男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

10 / 100
第九話 着任完了!男性保護特務警護官

「あの……もしかして、お二人はお知り合い……ですの?」

「うん。梅ちゃんは学校の先輩」

「ああ、こいつ俺の一学年下(いっこした)だったんだよ。――ってか深夜子! 俺を下の名前で呼ぶなっつってんだろうが」

「なんで? 梅ちゃんは梅ちゃん。大和梅ちゃん」

「ちっ、相変わらずだな。お前くらいのもんだぞ、俺を下の名前で呼び続けて五体満足なのは……」

 

 ――SランクMaps大和(やまと)(うめ)

 

 配属当時は後輩の深夜子と同じく、曙区の担当で矢地の部下であった。

 二人ともMaps養成学校時代から話題に事欠かない問題児ではあったが、Sランクという特殊な高評価で卒業している。

 そんな彼女だが、『うめ』という古風な名前と、極端な低身長にコンプレックスを持っていた。

 それゆえ学生時代。その脅威の戦闘能力を以て即座に同級生たちを制圧。自分を苗字で呼ぶことを強制、さらに外見を馬鹿にした相手はもれなく半殺しにしている。

 

 それから一年後に深夜子が入学。

 同学年では無いため直接的な競争にはならないのだが、実技関係の全校記録で深夜子と一位二位を争うことになる。

 そこで一方的にライバル意識を燃やした梅が、あれやこれやと深夜子にちょっかいをかけ、二人の交流が始まったのだ。

 

 もちろん、今も昔も全身全霊で空気を読まない深夜子なので、梅の外見や名前もまったく関係なしの遠慮なしな立ち振舞い。

 周囲からは一触即発と思われたが、独特な性格(キャラ)と梅自身も認めざるを得ない実力もあって、なんだかんだと仲良くやっていた二人である。

 

 ちなみに余談ではあるが、梅には三人の妹がいる。

 次女から順に『(さくら)』『(あんず)』『(もも)』となっており、名付け親の反省がうかがえる。

 

◇◆◇

 

 さて、時間はすでに深夜三時すぎなのだが、Maps側居住区のリビングルームにて、緊急ミーティングが開催されていた。

 当然ながら、騒ぎの原因である梅の事情聴取が目的だ。

 

「それで大和さん。あの写真はいったいどういうことですの? そもそも、何を思って個人データの改造などと馬鹿な真似を……ありえませんわ」

「あん? あっちのがカッコイイからに決まってんだろ」

 

 ピシィッ! 五月のメガネに亀裂が入った――ように見えた。

 

「あっ、あっ、貴女()バカですのおおおおおおっ!? Mapsの相互通信用個人データをなんだと思ってますの!? 改ざんの罪に問われてもおかしくないですわよーーっ!!」

 梅の胸ぐらを掴み、前後に揺らしながら五月が怒り狂う。

 深夜子が横で「()って言った。五月(さっきー)、もって言った」とぶつぶつ呟いている。

 

 そして、梅の口から説明された経緯はこうであった。

 

 三日前。

 矢地から突然の異動辞令があるも、自分の勤務地は北海区と非常に遠方。大急ぎで荷づくりをして、後輩たちに発送を頼んだ。

 ところが、連絡手段であるスマホを荷物といっしょに梱包してしまう。

 さらには、曙区へ着いたところで財布を無くす痛恨のアクシデント。

 

 どうしたものかと考えたが、すでに春日湊も近く。到着期限も迫っていたので、なんとかなるだろうとそのまま現地へ。

 幸い身分証は持っていたので、現場に到着すれば先着メンバーもいるから大丈夫だろう――のはずが、気づいたらこの有様。とのことであった。

 

 話の途中から五月は机に両肘をつき、両手で顔を覆っている。

 

 五月の心労に直撃となっているこの流れ、本来はリーダーである深夜子の心労であるはずだが、どうしてこんなことになったのか――その裏事情は矢地にあった。

 

 矢地のもとへ梅が配属されて一年後、さらに深夜子が着任。

 まさかのSランク問題児を二人も抱えることになってしまった。

 当然、なかなか担当先が決まらなかった二人。当時は一年先輩の梅を思って、矢地はツテを使いあちこちに手を尽くした。

 結果、人手不足とSランクという肩書きもあって、転勤条件ながら警護任務に当て込むことができたのだ。

 

 ただし、勤務地となった北海区はその名の通り、北の果ての僻地だ。

 矢地は警護任務に送り出せたとはいえ、左遷さながらの異動だったことを気に病んでいた。

 そこへ朝日の案件が舞いこんできたので、渡りに船とばかりに梅を引っぱり戻したのであった。

 

 実に良い上司である。

 

 だが、ここで問題が発生した。

 同じく残り物であった深夜子を加えることで、完全無欠の武闘派コンビ結成となってしまう。

 優秀と言っても、かたや対人能力と一般常識欠如。かたや見本のような脳筋(ばか)。矢地は焦った。それはもう超焦った。

 上からは、戦闘能力重視の人選指示が出るには出ていたが、正直この二人だけでぶっちぎりオーバーキル状態。実務に強い人員を確保する必要ができたのだ。

 とにかく時間が無かったこともあり、矢地は同期で仲の良かった武蔵区の課長に泣きついた……結果。

 

 武蔵区で”最優”と呼ばれ――最高の実務能力(と常識)を持つ、五月雨五月に白羽の矢が立ったのである。

 

◇◆◇

 

「ふわあああああああ……深夜子さんといい、貴女といい。本部は何を考えていますの……これで、まともに、警護任務を――しかも朝日様のような、世界の秘宝と言っても差し支えない麗しい殿方に、こんな特大地雷を二発も……ああ朝日様、お気の毒に」

 

 五月はため息まじりにぼやく。それに深夜子と梅がピクリと反応する。

 二人が同時にジトッと視線を向けてきた。

 

「あぁん? おいおい、五月。てめえだって勘違いしまくりだったじゃねえか。たかがAランクが偉そうに言ってんじゃねぇっつーの。Sランクをなめてんじゃねえぞ?」

「あたしは三冠獲得してのSランク……ふっ」

「なっ!? SSうるさいですわねっ。そもそもSランクの選出規定がおかしいのですわ。戦闘能力重視にも限度がありますでしょうに。ま、さ、に、貴女方がそうですけれども、人格に問題ある方が多過ぎですわよっ」

 

 五月が反論する理由。

 本来、Mapsは戦闘能力、知識、技術など全十種類の項目で能力評価される。

 配属時のランクは、養成学校卒業時の評価合計値が基準だ。以降は任務で優秀な実績を残せばランクが上がることもある。 

 唯一、Sランクのみ特殊な評価方法となっており、評価合計値が一定以上の者から、戦闘能力が重視され教官推薦で選出される。

 また、五月の言うとおり不思議と人物に難がある者が多いのも事実だ。

 なんとかと天才は紙一重、とはよく言ったものである。

 

「それに、総合評価はAランクMaps(わたくしたち)の方が上の場合が多いですわよ。貴女方、書類関係や実務のほどは如何(いかが)ですの? あまりお得意そうには見えませんことよ」

「これは心外。五月(さっきー)、あたし日報書いてる」

 そう言ってふふん! と満足げに深夜子が胸をはってくる。

「貴女はこれを日報と言い張るんですの?」

 このアホリーダーは……五月は引きつる顔をなんとか笑顔に変え、深夜子の眼前に一枚の日報を突きつけてやる。

 

 Mapsの日報とは日々の業務内容はもとより、警護対象(あさひ)の状況を項目ごとに書き(しる)し、本部へ報告する大切な書類だ。

 ところが、それ(・・)はほとんどの項目が『だいじょうぶ』『もんだいない』で埋められ、とある部分だけが異様に書き込まれている。

 その内容は『大乱戦クラッシュシスターズで朝日君の使用したキャラと各キャラごとの傾向――云々』……これはひどい。

 

「深夜子さん……バカにも限界値がありましてよ?」

 

 笑顔も限界。

 呆れ半分、怒り半分のジトッとした視線を深夜子へと送る。あー、頭が痛い。

 

「えー。でも、それ――」

「はい。どうぞご確認くださいませ」

「ん、何?」

「矢地課長からのご返信ですわ」

 きっと聞く価値のないであろう深夜子の言い訳を、タブレットを目の前に突きだして止める。

 それに表示されているのは『深夜子へ』の件名で、矢地から発信されたメールだ。

 無論、文字フォントは限界まで拡大して、デカデカと映しだしてある。

 

 

『お前の頭を握りつぶしてやろうか?』

 

 

 深夜子の顔が一瞬にして真っ青になった。

「ふおおおおおっ、や、ややややっちー勘弁! それは勘弁!」

 今夜はふるえて眠るがいい。

「それで、大和さん。貴女はいかがですの?」

 

 五月はチラリと視線を移す。そこにあるのは梅の苦い顔だ。

 Maps個人データ確認済なので知っている。もちろん苦手分野。むしろ、深夜子よりも梅の方がさらにひどい。

 

「ちっ、へいへい。わかったよ、わかりましたよ! 頼りにしてんぜ。んで、そーいや警護対象(おとこ)の資料はどこにあんだ? 目は通しとかなきゃな」

「その件ですが……我々の反省も踏まえて。たっぷりと予習していいだきますわ」

「ん。まずはこれ読む」

 

 矢地へのごめんなさいメールを送信完了させた深夜子が、朝日の分厚い資料を取り出して梅へと手渡す。

 

「はぁ? なんだものものしい――って、んだこりゃ!? こんな男がいるのかよ……。はぁん……さてはお前ら、俺がケツ持ちだからって(たばか)ってやがんな?」

「梅ちゃん。これガチだから」

「貴女も運が良かっ……コホン。いえ、矢地課長に感謝することですわね」

「おいおい、これマジなのかよ?」

 

◇◆◇

 

 ――しばしの間、梅は二人から朝日について傾向と対策を聞かされることになった。

 

 心配されて、あーだ、こーだ、と言われ続ける梅だが、実は警護対象(だんせい)からの評価は意外に高かった。

 その態度や言葉遣いから、最初の印象が悪いだけで、竹を割ったような性格に加えて、面倒見のいい姉御肌。

 そんな朝日基準(・・・・)での男らしさは、この世界の男性には良い意味で受け取られているのだ。

 北海区の勤務でも、男性からの評判が悪かったことはなく。

 梅は多少ばかり男性相手に自信を持っており、反応(つよがり)は五月と似たり寄ったりであった。

 

「ふ、ふん……はっ、確かにとんでもねえいい男だがよ。いいか、深夜子、五月。媚びばっか売ってりゃいいなんて思ってんじゃねえぜ! 男ってのはよ。どんなことからでもキチッと護ってやんよっていう気合いで、(じぶん)に惚れさせるもんだろうがっ!」

「かんっぺきにダメな反応ですわね」

「梅ちゃんナイスフラグ」

「なんだとてめえら!?」

 

 

 ――さて、翌日。

 フラグが立ちまくった梅と朝日の面会。

 リビングに全員集合して、顔合わせとなったのであるが……梅を見た朝日の反応は、深夜子たちのはるか想定外のものであった。

 

 三姉弟の末っ子であった朝日。彼は弟や妹を持つことにあこがれていた。

 その為、梅の外見が思いっきりツボに入ってしまい。警護官どころか、かわいい妹(・・・・・)として認識してしまった。

 

 これは色々いけない。

 

 それはもう(梅に人生において)これ以上ない特殊な積極さで、美少年(おにいちゃん)からの熱いアプローチを受ける結果となる。

 

 慌てふためく深夜子と五月による必死のフォローもむなしく――大和梅。

 

 

 撃沈!

 

 これにて男性保護特務警護官三名。

 神崎朝日の警護任務に無事着任完了である。




第一章 着任します!男性保護特務警護官 ―完―

朝日と深夜子、五月、梅たち三人娘の物語がここから始まります。
第二章もよろしくお願い致します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。