綾小路Tレックス   作:チームメイト

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体育祭編その13 的確に急所をつくな

 結果発表。

 

 赤組9724点、白組9723点。

 妥当というか無常というか判断に悩ましい結果が張り出されていた。

 

「うわー、あと1点かよ」

「思ったより接戦じゃん」

 

 堀北クラスの活躍が光った。

 クラス別の順位では、3年A組、2年A組に続く3番手で堀北クラスが入り込んでいた。

 

 上位2クラスとはやや離れた点数とはいえ、大健闘と言っていい成果だ。

 1年だけで言えば、白組が勝利している。

 

「私たち頑張ったってことだよね」

「うん。あともうちょっとか」

「学年1位だから、いいじゃん」

「でも、マイナスだよ」

「厳しいよね」

 

 学年別のクラス順位は、堀北クラス、龍園クラス、Bクラス、Aクラスの順番になっている。

 龍園クラスとBクラスの差はわずか4点。

 騎馬戦と綱引きで稼ぎ、上位陣を優先させていたBクラス。それに対して、細かく点数を稼いでいた龍園クラス。

 

 配点の大きかった最終競技のリレーで、Bクラスの生徒がこけてしまい、最下位に終わったのが響いたようだ。

 一之瀬のリタイアで元々走る予定の無かった子が走って失敗して、それが順位に影響したとかちょっといたたまれない。

 決して、その子がこけなければ白組が勝ってたな、とか考えてはいけないわけだ。

 

 残念ながらAクラスは、上位者を振り分ける戦術の割りを食らってしまった。

 

 各競技10組のうち、Bクラスが3組、堀北クラスが3組、残りの組の1位は龍園クラスが多かったせいで、Aクラスの生徒はあまり1位を取る機会がなかった。

 

 結果を受けてのクラスポイントの変化はこうだ。

 

 Aクラス……… -100(4位-100 赤組勝利+-0)

 Bクラス……… -150(3位-50 白組敗北-100)

 堀北クラス…… -50 (1位+50  白組敗北-100)

 龍園クラス…… -0 (2位+-0  赤組勝利+-0)

 

龍園()クラスが勝ち組か」

「それでも、上位クラスとの差は縮まったわね」

「Bクラスが負けているのは、喜べないけどな」

 

 前向きに考えるといい結果だが、同盟相手のことを考えると心苦しい。

 なんとかワンツーフィニッシュで、いきたかったところだ。

 

 終わってしまったものは、どうしようもないか。だったら、まだ終わっていないものをどうにかしないといけない。

 

 白組は負けたものの、クラスでは1位を取れたことで、クラスは沸いている。

 買ってきた飲み物とお菓子を配って、教室で軽い打ち上げだ。

 

 中間テストが控えているのもあり、本格的な打ち上げはそれが終わってからを予定している。

 学力上位陣で、お菓子を食べながらも、早速中間テストに向けた話し合いも行われていた。

 

 すぐに、次へと切り替えることができている。堀北クラスも戦えるクラスに成長した証だろう。

 

「愛里、行くぞ」

「うん。分かった」

「どこへ行くの?」

「ちょっとした野暮用だ」

 

 一之瀬を助けるのは、個人的な用事だ。クラスを巻き込むつもりはない。

 とはいえ、打ち上げ兼の中間テストへの打ち合わせ中である。抜けるのは申し訳ないが、そこは許してもらおう。

 

「たぶん、龍園から責められると思うがいいか」

「ぜ、全然大丈夫だよ。任せて欲しい」

 

 不安を感じているんだろう。声は少し弱いが、頼めるのは佐倉か佐藤かだ。

 須藤のときに経験している愛里の方が適任だろう。

 

「恐らく却下されるから、頑張る必要はないからな」

「うん、証言するだけでいいんだよね」

「そういうことだ」

 

 証人が居た。その事実が欲しい。

 嘘か本当かはどうでもいいというか、実際に佐倉には嘘をついてもらうことになる。

 

 龍園の言っていることもデタラメだ。相手がそう来るなら、こっちもそれに乗っかるまでだ。

 

 保健室に入ると、打ち上げに顔を出して出遅れた分、既に話し合いは始まっていた。

 奥のブースから声が聞こえてくる。

 昼休みの延長で、龍園の方が押し気味のようだ。

 

「一之瀬、俺はここに言い訳を聞きに来たんじゃねえよ。俺が求めているものは、返事だ返事。認めて賠償金を払うのか、認めず生徒会送りになるのか。さっさと決めろ。俺も暇じゃねえんだ」

「私が出れなかったのが2競技、木下さんが出れなかったのが4競技。差の2競技分は払うよ。それがイーブンじゃないかな」

 

 一之瀬の用意した落としどころは、推薦競技に出れなかった分の補てんだ。

 

 推薦競技に出れなかったのは、一之瀬が2競技で木下が4競技だ。

 推薦競技で代理を出場させるには、1競技につき10万ポイントかかる。

 代理を立てるために、Bクラスは20万ポイント、龍園クラスは40万ポイント支払っている。

 

 本来ならそれで終わりだが、怪我の原因に関わったので、2クラスの払ったポイントの差額、20万ポイントを払うという提案か。

 

 こうなると、Bクラスが40万ポイント、龍園クラスは20万ポイントと出費は逆転する。

 

「舐めてんのかよ。そんなんで足りるわけないだろうが」

「茶柱先生。どちらが原因かがハッキリしない場合、受けた被害の大きい方が救済される。生徒間で揉めた時の対処は、こうですよね」

「……原則的にはな」

「では、受けた被害の差を補填する。妥当だと思いますが、いかがでしょうか」

「一之瀬。私は、この場の出来事の証人にはなるつもりだが、結論を出す立場にはない。それを求めるのなら上に申し出ろ」

 

 茶柱は明言を避けた。

 あくまでも第三者として一之瀬と龍園の話し合いを見守る立場か。

 

 使えない教師だな。

 

「聞いたか木下。一之瀬は、陸上部を休まなければならないってことは、無視するらしい。体育祭の補填をしてそれで終わりって、ふざけんなよ」

「一之瀬さんは、部活に入ってないから分からないかもしれないけど、奪われる気持ち分からない?」

「……ふざけてはいないつもりだけど」

「だったらお前も同じ立場になるか? 足を潰される覚悟あるのかよ、それでこそバランスってもんだろ」

「龍園。それは──」

「今は、俺と一之瀬の話し合い中だ。結論を出す立場にないんだろ」

 

 流石に茶柱が止めようとするが、龍園は退けた。

 龍園の発言は問題だが、交渉上の仮定の話だ。交渉中の仮の被害にまで、教師は口は出しにくいか。

 

 実際に、一之瀬が許容したとしてもストップが掛かるはずだが、どうだろうか。

 生徒会長に負傷させられかけた身としては、何とも言えない。

 

 まあいい。この辺にしとくか。佐倉がビビりだしてるし、長く聞かせるような話ではない。

 

「一之瀬。ポイントを払う必要すらないんじゃないか?」

「綾小路くん!?」

 

 カーテンを開いて、佐倉と一緒にブースの中へと姿を見せた。

 ブース内には、茶柱、一之瀬、龍園、木下の4人が居た。

 木下だけベッドに横になり、傍に龍園が立っている。

 

「あ……? 誰だよって、てめえは鈴音の飼い主じゃねえか」

 

 止めてくれ龍園。その攻撃はオレに効く。

 

「き、清隆くんは、堀北さん……の飼い主じゃないから」

 

 佐倉よ。いいことを言っているようで、堀北さん『だけの』って小さい声で言ったの聞こえたからな。

 それだと否定じゃなくて、堀北を飼ってることを肯定してるじゃねえか。

 さっきまで龍園にビビっていたのは、どこいった。

 

「そうだよね、清隆くん」

 

 だけじゃないって誰を想定しているんだ、誰を。

 堀北だけで持てあましているのに、堀北以外を飼うつもりなんかねえよ。

 

 つーか、そもそも堀北すらも飼ってねえ。

 

「鈴音の飼い主が女連れで、何しにきやがった」

 

 一之瀬視点で見ると、彼氏が別の女のご主人様で、更に別の女を連れて現れた。

 龍園。事実を指摘するのは、やめろ。オレのヒットポイントが削られていく。

 いや、事実じゃないから。堀北は飼ってないから。

 

 ついでにツッコミが遅れたけど、佐倉くん、佐倉愛里くん。まだ、綾小路くんと清隆くんが混ざってるくせに、こういう時はしっかり清隆くんって呼んでんじゃねえ。たまに見せるメンタルの強さでオレを追い込むな。

 

 ダメだ。心がくじけそうになる。本題にさっさと入ろう。

 

「一之瀬の無罪を証明しにきた」

「犯罪者を庇うってのか」

「ぶつかったのは、事故だろ。それに今回のリレーは、オープンレーンだ。接触なら、後ろに居た木下の方が悪いと思うが」

 

 レーンの決まって居ないリレーの場合は、先行者にインコースを走る優先権がある。だからこそ、堀北クラスは須藤を第一走者において、有利に進めようとした。

 スタートダッシュを決められれば、最短コースを走れるからだ。

 木下が普通に走っていたのに、急ブレーキをかけられたとか、外から抜こうとしたときに、外側に膨らんで邪魔をされた、とかなら一之瀬が悪いかもしれないが、そこがどうだったのか。

 

「この女が何度も後ろを振り返って、タイミングを狙わなければな」

「だからそれは、名前を呼ばれたからで」

 

 だからこそ、そこがネックとなっているポイントとなる。

 一之瀬の走りに、違和感があるとすれば、振り返っていたことだ。

 

 一之瀬は、何度も名前を呼ばれたからと主張している。

 龍園と木下は、呼んでいない、そっちが勝手に振り返っていただけだと主張している。

 証拠映像では、振り返っていたことだけが判明しており、名前を呼んだのかどうかは定かではない。

 

 つまり、事実として採用できるのは、一之瀬が何度も振り返ったことだけだ。

 実際の理由はどうあれ、振り返っている以上、一之瀬が不利となる。

 

「名前を呼ばれたのなら、誰だって振り返ると思うが」

「呼んだってのは、一之瀬が勝手に言っているだけだ。そうだよな、木下」

「私、呼んでないのに。また嘘を。ひどい……そこまでして自分を正当化するなんて」

「嘘ついているのは、そっちじゃないかな」

「さらに嘘つき呼ばわりするっていうの。ひどすぎるよ、一之瀬さん」

 

 木下が泣き崩れるように、布団に顔を埋めた。

 この状況を見た人からは、一之瀬が悪いように見えるかも知れない。

 

「平行線だな」

「被害がでかかったのは、俺たちだ。わざわざ接触するような原因、作るかよ」

「それで強請れるなら、得になるんじゃないか?」

「ほざくなよ。ポイントで解決してやるってのは、ただの結果論だ。木下の受けたショックは、他で代えようがないほど大きいが、何もしてやれないよりはマシだからな」

 

 ポイントをもらって水に流すというのは、有りだろう。

 実際に、賠償金ってのはそういう面もある。

 

「殊勝なことで。だが、嘘は認められない」

「クク。嘘か。一之瀬といい、どうしようもない連中だな」

「どういう意味だ」

「嘘だと決めつけて、傷ついてる木下を余計に傷つけているのは誰だ? 嘘つき呼ばわりする覚悟はあるんだろうな」

「覚悟?」

「そうだな。これ以上、嘘で木下を傷つける奴は許さん。証明できないなら、お前にも賠償金を払ってもらおうか」

「綾小路くん」

 

 矛先がこっちにも向いたか。

 龍園はこの件を利用して、絞れるだけ絞り取ってやるつもりのようだ。

 

「構わない。木下が嘘つきだということは証明できるからな」

「ほう……まさか、その女が聞いていたとか、言い出すんじゃないだろうな?」

 

 こちらがどうやって証明する気なのか、龍園はすぐに答えに辿り着いたらしい。

 佐倉を睨みつけて、威嚇している。

 

「おいおい。笑わせるなよ。そいつは、最下位争いをしていた生徒だろ。あの距離で言った言わないが断定できるなら、もっと他に聞いてた奴がいるだろうが」

「…………」

「それに、一之瀬と同じ白組の人間じゃねえか。同じ組の奴の証言なんか採用できるかよ。却下だ却下」

 

 的確に痛いところをついてくる。

 佐倉に何をさせようとしていたのかは、全てお見通しといった感じだ。

 

 龍園の言っていることは、事実だ。

 接触事故が起きた時、佐倉と佐藤は数十メートル離れており、事故現場の声を聞いたと主張するのは厳しい。

 実際、最下位争いをしていた佐倉は、一之瀬たちに何があったのかを後で聞くまで、把握していなかった。

 レース中は、気づいたらこけてたので、抜いただけらしい。

 

 一之瀬と龍園の言った言わない論争に、味方が名乗り出ればいけるかと思ったが、そこはDクラスの大将か。一筋縄ではいかないようだ。

 

「悪い、佐倉。付き合わせといてあれだが、もう帰っていいぞ」

「き、清隆くん!?」

「オレの想定が足りなかったようだ。これ以上は巻き込むわけにはいかない。帰って欲しい」

「……分かった」

 

 強い視線でお願いすると、伝わったらしく佐倉は、素直に帰ってくれた。

 これはオレと佐倉の信頼関係の成果であって、オレが飼い主とかそういう話ではない。

 佐倉は証言をせずに、この場を離れていった。これで佐倉が嘘つき扱いされることはない。

 

「なんだ、どんな証言が出てくるのかと期待させて、帰らせるのかよ」

「……同じ組の証言は、却下なんだろ? だったら、証言するだけ無駄だ」

「素直に賠償金を払う気になったか?」

「作戦が失敗しただけだ。嘘つき相手に払う気はない」

「舐めてんのか。んなもんが通じるわけないだろうが」

 

 今にも、食って掛からんばかりの勢いだ。

 圧がすごい。

 

「なあ、龍園。お前は自分の発言に責任が取れるのか?」

「あ? それが求められてるのは、お前だろ。鈴音の飼い主野郎」

 

 スルーだ。イチイチ傷ついてたら話が進まない。

 泣きたい気持ちをグッとこらえる。男には我慢しなければ、ならないときもある。

 

 最後のリレーでの活躍をもっと評価して欲しい。

 

 ──変態のことは、おいておこう。

 佐倉を連れてきた意味はあった。

 

 龍園から欲しかった発言を引き出すことには、成功している。

 

白組(同じ組)で、それも()()()()()()の証言なんか使えるわけがない。お前はそう言ったよな」

「…………」

「だったら、赤組(違う組)()()()()()()の証言ならどうだ?」

「邪魔させてもらう」

 

 オレの言葉にタイミングを合わせて、第三者がこの場に入ってきた。

 龍園と同じ赤組だったAクラスのリーダーの葛城と1人の女子生徒だ。

 

「なん……」

「話は聞かせてもらった。龍園。ここからは、Aクラスも参加させてもらうぞ」

 

 葛城が輝くターンだ。さあ、存分にやってくれ。

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