10月17日 木曜日
爆弾処理生活の折り返し日に、ミニテストが実施された。
ミニテストは、学力劣等生の池や山内が解いても半分は解けそうな簡単なものだった。
すまん、言い過ぎた。3割くらいだな、池や山内だし。
ミニテストの成績上位者と下位者の組み合わせ、トップと最下位から順番にペアを組む。
予想していたこの法則が正しかったことをテストの難易度が示していた。
見抜いていなければ、試験突破に苦しいペアが出来ていたかもしれないが、今回は問題ない。
軽く点数調整だけして、余った時間を使ってもう一つの問題を考えよう。
そう、爆弾処理生活だ。
櫛田調べの情報から爆弾持ちだけ抜粋する。
スタートは、こうだ。
・堀北鈴音 …ときめき 爆弾
・佐倉愛里 …ときめき 爆弾
・佐藤麻耶 …好意 爆弾
・松下千秋 …好意 爆弾
・白波千尋 …嫌い 爆弾
これを今週一週間、日曜日が終わるまでに解消しなければならない。
月曜日、佐藤とTレックスして爆弾を解消した。
火曜日、佐倉と二人だけの時間を作って爆弾を解消した。
というわけで、あとはこの3人だ。
・佐藤麻耶 …月曜日解消
・佐倉愛里 …火曜日解消
・堀北鈴音 …ときめき 爆弾
・松下千秋 …好意 爆弾
・白波千尋 …嫌い 爆弾
水曜日は無駄にしてしまったが、今日含めて木、金、土、日とまだ4日ある。
最後に控えている
爆弾が迫ってきてる。
接点の少ないラスボスは、しっかり時間をかけられる週末に回そう。平日にドタバタしても攻略するのは難しい。
つーわけで、今日のところは堀北か松下の爆弾を解除したい。
佐藤と佐倉の爆弾を処理して分かったことがある。
爆弾所持者は、何らかの不満・不安を持っているらしい。
佐藤は、放置されたこと……であってるはず。ちょろくて分からなかった。
佐倉は、テストの点数が伸びていないこと。
恐らく楽勝の堀北。どうせくだらない理由だろう。
爆弾が読めない松下。マジで分からない松下。
堀北は後回しでいいか。厄介そうなラスボスも控えている中で、松下まで後回しにすると追い込まれそうだ。
どうやって松下の爆弾を解除したらいいのか、考えてみよう。
松下は、Aクラスを目指す仲間だ。
能力の高さは堀北クラスでも上位で、中でも察する能力が高いため、実質的に堀北クラスの参謀におさまっている。
観察力の櫛田。考察力の松下。ドМ力の堀北。
これがCクラスの誇る女子のスリートップだ。
最後の一人がおかしい。どうしてこうなった。
そして、堀北がリーダーなんだ。
もう一度言おう。ドM力の堀北がリーダーなんだ。
リーダーは、時には厳しい選択も求められる。クラスメイトから嫌われる覚悟がなければできないので、堀北が適任だというのは変わらない。
追い込まれた時に真価を発揮できるのは、常日頃から自らを厳しく追い込んでいる堀北だけだ。
……ということにしておこうか。現実逃避も心の安穏には大事。
松下の話に戻す。
松下で外せないのが、Aクラスを目指していることだ。
この学校の生徒のほとんどが、恩恵が受けられるAクラスで卒業したいと思っている。
じゃあ、全員がAクラスになるために本気で取り組んでいるのかと言ったら、かなり温度差があるのも事実だ。
特に下部クラスになればなるほど、半分諦めていたり、努力を怠る生徒の割合が増える。
Dクラススタートだった堀北クラスも、そんな感じだ。
当初と比べたら協力的な生徒も増えてきたとはいえ、まだ少数派で厳しい。
最初からガチでAクラスを目指していたのが堀北で、現在それに次ぐ真面目さを見せているのが松下ってわけだ。
「…………」
そのあたりが爆弾解除の鍵なのかもしれない。
どうやってAクラスを目指すのか、一度松下と話し合ってみよう。
とりあえずの方針が決まったところで、ミニテストが終了した。
これで放課後だ。
よし、早速松下に声をかけよう。
「綾小路くん、ちょっといいかな?」
だが、機先を制して櫛田が話しかけてきて、オレの計画はあっさりと崩れてしまった。
「どうした?」
「ちょっと相談があるんだけど、今日空いてる?」
櫛田がにっこり笑って尋ねてくる。
その笑顔が怖い。
これはどっちだ。断るのが正解なのか、断らないのが正解なのか。
「……何の用だ?」
「空いてるんだー、よかったー」
おかしい。空いてるとは答えていないのに、勝手に話が進んでしまった。
あ、松下がもう教室の外に出ている。急げば間に合いそうだが、どうする。
明日からは勉強会が始まってしまう。
松下は、勉強会で教師役を買って出ているため、捕まえるのなら今日の方が楽だ。ただ、それは櫛田も同じことか。
だからこそ、櫛田も今日に話を持ってきたのかもしれない。
「……それで、どうしたらいい」
まあ、いいか。櫛田のことも大事だし。
まだ木曜日だ。金・土・日で一人ずつ爆弾を解除していけば、計算上は問題ない。
勉強会があるとはいえ、チャンスがゼロとはならないだろう。
「うーん……ここじゃちょっと言いにくいから、あとで部屋に遊びに行くね」
「分かった」
櫛田が言い淀んでいることが、地味に怖い。
まだ教室に残っている生徒がいる。皆の前で何かを言われる方がもっと怖い。
訝しげに思いつつも、櫛田の笑顔に負けて放課後の予定が決まった。
◇◇◇
──ピンポーン
部屋の掃除をしていると、チャイムの音が鳴った。
余談だが、インターホンは2パターンある。
寮のロビーからの呼び出しと玄関からだ。
前者はカメラで相手が確認できるが、今回のように後者は確認できない。
他学年の寮に入る場合、ロビーから呼び出して入口を空けてもらう必要がある。昨日の橘先輩がそのパターンだ。だからロビーにはカメラが設置されている。
一方で同じ寮に住む同学年の場合は、直接玄関前に来れるわけだ。訪れた相手が誰なのかは、玄関ドアの覗き穴で確認するしかない。
まあ、今日は約束していたし、櫛田だろう。
確認は省略して、ドアを開ける。
「綾小路くん、ヤッホー」
「……いらっしゃい?」
「…………どうも」
扉の先には、予想通りの人物と想定外の人物がいた。
前者は櫛田で、笑顔で手を振っている。天使だ。
後者は篠原だ。男子の部屋を訪問することに慣れていないのか、櫛田の隣でムスッとしている。
篠原さつき。同じクラスの生徒だが、特に親しくもない間柄だ。
どういう意図があるのか分からない。
いずれにしても、部屋の前に立たせているのは目立つので、部屋の中へと案内した。
櫛田は、適当にクッションに座った。
篠原は、部屋の中に入ったところで固まって、きょろきょろと部屋の中を見まわしている。
「気になるよねー。綾小路くんの部屋って物が多いから」
篠原の視線に気づいた櫛田が、篠原の気持ちを代弁した。
「そうか?」
「みんなで色々持ち込んでるもんね。このクッションは誰だったっけ」
「気づいたらそうなっていったから、分からん」
元々は、ポイントを節約していたこともあって、最低限のものしかなかった殺風景の部屋だ。
それが櫛田が遊びに来るようになって、櫛田のマグカップが増えた。
夏休みまではその程度だったが、船上試験後に一気に出入りする相手が増えた。
長谷場、堀北、佐倉、佐藤、松下の5人だ。あ、あと何度か須藤も顔を出したか。
プールで石倉とかモブ二人も来たが、あれは一回きりのオマケみたいなもんだ。
体育祭で、小野寺。
おちんちん先輩もいたか。
と、こんな感じで女子の出入りが増えた結果、これまであまり触れて来なかったが、居住環境が大幅に改善していた。
それぞれが過ごしやすいように、絨毯だ、クッションだと持ち込んだからだ。
部屋の中央には、テーブルが置かれている。
1学期中間の祝勝会は、床の上にお菓子を広げていたことを思えば、すごい進化だ。
気づけば置き場がないくらいに、戸棚にマグカップとかタンブラーが並んでいたりする。
ちなみに一番助かったのは、長谷部が持ってきた絨毯だな。
複数人Tレックスは、ベッドだと狭いし。
「適当に座ってくれ。お茶、コーヒー、紅茶なら出せるが、何か飲むか?」
「私は紅茶で」
「……じゃあ、私もそれで」
緊張を緩和するためにそう声をかけ、台所に向かった。
帰宅したらとりあえず、ポットにお湯を沸かしてある。
お茶とかコーヒーが常備されるようになったのも大きな変化だ。
いきなりクラスポイントが0になった堀北クラスも、こういう嗜好品を楽しめる程度には、ポイントに余裕ができるようになっている。
無料の水でしのいでいたのは、過去の話だ。
「ミニテスト、簡単だったよね。解いててびっくりしちゃった」
「ペアを決めるためだからだろうな」
「堀北さんの予想が当たってたんだ。すごいよね」
櫛田、堀北を褒めてるが、感情が入ってないぞ。
篠原もいるんだからもっと擬態しないと。
にこやかに話す櫛田と、黙ったままの篠原。
どうにもやりにくい。
「篠原は、ミニテストどうだったんだ?」
「私……5問だけだから別に」
「あ、ああ……」
そうか。篠原は勉強ができない側だったか。
5問ってことはカテゴリー3。下位10人ではないが、平均よりは下だ。
しまった、より微妙な空気が流れている。
「山内くんとか終わってすぐ楽勝だったぜって騒いでたけど、山内くんって確か名前書くだけだったよね」
いいぞ、櫛田。ナイス話題転換。
「テストが始まってすぐに寝てたな。テスト中の態度が影響しなければいいんだが」
オレの席は全体が見回せるので、嫌でも目に入った。
「一学期みたいなのは、ちょっと困るなぁ」
「困ったもんだ」
「だね」
「……せっかくクラスポイントが増えてきてるのに、絶対に嫌」
篠原が力強く拒否する。
「だよな」
「うんうん、戻りたくないよね」
こんな感じで櫛田を中心に、話を回してもらっているうちに緊張が解けたのか、篠原も話に参加するようになった。
流石は櫛田だ。さすくし。
しばらくミニテストや、特別試験に向けた勉強会などの話で盛り上がり、用意した飲み物も空になった。
「それじゃあ、私はそろそろ帰るね」
それを区切りにしたのか、櫛田がゆっくりと立ち上がる。
「帰るのか!?」
「うん。私がいたら話しにくいと思うし……篠原さん、頑張ってね」
「……う、うん」
「櫛田……」
篠原と二人っきりは結構きついぞ。
オレを見捨てないでくれ。
「あはは、そんな捨てられた子犬みたいな顔しなくても。綾小路くんだって篠原さんのこと全く知らないってわけじゃないんでしょ」
「まあ、クラスメイトだから」
実際は、あまり知らん。結構気が強そうな女子ってくらいだ。
「クラスメイトってだけなの?」
櫛田が若干呆れた感じだ。もう2学期も半ば。同じクラスにそれだけいて交流がないのは、やばいのか。
必死になって篠原情報を記憶から探し出す。
「いや。篠原さつき、1年。アグレッシブベースライナー。性格は冷静沈着で他人に流されない。少し神経質な面もあるが、常に前向きで虎視眈々と正レギュラーを狙っていたようだ。誕生日は6月21日、血液型はAB型、好きな言葉は……下克じ──」
「──誰よ、それ」
篠原がオレの言葉を遮った。
最後まで言わせてくれ。下克上ってところが面白いのに。
「違ったか」
「……誕生日は合ってる」
どっかで聞いたような気がしたが、合っていたらしい。
たぶん櫛田あたりから聞いたんだろう。
「うんうん。それだけ分かってたら大丈夫だよね。私、帰るね」
「くしだぁ」
「綾小路くんも頑張ってね」
オレを捨てないでくれ!
そんなオレの願いは届かず、櫛田はオレと篠原だけを残して去っていった。
櫛田の裏切り者。
「…………」
「…………」
そして訪れる静寂。
だいたい篠原って直情型だから冷静沈着じゃないか。自我が強そうだから他人には流されにくそうだが。調理部だっけ? アグレッシブベースライナーってそもそもなんだ。
少し神経質な面はありそう。常に前向き? どちらかといえば、常にガミガミしてそう。
虎視眈々と正レギュラー……調理部にレギュラーなんかあるのか?
誕生日は合ってた。血液型は知らん。
好きな言葉は『下克上』だったら、距離を置きたいかもしれない。
「あの……話があるんだけど」
篠原について考えていると、ゆっくりと篠原が口を開いた。
俯いたままでかなり緊張しているらしい。
「聞かせてくれ」
「その……絶対に誰にも言わないでくれる?」
「約束する」
なんとなく展開を察した。
今の篠原は、一学期に千尋ちゃんに告白されそうになった一之瀬そっくりだ。
あの時の経験が、オレを冷静にさせる。
篠原相手に勘違いしても仕方ない。
「や、やっぱりいい。恥ずかしいし」
「……無理に話す必要はないが、必要だと思ったからここに来たんじゃないのか」
「それは櫛田さんが……」
「櫛田がそう判断したとしても、ここに来たのは篠原だ。断ることもできたんじゃないか」
「それは……」
篠原の葛藤が見て取れる。
空になったマグカップとオレの顔を交互に見ながら黙り込んだ。
「……別に無理をしなくていい。ただ、話してくれないとオレはどうしようもないぞ」
「……うん、そうだよね。分かった、相談に乗ってくれる?」
「力になれるかは分からなくていいなら」
なれるかどうかは、話次第だ。
櫛田が連れてきたってことは、オレなら力になれるって判断したからだろうけど。
「なにそれ……うん、でも分かった。聞いてもらっていい?」
「聞かせてくれ」
オレの頼りになるんだかならないんだかの宣言が、逆に篠原をリラックスさせたらしい。
ゆっくりと肩を動かすほど大きく呼吸を繰り返し、篠原は語り始めた。
「その……私、気になってる人がいて」
やっぱりそういう話か。
「誰か分かる?」
出た。女子によるお前、私のこと分かってる? あぁん? クイズだ。
当てても好感度は大して上がらないくせに、外すとダダ落ちするという地獄のようなクイズ。
まあ、篠原の好感度とかどうでもいいか。
「同じクラスのやつか?」
「……うん」
そうだろうな。少なくともオレの知ってるやつじゃなければ、そういう質問はしないはずだ。
分かりやすいとすれば平田だ。
だが、クラスのヒーローは、軽井沢と付き合っている。
篠原が強気と言えど、まさか軽井沢に挑戦するようなチャレンジャーではないだろう。
平田じゃないとしたら、他に思いつかん。
駄目だ。
ちなみにオレという可能性はゼロだ。
オレだったら櫛田はここに連れてこないはず。櫛田に彼女候補として紹介されてたら、オレ泣いちゃうかもしれない。
「三宅か?」
「顔は悪くないけど、地味だし」
平田に続く顔のいい男子の名前を挙げてみたが、違ったらしい。
どんまい三宅。
クラスだと大人しい方だから、そんなもんか。
キャンプでリーダーしたり、体育祭でそれなりに活躍してたが響かなかったか。
「すまん。お手上げだ」
他だと高円寺がイケメンだが、それを台無しにする変人だ。
クラスでアレに惚れる女子は居ない。
いたら笑う。
「その……笑わないで欲しいんだけど」
「高円寺か!?」
「は? 違うし。ないでしょアレは」
「だな。ないな。うん、納得した」
良かった。オレの考えは間違いじゃなかった。
「あのね。……池君が気になってるの」
「池か……って池って、彼女いたんじゃなかったか?」
「そうなの。だからどうしたらいいのかなって」
オレの考えは間違っていた。篠原が好きなのは、彼女持ちだったとは。
しかし池か。山内と並ぶお調子者にしてツーバカって感じの生徒だ。
昔は3バカだったが、須藤が抜け出しつつある。
山内と違うのは、池はコミュニケーション能力に長けている。
男女問わず知人・友人は多そうだ。
余談だが、山内には何もない。クラスからの不満が多そうだ。
頑張れ、山内。
「櫛田は何て言ってたんだ?」
「綾小路くんに相談してみたらって」
丸投げじゃねえか。頼りになる櫛田さんはどこいった。
「事情は分かった。それで、篠原はどうしたいんだ?」
「どうしたいって?」
「池を好きなのは分かった。片思いをしていれば満足なのか、付き合いたいのか」
「でも、池くん彼女いるって」
「それはこの際関係ない。篠原がどうしたいかが問題だ。諦めるって選択肢もある」
世の中には、恋をしているだけで満足という人もいるらしい。
オレには理解できない感情だが、篠原がそうなら何も言うことはない。
篠原は戸惑うように固まった後で、首を振って肩に届かない程度の髪を揺らした。
「諦めるのは嫌」
「そうか」
「池君と付き合いたいかも……」
「彼女から奪うことになっても?」
「……うん、負けたくない」
「分かった」
篠原が力強く宣言した。
略奪愛上等か。そこまで覚悟が決まっているのなら、難しい話ではない。
池は、彼女がいる。
篠原は、池と付き合いたい。
池の彼女は、
だが、地味そうなのは見た目だけで、船上試験で軽井沢をいじめていた。
アレが女子の標準の可能性もあるが、オレはもう少し夢をみたい。
で、なんでそんな奴が池と付き合っているかというと、嫌な考えしか浮かばない。
池に彼女がいるのが、そもそもおかしいわけで、結論は待つだけだ。
「そうだな。オレにアドバイスできることがあるとすれば、焦らなければいいんじゃないか」
「何それ。アドバイスになってないじゃない」
「いや、どうせ池はそのうち別れるだろうし、その時を待てば」
オレの想像通りなら、池は用済みになったら終わりだ。
利用するだけ利用して、ボロ雑巾のように捨てられるだろう。
「別れなかったらどうすんのよ」
説明するのは簡単だが、池のことが好きだという篠原に、利用されてるだけだから大丈夫、とは言いにくいな。
どうしようか。
「……いや、池は彼女にだいぶ不満があるみたいだから」
「不満? どんな不満だったの?」
中間テストで山内の勉強を見たついでに、池の勉強の面倒も見ていた。
そのおかげで、嫌でも愚痴を耳にする機会があった。
「言ってもいいが、聞いても怒らないって約束できるか?」
「する。するから教えてよ」
そういう二つ返事は、だいたい怒るパターンだ。クイズに続く女子の理不尽その2だな。
「池は、やらせてくれないのが不満だと」
「は?」
「だから、やらせてくれないのが不満だと」
同じことを2回口にした。
2度目でようやく意味が通じたらしく、篠原の顔が真っ赤に染まる。
「さいてーーーーーー」
これは怒っているのか、よからぬ想像をしたせいか、判断に困る。
オレの想像通りなら、池は彼女から利用されているだけだ。
池が頑張れば、ご褒美に飴が貰える可能性がゼロではない。
が、それは飴がご褒美にならなければ意味がないわけで、相手は出来るだけ高く売りたいはずだ。結果として池は、彼女ができたのに色々お預けを食らっているらしい。
キスすら拒否されているみたいだ。
なお、山内も同じ。どんまい。二人で愚痴りあっていた。
そして、彼女すらいない須藤に、自慢するなって怒られていた。
「落ち着け」
「落ち着いてるから」
「本当に池は最低なのか?」
「最低じゃん。やらせてくれないって」
「池の肩を持つわけじゃないが、別に男子高校生として普通じゃないか」
「はぁあああ?」
だから落ち着け篠原。声が裏返っているぞ。
「こういっちゃなんだが、男なんてそんなもんだと思うぞ」
「…………」
種の生存本能としても、異性とやりたいというのは正しい。
その気持ちを失ったら種族が滅亡してしまう。
「まあ、平田みたいにそんな感じがしない奴もいるが」
「そうよ。平田君は違うでしょ」
「平田みたいにモテる奴なら、焦る必要ないからな。篠原には悪いが、池はモテてきたわけじゃない。そんな池に彼女が出来たんだ。そっち方面を期待するなって方が無理があると思う」
「それはそうかもしれないけど……」
イマイチ納得しがたいのか、篠原の声色は不満そうだ。
「篠原のその感覚も間違っていない。付き合ったからって、絶対にやらないといけないわけじゃなければ、まだ高校生だ。慌てる必要はない」
「じゃあ、それでいいじゃない」
「それとやりたいかどうかって気持ちは別だからな。相手がやる気ならそれで終わりだが、その気がないのに、やりたいやりたいって向けられたら辛いんじゃないか」
「…………」
「だから、池は長持ちしないんじゃないかって思う」
実際は、最初からそもそも相手に付き合う気もないんだろうが。
可愛い子と付き合えた思い出を胸に、池は頑張って欲しい。
「じゃあ、そのうち別れるんだ」
「オレの予想が正しかったら」
「その時がチャンスなわけ?」
「……どうだろうな」
「あんたどっちの味方なのよ」
「篠原の味方のつもりなんだが」
「はあ?」
どうやら篠原は、理解していないらしい。
それを説明するのも、気が重い話だ。まあ、今更か。
櫛田め、上手く押しつけやがって。たぶん、櫛田にも見えていたはずだ。
それを説明したくなかっただけで、オレに丸投げしやがった。
「池は高確率で別れる。ここまでは、いいか?」
「うん、だからチャンスが来るんでしょ」
「で、池が別れる理由は何だ?」
「……池君が……やりたがるから?」
そんな感じの恥じらいはいいぞ、篠原。
今まで評価してこなかったが、ここにきて篠原の可愛い一面が出てきた。
「そうだ。池がフリーになった。池と付き合うだけならチャンスといえるかもしれない。ただ、池と篠原が付き合ったらどうなる?」
「…………」
「池がやりたがるってのは、変わらない。そうなったら篠原の取れる選択肢は3つだ。
1、それに応える。
2、池がやりたがるのを我慢して付き合う。
3、我慢できずに別れる」
指を折りながら予想される3つの未来を掲示する。
篠原のリアクションを見る限り、池がやりがたっていることについて嫌悪している。
だとしたら、池がフリーになってもチャンスだとは言い難い。
「付き合うことがゴールならチャンスだ。ただ付き合ったその先まで、考えておいた方がいい」
「……考えろって」
「男ならそんなもんだ」
「…………」
男ならと言ったが、モテない側の池は、特にそういう傾向が強いだろうが。
篠原は、黙ってしまった。現実を知ってしまったか。
「別れるまでは時間がある。ゆっくり考えるといい」
「……分かった」
これで篠原の相談は、終わりか。どうにかこなすことが出来たらしい。後で櫛田にご褒美を請求しよう。
「……綾小路君で練習するっ」
「は?」
「受け入れたいけど、その……怖いから、練習に付き合えって言ってるの」
「いや、オレは彼女が」
「黙ってればいいでしょ」
それはそうなんだが。篠原は、やらかしそうで怖い。
とはいえこれは据え膳か。
あとで怖い事になりそうだが、据え膳喰わぬは男の恥だ。そこを捻じ曲げるわけにはいかない。
「池君が別れるまでに、慣れればいいんでしょ」
「それはそうだが……」
「だから、綾小路君が教えて」
そういう問題なんだろうか。
目がガンギマリの篠原が怖い。このままだと帰ってくれなさそうだ。
よし、覚悟を決めろ。
池の未来のため一肌脱ぐのは癪だが、文字通り一肌脱ぐか。
櫛田よ、なんてチャンスとピンチを与えやがる。ありがとう櫛田。
さすくし。
「篠原」
「綾小路君」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
あれ? 爆弾を解除するはずが、新たに爆弾を抱えてないか。
まあ、いいか。篠原の希望に応えただけだから、そういう意味での爆弾はないはずだ。
「綾小路君」
「どうした?」
「練習で、最後までする気はなかったんだけど」
「……それはすまん」
つい勢いでやってしまった。
爆弾じゃねえよな。
「池君が別れるまで、また練習に付き合ってもらうから」
「分かった」
断れるはずがない。たぶん、ギリセーフ……のはず。
またと言わず、このあとたくさん
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