男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
第??話 深夜子の????
「光の女神め……どれだけ勇者を送ってこようが結果は同じ。余の敵にすらならぬ」
「まさしくそうでございます。大魔
「……のう、宰相。その呼び方は何か変ではないか?」
「そんなことはございませぬ。この男子が少なく貴重な世の中、正しい敬称かと」
そう、ここは男性が極端に少ないヘンテコな世界。あっちも女、こっちも女。その男女比たるや1:30!
よって世界は女性中心に回っている。国王だって、勇者だって、魔王だって、みんな女なのだ。
何より、か弱くて貴重な男たちは、強い女が
「ふん、まあよい。もはや余が世界を手中に収めるのも時間の問題」
ニヤリと笑みを浮かべ、漆黒のマントをひるがえし、ラグナシアは意匠の凝らされた玉座へと腰をかける。
腰までとどく燃えるような赤髪、深紅に輝く瞳がその美貌を引き立てる。立ちのぼる闇のオーラ、その手には禍々しい魔法の杖。
大魔女王の名にふさわしい威容を誇っている。
「大魔女王様。使い魔の情報では、光の女神めはついに異世界から勇者を召喚したとのこと。その勇者一行は強く、すでにこの魔女王城へ近づきつつあると報が届いてございます」
「魔女王城……やたら語感が悪いのう。いや、それよりも異世界の勇者ときたか――面白い、少しは楽しめそうではないか! いいだろう。余が直々に絶望をあたえてくれよう。宰相よ。この謁見の間までの魔物たちを下げ、罠も解除しておけ」
「かしこまりました。それでは勇者たちを招き入れるようにいたしましょう」
こうして、大魔女王ラグナシアは異世界の勇者との邂逅を待ちわびるのであった。
◇◆◇
――魔女王城近くの荒野にて。
「やっと見えた。あれが魔王の居城か……途中から魔物とほとんど出遭わなくなったら良かったけど、一人旅はほんときつかった――」
そんな言葉が口からもれるのも仕方がない。この世界はおかしい。特に女性がおかしい。いや、おかしい女性しかいない。
俺は
なんやかんやあって光の女神に召喚され、魔王を倒すはめになっているのだが……。
「――肉食系女子しかいないとか、どうなってんだよ」
パーティーを組んだ。ファンタジーな世界で魔王討伐とくれば定番だろう。
当然のようにメンバーは全員女性だった。美しい女戦士、可愛らしい女僧侶、エロい女魔法使い。みんな外見だけは恐ろしく良い。
初対面から俺を見てよだれをたらしてたり、もじもじしてるのは気になったけど。
そして、俺は男女比1:30世界の女性のなんたるかを知ることになる。
行動がやたらとストーカーチックな僧侶。見た目は超可愛いのにね。俺の使ったポーションのビンを収集してたのを知った時、ガチでドン引きしたよ。
それから俺を回復した回数のメモをとるのはほんとやめて。
エロい魔法使いはストレートだった。俺が疲れたというたびに「じゃあ、そこのぉ宿屋でアタシとぉ、
いちいち「ご」を強調するのやめてくんないかな。ていうかラブホの文化ここにあんの?
女戦士にいたっては、俺が敵に攻撃されそうになるたび「あぶない勇者!(声だけ迫真)」とタックルかまして押し倒してきた。
あげく「あぶないところだったな! 勇者(声だけ迫真)」と胸や尻を撫でまわしやがる。健康的でさわやかな美人だけど行動が一切ともなってない。
ちなみに、この世界の男性は力で女性に敵うことはない。女は力も魔力も恐ろしく強い。
普通なら完全に詰みだが、俺には勇者として女神から授けられた力があったのが幸いした。
そして、ついに俺はこのパーティーから逃げ出した。あるとき、好きな食べ物は何かとの話題に全員が真顔で俺を見ながら「男」って答えやがったのが決め手だ。
食べ物じゃないよ。それ。
うん。こいつらと旅をして貞操守れる自信ないわ。てか、俺には元の世界に、日本に彼女がいるんだよ!
高三になってやっとできた一学年下の可愛い彼女。しかも、まだキスまでしかいってないのに……浮気なんてありえないだろ。
俺、初めてはアイツって決めてるんだ。絶対にムードもへったくれもない肉食女子どもに童貞をささげてやるもんか。
おっと、無駄な回想をしてたら魔王がいるだろう立派な部屋……謁見の間っていうのか? ――の前についてた。
よし、さっさと魔王を倒して光の女神に日本へ帰して貰うぞ。
俺は意気込んで、立派な石造りの大きく重たい両開きの扉を開けた。
◇◆◇
「フハハハハ、よくぞここまで参った勇者よ。だが貴様の命も――――ファッ⁉ お……お、男ぉっ⁉」
やっぱり魔王までこの反応かよ。……どうなってんだこの世界。
しかし反応はポンコツでもさすがは魔王、その姿は威圧感たっぷりだ。身体からでてる闇のオーラもはんぱない。
身長は俺と同じくらいで、頭に角が生えてたり見た目はすごく強そうだけど。とんでもない美人だ。
この世界の女性、外見だけはほんとにいいんだよな。外見だけは……。
「……余は幻覚でも見ているのか? か弱い男を勇者として送り出すなど光の女神め、ついに乱心しおったか……それにしても、とんでもない美丈夫であるな」
あー、そう言えばこの世界の男って、なよっとしてひょろっちいから、俺でもイケメン扱いなんだよな。
「どちらにせよ、我が魔眼の前に幻覚なぞ通用はせん。さあ、真実を見極めてくれよう!」
ん? 魔王の紅い瞳があやしく輝いた。これは……看破系の力か。別に俺は幻覚でもなんでもないんだけど。
「うぷふうっ⁉」
うおっ、どうした? 魔王が急に顔を赤らめて吹き出した。
「ば、ばかな……本物の
身体測定器かよっ? てか、最後の一言が不穏すぎるぞ。これ命の危機より貞操の危機じゃねえか。
「ついでにまあまあ強いようだな。それでも余の敵にはならん」
そのついでが最重要だよね。身長みたく数値化しろよ、なんでアバウトなんだよ。
ちっ、パーティーから抜けて(逃げて)きたのはマズかったかな。いや、光の女神から授かった力や武器があればいけるはず。
「俺は勇者リューマ、勝負だ魔王」
「大魔女王ラグナシアである。ところで勇者、いや……りゅ、りゅ、りゅーまよ。余のことは魔王でなくラグナシアと呼んでくれまいか」
そういや
どんだけ男とのコミュニケーションに飢えてんの。
「関係ない、いくぞ魔王」
俺は女神の加護を発動し、戦闘態勢をとる。すごく悲しそうな顔をしている魔王はあえてスルーだ。
「ま、待て、待つのだリューマよ。余はとても理知的で慈悲深い……まずは話し合い、そう、話し合いからだ! 話し合いはとても大切なのだ。まずはある条件を提示する。それで駄目なら余は仕方なく力を以て制すであろう」
「……わかった。それでいい」
ああ、RPGで定番のアレか。
勇者よ、世界の半分をやるから我が軍門にくだれってやつ。答えが「はい」でも「いいえ」でも戦いが始まる。いわゆる様式美だ。
まあ、この魔王は本気で配下になれって言いそうだけどな。
「勇者リューマよ。聞くがいい、貴様にチャンスをくれてやろう。一目惚れしました余と結婚してください」
「しねえよっ」
思わず声に出してつっこんでしまった。話し合いですらねえ。
おい、何頭下げて手を伸ばしてんだよ、お見合い番組かこんちくしょう。
「何故じゃ、必然的に世界全てがリューマのものになるのであるぞ。もちろん余のすべても捧げちゃうぞ」
ダメだこの魔王。相手にしていたらキリがないタイプだ。もう先制攻撃をしかけるしかないだろう、これ。
俺は武器を呼びだし、構える。光の女神いわく、雷属性最強の刀――。
「
「ほう……
魔王め、そう言いつつも腕を組んだまま微動だにしないってか。くっ、余裕の表情をみせやがって。
いいぜ。なら、俺の最大の攻撃魔法を喰らわせてやろう。雲切り丸、俺に力を貸せ!
「
「見事だ勇者リューマ。男の身でありながら雷の上位魔法を使いこなすとは……それでこそ余の夫にふさわしい!」
ふさわしい(キリッ)じゃねえよ! そこは夫でなく敵だろ。婚活脳なの?
おっと――ともかく、その隙に詠唱完了だ。
「くらえっ!
城の天井を突き破り、炎雷の槍が雨のごとくふりそそぐ。まともにくらえば、さすがに無傷じゃすまな――。
「えっ⁉」
魔王は迫る雷を気する様子もなく、ゆうゆうと両手をひろげて杖を振りかざし……一言つぶやいた。
『
魔王を中心に全てが闇に染まる。
空間……いや、まるで世界が歪むような凄まじい暗黒の波動が何もかも削り取っていく。
「……そ、そんな」
恐ろしい魔力が目の前を通り抜けた。正直死んだと思った。だのに、俺に一切のダメージはなかった。
いや、魔王があえてそう魔法を発動したのだろう。
手加減されたのだ。
天井を見上げふり返れば、城の壁はすべて消し飛び、地面がえぐり取られた荒野の風景がむきだしになっている。
ありえない……俺の最大攻撃魔法を打ち消してこの威力だと? むちゃくちゃだ。
「リューマよ。これが
極位だと? 詠唱破棄だと? くそっ! ……言われなくてもわかる。魔力の桁が、いや、次元が違う。
俺では魔王の足元にも及ばない。まずい。――どうする!
「ふふ……余こそが大魔女王ラグナシア。全ての魔を極めし者である。さあ、哀れなる勇者リューマよ、余の恐ろしさをたっぷりとその身体に教えてやろう」
しまった。魔法防御を――だが、俺がそう思ったと同時に魔王は杖を手放し、バサリとマントローブを脱ぎ捨てた。って、え? ……はい?
ちょっと何が起こっているのかわからない。俺の視界には黒をベースに赤のラインが入ったレスリングスーツっぽいインナー姿になった魔王。
無駄にスタイル抜群で色っぽいのがより複雑な気分にさせてくれる。
「さあ、くんずほぐれつでむへへへ――――ハッ、おほん……余の攻撃にどこまで耐えられるかな?」
変態だぁ――――っ‼
ねえ、魔を極めし者さんはどこ行ったの? これ物理的なセクハラレスリングする気満々だよね。
「ふふふ、心配するでない。すぐにオスの顔にして『ああん。もうダメ! く、くやしいっ、でも……リューマ、ラグナシア様のお婿さんになっちゃう』と言わせてくれよう」
「言うかあああああっ」
ヤバすぎるぞこの大痴女王。だんだん本音全開になってきてやがる。
オスの顔ってなに? それより指をわきわきするな。驚異の作画枚数アニメみたくぬるぬるした動きがマジきもい。
……いや、いかん。冷静になれ。そうだ、接近戦ならチャンスは――ある!
光の女神が男の体には反動が大きいから、できるだけ使うなと言っていたアレを使う。使うしかないだろ! 貞操的に。
精神統一。雲切り丸に全ての魔力を送り込む。
それに呼応ように刀身がのびて黒い雷がほとばしり、俺の身体を包みはじめた。
バチバチと弾ける音。突き刺すような痛みが全身を走る。ぐっ、確かにこれは、きつい……かもな。
だが、その代償に俺の肉体は雷と同化し、爆発的な力を得る。
魔王、これが俺の切り札だ。
「
「なんと! これは驚いた。神器の真銘解放までも使えるとは……リューマ、やはり天才か。これはもう余との間に産まれる子が楽しみだ。そうよのう、独りっ子ではさみしいので三人は――」
ああもう好きに言ってろ。強化された剣戟は一振りで星の大地をも削り取る威力、加えて俺自身に付与された雷速の機動力。
今度は詠唱破棄の魔法も間に合わないぞ!
俺は電光石火の踏み込みで、頭のおかしい独り言をつぶやく魔王の背後へと回りこむ。その首もらった。
雷鳴を轟かせ、黒い雷をまとった刃がその首へと食い込む! ……え? 食い込……まない⁉
「ふっ、リューマよ。まだ余の恐ろしさがわかっていないようだな」
「そ、そんな――っ、これはっ⁉」
なん……だと……。魔王の首と刃の間にうっすらと揺らめく……漆黒の、オーラ⁉
「見えるかリューマ。これが余の大魔女王たる力の一端、いかなる攻撃をも拒絶する”闇の衣”よ。その程度の力では、この身体に傷ひとつ付けることかなわぬ」
あまりの
「ちく、しょう……そんなの、ありかよ。こ、この……化け物めぇ!」
「はっ、えっ、……ばっ、ばばばばばばけもの⁉ リューマが、余のことをばけもっ――くふううっ」
「え?」
ちょっと待て、今度はなんだ?
魔王が突然、自分の身体を抱きしめるようにしてワナワナ震え出したぞ。
「ふ……ふふ、ほ、ほめてやるぞ勇者リューマよ。余をこんなに深く傷つけたのはお主が初めてだ。でっ、でも言っていい事と悪い事があると思うぞ」
「メンタル弱っ!」
いやいや、正真正銘の化け物だよね。なんでそんな男子に悪口を言われて傷ついた女子みたいな態度取ってるのこの魔王?
涙目でへたって女の子座りしても闇の衣とやらは健在だよ。防御万全だよ。
「リューマよ。余の初めてをうばった責任――取ってもらおうではないかっ」
「どんな責任だっ、以前になんの初めてだ――うぐうっ!」
「むっ、どうしたリューマ⁉ だ、大丈夫かっ!?」
ぐっ……やばい。真銘解放の反動か、痛みで思うように体が動かない。
さらに魔力の枯渇が身体を襲う。フッ、と電池が切れるように視界が暗くなり、意識が遠のく。
これは……ほんとに――まず――――い。
「いやああああっ、リューマ! リューマ!」
なんで
◇◆◇
「こうして囚われの身になってしまった勇者。さらに悲しいことに、力を使った反動で寝たきり状態になってしまいます。――しかし、そんな勇者を魔王はつきっきりで看病しました。ぶっちゃけその強大な魔力を以てすれば即日完治です。でも、魔王は健気に自然回復まで献身的でアナログな介護を続けました。いつしか勇者はそんな魔王の愛にデレて完堕ち。二人は結婚して幸せな家庭を築きましたとさ。あ、ついでに世界も平和になりました。めでたしめでたし」
「「うおおおおおいっ(ですわっ)!」」
お馴染み朝日家のリビングに二人の絶叫的ツッコミが響きわたる。
――その二人とは。
「ん? 何、梅ちゃんに
梅と五月である。
「するわきゃねえだろ? アホかっつーの! バカかっつーの!」
「む、むむむちゃくちゃですわ。と言うかツッコミどころ以外何一つ見当たりませんわっ!」
二人は「どや、感動したやろ」と謎の自信にあふれる深夜子に詰めよる。いや、詰めよらいでか。
「えええええ?」
一方の深夜子は心外とばかりに猛禽類を思わす瞳をジトッと二人へと向ける。
「えええええ? じゃないですわよね深夜子さん。貴女これを子供たちの読み聞かせに使うつもりとか正気ですの?」
「ふっ、これあたしの自信作。朝日君に聞いた日本の情報を基に書き上げた新感覚ファンタジー。絵本として出版すればバカ売れ間違いなし。印税ウハウハ」
「「んなわけあるかあああああっ(ですわっ)‼」」
深夜子は絵本に興味を持ち始めた自分の子供たちのために創作をしていたのだった。
まずは五月と梅にそのデキを披露したわけだが――もちろんご覧の通り。
本日も朝日家は平常運転のようである。