「須藤の奴、面倒な問題起こしやがって、ようやくプライベートポイントがもらえると思ったのに、最悪。まじで意味わからないんだけど」
ブラック桔梗さんが全開だった。
「しかもこっちが協力してやっているときに、携帯ゲームで遊んでいるとか何様なんだよ、あのバスケ馬鹿」
積極的に問題の解決に励んでいたように見えたが、笑顔は演技で、本音は不満たらたらだったらしい。須藤はひどい言われようだが、そこは同意したい。
「池とか山内とか真面目に参加しないで、ずっと私の方意識しすぎ。可愛いから仕方ないけど」
仕方ないのか。
「堀北もこっちが頼んでいるのに、お高くとまって断りやがって、死ね、死ね、死ね」
堀北が断った理由は、協力しても問題の本質が改善しないからで、別にお高いわけでもないと思うが、口にしたら矛先がこっちに向きかねないので黙っておく。
「死ね、死ね、死ね、死ね」
「………痛い」
「なんか言った?」
「何もございません」
馬乗りで腹筋を殴るのは、おやめください。
実際にはそれほど痛いというわけでもないが、精神的にきつい。
「まだ貰えないって決まったわけじゃ」
「そうだよね。綾小路くんが解決してくれるんだよね?」
「いや、オレは傍観したいんだが」
「
「櫛田、そんなお願いにオレは屈しな──」
「うわー、ありがとう綾小路くん、大好き」
「まだ何も言ってね──」
のしかかられて唇を塞がれた。
ん? 今、大好きだって言ったな。まあ、ノリで大した意味はないんだろう。
「櫛田」
「綾小路くん」
「「綾小路ティーーレーーーーーックス」」
──第九話 恋愛バイブル 下 須王──
櫛田は心をすっきりさせて、オレは性欲をすっきりさせた。
いや、少しウソをついた。たかが一回だけでは、すっきりしなくなりつつある。
これはちょっと問題かもしれない。
さて、櫛田とのTレックスの前に、何があったのかを簡単に振り返ってみよう。
櫛田・平田・軽井沢が須藤を助ける方針で、クラスをまとめあげた。
一番積極的に須藤を助けようとしたのは、大天使櫛田だったと強調させてもらおう。
教室での櫛田は、『最悪、まじで意味わからないんだけど』なんて舌打ちと共に、悪態をつくようなことは無かった。
須藤を助けるために、須藤本人の『目撃者がいた気がする』という証言を元に、その目撃者を探すことになった。
部活など用事もある生徒もいたため自由参加で、櫛田班、平田班にわかれての活動だ。
なお、須藤は当事者ということで参加を避け、堀北は櫛田が声を掛けたもののスルーして不参加だった。『お高くとまりやがって、死ね、死ね、死ね』なんて言わずに『また明日ー』と少し残念そうにしながらも、笑顔で見送った櫛田はマジ大天使。
今日のところは、オレは平田グループの一員として平田班で行動したが、特に手ごたえはなし。平田が部活の時間となり、早めのお開きとなった。
その後、当事者である須藤を加えて、寮のオレの部屋で櫛田班(櫛田、池、山内)と合流し、何の収穫もないことを互いに確認して解散した。つけくわえるなら情報のすり合わせの最中、須藤は携帯のバスケゲームで忙しそうだった。このバスケ馬鹿。
前回と同じ流れで『私、片付け手伝ってから帰るね』の一言で櫛田だけ残り、池たちを追い出して玄関のカギを掛けるや否や押し倒されて一戦交え、今に至る、というわけだ。
「…………」
今日の時点で、オレは特に積極的に関わってはいない。
平田班で行動した時は、顔の広い平田に任せっぱなしで、後ろからついて行っていただけだ。
堀北の言うとおり、今のままの須藤では助けるべきなのか、判断に迷っている。
おまけに、一之瀬への告白がどうなるかでそっちに気を取られていたというのもある。まあ、9割ぐらい意識は一之瀬に向いていた。
「もう少しマジメに考えてみるべきか」
解決してくれるよねって、櫛田に頼まれたからには、もう少し取り組まないとダメか。
別に大好きって言われて嬉しかったとかそんなことはない。うん、ないからな。勘違いするんじゃないぞ。
ここで頑張ればもう1回大好きって言ってくれるんじゃないか、とか微塵も期待していない。
どちらかといえば、昨日一之瀬との件で考えていたことが理由だ。
楽しい学園生活の三本柱である。
おっぱい、セックス、Tレックスではない、友情、恋愛、セックスだ。
セックスは、既にある程度満たしていると言っていい。
恋愛は、昨日一之瀬に恋人かっこ仮の申し込みをしたばかりだ。これがどうなるかは結果待ちだが、何もしていないわけではない。
で、残り1つの友情はどうだろうか?
平田とは打算もあってそれなりに親しくしている。隣の堀北も本人には言わないが、友達だと思っている。
最近では、不本意なことに池たち3バカとの交流も増えた。須藤はその中の一人だ。
他の生徒とも孤立しない程度には交流を持っているが、友達だと胸を張って言えるかといえば難しい。三本柱の中で一番遅れているのが、友情だろう。
もう少し友情方面を頑張ることにしよう。
須藤と友情を深めたいかどうか。
短気だわ沸点低いしガサツだし空気読まずに携帯ゲームをするしで、マイナス部分も多い。
が、悪い奴かっていうと、そうは言い切れないところがあるのが須藤だと思う。
自己紹介の時に助けられた恩が、ここでもまだ尾を引いているのかもしれない。
友情を深めたいのなら、須藤を助けるしかないだろう。
ただ、友情を深めるにせよ助けるにせよ、結局は、今のままの須藤ではそれでいいのか、となってしまう。
ならば、答えはシンプルである。
今のままの須藤でダメならどうすればいいか?
変えてしまえばいい。
「須藤、改造計画」
変わるならオッケー、変わらなければそれはそれで見切りをつけることができる。
自分のために、都合のいい人間になるように働きかける。それでいいのか友情という気がしないでもないが、気にしない方向でいこう。
うまくいけば櫛田から大好きって言ってもらえるかもしれないし、そっちの方が重要だ。
◇◇◇
「綾小路くん。今日は一緒に捜しにいこっ」
放課後早々、櫛田が席へと近づいてきて腕を取って引っ張ってきた。
笑顔だが、微妙に目が笑っていない。
恐ろしい目でこちらを見ている池と山内がうっとうしい。
何事もなかったかのように帰る、堀北の背中が羨ましい。
そういや昨日は、櫛田、池、山内の3人だったんだっけ。
想像するだけで、ぞっとするメンバーだ。
そりゃ櫛田もオレに頼りたくなるぐらいには嫌だろう。
「だが、断る」
「えーー、一緒に行こうよ」
オレの腕をさらに抱きかかえるようにして食い下がる。
若干胸へと押し当ててるあたりがポイントが高い。童貞の頃ならイチコロだっただろう。
残念だったな、櫛田。オレはお前との戦いによって成長しているのだ。
そして、池、山内。丑三つ時に五寸釘を打ちそうな顔するのはやめろ。
「悪い。今日はちょっと用事がある。明日なら大丈夫だから、明日じゃダメか?」
「分かった。約束だからね」
「いこ、櫛田ちゃん」
「うん。綾小路くん、また明日ー」
櫛田が手を放すタイミングで、池が割り込んでくる。
そのまま櫛田を山内と2人で囲んで教室から出て行った。どうやら今日も3人での行動になりそうだった。
ドンマイ、櫛田。
その光景に、思わず子牛が連れ去られていく歌を口ずさんでしまったのは不可抗力だ。
なぜか、高円寺が乗ってきてオレの歌に続いて美声を響かせた。
いや、親指をぐっとたてられてもどうしたらいいのかが分からない。この間のコサックダンスのときといい、変なところで高円寺とフラグを立ててないか?
もう須藤とかほったらかしにして高円寺ルートでもいい気がしたが、櫛田に大好きって言われるためには、苦労するしかないのだろう。
というわけで、今日のターゲットは須藤である。
「須藤、ちょっといいか?」
「須藤くんならもう帰ったよ」
「…………」
須藤の席へと向けて声をかけたら、その席の近くにいた佐藤から返事がきた。
佐藤よ、正しい情報をありがとう。ありがたいがちょっとイラっとしたから減点3だ。お前の持ち点はあと39点しかないぞ。持ち点が無くなったらどうなるか覚えとけよ。
◇◇◇
「なんだよ、綾小路」
「話があるんだが、いいか?」
「だから、なんだよ」
「ここじゃ話しにくい。場所変えたいんだが」
「めんどくせえな。わかったよ、つまらない話だったらぶん殴るぞ」
Cクラスの生徒を殴って問題となっておきながら、ぶん殴る宣言いただきました。
いや、もう、やっぱり須藤改造計画なんて無しでいいんじゃないだろうか。
寮の裏側奥のスペース、以前鬼畜眼鏡先輩と遭遇した場所へと連れ出す。
「須藤、今回の件は、お前が悪い」
「なんだよ、説教するのかよ」
「ああ、説教だな。反省しろ」
「なんでだよ、うぜえな。あいつらが殴りかかってきたのが悪いんだっつーの」
根本的な問題に、やはり気づいていない。
須藤をどうにかするには、そこへと切り込まないとどうしようもない。
まずは理屈で訴えてみよう。
「なあ、須藤ってバスケ部だったよな?」
「ああ、それがどうしたんだよ?」
「バスケのルールに詳しいわけじゃないが、バスケって基本的に接触は無しだよな?」
「当たり前だろ。んなもん基本中の基本だぜ」
ルールブックなど読んだこともなければ、試合をしっかり見たことすらない。
そこを否定されたら論理が破綻していたが、第1段階はクリアだ。
「じゃあ、相手がファールしてきて、殴り返したらどうなる?」
「乱闘になるな」
「…………」
論理が破綻した。
バスケで相手が悪いことをしたからと言って、悪いことをやり返したらダメだろ → 確かに。
という展開に持っていって、須藤が自分も悪いことをしたんだという自覚を持たせるつもりだったんだが。
「いや、バスケ選手が殴ったらダメだろ」
「舐められるほうがダメだ」
「それで試合になるのか?」
「審判がコントロールするだろ」
「退場になったら?」
「仲間を信じて見守るしかねえな」
もうやだ。なんだこの会話。
理屈で説得するのは失敗だ。
あまり使いたい手段ではないが、仕方ない。
「なあ、須藤。殴るのをやめろ」
「なんだよ、それ。殴りかかってこられたらどうするんだよ?」
「殴られるぐらい我慢しろ」
「意味わかんねえ」
「相手が凶器とか持ち出したら別だが、殴られそうになったからって、殴ったらお前も負けなんだよ」
時と場合によるが、須藤にはこれぐらい言わないと、わからないはずだ。
「なんだよそれ、アホらしい」
「アホらしくてもな、それが世の中のルールってやつだ」
「んなもんしたがってられっかよ」
「お前本人がそれでよくても周囲が迷惑だって言ってるんだ。分かれよ、須藤」
少しだけ語気を強くして、命令する。ちょっとした安い挑発。
「なんでお前にそんなこと言われなきゃならねえんだよ、うぜえ」
「お前みたいなガキに言う奴がほかにいないからだろ」
「今、なんつった?」
須藤に文句を言いたい奴は、いくらでもいる。
問題が伝えられたときの教室が、まさにそれだった。
それでも直接言う奴が少ないのは、須藤の腕力が怖いからだ。
「こんな簡単にきれるなよ、ちゃちいな、お前」
「ああん?」
「威圧しようが、お前なんか怖くねえんだよ」
これからのことを考えると非常に憂鬱だが、やると決めた以上はやり通すだけだ。
「ぶっ殺すぞ、てめえ」
「できるもんならやってみろよ」
衝撃が胸を襲った。一瞬、息が詰まる。
腕力にものを言わせた攻撃は、確かなダメージをオレに与えていた。
ゆっくりと両腕をあげて顔だけはガードで固め、須藤を睨みつける。
「……こんなもんかよ」
「ぁあん? 舐めてんじゃねえぞ、綾小路」
右、左、右、と須藤の連打が確実にオレの身体を痛める。
反射的に腕を下げてガードしそうになるのを何とか止めて、顔に向かうものだけを腕で防ぎ、それ以外は身体で受け止めていく。
最初は手だけだったのが、やがて蹴りも使われるようになり、力強い踏み込みと共に鋭い蹴りがオレを襲った。
「くぁっ」
声が勝手に漏れる。
鋭い蹴りに合わせて僅かに身体を沈め、肩で受け止めてその衝撃を受け流し、数歩だけふらついたものの、何とかダウンすることは防いだ。
「……どうした? ぶっ殺すんじゃなかったのか?」
言葉ほど余裕があったわけではない。
痛みを押し殺して平静を装うので必死だ。
Dクラスどころか学年でもトップを争うであろうフィジカルを持つ須藤の攻撃は、喧嘩慣れしているせいか、想定以上に厳しく重い。
鈍い音を響かせながら、確実にオレの身体にダメージを蓄積させていき、なんとか致命傷だけはさけて急所からずらしているが、それもいつまで持つかは怪しいところだ。
それでもオレは一切の反撃をせず、須藤の攻撃をひたすら受け止めていく。
「ぐっ……」
勢いのあるパンチが左腕を捉え、痺れからガードが下がった。
その空いたところへと追撃が放たれ、右腕で防ごうとするも間に合わず、ついに頬へと拳が食い込んだ。
口内に温かいものが湧き出てくる。どうやら口の中を切ったらしい。
それを相手に悟らせないように、喉を鳴らさないように注意しながら飲み込んだ。鉄の味が喉奥に広がる。
「…………」
続く言葉を投げかけたくても、口を開けば血が溢れそうで開くことができない。
奥歯を噛みしめたまま、飲み込み続けて流出を防ぐ。
そろそろ限界が近い。あと何発耐えられるだろうか。
「…………」
自分の足だけでは立っていることさえも困難になり、壁を横にして手をつくことにより、ギリギリのところで身体を支える。
その状態のまま、やられるがままに須藤の拳や蹴りを受け止め続け。
「なんで反撃しねえんだよ」
どれだけ殴られたあとだろうか。
須藤が殴るのをやめ、疑問を投げかけてきた。
強く唾液まじりの血を飲み込んでから右手を口元にあてて隠し、言葉を返した。
「……殴られたとしても、殴ったら、負けだからな」
「意味わかんねえ」
「お前は、オレに、勝ったのか?」
「ボロボロじゃねえか」
ボロボロとは、アヤノコウジキヨタカのことである、と言わんばかりの満身創痍だった。
プロフェッショナルとは、△のことであるように。
「で、勝ったのか?」
「…………」
「無抵抗のオレをこんだけ痛めつけて、お前は勝ったのか?」
やられ続けている間は、息を整える間も無かった。
須藤の手がとまり、ようやく身体を休める時間ができれば、口内で溢れていたものもマシになり、まともに言葉を発することができるようになる。
話しながら意識を自分の全身へと向け、ダメージを確認していく。が、残念ながら色々なところをやられ過ぎていて、把握するのをあきらめた。
使い古されたぼろ雑巾のようなひどさだった。
「……勝ってねえな」
須藤は、ふてくされるように言った。
「そうか。なら、まだやるか?」
オレは、内心で続けるな続けるな続けるな続けるな続けるな続けるな、と懇願しながら何でもないことのように聞いた。
「いや、やめとく。俺の負けでいい」
暴行事件が終わった瞬間だ。
オレは安堵から大きく息をついて、そのまま背中を預けるように壁に倒れこむ。
「……悪かったな。怒らせるようなことを言って」
「お前から謝るのかよ」
「先に挑発したのはオレだからな。で、スッキリしたか?」
「めちゃくちゃムカついたけど、今はもうどうでもいい感じだぜ」
「そうか、そりゃよかったな」
「よくはねえよ」
これだけボロカスに人のことを痛めつければ、モヤモヤぐらい晴れてもらわなければ困る。痛み損もいいところだ。
「須藤、もう暴力はやめろ。誰かを殴ったりするのはダサい」
「今の俺はかっこわるいわな」
「堀北がみたらガッカリだな」
「なんで堀北の名前が出てくるんだよ」
おっと、これは失言だった。
「借り作っちまったな」
「作ったことを後悔して絶望するような方法で返してもらう予定だから気にするなよ、健」
「怖いんだが、ほどほどにしろよ……すまん、名前なんだっけ?」
「綾小路清隆だ」
色々と残念な瞬間だった。
須藤とオレの今までの関係が、いかに表面的だったかが如実に示している。
まあ、それもこれまでの話だろう。
「清隆」
「健」
「「綾小路ティーー──「──いや、ねえよ」」
須藤との間に友情が芽生えました。
須藤の評価が上がった。
筋力ポイントが上がった。
技術ポイントが上がった。
精神力ポイントが下がった。
バスケがうまくなった。
やる気があがった。
打たれ強さ○になった。
なにもしてねえからな。誤解するなよ。
この作品は、基本勢い重視の殴り書きでお届けしています。
それでも一応は公開前にある程度時間をおいて読み返して修正したりしているんですが
今回は話的に、後半シーンは変に落ち着いて手を入れるのではなく本当に最初に書きなぐったままの公開の方が良いだろうと判断してそのまま公開します。
いつも以上に荒れている可能性大です。