男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第十四話 どうやら美少年との日常は甘くて危険らしい

 少し時間を進めさせていただく。

 

 ――六月下旬。

 

 朝日がこの世界に来て、約二ヶ月が経過。

 深夜子たちとの距離感もずいぶんと変わり始めている。隔絶していた常識(特に男女関係)など、少しずつお互いの理解も進んで関係性も進展していた。

 深夜子と梅に対しては友達っぽくずいぶんと砕け、一番年上の五月は姉的ポジション扱いになっている。

 もちろん警護任務(こんかつ)成功を目指す深夜子らにとって、優位的前進に間違いない。

 

 しかしそれは、神崎朝日の『超絶天然女殺し』が本領を発揮しはじめることも意味していた。

 

 深夜子たちMapsにとって、朝日との共同生活は恐ろしく甘美で、恐ろしく危ういものであることが明らかになっていく。

 その容姿や性格はもちろん。女性に対する好意的な態度、無防備な思考、などなどが悪魔的なまでに魅力……だけで終わ(・・・・・)らなかった(・・・・・)のである。

 

 ――最近、毎日が日曜日の神崎朝日さん(十七歳・男性)は「やることが無い!」とぼやき、家事をするようになった。

 それは自分のことだけに留まらず。深夜子たちの世話もあれやこれやと焼いてくる。

 当然、男性である朝日にそんな真似をさせるわけにはいかない。家政婦でもあるまいし、と三人は反対した。

 ……のだが、結局は朝日の希望に押しきられ「じゃあ一回だけ」から始まって、ある日は手料理。ある日は洗濯掃除。またある日は――。

 

 三人は美少年の甘い罠にどっぷりと()まる事となった。

 

 人間、一度贅沢を覚えると、元に戻るのは容易ではない。

 気がつけば、その甘美な魅惑に逆らえなくなっており、朝日主導の生活ペースとなっていたのだ。

 それでは、ここでその一例をご覧いただこう。

 

◇◆◇

 

 まずは五月の場合。

 

 とある日。ちょうど書類関係の仕事がたまって深夜まで作業が続いていた。

 ひたすらにキーボードを叩いているとノックの音。こんな遅くに誰かと思えば……。

 

「五月さん。今、大丈夫ですか?」

「えっ、朝日様!? ちょ、ちょ、ちょっとお待ちくださいませっ」

 なんと朝日である。五月は急ぎドアを開けて迎え入れる。

「あの……これ、コーヒーと軽い夜食を持って来たのでどうぞ」

 するとまさかの差し入れ。

「はひゅっ――ん゛、コホン……まあ、まあまあ朝日様。こんな遅くに……でも、とても素敵なお気遣い。ありがたくいただきますわ」

 

 驚きと喜びに呼吸が止まりかけた。

 ああ、もう最高に最愛ですわっ! と、熱い抱擁に過剰なスキンシップを加え、たっぷりねっとり朝日の耳元で愛を(ささや)きながら感謝の意を伝えたい。それはもう伝えたい。

 だが、この二ヶ月間で変わったのは朝日だけではない。

 優しく微笑みをたたえ、冷静に、淑女的に、対応をできるまでに五月雨五月は進歩しているのだ。おほほほ。

 

「パソコンの横でいいですか? お盆ごと置いておきますね」

「ありがとうございます。いただいた後の片付けは自分で済ませておきますわ」

「はい。じゃあ、続き頑張ってくださいね! おやすみなさい」

「それではおやすみなさいませ。朝日様」

 

 笑顔で軽く挨拶もかわして余裕ある対応完了。朝日が寝室へと戻っていくのを見届ける。

 とりあえずは作業を一時中断、せっかくのコーヒー(朝日の愛)を温かいうちに味わうのだ。

 

 ほぅ……自然と心温まるため息がでる。しばし中空をながめ、余韻にふける。

 数秒後、だんだんとカップとソーサーを持つ手に震えがきた――おっと、これはいけない。

 五月はそれらを一旦デスクに置く。そして、ゆっくりと、優雅に、椅子から立ち上がる。

 多少足元がおぼつかないが、ともかく部屋の中央へと到着。

 そのままごろん、と床へ倒れこんで……せーの。

 

「うっきゃああああああああああっ!! あああ朝日様、朝日様、朝日様ああああ――――っ!!」

 

 あーもう無理。尊い。朝日への愛が爆発したのでゴロゴロと床で転げ回るしかない!

 

(コーヒーいれてきました)

(ええ、ありがとう)

 

「なーんて! どんな、どぉーんなお伽噺(とぎばなし)ですの!? ふ、ふふ夫婦ですらあり得ませんわっ! あ゛あ゛あ゛可愛い優しい可愛い愛しい! 朝日様素敵ですわああああああああ!!」

 

 嬉しい悲鳴とはこのこと。

 まさか歓喜で悶絶する日が来ようとは……なんだか不思議とメガネもハートマークなっている気がする。

 

「はあっ……はあっ……きっ、きっと、きっといつかは……(わたくし)のそばまで来てコーヒーを置いてくださった後に――」

 

『それじゃあ、お仕事頑張ってくださいね……えと、その、それから……(ぽっ)』

『あら? 朝日様。どうかなさいまして?』

『あ、あの……じゃ、じゃあ、おやすみなさい。僕の愛しい五月さん(ちゅっ)』

 

「――とかっ! お、おおおやすみのキキキキキスをしてくださったりなんかしちゃったりなぁんてうひゃはあああああああでっすっわっ! ん゛っ、もう! 朝日様ったら、朝日様ったらあああああああ!!」

 

 会心の妄想にバンバンと床を叩く手が止まらない。

 部屋の右から左へと、もう何往復転がったことだろうか。ふと、廊下から凄い勢いで迫りくる足音が響いてきた。

 

 ん? 今度は誰――――バァンッと、勢いよく扉が開かれる!!

 

「うるっせぇええええええっ! 五月てめえ、今何時だと思ってやがる!? 変な叫び声上げながら盛ってんじゃねえぞちくしょーーめぇ!!」

 

 五月の部屋からちょうど壁一つ隔てたとなりは梅の部屋である。

 

◇◆◇

 

 続いて梅の場合。

 

 Mapsは定例業務として月一回、管轄区の本部がある男性保護省庁舎へ出勤する必要がある。

 装備のメンテナンスや警護任務情報のデータ更新を行うためだ。

 ある日の朝。今回の本部出勤担当である梅は玄関で出発の準備をしていた。

 ロリ猫娘に似合う似合わないかはともかく、スーツ姿で革靴をはいているところである。

 

「うっし! んじあゃ、ちょっと行ってくらぁ」

 玄関から奥へと声をかける。

「あっ、梅ちゃんちょっと待って」

 すると朝日の呼び止める声が聞こえ、スリッパをパタパタと鳴らして玄関へとやってきた。

 その手には何やら手提げ袋が一つ。

「はい。これどうぞ」

 目の前にくるや、笑顔の朝日が手提げ袋を差し出してきた。これは? 頭の中に”?”が浮かぶ。

「あっ、お弁当を作ったんだ。梅ちゃん夜まで本部でお仕事でしょ。お昼ご飯にって思って」

「なにいっ!?」

 

 まさかの手作り弁当。しかも男性である朝日のお手製――この世界においては伝説(レジェンド)と称されるアイテムだ。

 男性から手作り弁当の贈呈。

 それはつまり……ふってわいたサプライズに、梅は顔がみるみる真っ赤になっていくのを感じる。

 

「ちょっ、おまっ、べ、べべべ、弁当……だと……!? ま、ままままさか……朝日。お、お前……俺に気でもあんのか? い、いや、そんな、まだ出会って三ヶ月も経ってねえんだぞ?」

 

 何せ夫婦であっても、妻に対して夫が弁当を作る確率など限りなくゼロなのこの世界。

 これは、まさか、愛の告白か!? などと、早とちりしたくもなる。

 

「あはは、もう! 梅ちゃんてば大げさだなぁ。たまのお出かけ仕事なんだからこのくらい普通だよ?」

「ふ、普通? へぇ……そ、そうなのか、普通なのか……あっ、まあ、朝日にとっちゃあそうなのか(・・・・・)。そっか…………おどかしやがっ――あ、いやっ、じゃなくて。まあ、あれだ! ありがとよ朝日。ちょうど昼をなんにすっか悩んでたからよ。ありがたくいただくぜ! と、とにかく行ってくらあ――――ぐぎゃっ!?」

 

 まずい、早とちりした。勘違いをさとられないように試みるも、動揺から思いっきり扉に激突。これは恥ずかしい。

 ふらふらになりながらも、心配する朝日から逃げるように出発せざるを得ない梅であった。

 

 ――そんなこんなで、お昼休み時間。

 

「朝日の手作り弁当か……へへへ、やったぜ」

 

 手提げ袋をながめながら、ついつい喜びの独り言が漏れてしまう。

 職員用食堂までの足どりも軽い。

 本日、梅は久々に後輩(しゃてい)と二人で食事をすることにしていた。

 食堂で合流して、テーブルに隣り合って座る。しばし昔話に花を咲かせ、頃合いをみて弁当を取り出す。

 

「あれ? (あね)さん。今日は弁当自前っスか? めずらしいっスね」

「えっ、あっ、ああ、ま、まあ……たまにはよ」

 

 口が裂けても警護対象(あさひ)お手製とは言えない。

 

 さも自作であるかを装って、弁当のふたに手をかける。大食いな自分を思ってか、特大サイズの二段型弁当箱だ。

 期待につい小さな胸もふくらんでしまう。

 鼻歌まじりでご開帳。まずは上段。

 色とりどりのおかずが詰まっており、見た目も美しい。隣で後輩(しゃてい)も驚きの声を上げている。

 ちょっとした優越感、実に愉快だ。流れるように下段も確認。すると……。

 

「んなっ!?」

 

 目に飛び込んで来たのは、ご飯の上にのせられた海苔で型どったハートマーク。

 さらにはふりかけで『うめちゃんラブbyあさひ』の文字が器用にも描かれているではないか!

 朝日の辞書に『容赦』の二文字は存在しないらしい。よりも――まずい! 後輩(しゃてい)に見られたら非常にまずい!

 

「なっ、何いいいいっス!? あ、(あね)さん、それはいった――」

 やむを得ない。梅はとっさに高速裏張り手を後輩(しゃてい)の両目めがけて容赦なく放つ。

「――うっ、ぎゃあああああっス!! め、目がぁ!? 目がぁ!?」

 

 今だ! すぐさま弁当をがばっと抱え、猛ダッシュで食堂脱出。

 

「おっと!?」

 危ない。食堂の出入口を飛び出したところで、危うく矢地にぶつかりかけてすれ違う。

 ここは気づかなかったふりをしてスルーだ。

「ん? 今のは梅じゃないか? 顔だけじゃなく耳まで真っ赤にして凄い勢いで…………ああ、トイレか」

 

 梅。本日はトイレで一人飯とあいなった。

 

◇◆◇

 

 最後に深夜子の場合である。

 

「朝日君ありがと。超感謝!」

「ううん。いつも深夜子さんの部屋で僕もゲームして遊んでるし……それに、掃除するのは嫌いじゃないからね」

 

 ある日、深夜子は自分の部屋を朝日に掃除して貰っていた。

 現在、清掃完了の立ち会い中というわけだ。

 もちろん言うまでも無いことだが、Mapsが自分の部屋を警護対象(だんせい)に掃除させる。完全に論外である。

 

 これを頼んでしまえるあたり、深夜子の朝日への甘えっぷりがうかがえる。

 

「ほらっ! ね、深夜子さん。お布団、どう?」

 ぽふぽふと布団を軽く叩きながらご満悦の朝日。どれどれ?

「んあ? ふおあああああっ!? こっ、これはふかふか! 超ふっかふか!」

「でしょ! 天気も良かったからね。しっかり干したあとで、布団用掃除機もかけたんだ」

「朝日君ヤバい。グッジョブすぎる! これはもう――」

 結婚してもいいんじゃないかな? おっと、口から本音が漏れかけた。危ない危ない。

 とりあえずサムズアップしてごまかしておこう。

 

 ――この現状。もし、世間一般の女性が目にしたならば、魂は嫉妬と呪いでどす黒く濁り、砕け散ってもおかしくない。

 そして、天はそんな暴挙を許さなかったらしい。

 朝日の口から、深夜子にとって聞き捨てならないキーワードが漏れた。

 

「それに布団だけじゃ無くて、ベッドも(・・・・)ばっちり掃除してるからね!!」

「は? へ? ベ、ベッド……も?」

 なんですと? これは心臓がドキンちゃん。自然と表情がこわばり冷や汗が吹き出る。

「うん。やっぱベッドマットも掃除しないとダメだからね。ついでにベッドの下も片付――――あっ!」

 

 朝日が口をふさいだ。

 そう! 年頃にして健全な肉食系女子である自分のベッド下には何があるのか。無論、夜のオカズなアレである!

 見ればなんとも気まずそうな朝日の表情。

 深夜子は一気に青ざめる。見られてしまった? アレ(・・)を? ヤバい、嫌われちゃう? 軽蔑されちゃう?

 焦燥にかられ、冷や汗が脂汗に変わる。情けない話、引きつった笑みを浮かべるのが精一杯だ。

 

「あ……あ、あの、朝日君!? まさか……ま、さ、か、あたしのベッド下のモノ(・・)を……」

「ウウン。ボクナンニモミテナイヨー」

 

 朝日君。ごまかすのが下手な子!

 

「ああああああああ、そっ、その、あたし。いや、あの……あばばばばばばばばば」

 もう白目むいて泡吹いて倒れていいですかね?

「ちょっ、ちょっと深夜子さん。だ、大丈夫だから! その、少し整理しただけだから! 箱の中身(・・・・)なんて全然見てないから。えと、あっ! そ、それに僕ちょっとエッチなの(・・・・・)とか平気だから、全然平気だから」

 

 めっちゃ見とるやないか~い! 

 真っ青だった顔色が、急激に真っ赤に変色していくのを深夜子は自覚する。

 だんだんと視界に危ない光の点滅が増えているのがわかる。これもうダメかもわからんね。

 

 一方の朝日。そんな深夜子の危険な変化にあわてふためいてしまう。

 

 実のところ、思いっきりチェックしてしまった深夜子のエロゲー&エロBDコレクション。

 しかし、自分も日本の健全な男子高校生。エロへの考え方はむしろ共感すら覚える。

 きっと深夜子は変な勘違いをしてるに違いない。

 逆の立場だったら……そうだ! ここは気の利いたフォローをするべき場面であろうと朝日は考えた。

 

「あのね深夜子さん! 女教師モノとか、姉弟モノってやっぱ定番だと思うんだよね。それからマッサージ系もあったし……うん、深夜子さんってなかなかいい趣味(・・・・)してると思う。ナイスチョイス! あっ、それと。僕、びっくりしたんだけど。この世界って痴漢ものがラッキースケベに分類されるんだね。まあこれは逆に考えれば――――」

 

 やめたげてよお!

 

「くっ、殺せ!!」

「ちょっ!? 深夜子さん?」

「うっ……うう……い、いやあああああああああっ!!」

「あれ? ちょっと? 逃げないでよ。みっ、深夜子さーん!」

 

 その日。晩ご飯での二人はそれはもう気まずかったそうな。

 

◇◆◇

 

 とまあ、三人娘たちはこんな有り様なのだが、朝日にしてみれば、過去の生活環境に近い方が落ち着く。その程度の理由である。

 

 母子家庭ゆえに母親は仕事で忙しく、家を空けることも多かった。

 よって、家事全般は姉弟三人での交代担当制。

 そんな生活を送っていた朝日。家事は一通りこなせるし、料理なんかはむしろ自信があるレベル。

 実は女子力高い系男子高校生だったりするのだった。

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