが大事なのに、小野寺ではなく堀北に意識が向かってるのはまずいな。

 小野寺に集中しなければ。

 

 しゃがみこんで紐を結ぶ小野寺をじっと見る。

 見た目も性格もボーイッシュな感じだが出るところは出ていてデカい。この位置から見下ろせばよく分かる。

 

「小野寺って意外と乙女だよな」

「ななな、なにかな急に」

「いや、堀北より私を見てって」

「競技に集中してって意味だから」

 

 声を荒げてそっぽを向きつつも、頬が染まっているのが可愛い。

 既に紐を結んだ後から、身体は密着して逃れることは出来ないぞ。

 

「ああ。だから小野寺に集中する」

「絶対からかってるでしょ」

「そんなことない、小野寺って意外と可愛いなって思っている」

「…………」

「小野寺は可愛い」

「……ほ、ほら、始まるよ準備して」

 

 やっぱり可愛いな小野寺は。

 新しい一面を見つけつつ、交流を深めたオレ達のペアは1位でゴールまで駆け抜けることができた。

 

 本当に小野寺がパートナーで良かった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 最終種目、男女混合1200メートルリレー。

 

 各クラス男女3名ずつが200メートルを走る、運動会の花形であるリレー競技だ。

 唯一この競技だけが、学年別ではなく全学年合同で行われる。

 

 1位を取った時のポイントも大きいので、是が非でも上位を狙いたい競技だ。

 

 といっても、2年も3年もAクラスが頭一つ抜けているので、その2クラスに勝つのは難しいかもしれない。現実的な目標としては、学年内で最上位を取ることになるだろう。

 

 男子は、須藤、オレ、三宅。この中だと三宅は少し劣るが、他クラスに負けない3人だ。

 女子は、小野寺、堀北、松下。小野寺は学年トップレベル、堀北や松下もそこそこ速い。

 

 男子に比べたら女子がやや劣るものの、十分戦えるメンバーが揃っている。

 

 怖いのは、須藤とほぼ互角の快速柴田のいるBクラス、堀北クラスが弱い女子が逆に強みである龍園クラスか。

 クラス内がまとまっていないAクラスは、こういう種目では結果を出すのは厳しいだろう。

 

 幸いというほど素直に喜べないが、Bクラスからは一之瀬が離脱、龍園クラスからも木下が離脱したため、1位を狙いやすくなっているのはプラスか。

 龍園がどこまで真面目に取り組むつもりだったのかは分からないが、策士策に溺れたんじゃないか。

 

 リタイアした一之瀬の分まで、しっかりと漁夫の利を取らせてもらおう。

 

「ラスト。絶対に勝ちに行くぞ」

「あー、出鼻をくじいて悪いが、棄権させてもらえないか?」

 

 須藤の気合の一言に、三宅から待ったがかかった。

 

「理由を聞いていいかな?」

「四方綱引きの時に足首捻った……無理すれば走れそうだが、タイムは落ちそうだ」

 

 綱引きでは、Aクラスと龍園クラスで左右に振り回されてだいぶ足に負荷がかかっていた。

 痛めることもあるだろう。

 

 クラスの足を引っ張りたくないからこその辞退で、無理なら強行するつもりのようだ。

 平田もいるから、無理をする理由がないという判断か。

 

 平田が男女の二人三脚に出場したため、三宅がリレーに回っていたが、実力的にはほとんど互角の2人だ。ここで三宅に無理をさせる必要はない。

 

「わかった。それなら僕が──」

「話はきかせてもらったねえ。ここは私に任せてくれたまえ」

 

 平田が言葉を言い終わる前に、クラスの輪の外から予想外の声が掛かった。

 金髪をなびかせた筋肉隆々の男、高円寺六助だ。

 

「てめえ、今更何言ってやがる。体調不良とかほざいてただろ」

「フッ。さっき治って退屈していたところさ」

 

 絶対に嘘だ。朝から問題なかったはずだ。

 

「綾小路くん。どう思う?」

「いいんじゃないか。高円寺だってクラスの一員なんだ。体調が体育祭に間に合ったなら参加してもらった方がいい」

「グゥッド。では、10万ポイントを用意したまえ」

 

 ちょっと待て。交代に必要なポイントはオレが払うのか。

 流れ的に、高円寺は参加を表明しただけで、それを認めたのはオレだ。

 責任の一部はある……かもしれない。

 

 拒否することは簡単だが、拒否した場合は高円寺は引っ込むだろう。

 参加してもらった方がクラスには有利だ。どうするべきか。

 

「分かった。オレが10万払う」

「いいのかい綾小路くん。僕が半分出そうか」

「いや、大丈夫だ。任せて欲しい」

 

 リレーで勝ちたいという気持ちは、もちろんある。

 だが、それ以上に得体の知れない高円寺の本気が見てみたくなった。

 

 オレに10万ポイントを払わせておいて手を抜くような真似はしないだろう。

 高円寺の本気が見れるのなら、10万ポイントくらい安……くはねえな。

 

 せめて平田が船上試験でポイントゲットしていたら払ってもらったんだが、クラスポイントからの収入しかないはずの平田に5万出せとは言いにくい。

 

 佐藤からポイントをもらっておいて助かった。良かったな佐藤。高円寺のおかげで好感度アップだ。

 

「フッフ。そこまで出て欲しいのなら仕方がないか。私が出場しよう。感謝したまえ」

 

 10万ポイントオレから巻き上げた高円寺はご満悦だ。

 絶対に本気で走ってもらうからな、手を抜いたら覚悟しやがれ。

 10万分の働きはしてもらう。

 

「作戦を変更しよう」

「なんだよ急に」

「健、お前はトップバッターを頼む。そこから女子3人が繋いで高円寺、アンカーはオレがやる」

「理由あんのかよ」

「高円寺の参加を認めたのはオレだからな、高円寺からバトンを受け取る責任はオレが受け持つ。健にはスタートダッシュを決めてもらいたい」

 

 本音を言えば、高円寺にバトンを渡すことになるのも怖いから、高円寺にはアンカーか1番手を任せたいところだ。だが、重要ポジションであるそこを任せるほど、チャレンジ精神に溢れてはいない。

 

 せめて女子から受け取らせれば、高円寺も下手なことはしないだろう。

 

 重要ポジションをオレと須藤で固めてあとは消去法ってやつだな。

 須藤から女子エースの小野寺、松下と繋いで高円寺の前は堀北にやってもらおう。

 

 たまには女子リーダーとして活躍してもらわないと、ただの能力が高い変態になってしまう。

 

「美しさに欠けるねえ」

「我慢してくれ」

「ふふふ、楽しませてもらうさ」

 

 高円寺が同意したので、これで決定でいいだろう。

 

 全クラスの代表者がグラウンドの中央に集まる。

 

「俺に続けよ」

「健、頼むぞ」

「須藤くん。任せたわ」

「おう、堀北。任せとけよ」

 

 オレも応援したつもりだが、堀北の声しか届かなかったようだ。

 恋は盲目というが、耳まで悪くなるものなのか。オレも一之瀬と付き合うことになったら気をつけよう。

 都合が悪いことに対して『え、なんだっけ?』ということだけは避けたいものだ。

 

 応援は女子3人に任せて高円寺へと近づいた。

 最終競技になって、ようやく準備運動を開始する生徒などこの男くらいだろう。

 

「で、どういう風の吹き回しだ」

「なんのことかな。私は体調不良で」

「とぼけるな。体育祭に参加するようなキャラじゃないだろ」

「退屈な体育祭に参加する気がなかったことは、否定するつもりはないねえ」

 

 退屈な体育祭か。

 ということは、高円寺にとって退屈ではない要素が出てきたってことか。

 

 これまでの体育祭で頭一つ抜けた活躍をしているのは、2年の南雲と3年の鬼畜眼鏡先輩だ。

 最終競技のリレーは他学年と戦える唯一の競技。もしかしたら先輩たちと競いたくなったのかもしれない。

 残念だが、2人共アンカーだ。競い合うのはオレとなる。

 

「愉快なものが見れた。それが答えでは不満かい」

「……須藤の謝罪か?」

 

 体育祭の名シーンと言えば、須藤の謝罪、山内のМVP、佐倉長谷部のおっぱい。

 この中なら須藤だな。

 

「現実から目を背けるのはやめたまえ」

 

 それだけでコイツが何を面白がったのかが、伝わる自分が悔しい。

 堀北のペット事件か。あれは見世物じゃねえし、本意でもないし、忘れて欲しいものだ。

 

「本気で走るんだろうな」

「そういえば信じるのかい」

「ならいい」

 

 否定も肯定もしなかったが、否定されなかっただけでも相手が高円寺なら十分だろう。

 これ以上話して、やる気を削ぐ方がまずい。

 会話をここで打ち切って応援へと回る。

 

 須藤は作戦通りに2位以下を大きく引き離して、1位で小野寺へとバトンを回した。

 小野寺も須藤が手に入れたリードを活かして、なんとか1位を維持したまま松下へとバトンパス。

 

 だが、順調だったのはここまでで、女子では速い方とはいえ陸上部など上位には劣る松下、堀北と女子が続いて走る間に、どんどん抜かれてしまい8番手まで落ちてしまった。

 順位だけではなくトップを走る2年Aクラスとそれを僅かの差で追う3年Aクラスとは30メートル近く離されてしまっている。

 

 堀北からバトンを受けた高円寺が走り出した。

 それと入れ替わる形でスタートラインへと向かう。

 

「おまえがアンカーとはな」

「先輩方を差し置いてゴールテープを切りたくなったんで」

「ほう」

「おいおい、今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんだが」

 

 南雲にまで聞こえていたようだ。

 

「勝負するからには勝ちに行く。当たり前の話かと」

「面白い」

「そういうのは嫌いじゃないが、言葉だけで勝てなければ意味がない。堀北会長にも負けてもらいますから」

「そうか。それは楽しみだ」

 

 こうして話している間にも、高円寺がものすごいスピードで追い上げている。

 1人、2人、3人と抜きながらどんどんトップとの差を詰めていく。

 

 最後のカーブ。トップの2年Aクラスとの差は10メートルほど、3年Aクラスとは5メートルか。

 

 速いとは思っていたが想像以上だ。1年最速だと思われていた須藤をも上回っている。

 

「先輩方、逃げ切ってくださいよ」

「当然だ」

「生意気な後輩だな。言ってろ」

 

 アンカーへとバトンを渡す生徒たちが戻ってきた。

 まず最初に受け取った南雲がスタートする。

 そこから1秒ほど遅れて鬼畜眼鏡先輩。それとほぼタッチの差でオレがスタートを切った。

 

 高円寺は、8番手から3番手までの怒涛の5人抜きだ。

 その勢いをバトンリレーに活かして、数歩で鬼畜眼鏡先輩へと並ぶ。

 

 このリレーは、テイクオーバーゾーンは用意されていない。受け取ってから走り出すのがルールで、そのギリギリをついたプレイだ。

 受け取ってから一歩目を踏み出すのではなく、受け取ると同時に踏み出す一歩。

 高円寺のスピードもあって、この僅かな初動の差がオレと鬼畜眼鏡先輩を並ばせる。

 

 が、そこからは並走だ。

 離しも離されもしないまま、互いにスピードに乗っていく。

 

 本気を出すのは、いつ以来だろうか。

 引き離すつもりで走っているが、隣から感じる存在感は変わらない。

 

 前を走る南雲も相当なもので、距離はほとんど変わらず3メートルほど離されたままだ。

 

 鬼畜眼鏡先輩はどうにかなっても、南雲を抜くまでは流石に厳しいか。

 スタート時点でのハンデを挽回するには、200メートルは短すぎる。

 

 いや、待て、このまま負けたらどうなる。

 オレの体育祭での周囲からの評価は、堀北鈴音をペットにした男だぞ。

 

 それでいいのか。

 ここで勝てば、生徒会長と次の会長候補を破った男で塗り替えられるはずだ。

 全てがチャラになる。なってくれ。

 

 よし──もっと加速するしかねえ──

 

 オレは火事場の馬鹿力を発揮してゴールへと駆け込んだのだった。

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