男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
第十話 天然女殺し
――こちらは朝日家Maps居住区のリビングルーム。なにやら真面目な雰囲気が漂っている。
テーブルを囲むのは深夜子らMapsの三人。
その中でも特に真剣な表情の五月が口を開いた。
「着任完了となってはや二日……この事態はさすがの
「
お茶うけの和菓子をほおばりながら、深夜子が危機感の無い危機感を口にする。
五月が問題にしているのは――そう、いまだ朝日の
名誉あるMapsのSランク二人にAランクが一人。
この三人が雁首そろえて任務がままならないなどあってはならない。
――その原因は朝日の『治安認識』にあった。
五月が朝日に簡単な聞き取りをした結果、当然ながら彼の治安認識は故郷である日本基準と判明する。
深夜子は朝日に春日湊は治安の良い地域だと説明したらしいが、日本の治安事情を詳細に聞いて照らし合わせれば「治安がいいと言ったな? アレは嘘だ」と言わざるを得ない。
「そう、ですわね。
「まあな。それだけだったら、どうとでもなると思うけどよ」
そう、単純な治安だけならさして問題では無かった。
梅も微妙な表情をして、手元の書類をペラペラとめくりながらぼやいている。
「我々に心を許し始めてくださっているのは嬉しいのですが……さすがに参りましたわ」
言葉とは裏腹に
「いやいや、一番参ってんの俺だぞ?」
「梅ちゃん。うやらま、超うらやま!」
何かもの言いたげな梅。そこに深夜子が謎の食いつきをみせている。まあ、気持ちはわからなくもない。
「てめえ、簡単に言いやがって。やられる方の身にもなれってんだ!」
五月としても複雑な気分ではあるが、ともかく解決すべき問題。――それは『男性治安』なるもう一つの治安基準である。
もちろん、朝日にそんな概念すら存在していないのも確認済み。
五月は通常の治安差も想定し、外出時の警護プランを組み上げていた。
ところが朝日は五月たちが想像していたよりもはるかに女性に対して好意的、いや、無防備だったのだ。
よって男性治安の観点から、警護プランを根本的に修正せざるを得ない状況へ追い込まれてしまった。
「とにもかくにも、本日中に朝日様基準で再構築したハザードマップと警護プラン。これを是が非でも完成させませんと……明日こそはテスト込みだとしても外出警護は絶対。本部への任務遅延報告もそろそろ限界ですわ」
「らじゃ、マップはあたしが作る」
肉体労働派を自称する深夜子が率先して
五月は内心で胸をなでおろす。
たしか対人、交渉以外の座学関係は成績優秀だったのはずなので、やる気さえ出してくれれば問題はない。
梅はお察しだ。
「それにしても、朝日様の無防備さ……想像以上でしたわね」
安心ついでに本音が出てしまう。
「まあな。家のセキュリティをまともに使ってんのが
梅がそう言う理由。
この世界、通常男性は警護官たちと生活圏をセキュリティで切り分けするのが常識だ。
ところが朝日はそうしようとしなかった。聞けば何やら譲れない部分があるらしい。
朝日いわく、家の中はお互い出入り自由。個人の部屋の鍵はともかく、生活を共にする上での切り分けは必要ない。いや、できない。との拒絶反応だった。
これに対して、そうはいかないと五月は真っ向から反論してしまった。
生体キーを含め、セキュリティ設備はフル活用。生活圏は切り分けて区分けすべきと主張。
おおよそ同意見の深夜子と梅も自分に賛同。着任間もなく始めが肝心、と三人して理詰めで説得をしているつもりだったのだが――。
『どうしてそんなこと言うんですか? ……ぼ、僕はみんなと……か、かぞっ、家族みたいに……い、いっしょにって思っ……ひぐっ』
朝日を半泣きにさせてしまい、三人揃って顔面蒼白。
『『『という物語だったのさ(ですわっ)!』』』
華麗に手のひら返しを披露して、話をそこで終了する他になすすべはなかった。
「――それでも、セキュリティの件は我々が自重すれば問題はありませんわ」
「うん。だけど、朝日君まだ外に一人で行っても大丈夫とか思ってる」
「マズ過ぎんだろ……それ」
本当に頭が痛い。五月が知るかぎり、外出時に一人歩きをする男性など聞いたこともない。
春日湊を始めとする男性特区の一部に一人歩き可能な場所はあるが、率先してそうする男性など存在しない。
仮に男性特区以外で実行すれば、コンビニの件(※プロローグ参照)同様、即女性に襲われるであろう。
これは決して単純に治安が悪い。という理由だけではないのだ。
男性が非常に少ない環境で、女性たちは長い歴史を積み重ねてきた。
それゆえ女性は男性に対しての性欲、つまり子孫を残すための本能が非常に強いのだ。
さらに、男性には希少価値がある。
痴女、強漢に誘拐。果ては人身売買など、重犯罪も加わることで男性事件は発生率が高い――男性治安が悪くなっているのだ。
余談ではあるが、男性事件の特徴として殺人が起きることはない。
代わりに貞操は死ぬ。100%死ぬ。
「そう言えば、朝日様はどうなされました?」
五月は朝日の気配が感じられないことに気づく。
「ああ、ここ来る前にちょろっと見たけどよ。リビングのソファーで昼寝してたぜ」
「はぁ……昨晩も遅くまで
できるだけ低めの声でそう呟き、じろりと深夜子に視線を送る。
「うっ……つ、つい」
「つい。ではありませんわ! 朝日様もゲームがお好きなのは存じてますが、少しは自重なさいませ」
夜な夜な美少年とゲームをして遊ぶ。
世の女性たちからすれば、爆発してしかるべき
「そもそも、あまり殿方に夜更かしをさせるものではありませんわ。健康管理も
「むう……」
「んでよ、朝日の昼寝の格好がまたひでぇんだ! 目を覆っちまったぜ……タンクトップにトランクス一丁とか――」
ガタッ!? 深夜子の鋭い両目がより鋭くキラーン! と輝きを見せてスタンドアップ。
「菓子食ってる場合じゃねぇ!!」
深夜子発進。
「ちょおおおおっと、深夜子さん? 貴女どちらに行かれるつもりですのっ!?」
「てっ、てめえ? いつの間に一眼レフなんぞ仕込んでやがった!?」
見れば深夜子の首にしれっと一眼レフカメラがぶら下がっている。これは撮影する気満々!
「んなあっ!? あ、朝日様を盗撮とか認めませんわよーーっ!!」
深夜子捕縛。
◇◆◇
――それではここで、天井から吊るされている
母と姉二人で四人暮らし。奇しくも深夜子、五月に梅を加えて四人となり人数、男女構成とも同じである。
だんだんと周りに人が増えて、家族構成と同じ状態になったこと。深夜子たちから非常に好意的で優しく扱われていること。
その安心感からか、朝日は少しずつ生活面で
年の近い姉二人から、色々と鍛えられていた朝日はかなり女性慣れをしている。
さらに本人の穏やかで優しい性格もあり、この世界の女性にとって、とんでもない天然の女殺しだったのだ。
それでは三人が危惧していた理由。具体的な朝日の(この世界基準で)無防備兼女殺しっぷりの一例をご確認いただこう。
――時間は少し巻き戻り、昨晩の夕食時のことである。
「ねえ、梅ちゃん。ご飯食べ終わったら僕とお風呂入る?」
「げぶぽぉあああああっ!!」
朝日のピンポイント爆撃を受けた梅の鼻と口から、豪快に
「いやあああああっ!! と、豆腐がーっ、ワカメがーっ」
対面は五月である。
「うぇほっ……ぶぇほっ……グホッ……あ、ああ朝日っ! てめえ、突然なんてことを言いやがる!?」
「え? んー、お兄ちゃん的な感じ?」
「なんだよそれ? 意味わかんねえっつーの! 俺はお前より年上だっつーの!」
「あ、ああああ朝日君。ふ、ふつつかものでしゅが……」
いつの間にか深夜子が三つ指ついて準備万端。
ツーっと鼻から赤い線を一本垂らし、手元にはしっかりとお風呂セットが置いてある。
血走った目は、さすがの朝日にも獲物を狙う猛禽類のソレにしか見えない。
「あはは。冗談……のつもりだったんだけど? それに深夜子さん……ちょっと目つきが危険かな」
「うぇえ? そ、そんなぁ……」
遠回しに断ったつもりだが、ガーン!! という効果音が聞こえんばかりに落ち込んだ深夜子が、がっくりと床へ膝をつく。
なんともわかりやすい。
「おいこら! なんでてめえがソッコーで準備してやがんだよ?」
「ちょっと朝日様。ご冗談はその位で、
深夜子へと突っかかる梅、申し訳なさそうに困り顔の五月。
これはこれで――と、賑やかな食事風景を朝日は楽しく感じる。
ついついそのノリで梅の妹扱いを続けていたら、自分の部屋へ逃げるように隠れてしまった。残念。
一方の深夜子は興奮冷めやらぬ様子。しつこくお風呂アピールを続けてくる。
どうしたものかと思っていると、五月の怒りを買って
こうして静寂を取り戻したリビング。朝日は食器の後片付けを始めようと席をたつ。
母子家庭に育ったゆえの習慣だ。すると……。
「お待ちくださいませ朝日様! 食器の片付けなどを男性にさせるわけには参りませんわ」
五月が焦り止めてくる。どうやら
「あの……五月さん。なんかごめんなさい。片付けをさせた上に僕だけお風呂いただくとか……」
「何をおっしゃいますの、朝日様。こんなことは
現在、朝日家の食事は出前中心となっているので、さして台所は機能していない。
それに出前の食器を洗う程度で量は知れている。
ここはお言葉に甘えて、と朝日は風呂場に向かうことにした。
「それから朝日様。お風呂上がりのデザートにリンゴを準備しておきますわ」
「わぁ、五月さんありがとうございます。お風呂から出たらいただきますね」
部屋を出る朝日を見送った五月は、まな板と果物ナイフをとりだす。
ふふふ、
実に気分がよい。それも当たり前。本来、警護任務でこんな状況はありえない。
過去の経験を思い返しても、ここまで女冥利に尽きるシチュエーションなど一度もなかった。
まるで、朝日がすでに自分の
五月が少しばかり妄想を楽しんでいると、パタパタと足音が聞こえ、部屋に誰かが入って来た。
「五月さん、ごめんなさい。ここにバスタオル置き忘れてました」
このタイミング。深夜子か梅かと思ったが朝日であった。忘れ物なら、と手を止め振り返る。
「あら、朝日様。これは
全身に電気が走ったかのごとき衝撃。視線を向けたその先には、上半身裸でボディタオルを首にかけただけの朝日。
ありえない。
女性にとって男性の裸とは下半身は元より上半身すらもセックスアピールの塊。それを惜しげもなく、無防備に、晒している……だと!?
夢か幻か、五月の目に映るのは美少年の引き締まった極上の胸板。
タオルの隙間からは桜色の慎ましやかな突起が見え隠れする。やっべえ。
特筆すべきは脇から腰にかけての滑らかなボディライン。適度についている筋肉が艶かしさを倍増させる。
これは、これはあきまへん。もう某怪盗よろしくジャンプしながら『あ~さひちゃ~ん♪』と服を脱ぎ捨て、飛びかかってもやむ無しの眼福ではないか!
こんな姿を見せつけられ、理性を保てる女性などこの世にいるはずがない!!
「あら? あらあらあら朝日様! 上半身はきっちりとお隠しくださいませ。
「あっ!? そうなんですね……うっかりしてました。ごめんなさい」
「いえいえ。朝日様はまだこちらに来て日が浅いですから仕方ありませんわ。でも、お気をつけ遊ばせ。これが深夜子さんでしたら、すでに野獣と化して襲いかかっていますわよ」
「あはは。うわー、そっかぁ……はい、今度から気をつけますね」
「ええ、是非そうしてくださいませ。オホホホホ……」
そう、
こんな時こそ、淑女の見本とでも呼ぶべき対応を見せつける時なのだ!
ええ、左手の甲に果物ナイフが突き刺さってますけども!!
対面キッチンなので、朝日側からは見えないからセーフ。
タオルを持った朝日が再び部屋を出た瞬間、五月は全身の力が抜けて崩れ落ちる。
「あっ、ああああああ……危なかったですわーーーっ!
ナイフを抜くが、手の痛みなど感じる暇も無い。
危うく理性にサヨナラをしかけた事実に、どっと冷や汗をかく。
それから手の痛みに気づく――ではなく。五月の頭の中には、朝日のあられもない姿がフラッシュバックしていた。
「はっ、あっ、わたくし……あああさひさまのむ、むむむむね。みっ、見てしまいましたわ……ど、どどどどうしましょう……あの美しいお身体のラインがががが…………何よりもあああのすすす素敵な胸板にみっみえみえ……朝日様のちちちちくちくちく――――ぶばあっ!!」
鼻から鮮血を撒き散らし、五月雨五月――昇・天!!
それは実に満足そうな表情であった。
――しばらくして、部屋から戻ってきた梅が、この惨状を目の当たりにすることになった。
「んなああああっ!? おっ、おい五月どうしたっ、ぞ、賊か? 賊でも入って来やがったのかーーーっ!?」
◇◆◇
――その後、梅の介抱でなんとか意識を取り戻した五月であったが「アサヒサマのチクビのルシがパージでコクーンでしたわ……」とつぶやきつつ、ゾンビのように自室へと戻っていった。
その夜は何かと捗ったようである。
「ちっ、五月のヤロー。結局俺が片付けるハメになっちまったじゃねぇか……」
なぜ自分が? ぶつぶつと愚痴りながら、梅はひとり仕方なく中途半端になっていた洗い物を続ける。
そこに運良くと言うべきか、悪くと言うべきか、背後から声がかかった。
「あれっ、梅ちゃん。戻って来てたんだ? もう、せっかく
ちょうど風呂から出てきた朝日である。これまたお兄ちゃんを演じる冗談まじりの声。
これはもう絶対わかって楽しんでいるな、と梅はため息まじりにゆっくりと振り返る。
「はあぁ、あのなあ朝日。お前、風呂風呂って、俺はガキじゃねーつって――――はひいっ!?」
目に飛び込んできた光景に、梅は全身が凍りついた。
なんと、そこには上半身裸でボディタオルを首にかけただけの美少年。なんてこったい。
「ぬおわああああああっ、朝日! お前なんてカッコしてやがんだっ、ちょっ、待て、それはやべえ――ゴクリ」
そうは言ってみるも、美少年のあられもない姿を前に凝視する以外の行動ができない。
「えっ……あっ!? そうだった。ごめん梅ちゃん。五月さんにも言われてたっけ、す、すぐに上を着てくるから――」
五月の言葉を思い出したらしい朝日。急ぎ部屋から出ようと
「あっ!?」
焦りゆえか、スリッパのせいか、滑ってこけそうになってしまう。
「朝日危ねえっ!!」
怪我をされては一大事。梅はとっさに床に滑りこみ自らをクッションがわりに朝日を受け止める。
「「わあああああああああっ!!」」
ボディタオルがふわりと宙を舞う。結果、二人は――。
「あれっ、梅ちゃん大丈夫? ごめんね、痛くなかった?」
「朝日怪我はねえか――ん? あれ、これ、なんで……んっ、いいにおい、え?」
何やら梅の目と鼻の先には、肌色と一部小さな桜色が二ヶ所な光景。
ちょうど朝日が馬乗りに近い状態になっており、その両腕は自分の顔をまたぐように立てられている。つまりは……。
「ふおわああっ!? こここれ、ももももしかかかかかかして、あああ朝日のむむむむむ胸がががが――――ふうっ」
梅、失神! 真っ白に萌え尽きた。
「うえええっ、ちょっ、梅ちゃん。どしたの? もしかして頭でも打ったの? ねえ、大丈夫? だ、誰かぁーーーーっ!!」
朝日が呼ぶが早いか、廊下から猛ダッシュで近づいてくる足音が一つ。
ずざあああっと音を響かせつつ、それは猛烈な勢いで部屋へと滑り込んで来た。
「パンパカパーン! 呼んでなくてもあたしのこと呼んだ朝日君? もしや、やっぱり、あたしとお風呂に――ふへっ?」
「あっ、深夜子さん。ちょうど良かった。ちょっと梅ちゃんが気絶しちゃって……あっ!」
だから上半身裸ですってばよ。
「「………………」」
「ぷっしゅううううううう」
「みっ、深夜子さーーーーん!?」
深夜子、轟沈!
部屋に入ってからわずか五秒の早業。新記録だよ、やったね!
◇◆◇
――とまあ、昨夜を思い出しながら三人とも何か感じるところがあり、大きなため息をつく。
明日へ向けての準備を進めながら、不安が
「俺……このままだとお嫁に行けねー身体にされそうだわ」
「ぷっ、梅ちゃんナイスジョーク。ざぶとんいちまい」
「大和さん……それは普通男性が使う言葉ですわ」
こうして、朝日家の平穏な夜は過ぎて行くのであった。