主人公は英霊の力がその身に宿っただけのどこかの誰かでしかない事。
しかし英霊の力がその身に宿った事で性格やら何やらが英霊のそれに寄っている為にほぼ原作キャラそのものである事。
その他Fateキャラも上記のルールに従う事。
これらを頭の片隅に置いて頂けると幸いです。
その日、神は1つの兵器を世に産み落とした。
◇.
(ここは、どこだ?)
人気の無い、夜の裏路地。
緑色の美しい髪を持った、4〜5歳くらいと思われる少年?はそこで目を覚ました。
少年?は困惑したように周りを見渡していた。
「僕は何故こんな所に………僕………?」
おかしい、と少年?はつぶやく。
一人称は昔からずっと”俺”だったはずだ、とも。
しかしあまりにも自然に”僕”という一人称が口から出てきたことに、少年?は困惑していた。
「おかしい事だらけだ。視線も低い。髪の色も黒から緑になってる。声も違う。一人称すら違う。なのにその全てに一切の違和感がない………」
確かに違うはずなのに、しかし以前からそうであったこのような感覚を不気味に思いながら、少年?は立ち上がった。
ふと、漠然とした感覚で説明は付かないものの、誰かが近付いてくるのを察知し、そちらを向いた。
現れたのは明らかに人間を超越した見た目の獣だった。
「キメラ?」
「あぁ!?クソガキ!!てめぇ馬鹿にしてんのかぁ!!?」
「人語を解してる。しかし人間というにはあまりにも異常な見た目だね。君は何者?」
「は、はははは!!舐めてんだな!!?舐めてるんだなぁ!!!」
明らかに激昴する獣にも、少年?は怯まない。
少年?は、まただ、と心の内でつぶやいた。
本来なら恐れるはずなのに、怖いのが当たり前なのに、頭は冷静なままだった。
獣が、その毛むくじゃらで太い腕を振り下ろした。
しかし少年?はそれを軽く横にズレるだけで避けた。
その様子に更に激昴した男が右手を握り込み、拳を放ってくるが、少年?は今度は首を軽く傾けるだけで避けてしまった。
「僕の番かな」
「うおお!?」
少年は獣の右手を掴み、自分よりも数倍大きな獣を軽々と、片手で持ち上げた。
そのまま地面に叩きつけ、背中に回り掴んでいた右肘の関節をキメた。
「痛ででででで!!!」
「質問いいかな?」
「分かった!!分かったからやめろ!!」
「うん。押さえ付けるのは悪いけど続けさせてもらうね」
右肘の関節を正常な可動範囲に戻してから、少年?は男に向かって問いかけを開始した。
「まず初めの質問を訂正しよう。君はどうしてそんな見た目になった?」
「んなもん
「個、性………?」
少年?は驚愕していた。
目の前の獣の姿を個性で片付けるのはあまりにも無理な話だ。
しかしそれは現実ならばだ。
コミックの中の世界であればありえない話ではない。
何故なら少年?は、あらゆる超常の力を、一口に”個性”と言う世界を知っていたからだ。
『僕のヒーローアカデミア』、それがタイトルだ。
タイトルを頭の中で言ってようやく、少年?は好んで読んでいたはずの作品だと思い出した。
しかし何故だか内容は良く思い出せない。
いや、それどころか自分の名前すら思い出す事が出来なかった。
「………うん。今は考えても仕方ないかな。次の質問だけど、ここから一番近い交番かヒーロー事務所ってどこかな?」
「ミッドナイトの事務所が一番近いはずだ………」
「そうかい。ありがとう。助かったよ」
少年?は獣の拘束を解き、背を向けて歩き出す。
獣は好機とばかりに背後から襲いかかるが、正体不明の鎖に身体を縛られてしまった。
「………無駄な事をするね。さっきの時点で君は僕に敵わない事が分からなかったのかな?」
「ひ、ひぃっ!!」
「僕は今自分の事が何も分からない状態だから、君
少年?の右手が光り、輝く。
一瞬の内に右手は閃光を放つ剣に変わっていた。
少年?は獣の首元にそれをピタリとくっ付けた。
「わ、悪かった!!た、頼むから殺さないでくれ!!!」
「うん。いいよ」
「へ?」
「戦う必要がないなら僕は別に無理に戦おうとは思わないからね」
そう言って、少年?は闇夜に消えていった。
獣はしばらくその場を動けなかった。
◇
ミッドナイト、本名を香山睡。
初めあまりにも過激なコスチュームで国に新しく法律を作らせた、ある意味伝説の人だ。
しかし今はメガネにリクルートスーツという地味目な格好だった。
これは単に通勤中であるだけなのだが、元々の色香故、ヒーローとして既に顔が割れている為に、道行く人々は彼女の方を振り返ってまで見ていた。
ミッドナイトはその視線を特に気にする事なく自身の事務所に向かう。
最寄りの駅から徒歩五分という立地にあるミッドナイト事務所は、彼女がまだ20歳である事を鑑みても大きい。それほどに彼女が人気なヒーローであるという事だ。
「あら?」
思わず、そんな気の抜けた声が出た。
理由は単純、自身の事務所の前に、緑色の、まるでエメラルドのように透き通った、絹のように美しい髪の子供が座っていたからだ。
声をかけようと近付いていくと、その子は靴を履いていない事が分かった。
何やら事件の匂いがする、と声をかけようとすると、
「貴女がミッドナイト?この周辺で情報を収集していたけど、思いの外真面目な服なんだね」
子供らしからぬ、流暢な話し方にミッドナイトは驚愕した。
思わず身構えてしまうが、頭脳系個性なのかもしれないと思い直し、改めて声をかけた。
「どうして裸足なの?」
「うん、わからない」
「え?」
「わからないんだ。自身に関する記憶も何もかも、昨夜以前のものが欠落しているんだ」
「それは、つまり………」
「俗に言う記憶喪失だね」
全て本当の事ではない。
昨夜以前の記憶もいくつかはあるが、それは恐らくこの世界での記憶じゃないと、少年?はそれをミッドナイトに伝えなかった。
「……一先ず、私の事務所にいらっしゃい。服は兎も角、裸足なのは目立つでしょ?」
「いいの?」
「子どもがそんな事を気にしない」
ミッドナイトは少年?の手を引き事務所へと入っていった。
◇
少年?は事務所の待合所でミッドナイトを待っていた。
しばらくして、ミッドナイトがスーツ姿のままで戻ってきた。
ミッドナイト曰く、警察に連絡した所、取り敢えず連れて行く事になったらしい。
そう言われ外に出ると、車が止まっていた。
運転席にはミッドナイトのサイドキックと思われる人物が座っていた。
少年?とミッドナイトが後部座席に座ると車は警察署に向かって出発した。
「僕はどうなるの?」
「記憶を失っているようだから、行方不明届けと照らし合わせて、一致しなかったら孤児院かしらね」
「なるほど」
ミッドナイトは思わず苦笑する。
この年の子どもが、自分の事に関してここまで反応が薄いだろうか。
しばらく車内が沈黙に包まれる。
ミッドナイトが少年?の異変に気づいたのは数分程経ってからの事だ。
どういう訳か、一方向を見て固まっているのだ。
「どうしたの?」
「南東に71.382m地点」
「はい?」
「
ズドンッ!!
唐突な爆発音に、ミッドナイトと運転していたサイドキックは音の方を向く。
その方向はちょうど少年?が見ているのと同じ方向だった。
車の外にいる人々も、明らかな
「君はここで待ってて!!行くわよ!!」
「はい!!」
ミッドナイトとサイドキックは車から飛び出していった。
◇
爆発の中心にいたのは、近頃指名手配され始めた
どうやら宝石店に強盗に入ったらしい。
ミッドナイトが事件現場に到着した時点で既に何人かヒーローがいたが、人質を取られている為に手をこまねいていた。
「オラァ!!近付くなよヒーロー共ぉ!!近付いたらこのガキ殺すぞぉ!!」
加えてこの
今までの犯行から爆発する場所を絞る事は出来ないのが分かっているが、
迂闊に危害を加えようとすれば女の子が危ない。
ヒーロー達が
「ちょっ!君何を!!?」
それはミッドナイトが今朝保護した少年?だった。
裸足の少年?はのんびり、ゆったりとした歩みで
「あぁ?おいガキ、離れやがれ!!」
「………」
「おい!!無視するなクソガキ!!!」
「………」
「そうか………なら殺したらァ!!」
ヒーロー達は慌てて走り出すが、間に合う距離じゃない。
最悪の結果を覚悟する。
しかし、殴られる寸前で少年が凄まじい速度で横に跳んだ。
「ゴガァ!!!?!??」
子どもに蹴られたとは思えない吹っ飛び方をする
余程の衝撃だったのか、人質の女の子が
少年?は女の子をお姫様抱っこの形でキャッチする。
そして少年?はミッドナイトに向かって女の子を投げた。
「え?ちょちょちょ!!?」
ミッドナイトが慌てて受け止めると、少年?は再び
少年?が体勢を立て直し始めていた
少年?が
しかしその一撃は空を切った。
「ふっ!」
少年?は短く息を吐き、掌底を
その威力は、かなりの巨躯である
「んー、やっぱりこんなものか」
少年は、自身が作り出した現状を何でもないかのようにつぶやいた。
周りの人間達は、驚愕のあまりしばらく動けなかったという。
◇
闇深い部屋の中で、身長が2mはあろう男が、目を瞑って座っていた。
ワイシャツ含め純黒のスーツ姿の男は微動だにしない。
しかし、数秒して、パチリと目を開いた。
「………来たか」
男の目には、漆黒の炎が燃え盛っていた。