難産、難産だったんやぁぁぁぁぁ!!!!
次話から入試に入ります!許せ!!
少年の朝は早い。
まず、4時に起床だ。
隣の部屋で眠る、戸籍上の母であり、自身が姉として接している女性、香山睡を起こさぬ様に出来る限り物音を立てず、少年はキッチンへ向かった。
クローゼットからスーツと姉の仕事用のバッグを取り出し、スーツは畳んでソファの上に置いておく。
次にシャワーを浴びる。
緑色の美しい髪を丁寧に洗い、髪の毛をシニョンに纏める。
トースターにパンを差し込み、コーヒー用のお湯を沸かし、スクランブルエッグを作る。
なんだかんだと色々やっていると、長針が数字の6を少し通り過ぎた頃合で、睡がリビングにやってきた。
「ふわぁ……おはようエル」
「うん。おはよう姉さん」
少年、香山エルは、淡い微笑みを浮かべながら返事を返す。
先程までの朝の支度は、ヒーローであり、教師でもある睡のためのものだ。
エルを養子にとり、それから1年程、睡はミッドナイトとしての活動を減らしていた。
そしてヒーロー活動の再開と共に雄英にも勤める事となったのだ。
1年の休暇は、エルとの生活に慣れるため、教員免許を取るためだった。
「姉さん、危ないから寝ぼけて抱き着くのはやめてね」
「んー、いい匂い」
エルの洗ったばかりの髪の毛をスンスンと嗅ぐ睡に、エルは苦笑する。
数分の格闘の末、ようやく睡を引き剥がしたエルは朝食と弁当作りを再開する。
スーツを着て、ようやく目が覚めてきた睡が、テレビを付ける。
テレビではお天気キャスターが、今日は晴れだ、という事を言っていた。
「姉さん、朝ごはん出来たよ」
「うん。ありがとね」
睡は椅子に座ったエルの目の前に座った。
「「いただきます」」
2人で手を合わせ、朝食を食べ始める。
睡はテーブルに置いてある、僅かに溶けたバターをバターナイフでパンに付けていく。
口にすると、塩気の強い味が口の中に広がった。
最早食べ慣れた、しかし飽きることのない味に、睡は朝の始まりを感じた。
エルが作ったスクランブルエッグを食べ、コーヒーを飲み、目の前の皿から朝食が無くなる。
「「ごちそうさまでした」」
2人で朝食の終わりを告げる。
睡はソファの上のバッグを手に取り、玄関に向かった。
踵の低いヒールを履いていると、背後から声がかかった。
「行ってらっしゃい、姉さん」
「うん。行ってきます」
睡はエルの言葉に返事を返してから、家を出た。
「さて、僕も準備を始めないとね」
エルは自室で、学校の制服の袖に腕を通し、昨日用意した授業の用意を確認してから、玄関の扉を開ける。
「行ってきます」
誰もいないが、家の中に向かって言葉を発してから扉を締める。
ふと見上げると、天気予報の通りに、澄んだ青空が広がっていた。
◇
「おはようございます」
朝の挨拶と共にミッドナイトが職員室に入ると、そこには既にセメントスとエクトプラズムがいた。この時間ではいつも通りのメンツだ。
ミッドナイトは既に更衣室でコスチュームに着替えていた。
今日の授業の用意を整えていると、続々と有名なヒーロー達が入ってくる。
ミッドナイトの目にも、初めはその光景が珍しく映ったが、今では慣れた光景だ。
「おはようございます」
「あら、おはよう相澤君」
世間一般に言って”小汚い”と評されるであろう男が職員室に入ってきた。
彼は『抹消ヒーロー イレイザーヘッド』として活動するれっきとしたプロヒーローだ。
本人の、ヒーロー活動に差し支える、という理由で知名度は皆無に等しいが、戦闘力だけで言えばかなり高い部類に入る男だ。
因みに、ミッドナイトの数少ない後輩でもある。
「髭ぐらい剃ったら……?」
「………髭剃るのは、体裁を保つ為とかそんなもんでしょう。そんなものどうでもいい俺がわざわざ剃るのは”合理的じゃない”」
「あ、そう」
やっぱり無駄だったか、とミッドナイトは苦笑する。
会話を切り上げ、2人が自身の作業に集中していると、根津が朝礼の時間を告げた。
いつも通りに変わり映えの無い朝礼。
しかし、根津は最後にとんでもない事を言い放った。
「今年からオールマイトが就任するからよろしくね」
「「「…………はぁ!?」」」
オールマイトというビッグネームに、ヒーロー達の声が重なった。
相澤を除き困惑して固まるヒーロー達に、根津は説明を始める。
「公表はされてないけどね、彼はある
「………」
「後継を育てる。彼はその為に雄英に来る。少し予想外な見た目になっているけど、受け入れて欲しいのサ!」
各々が頷く。
今年は今までとは色々違いそうだ、等と考えながら、ミッドナイトは自身が授業を行う教室に向かった。
◇
冬特有の、冷たく乾いた風が、枯葉を踊らせる。
そんな中、”戸籍上は”男であるエルが歩いていた。
エルの100人中100人が”美しい”と称しそうな美貌が相まって、枯れ木と枯葉で寂しいだけのはずな風景が、まるで動き出した芸術のように錯覚させる。
「〜♪」
鼻歌を奏でるエルは、スカートにTシャツ、その上からコートを羽織るという服装も関係して少女にしか見えなかった。
女装している理由は、睡の配慮にある。
エルは睡の養子になる時、自身の”性別の曖昧さ”を伝えていた。
エルキドゥの様に性別が無い訳では無かったが、なろうと思えば男にも女にも慣れてしまうからだ。
結果として、睡はそんなエルがどちらとしても生きていけるように、エルの私服を男物と女物の両方を買ってくるのだ。
そしてエルもせっかく買ってきてくれたのだから、とその日の気分によって男装したり女装したりしているのである。
閑話休題。
そんなエルが歩く道には誰もいない。
ここはエルのお気に入りの散歩ルートだ。
エルはエルキドゥそのものではないが、性格や好みはもちろん似る。
結果として、エルは本物同様に植物が好きなのだ。
「少し寂しいけど、葉の落ちた木も良いね」
エルは街路樹を眺めながらのんびりと歩く。
しかし数分後、エルはいきなりピタッと、その場に止まった。
「………強い、気配がする。いや?外側だけ?内側が弱々しい………不思議な気配だな?」
エルは気配のする背後を振り返る。
その目には、先程までの楽しげな輝きは無く、代わりに好奇心で満ちていた。
「行ってみようかな」
そんな言葉と共に、エルは好奇心に身を任せ、来た道を戻り始めた。
◇
無個性の少年、緑谷出久は、枯葉の舞う道を走っていた。
緑谷の前には、痩せ細った、骸骨を彷彿とさせる男がセグウェイに乗って走っている。
「オール、マイト…!もう少し、スピード上げて貰って、大丈夫、です……!!」
「緑谷少年、それ明らか大丈夫じゃないやつだぞ」
緑谷はぜいぜいと息も絶え絶えで、汗まみれだ。
以前、これよりひどい状態で倒れた事があるので、NO.1ヒーローの名で呼ばれた骸骨男はかなりゆっくりなペースでセグウェイを走らせていた。
「でも……!」
「でもじゃない。前も言ったろ、無理をし過ぎては逆効果だ。君が焦るのも分かるが、それで体調を崩してしまえば、結果的にトレーニングの時間が短くなってしまう。タイミングが悪ければ、試験を受けれないなんて事もありえるんだぞ」
「う………」
緑谷はバツが悪そうにする。
前科ありの為に、オールマイトも少し厳しめだ。
「うわっ!」
「ほら言わんこっちゃない」
走りながらの会話で、足元への注意が疎かになったのもあるだろうが緑谷がコケた。
いつもの姿になったオールマイトは緑谷の服の首元を掴み持ち上げる。
「すい、ません」
「全く………今日はこれまでにしよう。これで怪我でもしたら洒落にならないからね」
「すい、ません………」
オールマイトは緑谷を置き、先程までの骸骨姿に戻る。
再びセグウェイに乗り、先程よりもゆっくりなスピードで走り始めた。
緑谷もそれに付いて歩く。
「重ねて言うが、無理は禁物だ。あとに1ヶ月、焦るのも分かるが、身体のスペックを超過するトレーニングは体調を崩すだけだ。私もスケジュールは急ぎ目にするつもりだが、着実に行こう」
「はい………!!」
横にいる緑谷の返事に満足したオールマイトは前方をに向き直す。
すると、緑色の、美しいという印象を受ける少女が、何かを探しているのかキョロキョロと辺りを見回しながら歩いてきた。
何か困っているのだろうか、と思ったオールマイトは、当然といった感じで少女に声をかけた。
「何を探しているんだい?良ければ手伝おうか」
「ここら辺から気配がしたんだ」
「気配?」
少女の言葉にオールマイトは首を傾げる。
おそらく個性によるものなのだろうが、知り合いの気配がして探しているとかだろうか?とオールマイトは予想する。
しかし、少女の次の言葉はオールマイトの予想外のものだった。
「外側だけ強くて、内側がとても弱々しい、不思議な気配なんだけど……そう、プールの授業の時だけ腹筋に力を入れているような」
「「!?」」
「どうしたの?」
オールマイトは、オール・フォー・ワンという
故に、今の彼は1日に数時間しかオールマイトとして活動出来ないのである。
普段の姿も、オールマイトとかけ離れた骸骨の様な姿になってしまった。
そして、オールマイトは緑谷に自身がNO.1ヒーローとして活動している時の自分を”プールの授業の時に腹筋に力を入れている様な”と説明したのだ。
「い、いや、何でもないよ……」
「そう………悪いね、引き止めてしまった。鍛錬、頑張ってね」
「うぇっ!?は、はははいっ!!」
淡く微笑んでくる少女(本当は少年だが)に、女性への耐性が皆無の緑谷は尋常じゃない程にテンパる。
少女は緑谷のテンパりように一瞬首を傾げたが、すぐに軽く会釈をして、その場から去っていった。
この出会いが、緑谷出久、オールマイトにとって大きなものになる事をこの時はまだ、誰も知らなかった。
◇
午後11時。
あの後帰宅したエルは、受験勉強をした後、明日の弁当の下ごしらえを終えてから、自室でノートを開いていた。
表紙には、綺麗な文字で『自分自身について』と書かれている。
ノートの中にはびっしりと文字が埋まっている。
内容はエルの好物や嫌いなもの、出来ること出来ないことなど、多岐にわたる。
このノートはエルが睡に引き取られてから毎晩書き付けているものだ。
率直に自身が思った事、感じた事を綴ったこのノートは、エルキドゥらしくない部分、つまりはエルキドゥになる前の誰かの要素を探すためだ。
「Fate、僕のヒーローアカデミア、作品自体は知ってるのに、内容は分からない。何故、エルキドゥになったのか、分からない。僕は誰だったのか、分からない。こうして見返すと分からない事だらけだなぁ………」
エルはノートを見ながらため息をつく。
その後10数分程ノートを眺めていたが、瞼が重くなり、うつらうつらとし始めた頃合いでノートを閉じ、ベットに横たわった。
「眠気を、感じる、以上、サーヴァントという、訳でも、無いの、かな…………」
そんな事を呟きながら、エルは瞳を閉じた。
―――――――死ね。
「!?」
瞬間、何かがエルの部屋に撃ち込まれた。
驚異的な反応速度で飛び起きたエルはそれがどこかに着弾する前に掴み取る。
見ると、それは矢だった。
掴み取ったエルの手は摩擦によって火傷を負っている。
火傷がスキルによって再生していくのを見ながらエルは矢が飛んできた方向を見る。
目視は不可能、だが気配感知のスキルが、1km先のビルに
(英霊!?僕以外にいたのか!?)
スキルが、その存在が再び矢をつがえるのを感知する。
エルは矢と、それによって生まれた風圧で粉々になり、吹き抜けとなった窓から飛び出した。
7階から飛び降り、そのまま出来るだけ人のいない場所を選んでビルの方に移動する。
長い夜が始まった。
◇
「くっ!!」
飛んできた矢を下から切り上げ、勢いを殺す。
エルは今、この射撃の主から約300mの位置にいた。
あと少しと言える距離だが、
(たった300mが、遠い………!!!)
引くことは出来ず、進もうにも機関銃掃射の如き速度で、下手な砲弾よりも数十倍は強力な矢が放たれ続けている。
(このままじゃジリ貧だ。余波で地面が削れ始めてるし、体力にもまだ余裕はあるけど、いつまで続くか分からない………!!)
エルの額を、汗が流れていく。
数秒、矢を弾き続ける。
回避行動を取れば、300m程度であればたやすく詰める事が出来るだろう。
だが避けてしまえば、矢は周囲の建物等に当たり、被害は現状の数十、数百倍に広がるだろう。
相手もそれを分かってか、数発毎にエルではなく、エルの背後の建物を狙った矢を放ってきている。
「一か八か!!」
左手でどうにか矢を弾きつつ、エルは右手から鎖を伸ばしていく。
上方に伸ばした鎖を街灯に巻き付け、それを引っ張る。
次の瞬間、エルの視界が激変した。
何でもない、どこでも見れそうな街の一角から、暗黒の夜の空に変わったのだ。
エルの肉体は未だ上昇を続けている。
ようやく止まった時には、エルはビルにいる襲撃者よりも高い位置にいた。
すぐさま鎖を両手から伸ばし、出来るだけ高い建造物に引っ掛け、それを引っ張って再び
その2工程だけで、エルは先程の位置から100m程進んでいた。
しかし、
「
襲撃者も、それをただ見ているだけではない。
放たれた矢は、エルの腹を浅く切り裂いた。
傷はスキルによって即時再生するが、鋭い痛みはエルの動きを鈍らせる。
さらに、放たれる矢も1つや2つでは無い。
襲撃者よりも高い位置にいるおかげで、回避しても背後を気にする必要は無いが、空中にいる為に動きが制限されているエルの身体に切り傷が増えていく。
しかし、エルは着実に襲撃者の元に近付いていた。
150、100、と距離を詰め、襲撃者から約50m地点に至った所で、その姿が目に入った。
黒いスーツを着た2mはあるであろう男だった。
「厄介極まりないな」
男が呟き、矢を番えた。
放たれた矢は、それまでで一番の威力を持っていた。
(避けれない!!?)
どうする!?と考える頭とは違い、エルの肉体は先に動いていた。
放たれた矢に、左手を突き出したのだ。
手の平に鋭い痛みが走り、顔を歪ませるが、矢が完全に貫通する前に手を自身に重ならない位置までズラした。
エルの手を貫通した矢は、そのまま空へ吸い込まれていった。
再生したものの、残留する痛覚を無視し、エルは右手を光り輝く剣に変形させた。
避けられると思っていなかったのか、顔を驚愕に染める男の足に向かって、剣を振るう。
しかし男は咄嗟にバックステップで回避した。
「とことん規格外だな。相手取るのが面倒で仕方がない」
「それなら、何故僕を狙ったのかな?」
「はっ、教えるとでも?」
まぁ言わないよな、とエルは内心苦笑する。
すぐに気を引き締め、戦闘態勢に入る。
男も、弓を構えた。
「一先ず、捕縛させてもらうよ」
「………悪いが、こちらも捕まる訳にはいかない。全力で抵抗させてもらう」
エルが突貫する。
男が矢を放つ。
この世にて、初めての英霊同士の戦いが幕を開けた。
アーチャーVSエルキドゥ
ファイ!!
尚、勝者は既に決まっている模様。
凡百の英霊が神代最強格に勝てる訳が無いよね!!
さて、2mの身長のアーチャー、流石にまだ誰かは分からないでしょう。
次で一つヒントが出ます。
ワンチャンそれでバレるんだよねぇ。