最強の勇者はポーション中毒者   作:ec

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第9話

 

 俺達は全速力で草原を駆け抜けていた。草原は割と広く、スライム討伐が長引いたこともあって、かなり進んでしまったらしい。

 

 そこに運悪く現れたのが、アンジュが選択したそうに言ったクエストの討伐対象にもなっている恐竜キング。

 

「クソっ! 街が遠すぎる……待て、街にこんなデカ物連れ込んだらまずいんじゃないか?」

 

「街には強い冒険者が居るし、僅かな被害で済むでしょ?」

 

「お前なぁ……被害ある時点でやばいだろ」

 

 後ろは振り向かないと決めたものの、次第に踏み鳴らす音が近づいている。未だかつて発揮したことない全力の走りすら凌駕するというんだから不思議だ。

 

「使える魔法は雷、槍召喚、他にはねえのか!」

 

「あんまり無いよ……」

 

 足止めする方法はあるはずだ。そもそも、周りに人がいれば助かる事なのに。

 

「あっまだあるよ!」

 

「なんだ? 期待してるぞ」

 

「水出したり、後は……うーん、とか!」

 

「一つじゃねえか」

 

 水と雷とかどうだ? 多少威力が上がってもいいだろ。

 

「ごめん……水は海水だし勢いもないから飲み水にも戦いにも使えなくて」

 

 ダメだ、失敗した時のリスクがデカすぎる。

 

「なあ、雷って出すだけか?」

 

「自分に纏わせることも出来るよ!」

 

「ほう……」

 

 自由自在ってことはわかった。問題はそれで生きる他の属性が存在しないこと。

 

 だが、試せることはある。

 

「反応薄くない? 割と凄いと思うんだけど」

 

「アンジュ、走る速度を変えるなよ」

 

「これが限界――」

 

 言い終える前に、右手て膝裏から掬い上げるようにアンジュを抱き抱える。必殺お嬢様抱っこだ。

 

「きゃっ」

 

 驚きが混ざった甲高い声が俺を奮い立たせる。

 

「どうだ? 男に抱えられるのは。俺の話をよく聞けよ」

 

「疲れちゃったからもう寝るね……落とさないでえぇ!」

 

「ちゃんと話聞け、死ぬぞ」

 

 どう考えても真後ろに静かな恐竜キングが居る。足音が近すぎる。

 

「はい……ヒッ」

 

「後ろにキングが居るのか? まずはだな」

 

 俺は分かりやすく説明した。話を噛み砕いて言うなんてそんなに無い、生きる為だ。

 

「分からない」

 

「は?」

 

 俺がアンジュに教えたい事はレールガンだ。電磁砲の。

 

 手刀を両手で作って、人差し指と薬指を中指に寄せる。それで手を合わせたら僅かな隙間が出るからそこに鉄針を落とし込む。

 

 後は電気を手に集めたら何故か飛ぶ。原理は考えたくもない。科学的には有り得そうな気もする、アンジュの超能力だったという可能性にかけよう。

 

「手で説明して?」

 

「俺お前を抱えてるんだぞ? それ分かって言ってんのか?」

 

「ごめん」

 

 手をアンジュに見せるには、最低限でアンジュの膝裏を二の腕で支えるしかない。

 

 一か八か! やってやる!

 

「火事場の馬鹿力ってこういう所で使うんだな」

 

「違うと思うよ」

 

 スライドさせるように腕を突き出して、アンジュの支える位置を二の腕に変更。なんとか成功した。

 

「視線感じる……」

 

 アンジュのショートパンツの締まりから発生する太ももへの食い込みが更に眼前に迫っている事もあり、体は疲れを知らないらしい。

 

「で、両手をこうして合唱しろ。隙間ができるだろ? そこに鉄針を加えて落とし込み、お得意の雷を集めてみろ」

 

「分かった! ……もうそんな辛い持ち方しなくてもいいんじゃない?」

 

 もっと二の腕を上げたいが、視界が塞がってコケてキングに踏み潰されたらシャレにならない。ちゃんと腕で持とう。

 

 数分で時がやってきた。

 

「成功するかな……」

 

 ビリッ。

 

 電気が手元に集められたのか、鉄針が落とし込められた空間は電気の世界が出来ていた。

 

 いや、まさかな。

 

 バチバチとなる音は可能性を感じさせ、高い音が空気を切り裂いた。アンジュは嬉しそうにバンザイと手を上げる。

 

 どうせ飛ばないだろうな。

 

「飛んだー!」

 

「え?」

 

 針なんか無くなっているから本当に飛んでいた。こいつの手は電磁石なのか?

 

 いや、マイナスとマイナス、プラスとプラスは弾き合う。針と手が偶然にもそうなったのかもな。

 

 マイナスの電気を針に纏わせ、自身の手に同じくらいのマイナスを帯びさせたらそりゃあ飛ぶ。魔法が為せる技。

 

 その電気を互いに大きくすればするほど早い弾速で飛ぶとは思うが、アンジュが調子に乗らないように黙っておこう。

 

「鉄針。お前がすることはこれで後ろの恐竜キングの目を潰すことだ」

 

「頑張る……」

 

 俺はさりげなく後ろを向いてみた。ゲームでしか見ない恐竜が俺に合わせるように後ろで走っ ていた。

 

 もしこの速さがわざとなら、俺達の巣である街を見つけるために泳がせた……という知能がある可能性が高い。なんとしても止めるべきだ。

 

「ガウスライフル!」

 

 ビリビリと嫌な音の後、空気を切る音が響く。

 

「針頂戴」

 

「鉄針」

 

 渡す時は二の腕で支えて針を取れるように渡している。

 

「ゼウスライフル!」

 

「鉄針」

 

 なんで唱えてるんだ? 電気纏わせるだけだろ。

 

「レールガン!」

 

「鉄針」

 

「あ! 恐竜が怯んだよ!」

 

 振り返ると、恐竜キングがその申し訳程度の手で目を抑えて止まっていた。

 

「一気に距離を取るぞ!」

 

 出来ればこのまま距離を取って振り切りたい所だが、すぐさま走ってくる何かを感じた。

 

 見なくてわかる、巨体が跳ねている音だ。

 

「来た、もう来たよ!」

 

「早い! これで勝つる……じゃない」

 

 驚きのあまり気が動転してしまい、変な事を口走る。俺は深呼吸をして、口を開いた。

 

「奴の目はどうなってる?」

 

「片目を閉じてる」

 

「殺れ、もう片方の目も潰してやれ」

 

「可哀想だよ……」

 

「倒すこともできないだろうが」

 

 目を潰して残虐的な行為はしたくない。その意見を尊重するにしても残された選択肢は二択。

 

 水にでも飛び込んで電気を浴びせるか戦って殺すか。

 

 それで勝てる保証なんてない。

 

「恐竜キングがお前を恨むことはない。俺を恨むからな、殺れ」

 

「本当に?」

 

「言葉が分かるしな」

 

 俺は恐竜キングに顔だけ向け、宣告する。

 

『お前は俺が殺す』

 

「グァ!」

 

「ほら、応えただろ?」

 

 アンジュは納得したのか、鉄針を求めてきた。普通に恨まれるかどうかを心配していたらしい。

 

 偶然か否か、恐竜キングはさっきよりも剽悍に走り始めていた。

 

「早く仕留めろ! ……やばい」

 

「分かってるってば!」

 

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