綾小路Tレックス   作:チームメイト

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ペーパーシャッフル編その6 最大のピンチ

 10月19日 土曜日

 

 爆弾処理ウィークの6日目。

 

 昨日は、爆弾とは無関係の長谷部、小野寺と遊んで終わってしまった。

 おかしい。なんでこうなった。

 

 ま、まあ、まだ慌てるような時間じゃない。

 若干、追い詰められてしまった感があるけど、今日から土日だ。

 終日自由に使えるというのは大きい。残る3人の堀北、松下、白波の爆弾解除を終わらせることができると信じたい。

 

 白波は、Bクラスと既にアポイント済みだ。明日が勝負になる。

 つーわけで、今日は堀北と松下の爆弾解除だ。

 

「……堀北は後でいいか。難易度の割に疲れそうだ」

 

 堀北の爆弾を解除できる自信はある。だが、精神的な負担がしんどそうでもある。

 先に松下を処理しよう。

 

 あっさりと今日の午後なら、と話がまとまり13時に部屋へ来てもらう約束が取れた。

 

 現在の時刻は9時だ。あと4時間をどう過ごすか。

 松下より先に堀北を呼び出せばいいんだが、気が進まないから困る。

 

「うーん……何か気合が入りそうなものは」

 

 週末の習慣として、部屋を整理していると買ったばかりの紙袋が目に入った。

 結局、長谷部や小野寺相手で使う機会がなかった旧スクール水着だ。

 

「…………」

 

 堀北なら着てくれそうな気がする。

 旧スクを着せるという名目でやる気を出せば、先に堀北でもどうにかなりそうだ。

 だが、それをやるとご主人様としてレベルアップしてしまうジレンマ。

 

 堀北に着せるべきか、我慢するべきか。

 旧スクを袋から取り出して考えてみた。

 

「……いっそのこと、オレが着てみるっていうのはどうだ」

 

 堀北に着せようとするからおかしくなるんだ。

 旧スクは女性用だが、伸縮性からすればいけるはず。

 

 言い訳するわけじゃないが、血が迷ったときなんて、こんなもんだろう。堀北についてああじゃないこうじゃない、と考えるのがバカらしくなったせいだ。

 

 オレは衣服を脱ぎ捨てると、旧スク水に両足を通した。

 

「おお、伸びる。これならイケるな」

 

 サイズ的にどうなのか不安だったが、思った以上の伸縮性があり、右手、左手と順番に通すことが出来た。旧スク水男子の完成だ。

 

 そのまま洗面台へ鏡を見に行く。

 

「違うな。……濡れてないとダメか」

 

 何かが違った。そうだ、濡れていないのがダメなんだ。

 すぐに風呂場に突入して、シャワーをさっと浴びる。

 

 再び、鏡と向き合った。

 

「……男が着るもんじゃねえ」

 

 分かっていた。分かっていたんだ。

 ただ旧スク水を来た変態がいた。

 

 せっかくの旧スクの二重構造の前面スカートも、オレが着るとTレックスの隠しきれないモッコリ感が押し上げていて台無しだった。

 そして何よりも動きにくい。

 伸縮性はあったから着れたけど、快適からは程遠い。

 つーか、結構締め付けがきつい。Tレックスのモッコリ感で分かってたけど。

 

「よし、さっさと脱ごう……あれ? あれ?」

 

 こんな姿からさっさとおさらばすることに決め、着脱を開始する。

 しかし、思ったよりも密着していて、窮屈さから腕が引き抜けない。

 水で濡らしたせいか、重いし張り付いてるしで、苦しい。

 

 濡らす前に脱げよ、オレ。

 反省しかない。

 

 強引に脱げばいけると思うが、それで破れたりしたらせっかく買った旧スクがお釈迦だ。

 乾くまでしばらく待つしかないか。

 

「……ん? 電話か」

 

 諦めてしばらくスク水で過ごすことを決めたのを見計らったように、携帯が鳴った。

 

「綾小路くん、大変だよ」

「ああ。スクール水着(大変な状況)に追い込まれている」

「昨日のメッセージに反応なかったから心配してたけど、分かってたんだ。じゃあ、大丈夫だね、佐藤さんがそっち向かったから」

「は? 今何て言った?」

「頑張ってね」

「櫛田!? オレを見捨てないでくれ、櫛田」

 

 通話は切れた。

 

 昨日のメッセージってなんだ。

 長谷部と小野寺相手にハッスルしていたせいで、チェックし忘れている。

 

 慌てて、メッセージをチェックした。

 

女の子情報(最新版)

 ・櫛田桔梗   …ときめき

 ・堀北鈴音   …ときめき 爆弾

 ・佐倉愛里   …ときめき

 ・長谷部波瑠加 …好意

 ・佐藤麻耶   …ときめき 爆弾 

 ・松下千秋   …好意 爆弾

 ・小野寺かや乃 …好意

 ・篠原さつき  …好意

 ・一之瀬帆波  …好意 爆弾  

 ・橘茜     …好意

 ・白波千尋   …嫌い 爆弾 

 

「ガチで大変なことになってるじゃねえか……つーか、増えすぎだろ!!」

 

 あと3人と思っていたら、あと5人になっていた件について。

 佐藤と一之瀬に何があった。

 白波(ラスボス)の爆弾……見ないようにしたい。

 

 と、この衝撃の事実を知ったタイミングでチャイムが鳴る。

 櫛田が言っていた、佐藤が向かったっていうのは、このことか。

 

 予告なしで部屋に来るとか、普段なら困るところだが、ナイスタイミングだ。

 どうにか爆弾を解除しなければ。

 オレは迎え入れるべく玄関に向かって──慌てて引き返した。

 

「スク水じゃねえか」

 

 いかん。スク水を着たまま出迎えはアウトだ。

 だが、佐藤はもう玄関先まで来ている。さっさと迎え入れなければ目立つ。

 まだ濡れたままで密着度が高い。

 

「ええい」

 

 オレは咄嗟に長めのパーカーを羽織って、玄関に走った。

 

「どうした?」

 

 ジッパーを引き上げつつも扉を開ける。

 

「綾小路くん。ちょっと話があって」

「部屋に来るなら、先に連絡が欲しかったんだが」

 

 一応、釘を刺しておこう。今回は急に来てくれて助かった部分もあるが。

 

「しようと思ったんだけど、どうしても直接話がしたくて」

「あがってくれ」

 

 大ピンチだったが、どうにか取り繕うことができた。

 実態は、濡れた水着にパーカーの組み合わせだ。かなり気持ち悪い。

 落ち着かない中で、なんとか佐藤の話を聞いた。

 

「それでどうしたんだ」

「どうしたっていうか……聞きたいことがあって」

 

 佐藤は、言い出しにくそうにソワソワしていた。

 視線をそらして髪を指で回している。

 

「聞きたいこと?」

「その……昨日、堀北さんと綾小路くんが話してるのが、聞こえたんだけど……」

 

 語尾が弱く消えるような声だった。

 

「…………」

 

 しばらく待つと、佐藤は決意を固めるように頷く。

 

「私に2点取らせたのは、高円寺君のためだったって本当なの!?」

 

 切実な叫びだった。

 

 その話か。

 そういえば、その説明を堀北にしていた。

 堀北に問い詰められた結果だが、佐藤に聞かれていたんだっけ。

 目があったんだからそりゃそうだ。

 

 高円寺のためだったって言われたら語弊があるが、ここは肯定しておこう。

 

「嘘か本当かの2択なら、本当だな」

「やっぱり……」

「ただ、佐藤と組みたかったというのも本当だ」

「え?」

 

 顔を伏せかけた佐藤が、こっちを見る。

 

「どこまで話を聞いていたのか知らんが、高円寺の対策を練る必要があった。この前、退学者が出るかも知れないって説明したのは覚えているか?」

「……うん、それは聞いたけど」

「それくらい今回の特別試験は厳しい試験だ。高円寺に一方的にかき回されることを想像してみろ。下手な組み合わせが出来たら、本当に退学してしまう可能性が高い」

 

 ペア対策をしっかり練れていれば、可能性はかなり減らせるはずだ。

 しかし、裏を返せば仮にペアの組み合わせに失敗したら、そこから救済するのも難しい。

 そこをコントロールできる範囲で失敗しないように、どうにかする必要があった。

 

「それって高円寺君が変なことしてたら、私が退学候補になってたってこと!?」

 

 それを請け負わせたのが佐藤だ。

 佐藤に2点取らせたことにより、仮に高円寺が暴走したら佐藤が影響を受け止める形ができていた。

 

「あー違う。逆だ逆。最悪、佐藤ならカテゴリー3になっても大丈夫だと思っていた。退学候補を出さないためのものだ」

「で、でも、私……成績よくないし」

「今はな」

 

 佐藤の成績は、カテゴリー4に入っていることから分かる通り、残念ながら褒められたものではない。

 

「佐藤の場合、国語・数学・英語の主要科目が足を引っ張っている」

「…………」

「が、社会科目と理科科目は別に悪くない。これは何故か分かるか?」

「……暗記科目だから?」

「惜しいけど違う。この2科目は、高校から勉強して間に合う科目だからだ」

「どういうこと?」

「国数英は、高校の勉強が中学の勉強の延長線上で、中学で学んだ知識が前提になっている。中学時代に勉強を疎かにしていたら、高校から学ぼうとしても難しいんだ」

 

 中学英単語・文法の知識がなければ、高校の英語を学ぶことは難しい。

 数学もそうだ。

 国語は、どうにかならなくもないが、やはり基礎が大事になる。

 

 それと比べれば、社会科目や理科科目は、中学で学ぶ内容と全く無関係とまでは言わないが、国数英と比較したら高校の内容が独立している。

 

「佐藤は、社会科目と理科科目は取れているから、別に学力がないわけじゃない。ただ、中学で土台を作れていないから、高校で苦労しているだけだ」

「……中学の頃は、色々あったから」

 

 話を聞いたわけじゃないけど、遊んでいたんだろうな、とは節々から感じている。

 過ぎたことは仕方ない。

 

「あ、私の初めては綾小路くんだからね」

 

 オレが佐藤の中学時代について考えていると、慌てて佐藤が主張してきた。

 顔を真っ赤に赤らめてまで言いたかったことらしい。

 それは知っているからノーコメントだ。

 

「だから、中学から勉強をやり直していた。中間テストには間に合わなかったが、期末までにはどうにかする予定だった」

「…………」

「当然、真面目に勉強すればって話だが」

「……頑張る」

 

 無人島・船上試験以降は、松下を中心にして、Aクラス入りを目指している。

 夏休み後半から、何度か集まって勉強会が実施されていた。

 

 佐藤は、基礎が抜けているため苦労しているが、教えれば理解は悪くない。

 そして、須藤の小学生からやり直しと比べれば、かなりマシな部類だ。

 今は、中1を通り越して中2の終わりくらいまで到達している。

 勉強会の頻度をあげれば、期末までにどうにか今の授業内容に追いつくことは出来る。

 

「まあ、無事にオレとペアになれたから、期末はそこまで慌てる必要はないんだが」

「ううん。いつまでも足を引っ張りたくないから、勉強を教えて」

「佐藤がやる気ならそれでいい」

 

 嫌々勉強させるよりは、本人のやる気に沿った方がいい。

 佐藤とのペアが決まった段階で、そこまで急ぐ必要はないと思っていたが、期末に間に合うようにどうにかするか。

 

「一緒に頑張るか」

「うん」

「納得できたか?」

「うん」

 

 よし、とりあえず佐藤を説得することができた。

 切り捨てられるのか不安で生まれた爆弾なら、これで解除されたはずだ。

 

 あとは勉強を頑張るだけだが、爆弾解除記念にまずは景気付けといこう。

 

「佐藤」

「綾小路くん」

 

「「綾小路ティーー「え!? どうしてスクール水着来てるの!?」」

 

 しまったぁあああああ。

 旧スクを着てたのを忘れていたぁああああああ。

 

 喧嘩になりかけたのをなんとか回避して、いざパーカーを脱ぎ捨てたら、中から女性向けスクール水着がこんにちは!

 ついでに旧スク特有の水抜き用の穴から臨戦態勢に入ったTレックスがこんにちは!

 パオーンだ。

 まさか旧スクも、水抜き用に作られた穴がこんな使われ方するとは思わなかっただろう。

 

 どんな状況だ。

 どうする。どうすればいい。

 

 櫛田、なぜこんな大事なことを教えてくれなかったんだ。

 俺を見捨てないでくれ櫛田。

 

「そこにスクール水着があったからだ」

「理由になってないし」

 

 こういう時の定番が通じないだと。

 く、佐藤ならこれでいけると思ったのに。

 

「き、着てみるか?」

「それはちょっと……」

 

 そりゃそうか。未使用ならまだしも、進行形で男が着用中のスクール水着を着たがる女子なんかいな──堀北あたりがどう答えるのか怖い。

 堀北。オレの思考の邪魔をするな。今は大変な状況なんだ。

 

「オレにもよく分からないんだ」

「分からない?」

 

 しいていうなら、衝動的に着ただけでしかない。

 理由を説明されても困る。

 

「大事なのは、オレと佐藤が今向き合っていることなんじゃないか?」

「向き合っていること?」

「佐藤は嫌か?」

「……スクール水着はどうかと思うけど、嫌じゃないかも」

「ならやることは1つだ」

 

 佐藤は、困惑しながらも小さく頷いた。

 よし、このチョロさこそ佐藤だ。やっぱり佐藤はこうじゃなければ。安心できる。

 

「佐藤」

「綾小路くん」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 

 佐藤の爆弾を解除した。

 ただ、何かを犠牲にした気がする。

 

 昨日、長谷部と小野寺が着てくれなかったのが悪い。

 そういうことにしよう。




女の子情報(最新版)
 ・櫛田桔梗   …ときめき
 ・堀北鈴音   …ときめき 爆弾
 ・佐倉愛里   …ときめき
 ・長谷部波瑠加 …好意
 ・佐藤麻耶   …ときめき 解除されました。
 ・松下千秋   …好意 爆弾
 ・小野寺かや乃 …好意
 ・篠原さつき  …好意
 ・一之瀬帆波  …好意 爆弾  
 ・橘茜     …好意
 ・白波千尋   …嫌い 爆弾 
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