男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第十八話 朝日の男性健康診断

 現在、朝日たちがいるG棟。

 この一番から十三番ルート担当は、通称『看護十三隊』と呼ばれる男性医療に携わるエリート中のエリートが揃えられていた。

 企業の御曹司から国の指定対象まで、多数の要人男性の健康診断を一手に引き受けているチームの集まりである。

 

 そして現在、朝日が健康診断を受けている十一番ルートでは、看護師(エリート)たちの混乱がインカムを通じて飛び交っている真っ最中であった……。

 

 

◇◆◇

 

 

『身体測定担当、応答願います!』

『何これ……!? 全員何かに魅入られたようになっているわ』

『どういうこと!?』

『ちょっと待って! 事前連絡では注意が促されていたでしょ!』

『聞いてないわよ! こんな美少年なんて! しかも、しかも……優しいのよぉっ……うっ、ううっ……お疲れ様です。ありがとうございました。なんて、あの笑顔で言われたら……わたし、わたし』

『ダメだ。もうこいつは使い物にならないっ!』

『た、隊長! 指示を! はやく指示を!』

『それが……とんでもない美少年なんです。それだけでなくて、ほんとヤバいんです。なのでちょっと見てきますね』

『うへへ。可愛い……可愛いよう……』

 

 

 ――看護十三隊十一番隊隊長『(ひいらぎ)明日火(あすか)』は、看護師ステーションで愕然(がくぜん)となっていた。

 つい先程まで、ルート内の健康診断進行状況が粛々(しゅくしゅく)と伝達されていただけだったのだ。

 ところが、十一番ルートである男性(・・・・)の健康診断がスタートした途端、この有様である。

 副隊長の『鳴四場(なるしば)エミリ』も隣の席で呆然となっている。

 

「なんなのだこの惨状は……()り得ない……我々は看護十三隊十一番隊だぞ。いくら美少年と()え、男性に対する自制心や心得はMapsにも匹敵するエリート揃い……それが……こんな……」

 

 残念ながら、そのMapsのトップクラスですら慣れるまで一ヶ月以上を要したのが神崎朝日だ。

 事前に男性保護省から注意あるにはあったのだが、エリートの自負が裏目に出ていた。

 

「はっ!? 私としたことが、この程度で冷静さを(うしな)うとは……らしくない……。おいっ、鳴四場!!」

 

 柊は何かを振り払うように首を振り、自分に活を入れ直す。

 同時に副隊長へ声をかけて気を取り直させる。

 

「はっ!? はいっ、隊長」

「まだ充分に立て直せる。ルート全体の被害状況の把握から、担当の組み直しを素早く策定しろ! 指示は私が出す。この程度のトラブルに対応できなくては十一番隊の名が泣くぞ!」

「りょ、了解です!」

 

 カリスマ性を発揮しながら、柊は現場へ次々と的確な指示を出す。

 その隣で、鳴四場もステーションモニターに映し出されるデータ処理を迅速に進める。

 健康診断会場の混雑警告状態をあらわす黄色表示が減り、次々と問題なしの青色へと戻っていった。

 

「よし、これでほぼ現状復帰になる(はず)だ……鳴四場! 原因となった男性のデータを出せ。診断に入ってるなら個人の詳細データも引っ張れるだろう」

「了解です――え、と、お名前は神崎朝日さん。十七歳。特殊保護対象男性ですね。それから……それ、か……ら――」

「……どうした? 何を見て固まっ――なん……だと……!? なんだこれは? こんな、こんな美少年が……存在すると()うのか?」

 

 朝日の顔写真を見て、しばし呆然となる二人。だが、その沈黙をトラブルアラームがすぐに打ち破る。

 

「くっ、またかっ! 次はどこだ?」

「隊長。神崎さんの現在の受診は採血になっています。すぐ現場と繋ぎます!」

 

 するとスピーカーから、悲鳴のような絶叫が響き渡る。

 

『いやぁあああっ、こんな子にっ! こんな可愛くて優しい子に採血なんて残酷なマネ、あたしできないっ!!』

「隊長! さ、採血担当が一名逃げ出しました……」

「なんだとぉ! そ、それでも名誉ある十一番隊の隊員かぁっ!?」

 

 乱暴に拳を机に叩きつけ、柊が声を荒げる。

 モニターに表示される採血ルームの混雑状態が、じわじわと黄色に染まる。

 担当が一人抜けた影響が出はじめたのだ。

 

「まずい……これ以上は診断の流れが止まってしまう。鳴四場!」

「隊長大丈夫です! すでに隣の内科担当から応援を入れる指示を出しました。神崎さんのラインは一端停止して他に回しています」

「ふっ……流石(さすが)だな鳴四場。君が副隊長であることを今日ほど頼もしく思えたことは無い」

「誉めても何も出ませんよ。とにかく、採血さえ終われば内科健診だけで、以降はほぼ機械での検査が中心ですから――」

「ああ、そうだな。よし、気合いを入れて残りの指示をして行こう」

 

 他担当者との入れ替えをテキパキと指示する。

 朝日の採血は苦戦した様子だったが、なんとか無事に終わって内科健診へと送り出せたようだ。

 しばらくして、残った処理を終えた柊はデスクチェアーを降りて立ち上がる。

 一仕事終えた感を出して、グッと伸びをしながら鳴四場の席へと振り返った。

 

「やれやれ一時はどうなることかと思ったが、それにしても神崎君だったか……私たちも健診に加わりたい位の美形だったな。なあ、鳴四場……? ……な、鳴四場!?」

 

 そこにあったのは茫然自失の表情でモニターを見つめ、固まっている鳴四場の姿。

 柊の声に反応して、スッと蒼白になった顔を向け――震える唇をゆっくりと開いた。

 

「な……内科担当の医師と……看護師の通信反応が途絶え……ました……ぜ、全滅……!?」

莫迦(ばか)なっ!? そんな莫迦(ばか)なっ!? 内科担当は医師から看護師まで全員熟練者の猛者(もさ)揃いだぞ? それにそもそも内科健診で一体何が起こると言うんだ!? くそっ、どうする……ともかくレントゲン部隊から増援を……いや……」

「隊長! 一人だけ意識があるものがっ! つ、繋ぎます!」

 

 すぐに柊が確認を促す。

 そして、スピーカーから聞こえてくるのは、息も()()えな声。

 

『た、隊長……そ……その、男性が……美少年が……内科検診時に突然上半身裸に――あふん!』

「なん……だと……!?」

 

 それは柊にとって理解不能の内容であった。

 この世界の男性は、肌を露出させるのを極端に嫌う。女性に対しては尚更だ。

 それ故、健康診断では男性に特別な診察衣に着替えて貰う。

 これで肌を露出させる必要なく、全ての検診に対応できるのだ。上半身裸になるなどありえるはずが無い。

 

「ど、どういう意味だ。おい、大丈夫かっ!? 説明できるかっ!?」

「通信……途絶えました……」

 

 現場では服を脱ぐどころか、まくりあげる指示すら決して出ることはない。

 そもそも男性が服を脱がなければならないなど、いつの時代の話だ!? 柊は困惑する。

 

 しかしながら、いや当然、朝日の感覚は違う。

 例えば医師から『はい、じゃあ次は心音を聴きますねー』と聴診器を向けられてしまえば。あっ、上を脱がなきゃ。となってしまうのは致し方が無い。

 条件反射って怖いですね。

 

「隊長。現場の記録映像の準備終わりました」

「……すぐに再生しろ……状況確認をする」

 

 プライバシー保護のため映像の解像度は低い。が、そこには朝日が聴診器を持った内科医の前で、おもむろに上半身の診察衣を脱ぎ去る姿が写し出された。

 そのすぐ後ろには深夜子が控えている。

 

『ちょおーーーっとぉ? あ、朝日君!? なんで脱いでるの!?』

『え? だって、お医者さんが聴診器使うって……』

 

 驚いて焦る深夜子。

 一方、真正面から朝日の上半身裸を見せ付けられた内科医は、満面の笑みを浮かべて卒倒する。

 さらには、近くの看護師が歓喜の悲鳴をあげたことで騒ぎが拡大を始めた。

 

『み、見えちゃってるううっ! これはあたしが隠さねばぁ! いやっふう!』

『ちょっと、深夜子さん!? なんで抱きついて来るのさ! これじゃ服着れないよ? それに、なんか、みんな困ってるみたいだし……』

 

 喜び(いさ)んで朝日に抱きつく深夜子。その間に騒ぎを聞きつけて、周りの医師と看護師が集まる。

 卒倒するもの、行動不能になるもの、状況はどんどんと悪化して行く。

 

『んーと、とにかく。ち、ちく……おっぱい隠して! 朝日君』

『えっ? え……と、こう? かな?』

 

 何を思ったか、両手のひらを使って乳首の露出を隠す朝日。

 そして、これでいい? と言わんばかりにはにかんだ笑顔を向けてきた。

 

『『『『『てっ、てっ、手ブラぁーーっ!?』』』』』

 

 的確に獲物たちを射程範囲内に集めてから広範囲殲滅兵器の使用。大虐殺を彷彿とさせる場面がそこにあった。

 

『!? ぐはぁっ、朝日君それはヤバす……ぷっしゅう』

『えええっ!? 深夜子さんまで!?』

 

 会場は一瞬にして壊滅。加えて不鮮明ながらモニター越しでも充分な破壊力。

 

「び、美少年の……て、手ブラ……ぶぱぁっ」

「なっ、鳴四場ぁああああああっ!!」

 

 鼻血を噴きながら倒れゆく副隊長鳴四場エミリと、絶叫しながら『万事休す』の言葉が頭をよぎる隊長柊明日火であった。

 

 

 ――当日、十一番ルートは健康診断続行が不可能となり閉鎖と相成った。

 その復旧には丸一日以上の時間を要したと言う。

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