俺達は素直にスライム討伐を選んだ。どうやら最近、草原にスライムの中のスライムが現れるようになったらしい。
「エーススライムねぇ……」
俺は街の門に向かいながら、一人ごちた。エーススライムって言われても赤いとかその辺しか想像つかない。
「弱いのに、報酬が高いね」
「1500セックか。良い武器買えるな」
「私も武器欲しい」
「アンジュが使える武器あるぞ」
「ほんと!?」
ライフオーダーで鉄針を出したら絶句されたけど、強引に渡しておいた。
「そんな事よりポーションはあるか?」
「支給品もまだあるのに沢山もらったからね……重いからあげる」
ズボンのポケットに詰め込まれたポーションは足を僅かに重くさせた。軽くさせる為に1本を呷る。
「なんでギルドはポーションを沢山渡すんだ? 普通は回復出来ないんだろ」
「栄養ドリンクだもん、回復は出来なくても栄養補給食品でしかも原価も安い。そうなったら支給品の節約に……ね?」
「最低だな」
保存期間も長いポーションは非常食の役割もあるらしい。
他愛もない事を喋っていると、門に着いた。いつも通りプレートを見せて橋を下ろしてもらう。
「はいどうぞ、警戒は怠らずに」
「当然」
草原に変化はない。突風が俺の頬を撫でていることくらいか。
「スライムって何処にいるんだろうな」
「私は向こうを見てみるね」
分散して探すことになった。見つけた時は大声で呼んで仕留める約束だ。
互いにあちこちを探す……ナンセンスな作戦とは思うがすぐに見つけた方が圧倒的に良い。
「ここか!」
ごちりなから、岩を捲ってもダンゴムシが転がってる程度。人間がいるとわかっているのに、健気に跳ねるただのスライムを見つけるとイライラが収まった気がする。
俺を見向きもせず、野草を採取するゴブリンにスライムを探しながら集めた木の実の袋でもあげようとした時だった。
『シンクっ! リーダーっぽいの見つけたよ!』
微かに聞こえるアンジュの声、そんなにも離れていた事に驚いたが草を踏んで一気に踵を返す。
ゴブリンには時間が無いので手荒だが、袋を投げつけておいた。
「今向かう!」
俺が来た時にはスライムにタジタジのアンジュがなんとか槍を投げつけている所だった。槍を軽く避けるスライムは速さ以外普通のスライムと変わらない。
「あのスライム、は、はやいよ……」
息を切らしながら丁寧に情報を教えてくれたアンジュに感謝しつつ、楽に止めを刺す方法を考える。
スライムなのに、飛び跳ねずにスライド移動しているくらいだ。機動力は相当だろう。
「なんでスライムのリーダーは殺す必要があるんだ? たかがスライムにクエストってやりすぎだろ」
「弱くても、早くて持久力が高い点で嫌われてるんじゃないの?」
「まるでアレだな……」
漆黒の弾丸とか言われる台所に蔓延るアレ。
「スライムを増殖させてる犯人だし、減らすに越したことは無いよ」
言ったそばから配下スライムが現れ、モゾモゾと動く。
「次は当たるわけねえだろ!」
俺は叫びながら、スライムの予備動作に備える。あの動きは粘液ライフル!
『剣槍斧!』
白い粒子が俺の手元から伸びていき、武器が段々と重さを帯びていく。申し訳程度の刃の中間から取り付けられた盾を構える。
いつでも来い! そう思った時だった。
「ぐはぁぁっっ!!」
「大丈夫!?」
粘液ライフルの弾速は俺が思ったよりも速かった、速すぎたんだ。武器を呼び出している時点で細胞レベルで撃ち抜かれていたのだ。
もし気づかなかったら俺にダメージが入ることもなかったかもしれない。まさにスライムが為せる神の領域……!
あえなく吹き飛んだ俺は痛みの中心であるプロテクターが守る右膝を摩り、ポーションをぶっかける。びしょ濡れになった服は即座に乾き、痛みが癒えていく。
「あのスライムは強い! 気をつけろ!」
「もう殺したよ? それよりあの早いスライム倒そうよ!」
「…………そうか」
俺は力なく立ち上がった、俺は思ったよりも弱かったのかと思うとやる気が出ねぇ。
やる気より、殺意が上回る。
「殺してやるからな! このスライム!」
「頑張ってー」
使える武器の中で軽いフレイムランスをオーダーし、エーススライムとの距離を一気に詰めていく。
スライド移動をするスライムに、槍をぶん投げる。スライムのど真ん中に突き刺さった事で、驚いたのか一瞬動きが止まる。
――その隙だけで充分だ。
「避けるんじゃねえぞ……」
飛びかかりながら、槍を唱えて手元に戻す。握った部分から青白いオーラが宿った。
『ライフブレイカーァ!』
全力でスライム目掛けて突き刺す懇親の一撃!
炸裂音が鳴り響き、キラキラと突き刺した場所から吹き上がる粒子に気分が良くなる。
自然といつもなら現れるダメージもない。
ひょこっ。
――俺の隣を駆け抜けるエーススライムは、俺の攻撃が当たっていなかった。
「待ちやがれ! 次こそは……!!」
「私達じゃステータスで勝ててないんだよ!」
「なんだと」
ただのエースなスライムすら倒せないのか俺達は!
「道具屋で動きを止めるアイテムを買ったらいいんだけど、そんな事したら報酬減っちゃうから……」
アイテムの存在を知りながら、全力でスライムを追いかけ回してくれたのか。
アンジュの優しさを感じた。
「そんな心配までしてくれてたんだな……今度は連携して倒そうか」
「私が魔法で足止めするからその間に倒してよね!」
「任せろ」
信頼しきったような歯を覗かせる微笑みが、俺の胸を締め付ける。俺もやる気が出てきた。
スライムは油断しきったように俺達の周りをシャゲダンと呼ばれる煽り移動を繰り返す。
カクカクと移動してるから、自然と移動速度は下がっている。
「出来るだけ即効性のある魔法を頼む!」
「雷鳴魔法……し、シンク! 前!」
「スライムか? 俺の足舐めてるのか」
「違うし!」
俺は前を向いた。魔法陣を左手に宿していたアンジュが詠唱を止めてまで前を向くように言ったからだ。
「スライムはまだ居るな……」
「そこじゃないって、おく! 奥だよ!」
「ん?」
目を擦って、よく見つめてみる。見慣れない色の影が一つ、この青空の下に存在していた。
それは段々大きくなっていき……背中がゾクリと振動で怯える。その振動は影が踏み鳴らした衝撃だということに気づくのに時間はかからなかった。
「おいまさか? 嘘だろ?」
「そんなまさかなんて……」
深呼吸し、腰に手を当てる。困った、あの速さじゃ危ない。追いつかれる、警戒しなさすぎた。
『恐竜キングかよ』
『クエストあるのに出てこないわけがないよね』
とりあえず靴の先をトントンと地面で叩き、影の背を向いた。走る構えは忘れずに。
『後ろは向くな! 走り続けろ!!』