ミッション──堀北の爆弾を解除せよ。
一之瀬と別れたのが11時30分。
Bクラスとの話し合いは、少し調整して12時15分にスタート。
つまり、40分強で堀北の爆弾を解除しなければならない。
時間のロスは許されない。既に堀北をケヤキモールへ呼び出し済みだ。
カラオケボックスへと向かい、聞いていた番号の部屋へと入る。
堀北、佐倉、佐藤、松下、長谷部というCクラスの綺麗どころが揃っていた。
なお、小野寺は部活で、櫛田はBクラスとの話し合い後の交流会の準備のために不在だ。
交流会にどれだけCクラスの生徒が集まるのかは、櫛田にかかっている。櫛田に任せとけば問題ないという安心感があった。
「あやのん。ちょうどいいところに来た。どれがいい?」
入って早々、長谷部からテーブルの上のものを勧められた。
「たこ焼きか?」
「ただのたこ焼きじゃないよ。ロシアンルーレットたこ焼き。この中の1個が激辛のやつ。そろそろあやのんが来るかなーって頼んでおいたんだ」
「いきなりゲームかよ」
「丁度6個だし、いいかなって。激辛引いた人は一曲歌ってもらうから。歌い終わるまで水はお預け」
「しかも罰ゲームつき」
「楽しそうだし、綾小路くんも一緒にやろうよ」
長谷部の言葉通り、たこ焼きの数は6個だ。
オレを加えた部屋の人数とピッタリ合っている。
佐倉は、困ったような表情をしている。罰ゲームのことを考えているのかもしれない。
佐藤は、楽しそうだ。こういうのも好きらしい。
堀北の表情は読めない。が、内心で何が面白いの? くらいに思っていそうだ。
松下は、興味深そうにオレのことを見ている。オレが罰ゲームを食らうのがみたいのかもしれない。
正直、時間をロスしている暇はないんだが、食べないと始まらないか。
仕方ない、空気を読もう。
「分かった。一回だけな、これで」
「オッケー。愛里から順番に取っていって、私は最後でいいから」
ゲームの言い出しっぺらしい長谷部は、ずるが出来ないように余りものを選んだ。
表面上は同じに見えたため、適当に選んだが何か見分けるコツがあるんだろうか。
愛里が真剣な顔で悩んだり、選び方に各自のキャラが出つつ、それぞれの手にたこ焼きが渡った。佐藤はちょっと悩みすぎだ、30秒返せ。
「それじゃあ、みんな持って。同時に、せーのでいくよ」
「待て」
「どうしたの? あやのん」
「せーので食べるよ、に訂正してくれ」
「なにそれ?」
「頼む」「私からもお願い」
オレの訂正に、同じトラウマを抱える松下も乗ってきた。
「よく分かんないけど分かった」
『せーのでいく』に対して、嫌な思い出があるんだ。一瞬、堀北の目が鋭く輝いように見えたのは、気のせいだと思いたい。
「せーので食べるよ。せーの、いただきます」
同じタイミングで、たこ焼きを口に入れる。
美味しい──というか、ソースの味が強い普通のたこ焼きだ。小麦粉をソースで食べて、申し訳ない程度にタコらしきものが入っている感じだ。
たこ焼きの味の分析はいいか。とりあえず外れじゃなかっただけで正解だ。
当たりか外れかの判定は、一瞬だ。口に入れるまでは緊張していたが、当たりと分かった瞬間にそれぞれが周りの様子をうかがいだした。
当たりを引いたただ一人を除いて。
「…………くっ」
堀北だ。
珍しく顔を赤くして苦悶の表情を浮かべている。
「はあ……はあ……っ……」
いや、アレは喜んでいるのか!?
分からねえ。
「ホリホリが当たったみたい」
「待て、なんだその珍妙な呼び名は」
「堀北さんだからホリホリ? あやのんに合わせてホリリンでもいいよ」
「どっちもやめろ」
あやのんホリリンは、お断りしたい。が、あやのんホリホリも却下だ。
堀り堀りとか何を掘る気なんだ。堀北をこれ以上目覚めさせるのはやめてくれ。
つーか、こういうので怒りそうな堀北は認めたのかよ。勘弁してくれ。
「要検討ってことで、じゃあ、堀北さん歌ってもらおうか」
「……分かったわ」
堀北がリモコンを手に取った。
「堀北さんが歌うの初めて聴く」
その様子を見て、佐倉が小声で教えてくれた。
「そうなのか?」
「うん。今日は佐藤さんが中心に歌ってたから」
「愛里は歌ったのか?」
「あう……1曲だけ」
「そうか。聞きたかったな」
「恥ずかしい」
一之瀬とのデートで逃したのが悔やまれる。
ってこれだとデートが悪いみたいになってしまう。デートだから仕方ないってだけだ。
で、堀北はどんな曲を歌うんだ?
時間はもったいないが、興味深いところもあった。
リモコン操作を終えた堀北は、マイクを手にしてモニターの前に立つ。
同時に流れ出す、どこか物悲しいメロディ。
『メンチ・哀愁のボレロ 食すのね』
知らない曲だ。
そして、堀北が歌い鳴き始める。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
ものすごく微妙な空気が流れていた。
どんな曲だったかは、察してくれ。
「ふう……落ち着けたわ」
堀北だけがご満悦な表情で、水を飲んでいた。
相当辛かったらしく、コップ一杯を一気飲みだった。
「…………(堀北がやばい)」
「…………(堀北さんがやばい)」
「…………(堀北さんって)」
「…………(いい曲だったかも)」
「…………(堀北さんはブレないよね)」
佐倉、お前だけ意思疎通が出来ていないぞ。後で説教だ。
そっち方面に進むことは許さない。
つーか、どうするんだ。この空気。
こういう時は、空気を読めないことに定評がある佐藤だ。
どうにかしてくれ、と佐藤に視線で訴えかける。
「そ、そういえば、綾小路くん。今日が誕生日だよね。おめでとう」
「ありがとう、佐藤。本当にありがとう。大好きだ、佐藤」
今日ほど佐藤がいとおしいと思った日はない。
佐藤史上最高の日だった。
「私も……ってそうだけどそうじゃなくて、誕生日プレゼント。今年は、バラバラにじゃなくてみんなでポイントを出しあって1つにしたから」
「そうなのか、ありがとう」
「あとで届くはずだから」
「楽しみにしておく」
この後予定が色々埋まっているせいか、郵送になっているらしい。
寮の管理人に届くんだっけ。通販とかは利用したことが無いから分からない。
どういう経緯で、個別ではなくまとめてになったのか気になるところだ。
「私は、本当は犬小屋を送るつもりだったわ」
堀北がいきなりぶっこんできた。
「佐藤、ありがとう。大好きだ」
「うん。さすがに止めた方がいいと思ったし」
「佐藤さんだけが止めたわけじゃないからね。みんなで止めたから」
「大好きだ、松下」
犬小屋を誕生日プレゼントに送ってどうするつもりだ。
オレの部屋に置くつもりだったのか。それとも寮の裏側にでも設置か。
どっちにしろ扱いに困る品物でしかない。
「残念ながら売っていなかった」
「止められた結果諦めたんじゃないのかよ」
学校の敷地内にペットショップは存在しない。ペットは禁止だ。
「冗談よ」
「心臓に悪い冗談は、やめてくれ」
「今は冗談よ。楽しみは10年後に取っておくわ」
「冗談をやめなくていい! 未来永劫冗談であってくれ!」
櫛田家の敷地に犬小屋を置くスペースはありません。
オレも櫛田も猫派だ。今決めた。犬派になんかならねえよ。
「せめて、犬耳と尻尾のコスプレをつけさせて欲しかったわ」
「……しなくていいぞ」
そういえば、犬用のコスプレを持ってるんだっけ*1。
く、ちょっといいかもって思ってしまった。
ペットの堀北犬は要らないが、アニマルコスプレの堀北は可愛いんじゃないか。
だが、犬耳はともかく尻尾はやっぱり待て。どこから生やすつもりだ。言わせねえぞ。
「わ、私もバニーガール」
「佐倉、対抗しようとしなくていいんだ」
そういえば、佐倉はバニーガールの衣装持ってたっけ。
せっかくタブレットも買ったし、撮影しないともったいない。予定に入れておこう。
「私は猫耳?」
「佐藤も頑張らなくていい」
血統書付きなのに、しつけがなってなさそうな猫だ。
色々と惜しいことになりそう。佐藤よ、お前は猫になり切れるのか?
猫耳をつければオッケーとか、そんな安いものではないんだぞ。猫の道は。
「じゃあ、私は牛ガール?」
「長谷部のは、普通に見たいから困る」
巨乳だけに、牛の衣装が映えそうだ。
佐倉のバニーガールと並べたい。
出来ればセクシーな奴で頼む。
「あとは何があるんだっけ。狐とか?」
「松下、約束したからな。絶対だかんな」
「綾小路くんの食いつきがすごい」
松下がドン引きしている。
仕方ないじゃないか。松下の狐コスとか絶対見たい奴じゃん。
って違うそういう話じゃなかった。
「犬小屋も犬のコスプレも却下だ」
「……そうね、普段使いの首輪だけで我慢する」
「一番たちが悪い提案はやめろ」
普段使いってなんだ。どこまでが普段に含まれるんだ。
日常的に首輪をつけて学校に通う堀北とか、もう責任取れねえよ。
毎日クラスポイントが差っ引かれるんじゃないか。オシャレの範囲内で許されるのか。
万が一やらかしたら、首輪に須藤ってネームプレートつけてやる。
須藤は大喜びだろう。
「……ふぅ、まだ違和感があるわね」
「ずっと絶好調だったけどな。そんなに辛かったのか」
「二度と遠慮するわ。こんなもので盛り上がる人たちの気が知れないわね」
罰ゲームを引いてしまったのもあってか、堀北のロシアンルーレットたこ焼きは、苦い経験で終わったらしい。かなり辛口な評価だ。
「えーそうかなー? 結構盛り上がるんだけど」
「佐藤さん。私だからいいものの、人が苦しむ様子を見て何が面白いのかしら」
「そう言われると困るけど、スリルを楽しむって言うか。私も苦しむ側に回ることあるわけだし」
苦しむ様子を笑うというか、運が無かったやつを笑うゲームだと思う。
誰にでも当たりえるというのが大事で、単純で運だけに任せる勝負というのが面白いんだろう。
私だからいいもののという部分はスルーしよう。このドMめ。
あとは罰ゲームで歌わせることによって、積極的に歌いたがらない相手の歌を聴けるのも楽しい──堀北のは、酷かったが。
結構、盛り上がるためのゲームとしては、上手くできているのかもしれない。
遊びの範囲とはいえ、勝ち負けにこだわるタイプにとっては楽しくないか。
運が大きく影響するとしても、どうせ勝負するなら、そこに戦略性があって欲しい。
「なるほど。スリルを楽しんで盛り上がるゲームだというのは、理解したわ」
「また今度やろうよ」
「そうね。今、もっと面白くて盛り上がるゲームを思いついたのだけれど、それでよければ今度やってもいいわ」
「なになに、どんなゲーム?」
堀北と佐藤の会話が盛り上がっている。
割と珍しい展開に、興味深そうに見守らせてもらった。
堀北の思いついたゲームとはどんなものか。Cクラスのリーダーのお手並み拝見といこう。
「似たようなゲームよ。そうね、綾小路君の代わりに小野寺さんに参加してもらうわ」
なんかいきなり除外された。少し寂しいが、まあいい。続きを聞かせてもらおう。
「コンドームを6枚用意して、1枚に穴を空けるの。ランダムに1つ選んでもらって、あとは綾小路くんとしてもらうというゲームはどうかしら」
「スリルがありすぎるだろうが! それで盛り上がるのはお腹だけだ!」
「上手いこと言うのね」
「全然うまいこと言えてねえよ」
ロシアンルーレットたこ焼きから、ロシアンルーレット中〇しの着想を得てんじゃねえよ!
どんだけスリルをあげてやがる。
つーか、スリルというかリスクが高すぎる。
「……ちょっといいかも」
「……やりたい」
「みんな、否定しなよ」
「私も流石にどうかと」
佐藤と佐倉は後で説教だから。佐倉はさっきのと併せて倍だからな。
「ああ、もういい。堀北ちょっと来い」
「なにかしら」
オレは堀北を入口近くの席へと呼びよせる。
コイツの爆弾の要因は、しつけ不足だ。きっとそうに違いない。
ゲームで時間も無駄に使ってしまったので、Bクラスとの打ち合わせも考えると急がなければ。
非常に癪だが、堀北をもう一度しつけなそう。
短時間でサクッと。それにはスリルを利用するしかない。
「佐藤達は、こっちを気にせずカラオケで盛り上がっていてくれ」
「えっと……」
「頼む」
「分かった。私が歌おうかな」
佐藤がマイクを手に取り、佐倉がタンバリンを手に取った。それでいい。
松下や長谷部も適当に盛り上がってくれるだろう。これで準備は整った。
「堀北、しつけだ」
「正気? 監視カメラがあるわよ」
さっきまで、ロシアンルーレット〇出しを提案していた奴と同一人物か疑わしいくらいに、まともな意見だった。
そう、カラオケボックスには、監視カメラが設置されている。
部屋でいかがわしい行為をしていると、店員が飛んでくるだろう。
「ここなら死角だ」
だが、監視カメラといっても万能ではない。
博士情報によれば、あのタイプの監視カメラは部屋の大部分をカバーできるが、それでも入口のドア近くの座席まではチェックできないらしい。
通常であれば、それで問題とはならない。
ずっと、監視カメラの死角に男女で篭っていたら、店員がチェックすればいいからだ。
だが、今のこの部屋の状況はどうだ。
佐藤が歌い、佐倉がタンバリンを鳴らし、合いの手を入れる松下に、聞き入る長谷部。
オレと堀北が死角に消えていたとしても、監視カメラの映像では普通にカラオケを楽しんでいるだけの部屋でしかない。
Aクラスを目指すメンバーが揃っていれば、こんな奇跡のような環境を用意することだって出来る。堀北のドМ願望をかなえて爆弾を解除するには、うってつけのシチュエーションだ。
「堀北」
「ご主人様」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
堀北と深いキスを行った。
軽いキスという意味でフレンチキスが使われることがあるが、これは誤用だ。フレンチキスとは本来、べっちょべっちょな下品なキスのことを言う。
なんで
ほら犬に噛まれたと思ってみたいな言い回しあるし、犬に舐められたと思って……無理があるか。
と、とにかくだ。カラオケボックスというシチュエーションが効果的だったらしく、どうにかしつけ直すことに成功したようだ。これで爆弾は解除だ。
さっさと身づくろいをすませて、Bクラスとの打ち合わせに行こう。
女の子情報(最新版)
・櫛田桔梗 …ときめき
・堀北鈴音 …ときめき 解除されました。
・佐倉愛里 …ときめき
・長谷部波瑠加 …好意
・佐藤麻耶 …ときめき
・松下千秋 …好意
・小野寺かや乃 …好意
・篠原さつき …好意
・一之瀬帆波 …好意
・橘茜 …好意
・白波千尋 …嫌い 爆弾