最強の勇者はポーション中毒者   作:ec

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第14話

 

 私はズキズキと痛む足を引きずり、シンクを仰向けにさせる。ぐったりとして動かない彼の口周りと服の肩部分は赤く染まっていた。

 

「し、シンク?」

 

 目は開いてるけど、私の事を見ていない。まるで私より雲を見ていると言ってもよかった。

 

「ねぇ! 起きてよ……?」

 

 語りかけても動かない。冗談だと笑ってほしい一心で彼の体を揺らす。でも、揺れるどころかこの世界に縛り付けられた石のように動かない。

 

「ぽ、ポーションでしょ?」

 こんな致命傷を前に負った時、私は言われた通りにポーションを振りかけた。今回も……。

 

 私は今気づいた。ポーションが無いという愚かな状況に。

 

 助からない。そんな事を考えたくはなかった。

 

「自力で起きて! 私は知ってる! これがいつもの仕返しなんだって!」

 

 いつもの仕返しはこんな大怪我を装う事じゃないことも私は知っていた。

 

「ドラゴン倒す約束だったでしょ……?」

 

『中二病全開の小僧か?』

 

「えっ?」

 

 振り返ると、前にプレートを見せるだけで金を払うという商売をしていた魔王の配下で声を出す担当の男。

 

 魔王の配下でもいい! いつも助けてもらってるんだからシンクを……身を売ってでも!

 

「お願い! こいつにポーションを掛けて!」

 

「ふむ、良いだろう。その代わり」

 

 魔王の配下はシンクに近づいてポーションを振りかける。代償に唾を飲んで待つ。

 

「タイタンアッパーのソウルは貰うぞ」

 

「……へ?」

 

 私は追いつかない思考を捻り出して構わないと答えた。

 

「丁度こいつのクエストを受けてたから助かったな」

 

「私の回復とかしてくれない……?」

 

「悪いが回復魔法は使えない。だが、小僧のポーション中毒はすごいな」

 

 結局、私は必要無かったのかな。そう思うと微かな寂しさを感じた。

 

「……アンジェリーとか言ったか。お前は小僧の為に泣いていたのか?」

 

「泣いてなんか……」

 

 手で頬に触れると濡れていることに気づく。

 

「恋人だったんだな」

 

 弄ぶように笑う配下に私は全力で否定する。

 

「違うし! まだ会って1日も立ってなんか……」

 

「じゃあなんで泣いた?」

 

「…………」

 

 なんで泣いたんだろうか。

 

 単純に死なれたら自分も死んでしまうから?

 

 利己的な自分を酷く嫌悪してしまいそうだ。

 

「家出は程々にな」

 

「別にそんなわけじゃ」

 

 その時、握っていたシンクの手に力が加わる。

 

「本当に回復するとは」

 

「シンク……」

 

 嬉しいという気持ちより、申し訳ない気持ちが溢れ始めていた。

 

『雨降ってるんじゃなかったのか』

 

 

 

 

 

 死んだ気がした俺の体は感覚を取り戻しているのが分かる。気がついたら起き上がって天候を聞いていた。

 

 アンジュの顔は伏せられていて見えない。

 

「降ってないけど……」

 

 頬の水滴を拭っていると、ニヤニヤ笑う見たことのある男が。

 

「見事なチートだな」

 

「ッ……?」

 

 こいつは体内から聞こえた声とそっくりだ。金をくれた人じゃないか!

 

「この人がポーションくれたんだよ!」

 

「そうだったのか。助かった」

 

「支給品だから構わない」

 

 そう言って役目を果たした様に帰って行く男に一言。

 

「街はどこだ」

 

「この方向を真っ直ぐ」

 

 顎で街を指してくれた。俺は立ち上がって歩こうとするが、アンジュが立たない。

 

「転んで歩けないんだっけ」

 

 女の子座りをするアンジュの足先は一切動かない。片足に乗せてるらしく、上に乗っている右足が痛いのだろう。

 

「こ、この程度じゃ要らないし」

 

「そうか?」

 

 俺の手を取って立ち上がるが、完全に片足立ちだった。右足の先が地面に触れている程度にゆっくり草を踏みしめる。

 

 見ている側も心配だ。

 

「先行ってていいから」

 

「軽くて助かる」

 

 だが、自分で解決しようとする精神は良い。もしそれでダメなら何でもしてやる。

 

 久々にズボンのポケットに手を入れれる事に感謝しつつ、数歩歩いて振り返る。

 

 両手でバランスを取るように、必死に歩く銀髪美少女が居た。ほんの少し進んだくらいだろうか。

 

 無言で歯を食いしばって痛みに耐え凌ぎ、確実に足を進めていく。右足が体の軸になった瞬間、熱に触れた鉄のように顔が歪んだ。

 

「で、その速度で帰れると思うか?」

 

「思わないけど……」

 

 仕返しの様に歩かせるのも面白いが、助けが来なかったらきつい。ポーションがあれば別。

 

「思わないけどなんだ」

 

 無言でアンジュに歩み寄る。

 

「もう迷惑かけたくないだけ」

 

 今更過ぎる。

 

 変な所でこだわりを持ち始めた変な奴だな。

 

「苦しそうに歩かれる方が迷惑だろ?」

 

 アンジュの前でしゃがみ、受け取れる体制を作る。

 

「じゃあ……そうする」

 

 後ろめたそうに俺に全体重を預け、暑い息を吐く。かなり歩いたから疲れてるんだろう。

 

 乗った瞬間に安堵したようなため息をついていた。

 

「素直だと助かるな」

 

「…………」

 

 月に照らされながら、無言で草原を歩いていく。暫く歩いた所でスライムが飛び跳ねる場面に遭遇して幸せを感じている。

 

「しっかし、喋らないと本当に可愛いな……月のようだ」

 

 俺にも文学は向いてないんだろう、アンジュが起きてない事に感謝した。

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