男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第十六話 手伝ってください。はい喜んで!

 リビングに戻った深夜子たちが、さっそくとばかりに梅を(とが)め立てる。

 

「大和さん! あ、れ、で、は、ただのストレートな痴女ではないですの!!」

「梅ちゃん自爆テロ。ダメ、絶対」

 

 勢いよく詰め寄られるも、梅は不満そうな表情を見せている。

 何やら言い分があるらしく、口を尖らせぼそぼそと呟く。

 

「う、うっせえ……その……なんかの本に書いてあったんだよ。ああいうのが……なんだ……」

「そっ、そっ、そう言ったことは、その殿方の奥様方がすることですわあああああっ!」

 

 顔を真っ赤にした五月が、同じく真っ赤な顔の梅にツッコミを入れた。

 深夜子もその内容を察してか、耳まで赤くして頭から湯気を上げる。

 

 結局のところ、それから上手(うま)い代案も出てこなく、(らち)が明かない。

 最終的にはくじ引きで、誰が朝日に説明するかを決めることになった。

 なんとも情けない結論だ。

 

 ――結果、運悪く当たりクジをゲットしたのは深夜子。もちろん顔面蒼白である。

 しかしながら全員同意の上での結果、ゆえに逃げ場は無し。

 意を決して朝日の元に向かうも、そこはコミュニケーションを大の苦手とする深夜子。

 

「え、えーと……み、深夜子さん? だから、その、この箱がどうかしたのかな? ちょ、ちょっと理解できないんだけども……」

 案の定、説明は要領を得ずグダグダになっていた。

「あ、あわわわわ。そ、その、この箱が、あの……提出しなくちゃいけないけど。あっ、あたし、あたしじゃなくて、朝日君にこんなのして欲しいとは思わないよ。でも、どうしても……しなくちゃいけなくて……。いや、でもね。ひ、ひぐっ……あの、嫌いになら……いで、うえっ、あっ、あたし――」

「ちょっ! な、なんで泣いてるの? え? てか、どこに泣く要素が?」

 ついには半べそ状態で朝日に心配される始末。

 最終的には気を利かせた朝日が、逆に深夜子へあれこれと質問を開始。

 

 なんとなーく察して「あー、うん。そんなのもあると思ってたよ。まあ、しょうがないよね」とあっさり受け入れたのであった。

 

「うえええええ……あしゃひくん。あたしのこと、嫌いに、嫌いにならないでえええええ」

「だから、もう泣かないで深夜子さん。僕、全然気にしてないから、ね、ね」

 

「「………………」」

 

 扉の隙間から、朝日に慰められる深夜子の様子をこっそりと伺う視線が二つ。

 肩透かしと言うべきか、不甲斐ないと言うべきか……ともあれあっさり決着はついた。と五月たちは胸を撫で下ろす。

 

 Maps側リビングへ再集合して、三人で一安心。――のはずだったが、深夜子だけは精神的ダメージが深刻だったらしい。

 やたら低めのテンションを引きずったまま、一人自室へと戻っていったのであった。お気の毒。

 

◇◆◇

 

 その日の晩。

 実際のところ、精液提出の件は本当に気にしていない朝日。

 すでに昼の一騒動も忘れ、絶賛クリーチャーハンターをプレイ中だ。

 

「うわ……またクエスト失敗。んー、やっぱソロじゃもう限界かなあ?」

 

 朝日はひとりごちる。そろそろソロプレイでは詰まり気味であった。

 さて、どうしたものかと時計を見上げる。

 

「あれ? いつもならそろそろ深夜子さんが手伝いに来てくれてる頃なのに……今日はどうしたんだろ?」

 

 日ごろなら、呼ばれなくてもヘルプにやってくる深夜子が来ない。

 どうかしたのか? いや、たまには自分の方から誘うのもいいだろう。一旦ゲームを終了して、軽く伸びをする。

 これから深夜子とガッツリ遊ぶためにも、まずは風呂だ。

 朝日は着替えを準備するために自室へと向かった。

 

 

 ――片やこちらは、ベッドの上でダウン中の寝待深夜子さん。

 昼の一件で激しく精神を消耗してぐったりである。

 まったくと言っていいほど起き上がる気力がわかない。

 そう言えば、ここ最近は日課のように朝日とゲームをしていたのだが、さすがに今日は無理か……と自分の状態を自覚する。

 今、頭に浮かぶのはひたすら不安のみ。

 朝日が精液提出を実際に行うとなった時、やっぱり嫌だと言ったりしないだろうか?

 そして、その時(・・・)になって依頼した自分を嫌いになったりしないだろうか?

 あああああああ――――コンコン。

 

 ん? 五月か梅か? 部屋にノックの音が響いた。

 

『あ、あの、深夜子さん。今……いいかな?』

「ふえっ、あっ、朝日君!? どうしたの。……あっ! もしかして何かあった」

 

 想定外の訪問者に、深夜子の心臓がドキリとはねた。

 悶々とした想像をしていただけに、ろくでもない予感が頭をよぎる。

 急いでドアを開けると、そこにはパジャマ姿の朝日。

 ああっと! これは風呂上りで軽く上気したご尊顔。鼻をくすぐるシャンプーの甘美な芳香。是非ともこのままベッドへ――。

 

「その……お願いがあるんだけど」

「えっ!? ……お願い(・・・)?」

 

 まさか!? 本能と煩悩に緩んだ表情もおのずと引きしまる。

 もしや、精液提出をするのが辛くなって相談に来たのでは?

 

「……あの、朝日君。もしかして」

「うん。あのさ、一人じゃ無理そうなんで手伝って欲しいんだけど」

 

「「………………」」

 

 ああ、なるほど。

 精液採取(・・・・)するのが一人では無理なので、自分に手伝って欲しいと――。

「いいいいいいいいいっ!? てっ、ててててててててててててつだう(・・・・)うううううっ!?」

 

 衝撃が頭の中を貫いた! 手伝って欲しい。手伝って欲しい。手伝って……朝日の言葉が木霊(こだま)する。

 手伝う? アレの採取を? 自分が? どういうこと!? 深夜子は理解が追いつかず言葉に詰まってしまう。

 

「え? あ? その……」

「あれ、もしかして深夜子さん今日は無理だっ――」

「無理じゃない無理じゃない全然無理じゃない! 手伝わせて! 超手伝わせてっ!!」

 

 深夜子、人生最速の返答記録樹立。

 キープだ。断る選択肢など存在しない。本能先輩と直感姉貴が頭の中でそう告げている。 

 

「あはは……だ、大丈夫なんだ」

「もちろん! って、あっ……でも、あたしが、あたしの、あたし……で、いいの?」

 

 勢いはしりすぼみ。そのファンタスティックなお手伝いをする相手が自分で良いのか?

 つい念を押して聞いてしまう。なんせあたし処女ですから!

 

「え? そんなの深夜子さんでないと無理に決まってるじゃん」

 

 ご指名いただきました。

 

「ま、まままままマジで? うっひょおおおお! あ、ああああ朝日君そうなの!? あたしで無いと無理なの!? キターーーーッ!! そうなんだああああああ! ふへっ、ふへへへ」

 

 深夜子の脳内にクリーチャーハンターのオープニングテーマ曲がフルオーケストラで再生される。

 これ、壮大でテンションが上がるいい曲なんですよ。ハンター冥利に尽きますねっ!

 

「朝日君! あ、あたし頑張るから! ただ……そ、そにょ、うまく手伝えるかは……あにょ……」

 

 冷静に考えると自分(しょじょ)には少々ハードルが高い気もする。

 ……いや、そんな弱気ではいけない。据え膳食わぬは女の恥!

 過去、数々のエロゲーやエロ動画で培った知識を活かすのだ。確かこんなシチュエーションもあったはず。

 エロシチュジャンル検索をすばやく脳内でかける。

 

「え? うまくって、何言ってるの? 深夜子さんなら舐めプ(・・・)でも全然いけるでしょ」

「んっ、なっ、ななななな舐めプレイ!? 舐めちゃっていい? 今日の朝日君は舐められちゃう感じ? うわーお!」

 

 ちょっと積極的すぎやしませんかね? もう深夜子のテンションはうなぎのぼりだ。

  

「えっ? ああ、もちろん深夜子さんの気分次第でガチ(本気)プレイしてもいいよ」

「は? ――――――がっ、ががががが、ガチ(本番)!? …………うぷわぁっ」

 

 深夜子の脳内に描写できない妄想が駆けめぐる。

 限界突破。行き場を失った熱い血潮が鼻から抜け出してしまう。

 一応説明しておくと、傷心の美少年が精液採取の手伝いを頼みにやってくる。すると、あれよあれよお手伝いから華麗に舐めプレイへ。そして流れるように本番フィニッシュな妄想ストーリー。

 あっ、これAV企画モノで一本いけますやん。

 

「あれっ、深夜子さん鼻血! 大丈夫? 今日はもしかして体調が悪いんじゃ?」

「全然! 全然そんなことないよ! 良すぎるくらい健康! 健康すぎて鼻血が元気!」 

 

 ここは全力で健康アピールの深夜子。

 自分でも言葉の意味はよくわからないが、とにかくすごい自信がある。あたしは元気。

 すると、朝日が少し考えるそぶりを見せてから口を開いた。

 

「んー、じゃあ、ここですぐしちゃう? それとも僕の部屋でする?」

「すぐしちゃっ――――っ!?」

 

 なんたる生々しい選択肢。なんたる積極性。女の理想な妄想を凝縮したかのごとき展開。ありがとうございます。

 深夜子はごくりと唾を飲み込みつつ、朝日に出会えた幸運を天に感謝する。あたし、今日、大人になります!

 

「ん? どうかしたの?」

「あっ、いや、なんでもない。なんでもないから。そ、その朝日君の部屋で! うん。こ、こっちだと五月(さっきー)と梅ちゃんの部屋近いし」

「そうだね。もう夜だし、あんまうるさくすると迷惑だもんね。僕も熱中しちゃうと大きな声出しちゃうもんなぁ」

 

「こ、え、が、で、ち、ゃ、う!?」

 

 まずい。すでに会話だけで限界を向かえてしまいそうだ。

 しかし、深夜子は根性で耐える。耐え忍ぶ。

 この究極のクエストを失敗するなどありえない。ありえてはならない! 気を入れ直してたたみかける。

 

「そだ! あたしシャワー浴びて来ないと」

「あ、深夜子さんお風呂まだだったんだ? ごめんね。じゃあ、準備して部屋で待ってるよ」

「らじゃ! それはもう光の速さで行ってくる」

「あはは。もう、深夜子さんたら好きなんだから」

「ソンナコトナイヨー」

 

◇◆◇

 

 その数分後、マッハでシャワーを済ませた深夜子はルンルン気分で朝日の部屋へと向かう。

 ピンクな期待で胸をいっぱいにし、すでに十回はフィニッシュまで脳内シミュレーションした。

 やる気満々にして万全である。

 

 対して朝日は部屋に大量のおやつと冷えたジュースを持ち込み完了。

 ノートパソコンは攻略サイトを開いた状態セット。こちらも準備万全。

 そんな(ゲームを)やる気満々の朝日が待ち構えていることを、深夜子は知るよしもない。

 

「おい、五月。さっき風呂場の前で深夜子の奴とすれ違ったんだけどよ。『あたしは大人の階段をのぼるシンデレラ~♪』とか変な歌をうたいながらスキップしてやがったけど……大丈夫かよアイツ?」

「それは、何がどうなったらそうなるんですの? 深夜子さん……ついにアホにターボでも搭載しましたの?」

「さあな。ま、幸せそうだったしいいんじゃねぇか? アイツ昼はこの世の終わりみたく落ち込んでたしな」

「正直、ろくな予感はしませんが……ご本人が幸せそうなら、よろしいのではなくて?」

 

 こうして本日も無事、朝日家の平穏な夜は過ぎて行くのであった。




第二章 どうやら美少年との日常は甘くて危険らしい ―完―
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