全然道が分からなくて、アンジュに頼ったのはここだけの話だ。
なんとか街の門に着いたから、衛兵に話しかけるか悩んでるところ。
「ねぇシンク、もう手離してくれない?」
「悪い」
「えっ離しちゃうの? あっさり過ぎない?」
こいつ天邪鬼かよ。
「仕方ねえな、恋人みたいに腕でも組むか?」
「えーそれは……そんなにしたいって言うならしてあげてもい――」
「どうでもいい」
「ちょっと!?」
掴みかかろうとするアンジュのおでこを中指で押しながら、衛兵に声をかけてみる。
「ぐぬぅ……どうでもいいってどういう事なの! ねぇ!」
「外に出れますか?」
「今の所大丈夫だと思うよ。プレートを見せてくれるか名前を書いてくれたら通れる」
「プレートか。おい、アンジュも見せろ」
俺達はプレートを提示すると衛兵が必死にメモをしていた、2人で衛兵をしてるなら片方がメモをすればいいのに何故か寝ている。
「衛兵さんも頑張って」
「あぁ……」
門と衛兵がいる所の間には深い溝があり、そこに水が流れている。通る為には衛兵が一々橋を下ろすという訳だ。
どういうカラクリなのか分からないが、衛兵が全力で円テーブルに取っ手をつけたような物を回していると橋が音を立てて下がる。
ギ、ギ、ギ、ギ……。
耳を逆撫でするような音だ。橋を上げる時も逆に回すと思うと衛兵も可哀想な気がしてくる。
「はあ、は……ぁ……辞めたい……どうぞ」
俺はそんな意味で頑張ってと言った覚えは無かった。
「めっちゃ頑張って!」
「あっはぁ……?」
衛兵を激励しつつ、門を潜った。
辺りが草原と言うなら、こんな所に街を作った人は馬鹿だと思う。村で良くなかったのか、城壁まで用意している始末だ。
「ドラゴンって本当に居るのか?」
「結構先だけどね……所で腕とか組んでみない?」
「どうでもいい」
「組ませて! 組んだらわかるから! 私凄いし!」
バカは戦力にならないとして、辺りには魔物が転がっている。飛び跳ねる青い粘液だろ、それを退治する緑色の鬼か。
鳥もいるけど、狼のような魔物の死肉を漁るハゲワシ的な奴だし、放置でいいだろう。
「ほら、私のお胸にあなたの腕が……」
「今そんなことしてる場合じゃない、アンジュは何が出来る?」
「んー、特に出来ないよ」
さらっと言いやがって。なんで来たのお前。
「お荷物か、帰っていいぞ」
「嘘だから! 魔法とか使える!」
「はいはい、俺一人で行く事考えるわ」
「信じてないじゃん……」
信じるわけないだろ、お前のプレートのチート枠に魔法とかマジックとか無かったしな。
「喰らえ、いかづ」
「雑魚狩りから始めてみるか」
俺は1つのポーションを開封し、ひたすら体に呷って歩き出す。武器はある、多分だけどな。
「ま、待って!」
ライフブレイカー、ライフオーダーだ。多分どれかが武器を出す。
飛び跳ねる粘液の前に立った俺は言葉を唱える!
『ライフオーダー』
何も無い空間に手を入れ、引き抜くとそこには何も無かった。
「な、なん……ぐふぁっ!」
スライムの粘液ライフルに打ち抜かれた俺は軽く吹き飛ばされてしまう。
「大丈夫? 待ってね……『フレイムランス』」
ポーションを呷る俺を他所に、アンジュは炎の槍を具現化させて粘液目掛けてぶん投げていた。
「『ソウルドロー』やっぱ、私は戦闘向かないわ」
プレートをちらつかせると、詠唱の後スライムが死んだ場所から光った何かがプレートに吸い込まれるように消えていく。
「なんだそれ」
疑問に思った。プレートってそんな役割があるのかと。
「フレイムランス? 凄いでしょー、武器にも成るし貸すことも出来るんだよ」
「それじゃなくてプレートでなにか集めてたよな?」
「そっち!?」
「見慣れてるし」
槍くらいゲームでよく見るしな。
「あれは生物のソウルだよ、人にもソウルはある。一応専用のアイテムを通すと吸ったソウルの履歴も見えるから討伐確認にも使えるんだよね」
超重要じゃん! ギルドメイドなだけあって詳しい。
「しかも、ソウルがプレートに一定量溜まると……」
「溜まるとどうなるんだ?」
「腕を組ませてくれたら教えてあげる」
「じゃあいいわ」
どんだけ根に持ってんだこいつ。
「むぅ……」
「確認しておくか」
ライフオーダーでダメだった。つまり……。
『ライフブレイカー』
何も無い空間に手を入れ、勢いよく引き抜く。手には何も無い。空気を引き抜いたらしい。
「……」
「何してるの?」
「鉄針」
シュンッ。
俺の手の平には、見覚えのある針が握られていた。投げ捨てても、唱えると手元に現れる。
しかし、唱える度に胸がチクリと傷んだ気がした。
あのクソでかい武器呼び出したら完全に命を持ってかれそうな気がするから、暫くは封印安定だな。
「遊び過ぎだよ!?」
「んなわけ……嘘だろ」
俺達を5体の緑色の巨体が囲んでいた。気づけたはずなのに、気づけなかったことに驚きを隠せない。
だって、俺より明らかにひと回りでかい鬼、ゴブリンに知性があるとは思いたくなかった。
「ゴゴゴ!」
「ゴーゴ!」
1体のボスゴブリンが鉄の斧で草原を叩く。土が掘り起こされ、雑草が抉られる。
はじまりのゴングはただの斧か。
「アンジュ、俺にフレイムランスを貸してくれ」
「う、うん!」
『その斧、俺が勝ったらキャンセル料の足しにしてやるよ』
「キャンセルだめー!」