男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第十三話 警護任務はデートでショッピング!

 それからしばらく。朝日が軽食(おやつ)を食べたいと希望したので、最寄りの喫茶店へと移動した。

 

 入店と同時に朝日を見て「いらっしゃ」で固まった店員をスルーして、五月は店内で目立たない場所――奥側にあるボックス席を確保する。

 席に座って一息。

 ふと窓の外に目をやると、街路樹に隠れるようこちらを伺う影が二つ。

 そこからの恨みがましい視線に加えて、呪いの声がインカムから漏れてくる。

 いやいや、OKサインを出したのは深夜子(チームリーダー)でしょうに、とスルーしておく。

 

「五月さんすみません。お昼前なのに、ちょっとおやつが食べたくなっちゃいまして……」

「いえいえ、お気になさらず。お好きなものをご注文してくださいませ」

「喫茶店かあ……ふふっ、五月さん。二人でデートしてる(・・・・・・)みたいですね」

 

 気がつけば、朝日は上機嫌になっていた。気をつかった甲斐があったと、五月は胸をなでおろす。

 なんだかんだと、道中で無駄に近づいては離れてを繰り返した深夜子(アホ)(ばか)も一役買っていたよう――――はい、ちょっと待った!!

 

 今、決して素通りしてはならない単語が耳に入りましたね。五月の思考に緊急の割り込みがかかる。

 

「デッ、デデデデデート!? わっ、わたっ、(わたくし)がッ、(わたくし)と朝日様がデートッ!!  ……ふっ、ふへ……ふへへへへ」

「五月さん?」

「デート、おデートが、うへ、ふへへふぇ……」

 

 デート。たった三文字に秘められたあまりにも甘美な響き。

 その素敵ワードにあらがうことはできず、五月の意識はお花畑へと旅立ってしまう。

 しばしの間、脳内お花つみを堪能することになったが、朝日の呼びかけにかろうじて現実にカムバック。

 

「――ハッ!? しっ、ししし失礼をしましたわ。ちょっと、ええ、その、そ、そう! 世界経済について考えごとをしておりましたもので……オホホホ」

「あはは、え、と、あの……僕。大きいサイズのパフェを頼んだので、よければ二人でいっしょに食べませんか?」

「これは申し訳ありませんわ。(わたくし)としたことが大変な失礼を! 殿方にご注文をさせしまうなんて……あっ、大きいサイズで、いっしょに、それは素敵で――――ふ、た、り、で、パフェえ゛え゛え゛えええッ!?(ガツン!)いっ、(つう)うううううううう―――っ!!」

 続けざまの衝撃(すてき)ワード。

 反射的に立ち上がって、思いきり膝をテーブルにぶつけて五月は悶絶する。

 

 ――そう『大きなパフェを二人(カップル)でシェアして食べる』デートにおける定番の一つ。

 しかし、この世界におけるそれの破壊力はお察しいただくしかない。

 

 ノーガード状態でビッグパンチを二つ貰ってしまった五月。すでに歓喜でKO寸前のダメージ。

 だが毎度毎度、ただ無様に意識を飛ばされていたわけではない。

 少しずつだが耐性はついてきているのだ。

 いける! いや、何よりもこのシチュエーションを逃すなど、淑女として決して(・・・)あってはならない(・・・・・・・・)!!

 

 ここは極めて冷静に対処すべき場面である。

 

「んっ、ぷふっ、…………し、失礼しまひたわ……そうですわね。ぷはっ、……朝日様と(わたくひ)でパフェをひただく……よ、よ、よろしひのではなくてですわでございますかしら?」

 

 鼻をおハンカチーフで上品にガードしながら、五月は淑女の意地を見せる。

 ハンカチに赤いシミが広がりつつあるが、これはやむを得ないであろう。

 

 それからしばらく、永遠とも思える待ち時間が経過。ついに店員がパフェ(ゆめ)を運んできた。

 

「お待たせしました。ジャンボチョコレートパ――ひいいいいぃっ!?」

 パフェを持ってきた店員が絶叫に近い悲鳴を上げた。

「なっ、何事ですの!?」

 

 いったい何が? 店員の視線を確認する。五月はその視線の先、窓ガラスへと目を向けた。

 

五月(さっきー)抜け駆け許すまじ! 絶許(ぜつゆる)!!」

「うおおおぉい、五月てめえっ! 一人でいい目見ようとしてんじゃねええええええ!!」

 

 なんと窓ガラスにヤモリのようにべっとり張りついた深夜子と梅。血の涙とよだれも垂れ流しの大サービス。

 無論、深夜子の迫力は言わずもがな。これは店員さんトラウマ案件。

 

 結局、そのまま問答無用で店になだれ込んで来た二人を加え、もう一つ同じパフェを注文して全員でおやつタイムとなってしまった。

 もちろん、朝日とのペアを誰が組むかで揉めに揉めたのは言うまでもない。

 

◇◆◇

 

 さて、おやつを終えた四人。喫茶店を出てから進むこと約800メートル。

 春日湊の商業区でも屈指の高級店が並ぶ区域へと入る。

 目的地はとあるファッションビルに入っている店舗(テナント)だ。

 外観から一目でわかる高級服飾店。そこへ五月が慣れた様子で朝日をエスコートする。

 

「本日の予約をした五月雨と申しますわ。店長はいらっしゃいまして?」

 五月は店舗の責任者と思われる女性店員に声をかける。

「これは五月雨のお嬢様(・・・・・・・)。お越しいただき感謝いたします。すぐに店長(オーナー)を呼んで参りますので、しばしお待ちくださいませ。それと本日のお客様は、そちらの男せ――」

 実に丁寧な対応を見せていた店員だったが、朝日の姿を見た途端、目を見開いて動きが止まる。

「――ひでこざひますね? ひばらくお待ひ下さひまへ」

 が、そこはさすが高級店舗のスタッフ。即座に立ち直って(きびす)を返す。

 

 店の奥へとたどり着くまでに、何度か陳列棚にぶつかって悲鳴を上げていた店員と入れ替わりに、店長と思われる女性が五月たちのもとへやって来た。

 

「これはお久しぶりですわね。黒川(くろかわ)店長(オーナー)

「やあやあ、お嬢(・・)。こうして会うのは三年ぶりかな? まさか春日湊(こっち)に転勤して来てるとはね。驚いたよ」

 

 五月の顔を見るや、親しげな口調でにこやかな対応。

 店長(オーナー)黒川(くろかわ)静香(しずか)』三十三歳。自分の母親とも旧知の間柄である。

 

 服飾店のオーナーらしく、おしゃれな黒髪ショートボブ。

 少したれ目で色気を感じさせる顔立ち、雰囲気にあわせたスーツの着こなし。五月の目から見てもさすがの一言。

 黒川の店舗は、国内でも屈指の高級男性専門服飾ブランド店。

 今回、朝日の服を買い揃えるため、ついコネをフル活用して予約を取っていたのはないしょだ。

 

「それでお嬢。私がコーディネイトする男の子を紹介してくれるかな? スタッフの反応を見るに、聞いていた通りの美少年らしいね」

「ええ、そうですわ――あら? あっ、朝日様。本日のお召し物を揃えるお店の店長を紹介しますわ」

 

 五月が声をかけると、少し離れた場所で商品を見ていた朝日が戻ってきて挨拶をする。

 

「こんにちは、店長さん。はじめまして神崎朝日です。えーと、僕はあまりファッションには詳しくないので、今日はおまかせでお願いしますね」

「ふほあっ!?」

 

 朝日を見た黒川は一瞬にして固まり、驚愕の表情を浮かべる。

 プルプルと震えながら、口をパクパクとさせている。

 まあ、そうなるだろう。そこで五月が間をとりもとうとした瞬間。

 突如、黒川が朝日の肩を震える両手でつかんだ。

 

「ぼっ、ぼぼぼ坊や! もしっ、もしよければ私の専属モデルにならないかい? ここにあるものはいくらでも好きなだけあげよう。気にいる服がなければ私がなんでも作ろう。あっ――そうだモデル報酬もいっせんま――」

「ストーーーーップ!! 黒川店長、いきなり何を口走っておられますの!?」

 

 五月は朝日へせまる黒川の手を、容赦なく叩き落として冷たく言い放つ。

 

「おっと、いや、すまないお嬢。これは私としたことが、ついつい最高のモデルを見て興奮してしまったようだ。……さて、それでは神崎君。これは私の名刺だ。是非とも携帯の番号を――――」

「渡さなくて結構ですわ!」

「おおうっ!? ちょっと、お嬢、関節を極めるのは、止めて貰えないかな?」

 

 しれっと遠回しにしようが見逃す気はない。五月はしっかりとアームロックをかけてやる。

 

「いやっはっはっは! つれないなぁ、お嬢は」

「黒川店長。ちゃんとお仕事をして下さいまし!」

「もちろんわかっているさ。まあ、まずは先入観なしで好きな物を選んでくれたまえ。夏物はおおよそ取り揃っている。あとは試着して貰いながらコーディネイトしよう」

 

◇◆◇

 

 黒川は少し離れて、服選びを始めた朝日と五月を見守る。

 あれこれと商品を見くらべては感想をかわしあう二人。実に仲がよい。

 しかし、しばらくするとその様子に、何か違和感(・・・)を感じてしまう。

 

 そうだ。本来、男性は朝日くらいの年頃がもっとも気難しい。

 母親が女性に対して警戒的な教育をすることもあって、警護官であろうとこんな親密な関係はありえないはず。

 いや、確かに朝日はとても愛想がよくて、人懐こい雰囲気ではあったが……黒川は思案する。

 

 しばしのち、ハッとあることが頭に浮かんだ。

 これは、やはり……少し躊躇(ためらい)もあるが聞いておかねばなるまい。

 心を決めて、五月にそっと声をかけた。

 

「ちょっと……いいかな? お嬢」

「はい――えっ、黒川店長。どうかされましたの?」

 ここは朝日に聞かれないよう、五月の腕をとって誘導する。

 少しはなれ、うしろ向きになってから小声で続ける。

「お嬢。彼とは……その……いつもこんな感じなのかい?」

「えっ? ええ、もちろんですわよ。――あっ! でも、いつもの朝日様はもっと積極的で、もっと可愛らしくて、ちょっと(わたくし)に甘えたりもされますわ。むふ、ふへ、うへへへ」

 

 質問が五月の残念なツボに入ってしまったらしい。

 やたらだらしない、本音だだ漏れの朝日語りがはじまった。

 これは……やはり間違いない。

 黒川は暗くなる気分をこらえ、耳打ちをする。

 

「お嬢……確かに正気を失っても仕方のない美少年だとは思うんだ。だけど、その……クッ、クスリを使う(・・・・・・)のはマズいんじゃないかと――」

「はあああああああっ、ク、クククククスリィ!?」

 そう、きっとクスリ漬けにして美少年を自分の思うがままに……。

「どっ、どど、どうしてそうなるんですの!? しっ、失礼の限度を超えてますわよっ、朝日様はこれで普通。素ですわ!!」

 

 黒川によるあまりにも不名誉な疑い。対して五月が凄い剣幕で反論した為、朝日も何事かと気づく。

 しばらくは納得いかないと抵抗する黒川であったが、朝日がフォローに入って一段落。

 

 しばし朝日とやり取りをしたのち、本当に素であることを理解――に留まらなかった。

 その天然女殺しっぷりの前に、あっという間にデレッデレ状態。

 さらには過剰サービスでのコーディネイトが開始となった。

 

 結果、美少年の着せ替えごっこという快感に目覚めてしまった黒川と五月。

 朝日の試着はファッションショーへと発展していく。

 

 

 ――そこを遠目で見ていた梅が異変に気づいた。

 

「ん? おい、深夜子やべぇぞ。ちっ、五月のヤツ……デレデレしやがって気づいてねえな?」

 

 その異変。まずいことに店内の女性客が朝日に気づき始めたのである。

 まるで吸い寄せられるように女性たちが集まってくる。

 女性が女性を呼び、ついには店外からも引き寄せられはじめる。

 中にはこっそりカメラやスマホを取り出して、撮影を試みようとする者まで現れていた。

 

 無論、朝日の写真を撮られてしまう事態は避けなければならない。

 

「ちっ、こりゃマズいな。いくぞ! 深夜――」

 

 パシャッ、パシャシャシャ!

 

 梅が駆け出そうとしたその瞬間。朝日に向かって一眼レフカメラのフラッシュと連射音が響いた!!

 

「ちいっ! 間に合わなかっ――」

「フオオオオオオオッ! 朝日君、ギガ美しす! テラ(とうと)す!」

「なんでてめぇが先頭切ってやがんだあああああああっ!?」

 

 床に寝そべらんばかりの体勢で、アクロバティックに朝日の撮影を行う深夜子の姿がそこにあった。

 

◇◆◇

 

 ――十分後。

 深夜子(アホ)は、梅から肘鉄をくらって頭から煙を上げて正座反省中である。

 ところが、深夜子が全力の個人撮影会を先頭で実施したことにより、逆にギャラリーが躊躇(ちゅうちょ)して結果オーライになったのが実に切ない。

 

 さらに経過すること一時間。最速でサイズ直しなども完了して、無事商品の精算となる。

 ここで、今度は朝日が違和感に気づいた。

 

 今、レジで打たれている商品――例えば、Tシャツ一枚ですら一万円に近い値段が表示されている。

 デニムなどはことごとくが数万円以上、ジャケットに至っては十万円を超えていた。

 自動翻訳されることで通貨の単位が違って見えるのか……それとも物価が違うのか……朝日は恐る恐る五月に確認する。

 

「あの……五月さん。これって全部で百二十万円であってますよね」

「はい? ええ、そうですわね」

 嫌な予感がよぎる。

「ところで、お昼前に喫茶店で食べたパフェっていくらしましたっけ?」

「え? えーと、確か千八百円でしたわね。どうかなされまして?」

 どうかなされました。

 

「ちょっ、ちょっと五月さん。いくらなんでも高級品すぎですよ。僕、そんなお金ないですし。その、男性だからって……もったいなさすぎます。だから、もっと安い物でいいと思うんですけど……」

「はいっ!? 一体何をおっしゃられますの朝日様? その……(わたくし)にはわかりかねますが、少なくともこれは必要最低限(・・・・・)の物ですの。それに国から出ている給付金。朝日様がお気になさる必要などありませんわ」

 まったく問題ない。自信満々に五月が断言する。

「い、いや、金額が金額ですから、まずいかなって……あっ、そうだ。僕がモデルのアルバイトをしま――ひいっ!?」

 ――アルバイトをします。

 朝日がそう言いかけたと同時に、五月が猛然と両肩をつかんできた。

 鬼気迫る勢いに、今にも泣き出しそうな表情。ちょっと怖い。

 

「あ、あさ、朝日様……い、今、なんと? なんとおっしゃいましたかっ!?」

「えっ、いや、その……僕がモデルのアルバイトをして……お金を――」

「許しませんっ!! 五月が決して許しませんっ!! このような殿方を食い物(・・・)にしている(やから)相手に……ごっ、ごっ、ご自分のお身体を売るようなマネ! そんな悲しいことをおっしゃらないでくださいましっ、朝日様!!」

 五月がぶるぶると身を震わせ、涙を流しながら訴えてきた。そうなの? 理解が追いつかない。

「おいこらーお譲ー? 君、相当に失礼なことを言ってるぞーー?」

 確かに。全国の男性服専門店さんに謝るべきである。

 

「はは、いや……その……それって税金ですよね。なんか申し訳ないっていうか……その」

 苦笑いがもれる。ぽつぽつと呟くのが精一杯の朝日だ。

「ハッ!? ……あ、朝日様! (わたくし)大切なこと(・・・・・)を忘れておりましたわ。この五月雨五月ともあろうものが……なんて失礼な――」

 

 すると突然、五月が何かに気づいたような反応を見せた。

 どうにかわかって貰えたのか? 朝日はホッと胸をなでおろす。

 

「ここは(わたくし)が支払いますわ! 殿方の服は女性が買ってこそ花! 必要経費などと、危うく朝日様にとんでもない恥をかかせるところでしたわっ!!」

「ええええええっ!? さ、五月さんそれもっとダメぇ!!」

 アカンかった。

「大丈夫ですわ朝日様! とりあえず五百万ほど先払いしておきますから、ご心配なさらずに」

「ひえええっ!?」

 

 何が大丈夫なのかはさておいて、この五月雨五月。

 彼女の実家は、母親である五月雨(さみだれ)新月(わかつき)が代表取締役を務める『五月雨ホールディングス』――IT事業を中心とした国内有数の大企業だったりする。

 実はその五月雨家の長女である五月だが、とある理由でMapsの道を選んで今に至る。

 

 なお、預金残高などの個人資産は余裕で億を超え、超優良物件であることを追記しておく。

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