男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です! 作:takker
「やあ、さっきは急に声をかけてすまなかったね。神崎クン――」
(か、神崎様! あの神崎様がこんなにお近くに!)
「実はちょっとキミの噂を耳にはさんでね――」
(ヤバい。マジヤバい。近くで見ると超ヤバい)
「キミの体力測定記録。なんでも相当に凄かったらしいじゃないか――」
(濡れる。見てるだけでマジ濡れる)
「ま、だからと言う訳じゃないけれど、是非ともボクが作ってる
(あ゛ぁ~、神崎様に心がぴょんぴょんするんじゃぁ~)
「うるさいぞおおおおっ! おまえらあああああっ! ボクの後ろでボソボソと気持ち悪い話をするなあああああっ!!」
どうやら朝日の
デレデレとした表情を見せていたメンバー数人が、主に怒鳴られ、あわてて姿勢をただす。
「クソッ、まったくこいつら……誰に雇われてると思ってるんだ……」
不満気に主がブツブツと呟く。
その横で、無関心を装いつつ花美と月美の視線もチラチラと朝日の顔へ、主に気づかれそうになる度に目を逸らしている。
やはり美少年には興味津々のようだ。
「おっと失礼、自己紹介がまだだったね。ボクは海土路主。
「へ、へぇ……」
あっ、そうなんですか。
朝日にとっては理解ができない上、興味もない話であった。
むしろ、日本の某国民的猫型ロボットアニメの金持ちキャラが『実はボクのパパがね――』から始まる自慢話をしている場面を見ているかのごとき気分。
なんとなく理解できたのは、あやしげな男性コミュニティなるサークル勧誘?
首をかしげていると、深夜子が間に入ってきた。
「ちょっと待って! 朝日君は特殊保護男性。外国人扱いだからそういうのは――」
「おい、なんだオマエ。ボクは女なんかに話しかけて無いぞ! ふん……Mapsか、いちいち面倒臭い連中だね。キミらにそんな権限はないだろ。邪魔しないでくれ」
聞く耳持たず。主が不愉快そうな口調で言い放った。
この強気な反応に深夜子も困り顔だ。
いかにMapsであろうとも、男性相手では権限は恐ろしく制限されると、朝日も聞いたことがあった。
深夜子は役にたてず申し訳ない、と言いたげな視線を向けて、再び自分の横に下がる。
「気にしないで、深夜子さん。大丈夫だから」
まずは深夜子を気遣う。そして、朝日にとってはどうでもいいお誘いだ。
何よりも、主の女性に……いや、深夜子に対するぞんざいな態度。あまり好意的な感情はわいてこない。
ここは無難に断ろう――これが結論であった。
さて、どう断ったものかと朝日が悩んでいる間にも、主はせっせとスカウトアピールを続けてくる。
さらには――。
「どうしたんだい? 悩む必要なんてないだろう。さあ、ボクのグループ『
「「!?」」
痛恨のグループ名だった。
「グラッ!? ぶふっ――うっく!」
「ちょっ、ちょっと!? 深夜子さんダメだよ……うぷっ……わ、笑っちゃ……ふぐっ」
ネーミングセンスが見事にど
深夜子に至っては顔を真っ赤にし、吹き出す寸前で必死に
その反応に、主がキッと深夜子へ怒りの視線を向けた――が、笑いを耐える深夜子の目つきは、人を殺しそうな勢いのソレだ。
目を合わせた瞬間に、主は「ヒエッ」と怯えた声を出して、視線を反らしていた。セーフ。
で、誰か止めてやれなかったの? 朝日は月美たちに気の毒そうな視線を送る。
すると、全員が一斉に目をそむけた。
……このネーミング、誰も止めれられなかったんですね。わかります。
「あっ、その、ごめんなさい。えーと、せっかく誘って貰って申し訳ないけど……僕は
とりあえず、語尾を濁して断ってみる。
「ふふん、そうだろう。
「えっ?」
「「…………」」
断られる。主はそんな結果を全く想定していなかったのだろう。
鳩が豆鉄砲を食った顔とはこうあるべき、と言わんばかりの表情になった。
しばらくそのまま停止していたが、何かにハッとしたかのように再び動き出す。
「ふぅ……ちょっと……ボクとしたことが、
「あー、えーと。結構ですって意味の
今度はバッサリ。
深夜子はこっそり右手を朝日に向けてサムズアップ。グッジョブ!
「んなっ、なななななぁ!? ボッ、ボクのっ、ボクのおっ――――うぐっ!?」
「ふわあああっ、主様!? き、気を確かにですよぉーーっ!!」
あまりに衝撃を受けたのか、主は呼吸困難になるほどの
月美があわてて背中をさする。
「けほっ……ふおっ……はほっ……ふひゅう。ふ、ふふふ――――ちょ、ちょ、ちょぉーっと神崎クンには
呼吸を整えた主は、引きつった笑顔でしつこく勧誘を続けてくる。
どうやら、朝日が本気で拒否していることを理解できないらしい。
ついには、とんでもないことを口ばしりはじめた。
「あっ、そうだ! よし、じゃあ、こうしよう。キミも男性保護省に管理されて肩身がせまいだろう? そこでさ! ボクがママに頼んで自由に――」
「ストップ! 男性でもそういうのはダメ。国の指定は絶対」
これはアウトだろう、朝日にでもわかる。
間髪を容れずに深夜子から指摘も入った。
いかに男性であろうと、法を曲げることを宣言するのは許されない。ともつけ加える。
だが、その注意に対して主が怒りの表情を見せた。
「はぁあああああっ!? オマエはさっきから本当にしつこいよな。Maps程度の分際でボクに指示をするなよ。神崎クン。こんなめんどくさいMapsなんて使わずに済むようにさ、ボクがママに頼んで優秀な警護官を探してあげるよ。もちろん! こんな目つきが悪くて気持ち悪い女じゃなく――」
「ちょっと待って!」
聞き逃せない言葉。朝日は語気を強めて割り込んだ。
「僕はそんな紹介なんかいらないよ。それよりも……海土路君。今、深夜子さんに酷いことを言ったの謝って貰えないかな?」
「「「!?」」」
「うえっ!? ちょっと、あ、朝日君!?」
――深夜子を筆頭に、タクティクスメンバーたちにも緊張が走る。
今度は主が朝日の地雷を踏んでしまった。
女性、特に警護官に対する二人の感覚はあまりに溝が大きい。
一気にあやしくなった雲行きに、深夜子は焦りを覚える。
「なっ、なっ、なんだと!? えらそうにっ、だ、誰に向かって言ってるか、わかっているのか? よりにもよって女なんかに謝れだって! た、体力測定でちょっといい記録出したからって調子に乗るなよ!?」
「主様! そ、そんなに怒らないですよ。身体に悪いですよ」
すぐさま月美が主の腕にからみついて、落ち着かせようとなだめる。
深夜子も同様に朝日の腕に――しかし、すでに朝日もヒートアップ。
そのまま二人の口論へと発展していくのだった。
◇◆◇
しばし、待合室は騒然とする。
朝日、主の関係者以外は巻き添えを恐れて退室。
渦中では深夜子が朝日に、花美と月美が主に、多少強引にまとわりついて落ち着かせようとする。
とにかく、男性同士のトラブルは非常にまずい。
深夜子たちの必死の努力で、なんとか口論はおさまった。
と言っても、気まずい沈黙と空気が場を支配している……その時。
「あ、あのぉ……主様。ジュースを、買って来ましたぁ……」
ちょうど部屋に入る前、お使いへ行った女性が戻ってきた。
黒髪のショートカット。目は前髪で隠れ、おどおどした態度でやたら気が弱そうな印象だ。
武闘派揃いと呼ばれるタクティクスメンバーとは思えない。
急いで戻って来たらしく、肩で息をしている。
彼女がいそいそとテーブル近くに進み出たところで、朝日と目が合った。
朝日は、自分のお使いではないにしても、ご苦労様でした的意味合いで軽く微笑んで会釈をする。
「えっ!? ふっ、ふええええええぇっ、かかか神崎様ぁ!?」
彼女は驚きの声をあげると固まってしまった。
そう、朝日は知るよしもないが、体力測定を見学してファンになったメンバーの一人である。
ほほを真っ赤にして、呆然とした表情。さらには手からジュース缶が抜け落ちて床へと転がる。
「あっ、ふええっ、ジュースが……ご、ごめんなさい! ごめんなさいぃ」
ごめんなさいを連呼しながら、床に這いつくばって缶ジュースを拾い集める。
突然の卑屈な行動と態度に朝日が困惑していると、不機嫌な顔をした主が、ツカツカと彼女へ近づいていった。
「あ……主様ぁ、すっ、すすすみません。お待たせして、ご、ごめんなさい」
「ちっ、ふざけるなよオマエ! 相変わらずグズだな!」
主が声を張り上げて罵る。『相変わらず』という言葉、どうやら
まわりのメンバーたちの視線も冷たい。
イライラが収まらない様子の主が、彼女の手から缶ジュースを乱暴に取り上げ――。
「オマエ、ほんとバカなの? 床に落ちた缶ジュースをボクに渡すつもり? こんなの飲めるわけないだろ!」
彼女の顔めがけて、中身の入った缶を投げつけた。
「あうっ!?」
ゴツンと鈍い音が鳴る。
彼女の額に当たった缶が宙を舞い。ゴトン、と再び床にへ転がり落ちた。
「ごっ、ごごご、ごめんなさいっ! ごめんなさいぃっ! えと……すぐに、新しいのを買ってきますぅ」
額から血がにじむ。それは少しづつ下へと伝って、赤い線を描き始める。
にもかかわらず、彼女は額に、顔に傷ができたことなど関係無しに平謝りだ。
女性の顔にキズが、あまりの出来事に朝日は呆然と立ち尽くす。
かろうじて、その場にいる深夜子や他の警護官たちに目をやるも、彼女を見つめる眼差しには憐れみも同情も感じられなかった。
まるで、さほど特別な場面ではないと言わんばかりだった。
――実際、深夜子たちにとってはよくある話だ。
御曹司など、裕福な家庭の男子を担当する警護官であれば、普通に起こり得る。
いやらしい話。
悲しい事実ではあるが、これがこの世界の女性たちの感覚だ。
しかし、朝日の目にはどう映っただろうか? どう感じただろうか?
それは即座に行動に反映された。
「海土路君!! 君は……君はっ、どうしてこんな酷いことをするんだよっ!?」
先ほどまでとは比べ物にならない怒りが朝日を支配する。
我慢できずに感情が爆発する。思わず声を荒げてしまった。
すぐ側で、深夜子が驚きに目を見開いて息を呑んでいる。
もちろん主にとっても、まさに驚愕。
例え同性であろうと、面と向かって怒鳴られた経験など皆無。何を言われたかすら理解が追いつかない。
ただ唖然と朝日を見つめるだけで精一杯である。
「ちょっと、そこをどいてよ! その
「え? ――――――はわっ!?」
朝日は怪我をした彼女を介抱するために、目の前にいる主の肩を掴んで払いのけた。
そう、
大して力を入れたつもりでも、突き飛ばすつもりでもなかった。
「はぐぅ!?」
「おっと、主殿。大丈夫でござるか?」
しかし、主は朝日の腕力に耐え切れない。
バランスを崩し、転倒するすんでのところで、花美に抱きとめられる。
「うわあっ、はっ? えっ? なっ?」
あまりの衝撃に混乱する主。月美に、他のメンバーたちも、この想定外どころではない光景に凍りつく。
「……ボ、ボクを、ボクを突き飛ばした? このボクに
朝日と主。
二人の体力差が、悪夢のようなトラブルを招き入れようとしていた。