綾小路Tレックス   作:チームメイト

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ペーパーシャッフル編その11 綾小路くんの多忙な一日(完)

「清隆、部屋に連れ込んで何をする気だよ」

「一之瀬についてちょっと相談がな」

「そうか……そうなのか?」

 

 須藤が首を傾げながらも、自分の部屋へと入っていった。

 アカンパニーオンとか言ってみたが、普通に解散後に白波を連れて帰っただけだ。

 人間はワープとかできない。

 

 部活帰りらしい同じ階の須藤に見られて、常識的なツッコミをされてしまった。

 首を傾げながらも自分の部屋に入っていくあたり、見られたのが単純な須藤で助かった。

 

 白波を部屋に上げる。

 

「…………部屋に連れ込んでどうするつもり」

「話をするつもりなんだが」

 

 警戒心マックスって感じで部屋を見回している。

 

「とりあえず適当に座ってくれ」

「ベッドには座りませんよ」

 

 こういうときにクッションがあって助かった。

 オレがベッドに腰掛けて、テーブルをはさんで向き合う。

 飲み物は出さなくていいか。

 この警戒した感じだと怪しまれるだけだ。

 

「それで一之瀬とオレの関係だが……」

「…………」

 

 話の続きに入ろう。

 仮の恋人だったとか、そういう流れだったはず。

 

「元々7月にクラスでちょっとしたトラブルがあり、一之瀬には解決に協力してもらった」

「須藤くんの暴力事件」

「そうだ。一之瀬の活躍が決め手となって助けられた」

 

 一之瀬の協力がなかったらもっとメンドクサイことになっていただろう。

 つっても、証拠の動画があった時点でどうにでもなる範囲だったが。

 

「その流れで、仮で付き合うことになったんだ」

「意味がわかりませんよ」

 

 もっともなツッコミを受けてしまった。

 そりゃそうか。ちょっと端折りすぎたかもしれない。

 とはいえ、元々の原因は白波にある。

 一之瀬が白波に告られてアタアタしたのがきっかけといえばきっかけだ。

 あの時、偽の彼氏役を頼まれて、恋愛に慣れるために実際に付き合ってみないかってのが発端だったはず。

 

 それを伝えた場合、白波がキッチンに走りかねないから隠すしかない。

 白波に話を隠す前に、包丁を隠しておけばよかった。

 

「それはあれだ。この学校の特殊さのせいだ」

「どういう意味。それ」

「学校に慣れる前で、特別試験も始まる前だ。違うクラスでどう影響するのか分からない中で、本当に付き合えるのかどうか様子を見る必要があった」

「……それはまあ、分かる気がします」

 

 実際は、互いに恋愛未経験で付き合ってみてどんな感じか慣れるのがメインだったが、様子見していたことは変わらないので、嘘は言っていない。

 

「無人島や、船上試験、体育祭を通じて、クラスとの折り合いがつけられると判断して正式に付き合うことになった」

 

 折り合いをつけたとしたら、環境というよりかは感情だったが、似たような響きだし同じってことでいいだろう。ちょっとガバガバすぎるけど、オーケーだ。

 

「つまり付き合いだしたのは、体育祭が終わってからと」

「そうだ」

「じゃ、じゃあ。正式に付き合うまで帆波ちゃんに手を出さなかったってこと……よね?」

「……そうなるな」

「帆波ちゃんだよ。あんなに魅力的なのに、綾小路くんって頭おかしいよ」

「ひどい言われようだ」

 

 さっさと手を出した方が、よかったんだろうか。

 仮に手を出していたと言ったら、やかんがプシューとなりそうで怖い。

 そんな悲しみの向こう側は嫌だ。

 

「そんなんで帆波ちゃんを満足させられるのかな」

「ひどい言われようだ(2回目)」

 

 白波がオレの何を知っているというんだ。

 

「本当は、私が帆波ちゃんと付き合いたい。でも、綾小路くんと付き合うのならそれはそれでいいと思ってるよ。帆波ちゃんが幸せならそれで」

「…………」

「でも、最近の帆波ちゃん元気なくて、体育祭終わった直後は浮かれてたのに、少ししたら考え込んでるのをよく見かけて、聞いても大丈夫だよ、しか言ってくれなくて」

 

 体育祭が終わってから。

 つまり、中間テストの突破に向けて来る日も来る日も山内と向き合った、山内ゾーンに入ってからか。

 

「最初は怪我したせいかなって思ったよ。でも、だとしたら最初に浮かれてたのがおかしいし」

 

 体育祭で結果を出せなかったのはBクラス。しかし、一之瀬の苦しみはそこじゃないらしい。

 

「綾小路くんと付き合いだしたから帆波ちゃんがそうなっちゃった。そうだよね。そうに決まってるよ」

 

 一之瀬が悲しんだとしたら、山内と向き合ったせいで一之瀬と向き合えなかったせいだ。

 全部山内が悪い。

 よし白波。山内を差し出すから好きにしてくれ。山内なら2,3回くらい刺されても、山内だろう。

 

「綾小路くんが下手くそなせいで、帆波ちゃんが苦しんでる。そうに決まってるよ」

「それは誤解だ」

「何が誤解なのか説明してよ」

 

 ん? 今、説明しろって言ったよな?

 つまりオレが下手くそじゃないことを証明することは、白波が望んだことでそれに応えるのは変じゃない。つまり、広義の据え膳と言えるんじゃないか。

 

「分かった。白波が判断してくれ」

「え?」

「オレが一之瀬を満足させられるのかどうかを」

 

 これは浮気じゃない。一之瀬と付き合えるのかどうかを確認するためのテストだ。

 テストなら仕方ない。

 Tレックスをテストする。

 つまり、ペーパーシャッフル試験ならぬ、テスト()Tレックス試験と言える。

 

「白波」

「綾小路くん」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 試験の結果には、勝利した。

 Tレックスに敗北の二文字は無い。

 

 

「ふふふ……」

「手を出しといてあれだが、ご機嫌だな」

「ついに私は究極の()()()()()()()を達成しましたから」

 

 ()()()()()()()

 そのワードを聞くのは、2回目だ。

 夏休みにプールで遊んだ時だ。女性陣がオレに抱き着くという謎のゲームが始まり、櫛田の策略で一之瀬も参加して腕に抱きついてきた。それが落ち着いたと思ったら、一之瀬に代わって白波が抱きついてきた時に聞いたセリフだ。

 

 一之瀬が振れたものを間接的に経験する。

 それが、間接帆波ちゃんだ。

 

 一之瀬に相応しいTレックスか証明するためとはいえ、やけに素直に受け入れたと思いきや、そんな目的があったとは。

 

 その言葉を聞いた瞬間、冷や汗が湧き出てきた。

 

 究極の間接帆波ちゃん=白波とオレのTレックスだ。

 確かにTレックスは、究極完全体の恐竜だからTレックスを究極と評すること自体は、間違いない。

 間違いないんだが……問題は、一之瀬とオレがまだピュアな関係であって、Tレックスを済ませていないことだ。

 

「どうしました?」

 

 動揺するオレを目ざとく見つけて、小首を傾げてきた。ちょっとカワイイ。

 充実し達成感の余韻か、かなり表情が柔らかくなった気がする。

 

 そんな白波に真実を教えるべきか、黙るべきか。

 

「あー……なんだ。非常にいいにくいんだが」

「いいよ。なんでも言ってください。今の私なら何でも受け入れますから」

 

 超ご機嫌じゃねえか。

 でも、『何でもって言ったよね?』って迫る余裕はなかった。

 

「落ち着いて聞いて欲しい」

「落ち着いてますよ」

「オレと一之瀬は、まだこういう関係じゃないんだ」

「あー、そうなんだね」

 

 ご機嫌なまま笑顔で、オレの言葉に相槌を打つ白波。

 うんうん、と2回頷いたところで、固まった。言葉の意味が理解できたらしい。

 そして、その笑顔が般若の形相へと変わる。

 

「──ってどどどどど、どういうこと」

「どういうこともなにもそういうことだ」

 

 オレの両頬をギュッと押さえつけて大きく揺らしてくる。

 

「えええええ、だって一之瀬さんは体育祭の後に、綾小路くんとすごい経験しちゃったって惚気てましたよ。その後落ち込みましたけど」

「キスしただけだ」

 

 一之瀬には悪いが、誤解を解くためだ。2人の現在地を白状しよう。

 

「ここ数日特に塞ぎこんでると思ったら、今日はちょっとスッキリしていて、午前中に綾小路くんといい汗流したんだーって惚気てましたよ」

「いい汗かいたが、スポーツジムで運動しただけだな」

 

 一之瀬よ。なぜそんな誤解を招きかねない言い方をした。

 塞ぎこんでいたのは、誕生日の約束をオレが忘れていたんじゃないかって気にしていたせいだろう。間違ってないからこれは黙っておく。

 

 そして白波。今日は一之瀬が満足していたならオレをチェックする必要なかったんじゃないか。

 

 オレのチェックを建前に、間接帆波ちゃんをやりたかったんだろうが、間接帆波ちゃんのために身体張りすぎだろ。

 

「じゃ、じゃじゃじゃじゃじゃあ、私と綾小路くんがしたことって一之瀬さんの後追いじゃないってこと」

「……残念ながら」

「それだと究極の間接帆波ちゃんじゃなくて、ただの直接綾小路くんじゃないですか」

 

 なんだよ。直接綾小路って。

 それはもはやただの綾小路だろ。

 

 ツッコミたいのをぐっと抑え込む。たぶん、ツッコんだら白波の怒りが有頂天だ。

 

「じゃあ、私は何のために綾小路くんとこんなことを!?」

「オレに聞かれても困るんだが」

「綾小路くんが手を出さなければこんなことになっていません。帆波ちゃんという彼女がいながら何やってるんですか」

 

 なんたる理不尽。

 第三者に責められるなら分かる。

 が、当事者で誘いかけてきた彼女の友達に、こんなことを言われないといけないんだ。

 

 彼女がいながら手を出すのはどうなんだって、そりゃそうだ、としか言えないが。

 

「せ、せめて今日はキスしたとかは?」

「あ、ああ。そういえば、キスはした」

 

 一之瀬すまん。具体的な話題は、避けたいところだが、このままだと白波が納得しそうにない。オレは爆弾解除を優先させてもらう。

 

「じゃ、じゃあ。私ともキス。せめて間接帆波ちゃんキスを」

 

 白波はそう宣言すると、オレの顔をに顔を近づけてきて押しつけるようにして唇を触れ合わせてきた。

 

「んんっ……ンゥ……」

 

 それだけに飽き足らず、唇を薄く開いてオレの口内に侵入してきやがった。

 できるだけ帆波ちゃん間接キスを堪能するつもりらしい。

 

「ぷはぁ……ふふふ、これで少しは帆波ちゃん成分を吸収」

 

 白波が離れ、オレと白波の唇の間で糸が垂れる。

 

「……そ、そうか。良かったな」

「チーズの奥にほのかに感じる甘さ。これこそ帆波ちゃん成分」

「……キスの後にチーズドリア食ったから」

 

 一之瀬としたのは軽いキスで終わりだ。

 べっちょべちょな下品なキスをしたのは、堀北とだ。

 なんだったら、一之瀬、堀北の順番だったから、完全にオレの唇は堀北で上書きされていたと言って過言ではない。

 

 つまり、白波は間接帆波ちゃんキスだと思い込んでいるが、実態は間接堀北キスだ。

 もっというなら、間接堀北フレンチキスだ。

 チーズの奥に感じた甘み成分があったとしたら、堀北エキスで間違いないだろう。

 

「…………」

「…………」

 

 白波は堀北エキスを取り込んで、恍惚とした表情を浮かべている。

 残念だが、堀北なんだ。堀北なんだよ、白波。

 ……言えるか、こんなもん。本人が納得してるんだ。間接堀北キスだったことは、内緒にしよう。間接堀北なんか存在しなかった。間接帆波ちゃんキッスも存在しなかったが。

 

 と、ここで何かに気付いたらしい白波が顔を近づけてきた。

 まさか、堀北の味に気づいたのか。

 どんなだよ堀北の味。

 

 「綾小路くん。も、もしかして、私に手を出すことによって、性欲……を発散できたことになるんじゃないかな?」

「……それはまあ」

 

 そっち方面に飛んだか。

 そういう面もあるといえばある。

 ただ、性欲の解消という意味で言えば、忙しかった今週が示す通り、別に困ってはいない。

 昨日は、朝から佐藤、午後からは松下のダブルヘッダーだったし、なんだったら今日も白波とやる前に、堀北とカラオケで一発したばっかだ。

 

 今さら白波とやったからとてって感じだが、性欲の発散にはなった。

 

「そ、それなら……私が身を挺して帆波ちゃんの貞操を守ったって言えますよね?」

「…………そうかもな」

 

 それはどうなんだって言ってやりたい。

 だが、白波の迫力が怖い。

 我慢しろ。否定したら怖いことになりかねない。

 

「ま、まさか……これから私が定期的に身体を出しだすことで帆波ちゃんの貞操を守ってやろうか、とか考えてませんか?」

「とんだ鬼畜じゃねえか」

 

 ねえよ。

 100パーセントねえよ。そんなこと欠片も想像しなかった。オレの思考を上回る逸材がこんなところにいたのかよ。驚きだ。

 

「く……私はなんて悪魔と契約をしてしまったんでしょうか」

「してないから」

「しましたよね」

 

 手を出したかどうかなら手を出した。

 契約をしたかどうかなら契約なんかしてねえぞ。

 

 それなのに、手を出したという事実がオレを追い込みやがる。

 爆弾処理の最後の最後で、こんな特大な地雷が待ち構えていたとか辛い。

 

「分かりました。ひっじょうに嫌だけど、帆波ちゃんのために一肌脱ぎましょう」

「もう脱いだあとだけどな」

「1ヵ月に1度、こうして身体を差し出すから、綾小路くんは帆波ちゃんに手を出さない。それでいいよね?」

 

 いつのまにか悪魔の契約が進んでやがる。

 なんでこうなったんだ。学校一の狂犬は堀北だと思っていたが、Bクラスに飛んだ逸材が隠れていやがった。まだ堀北の方がメンドクサイか。

 

「……それは却下だ」

「なっなななな……」

「オレに約束できることがあるとすれば、オレからは手を出さないという範囲なだけだ。一之瀬の気持ちも考えてやれよ。一之瀬から前に進もうと言われたら、拒否とかはしたくない」

「私に手を出してる綾小路くんが、帆波ちゃんの気持ちを語りますか」

 

 それはその通り。

 ぐうの音も出ない正論だ。

 

「帆波ちゃんに全部ばらしてもいいんですよ」

「ばらしたいならばらせばいいんじゃないか。それで一番傷つくのは、一之瀬だと思うが」

「ぐぬぬ……なんていう鬼畜」

 

 相手が正論だろうと脅しに屈するわけにはいかない。

 こういうのは初動が大事だ。1度相手の言い分を認めると、どんどんと要求がエスカレートする可能性が高い。きっぱりと断るところは断らないとダメだ。

 

 白波の性格上、一之瀬を傷つけることはしないだろう。

 万が一ばらされた場合は、一之瀬と揉めるかもしれない。が、恋愛に多少の喧嘩は付きものだと割り切る……ことができたらいいな。軽い現実逃避。

 

「分かりました。帆波ちゃんから綾小路くんに迫る分にはノーカンにします。そんな未来ありえませんけど」

 

 白波の中でどんな葛藤があったのかは分からない。が、どうにか決着をつけることが出来たらしい。

 

「分かった。それでいい」

「交渉成立だね」

 

 こちらから一之瀬に手を出せないという縛りが出来てしまった。

 この場合は、Tレックスがアウトであって、手を繋ぐとか抱きしめるとか、キスとかはセーフだろう。細かい取り決めはしていないけど、そこまで厳しくないと思いたい。

 

 あとはどうやって一之瀬をその気にさせるのか。

 恋愛への戦略が試されそうだ。経験値を積まなければ。

 

「では、もう1回しましょうか」

「いいのか」

「これも帆波ちゃんの安全の為。仕方ありません」

「仕方ないのか」

 

 まあいい。変な契約を結んでしまったからには、積極的に元を取りたい所存であります。

 

「白波」

「綾小路くん」

 

「TレックスのTは?」

「直接綾小路くんのT」

 

「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」

 

 なぜこうなってしまった。

 本当なら『ときめきのT』に戻るのがオチとしてピッタリだっただろうが。

 

 全ての爆弾を解除したというのに、オチが決まらずに終わってしまったか。

 

「……ところでいいのか?」

「何がかな?」

「一之瀬の貞操を守るってことは、究極の間接帆波ちゃんはお預けってことになるが」

「はっ、罠だ。罠にかかりました。このままだと私はずっと直接綾小路くんしかできないとか。あああ、私が間接帆波ちゃんをした場合、帆波ちゃんの貞操が……どっちをどっちを選べというのかな」

「知るか」

 

 それは一之瀬に聞いてくれ。




ボマーはいなくなりました。
どんな誤解があろうといなくなりました。
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