最強の勇者はポーション中毒者   作:ec

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第3話

 

「やめろ、嫌な予感しかしない!」

 

「大丈夫ですから」

 

「やめ……てください」

 

「名前はどうしますか?」

 

 手を掴まれたまま、俺は口ごもる。笑顔とは言い難い不敵な笑みになんとか打ち勝っている所だ!

 

「はっ! 名前を言わなければ勝てるな」

 

「名前は雪乃下そめごろう……っと」

 

「待って! お願い!」

 

「5秒だけ待ちます」

 

 そめごろうはダサすぎる。でも、本名って案外珍しい的な扱いになりそうだな。

 

「名前は……メイドさんってなんて名前なんだ?」

 

「もう5秒経ちますね、雪乃下熊五郎にしときます」

 

「体売るから名前ぐらい最初に聞かせてくれよ! お願いだ!」

 

「適当にプレート見てください」

 

 ポイっとカウンターテーブルに投げられた銀色のプレートには。

 

 ――『見本太郎』と書かれていた。

 

「見本じゃねーか! 最初金色だしそんな気がしてたけどな!」

 

「雪乃下猿次郎49世にしときますねー」

 

「えっそんな……待ってくれよ!」

 

 なんとか説得して猿次郎は止めてもらったが、結局は本名に決まる事は無かった。

 

「49世から10回くらい繰り返しましたね」

 

「いい加減メイドさんが名前を教えてくれたら、だな……」

 

「メイドじゃなくて、アンジュです」

 

「アンジュさん……」

 

「さんも要らないので、私がもう決めますね」

 

「嘘だろ? おい!」

 

 アンジュの白い指がキーボードをカタカタと叩き続ける。未だに片手で拘束されていた俺は近づく事も出来なかった。

 

「はい、出来ました」

 

「まともな名前で頼むぞ……」

 

 俺の新たな名前?が、読み上げられる瞬間。俺は今か今かとアンジュの口元にばかり視線が行っていた。

 

『無剣聖魔王雪乃下シンク=ザラ《今宵は光に抗いシ者》』

 

 唱えられた名前は俺より痛かった。

 

「あああ! 痛すぎる!!」

 

「どうですか? 最初の名前からストーリー繋がりで進化してるんですよ、聞きたいです?」

 

「痛すぎてどうでもいい! 今宵ってどこ指してんだよ、自分か? 空か?」

 

「比喩です」

 

「うるせぇ」

 

 俺は今もってる全力の力で、アンジュを揺さぶっていた。

 

 火事場の馬鹿力は存在するらしく、動じなかったアンジュがぐわんぐわん揺れている。

 

「ここで取引です。このエンターを押せば本当に決まっちゃうわけなんですが……あっ」

 

 ――カチッ。乾いた音が俺の焦りを落ち着かせる。

 

「今なんて言った? おいまさか」

 

「……シンク様、プレートが完成致しました」

 

 アンジュは申し訳なさそうに顔を引き攣らせつつ、黒いプレートを人差し指と親指で摘んで持ってきた。

 

 俺は容赦なく奪い、名前を確認する。

 

「あはは……プレートは黒にしたんですけど、変えれますよ」

 

 無剣聖魔王という白い文字の名前が見えた辺りで、プレートをカウンターに置いた。

 

「名前変更は?」

 

「冒険の書を改名する事は出来ません、あしからず……無理なんですよねー」

 

「……」

 

 色々どうでもよくなってきた。猿次郎とかよりマシだしな。

 

「名前やらせたし、俺は体を支払わないってことで」

 

「冒険者にはクエストが必要ですよねー!」

 

「その手離してくれ……くっなんだよもう」

 

「身の安全的に私の話を聞いた方がいいと思うんです」

 

 引き戻された俺は、プレートに照明の光を与えて輝く姿を吟味していた。

 

「マトモな理由があるんだよな?」

 

 そう言えば、メイドギルドと普通のギルドがあるらしいな。しかもすぐ近くに。

 

 武器屋に騙された気がして、大きなため息しか出なかった。

 

「シンク様のプレートと、私の本当のプレートを見てください」

 

「ようやくか」

 

 慣れない名前に応えつつ、金と黒のプレートを並べてみた。

 

「……名前は隠さなくてもいいんじゃないか?」

 

「ダメです、私の機密情報です。そんな事よりこのチートを見てくださいよ」

 

「チートってなんだよチートって」

 

 アンジュのプレートには無くて俺だけにある枠、それがチート枠だった。丁寧にチートって名前の下に変な名称が書かれてる。

 

「本来なら能力って書くんですけど、能力がない冒険者が『強すぐる!』『ズルすぐる!』『卑怯すぐる!』とか言い出して皮肉ってチートって呼ぶらしいんですよ」

 

 チートは直訳するとズルらしい。

 

 俺の枠に書かれている内容は。

 

「ライフブレイカー、ライフオーダーか」

 

「もう一つありますよ?」

 

「え、無いだろ? 見えてるけど俺はないと思ってるんだが」

 

 俺は現実逃避をする主義だ。マイナスな能力なんて認めたくな――

 

『ポーション中毒者じゃないですか!』

 

「声が大きい」

 

「後輩よ! 見てください! この人ポーション中毒者だって!」

 

「おい、待て! カウンターから手を出せないからってつけ上がりやがって……」

 

 アンジュは他のメイドに俺のプレートを掲げながら消えていく。入ろうかと思ったが、誤解を招きたくないのでやめた。

 

「ふー、楽しかった」

 

「そうか。俺は全然楽しくなかったな」

 

「そんな事より、後輩から聞いたんですけど」

 

「なんだ?」

 

 アンジュの銀色のポニーテールが真面目にゆさゆさ揺れる。悔しい事に意識を奪われた感覚に襲われた。

 

「……って聞いたんですが、本当ですか?」

 

「え?」

 

「空から落ちて死んだかと思ったらポーション飲んで、知らん顔して立ち去ったって聞いたんですけど」

 

「ポーションって回復すんの?」

 

 嘘ってこういう時に使うんだろうな。

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