最強の勇者はポーション中毒者   作:ec

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第12話

 

 俺とアンジュの『女々しいと言ったかどうか』攻防はかなり続いた。幸い敵は現れなかったが、敵はもう俺を見下ろすこいつだった。

 

「本当はおんぶしたくないからわざと足を噛まれたんでしょ?」

 

「そういう所が本当に女々しい」

 

 一応、噛んだ狼に愚痴をこぼしたらお前を見ながら噛む力を弱めてくれたよって言ったら『私が可愛いから後先考えて軽い傷にしたんだよきっと』と、かなり高飛車な発言を言ってのけた。

 

「女々しくないもん」

 

「確かに女々しくは無いな」

 

 時には折れることも大事だ。この膝枕の寝心地のおかげで全てが許せる。

 

「だよね」

 

「あぁ、凄く優しい女性だなって思う」

 

「当然じゃん……えへへ」

 

 そこはせめて否定しても良かったんじゃないか。照れくさそうに、はにかんでるけどそれが微笑ましくない!

 

「もう動ける?」

 

「……もう動ける」

 

 ずっと寝てたら確実に死ぬ。俺はゆっくり体を起こし、立ち上がると体が勝手に伸びをしていた。

 

「んー、寝た気がする」

 

 横になっていただけなのにな。めっちゃ動いたからだろうか。

 

 アンジュに手を差し伸べ、ゆっくり俺が先導して歩き始める。まだ恐竜キングの足跡は残ってる、かなり凹んでいるのかもしれない。

 

「ねえ待って」

 

「なんだ?」

 

 振り返ると当然の様に言い放った。

 

「おんぶして」

 

 

 

「ちょっとおかしいだろ」

 

 俺はアンジュを背負って歩きつつ、呟いた。

 

 まだ会って一日も経ってないよな? なんでおんぶさせるレベルの親しい友達感出てるんだ?

 

 全てがおかしい。俺はこんな冒険を望んでいなかったはず。

 

「何処がよ?」

 

 怪我したヒロインに手を差し伸べても『要らない!』って強がったりして。そしてある日を境に俺の手を受け入れてくれるような感じを予想していた。

 

 それがどうだ。歩きたくないからって俺に平然と身を預けるこいつ。

 

「お前ってやっぱ……誰にでも好きって言うタイプなんじゃないか?」

 

「んなわけないでしょ、好きな人はドラゴンから颯爽と守ってくれる人だけ」

 

「ドラゴンねぇ」

 

 魔物の気配は無くなってきていた。時間は太陽が昇ってるくらいしか分からない。

 

「夢見る乙女なんだから」

 

「そんな奴が好きでもない俺におんぶされてなんとも思わないのか?」

 

「ちっちっち」

 

 わざとらしく俺の視界内で人差し指を左右に揺らす。

 

『膝枕の代償』

 

 俺はハニートラップにハマっていたのかもしれない。

 

 

 数分歩いているだけなのに、突然暗くなっていくことに気づいた。突然暗くなるにしても太陽が目に見えて動いているから恐怖心を煽られる。

 

「まだ明るかったよな」

 

「アレが来たみたいだね」

 

「とうとうアレが来てしまったか……アレってなんだ?」

 

「分からないの?」

 

「分からない、まさかお前」

 

 不思議な現象が多すぎる。エーススライムは速くて分裂するのに見分ける方法が速さしかないし、アンジュは最後に女性をおんぶした時より重いし。

 

「なんか言った?」

 

「全然、それよりアレってなんだよ」

 

「日変《ニッカ》、本当に分からない?」

 

「分からん、教えてくれ」

 

 分かるわけないだろ! 来てから1日も経ってないし。

 

「1日に1回時間が変わったりするの、戻ることはないけどその日から明日の同じ時間までランダムに」

 

 つまり、時間だけを考えたら24時間カバーしているようにも捉えれる。

 

「変わったのが次の日の朝でも、その日も日変の確率はあるよ」

 

 逆に言えば時間が早く進むようなもんじゃないか。

 

「そもそも確率が低いんだけどね」

 

 1年に1回も起きなかった事もあるらしい。

 

「で、その偶然に直面してるとして時間はどうだ?」

 

「真夜中」

 

「最悪かよ」

 

 だが、月は異様に綺麗だ。夏目漱石のあの言葉を思い出す。

 

 月が――

 

『なんか、月が綺麗だね』

 

 俺が思うより先にアンジュが呟いた。知っているだけに心臓がドキリと跳ねる。

 

『俺には眩しいな』

 

「そう? 普通の明るさじゃない?」

 

 期待した俺が馬鹿だった。お前に文学なんてあるわけないよな。

 

 ただの偶然か。

 

「ねえねえ、本当に眩しい?」

 

「うるせえな」

 

「どう見ても眩しくないでしょ」

 

 執拗に意味を理解してないアンジュは俺に月を見るように指を差していた。

 

「俺の背中で騒ぐな、眩しいのはお前だ」

 

「えっ、だから私の方見ないの?」

 

「どうでもいい」

 

「どうでも良くない! もっと言ってー」

 

 眩しいって良い意味じゃないんだけどな。

 

 ふと前を見た。月明かりに照らされて大きな人影が見える。何らかの鈍器を持っているのは理解するのに時間はかからなかった。

 

「ちょっと降りろ、敵が居る」

 

「あ、うん」

 

 話を逸らされたとか文句を垂れていたが、俺は草原で横になりアンジュも強引にうつ伏せにしておいた。

 

「いいか、見つかったら全力で前に走るんだ」

 

「敵ってどこ?」

 

「ここだが……」

 

 指差す方向に、何らかの影。ゴブリンとはひと回りもふた周りも違う。

 

 この辺りは見かけた事があるから街にかなり近いはず。もう少しって所で敵は現れるって言うのか。

 

「後ろにも居るんじゃない?」

 

 言われて振り返ると、居なかったはずの影がポツリと。

 

「こいつらはなんだ……」

 

「分からない……」

 

 だろうな。そうだと思ったけどなんでそれ知らねえの。

 

「分からない限り、ゆっくり進むぞ」

 

 俺達はそう簡単に帰れないみたいだ。

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