男性保護特務警護官~あべこべ世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!   作:takker

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第二十五話 大和梅、大いに怒る!

 こちらは春日湊にあるMaps駐在所。

 作戦続行のため、急ぎ通信準備を整える。

 梅にはGPS通信のピアス型インカムを装着させており、会話のみならず、居場所の検出もバッチリである。

 

 深夜子はメインインカムをつけてナビ担当。

 ノートパソコンを操作する五月はヘッドセットを装着している。

 ――梅からの通信を待つこと数分。

 

「ん! 梅ちゃんから信号入った」

「了解しましたわ!」

 すぐさま五月が所在位置検索をかける。

「……場所は武蔵区の倉庫街。建物は……海土路造船倉庫F号倉庫ですわね」

「もっしもーし、梅ちゃん。大丈夫?」

『あん? 別にどーってことねえよ。とりあえず落ちた振りをしてやってたからな。今、倉庫の隅に転がされてんぜ』

「らじゃ。ほらね、朝日君」

 

 深夜子は心配そうに見つめる朝日に状況を教える。

 代わって、五月が状況確認にはいった。

 

「大和さん。拘束されて問題はありませんの?」

『ん? ああ、脚を縛ってんのは普通のビニールロープだし、腕は……こりゃ、ただのスチール手錠だな。問題になんねえよ。つーか、こいつらこれで俺を拘束したつもりとか舐めてやがんな』

「それを問題ないと言えるのが問題ですわっ!」

「梅ちゃんを拘束するならスチールワイヤー推奨」

「それもう人間相手の基準じゃありませんわっ!」

 本当にこの二人はどうかしている。

 

『しっかし肩透かしだぜ。雑魚しかいやしねえ』

 何やら梅がガッカリと言った口調になった。

「ん? ハズレ?」

『あー、ざっと雑魚が十人……くらいだったか? デカ蛇女たちは、お前らを呼び出してから来るんだとよ。んで、そっちに脅迫掛けんのに、俺を痛めつけるビデオを先に撮るだのなんだのつって準備してやがるな』

「痛め――っ!? う、梅ちゃん。その時は『やめて! 俺に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!』って言うのが礼儀」

 何故かここで深夜子のテンションがあがる。嬉しそうですね。

『知るかっ! 言うかっ! はぁ……てかよ。黙ってやられんのも腹立つし、もうやっちまっていいか?』

「ええ、すでに位置情報から拉致現場の映像まで本部へ転送済みですわ。万一の時には応援申請も出しますので……大和さん、御武運を――」

 

 と、ここで深夜子がポンと手をたたく。

 

「あっ、そうだ。ところで、梅ちゃんテンション低い。もしや、やる気イマイチっぽい?」

『まあな、最初(はな)からデカ蛇女たちとやる気だったかんよ。雑魚が相手じゃ、ちっとばかしテンション上がんねえな。ま、それでも準備運動くらいにゃなんだろ?』

「らじゃ。じゃあこれでテンション上げる」

 

 すると、深夜子がポケットからごそごそとスマホを取り出す。

 何をするのか? と五月と朝日が見守る中、それをインカムに近づけると、おもむろに録音再生のアプリを起動した。

 

【うわあああああああっ! う、梅ちゃん? 梅ちゃんが……やだ、やだよ。やめてよっ!! ねえ、五月さん! 深夜子さん! 梅ちゃんを、梅ちゃんを助けてよ。どうして? 車を止めてっ、はやく戻して! ねえ――――】

 まさかの朝日パニック音声であった。いったいあの最中でどうやって録音したのか?

【――そんな、僕のせいだ。梅ちゃんが……梅ちゃんが……連れてかれちゃう……あ、ああっ、ひぐっ……ううっ、誰か……誰か助け……】

 

 もちろん朝日が血相を変えて、深夜子に飛びつく。

 

「ちょっとおおおあっ!? 深夜子さんなんてもの録音してるのっ? ヤッ、ヤメテェーーっ!!」

「ふっ、朝日君マイスターとしてこれは当然の(たしな)み」

 深夜子がサムズアップして、キラリーンと歯を輝かせる。とてもウザい。

「こ、これの何が当然なのさーっ!?」

 するりぬるりと朝日をかわしつつ、深夜子は梅との通信を続ける。

「で、梅ちゃん。少しはやる気でた――え? ぶっ殺す? 梅ちゃん、相手殺しちゃダメだよって、あれ? おーい…………通信切れた。んー、…………これは()る気スイッチ入ちゃったかも」

「「ええええええっ!?」」

 

◇◆◇

 

 海土路造船倉庫F号倉庫。

 ここは港近くの倉庫街にある海土路造船所有の鉄筋コンクリート造りの平屋建て倉庫。

 日頃、コンテナトラックなどが通る部分は電動シャッターで閉鎖されており、作業員用の大型引き戸のみが出入口として機能している。

 また、倉庫内のあちこちにコンテナが積まれていて防音は充分、拉致監禁には持ってこいの場所と言えよう。

 

 現在、通信の途絶えた梅がいる倉庫内。タクティクスの中でも、腕に覚えのあるメンバーたちが待機していた。

 総勢十二名。五月たちに向けた脅迫用ビデオの撮影準備真っ最中である。

 

 しかし――。

 

 突然、倉庫内に音が響く。

 太いゴムが切れたかの音、続けて金属が弾ける音。

 出所は、先ほど彼女たちが捉えてきた獲物を転がしているコンテナの影からだ。

 

 何事か? と雑談していた者、タバコを吸っていた者、カメラの準備をしていた者。

 全員が手を止めて、その方向に注目する。

 

 すると、コンテナの物陰から、ふらりと小さい影が現れた。

 パーカートレーナーのポケットに両手を入れ、フードを下ろしているので表情は見えない。

 だのに、その姿を見た途端、全員が不思議と背中に悪寒を覚える。

 突然のことに誰もが困惑していると、小柄な姿相応の可愛らしい声が、冷たく静かに倉庫内に響き渡った。

 

「ふん……ひいふうみい……ここの雑魚(・・)はお前ら十二人で全部か?」

「「「「「雑魚ぉ!?」」」」」

 

 雑魚の二文字。武闘派警護官として、歴戦の猛者も少なくないタクティクスメンバーに看過できない言葉だった。

 数名はすでに額や眉間に血管を浮かべ、世紀末の無法者もかくやの表情で梅を睨みつけている。

 

「――まあまあ、皆さん落ち着いて」

 

 そこへメンバーの後方から、野太い声が響いた。

 彼女らをかき分けるように、一際大きな体格の女性が姿をあらわし、ゆっくりと梅の前へ進みでる。

 彼女の名は『丸大(まるだい)公子(きみこ)』、タクティクス古参メンバーの一人。

 身長203センチ、体重に至っては梅の四倍以上はあろうかと言う女傑だ。

 

「ふおっほっほっほ。どうやって縄と手錠をはずして来たかは知りませんが、逃げずに堂々と出てくるとは面白い冗談です。それに、少しばかりお行儀の悪いオチビちゃんですね~。言葉遣いは大切ですよ~?」

 

 丸々としたお腹をポンポンと軽く叩きつつ、スキンヘッドながら、人のよさそうな笑顔で余裕たっぷりに梅に話しかける。

 

「ああん? チャーシューはチャーシューらしく、ラーメンの上にでも乗ってろ」

「ちゃっ!? ちゃっ、ちゃちゃ、チャーシュー!?」

 

 丸大公子の顔が一気に赤くなる。

 ピキピキっと、こめかみに数本の血管が浮かび上がり、人のよさそうなえびす顔は般若の如く、怒りの表情へと変化していく。

 

「おいおいおい、あのチビ死んだわ。丸大さんを挑発するとか馬鹿なの?」

「いや、そもそもどうして逃げないわけ?」

「にしても、冗談抜きで殺されるわよ……いったい何考えてんのよ?」

 

 この状況に全く理解が追い付かない面々が、戸惑いの言葉を口にする。

 対して、怒り浸透かと思われた丸大公子だったが、一呼吸してからひきつった笑顔を作り、梅の真正面に立つ。

 そこで、ゆっくり右拳を振り上げると――。

 

「ふっ……ふ、ふおっほっほっほっ……どうやら、礼儀知らずのオチビちゃんには(しつけ)が必要なみたいですねえっ! ふうんっ!!」

 

 打ち下ろしの右(チョッピングライト)

 218キロの全体重を乗せた、丸大公子必殺の拳が梅の頭上から襲い掛かった!

 

「けっ!」

 

 迫る拳を見て、梅はニヤリと口元を歪めて鼻で笑う。

 その一瞬。梅が取った行動はわずか二つ(・・・・・)

 左足を数センチ後ろにずらし(かかと)を上げ、脅威の動体視力をもってして丸大公子の拳が自分の額に当たるように合わせる。たったそれだけ。

 

 ぐしゃり!!

 肉と骨がぶつかり合う嫌な音が周囲に響き、誰もが梅が潰されたと確信した。

 ところが――――。

「うぎゃああああっ! いっ、いてぇよぉ~~~っ!!」

 そこにあったのは、丸大公子が激痛にのた打ち回る姿!

 

 豪快な右拳はみる影もなく。数本の指からは所々折れた骨が飛び出し、手首はあり得ない方向に曲がっていた。

 涙とよだれを撒き散らしながら、転がり、悶絶している。

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

 その光景に他の者たちは呆然と立ちすくむ。

 そして、梅は丸大公子に目もくれない。

 つかつかと、この倉庫にあるたった一つの出入口へと向かう。

 

 拳を受けた衝撃か、途中でぱさりとフードが取れて顔が現れる。

 その赤みがかった茶髪は、まるで燃えるように揺らめいて見えた。

 猫科を思わす可愛らしい瞳は瞳孔が収縮し、まるで獲物を狙う獰猛な獣のそれを想像させた。

 チャームポイントのはずの可愛い八重歯は、正に肉食獣の牙になったかのようだ。

 

 いったい何者? ただならぬ雰囲気に、ごくりと唾を飲み込み、声が出ないタクティクスメンバーたち。

 すると、梅はゆらりと大型引き戸の前に立つ。

 スチールでできた扉の(かんぬき)を留め金に通し、その小さな手で留め金部ごと握りしめた。

 

「許せねえ……許せねえよなあ」

 メキメキっと、留め金から音が響きはじめる。

「朝日はよ……いっつもニコニコ笑ってんだ。優しくってよう、お人好しでよう。それを……それをてめえらっ……よくも! よくも朝日を泣かせやがったな(・・・・・・・・)!!」

 ゴギンッ!

 スチール製の(かんぬき)と留め金が、飴のようにねじ曲がる!

 嫌な金属音を立て、扉は内側から封印された。

 

「ひいいいいいっ!?」

「て、ててて、鉄の留め金を素手で曲げた……嘘でしょ!?」

 場に緊張と動揺が走る。

「てめえら…………だ」

「「え?」」

「な、なんだ。なんて言ってんだ、アイツ」

 

 何かを呟いたらしいが、その声は届かない。

 しかし、次は呟きではなかった!

「ひき肉だ!!」

 

「「「「「はああっ!?」」」」」

「てめえら全員! 一人残らずひき肉(・・・)にしてやるっつってんだああああああああああっ!!」

 

 SランクMaps大和(やまと)(うめ)――それは猫ではない。虎の咆哮が倉庫内に響き渡った。

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