男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第二十一話 朝日と主の衝突

「やあ、さっきは急に声をかけてすまなかったね。神崎クン――」

(か、神崎様! あの神崎様がこんなにお近くに!)

「実はちょっとキミの噂を耳にはさんでね――」

(ヤバい。マジヤバい。近くで見ると超ヤバい)

「キミの体力測定記録。なんでも相当に凄かったらしいじゃないか――」

(濡れる。見てるだけでマジ濡れる)

「ま、だからと言う訳じゃないけれど、是非ともボクが作ってるグループ(・・・・)に入らないかと――」

(あ゛ぁ~、神崎様に心がぴょんぴょんするんじゃぁ~)

 

「うるさいぞおおおおっ! おまえらあああああっ! ボクの後ろでボソボソと気持ち悪い話をするなあああああっ!!」

 

 どうやら朝日のファン(しんじゃ)も何人か来ていたようである。

 デレデレとした表情を見せていたメンバー数人が、主に怒鳴られ、あわてて姿勢をただす。

 

「クソッ、まったくこいつら……誰に雇われてると思ってるんだ……」

 

 不満気に主がブツブツと呟く。

 その横で、無関心を装いつつ花美と月美の視線もチラチラと朝日の顔へ、主に気づかれそうになる度に目を逸らしている。

 やはり美少年には興味津々のようだ。

 

「おっと失礼、自己紹介がまだだったね。ボクは海土路主。(うち)はママが造船業を経営していてね。海土路造船って聞いたことあるかな? いやね、国内シェア二位の小さな(・・・)造船会社さ、ハハハ。ま、それはともかく。実はボクが主催している男性コミュニティグループがあって――――ああ、もちろんメンバーだって凄いよ! みんな有名企業の社長や、政治家、それに名家の息子なんだ。おっと本題がずれたね。本来なら、特になんでもないキミを入れることはないんだけど、今回は特別にボクの目に留まったってことで、直々にスカウトに来たってことなのさ! どうだい、ラッキーな話だろう?」

「へ、へぇ……」

 

 あっ、そうなんですか。

 朝日にとっては理解ができない上、興味もない話であった。

 むしろ、日本の某国民的猫型ロボットアニメの金持ちキャラが『実はボクのパパがね――』から始まる自慢話をしている場面を見ているかのごとき気分。

 なんとなく理解できたのは、あやしげな男性コミュニティなるサークル勧誘?

 首をかしげていると、深夜子が間に入ってきた。

 

「ちょっと待って! 朝日君は特殊保護男性。外国人扱いだからそういうのは――」

「おい、なんだオマエ。ボクは女なんかに話しかけて無いぞ! ふん……Mapsか、いちいち面倒臭い連中だね。キミらにそんな権限はないだろ。邪魔しないでくれ」

 

 聞く耳持たず。主が不愉快そうな口調で言い放った。

 この強気な反応に深夜子も困り顔だ。

 いかにMapsであろうとも、男性相手では権限は恐ろしく制限されると、朝日も聞いたことがあった。

 深夜子は役にたてず申し訳ない、と言いたげな視線を向けて、再び自分の横に下がる。

 

「気にしないで、深夜子さん。大丈夫だから」

 

 まずは深夜子を気遣う。そして、朝日にとってはどうでもいいお誘いだ。

 何よりも、主の女性に……いや、深夜子に対するぞんざいな態度。あまり好意的な感情はわいてこない。

 ここは無難に断ろう――これが結論であった。

 

 さて、どう断ったものかと朝日が悩んでいる間にも、主はせっせとスカウトアピールを続けてくる。

 さらには――。

 

「どうしたんだい? 悩む必要なんてないだろう。さあ、ボクのグループ『主星十字会(グランドクロス)』へ入会させてあげるよ!」

「「!?」」

 

 痛恨のグループ名だった。

 

「グラッ!? ぶふっ――うっく!」

「ちょっ、ちょっと!? 深夜子さんダメだよ……うぷっ……わ、笑っちゃ……ふぐっ」

 

 ネーミングセンスが見事にど真ん中(ストライク)。朝日は腹筋に力を入れて耐える。

 深夜子に至っては顔を真っ赤にし、吹き出す寸前で必死に(こら)えている。

 その反応に、主がキッと深夜子へ怒りの視線を向けた――が、笑いを耐える深夜子の目つきは、人を殺しそうな勢いのソレだ。

 目を合わせた瞬間に、主は「ヒエッ」と怯えた声を出して、視線を反らしていた。セーフ。

 

 で、誰か止めてやれなかったの? 朝日は月美たちに気の毒そうな視線を送る。

 すると、全員が一斉に目をそむけた。

 ……このネーミング、誰も止めれられなかったんですね。わかります。

 

「あっ、その、ごめんなさい。えーと、せっかく誘って貰って申し訳ないけど……僕はいい(・・)かな?」

 とりあえず、語尾を濁して断ってみる。 

「ふふん、そうだろう。いい(・・)に決まってるよね! なんせボクの…………えっ!?」

「えっ?」

「「…………」」

 

 断られる。主はそんな結果を全く想定していなかったのだろう。

 鳩が豆鉄砲を食った顔とはこうあるべき、と言わんばかりの表情になった。

 しばらくそのまま停止していたが、何かにハッとしたかのように再び動き出す。

 

「ふぅ……ちょっと……ボクとしたことが、聞き間違え(・・・・・)をしてしまったようだね。神崎クン。今のはもちろんボクのグループに入りたいって意味のいい(・・)ってことだよね? ね!」

「あー、えーと。結構ですって意味のいい(・・)です。ほんと、ごめんね」

 

 今度はバッサリ。

 深夜子はこっそり右手を朝日に向けてサムズアップ。グッジョブ!

 

「んなっ、なななななぁ!? ボッ、ボクのっ、ボクのおっ――――うぐっ!?」

「ふわあああっ、主様!? き、気を確かにですよぉーーっ!!」

 

 あまりに衝撃を受けたのか、主は呼吸困難になるほどの狼狽(うろた)えてぶりだった。

 月美があわてて背中をさする。

 

「けほっ……ふおっ……はほっ……ふひゅう。ふ、ふふふ――――ちょ、ちょ、ちょぉーっと神崎クンにはコレ(・・)がどれだけラッキーなことか、理解できない感じかな? はは、ははははは」

 

 呼吸を整えた主は、引きつった笑顔でしつこく勧誘を続けてくる。

 どうやら、朝日が本気で拒否していることを理解できないらしい。

 ついには、とんでもないことを口ばしりはじめた。

 

「あっ、そうだ! よし、じゃあ、こうしよう。キミも男性保護省に管理されて肩身がせまいだろう? そこでさ! ボクがママに頼んで自由に――」

「ストップ! 男性でもそういうのはダメ。国の指定は絶対」

 

 これはアウトだろう、朝日にでもわかる。

 間髪を容れずに深夜子から指摘も入った。

 いかに男性であろうと、法を曲げることを宣言するのは許されない。ともつけ加える。

 だが、その注意に対して主が怒りの表情を見せた。

 

「はぁあああああっ!? オマエはさっきから本当にしつこいよな。Maps程度の分際でボクに指示をするなよ。神崎クン。こんなめんどくさいMapsなんて使わずに済むようにさ、ボクがママに頼んで優秀な警護官を探してあげるよ。もちろん! こんな目つきが悪くて気持ち悪い女じゃなく――」

「ちょっと待って!」

 聞き逃せない言葉。朝日は語気を強めて割り込んだ。

「僕はそんな紹介なんかいらないよ。それよりも……海土路君。今、深夜子さんに酷いことを言ったの謝って貰えないかな?」

「「「!?」」」

「うえっ!? ちょっと、あ、朝日君!?」

 

 ――深夜子を筆頭に、タクティクスメンバーたちにも緊張が走る。

 

 今度は主が朝日の地雷を踏んでしまった。

 女性、特に警護官に対する二人の感覚はあまりに溝が大きい。

 一気にあやしくなった雲行きに、深夜子は焦りを覚える。

 

「なっ、なっ、なんだと!? えらそうにっ、だ、誰に向かって言ってるか、わかっているのか? よりにもよって女なんかに謝れだって! た、体力測定でちょっといい記録出したからって調子に乗るなよ!?」

「主様! そ、そんなに怒らないですよ。身体に悪いですよ」

 

 すぐさま月美が主の腕にからみついて、落ち着かせようとなだめる。

 深夜子も同様に朝日の腕に――しかし、すでに朝日もヒートアップ。

 そのまま二人の口論へと発展していくのだった。

 

◇◆◇

 

 しばし、待合室は騒然とする。

 

 朝日、主の関係者以外は巻き添えを恐れて退室。

 渦中では深夜子が朝日に、花美と月美が主に、多少強引にまとわりついて落ち着かせようとする。

 とにかく、男性同士のトラブルは非常にまずい。

 深夜子たちの必死の努力で、なんとか口論はおさまった。

 と言っても、気まずい沈黙と空気が場を支配している……その時。

 

「あ、あのぉ……主様。ジュースを、買って来ましたぁ……」

 

 ちょうど部屋に入る前、お使いへ行った女性が戻ってきた。

 黒髪のショートカット。目は前髪で隠れ、おどおどした態度でやたら気が弱そうな印象だ。

 武闘派揃いと呼ばれるタクティクスメンバーとは思えない。

 

 急いで戻って来たらしく、肩で息をしている。

 彼女がいそいそとテーブル近くに進み出たところで、朝日と目が合った。

 朝日は、自分のお使いではないにしても、ご苦労様でした的意味合いで軽く微笑んで会釈をする。

 

「えっ!? ふっ、ふええええええぇっ、かかか神崎様ぁ!?」

 

 彼女は驚きの声をあげると固まってしまった。

 そう、朝日は知るよしもないが、体力測定を見学してファンになったメンバーの一人である。

 ほほを真っ赤にして、呆然とした表情。さらには手からジュース缶が抜け落ちて床へと転がる。

 

「あっ、ふええっ、ジュースが……ご、ごめんなさい! ごめんなさいぃ」

 

 ごめんなさいを連呼しながら、床に這いつくばって缶ジュースを拾い集める。

 突然の卑屈な行動と態度に朝日が困惑していると、不機嫌な顔をした主が、ツカツカと彼女へ近づいていった。

 

「あ……主様ぁ、すっ、すすすみません。お待たせして、ご、ごめんなさい」

「ちっ、ふざけるなよオマエ! 相変わらずグズだな!」

 

 主が声を張り上げて罵る。『相変わらず』という言葉、どうやらそういう評価(・・・・・・)のメンバーなのだろう。

 まわりのメンバーたちの視線も冷たい。

 イライラが収まらない様子の主が、彼女の手から缶ジュースを乱暴に取り上げ――。

 

「オマエ、ほんとバカなの? 床に落ちた缶ジュースをボクに渡すつもり? こんなの飲めるわけないだろ!」

 

 彼女の顔めがけて、中身の入った缶を投げつけた。

 

「あうっ!?」

 

 ゴツンと鈍い音が鳴る。

 彼女の額に当たった缶が宙を舞い。ゴトン、と再び床にへ転がり落ちた。

 

「ごっ、ごごご、ごめんなさいっ! ごめんなさいぃっ! えと……すぐに、新しいのを買ってきますぅ」

 

 額から血がにじむ。それは少しづつ下へと伝って、赤い線を描き始める。

 にもかかわらず、彼女は額に、顔に傷ができたことなど関係無しに平謝りだ。

 

 女性の顔にキズが、あまりの出来事に朝日は呆然と立ち尽くす。

 かろうじて、その場にいる深夜子や他の警護官たちに目をやるも、彼女を見つめる眼差しには憐れみも同情も感じられなかった。

 まるで、さほど特別な場面ではないと言わんばかりだった。

 

 ――実際、深夜子たちにとってはよくある話だ。

 御曹司など、裕福な家庭の男子を担当する警護官であれば、普通に起こり得る。

 いやらしい話。こういった役目(・・・・・・・)は、彼女のような、立場の低いものに割り振られてしまう。

 悲しい事実ではあるが、これがこの世界の女性たちの感覚だ。

 

 しかし、朝日の目にはどう映っただろうか? どう感じただろうか?

 それは即座に行動に反映された。

 

「海土路君!! 君は……君はっ、どうしてこんな酷いことをするんだよっ!?」

 

 先ほどまでとは比べ物にならない怒りが朝日を支配する。

 我慢できずに感情が爆発する。思わず声を荒げてしまった。

 すぐ側で、深夜子が驚きに目を見開いて息を呑んでいる。

 

 もちろん主にとっても、まさに驚愕。

 例え同性であろうと、面と向かって怒鳴られた経験など皆無。何を言われたかすら理解が追いつかない。

 ただ唖然と朝日を見つめるだけで精一杯である。

 

「ちょっと、そこをどいてよ! その女性(ひと)怪我しているでしょ!」

「え? ――――――はわっ!?」

 

 朝日は怪我をした彼女を介抱するために、目の前にいる主の肩を掴んで払いのけた。

 そう、払いのけた(・・・・・)だけだ。

 大して力を入れたつもりでも、突き飛ばすつもりでもなかった。

 

「はぐぅ!?」

「おっと、主殿。大丈夫でござるか?」

 

 しかし、主は朝日の腕力に耐え切れない。

 バランスを崩し、転倒するすんでのところで、花美に抱きとめられる。 

 

「うわあっ、はっ? えっ? なっ?」

 

 あまりの衝撃に混乱する主。月美に、他のメンバーたちも、この想定外どころではない光景に凍りつく。

 

「……ボ、ボクを、ボクを突き飛ばした? このボクに暴力(・・)を振るった?」

 

 朝日と主。

 二人の体力差が、悪夢のようなトラブルを招き入れようとしていた。

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