ポーションって小せぇな……。
手のひらで包めるポーションを見ながら、俺は歩いていた。
おっさんとは次会ったら礼をしますと言ってお別れしてる。ついて行っても良かった気がするけど、役立たずだろうしな。
見回るだけで楽しい。でも寝る場所はどう考えても無さそうなんだが。
野宿とか嫌だ、宿を借りるという考えが普通。となると、ファンタジーに考えて魔物を倒す……という事。
俺は何気なしに落ちている銀色の針を拾い上げた。
「いっそこれで……」
これでなにか生計を立てる事を考えていると、針が白い残像を放って消えた。その瞬間、俺の胸がチクリと痛む。
あれ? 針は?
俺が持った瞬間盗まれたのかな。
適当に解釈してまた歩き出す。途中で武器屋を発見して中に入った。
武器すべては鏡のように磨かれていて、柄が赤い。それ相応の値段がしそうな武器ばかりだ。
剣、槍、斧、盾。1本だけ槍と斧と盾が合わさったような武器が。
見つめていると、店員らしいおっさんが語りかけてきた。
『その武器は伝説の武器でな……剣、槍、斧、盾が合わさった神器なのだよ』
「へぇー」
全部合わせてんのか。良く見たら剣の様な持ち手以外は刃らしい。槍の要素は長さ以外無い。
どう見ても端で持つしかできないから、体感的に重いだろう。
『とある鍛冶屋が試験的に1本作ったのが、まだここに残っているというわけだ』
「売れ残りじゃねーか」
「だが、たった1本……どうだ?90%オフにしておる」
「完全に売れ残りかよ」
俺は初めて見た武器に興味が湧き、持ち手を握ってみた。
「おお…………めっちゃ重い」
途端に武器は白い粒子となって消える。
「え?」
その瞬間、腹を貫くような痛みが走り口から血が吹きこぼれる!
「ごふぁ……」
「おめぇ!? どうしたんだ!?」
俺は何が起きたのか一瞬理解出来なかった。
荒々しく息を吐きながら、余った理性を掻き集める。震える手でポーションを開封し、即座に液体を飲み干した。
「はぁ……ぁあ助かった」
さっきのは生命の危機を感じたが、助かってよかった。おっさんも俺の背中撫でてくれるし。
「……武器紛失させたんですけどどうすればいいですか」
「90%オフの代物だったんだ、もういい」
「元の値段とか聞いてもいいですか?」
「108セック」
分からない、安くないかもしれない。
「宿屋っていくらくらいですかここ」
「80セック」
安すぎだろ……売れてもよかった値段じゃねえか!
「申し訳ない……」
「いいんだいいんだ、本当に気にすんじゃねえ」
俺はいたたまれなくなり、血濡れたカーペットを見ないようにして武器屋を後にする。
「神器ってなんて名前ですか」
『剣槍斧《ツルギソウフ》』
盾ないじゃんか! やっぱり持ち手と斧の部分の真ん中に盾置いたのはおまけか!
何か負けた様な気がして武器屋を出ようとしてまた戻ってくる。
「なんだい」
「冒険者が働ける所って何処ですか?」
ギルドだねって即答され、道を案内までしてくれた。俺の事を気遣ってくれるのか「ここに二度と来るな」という無言の圧力か。
そのギルドが目の前にあるんだが、デカい建物だ。武器屋の比じゃない。
両開きのドアを押し開いて足を踏み入れる。仕事があるかどうかで何処で一夜を過ごすか決まるだろう。
『いらっしゃいませー!』
『ご主人様のハートにきゅんきゅんすうぃーと! 何の用事に来ましたかー?』
「……」
俺は己の目と頭を全力で疑った。頭を振っても視界は変わらない。
メイド服の人が4人くらい仕切られたカウンターで、変な事を言ってるんだ。これが夢じゃないなんてありえていいのか!?
めっちゃメイド喫茶じゃん! あのおっさん逆恨みしてたんだな!
「ここはギルド……?」
「はい!」
嘘じゃないのか? どうなってるんだ!
全力で接客するメイドさんは可愛らしい。だが、他に人は見かけない。
「冒険者したいんですけどなれますか?」
こんな可愛い人に案内されてカウンターで要件言ってるんだけど、敬語になってしまう己が悔しい。
「プレートはお持ちですかー?」
そう言うメイドさんは己のプレートらしい板を出した。クレジットカードみたいに金色だ。
「こーゆーの何ですがー」
「無いで……」
言いかけた所で口を塞ぐ。そもそも無いなんて怪しまれるんじゃないか? メイドさんが持ってるくらいだ、普通は全人類にあるのだろう。
となると……失くした、だな。
「すみません、失くしました」
「紛失ですか……1000セックになります」
嘘だろ? そんなにかかるの!?
金が無いのに来てる、金が必要な常識が無いと見られてしまいそうだ。いや、本当に無いんだけど。
「お金ないんで失礼します」
「別にいいですよ」
後ろを向いた時、カウンター越しからメイドさんに腕を掴まれる。そのまま引き戻されてしまった。
「体で払ってくれたらいいんです」
「キャンセルで!」
俺の抵抗虚しく、勝手にメイドさんは繋がってないキーボードをカタカタさせながら、別の画面を見つめている。
「名前は?」
「春風、龍樹」
「……無いですね、紛失は嘘ですね?」
「はい、作ったことすらないです」
嘘はバレたしもう帰りたい。抵抗してもメイドさんの力強過ぎて無理なのは俺が弱いからだな。
「良いでしょう、本来なら作成に掛かる3000セックを立て替えてあげます」
メイドさんは口角を上げ、キーボードを叩いていた人差し指を顎に添える。美味しそうに笑ったのが印象的。
「おいまさか……」
『体で払ってくださいね?』
メイドギルドに人が居ない理由が分かった気がする。