男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第十九話 朝日の体力測定記録

「まずいですわ! これはまずいですわ! 大和さん、急ぎますわよ!!」

「うっせえ、わかってんよ! くそっ、あのデカ蛇女。ねちねちとくっちゃべって時間取らせやがって」

 

『朝日君が海土路(みどろ)(あるじ)に絡まれている』

 

 不安的中。五月のスマホに深夜子からのヘルプメールが届いていた。

 梅と二人して、猛ダッシュで朝日の元へと向かっている最中である。

 

「貴女が喧嘩腰になるからですわっ。(わたくし)事前にお伝えしましたわよね! 会場ではおとなしくして欲しいと!」

「んだよ! だから俺から手を出してねえだろ!」

 

 全力で走りながら、五月は梅と言い争う。

 

 万里(ばんり)にからかわれ、その都度律儀に反応する梅の反応が愉快だったのか、つい先ほどまで絡まれ続けていたのだ。

 結局、満足するまで梅をからかった万里はフラフラと何処かに行ってしまった。

 だが、どちらにせよ同じように待合室で合流する事になるだろう。

 何よりも武闘派警護官揃いと評判のタクティクス。そんな連中に囲まれ、怯える朝日の姿を想像するだけでおぞましい。

 もう予定の合流時間も過ぎている。五月の焦りは(つの)る一方だ。

 

「とにかく! いくら深夜子さんでも一人だけでは荷が重いですわ」

「おい、そのよ……なんたら主ってのは、そんな性質悪(たちわり)ぃのか?」

「そうですわね。悪い、悪くないはともかく。海土路造船の御曹司で容姿端麗(ようしたんれい)、頭脳優秀、運動神経も抜群、殿方のグループ内では常になんでも一番……と言うのは有名な話ですわ。当然気位(プライド)もその分――」

「――お高いってか? あー、そりゃあ嫌な予感しかしねえな」

「ええ。それにしても……理解していたつもりでしたが、(わたくし)たちも感覚が麻痺してたのかも知れませんわね。朝日様があそこまで目立たれてしまうとは……想定していませんでしたわ」

 

 そう、朝日は五月の想像を遥かに超える目立ちっぷりを見せつけた。

 十一番ルート壊滅の件も理由の一つではあるが、何よりも海土路主に意識されてしまった原因は別にあった。

 

◇◆◇

 

 それは、朝日が受診している場所とは別の体力測定会場でのこと――。

 

 会場では50メートル走が行われている。

 たった今、一人の男性がゴールしたところだ。

 

 身長161センチで中肉中背。髪型はキノコヘアこと坊ちゃんカット。

 日本基準で言えば、まあ平凡な顔立ち。体格も含めてとにかく全てが平凡。

 しかし、この世界基準ならば健康的な美男子。それが『海土路(みどろ)(あるじ)』十八歳である。

 

「ハァ……ハァ……よし、どうだ!?」

『ただいまの記録――8.96秒です』

「よし、やったぞ! どうだ! ついに9秒を切ったぞ!」

 

 この世界における男性の体力基準値は、日本人女性の平均値を下回る。

 その代わりにと言うべきかは微妙ではあるが、女性は日本人男性の体力平均値に対して二倍以上の数字(スコア)を叩き出す。

 女子中学生にして、すでに日本人成人男性と互角以上の体力と言う恐怖だ。

 いかに男女間の体力差が激しい世界かお分かりいただけるだろう。

 そんな男性たちの中で、主は全国トップクラスの記録保持者であり、それは日々訓練の賜物と自負がある。

 

「おおっ、さすがなのですよー主様。今回は他の種目もばっちり大幅記録更新ですよ」

「ふんっ、当然だな。ボクは他の奴らと違って手を抜いたりしないからな」

 

 不遜(ふそん)な態度で豪語すると、主はタオルで汗をぬぐいながらスポーツバッグを開けて水筒を取り出した。

 

「はいなのですよ。さすがな上に素晴らしいのですよ!」

 

 側で主をやたらと褒め称えるのは、身長160センチに満たない小柄な女性警護官。

 牛乳瓶の底のようなぶ厚いレンズのメガネをキラリと輝かせている。

 三つ編みになっている寝癖のついた茶髪は、雑に結ばれて左右非対称、裾がはみ出たりとズボラな着こなしのスーツ姿。

 見た目がどうにも残念さんな彼女の名は『流石寺(りゅうせきじ)月美(つきみ)』。

 こう見えても、海土路家お抱え男性警護会社タクティクスの幹部だ。

 

「まあな、ハンドボール投げもついに14メートル超え。背筋力も81キロで新記録更新だ。これじゃあ今回の体力測定記録はボクが一位を総取りになっちゃうかな? ふふふ」

「それはっ、もうっ、当然なのですよっ! あっ、すぐにデータを確認しますから、ちょっとお待ちくださいですよー!」

 

 自信たっぷりの主に調子を合わせ、月美が小気味(こぎみ)よい返事をする。

 それからノートパソコンを操作して、今回の体力測定記録結果を呼び出す。

 前回、前々回と主は多くの種目で二位、三位だった。

 その悔しさをバネに半年間、日々トレーニングをこなした成果がでている。

 全種目一位は困難でも、相当数の種目で一位を取れるであろうと月美は考えていた。

 

「おっ、出ましたですよー。はいっ、まずは握力からですよ! これの一位はもちろん主様……って、あれれ? 何、このID? ん……主様が、二、位? え……なんで……ですよ?」

 モニターの表示を前に月美が固まる。

「なに!? そんなはずは無いだろう。ボクの握力記録は今回29.4キロだぞ。平均値を5キロ以上超えているんだ。じゃあ、一位の記録はどうなっているんだよ?」

 想定外の結果に、主の声色は不機嫌になっていく。

「はっ、はいですよ! すぐに、すぐに調べますから……ですよ」

 

 その変化にビクビクしながらも、月美は一位の記録を呼び出す。

 

「え……と――――んなああああっ!?」

 

 データが表示された瞬間。

 月美が驚愕の声を上げる。ぶ厚いメガネの位置を何度も直しては画面を再確認する。

 そして、そのまま呆然となった。

 

「おいっ、月美!? どうした、一位の記録は!?」

「え…………あっ!? は、はい……その……ですよ……あの」

 もごもごと口ごもる月美。その態度を主が察して一人呟く。

「ああ、確か前回29キロ台を出してた奴が三人いたな……もしかして、今回は30キロ台の記録を出した奴がいたのか? ……ちっ」

 

 主はこみ上げる悔しさを表情ににじませ、僅差で負けたのかと舌打ちをした。

 それから大きくため息をつくと、気分を紛らわせるため、持っていた水筒のコップにスポーツドリンクを注いで口をつける。

 

「一位の記録42(・・)()キロ……」 

「ぶばっはああああああああああああっ!?」

 

 スポーツドリンクが空中に噴霧され、虹を描いた。

 

 ――もちろんお察しの通り。

 今回の男性体力測定は朝日が問答無用で一位総ナメである。

 なんせ体力の基準(ベース)が違う。朝日の体力はこの世界の男性と女性の中間地点に近い。

 その容姿のみならず、次々と打ち立てられる凄まじい記録の数々。

 ギャラリー(女性たち)は、まるでオリンピックのスター選手でも観戦しているかの如く、熱狂しまくることになった。

 

「うええええぇっほ! げええぇっほ! な、なななななんだよその記録!?」

「む、無茶苦茶なのですよ……」

 

 まさに理解不能。

 男性の握力世界記録は、確か30キロ台後半だったはず。

 月美が記憶を探っていると、むせていた主が混乱気味に詰めよってくる。

 

「おいっ、他だ! 他の記録はどうなっているんだ!?」

「は、はいですよ。え、えと……50メートル走が…………6秒9ぅ?」

「えええええっ!?」

「ハンドボール投げは……に、26メートルぅ!?」

「うえええええええぇっ!?」

「は、ははは背筋力……ひゃ、ひゃひゃ136キロおおおぉ!?」

「会場にオスゴリラでも交じってたのかよ!?」

「なん……なの……で……す……よ……」

 

 これはもう、競うとかそういったレベルの記録ではない。冗談としか思えない数値。

 データ画面に釘付けになりながら、月美は思案する――記録データとして呼び出せる以上、管理と扱いの厳しい男性個人情報が入力ミスだとかエラーだとかなど思えない。

 困惑は深まる一方であった。

 

 一方で、苦虫を噛み潰したかのような形相の主。ブチブチと親指の爪をかじっている。

 イライラを募らせている証拠だ。

 しばらくすると、ハッと何かに気付いたかのように声を発した。

 

「そうか……わかったぞ! 替え玉だ! 女を替え玉を使ったに違いない。誰だ? 今回はボクに負けそうだからって……こんな卑怯なマネをしたのは? おい月美、すぐに調べろ! 調べて来い! 今すぐにだ!」

「わっ、わわわかりましたですよ主様。あっ、付き添いを姉者(あねじゃ)に代わって貰うですよ……す、少しだけお待ちなのですよぉー」

 

 その剣幕に、月美は慌ててスマホを取り出す。

 すぐさま姉と連絡をとって理由を説明する。――それから約十分。

 会場に月美とは似ても似つかぬ女性が現れた。

 

 太ってはいないが、少し丸っこい体型の月美とは色々正反対。

 痩せ型で身長は172センチ。オールバックの黒髪を後ろで(まと)めてポニーテールにしており、切れ長で細い目が狐を思わすサムライ的風貌。

 万里ほどではないが、中々の威圧感を纏っている。

 

「主殿、妹者(いもじゃ)、待たせたでござるな。近くにはおったのだが、付き添い変更の手続きに手間取ってしもうた(ゆえ)。それにしてもなんぞ面白そうな話でござるの」

 

 カラカラとしゃべりながら、二人の側へやって来たのは月美の姉『流石寺(りゅうせきじ)花美(はなみ)』。

 

 流石寺姉妹――忍者の末裔を自称し、戦闘は元より諜報や破壊工作を得意としている。との噂が流れる腕利きの男性警護官だ。

 

 海土路造船お抱えの民間男性警護会社タクティクス。

 元SランクMapsの腕を見込まれ、リーダーを務める蛇内万里。それを流石寺花美と月美の姉妹が補佐官役として支える。

 この三人を中心に、約三十名からなる武闘派警護官で構成されている組織である。

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