男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
「あの……もしかして、お二人はお知り合い……ですの?」
「うん。梅ちゃんは学校の先輩」
「ああ、こいつ俺の
「なんで? 梅ちゃんは梅ちゃん。大和梅ちゃん」
「ちっ、相変わらずだな。お前くらいのもんだぞ、俺を下の名前で呼び続けて五体満足なのは……」
――SランクMaps
配属当時は後輩の深夜子と同じく、曙区の担当で矢地の部下であった。
二人ともMaps養成学校時代から話題に事欠かない問題児ではあったが、Sランクという特殊な高評価で卒業している。
そんな彼女だが、『うめ』という古風な名前と、極端な低身長にコンプレックスを持っていた。
それゆえ学生時代。その脅威の戦闘能力を以て即座に同級生たちを制圧。自分を苗字で呼ぶことを強制、さらに外見を馬鹿にした相手はもれなく半殺しにしている。
それから一年後に深夜子が入学。
同学年では無いため直接的な競争にはならないのだが、実技関係の全校記録で深夜子と一位二位を争うことになる。
そこで一方的にライバル意識を燃やした梅が、あれやこれやと深夜子にちょっかいをかけ、二人の交流が始まったのだ。
もちろん、今も昔も全身全霊で空気を読まない深夜子なので、梅の外見や名前もまったく関係なしの遠慮なしな立ち振舞い。
周囲からは一触即発と思われたが、独特な
ちなみに余談ではあるが、梅には三人の妹がいる。
次女から順に『
◇◆◇
さて、時間はすでに深夜三時すぎなのだが、Maps側居住区のリビングルームにて、緊急ミーティングが開催されていた。
当然ながら、騒ぎの原因である梅の事情聴取が目的だ。
「それで大和さん。あの写真はいったいどういうことですの? そもそも、何を思って個人データの改造などと馬鹿な真似を……ありえませんわ」
「あん? あっちのがカッコイイからに決まってんだろ」
ピシィッ! 五月のメガネに亀裂が入った――ように見えた。
「あっ、あっ、貴女
梅の胸ぐらを掴み、前後に揺らしながら五月が怒り狂う。
深夜子が横で「
そして、梅の口から説明された経緯はこうであった。
三日前。
矢地から突然の異動辞令があるも、自分の勤務地は北海区と非常に遠方。大急ぎで荷づくりをして、後輩たちに発送を頼んだ。
ところが、連絡手段であるスマホを荷物といっしょに梱包してしまう。
さらには、曙区へ着いたところで財布を無くす痛恨のアクシデント。
どうしたものかと考えたが、すでに春日湊も近く。到着期限も迫っていたので、なんとかなるだろうとそのまま現地へ。
幸い身分証は持っていたので、現場に到着すれば先着メンバーもいるから大丈夫だろう――のはずが、気づいたらこの有様。とのことであった。
話の途中から五月は机に両肘をつき、両手で顔を覆っている。
五月の心労に直撃となっているこの流れ、本来はリーダーである深夜子の心労であるはずだが、どうしてこんなことになったのか――その裏事情は矢地にあった。
矢地のもとへ梅が配属されて一年後、さらに深夜子が着任。
まさかのSランク問題児を二人も抱えることになってしまった。
当然、なかなか担当先が決まらなかった二人。当時は一年先輩の梅を思って、矢地はツテを使いあちこちに手を尽くした。
結果、人手不足とSランクという肩書きもあって、転勤条件ながら警護任務に当て込むことができたのだ。
ただし、勤務地となった北海区はその名の通り、北の果ての僻地だ。
矢地は警護任務に送り出せたとはいえ、左遷さながらの異動だったことを気に病んでいた。
そこへ朝日の案件が舞いこんできたので、渡りに船とばかりに梅を引っぱり戻したのであった。
実に良い上司である。
だが、ここで問題が発生した。
同じく残り物であった深夜子を加えることで、完全無欠の武闘派コンビ結成となってしまう。
優秀と言っても、かたや対人能力と一般常識欠如。かたや見本のような
上からは、戦闘能力重視の人選指示が出るには出ていたが、正直この二人だけでぶっちぎりオーバーキル状態。実務に強い人員を確保する必要ができたのだ。
とにかく時間が無かったこともあり、矢地は同期で仲の良かった武蔵区の課長に泣きついた……結果。
武蔵区で”最優”と呼ばれ――最高の実務能力(と常識)を持つ、五月雨五月に白羽の矢が立ったのである。
◇◆◇
「ふわあああああああ……深夜子さんといい、貴女といい。本部は何を考えていますの……これで、まともに、警護任務を――しかも朝日様のような、世界の秘宝と言っても差し支えない麗しい殿方に、こんな特大地雷を二発も……ああ朝日様、お気の毒に」
五月はため息まじりにぼやく。それに深夜子と梅がピクリと反応する。
二人が同時にジトッと視線を向けてきた。
「あぁん? おいおい、五月。てめえだって勘違いしまくりだったじゃねえか。たかがAランクが偉そうに言ってんじゃねぇっつーの。Sランクをなめてんじゃねえぞ?」
「あたしは三冠獲得してのSランク……ふっ」
「なっ!? SSうるさいですわねっ。そもそもSランクの選出規定がおかしいのですわ。戦闘能力重視にも限度がありますでしょうに。ま、さ、に、貴女方がそうですけれども、人格に問題ある方が多過ぎですわよっ」
五月が反論する理由。
本来、Mapsは戦闘能力、知識、技術など全十種類の項目で能力評価される。
配属時のランクは、養成学校卒業時の評価合計値が基準だ。以降は任務で優秀な実績を残せばランクが上がることもある。
唯一、Sランクのみ特殊な評価方法となっており、評価合計値が一定以上の者から、戦闘能力が重視され教官推薦で選出される。
また、五月の言うとおり不思議と人物に難がある者が多いのも事実だ。
なんとかと天才は紙一重、とはよく言ったものである。
「それに、総合評価は
「これは心外。
そう言ってふふん! と満足げに深夜子が胸をはってくる。
「貴女はこれを日報と言い張るんですの?」
このアホリーダーは……五月は引きつる顔をなんとか笑顔に変え、深夜子の眼前に一枚の日報を突きつけてやる。
Mapsの日報とは日々の業務内容はもとより、
ところが、
その内容は『大乱戦クラッシュシスターズで朝日君の使用したキャラと各キャラごとの傾向――云々』……これはひどい。
「深夜子さん……バカにも限界値がありましてよ?」
笑顔も限界。
呆れ半分、怒り半分のジトッとした視線を深夜子へと送る。あー、頭が痛い。
「えー。でも、それ――」
「はい。どうぞご確認くださいませ」
「ん、何?」
「矢地課長からのご返信ですわ」
きっと聞く価値のないであろう深夜子の言い訳を、タブレットを目の前に突きだして止める。
それに表示されているのは『深夜子へ』の件名で、矢地から発信されたメールだ。
無論、文字フォントは限界まで拡大して、デカデカと映しだしてある。
『お前の頭を握りつぶしてやろうか?』
深夜子の顔が一瞬にして真っ青になった。
「ふおおおおおっ、や、ややややっちー勘弁! それは勘弁!」
今夜はふるえて眠るがいい。
「それで、大和さん。貴女はいかがですの?」
五月はチラリと視線を移す。そこにあるのは梅の苦い顔だ。
Maps個人データ確認済なので知っている。もちろん苦手分野。むしろ、深夜子よりも梅の方がさらにひどい。
「ちっ、へいへい。わかったよ、わかりましたよ! 頼りにしてんぜ。んで、そーいや
「その件ですが……我々の反省も踏まえて。たっぷりと予習していいだきますわ」
「ん。まずはこれ読む」
矢地へのごめんなさいメールを送信完了させた深夜子が、朝日の分厚い資料を取り出して梅へと手渡す。
「はぁ? なんだものものしい――って、んだこりゃ!? こんな男がいるのかよ……。はぁん……さてはお前ら、俺がケツ持ちだからって
「梅ちゃん。これガチだから」
「貴女も運が良かっ……コホン。いえ、矢地課長に感謝することですわね」
「おいおい、これマジなのかよ?」
◇◆◇
――しばしの間、梅は二人から朝日について傾向と対策を聞かされることになった。
心配されて、あーだ、こーだ、と言われ続ける梅だが、実は
その態度や言葉遣いから、最初の印象が悪いだけで、竹を割ったような性格に加えて、面倒見のいい姉御肌。
そんな
北海区の勤務でも、男性からの評判が悪かったことはなく。
梅は多少ばかり男性相手に自信を持っており、
「ふ、ふん……はっ、確かにとんでもねえいい男だがよ。いいか、深夜子、五月。媚びばっか売ってりゃいいなんて思ってんじゃねえぜ! 男ってのはよ。どんなことからでもキチッと護ってやんよっていう気合いで、
「かんっぺきにダメな反応ですわね」
「梅ちゃんナイスフラグ」
「なんだとてめえら!?」
――さて、翌日。
フラグが立ちまくった梅と朝日の面会。
リビングに全員集合して、顔合わせとなったのであるが……梅を見た朝日の反応は、深夜子たちのはるか想定外のものであった。
三姉弟の末っ子であった朝日。彼は弟や妹を持つことにあこがれていた。
その為、梅の外見が思いっきりツボに入ってしまい。警護官どころか、
これは色々いけない。
それはもう(梅に人生において)これ以上ない特殊な積極さで、
慌てふためく深夜子と五月による必死のフォローもむなしく――大和梅。
撃沈!
これにて男性保護特務警護官三名。
神崎朝日の警護任務に無事着任完了である。
第一章 着任します!男性保護特務警護官 ―完―
朝日と深夜子、五月、梅たち三人娘の物語がここから始まります。
第二章もよろしくお願い致します。